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「CYBERDYNE 株式会社(サイバーダイン株式会社)における成長に関し、市場戦略、財務戦略、組織戦略からの分析について」 中山智是
- 1. 1
2015 年 8 月 11 日
CYBERDYNE 株式会社(サイバーダイン株式会社)における成長に関し、市場戦略、財務戦
略、組織戦略からの分析について
SBI 大学院大学 中山智是
目次
1 売上高、純資産、総資産の推移について ......................................................................2
2 市場戦略について..........................................................................................................3
2-1 有利な産業を選ぶ..................................................................................................3
2-2 ビジネスチャンスの源泉.......................................................................................4
2-3 ビジネスチャンスの形 ..........................................................................................4
2-4 イノベーションが生まれる場所 ............................................................................4
2-5 破壊的技術か否か..................................................................................................5
3 財務戦略について..........................................................................................................6
3-1 事業会社からの資金調達による信用力アップ.......................................................8
3-2 複数のベンチャーキャピタルからの資金調達により上場を視野に.......................9
3-3 種類株式を利用した戦略的上場 ............................................................................9
4 組織戦略について........................................................................................................ 11
5 戦略の相互依存性の検証 .............................................................................................13
6 参考文献 ......................................................................................................................14
- 2. 2
1 売上高、純資産、総資産の推移について
CYBERDYNE 株式会社(以下、サイバーダイン社とする)における平成26年6月並びに、
平成27年6月に発表された有価証券報告書でみる、連結売上高推移、並びに、純資産推移、
総資産推移は以下のようになる。
平成26年3月 売上高 456,375(千円)
純資産 5,995,82(千円)
総資産 6,434, 768(千円)
平成27年3月 売上高 631,278(千円)
純資産 27, 777,298(千円)
総資産 48,289,052(千円)
売上高においての推移は、前年対比で 1 億 8 千万円増程度と金額的には少ないが、比率
的には約72%成長であり確実に成長している企業であると言える。更には、純資産、総資
産の伸び率が非常に高く、成長企業であるという裏付け要因として問題ないと考える。ティ
モンズ(1994)による「ベンチャー企業の成長ステージ」(図)で考察するならば、急成長期
の段階にある企業のひとつであると考えられる。
- 3. 3
2 市場戦略について
2-1 有利な産業を選ぶ
スコット・A・シェーン著「プロフェッショナルアントレプレナー」(P.30~P.49)におい
ては、ベンチャー企業にとって有利な産業と不利な産業を分ける以下の4つの要素が挙げ
られている。
1. 知識特性、2. 需要特性、3. 産業のライフサイクル、4. 産業構造である。
