フリーエージェント社会の到来

1. フリーエージェント
社会の到来
組織に雇われない新しい働き方
ダニエル・ピンク
ポイント編

2. 第1章
組織人間の時代は終
わった

3. 20世紀後半、アメリカの社会と経済を理解するカギは、
「オーガニゼーション・マン」だった。

4. それに対して、21世紀前半のアメリカを象徴する人物像
は、フリーエージェントーすなわち、決められたひとり
の上司の下で働くのではなく、大きな組織のくびきを離
れて、複数の顧客を相手に、自分にとって望ましい条件
で独立して働く人たちである。

5. フリーエージェントの台頭により、アメリカ人の仕事や
人生、ビジネスに関する基本原則が揺さぶられている。
企業のあり方に始まって、医療保険、退職、教育制度、
そして私たちの価値信条にいたるまで、様々なものがい
ま変貌しつつある。

6. ニューエコノミーを本当に理解するためには、
まずフリーエージェントを理解しなくてはならない。

7. 第2章
全米の4人に1人がフリー
エージェント！という衝
撃

8. 近年、労働のあり方は急速に大きな変化を遂げており、
従来の統計の取り方では不十分、ないしは不適切になっ
てきている。
（アメリカ政府は、いまだにすべての働く人たちを「農
業部門」と「非農業部門」の2つに分類している）

9. フリーエージェントの特徴のひとつは、多種多様なこと。
それをグループ分けすることは簡単ではないが、
それでも3つの「人種」に大きく分けることができる。

10. フリーランスと臨時社員とミニ起業家である。

11. 政府の統計や民間の調査、学術的な研究をもとに考える
と、控えめに見て、
フリーランスは1650万人、
臨時社員は350万人、
ミニ起業家は1300万人と推定できる。
合計すると、
アメリカには3300万人のフリーエージェントがいる計
算になる。

12. これは、アメリカの労働人口のほぼ4人に1人にあたる
（この数字には、在宅勤務の会社員や勤め先を頻繁に変
える人など、いわば疑似フリーエージェントは含まれな
い）。

13. この3300万人という控えめな数字で考えても、
フリーエージェント人口は、
製造業の就労者や公務員の数を軽く上回る。

14. 第3章
デジタルマルクス主義
が蔓延する

15. フリーエージェントという働き方が登場した背景には、
4つの重要な変化があった。

16. 従来の労使間の社会的契約、すなわち従業員が忠誠心と
引き換えに会社から安定を保障してもらうという関係が
崩壊した。

17. 生産手段（富を生み出すのに必要な道具）が小型で安価
になって個人で所有できるようになり、操作も簡単に
なった。

18. 繁栄が社会の広い層に行き渡り、
しかも長期間続いている結果、
生活の糧を稼ぐことだけが仕事の目的ではなくなり、
人々は仕事にやりがいを求めるようになった。

19. 組織の寿命が短くなり、
人々は勤め先の組織より長く生きるようになった。

20. 第4章
これが新しい労働倫理
だ

21. フリーエージェントにとって重要なのは、安定より自由。
自己実現が自己否定に取って代わった。
人々は組織の陰に身を隠すのではなく、
自分の仕事に責任を持つようになったのだ。

22. なにをもって成功と考えるかは、あらかじめ決められた
定義に従うのではなく、自分自身で決める。
フリーエージェントにとっては、
「大きいことはいいこと」ではない。

23. こうしてフリーエージェントは、
プロテスタントの堅苦しい労働倫理を様変わりさせ、
新しい労働倫理を生み出した。

24. フリーエージェントの労働倫理を構成するのは、
「自由」「自分らしさ」「責任」「自分なりの成功」の
4つの要素である。

25. 第5章
仕事のポートフォリオ
と分散投資を考える

26. 従来の労使関係では、組織が個人に保障を与え、
その代わりに個人は組織に忠誠を誓った。
しかし誰もが知っているように、この関係は崩れ去った。

27. 転職や技術革新、企業の盛衰の速度が加速したことを受
けて、フリーエージェントたちはリスクの増大に対する
防御策を取りはじめている。
投資先を分散させて資産を守るのと同じように、
仕事を分散させることによって安全の保障を得ようとす
るようになった。

28. 具体的には、
自分の人的な資源をひとつの会社にすべてつぎ込むので
はなく、複数の顧客やプロジェクトに投資している。
忠誠心のあり方も様変わりした。
上司や組織に対するタテの忠誠心に代わって、
ヨコの忠誠心が重要になってきたのだ。

