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にゅう

ぼ

さつ

ぎょう

ろん

入 菩 薩 行 論
菩 薩 の 生 き 方 へ の 手 引
(Bodhisattvacharyavatara : A Guide to the Bodhisattva's Way of Life)
寂天菩薩 (Acharya Shantideva) 著 土山仁士 現代超訳

第六品 安忍

(第六章 忍耐[1])

1.一瞋能摧毀 千劫所積聚 施供善逝等 一切諸福善
限りなく長い期間にわたって蓄積してきた、仏陀の崇拝のような善行によってもたら
される全ての福徳が、怒りで一瞬の内に破壊されます。
【多くの善行が怒りという悪行によって帳消しとなり、得られるはずであった福徳を得
られなくなるという仏教哲学。逆に、悪行も一層強力な善行で帳消しになり得る】

2.罪惡莫過瞋 難行莫勝忍 故應以眾理 努力修安忍
怒りや憎しみに勝る罪悪はどこにもなく、忍耐に勝る不屈の精神もどこにもありませ
ん。従って、様々な方法で忍耐を身につける努力をすべきです。
【怒りや憎しみは最悪の精神行為、忍耐は最高の不屈の精神行為であるという趣旨】

3.若心執灼瞋 意即不寂靜 喜樂亦難生 煩躁不成眠
もし、怒りや憎しみという破壊的感情を心にいだけば、穏やかな心は一瞬にして乱さ
れます。そうなると喜びも幸福感も生じ難く、不眠になり、落ち着きがなくなります。
【怒りや憎しみは一瞬で穏やかな心を乱し、心身を破壊する感情であるという趣旨】

4.縱人以利敬 恩施來依者 施主若易瞋 反遭彼弒害
たとえ支配者であっても怒りっぽい性格ならば、自分達の富と幸福のために支配者
に仕えて恩恵を被っている人々にさえ殺される危険があります。
【怒りは他に攻撃される大きなリスクがあるという趣旨】

5.瞋令親友厭 雖施亦不依 若心有瞋恚 安樂不久住
怒りや憎しみは友人や親戚を落胆させます。彼らは物質的な恩恵に興味があるだ
けで信頼している訳ではありません。怒りや憎しみを持っていると、久しく幸せに暮
らすことはできません。
【怒りや憎しみにより、物質的恩恵にあずかれなくなるから落胆するのである】

2013
reserved.
Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
6.瞋敵能招致 如上諸苦患 精勤滅瞋者 享樂今後世
真の敵である怒りや憎しみは、諸々の苦しみや患いをもたらします。一方、怒りや憎
しみを鋭意滅却した人は今後ずっと幸福になれます。
【外部の敵より、自分の内面の怒りや憎しみこそが真の敵であるという趣旨。怒りや
憎しみを苦しみや病気の根源と捉えている】

7.強行我不欲 或撓吾所欲 得此不樂食 瞋盛毀自他
望むことを阻止されるか、望まないことをされると、不幸の燃料を得ることとなり、怒
りや憎しみが増え、やがて他人だけでなく自分も破壊します。
【邪魔されたり、危害を加えられた時に怒りや憎しみが生じ、それが暴力に発展する
と他人を害することになるが、自分も穏やかな心を乱して自滅することになる】

8.故應盡斷除 瞋敵諸糧食 此敵唯害我 更無他餘事
ですから、真の敵である怒りや憎しみという燃料を完全に根絶すべきです。なぜなら、
この敵は害を及ぼすだけで、他の機能は何もないからです。
【怒りや憎しみは百害あって一利なしだから、取り除くべきだと言い切っている】

9.遭遇任何事 莫撓歡喜心 憂惱不濟事 反失諸善行
何が私に降りかかってこようとも、私は喜びの心を妨げないようにしよう。なぜなら、
心配したり怒ったりしていたら望むことを達成できないし、これまでの多くの善行が
台無しになるからです。
【いかなる状況に於いても、破壊的感情によって心を乱さないとの自分への誓約。
望みを達成できなくなる理由は、破壊的感情で穏やかな心が乱されるとホリスティッ
ク・ビューで本質を見極められなくなるからであろう】

10.若事尚可為 云何不歡喜 若已不濟事 憂惱有何益
もし解決策があるなら、心配する必要はありません。(ただ、努力あるのみです)
もし解決策がないなら、心配する意味がありません。(心配しても解決できないので
すから、次の好機の到来を待つしかありません)
【つまり、どのような状況であろうとも常に心配ご無用、という理詰めの論法。これ程
合理的な心配の分析はないでしょう。心配は欲求不満を経由して怒りへと発展する
か、抑うつを経由して絶望へと発展するので、できるだけ早急に取り除く必要がある。
上記論法を記憶しておけば、いかなる困難に遭遇しても心配する必要も意味もない
結論に一瞬でたどり着けるので絶大な効果がある】