先ず、地域特性に関して、ベンチャー企業にとっては、新しい知識の創造に大きく依存す
る産業はあまり有利とされない。これは、売上高に占める研究開発費の割合から判断できる。
ベンチャー企業は基礎研究に投資するだけの資金がないため、その産業が知識集約型であ
ればあるほど不利であるとされる。サイバーダイン社においては、この点は不利な状況であ
ると言える。しかし、大学発のベンチャー企業ということで、イノベーションに必要な知識
を自力で創造することを可能にする点は有利であると言える。
次に、需要特性に関して、製品やサービスに対する顧客需要の大きさ、需要の成長率、そ
して市場の細分化の度合いとされる。ベンチャー企業と既存企業の固定費の差は、市場が大
きければ大きいほど縮まり、ベンチャー企業にとっては有利になる。ベンチャー企業は低成
長市場よりも急成長市場に参入した方がよいとされる。細分化されたニッチな市場にベン
チャー企業が参入しても、既存企業は自分たちの顧客基盤が攻撃されているとは感じない
ので、参入をゆるす可能性が高い。この3点の需要特性に関して、サイバーダイン社の参入
市場は合致していると言える。
更に、産業ライフサイクルに関して、産業が成熟期に達してから、参入してはいけない。
支配的デザインが出現する前に事業を開始しなければならないとされる。この2点に関し
ては、サイバーダイン社の参入産業は未成熟産業であり、かつ、サイバーダイン社が支配的
デザインを構築しようとしていると言えるため有利であると言える。
最後に、産業構造に関して、資本集約度、広告集約度、シェアの集中度、企業の平均規模
の4つが重要とされる。産業における事業に必要な資本が大きければ大きいほど、ベンチャ
ー企業は不利になるとされる。この点に関しては、サイバーダイン社にとっては不利である
と言える。広告集約度に関してはどちらとも言えない。シェアの集中度に関しては、未成熟
の産業のためシェアの集中度は低く有利であると言える。企業の平均規模に関しては、企業
の平均規模が小さい産業の方が有利とされるが、ロボット産業において企業規模は大きい
方が有利であると言え、サイバーダイン社にとっては不利な状況であると言える。
- 6. 6
3 財務戦略について
サイバーダイン社の財務戦略については以下のように第三者割当増資と種類株式を巧みに
活用した特徴があると言える。(『平成 27 年 3 月期 有価証券報告書』より抜粋)
[発行済株式総数、資本金等の推移]
年月日
発行済株式
総数増減数
(株)
発行済株式
総数残高
(株)
資本金
増減額
(千円)
資本金残高
(千円)
資本準備金
増減額
(千円)
資本準備金
残高
(千円)
平成 22 年 8 月 30 日
(注)1.
(旧)普通株式
200
(旧)普通株式
48,059
(旧) A 種類株式
25,667
(旧) B 種類株式
-
11, 000 2, 153, 785 11, 000 2,089, 78
平成 22 年 12 月 15 日
(注)2.
(旧)普通株式
1,208
(旧)普通株式
49,267
(旧) A 種類株式
25,667
(旧) B 種類株式
-
108, 720 2,262,50 108, 720 2, 198,505
平成 23 年 6 月 30 日
(注)3.
(旧) B 種類株式
12,073
(旧)普通株式
49,267
(旧) A 種類株式
25,667
(旧) B 種類株式
12,073
1,086,570 3,349,075 1,086,570 3,285,075
平成 25 年 10 月 23 日
(注)4.
(旧)普通株式△
5, 161
(旧) A 種類株式
△25,667
(旧) B 種類株式
30,828
普通株式
44, 106
B 種類株式
42,901
- 3,349,075 - 3,285,075
- 7. 7
平成 25 年 10 月 25 日
(注)5.
普通株式
8, 777,094
B 種類株式
8, 537,299
普通株式
8,821,200
B 種類株式
8,580,200
- 3,349,075 - 3,285,075
平成 26 年 1 月 27 日
(注)6.
普通株式
810,200
普通株式
9,631,400
B 種類株式
8,580,200
- 3,349,075 - 3,285,075
平成 26 年 1 月 28 日
(注)7.
B 種類株式
△810,200
普通株式
9,631,400
B 種類株式
7, 770,000
- 3,349,075 - 3,285,075
平成 26 年 3 月 25 日
(注)8.
普通株式
1,222,000
普通株式
10,853,400
B 種類株式
7, 770,000
2,079,844 5,428,919 2,079,844 5,364,91
平成 26 年 4 月 23 日
(注)9.
普通株式
304,200
普通株式
11, 157, 600
B 種類株式
7, 770,000
517, 748 5,946,667 517, 748 5,882,667
平成 26 年 8 月 1 日
(注)10.
普通株式
44,630,400
B 種類株式
31,080,000
普通株式
55, 788,000
B 種類株式
38,850,000
- 5,946,667 - 5,882,667
平成 26 年 12 月 12 日
(注)11.