29. フリーエージェントは、
機会（金、学習の機会、人脈）と引き換えに、
能力（商品、サービス、アドバイス）を提供するように
なっている。

30. 第6章
仕事と時間の曖昧な関
係

31. フリーエージェントは、
仕事と時間の関係を様変わりさせつつある。

32. 午前9時から午後5時までの8時間労働は、
臨機応変な労働時間に取って代わられた。
フリーエージェントは、従来型の会社員などと同じよう
に週40時間程度働いていても、その40時間をそれぞれ
の志向に合わせて分配している。
平日と週末の区別が曖昧になっている場合も多い。

33. 1年間の単位で見た場合も、フリーエージェントは、
50週働いて2週間休むという既存のシステムを拒否し、
それぞれの必要や欲求に合わせたスケジュールで働きは
じめている。

34. フリーエージェントという働き方のメリットは、
上司にスケジュールを管理されるのではなく、
自分で時間を管理できることにある。
ただし、仕事とプライベートの境界線がはっきりせず、
規則正しい生活を送りにくいというデメリットもある。

35. 第7章
人との新しい結びつき
方がある

36. フリーエージェントたちは、
ひたすら孤独に耐えるのではなく、
様々な小規模のグループをつくっている。

37. フリーエージェント・ネーション・クラブ（FANクラ
ブ）は、会員がときどき集まって、互いにビジネス上の
アドバイスをしたり、助け合ったりするグループだ。
フリーエージェント連合は、フリーエージェントが一緒
に仕事をする非公式なチーム。
起業家ネットワークは、ミニ起業家が会費を払って参加
するブレインストーミングのための集まり。
同窓会グル―プは、同じ会社の「卒業生」がつくるグ
ループだ。

38. こうしたグループの大半は、会員が自発的に組織した草
の根のグループであるため、あまり注目されてこなかっ
た。
しかし、このような小規模なグループの存在は、アメリ
カでコミュニティーが崩壊しており、フリーエージェン
トがその傾向を加速しているという主張に疑問を呈する
ものと言える。

39. コミュニティーが死んだわけではない。
コミュニティ－の性格が変わっただけだ。

40. 第8章
利他主義で互いに恩恵
を受ける

41. フリーエージェントの世界には、従来の企業の組織図と
は似ても似つかない独特の「組織図」がある。

42. ここでの人間関係は、
タテの関係ではなく、ヨコの関係だ。
個人がどの程度の力をもつかは、
あらかじめ決められている地位や肩書きによってではな
く、人間関係によって決まる。
フリーエージェントの人間関係は、
緊密で固定的でお仕着せものではなく、
緩やかで流動的でえり好みできることが特徴だ。

43. フリーエージェントという働き方が円滑に機能する土台
になっているのは、
賢い利己心、すなわち「あなたがいつか力になってくれ
ると思うから、いまあなたの力になろう」という発想で
ある。
自由気ままで、一見すると裏切りが横行していそうなイ
メージとは裏腹に、フリーエージェント経済は、実は
人々に道徳的な振る舞いを促す。

44. フリーエージェント経済をまとめているのは、
様々な宗教で説かれる黄金律ー「汝の欲するところを他
人になせ」という考え方なのだ。

45. 第9章
オフィスに代わる
「サードプレイス（第3
の場所）」

46. フリーエージェントという働き方の土台となる経済的な
インフラストラクチャーが生れている。

47. コピー店、コーヒーショップ、書店、エグゼクティブ・
スイート、インターネット、大型オフィス用品店、私書
箱センター、宅配便の翌日配送サービスで構成されるこ
の新しいインフラは、2つの特徴がある。

48. 第1は、中央計画的なものではなく、自発的に形成され
ていること。

49. 第2は、フリーエージェントたちが集まることのできる
「第3の場所（サードプレイス）」をつくり出している
ことだ。

50. 第10章
フリーエージェントに
役立つ新ビジネス

51. フリーエージェント経済は、オーガニゼーション・マン
の経済とは2つの点で根本的に異なる。

52. 第1に、力の所在が組織から個人に移った結果、
資本ではなく人材が最も重要な資源になった。
それにともない、この重要な資源の価格を決定し、分配
するための新しい市場が生れている。

53. 第2に、仕事は、個人の感情と無縁のものではなく、
働く人の心に負担を強いるものになった。

54. この2つの要因に後押しされて、フリーエージェント・
ネーションが機能するのを助ける新しい専門職が登場し
た。
臨時社員派遣会社から発展した人材仲介ビジネスは、フ
リーエージェントの人材を求める買い手と、仕事を求め
るフリーエージェントの橋渡し役を務めることにより、
新しい人材市場が効率的に機能するのを助ける。