2013
Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
11.不欲吾與友 歷苦遭輕蔑 聞受粗鄙語 於敵則反是
自分のため、友人のために、苦しみ、軽蔑、きつい言葉などの不快なこと全てを私
は望みません。これらの不快な敵に対しては対抗します。
【否定的な行動には断固として対抗するとの強い決意である。軽蔑は否定的な精神
的行動、きつい言葉は否定的な口頭での行動、苦しみは否定的な行動からもたらさ
れる否定的な結果である】

12.樂因何其微 苦因極繁多 無苦無出離 故心應堅忍
幸福の原因はたまにしか生じませんが、苦しみの原因は非常に頻繁に生じます。苦
しみを経験するからこそ、その原因を放棄しようと思うのです。ですから、しっかりと
苦しみに耐え忍ばねばなりません。
【幸福の原因は功徳を積むことであり、苦しみの原因は悪行を積むことである。功徳
より悪行の方がはるかに多く生じるのが一般的だが、悪行による苦しみから解放さ
れたいという強い願望が生じるので意味がある。ただ、苦しみから逃げていては、
苦しみの本質を経験できないので、苦しみの原因を放棄しようという決意には結び
つかず意味がなくなる】

13.苦行伽那巴 無端忍燒割 吾今求解脫 何故反畏怯
もし、苦行を積んでいる人々が訳もなく切り傷や火傷の痛みに耐えられるのでしたら、
私だって苦しみから解放されるために勇気を出せない訳がありません。
【苦しみからの解放という強い目的意識をもって臨めば、苦しみに耐えて苦しみの本
質を見極められないはずがないという趣旨】

14.久習不成易 此事定非有 漸習小害故 大難亦能忍
知識によって物事が容易にならないことは一切ありません。ですから、小さな害から
学ぶことを通して、より大きな害にも耐えられるようになります。
【小さな苦しみの経験を通して苦しみの本質を知ることは、大きな苦しみに対する備
えになるという趣旨】

15.蛇及虻蚊噬 飢渴等苦受 乃至疥瘡等 豈非見慣耶
蛇にかまれることや虫さされ、飢えや渇き、発疹のような些細な苦しみを経験したこ
とがない人はいないでしょう。
【誰もが経験している苦しみの例を示すことにより、誰もが苦しみの実体験を有して
おり、その経験を活かせるという趣旨か。苦しみは嫌な経験であって誰もが望まず、
即刻取り除きたいものであることは全員一致しているはずである】

2013
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16.故於寒暑風 病縛捶打等 不宜太嬌弱 若嬌反增苦
暑さ寒さ、風、病気、束縛、殴打などにあまり繊細になってはいけません。なぜなら、
あまり繊細になると苦しみが一層増すからです。
【神経質になりすぎるということは気になる対象に執着することを意味し、意識が内
向きになるのでストレスが増えて苦しみが増加するという趣旨か】

17.有人見己血 反增其堅勇 有人見他血 驚慌復悶絕
自分の血を見るとかえって勇敢になりしっかりする人もいますが、他人の血を見た
だけで気絶し意識を失う人もいます。
【人によって捉え方が異なり、同じ事実に対する認識が真逆になり得るという趣旨】

18.此二大差別 悉由勇怯致 故應輕害苦 莫為諸苦毀
この二者間の反応の違いは、心が勇敢か臆病かによります。従って、降りかかった
害を軽視することにより、苦しみの影響を受けないようにすべきです。
【捉え方は心の性質で決まるが、勇敢になって害悪を大したことはないと捉えること
により、苦しみを減少すべきだと主張している】

19.智者縱歷苦 不亂心澄明 奮戰諸煩惱 雖生多害苦
賢者は苦しんでいる時でさえ、心を乱さず汚れがないままです。それは、煩悩と戦っ
ている時には多くの苦しみが発生するからです。
【苦しみに気を取られていると感情的になって視野が狭くなり、本質を見極められず
現実的な対応ができなくなる。従って、苦しい時こそ理性を維持して心を汚さないこ
とが肝要であるという教え。心を汚すものを煩悩と言い、驕り・傲慢・強欲・執着・怒
り・憎しみ・嫉妬等がある。理性には慈悲・思いやり・温かい心・優しさ等がある】

20.然應輕彼苦 力克貪瞋敵 制惑真勇士 餘唯弒屍者
真の勇士とは全ての苦しみに気を取られずに、憎しみなどの真の敵を打ち負かし、
煩悩だけを滅ぼします。
【苦しみに気を取られるとは、意識が内向きになって余裕がなくなることを意味する
が、気を取られなくなるといかなる困難に遭遇しても意識は全く動じることなく平静
を保ち、苦しみの根源である怒りや憎しみを真の敵と見極めて滅却することができ
ると主張している。反対に偽の勇士とは、苦しみに気を取られて怒りや憎しみに振
り回され、穏やかな心を喪失して外部の敵を真の敵と見誤って攻撃する者であると
言えよう】

