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さつ

ぎょう

ろん

入 菩 薩 行 論
菩 薩 の 生 き 方 へ の 手 引
(Bodhisattvacharyavatara : A Guide to the Bodhisattva's Way of Life)
寂天菩薩 (Acharya Shantideva) 著 土山仁士 現代超訳

第六品 安忍

(第六章 忍耐[4])

112. 本師牟尼說 生佛勝福田 常敬生佛者 圓滿達彼岸
仏陀釈迦牟尼は、生き仏は福徳で満たされた水田より勝っている、と説きました。そ
れは常に生き仏を敬う者は円満な悟りの境地に到達することができるからです。
【生き仏を敬うと悟りを開くことができるという趣旨】

113. 成佛所依緣 有情等諸佛 敬佛不敬眾 豈有此言教
生き仏に成れるかどうかは条件によりますが、心を持つ生きものは仏達と同じです。
ですから、仏は敬い、生きとし生けるものは敬わなくていいと教えることがあり得る
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【心を持つ生きものは生き仏と同じであり、敬うべきであるという趣旨】

114. 非說智德等 由用故云等 有情助成佛 故說生佛等
智慧と功徳が同じであるとは説いておらず、その働きが同じだと言ったのです。心を
持つ生きものは仏陀に成るのを助けてくれますので、生き仏と同じであると説いた
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【智慧も功徳も仏陀に成るのに必要であり、心を持つ生きものも生き仏と同様仏陀に成る
のを助けてくれるという趣旨】

115. 應供慈心者 因彼珍貴故 敬佛福德廣 亦因佛尊貴
慈しみの心を持つ人に奉げ供えるべきなのは、珍しく貴なる存在だからです。仏陀
を敬うと福徳が広がるのもまた、仏陀が極めて尊いためです。
【慈しみの心を有する人や仏陀は極めて尊い存在であるという趣旨】

2013
Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
116. 助修成佛故 應許生佛等 然生非等佛 無邊功德海
仏陀になるための修行を助けてくれますので、生き仏と同じであると言うことを許す
べきです。しかし、仏陀は無限の功徳の海ですので、生きものは仏陀と同一ではあ
りません。
【生きものは生き仏と同じだが、仏陀と同一ではないという趣旨】

117. 唯佛功德齊 於具少分者 雖供三界物 猶嫌不得足
ただ仏陀の功徳が整っても少々の分け前しかない者は、たとえ過去・現在・未来が
提供されるとしても、なお不愉快で満足感を得られないでしょう。
【仏陀の功徳の分け前が少ない者は満足を得られないという趣旨】

118. 有情具功德 能生勝佛法 唯因此德符 即應供有情
心を持つ生きものは功徳を具えていますので、仏法に勝る生き方ができます。ただ
この功徳の割符を持っているだけでも、すぐに心を持つ生きものに奉げ供えるべき
です。
【心を持つ生きものは功徳を具えているので尊いという趣旨】

119. 無偽眾生親 諸佛唯利生 除令有情喜 何足報佛恩
本気で生きとし生けるものと親しくなる仏達は、生きものを利するのみです。心を持
つ生きものを喜ばすこと以外に、仏の恩に報いる方法があるでしょうか?
【仏は生きものを利するのみなので、仏の恩に報いるには生きものを喜ばす以外にない
という趣旨】

120. 利生方足報 捨身入獄佛 故我雖受害 亦當行眾善
心を持つ生きものを利することによって、捨身で地獄へ入る仏に報いることができま
すので、たとえ私に危害が加えられたとしても、私は生きとし生けるものに善行を実
践します。
【自分がどんなに害されようとも、心を持つ生きものを利することに徹するという誓い】

121. 諸佛為有情 尚且惜自身 愚癡驕慢我 何不侍眾生
仏達は心を持つ生きものを利しているのに、自分の身を惜しんで愚痴を言う驕慢な

2013
Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
私であっても、なぜ生きとし生けるものに奉仕しないでいられるでしょうか?
【どんなに傲慢な自分でも、仏が心を持つ生きものを利する以上、自分もそうしない訳に
はいかないという趣旨】

