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- 1. 韓国とモンゴルとの関係
『日本とモンゴル』NO.118, 第 43 券第 2 号
2009 年 3 月
笹川平和財団 特別基金事業室長 李燦雨
はじめに
韓国においてモンゴルは何か、またモンゴルにおいて韓国は何か。良くも悪くも両国の
歴史上の長い関係を振り返ってみると、そこには両国の両者関係だけではなく中国や日本
を含む北東アジアの地域史としての交流や衝突が浮かんでくる。AD400 年にモンゴルの二
ラン(Nirun)地方と高句麗の間に外交関係が結ばれたのが両国関係の公式な始まりだと云
われ、AD479 には両者の間に軍事同盟ガ結ばれたこともあり、その時期以降モンゴル人は
高句麗やその後の高麗と朝鮮を「ソロンゴス」(虹の国)と呼んできたという説もある。
チンギスハンの大モンゴル帝国時代と「元」時代には AD1231 年にモンゴルが高麗を侵攻
し 30 年戦争の末、属国にした後は日本侵攻に協力させた以外は 100 年以上の平和的な国際
貿易が盛んに行われた。両国間に民衆同士で相互結婚することを奨励し、高麗から元に大
規模な女性供出があり、元からも 20 万人の女性が高麗に移住したという説があるほどであ
る。13 世紀以降の高麗・朝鮮の結婚風習にはモンゴル式の影響が多く残り、現在も韓国の
伝統文化として位置づけられている。両国の政治・経済関係は時代ことに変わっていくが、
文化的関係は特に韓国の歴史において体質化してきたと言える。
中国の「清」時代には傍らの属国・属地であった両国が 20 世紀の激動期を経て、分断国
としての韓国と社会主義国家から体制転換したモンゴル国として 1990 年に国交を結んだ。
その後の両国における経済・文化的関係は、元―高麗時代をひっくり返したような風潮を
示している。モンゴルにおける韓国ブームは経済交流、文化交流、ビジネス・労働移民に
大きく現れている。しかし、両国が対等なパートナーとして交流・協力する双方向の政治・
経済・文化的関係を実現するには、より長期的な視野を持つ交流が必要であるという声も
両方から聞こえてくる。そのためには何が課題となるのか。こういう問題意識を持ちなが
ら、両国の関係を推移と課題を考えることとしたい。しかし、筆者は 2006 年以降モンゴル
に足を運んでいないので、現場の感覚が鈍くなり、資料データに依存した整理に留まる。
読者には無礼であるがご理解をいただきたい。
韓国とモンゴルとの政府間交流・協力の推移
モンゴルは 1990 年前後から市場経済への体制転換とともに対外開放の最初の相手国とし
て韓国を選んだ。それには 1960 年代までの貧困国から 20 年を経て 1988 年オリンピック
を開催し中進国へ進入した韓国の市場経済経験を学びたいという認識も背景にあった1。韓
1 サンジャギンバヤルモンゴル首相の訪韓インタビュー、
『朝鮮日報』2008.10.16
- 2. 国政府も 1980 年代末からいわゆる「北方政策」で東欧およびソ連、中国など社会主義圏と
の国交正常化を推進していたので、相互の政策がかみ合った結果、1990 年 3 月に正式な外
交関係が樹立され、1991 年 3 月には「貿易・投資保障、経済科学技術および文化協力協定」
が締結された。その後、両国間の首脳訪問や政府代表団や経済使節団の相互訪問などが頻
繁に行われた。1990 年代半ばには、UNDP が推進する中―朝―ロ 3 国の国境地域を跨る図
們江開発計画に韓国とモンゴルも会員国として共同参加し多国間協力による北東アジア地
域開発の枠組みを形成した。1990 年代後半、モンゴルは経済構造調整期を、韓国もアジア
金融危機による経済沈滞期を経験したが、東アジア域内協力の重要性を認知した両国は
1999 年に「相互補完的な協力関係」に合意し、エネルギーおよび鉱物資源の共同開発に関
する協定を締結した。2000 年以降モンゴルが高い経済成長の軌道に乗り、韓国も経済回復
に成功したことで、両国の協力関係は経済を中心に活発化した。両国は 2006 年に韓国大統
領の 2 回目のモンゴル訪問時に両国関係を「善隣友好協力のための同伴者関係」として位
置付け、韓―モン間の貿易・投資は飛躍的に増加するきっかけを作った。2008 年 2 月にモ
ンゴルのエンフバヤル大統領が韓国の李明博大統領就任式に参加した上、10 月にはサンジ
ャギンバヤル首相が訪韓し、油煙炭鉱山開発、発電所建設、住宅建設などへの韓国の援助・
企業投資が確認された。
国交樹立後の 19 年間、韓国政府はモンゴルに対し無償援助と有償借款(EDCF 借款)を
実施してきた。無償援助は 1991 年から 2007 年までに合計 73 件、2,690 万ドルが、教育、
保健医療、行政、地域開発、情報通信、産業エネルギー、環境、緊急支援などの分野で実