普通株式
7,000,000
普通株式
62, 788,000
B 種類株式
38,850,000
10,565, 100 16, 511, 767 10,565, 100 16,447, 767
(注)
1. 新株予約権の権利行使による増加であります。
2. 有償第三者割当増資 1,208 株であり、発行価格は 180,000 円、資本組入額は 90,000 円、割当先は
大和ハウス工業株式会社、東京センチュリーリース株式会社です。
3. 転換社債型新株予約権付社債の行使請求がなかったことによる(旧) B 種類株式の有償第三者割
当僧資であり、発行価格は 180,000 円、資本組入額は 90,000 円、割当先はジャフコ・スーパーV3 共
- 8. 8
有投資事業有限責任組合、ジャフコ・産学バイオインキュベーション投資事業有限責任組合、東京セ
ンチュリーリース株式会社、大和ハウス工業株式会社、ニッセイ・キャピタノレ 4 号投資事業有限責
任組合、いばらきベンチャー企業育成投資事業有限責任組合、SFM サイバーダイン成長支援企業育成
投資事業組合です。
4. 当社は、株主総会及び各種類株主総会その他所要の手続きを経て、平成 25 年 10 月 23 日付で、
(旧) B 種類株式を(旧)A 種類株式に変更した上で、かかる(旧)A 種類株式の内容を変更して新
たに普通株式として、さらに、従前の(旧)普通株式の内容を変更して新たに B 種類株式といたしま
した。また、山海嘉之、山海嘉之が代表理事を務める一般財団法人山海健康財団及び一般財団法人山
海科学技術振興財団以外の新たな B 種類株式の株主は、B 種類株式 6,366 株の取得請求権を行使し、
同数の新たな普通株式の発行を受けました。さらに、当社は、同日開催の取締役会決議により、取得
した B 種類株式 6,366 株の消却を行いました。
5. 当社は、平成 25 年 9 月 30 日開催の取締役会決議により、平成 25 年 10 月 25 日付で、普通株式及
び B 種類株式双方について 1 株を 200 株に分割いたしました。これにより株式数は普通株式が
8,777,094 株、B 種類株式が 8,537,299 株僧加し、発行済株式総数はそれぞれ 8,8:21,200 株及び
8,580,200 株となっております。また、当社は、平成 25 年 10 月 23 日付で、単元株制度導入に係る定
款変更を行い、普通株式の単元株式数を 100 株、B 種類株式の単元株式数を 10 株といたしました。
6. 山海嘉之は、平成 26 年 1 月 27 日に、その所有する B 種類株式 810,200 株について取得請求権の
行使を行い、同数の普通株式の発行を受けました。
7. 当社は、平成 26 年 1 月 28 日開催の取締役会決議により、自己株式である B 種類株式 810,200 株
の消却を行いました。
8. 有償一般募集(ブックビルディング方式による募集)であり、発行価格 3,700 円、引受価格 3,404
円、資本組入額は 1,702 円です。
9. 平成 26 年 4 月 23 日に、有償第三者割当(オーバーアロットメン卜による売出しに関連した第三
者割当増資)により、発行済株式総数が普通株式 304,200 株、資本金が 517,748 千円及び資本準備金
が 517,748 千円増加しております。
10.平成 26 年 7 月 31 日の株主名簿に記載された株主に対し、所有株式数を 1 株につき 5 株の割合を
もって分割いたしました。これにより株式数は普通株式が 44,630,400 株、B 種類株式が 31,080,000
株噌加し、発行済株式総数はそれぞれ 55,788,000 株及び 38,850,000 株となっております。
11. 平成 26 年 12 月 12 日を払込期日とする海外市場における募集による新株発行により、普通株式
の発行済株式総数は 7,000,000 株、資本金が 10,565,100 千円及び資本準備金が 10,565,100 千円増加
しております。
3-1 事業会社からの資金調達による信用力アップ
(平成 22 年 12 月 15 日)事業会社からの資金調達
- 9. 9
平成 22 年 12 月、大和ハウス工業株式会社、並びに、東京センチュリーリース株式