122. 眾樂佛歡喜 眾苦佛傷悲 悅眾佛愉悅 犯眾亦傷佛
生きとし生けるものが幸福だと仏は歓喜し、苦しむと仏は悲しみますので、彼らを悦
ばせることで仏を愉悦させ、危害を加えることで仏を悲しませることになります。
【仏陀は衆生の幸福に共感し、苦しみに同情するので、仏陀を喜ばせたければ衆生を幸
福にし、悲しませたければ衆生に危害を加えればいいという趣旨】

123. 遍身著火者 與欲樂不生 若傷諸有情 云何悅諸佛
自分の体が火で燃えているなら、喜びを望んでも生じることはなく、もし心を持つ生
きものたちが傷ついているなら、仏達を悦ばせることはできません。
【一般人は自分の幸不幸のみに関心があるが、仏陀は他の衆生の幸不幸に関心がある
という趣旨】

124. 因昔害眾生 令佛傷心懷 眾罪我今悔 祈佛盡寬恕
昔、生きとし生けるものに危害を加え、仏を不快にしてしまいました。私は今、生きも
のに対して犯した罪に懺悔し、仏に寛大な心で罪を許してくれるように祈ります。
【昔の悪行を反省している様子】

125. 為令如來喜 止害利世間 任他踐吾頂 寧死悅世主
如来を喜ばすために、他を害することは止め、世間を利することを行います。他が
私の頭を踏みつけてきても、死ぬ覚悟で如来を悦ばせます。
【他から危害を加えられても他を害さず、逆に利するという強い決意表明】

126. 大悲諸佛尊 視眾猶如己 生佛既同體 何不敬眾生
慈悲のある仏達は尊いものであり、生きとし生けるものをあたかも自分のように見ます。
生き仏は既に仏達と同じ体ですので、どうして生きとし生けるものを敬わないでいられる
でしょうか?
【悟りを開いた人は、偏ることなく、執着せず、客観的に、全ての衆生は肉体的にも、感情
的にも同一であり、苦しみを望まず幸福を望むものであると確信している。従って、他を

2013
Tsuchiyama.
Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
害することは控え、他を幸せにすることのみを実践する】

127. 悅眾令佛喜 能成自利益 能除世間苦 故應常安忍
生きとし生けるものを悦ばせると仏が喜び、自分の利益にもなり、世間の苦しみも取り除
くことができますので、常に忍耐を実践すべきです。
【他に幸福をもたらすと、まずはその瞬間に自分が心地よい幸福感につつまれ、次に他
が喜び、長期的にもその福徳が自分に戻ってくる。反対に、自分だけの幸福を望む行為
は、まず行為の瞬間に自分がやましい気分になり、次に他を不快にし、長期的に否定的
な結果が戻ってくると仏教は説いている】

128. 譬如大王臣 雖傷眾多人 謀深慮遠者 力堪不報復
たとえ王様の家臣が多くの人々に傷を負わせたとしても、思慮深く先見の明のある人は
暴力に耐え報復はしません。
【敵の暴力に対し正当防衛することは止むを得ないが、反撃し、報復することは火に油を
注ぐこととなり、双方の怒りと憎しみを増幅し解決を一層困難にするので注意を要する。
「忍耐」だけでは怒りを抑えきれない場合は、「哀れみ」、「寛容」、「許し」などが効果的で
ある】

129. 因敵力非單 王勢即彼援 故敵力雖弱 不應輕忽彼
敵の力は一人ではなく、王の勢力がすぐさま敵を援護します。ですから、敵の力は
弱くてもおろそかにすべきではありません。
【敵には援護射撃があるので、用心しなければならないと言う趣旨】

130. 悲佛與獄卒 吾敵眾依怙 故如民侍君 普令有情喜
私の敵は慈悲深い仏と地獄の兵士をたよりにしています。ですから、君主に仕える
民衆のように、心を持つ生きものを喜ばすべきです。
【衆生を喜ばせることを通して、仏陀を喜ばせようという趣旨】

131. 暴君縱生瞋 不能令墮獄 然犯諸有情 定遭地獄害
暴君は怒りが生じても、相手を地獄に落とすことはできません。しかし、おきてを破
った心ある生きものたちを地獄の苦痛に遭遇させることを決めることができます。
【暴君は怒りから衆生を罰することはできないが、規則違反を理由に罰することはできる