施された。特に、2006 年にモンゴルは韓国の重点協力対象国と指定され援助金額が拡大さ
れ、2007 年には約 600 万ドルの無償援助が確定された。この金額は日本の 2007 年度対モ
ンゴル無償資金協力金額 33 億円(約 3000 万ドル)の 20%水準である。2008 年に韓国政
府が設定した対モンゴル無償援助の優先目標は「モンゴル政府の貧困解消および社会開発
と経済成長への支援」である。援助項目は、市場経済発展支援、ICT 分野支援を通じた経
済成長・貧困解消および知識社会基盤構築、農畜産支援、保健施設および飲料水開発など
である。
しかし、韓国の無償援助は韓国国際協力団(KOICA)と 30 以上の政府機関・地方地自
体により並列で実施され、その統合的、効率的運営と効果が問われている上で、管理不能
が指摘されている2。2008 年 10 月の国会の韓国水資源公社に対する国政監査の場では、モ
ンゴルでの飲料水開発事業の手抜き工事と事業管理の無能により無償支援額外に 1 億 6 千
万ウォン(約 16 万ドル)の国家予算損失が発生という実態が暴露された3。韓国政府の対モ
2 2007 年の韓国の無償援助総額 329.9 百万ドルのうち、KOICA が 81.7%の 269.46 百万ドル、
その他の政府機関・地方自治体が 60.44 百万ドルを実施した。各政府機関の場合、実施内容は主
に招聘研修、技術協力、奨学事業などに集中し、各機関がやり易い 1~2 週間程度の招聘研修事
業を類似項目で重複し実施するケースが多かった。KOICA には事業選定や運営・評価の専門家
が不足している。
3 2008 年度国会国対外援助政監査モニタリング、 「ODA Watch ニュースレター」2008.10.16、
1
- 3. ンゴル無償援助は金額の問題ではなく実施・管理能力の問題であり、韓国政府はこの側面
ではまだノーハウが不十分である。
図表1.韓国政府の対モンゴル無償協力援助の現状
(単位:千ドル、件)
年度 合計 教育 保健医療 行政 地域開発 情報通信 産業エネルギー 環境 緊急支援
金額 件 金額 件 金額 件 金額 件 金額 件 金額 件 金額 件 金額 件 金額 件
合計 26,882 73 4,472 5 6,298 11 3,105 15 2,660 5 4,447 5 2,858 5 1,678 23 1,363 4
2007 5,968 11 663 1 398 1 637 1 1,305 3 892 1 472 1 421 2 1,179 1
2006 3,046 8 561 0 464 1 396 1 103 0 862 2 383 0 259 4 17 0
2005 2,782 9 472 0 782 1 278 2 105 1 699 1 254 0 191 4 0 0
2004 1,798 6 306 0 354 0 221 1 455 1 181 0 156 0 125 4 0 0
2003 1,736 4 85 0 350 0 193 2 27 0 945 1 84 0 52 1 0 0
2002 877 5 117 0 275 2 125 0 0 0 75 1 245 2 40 0 0 0
2001 2,128 10 542 1 958 4 136 2 24 0 81 0 255 1 53 1 79 1
2000 1,684 10 645 2 575 4 41 1 22 0 57 0 264 1 58 1 20 1
1999 814 6 249 2 241 1 137 0 57 0 35 0 44 1 50 2 0 0
1998 652 4 72 1 102 0 134 1 41 0 76 0 170 1 56 1 0 0
1997 942 2 91 0 279 1 50 0 82 0 80 0 41 0 318 1 0 0
1996 916 5 249 0 51 0 292 2 64 1 120 0 53 0 19 1 68 1
1995 652 4 149 1 37 0 41 0 318 1 78 0 19 0 9 2 0 0
1994 525 3 89 0 0 0 169 1 48 0 161 1 51 1 8 0 0 0
1993 515 1 77 0 0 0 30 0 9 0 53 0 338 1 8 0 0 0
1992 361 1 74 0 0 0 214 1 0 0 39 0 25 0 9 0 0 0
1991 1,484 1 29 0 1,433 1 8 0 0 0 12 0 3 0 0 0 0 0
(出所)韓国国際協力団(KOICA)、2008 年;http://stat.koica.go.kr/
韓国政府の有償借款(EDCF 借款)はモンゴルに対し 2007 年までに注射器工場、火力発
電所、高速道路、通信網などの建設に合計 8 件、8,387 万ドルが支援された。この金額は韓
国の対途上国借款の 2.7%を占める程度である。韓国政府は有償借款の運営にたびたび問題