2013
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21.苦害有諸德 厭離除驕慢 悲愍生死眾 羞惡樂行善
苦しみには良い資質も有ります。苦しみで落胆することにより傲慢が払拭され、転生
人生において思いやりが生じ、邪悪は排除され、美徳の中に喜びを見い出します。
【苦しみがもたらすメリットとして、傲慢を取り除く効果があると主張している。確かに
苦しい時は弱気になることより、驕りや傲慢といった上から目線を維持する余裕は
なくなるので、自己中心的な心を取り除くことができる。同時に、相手の苦しみも理
解できるようになるため思いやりの心が湧いてきて、自発的に喜んで功徳を積むよ
うになるのであろう】

22.不瞋膽病等 痛苦大淵藪 云何瞋有情 彼皆緣所成
黄疸のような大きな苦しみの源に対しては怒らないのに、なぜ生きものに対しては
怒るのでしょうか?それは全て条件によって引き起こされているからです。
【病気の原因は生きものではないので怒りの対象にならず、原因が生きものだと怒り
の対象になるのは、その生きものとの間で条件(縁)が整ったことによると言っている。
その生きものの過去の行為からもたらされるべき影響と自分の置かれた状況が怒り
の発生条件を満たしたという意味である】

23.如人不欲病 然病仍生起 如是不欲惱 煩惱強湧現
人は病気を望んでいないのに病気になります。それと同様に、煩悩を望んでいない
のに煩悩は強制的に生じます。
【病気も煩悩も無意識的に自然発生するという趣旨】

24.心雖不思瞋 而人自然瞋 如是未思生 瞋惱猶自生
意識的に怒ろうと思わなくても、人は自然に怒ってしまいます。同様に、生じると思
わなくても、怒りは自然発生します。
【無意識的に人は怒り、怒りは自然発生するという趣旨】

25.所有眾過失 種種諸罪惡 彼皆緣所生 全然非自力
人々が引き起こす全ての過失や罪悪は、たまたま全ての条件が整ったことによって
生じます。過失や罪悪そのものに発生を左右する力はありません。
【因果の法則により、前世を含む過去の行動が原因となり、周囲の条件が整うと、そ
の因縁から発生する結果を誰も止めることはできないという趣旨】

26.彼等眾緣聚 不思將生瞋 所生諸瞋惱 亦無已生想
過失や罪悪を発生させる複数の条件の各々には、怒りや憎しみを発生させる意図

2013
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はなく、生じた怒りや憎しみにも条件に発生させてもらう意図はありません。
【結果の発生そのものに意図はなく、ただ単純に過去の因縁により自動的に発生し
ているという趣旨】

27.縱許有主物 施設所謂我 主我不故思 將生而生起
根本的な本質として断言され、また自分のせいにされているこの条件は、意図的に
自ら発生しようと思って生じるのではありません。
【因縁にも意図はなく、ただ単純に過去の行動が自動的に因縁になっているという
趣旨】

28.不生故無果 常我欲享果 於境則恆散 彼執永不息
もし、条件が未発生で存在しないなら、条件が発生させなければならないことが何で
あろうとも、害はないでしょう。しかし、条件は永久に対象物を捕らえるでしょうから、
結果を生じさせることを止めることは決してないということになります。
【因果の法則により、全ての結果は因縁(過去の行動が原因、周囲の条件が縁)に
よって生じ、全てが整うとその発生を誰も止められないという仏教哲学】

29.彼我若是常 無作如虛空 縱遇他緣時 不動無變異
もし、自己が永久不変の存在であれば、ただ空間のように行動を欠いているでしょう。
ですから、たとえ自己が他の条件に出会ったとしても、その永久不変の性質は全く
影響を受けません。
【行動がないということは結果を生じる原因がないので、いかなる条件が整っても結
果は生じないという趣旨。永久不変の存在は絶対的な創造主である神のみだが、
仏教は神の存在を否定する。全ての物も現象も変化しているからである】

30.作時亦如前 則作有何用 謂作用即此 我作何相干
仮に自己が他の条件による作用を受けたとしても、自己は以前のままならば、この
永久不変の自己に何ができるというのでしょうか?従って、もし条件が永久不変の
自己に作用すると言うならば、この二者はかつてどうのような因果関係を築き得た
のでしょうか?
【永久不変の存在には何をしても意味がないし、条件が作用する前提となる因果関
係そのものが存在しないという趣旨。変化するものにのみ因果関係が生まれる】

31.是故一切法 依他非自主 知已不應瞋 如幻如化事
従って、全ての物は他に依存しており、自性しているものは何もありません。このこ
とを理解したら、幻影のような現象に怒るべきではありません。

2013
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【相互依存=無自性=無我=空性=縁起=因果の法則。我々の生存と将来も他に
依存しているので、他と協調しなければならない。他と協調するには他を思いやる
必要があり、怒っている場合ではない】