2013
Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
という趣旨】

132. 如是王雖喜 不能令成佛 然悅諸眾生 終成無上覺
王は自分が喜んだとしても、相手を仏の境地に到達させてやることはできません。し
かし、生きとし生けるものたちを悦ばせれば、最上の悟りに到達することができま
す。
【衆生を幸福にすることによって、悟りを開けるという趣旨】

133. 云何猶不見 取悅有情果 來生成正覺 今世享榮耀
なぜ、心を持つ生きものを悦ばせた果実が手に入ることを、まだ見ようとしないので
しょうか?将来悟りを開くことができ、この世でも光り輝く栄光を享受できるという果
実です。
【衆生を幸福にすることによって得られる福徳に気付かないことを疑問視している様子】

134. 生生修忍得 貌美無病障 譽雅命久長 樂等轉輪王
輪廻転生の中で忍耐を習得すると、美貌、健康、名誉、長寿、王様の喜び等を得る
ことができるのです。
【忍耐を習得すれば、素晴らしい福徳を得られるという趣旨】

2013年4月18日 土山仁士

2013
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  • 2. 116. 助修成佛故 應許生佛等 然生非等佛 無邊功德海 仏陀になるための修行を助けてくれますので、生き仏と同じであると言うことを許す べきです。しかし、仏陀は無限の功徳の海ですので、生きものは仏陀と同一ではあ りません。 【生きものは生き仏と同じだが、仏陀と同一ではないという趣旨】 117. 唯佛功德齊 於具少分者 雖供三界物 猶嫌不得足 ただ仏陀の功徳が整っても少々の分け前しかない者は、たとえ過去・現在・未来が 提供されるとしても、なお不愉快で満足感を得られないでしょう。 【仏陀の功徳の分け前が少ない者は満足を得られないという趣旨】 118. 有情具功德 能生勝佛法 唯因此德符 即應供有情 心を持つ生きものは功徳を具えていますので、仏法に勝る生き方ができます。ただ この功徳の割符を持っているだけでも、すぐに心を持つ生きものに奉げ供えるべき です。 【心を持つ生きものは功徳を具えているので尊いという趣旨】 119. 無偽眾生親 諸佛唯利生 除令有情喜 何足報佛恩 本気で生きとし生けるものと親しくなる仏達は、生きものを利するのみです。心を持 つ生きものを喜ばすこと以外に、仏の恩に報いる方法があるでしょうか? 【仏は生きものを利するのみなので、仏の恩に報いるには生きものを喜ばす以外にない という趣旨】 120. 利生方足報 捨身入獄佛 故我雖受害 亦當行眾善 心を持つ生きものを利することによって、捨身で地獄へ入る仏に報いることができま すので、たとえ私に危害が加えられたとしても、私は生きとし生けるものに善行を実 践します。 【自分がどんなに害されようとも、心を持つ生きものを利することに徹するという誓い】 121. 諸佛為有情 尚且惜自身 愚癡驕慢我 何不侍眾生 仏達は心を持つ生きものを利しているのに、自分の身を惜しんで愚痴を言う驕慢な 2013 Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
  • 3. 私であっても、なぜ生きとし生けるものに奉仕しないでいられるでしょうか? 【どんなに傲慢な自分でも、仏が心を持つ生きものを利する以上、自分もそうしない訳に はいかないという趣旨】 122. 眾樂佛歡喜 眾苦佛傷悲 悅眾佛愉悅 犯眾亦傷佛 生きとし生けるものが幸福だと仏は歓喜し、苦しむと仏は悲しみますので、彼らを悦 ばせることで仏を愉悦させ、危害を加えることで仏を悲しませることになります。 【仏陀は衆生の幸福に共感し、苦しみに同情するので、仏陀を喜ばせたければ衆生を幸 福にし、悲しませたければ衆生に危害を加えればいいという趣旨】 123. 遍身著火者 與欲樂不生 若傷諸有情 云何悅諸佛 自分の体が火で燃えているなら、喜びを望んでも生じることはなく、もし心を持つ生 きものたちが傷ついているなら、仏達を悦ばせることはできません。 【一般人は自分の幸不幸のみに関心があるが、仏陀は他の衆生の幸不幸に関心がある という趣旨】 124. 因昔害眾生 令佛傷心懷 眾罪我今悔 祈佛盡寬恕 昔、生きとし生けるものに危害を加え、仏を不快にしてしまいました。