を露出しているが、モンゴルでも、1996 年から 2000 年までにコビ砂漠南部のダランジャ
ドガド県で 800 万ドルを投入し完工した6MW 級火力発電所のメインテナンスをめぐりト
ラブルが続いた。不十分な事前審査が指摘されたが、現地事情を配慮した技術指導、補修
部品供給、事故リスク管理、現地技術者養成、大気汚染防止などを考慮せず、完工後渡し
切りの無責任な建設の結果、発電所は 2006 年まで 133 回も稼動中断され、モンゴル政府発
電所を閉鎖すべきである評価を出したほどであった。韓国において有償借款の審査管理、
運営、事後管理、評価などは大きな課題であり、モンゴルに対してだけでない問題であろ
う4。財政能力があるだけで援助が成功裏にできるわけではないことを、韓国政府は経験し
てきた。韓国は先進国の経験を真剣に受け入れるべきであろう。しかし、2008 年後半以降
の世界同時不況の中、韓国政府が ODA を拡大する可能性は低く5、また真剣な管理に望む
可能性も低いのではないか懸念である。
(http://cafe.naver.com/ccejoda/3241)
4
2006 年の韓国の ODA は紐付き援助の割合が 98%である。また、現代、三星、LG、大宇、コー
ロンなど 5 大企業の受注率が 70%を占めるほど、国内大手企業優先の体質である。韓国政府は
2011 年までに国際競争入札などを強化し、 非拘束的援助の比率は 50%まで上げる方針ではある。
5 韓国政府の 2008 年 ODA 予算は 1 兆 85 億ウォンで国民純所得(GNI)の 0.1%となった。この
割合は OECD の開発援助委員会(DAC)の勧告レベルである 0.7%には相当遅れている。
2
- 4. 図表2. 韓国政府の対モンゴル有償借款の現状
承認年度 事業名 承認額 借款種類
実行額 金利 償還期間 据え置き G.E 償還後貸出残高
百万ドル 百万ドル % 年 年 % 百万ドル
合計 8件 83.9 37.3
2006 ウランバートル交通網事業 開発事業借款 12.8 0 0.5 30.0 10.0 78.93
緊急救難情報網構築 開発事業借款 13.5 0 0.5 30.0 10.0 78.93
高速道路建設(チョイド~
2004 開発事業借款 23.9 3.6 2.0 30.0 10.0 66.14 3.6
サイサンド)ADB強調融資
1999 政府通信網近代化 開発事業借款 5.3 5.3 2.0 30.0 10.0 66.14 5.3
地方通信網拡張 開発事業借款 14.3 14.3 1.0 30.0 10.0 74.67 14.3
火力発電所建設補修 開発事業借款 0.9 0.9 3.0 15.0 3.0 47.87 0.6
1996 火力発電所建設 開発事業借款 8.0 8.0 3.0 20.0 5.0 46.93 5.6
1992 注射器工場建設 機資材借款 5.2 5.2 3.5 20.0 5.0 43.46 2.0
(出所)韓国輸出入銀行、2008 年;
韓国とモンゴルとの経済交流・協力の推移
韓国とモンゴルの貿易は 1980 年代後半から小規模で始まり、1989 年から本格化した。
1990 年の国交樹立、1991 年の貿易協定などの法制度の整備も伴い、貿易は急速に増加した。
貿易規模は 1999 年までの 5 千万ドル以下水準から 2008 年に 2 億 7 千万ドルのレベルまで
達した6。2006 年からは日本と共に韓国の対モンゴル貿易が共に急増しているが、これは、
モンゴルの経済高成長に伴う輸入増加、特に自動車・トラックなどの輸送機械、建設機械
類、電子機器、石油化学製品の輸入増加によるものである。日韓共にモンゴルに対し圧倒
的な貿易黒字を表している。また、公式統計には表れない貿易として韓国人とモンゴル人
による韓国産消費品の担ぎや貿易が盛んであり、実際の韓国―モンゴル貿易規模は 2008 年
に 3 億ドルを超えると推定される。
図表3.韓国―モンゴル貿易の推移(韓国通関基準、1989~2008 年)
韓国とモンゴルの貿易推移
百万ドル
300
269.4
250
200 190.5
韓国の対モン輸出
韓国の対モン輸入
150
116.7 韓-モン貿易額
103.4 日-モン貿易額
100 92.9
82.5
78.9
79.9
44.2 56.7
50 37.7 28.1 28.1 44.4
23.5
10.6 7.5
0.6 2.7 5.7
0
1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
6 韓―モン貿易統計に関して、韓国貿易協会の統計とモンゴル国家統計局の統計の間には相当
のギャップがある。2008 年の場合、韓国統計は貿易総額 2.69 億ドルであるが、モンゴル統計は
2.24 億ドルである。
3
- 5. (出所)韓―モン貿易統計:韓国貿易協会、「貿易統計」、