会社に対して第三者割当増資を行なっている。発行株式数 1,208 株であり、発行価格
は 180,000 円。
サイバーダイン社にとって、その後を左右することになる好機となったのがこの
資金調達であろう。ベンチャーキャピタルではなく、事業会社である大和ハウス工業
や東京センチュリーリース株式会社に対して第三者割当増資を行えたことは非常に
大きいと言える。事業会社に株式を保有してもらうことにより、企業の信用度を高め、
その後のベンチャーキャピタル等との取引を優位にすることになるからである。大
前研一氏著「ベンチャー起業」実践教本(P.377~383)においては、「VC(ベンチャ
ーキャピタル)と10倍うまく付き合う方法として「できるだけ事業会社に株式を持
ってもらうこと」が鉄則の一つとして挙げられている。
3-2 複数のベンチャーキャピタルからの資金調達により上場を視
野に
(平成 23 年 6 月 30 日)複数の VC と事業会社からの資金調達
平成 23 年 6 月、ジャフコ・スーパーV3 共有投資事業有限責任組合を初めとする複
数の VC や大和ハウス工業株式会社に対して第三者割当増資が行われる。サイバーダ
イン社は、この時点でベンチャーキャピタル(ジャフコを始めとする複数)から資金
提供を受けることにより、対外的に上場を視野に入れていることをアピールするこ
とになる。更にはベンチャーキャピタルの保有する情報やノウハウを有効的に活用
できる機会を得たことになる。
嶋内秀之氏・伊藤一彦氏共著「ベンチャーキャピタルからの資金調達」(P.104~
P.106)には「なぜ、ベンチャーキャピタルから投資を受けるのか」として、(1)成
長速度をあげる、(2)信用力を高める、(3)上場を目指すことに繋がるとある。
3-3 種類株式を利用した戦略的上場
(平成 26 年 3 月 25 日)一般公募による資金調達
平成 26 年 3 月、上場株式の 10 倍の議決権がある種類株を創業者である山海氏
が持つ形で株式公開をする。上場後も実質的に山海氏が支配権を握る仕組みとし
ている。このような形での IPO は米国企業、例えるならば、Google や Facebook、
- 10. 10
クーポン共同購入サイト最大手の Groupon や、オンラインゲーム大手の Zynga も
同様の仕組みを採用している。創業者である山海氏の上場後における株式保有比
率は、発行済株式総数ベースでは合計約 43%にとどまるが、普通株式の 10 倍の議
決権を有する種類株式を保有する仕組みによって議決権ベースでは約 88%とかな
り高い比率になっている。期待値の高い企業であることに加え、資産の 9 割近くが
現預金であることから、時価総額が急落した際の M&A 対策という意味合いもある
のだろう。水永政志氏著「入門ベンチャーファイナンス」(P.169~P.173)におい
て「公開時のオーナーシェア」や「オーナー以外の株主」について、上場時のオー
ナー持ち分比率はおおむね 30 から 70%で、平均すると約 45%が望ましいとして
いる。水永氏の見解やデータからも約 88%という比率がいかに高いかという事実
が伺える。加えて、このような種類株による戦略的資本政策は、ベンチャーキャピ
タルとの連携があったからこそ実現したものであろう。
- 14. 14
6 参考文献
※1 平成 26 年 3 月期 有価証券報告書
http://www.cyberdyne.jp/company/download/20140625_fr.pdf
※2 スコット・A・シェーン著「プロフェッショナルアントレプレナー」
※3 クレイトン・クリステンセン著「イノベーションのジレンマ」
※4 平成 27 年 3 月期 有価証券報告書
http://www.cyberdyne.jp/company/download/20150625_fr.pdf
※5 大前研一氏著「ベンチャー起業」
※6 嶋内秀之氏・伊藤一彦氏共著「ベンチャーキャピタルからの資金調達 第2版」
※7 水永政志氏著「入門ベンチャーファイナンス」
※8 サイバーダイン株式会社 会社情報 メッセージ
http://www.cyberdyne.jp/company/index.html
※9 ジェフリー・A・ティモンズ著「ベンチャー創造の理論と戦略」