32.由誰除何瞋 除瞋不如理 瞋除諸苦滅 故非不應理
それでは、どうしたらこの怒りを取り除けるのでしょうか?怒りを取り除くには理性ほ
ど良いものはありません。怒りを取り除くと苦しみをなくせますので、理性的になるこ
とです。
【怒りを取り除く理性としては、忍耐・哀れみ・寛容・許し等がある。これらの理性は
周囲に多くの問題があるにも拘らず、穏やかな心を維持することを可能にしてくれる
貴重なものであり、内面の完璧な安らぎをもたらす】

33.故見怨或親 非理妄加害 思此乃緣生 受之甘如飴
ですから、敵や親が不適切な行為を犯しているのを目にする時、これは条件によっ
て生じていると考えることによって、心の平和を維持します。
【同じ時間に、同じ場所で、同じ結果を経験しなければならない人々が居合わせた
場合、条件が揃ってその結果の発生を誰も止められないという仏教哲学。例えば、
天災の被害者に対しても同じ見方をする】

34.若苦由自取 而人皆厭苦 以是諸有情 皆當無苦楚
もし、苦しみを受けるか否かを選択できるなら、誰も苦しみたくはありませんので苦
しみを選択せず、肉体を持つ生き物に苦しみが生じることはなくなるでしょう。
【苦しみたい人は誰もいないというのは真理である。反対に、誰もが幸福になりたい
というのも真理であり、人間は皆同じであるという趣旨。この真理を深く理解できれ
ば、少なくとも他人に危害を加えてはならず、できれば思いやりを実践することが善
いことであると心底思えるようになる】

35.或因己不慎 以刺自戮傷 或為得婦心 憂傷復絕食
或いは自らの不注意で、人は自分を刺して殺傷することがあります。或いは女性の
気を引くために、心配して自分を傷つけ食を断つこともあります。
【誰も苦しみたくないはずなのに、自分を苦しめる愚かな人がいるという趣旨】

36.縱崖或自縊 吞服毒害食 妄以自虐行 於己作損傷
また、崖からの飛び降り、首吊り、服毒、有害物の摂取のような自虐行為を通して、
自分自身を傷つける人もいます。
【自虐行為もまた、自分を苦しめる愚かな行動であるという趣旨】

2013
Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
37.自惜性命者 因惑尚自盡 況於他人身 絲毫不傷損
煩悩の影響を受けて自殺するような人に、他人の肉体に対して危害を及ぼさないこ
とを期待できるでしょうか?
【執着や怒りなどの煩悩から自分を殺すような人に、他人に危害を加えないことを期
待できるはずがないという趣旨】

38.故於害我者 心應懷慈愍 慈悲縱不起 生瞋亦非當
ですから、私に危害を及ぼそうとしている人に対して当然慈しみ哀れむ心を胸中に
持つべきであり、たとえ慈悲心が生じなくても、目を怒らせるべきではありません。
【自分に危害を加えてくる敵に対しても慈悲心を持つべきであるが、それができなく
ても敵に対して怒るべきではないという趣旨。それは自分まで心を汚すという否定
的な行為をすることになるからである】

39.設若害他人 乃愚自本性 瞋彼則非理 如瞋燒性火
たとえ他人に危害を及ぼすことが愚かな資質であったとしても、加害者に怒ることは
良くありません。なぜなら、怒りは自分をも焼き尽くす性質を持つ火のようなものだ
からです。
【他を害することは否定的な行為であるが、その加害者に怒ることもまた否定的な
行為であるという趣旨。いかなる状況においても、自分の心を汚してはならないこと
を諭している】

40.若過是偶發 有情性仁賢 則瞋亦非理 如瞋煙蔽空
もし、過ちが偶発ならば、心を有する生きものの本性は仁の心を持ち賢いので、確
かに目を怒らせることもまた理にかなっていません。なぜなら、怒りは煙で息ができ
ない空間のようなものだからです。
【偶発による過失なら大目に見て、怒るべきではないという趣旨】

41.棍杖所傷人 不應瞋使者 杖復瞋使故 理應憎其瞋
もし、ある人の杖で実際に傷つけられたとしても、その人に怒ってしまうと、今度はそ
の人まで怒らせてしまうので、本当はその人ではなく怒りそのものを憎むべきです。
【自分が害されたとしても、自分の怒りは相手も怒らせることになり、問題を複雑にし
更なる害を招くことになるので賢明ではなく、寧ろ自分の怒りを憎めという趣旨。真
の敵は人間ではなく、怒りという自らの煩悩であると諭している】

42.我昔於有情 曾作如是害 既曾傷有情 理應受此損
2013
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ひょっとすると、私が昔その心を有する生き物にこれと同じような危害を加えてしま
ったのかもしれません。以前その心を有する生き物を傷つけたからには、この損害
を受けるべきであることは理にかなっています。
【自分が今受けている結果は、過去に自分がした行為が戻ってきているだけである
という因果の法則を説いている。そう考えると、どのような悲劇に遭遇しても心を乱
すことなく、穏やかな心を維持できる】

