国内外の宇宙資源探査を取り巻く状況
•Download as PPTX, PDF•
0 likes•311 views
月および小惑星の資源探査（宇宙資源探査）に関する2017年10月時点での最新状況のまとめ。2017年10月の宇宙科学技術連合講演会にて発表したスライド。
Recommended
More Related Content
Recently uploaded
Recently uploaded (8)
Featured
Featured (20)
国内外の宇宙資源探査を取り巻く状況
- 1. 国内外の宇宙資源探査を 取り巻く状況 寺薗 淳也 (会津大学) 齋藤 潤 (鹿島建設) terazono@u-aizu.ac.jp @terakinizers 株式会社アイスペース(ispace)による月極地域クレーターの永久影における水(氷)掘削イメージ。ispace 公開のビデオから。http://www.ispace-inc.com © ispace
- 2. 背景 • 2013年の本セッション開始時以来、筆者らの発表は小惑 星の資源探査・採掘に関しての動向調査に関して発表し てきた。 – これは、NASAの小惑星探査フレームワーク「小惑星イニシアチ ブ」の関連も含んでいる。 • 一方この1年ほどで、世界の宇宙資源開発・探査の動き が大きな変化を遂げている。 – 小惑星イニシアチブの事実上の「中止」 – ルクセンブルクの宇宙資源への取り組み – 日本国内における宇宙(月)資源採掘ベンチャーの誕生(ispace) 本状況を鑑み、筆者らの発表においては本年より対象を月 及び小惑星に広げ、これらについての資源探査・採掘の動 向を調査・考察の対象とする。
- 3. 宇宙資源についての認識 • 現在、宇宙資源の採掘元として想定されているのは月と 小惑星。 – ここでは探査におけるその場利用(ISRU)は除外する。 • 現在想定されている資源としては、以下が挙げられる。 – 水 – 金属資源(レアメタル等) – エネルギーも資源と考えることがあるが、本講演では除外する。 • 現在の宇宙輸送コストでは、地球まで宇宙資源を持ち帰 ることは引き合わない(一部貴金属などを除く)。 – 但し、近い将来に宇宙輸送コストが劇的に低下する可能性はあ り、その点を考慮することは必要である。
- 4. 本日の発表内容 • NASAにおける小惑星探査フレームワークの状況 – 小惑星イニシアチブ(ARM) – 無人小惑星探査 – 小惑星から月へのシフト • アメリカの小惑星資源探査・採掘企業の状況 • ヨーロッパにおける宇宙資源採掘の状況 – 主にルクセンブルクの取り組みについて • 月資源採掘・探査についての状況 – 日本のベンチャー企業(ispace)の取り組み • 小惑星資源探査・採掘に関する問題点 • まとめ
- 5. NASAの小惑星探査の状況 • NASAが2013年から推進していた小惑星探査フレームワー ク「小惑星探査イニシアチブ」は存続の危機にある。 • 小惑星イニシアチブのメインとなっていた、小惑星サン プルリターン・有人探査計画「ARM」は、コスト増や技 術的困難さなどから、計画が中止された。 – NASAから正式にアナウンスは出ていないが、関係者証言や各種 報道からは中止と考えてよい。 – 2018年度会計予算にもARM計画は盛り込まれていない。 • もう一方の柱である「小惑星グランドチャレンジ」は一 応存続している。 結論から言えば、極めて厳しい状況にある。
- 7. NASAの無人小惑星探査 • NASAはこの1月、2つの小惑星に関する新たな無人探査計 画を選定。 • 1つは、トロヤ群小惑星を探査するLucy。 • もう1つは、金属質の(小惑星帯の)小惑星、Psycheを探査 するPsyche計画。 • さらに現在、小惑星Bennuからのサンプル採取・帰還を 目指すOSIRIS-REx計画が進行中。 今後は、こういった小規模小惑星探査計画を並列・連続 させることで、NASAの惑星探査の枠組みの中でのhigh- priorityとしての探査として発展させていくことが考えら れる（2000年代後半～2010年前半の月探査がそうであっ た）。
- 8. 新長官の任命・国家宇宙会 議 • 2017年9月、トランプ政権はNASA長官にブライデンスタ イン(Bridenstine)下院議員を指名。 – 42歳という若い議員。 – 月面基地推進派であるとうわさされる • また、トランプ政権は約四半世紀ぶりにホワイトハウス 内の宇宙政策の司令塔となる「国家宇宙会議」(NSC)を設 置、副大統領が議長となり、政権主導での宇宙政策を立 案していくことになった。 • 9月に開催された最初の会議では、アメリカが有人月探 査を今後重視し、海外ともこの点で協調していくことが 発表された。 – 今後アメリカは小惑星に代わり、月(有人)を重視していく可能性 が非常に高くなった。
- 9. LucyとPsyche トロヤ群小惑星探査を主眼とするLucy(左)と、金属質小惑星であるPsyche 探査を実施するPsyche(右)の想像図。 出典: NASA Press Release, https://www.nasa.gov/press-release/nasa-selects-two-missions-to-explore-the-early- solar-system, 2017/01/05