55. エージェントは、これまでの俳優や作家、スポーツ選手
のエージェントと同じように、経済面の役割と心理面の
役割の両方を果たす。
フリーエージェントの代理人として仕事の条件を交渉す
るだけではなく、プライベートな問題についても相談に
乗るのだ。

56. コーチは、人材仲介業者やエージェントより、働く人の
心に密着した機能を担う。
仕事や人生についての根本的な問題についてアドバイス
を送るのだ。
コーチは、キャリア・カウンセラーと教会の司祭を合わ
せた存在だ。

57. 第11章
「自分サイズ」のライフ
スタイルをみつけよう

58. 工業経済の時代が訪れて、それまで一体だった仕事と家
庭が切り離された。
フリーエージェント経済は、それを再び統合しようとし
ている。

59. フリーエージェントたちは、
仕事と家庭のバランスを取ろうとする
ー仕事と家庭を切り離す発想と言えるだろうー
のではなく、仕事と家庭をブレンドしはじめた。

60. 企業の「家庭に優しい」制度や法律で定められた家庭休
暇の制度がうまく機能していないのは、ひとつには人々
のこのような志向を反映していないからだ。
これらの制度は、人々には仕事と家庭をブレンドするの
ではなく、バランスを取ることを強いるものであり、
「自分サイズの服」を求める人たちに「共通サイズの
服」を着せるものと言える。

61. そうした状況で、フリーエージェントたちは、
政府や企業に頼るのをやめて、
もっと人間の性質と進化の過程に沿っていると思われる
働き方を選びはじめた。

62. 第12章
古い制度と現実の
ギャップは大きい

63. アメリカの法制度の多くは、大半の人が単一の雇用主の
下でフルタイムの恒久的な職に就いている状態を前提に
している。

64. こうした法律は耐用年数を過ぎて生き延びており、主に
3つの面でフリーエージェント経済の足を引っ張ってい
る。それは、医療保険、税制、地域地区規制である。

65. 雇用主をもたないで働く人が増えているいま、雇用主を
通じて加入する従来の医療保険制度は時代遅れになって
いる。
この制度は歴史的な偶然から生まれたものであり、経済
的・倫理的な必然性はほとんどない。
しかもこの制度のおかげで、無保険者のフリーエージェ
ントが大勢いるうえに、医療保険を失うことを恐れて独
立に踏み切れない人も多い。

66. 一方、現在のアメリカの税制は、3つの点でフリーエー
ジェントに不利な内容になっている。
フリーエージェントは、社会保障税を給与所得者の2倍
支払わされているのに加えて、医療保険料の全額控除を
認められず、頭が痛くなるほど複雑な税制のおかげで時
間とコストと精神的ゆとりを奪われるのだ。

67. また、自治体の地域地区規制は、仕事と家庭の明確な区
別を前提にしており、その多くは在宅のフリーエージェ
ントに厳しい規制を課している。
自宅でビジネスを営むことを禁止している自治体もある。

68. 第13章
万年臨時社員の実態と新
しい労働運動の始まり

69. 言うまでもなく、フリーエージェントにもマイナスの面
はある。
劣悪な環境で、雀の涙ほどの給料のために退屈な仕事を
している臨時社員もいる。正社員と同じ仕事をしている
のに、派遣会社から派遣された臨時社員であるという理
由で、医療保険などの付加給付を与えられていない人た
ちもいる。
これは確かに嘆かわしいことだが、こうした状況に置か
れている人は臨時社員のごく一部であり、臨時社員はフ
リーエージェントのごく一部に過ぎない。

70. それに、今日の労働の現場で不平等を生み出している本
当の原因は、その人が正社員であるか臨時社員であるか
ではなく、需要のある技能をもっているかいなか、新し
い労働市場における交渉力をもっているかいないかの違
いなのだ。

71. 将来は、いまのプロスポーツのようなシステムが一般的
になるかもしれない。
フリーエージェントたちは、労働組合に加入し、組合を
通じて最低報酬を保障される一方で、たいていは個人代
理人（エージェント）に依頼して交渉に当たらせ、もっ
といい条件で契約を結ぼうとするようになるだろう。

72. 第14章
「定年退職」は過去の
ものとなった

73. フリーエージェントの未来では、引退（リタイヤ）する
人は少なくなる。
代わりに、「eリタイヤ」する人が増えるだろう。
65歳で完全に仕事をやめてしまうのではなく、
インターネットを使って仕事を探し、
フリーエージェントとして働き続けるようになるのだ。