2013年3月31日 土山仁士

2013
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入菩薩行論 第六章 忍耐[1] (現代超訳)

  • 1. にゅう ぼ さつ ぎょう ろん 入 菩 薩 行 論 菩 薩 の 生 き 方 へ の 手 引 (Bodhisattvacharyavatara : A Guide to the Bodhisattva's Way of Life) 寂天菩薩 (Acharya Shantideva) 著 土山仁士 現代超訳 第六品 安忍 (第六章 忍耐[1]) 1.一瞋能摧毀 千劫所積聚 施供善逝等 一切諸福善 限りなく長い期間にわたって蓄積してきた、仏陀の崇拝のような善行によってもたら される全ての福徳が、怒りで一瞬の内に破壊されます。 【多くの善行が怒りという悪行によって帳消しとなり、得られるはずであった福徳を得 られなくなるという仏教哲学。逆に、悪行も一層強力な善行で帳消しになり得る】 2.罪惡莫過瞋 難行莫勝忍 故應以眾理 努力修安忍 怒りや憎しみに勝る罪悪はどこにもなく、忍耐に勝る不屈の精神もどこにもありませ ん。従って、様々な方法で忍耐を身につける努力をすべきです。 【怒りや憎しみは最悪の精神行為、忍耐は最高の不屈の精神行為であるという趣旨】 3.若心執灼瞋 意即不寂靜 喜樂亦難生 煩躁不成眠 もし、怒りや憎しみという破壊的感情を心にいだけば、穏やかな心は一瞬にして乱さ れます。そうなると喜びも幸福感も生じ難く、不眠になり、落ち着きがなくなります。 【怒りや憎しみは一瞬で穏やかな心を乱し、心身を破壊する感情であるという趣旨】 4.縱人以利敬 恩施來依者 施主若易瞋 反遭彼弒害 たとえ支配者であっても怒りっぽい性格ならば、自分達の富と幸福のために支配者 に仕えて恩恵を被っている人々にさえ殺される危険があります。 【怒りは他に攻撃される大きなリスクがあるという趣旨】 5.瞋令親友厭 雖施亦不依 若心有瞋恚 安樂不久住 怒りや憎しみは友人や親戚を落胆させます。彼らは物質的な恩恵に興味があるだ けで信頼している訳ではありません。怒りや憎しみを持っていると、久しく幸せに暮 らすことはできません。 【怒りや憎しみにより、物質的恩恵にあずかれなくなるから落胆するのである】 2013 reserved. Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
  • 2. 6.瞋敵能招致 如上諸苦患 精勤滅瞋者 享樂今後世 真の敵である怒りや憎しみは、諸々の苦しみや患いをもたらします。一方、怒りや憎 しみを鋭意滅却した人は今後ずっと幸福になれます。 【外部の敵より、自分の内面の怒りや憎しみこそが真の敵であるという趣旨。怒りや 憎しみを苦しみや病気の根源と捉えている】 7.強行我不欲 或撓吾所欲 得此不樂食 瞋盛毀自他 望むことを阻止されるか、望まないことをされると、不幸の燃料を得ることとなり、怒 りや憎しみが増え、やがて他人だけでなく自分も破壊します。 【邪魔されたり、危害を加えられた時に怒りや憎しみが生じ、それが暴力に発展する と他人を害することになるが、自分も穏やかな心を乱して自滅することになる】 8.故應盡斷除 瞋敵諸糧食 此敵唯害我 更無他餘事 ですから、真の敵である怒りや憎しみという燃料を完全に根絶すべきです。なぜなら、 この敵は害を及ぼすだけで、他の機能は何もないからです。 【怒りや憎しみは百害あって一利なしだから、取り除くべきだと言い切っている】 9.遭遇任何事 莫撓歡喜心 憂惱不濟事 反失諸善行 何が私に降りかかってこようとも、私は喜びの心を妨げないようにしよう。なぜなら、 心配したり怒ったりしていたら望むことを達成できないし、これまでの多くの善行が 台無しになるからです。 【いかなる状況に於いても、破壊的感情によって心を乱さないとの自分への誓約。 望みを達成できなくなる理由は、破壊的感情で穏やかな心が乱されるとホリスティッ ク・ビューで本質を見極められなくなるからであろう】 10.若事尚可為 云何不歡喜 若已不濟事 憂惱有何益 もし解決策があるなら、心配する必要はありません。(ただ、努力あるのみです) もし解決策がないなら、心配する意味がありません。(心配しても解決できないので すから、次の好機の到来を待つしかありません) 【つまり、どのような状況であろうとも常に心配ご無用、という理詰めの論法。これ程 合理的な心配の分析はないでしょう。心配は欲求不満を経由して怒りへと発展する か、抑うつを経由して絶望へと発展するので、できるだけ早急に取り除く必要がある。 上記論法を記憶しておけば、いかなる困難に遭遇しても心配する必要も意味もない 結論に一瞬でたどり着けるので絶大な効果がある】 2013 Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