私は今、生きも のに対して犯した罪に懺悔し、仏に寛大な心で罪を許してくれるように祈ります。 【昔の悪行を反省している様子】 125. 為令如來喜 止害利世間 任他踐吾頂 寧死悅世主 如来を喜ばすために、他を害することは止め、世間を利することを行います。他が 私の頭を踏みつけてきても、死ぬ覚悟で如来を悦ばせます。 【他から危害を加えられても他を害さず、逆に利するという強い決意表明】 126. 大悲諸佛尊 視眾猶如己 生佛既同體 何不敬眾生 慈悲のある仏達は尊いものであり、生きとし生けるものをあたかも自分のように見ます。 生き仏は既に仏達と同じ体ですので、どうして生きとし生けるものを敬わないでいられる でしょうか? 【悟りを開いた人は、偏ることなく、執着せず、客観的に、全ての衆生は肉体的にも、感情 的にも同一であり、苦しみを望まず幸福を望むものであると確信している。従って、他を 2013 Tsuchiyama. Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
  • 4. 害することは控え、他を幸せにすることのみを実践する】 127. 悅眾令佛喜 能成自利益 能除世間苦 故應常安忍 生きとし生けるものを悦ばせると仏が喜び、自分の利益にもなり、世間の苦しみも取り除 くことができますので、常に忍耐を実践すべきです。 【他に幸福をもたらすと、まずはその瞬間に自分が心地よい幸福感につつまれ、次に他 が喜び、長期的にもその福徳が自分に戻ってくる。反対に、自分だけの幸福を望む行為 は、まず行為の瞬間に自分がやましい気分になり、次に他を不快にし、長期的に否定的 な結果が戻ってくると仏教は説いている】 128. 譬如大王臣 雖傷眾多人 謀深慮遠者 力堪不報復 たとえ王様の家臣が多くの人々に傷を負わせたとしても、思慮深く先見の明のある人は 暴力に耐え報復はしません。 【敵の暴力に対し正当防衛することは止むを得ないが、反撃し、報復することは火に油を 注ぐこととなり、双方の怒りと憎しみを増幅し解決を一層困難にするので注意を要する。 「忍耐」だけでは怒りを抑えきれない場合は、「哀れみ」、「寛容」、「許し」などが効果的で ある】 129. 因敵力非單 王勢即彼援 故敵力雖弱 不應輕忽彼 敵の力は一人ではなく、王の勢力がすぐさま敵を援護します。ですから、敵の力は 弱くてもおろそかにすべきではありません。 【敵には援護射撃があるので、用心しなければならないと言う趣旨】 130. 悲佛與獄卒 吾敵眾依怙 故如民侍君 普令有情喜 私の敵は慈悲深い仏と地獄の兵士をたよりにしています。ですから、君主に仕える 民衆のように、心を持つ生きものを喜ばすべきです。 【衆生を喜ばせることを通して、仏陀を喜ばせようという趣旨】 131. 暴君縱生瞋 不能令墮獄 然犯諸有情 定遭地獄害 暴君は怒りが生じても、相手を地獄に落とすことはできません。しかし、おきてを破 った心ある生きものたちを地獄の苦痛に遭遇させることを決めることができます。 【暴君は怒りから衆生を罰することはできないが、規則違反を理由に罰することはできる 2013 Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
  • 5. という趣旨】 132. 如是王雖喜 不能令成佛 然悅諸眾生 終成無上覺 王は自分が喜んだとしても、相手を仏の境地に到達させてやることはできません。し かし、生きとし生けるものたちを悦ばせれば、最上の悟りに到達することができま す。 【衆生を幸福にすることによって、悟りを開けるという趣旨】 133. 云何猶不見 取悅有情果 來生成正覺 今世享榮耀 なぜ、心を持つ生きものを悦ばせた果実が手に入ることを、まだ見ようとしないので しょうか?将来悟りを開くことができ、この世でも光り輝く栄光を享受できるという果 実です。 【衆生を幸福にすることによって得られる福徳に気付かないことを疑問視している様子】 134. 生生修忍得 貌美無病障 譽雅命久長 樂等轉輪王 輪廻転生の中で忍耐を習得すると、美貌、健康、名誉、長寿、王様の喜び等を得る ことができるのです。 【忍耐を習得すれば、素晴らしい福徳を得られるという趣旨】 2013年4月18日 土山仁士 2013 Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.