74. 人口構成の変化を見れば、eリタイヤの拡大は、需要と
供給の関係が生み出す必然の現象と言える。
ベビーブーム世代が高齢になれば、
健康で、技術があり、テクノロジーに通じていて、
自己実現を目指す高齢者が大勢登場することになる。

75. このような高齢の労働力の供給が増える一方で、
労働力人口全体は減少に向かっており、
高齢の労働力に対する需要が一気に高まることが予想さ
れる。

76. 第15章
教育はテイラーメード
でできるようになる

77. フリーエージェントの時代には、様々な形で「脱学校」
化は進む。
学校での義務教育が次第に廃れて、多様な教育の形態が
生まれるのだ。
在宅教育はますます盛んになる。

78. 仕事場を別にすれば、在宅教育は、フリーエージェント
的な価値観が最も強くあらわれる場だ。
それぞれの専門を活かして、在宅教育の子どもたちの
「先生」になるフリーエージェントも増えるだろう。
これまでのような高校は姿を消し、もっとフリーエー
ジェント経済に適合したものに変わっていく。

79. 子どもの頃に主体的に勉強する習慣を身につけた人たち
は、大人になっても独力で勉強できる。
その結果、大学の学位の価値が下がり、非公式の自発的
な学習の価値が高まる。

80. 第16章
生活空間と仕事場は緩
やかに融合していく

81. フリーエージェントの時代には、道具倉庫としてオフィ
スは姿を消し、2つの新しいタイプのオフィスが登場す
る。

82. 第1は「プレイベート・アイダホ」とでも呼ぶべき形態
のオフィス。
集中力を要する仕事をするための静かな個人用のスペー
スのことだ。

83. 第2は「フリーエージェントの山小屋」。
仲間が顔を合わせて協力し合う場、
行きつけのパブとエグゼクティブ・スイートを足して2
で割ったような場である。

84. こうした新しいタイプのオフィスの登場は、住宅と事業
用不動産のあり方も様変わりさせる。
ホームオフィスが当たり前になり、リフォーム産業に好
景気が訪れるだろう。

85. オフィスではグループで利用するスペースが増え、
「トロフィータワー」は、独立性の高い労働力のための
多目的スペースに取って代わられる。

86. 第17章
個人が株式を発行する

87. フリーエージェントの時代には、いま企業がやっている
のと同じような方法で、個人も資金を調達するようにな
る。

88. 個人も、融資や社債発行により借金をしたり、株式を
売ったりして金を集めはじめる。

89. 「FAN債」や「フリーエージェント版IPO」など、新し
い金融手段も続々と生まれるだろう。

90. 第18章
ジャスト・イン・タイ
ム政治がはじまる

91. フリーエージェントの時代には、ホワイトハウスへの道
はホームオフィスを通るようになる。
アメリカ政治の眠れる巨人、すなわちフリーエージェン
トたちがいよいよ選挙で大きな影響力をもちはじめるの
だ。

92. この新しい政治勢力は、ニューディール政策に代わって、
フリーエージェント経済に合った新しい政策を生み出す
原動力になる。
このいわば「ニューエコノミー・ディール」は、医療保
険や年金の支給、労働力の権利保護のメカニズムの中核
に、企業ではなく個人を据えるものになりそうだ。

93. フリーエージェントたちは、
税制の簡素化、福祉受給者のためのマイクロファイナン
スの充実、臨時社員の権利章典の制定、個人失業勘定制
度の創設などを要求していくだろう。

94. 第19章
フリーエージェントで
未来は大きく変わる

95. フリーエージェントの時代には、ビジネスやキャリアの
あり方、コミュニティーの築き方も変わる。

96. 経済の生態系には、巨大企業とミニ企業が主に生息し、
中間サイズの企業は廃れていく。

97. マイクロペイメントや物々交換の拡大により、個人やミ
ニ企業の間の取引はいまより容易になる。

98. 従来のような管理職は姿を消し、特定のプロジェクトの
ために適材適所の人材を集めることのできるプロジェク
ト・マネージャーが生き残るだろう。

99. フリーエージェントの台頭により人と人との触れ合いが
なくなるという指摘は、杞憂に終わる。
むしろ、地域社会やコミュニティーは活気を取り戻すだ
ろう。

100. フリーエージェントの未来は、男性ではなく、女性が中
心になって築いていく。
21世紀は、女性の世紀になるのかもしれない。

101. 引用

102. 岡田 勝人｜Katsuhito Okada
P r o d u c e d b y