  • 3. 11.不欲吾與友 歷苦遭輕蔑 聞受粗鄙語 於敵則反是 自分のため、友人のために、苦しみ、軽蔑、きつい言葉などの不快なこと全てを私 は望みません。これらの不快な敵に対しては対抗します。 【否定的な行動には断固として対抗するとの強い決意である。軽蔑は否定的な精神 的行動、きつい言葉は否定的な口頭での行動、苦しみは否定的な行動からもたらさ れる否定的な結果である】 12.樂因何其微 苦因極繁多 無苦無出離 故心應堅忍 幸福の原因はたまにしか生じませんが、苦しみの原因は非常に頻繁に生じます。苦 しみを経験するからこそ、その原因を放棄しようと思うのです。ですから、しっかりと 苦しみに耐え忍ばねばなりません。 【幸福の原因は功徳を積むことであり、苦しみの原因は悪行を積むことである。功徳 より悪行の方がはるかに多く生じるのが一般的だが、悪行による苦しみから解放さ れたいという強い願望が生じるので意味がある。ただ、苦しみから逃げていては、 苦しみの本質を経験できないので、苦しみの原因を放棄しようという決意には結び つかず意味がなくなる】 13.苦行伽那巴 無端忍燒割 吾今求解脫 何故反畏怯 もし、苦行を積んでいる人々が訳もなく切り傷や火傷の痛みに耐えられるのでしたら、 私だって苦しみから解放されるために勇気を出せない訳がありません。 【苦しみからの解放という強い目的意識をもって臨めば、苦しみに耐えて苦しみの本 質を見極められないはずがないという趣旨】 14.久習不成易 此事定非有 漸習小害故 大難亦能忍 知識によって物事が容易にならないことは一切ありません。ですから、小さな害から 学ぶことを通して、より大きな害にも耐えられるようになります。 【小さな苦しみの経験を通して苦しみの本質を知ることは、大きな苦しみに対する備 えになるという趣旨】 15.蛇及虻蚊噬 飢渴等苦受 乃至疥瘡等 豈非見慣耶 蛇にかまれることや虫さされ、飢えや渇き、発疹のような些細な苦しみを経験したこ とがない人はいないでしょう。 【誰もが経験している苦しみの例を示すことにより、誰もが苦しみの実体験を有して おり、その経験を活かせるという趣旨か。苦しみは嫌な経験であって誰もが望まず、 即刻取り除きたいものであることは全員一致しているはずである】 2013 Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
  • 4. 16.故於寒暑風 病縛捶打等 不宜太嬌弱 若嬌反增苦 暑さ寒さ、風、病気、束縛、殴打などにあまり繊細になってはいけません。なぜなら、 あまり繊細になると苦しみが一層増すからです。 【神経質になりすぎるということは気になる対象に執着することを意味し、意識が内 向きになるのでストレスが増えて苦しみが増加するという趣旨か】 17.有人見己血 反增其堅勇 有人見他血 驚慌復悶絕 自分の血を見るとかえって勇敢になりしっかりする人もいますが、他人の血を見た だけで気絶し意識を失う人もいます。 【人によって捉え方が異なり、同じ事実に対する認識が真逆になり得るという趣旨】 18.此二大差別 悉由勇怯致 故應輕害苦 莫為諸苦毀 この二者間の反応の違いは、心が勇敢か臆病かによります。従って、降りかかった 害を軽視することにより、苦しみの影響を受けないようにすべきです。 【捉え方は心の性質で決まるが、勇敢になって害悪を大したことはないと捉えること により、苦しみを減少すべきだと主張している】 19.智者縱歷苦 不亂心澄明 奮戰諸煩惱 雖生多害苦 賢者は苦しんでいる時でさえ、心を乱さず汚れがないままです。それは、煩悩と戦っ ている時には多くの苦しみが発生するからです。 【苦しみに気を取られていると感情的になって視野が狭くなり、本質を見極められず 現実的な対応ができなくなる。従って、苦しい時こそ理性を維持して心を汚さないこ とが肝要であるという教え。心を汚すものを煩悩と言い、驕り・傲慢・強欲・執着・怒 り・憎しみ・嫉妬等がある。理性には慈悲・思いやり・温かい心・優しさ等がある】 20.然應輕彼苦 力克貪瞋敵 制惑真勇士 餘唯弒屍者 真の勇士とは全ての苦しみに気を取られずに、憎しみなどの真の敵を打ち負かし、 煩悩だけを滅ぼします。 【苦しみに気を取られるとは、意識が内向きになって余裕がなくなることを意味する が、気を取られなくなるといかなる困難に遭遇しても意識は全く動じることなく平静 を保ち、苦しみの根源である怒りや憎しみを真の敵と見極めて滅却することができ ると主張している。反対に偽の勇士とは、苦しみに気を取られて怒りや憎しみに振 り回され、穏やかな心を喪失して外部の敵を真の敵と見誤って攻撃する者であると 言えよう】 2013 Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