- 10. アメリカの小惑星採掘企業 の状況 • 小惑星資源採掘・探査を実施している企業は、Planetary ResourcesとDeep Space Industriesの2社。 • PR社はルクセンブルク政府との提携を実施。その最初の ステップとして、民間宇宙望遠鏡「Arkyd-6」打ち上げを 計画中（2017年内）。 • DSIもルクセンブルクでの資金調達を実施。また、宇宙 開発人材を集めている。 現時点では昨年から大きな変化は起きていない。 大きな変化がないということは、実際の研究開発フェーズ が進んでいることを示すのか、停滞していることを示すの かははっきりしない。ただ、技術開発は着実に進めている ようではある。
- 11. ルクセンブルクの動向 • 2016年には宇宙資源採掘・探査の枠組みとして 「spaceresources.lu」イニシアチブをスタート。宇宙資源採掘・探 査を政府が一丸となって支援。 – 2016年、Planetary Resourcesに政府系金融機関を通じて2500万ド ルを出資。 – DSI社には2016年5月に出資を実施。これをもとに宇宙資源探査 機Prospector-Xの開発・打ち上げ予定（2017年？）。 • ESAとは宇宙資源分野での協力で合意。 – 将来の小惑星資源採掘・探査のフィージビリティスタディを実 施 • 2017年７月には、ヨーロッパでははじめて宇宙資源利用についての 法的な枠組みを定めた。 – アメリカの2015年宇宙法とほぼ同様の内容とみられる。ルクセンブルクは小国ではあるが、各国から投資を集めることで非常に 豊かな国となっている。宇宙産業の誘致にも積極的。そのような背景を もとに、宇宙ベンチャー企業を誘致し、将来の発展（金融面）を目指す 方向性とみられる。
- 12. 月資源採掘・探査の動き • 2016年12月、日本の宇宙ベンチャー企業、株式会社 ispaceが月資源の利用に向けた検討を開始すると発表。 JAXAとの連携により、月資源の採掘・輸送・利用などに 向けた産業創出を図るとしている。 – ispaceは、Google Lunar X Prizeに参加するチーム「ハクト」を支 えている会社。 – 日本で宇宙資源採掘を明言した会社は初めてである。 – また、GLXP後を見据えた動きとしても注目される。 • 長らく月の極地域における資源利用(水、エネルギー)を 唱えてきたShackleton Energy社は、今年になってサイト を一時閉鎖。現時点でも同社のビジネスがどうなってい るかは不明。 – 一時会社閉鎖の情報も流れたが、そうでもないようである。
- 13. 月の水の利用 • 月の水の利用方法は大きく分けて2つ。 (1) 飲み水や生活用水としての利用 (2) 電気分解を行うことにより水素と酸素に分解し、そ れをロケットの燃料として活用する • 水は人間の生活に欠かせないものであるにもかかわらず、 地球から持っていくとするとコストがかかる。なので、 将来月近傍に有人拠点ができれば、できるだけ「現地調 達」した方がよい。 • 月近傍の有人拠点は、NASAがDeep Space Gatewayとして 構想中。 • ヨーロッパも月面基地としてMoon Villageというコンセ プトを提案している。
- 14. Deep Space Gateway Deep Space Gateway構想のイラスト。月上空(月遷移軌道)に有人ステーションを設 け、火星飛行などへの前哨基地とする。(Photo: NASA)
- 15. Moon Village ESAが構想中のMoon Village。宇宙計画というよりは概念的な構想に近い。2030年 頃を目指して、現代最先端のテクノロジーを利用して月面基地を作る構想。 (Photo: ESA) Source: http://blogs.esa.int/janwoerner/2016/11/23/moon-village/
- 16. 現状の宇宙資源採掘・探査の 問題点 • 法律的な問題は依然として未解決 – 本セッション他発表(高屋ら)に詳細を譲る • 技術的な問題 – 採掘の際に発生するであろう宇宙ゴミの問題 – 人的な損害発生の可能性(地球上の鉱山などで発生する災害に類似した 問題) • 科学的な問題 – 月や小惑星の資源探査によって得られた科学的なデータが、各企業など によって秘匿され、「人類共通のデータ」として使われない可能性があ る。 – このため、そのような場所の第三者(科学者)による検討が不可能になる 恐れがある。 – もちろん、科学的に貴重な場所が破壊されるおそれもある。 特に科学的な問題は深刻であり、宇宙科学の意義にも関わる問題である。その 意味でも、資源採掘においても探査データはオープンとすることが望ましい。 このようにすることで、宇宙資源採掘・探査は「公共的なビジネスモデル」と して確立していける可能性がある。
- 17. まとめ • 宇宙資源採掘・探査の動きは極めて急速かつ流動的で、 年単位、月単位でさまざまなことが起きている。 • また、不明確、検証困難な情報も多い。 – 例えば、アラブ首長国連邦(UAE)が宇宙資源採掘・探査に動いて いるという情報があるが、検証できていない。 • また、国内でも宇宙資源採掘・探査に向けた動きが出て きており、宇宙ベンチャー隆盛に伴って、さらに多くの 企業が乗り出してくる可能性もある。 • 今後も世界の宇宙資源採掘・探査の情報をモニターして いくと共に、その問題点やあるべき姿などを提示し、日 本としてのこの分野への関わり方、さらには発展の方向 性についての提言を行っていきたい。