  • 5. 21.苦害有諸德 厭離除驕慢 悲愍生死眾 羞惡樂行善 苦しみには良い資質も有ります。苦しみで落胆することにより傲慢が払拭され、転生 人生において思いやりが生じ、邪悪は排除され、美徳の中に喜びを見い出します。 【苦しみがもたらすメリットとして、傲慢を取り除く効果があると主張している。確かに 苦しい時は弱気になることより、驕りや傲慢といった上から目線を維持する余裕は なくなるので、自己中心的な心を取り除くことができる。同時に、相手の苦しみも理 解できるようになるため思いやりの心が湧いてきて、自発的に喜んで功徳を積むよ うになるのであろう】 22.不瞋膽病等 痛苦大淵藪 云何瞋有情 彼皆緣所成 黄疸のような大きな苦しみの源に対しては怒らないのに、なぜ生きものに対しては 怒るのでしょうか?それは全て条件によって引き起こされているからです。 【病気の原因は生きものではないので怒りの対象にならず、原因が生きものだと怒り の対象になるのは、その生きものとの間で条件(縁)が整ったことによると言っている。 その生きものの過去の行為からもたらされるべき影響と自分の置かれた状況が怒り の発生条件を満たしたという意味である】 23.如人不欲病 然病仍生起 如是不欲惱 煩惱強湧現 人は病気を望んでいないのに病気になります。それと同様に、煩悩を望んでいない のに煩悩は強制的に生じます。 【病気も煩悩も無意識的に自然発生するという趣旨】 24.心雖不思瞋 而人自然瞋 如是未思生 瞋惱猶自生 意識的に怒ろうと思わなくても、人は自然に怒ってしまいます。同様に、生じると思 わなくても、怒りは自然発生します。 【無意識的に人は怒り、怒りは自然発生するという趣旨】 25.所有眾過失 種種諸罪惡 彼皆緣所生 全然非自力 人々が引き起こす全ての過失や罪悪は、たまたま全ての条件が整ったことによって 生じます。過失や罪悪そのものに発生を左右する力はありません。 【因果の法則により、前世を含む過去の行動が原因となり、周囲の条件が整うと、そ の因縁から発生する結果を誰も止めることはできないという趣旨】 26.彼等眾緣聚 不思將生瞋 所生諸瞋惱 亦無已生想 過失や罪悪を発生させる複数の条件の各々には、怒りや憎しみを発生させる意図 2013 Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
  • 6. はなく、生じた怒りや憎しみにも条件に発生させてもらう意図はありません。 【結果の発生そのものに意図はなく、ただ単純に過去の因縁により自動的に発生し ているという趣旨】 27.縱許有主物 施設所謂我 主我不故思 將生而生起 根本的な本質として断言され、また自分のせいにされているこの条件は、意図的に 自ら発生しようと思って生じるのではありません。 【因縁にも意図はなく、ただ単純に過去の行動が自動的に因縁になっているという 趣旨】 28.不生故無果 常我欲享果 於境則恆散 彼執永不息 もし、条件が未発生で存在しないなら、条件が発生させなければならないことが何で あろうとも、害はないでしょう。しかし、条件は永久に対象物を捕らえるでしょうから、 結果を生じさせることを止めることは決してないということになります。 【因果の法則により、全ての結果は因縁(過去の行動が原因、周囲の条件が縁)に よって生じ、全てが整うとその発生を誰も止められないという仏教哲学】 29.彼我若是常 無作如虛空 縱遇他緣時 不動無變異 もし、自己が永久不変の存在であれば、ただ空間のように行動を欠いているでしょう。 ですから、たとえ自己が他の条件に出会ったとしても、その永久不変の性質は全く 影響を受けません。 【行動がないということは結果を生じる原因がないので、いかなる条件が整っても結 果は生じないという趣旨。永久不変の存在は絶対的な創造主である神のみだが、 仏教は神の存在を否定する。全ての物も現象も変化しているからである】 30.作時亦如前 則作有何用 謂作用即此 我作何相干 仮に自己が他の条件による作用を受けたとしても、自己は以前のままならば、この 永久不変の自己に何ができるというのでしょうか?従って、もし条件が永久不変の 自己に作用すると言うならば、この二者はかつてどうのような因果関係を築き得た のでしょうか? 【永久不変の存在には何をしても意味がないし、条件が作用する前提となる因果関 係そのものが存在しないという趣旨。変化するものにのみ因果関係が生まれる】 31.是故一切法 依他非自主 知已不應瞋 如幻如化事 従って、全ての物は他に依存しており、自性しているものは何もありません。このこ とを理解したら、幻影のような現象に怒るべきではありません。 2013 Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
  • 7. 【相互依存=無自性=無我=空性=縁起=因果の法則。我々の生存と将来も他に 依存しているので、他と協調しなければならない。他と協調するには他を思いやる 必要があり、怒っている場合ではない】 32.由誰除何瞋 除瞋不如理 瞋除諸苦滅 故非不應理 それでは、どうしたらこの怒りを取り除けるのでしょうか?怒りを取り除くには理性ほ ど良いものはありません。怒りを取り除くと苦しみをなくせますので、理性的になるこ とです。 【怒りを取り除く理性としては、忍耐・哀れみ・寛容・許し等がある。これらの理性は 周囲に多くの問題があるにも拘らず、穏やかな心を維持することを可能にしてくれる 貴重なものであり、内面の完璧な安らぎをもたらす】 33.故見怨或親 非理妄加害 思此乃緣生 受之甘如飴 ですから、敵や親が不適切な行為を犯しているのを目にする時、これは条件によっ て生じていると考えることによって、心の平和を維持します。 【同じ時間に、同じ場所で、同じ結果を経験しなければならない人々が居合わせた 場合、条件が揃ってその結果の発生を誰も止められないという仏教哲学。例えば、 天災の被害者に対しても同じ見方をする】 34.若苦由自取 而人皆厭苦 以是諸有情 皆當無苦楚 もし、苦しみを受けるか否かを選択できるなら、誰も苦しみたくはありませんので苦 しみを選択せず、肉体を持つ生き物に苦しみが生じることはなくなるでしょう。 【苦しみたい人は誰もいないというのは真理である。反対に、誰もが幸福になりたい というのも真理であり、人間は皆同じであるという趣旨。この真理を深く理解できれ ば、少なくとも他人に危害を加えてはならず、できれば思いやりを実践することが善 いことであると心底思えるようになる】 35.或因己不慎 以刺自戮傷 或為得婦心 憂傷復絕食 或いは自らの不注意で、人は自分を刺して殺傷することがあります。或いは女性の 気を引くために、心配して自分を傷つけ食を断つこともあります。 【誰も苦しみたくないはずなのに、自分を苦しめる愚かな人がいるという趣旨】 36.縱崖或自縊 吞服毒害食 妄以自虐行 於己作損傷 また、崖からの飛び降り、首吊り、服毒、有害物の摂取のような自虐行為を通して、 自分自身を傷つける人もいます。 【自虐行為もまた、自分を苦しめる愚かな行動であるという趣旨】 2013 Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
  • 8. 37.自惜性命者 因惑尚自盡 況於他人身 絲毫不傷損 煩悩の影響を受けて自殺するような人に、他人の肉体に対して危害を及ぼさないこ とを期待できるでしょうか? 【執着や怒りなどの煩悩から自分を殺すような人に、他人に危害を加えないことを期 待できるはずがないという趣旨】 38.故於害我者 心應懷慈愍 慈悲縱不起 生瞋亦非當 ですから、私に危害を及ぼそうとしている人に対して当然慈しみ哀れむ心を胸中に 持つべきであり、たとえ慈悲心が生じなくても、目を怒らせるべきではありません。 【自分に危害を加えてくる敵に対しても慈悲心を持つべきであるが、それができなく ても敵に対して怒るべきではないという趣旨。それは自分まで心を汚すという否定 的な行為をすることになるからである】 39.設若害他人 乃愚自本性 瞋彼則非理 如瞋燒性火 たとえ他人に危害を及ぼすことが愚かな資質であったとしても、加害者に怒ることは 良くありません。なぜなら、怒りは自分をも焼き尽くす性質を持つ火のようなものだ からです。 【他を害することは否定的な行為であるが、その加害者に怒ることもまた否定的な 行為であるという趣旨。いかなる状況においても、自分の心を汚してはならないこと を諭している】 40.若過是偶發 有情性仁賢 則瞋亦非理 如瞋煙蔽空 もし、過ちが偶発ならば、心を有する生きものの本性は仁の心を持ち賢いので、確 かに目を怒らせることもまた理にかなっていません。なぜなら、怒りは煙で息ができ ない空間のようなものだからです。 【偶発による過失なら大目に見て、怒るべきではないという趣旨】 41.棍杖所傷人 不應瞋使者 杖復瞋使故 理應憎其瞋 もし、ある人の杖で実際に傷つけられたとしても、その人に怒ってしまうと、今度はそ の人まで怒らせてしまうので、本当はその人ではなく怒りそのものを憎むべきです。 【自分が害されたとしても、自分の怒りは相手も怒らせることになり、問題を複雑にし 更なる害を招くことになるので賢明ではなく、寧ろ自分の怒りを憎めという趣旨。真 の敵は人間ではなく、怒りという自らの煩悩であると諭している】 42.我昔於有情 曾作如是害 既曾傷有情 理應受此損 2013 Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.