日―モン貿易統計:モンゴル国家統計局 Statistical Yearbook (2007 年度まで)、
同 Monthly Bulletin of Statistics (2008 年度)
しかし、2008 年 10 月以降は世界経済不況が反映され、韓―モン貿易も前年同期比で減
少し続け、2009 年 1 月には韓国基準の輸出が前年同期比 52.8%減少、輸入が同 77.2%減少
を示した。今後の両国間の貿易激減の恐れがある。
図表4.2008 年下半期以降の韓国―モンゴル貿易の推移(前年同期比増減率)
前年同期比増加率(%) 2008年8月 2008年9月 2008年10月 2008年11月 2008年12月 2009年1月
韓国の対モンゴル輸出 10.2 60.7 -3.7 -0.1 6.9 -52.8
韓国の対モンゴル輸入 58.2 -78.2 -12.1 -63.4 -86.2 -77.2
(出所)韓国貿易協会
韓国のモンゴルに対する主な輸出品をみると、自動車、建設機械、石油製品、ビール、
化粧品、タバコなどで、モンゴルの景気に敏感である品目である。ビールの場合、韓国産
の「Cass」ブランドが 2000 年からモンゴルに大量輸入され 2003 年にはモンゴル国内市場
シェア 1 位となったことがあるが、モンゴル政府が自国産ビールの保護のため輸入関税を
引き上げた。その結果、2004 年から韓国産ビールの輸入が減少し、その後モンゴル産ビー
ルの品質改善などによる競争力向上を背景に輸入関税を下げ、2008 年には再び韓国産ビー
ルの輸入が急増した。ビールや化粧品、タバコなど韓国産の消費品はモンゴル市場で日本
製には価格の面で、中国産には品質の面で競争力を持つことで、経済成長に伴い増加した
中間階層が韓国産消費品の購買層となっている。
韓国のモンゴルからの主な輸入品をみると、非金属鉱物、銅製品、メリヤス衣類などで
あり、その規模は 2008 年に 3,100 万ドル程度である。三星物産がエルデネット銅鉱山から
銅精鉱を購買している。モンゴル産洋毛の輸入額が低いのは品質に関する信頼が韓国市場
でまだ得られていないからである。
韓国とモンゴルの間には加工貿易がなく、輸出品目と輸入品目間に直接な因果関係は希
薄である。韓国はモンゴルに天然資源を、モンゴルは韓国に装備と消費品を求めている構
造である。
図表5.品目別韓―モン貿易の推移(韓国通関基準、2005~2008 年)(単位:千ドル)
4
- 6. 輸出 2005 2006 2007 2008 輸出 2005 2006 2007 2008
H.Sコード H.Sコード
87 自動車類 23,757 29,253 49,858 88,525 8703 乗用車 10,304 9,953 15,832 33,787
84 機械類 10,999 15,094 23,570 36,276 8704 トラック 5,316 6,901 16,440 28,669
85 電気機器 5,241 11,501 14,890 14,897 8702 バス(10人以上) 2,621 4,016 4,497 5,472
27 鉱物性燃料 4,440 5,151 9,526 14,567 8708 自動車部品 4,959 7,764 11,280 12,819
22 飲料 4,647 7,058 6,611 11,197 8429 建設機械 5,020 7,574
39 プラスチック 2,155 2,724 7,355 8,079 2710 石油製品 3,349 4,640 6,633 8,286
33 化粧品類 2,155 6,010 7,162 8,067 2713 石油コークス 2,520 5,610
73 鉄鋼製品 64 3,081 10,385 7,150 2203 ビール 3,927 5,751 4,567 7,943
24 タバコ 3,457 3,719 5,187 5,156 3304 化粧品 4,299 5,010 5,533 5,726
輸入 2005 2006 2007 2008 輸入 2005 2006 2007 2008
H.Sコード H.Sコード
26 鉱物 0 1,711 14,813 24,656 2613 モリブデン鉱 0 1,711 14,813 24,655
74 銅製品 0 838 3,587 4,481 7403 銅 0 838 3,587 4,481
25 岩塩、石材 2,548 1,497 876 884 2529 石材 2,548 1,497 872 884
51 洋毛類 2 128 85 227 6110 メリヤス衣類 289 548 318 190
61 メリヤス衣類 320 597 328 224 5105 羊毛 128 0 167
94 木材、家具 48 115 170 119 9406 組立式建物 11 112 166 115
21 食料品類 155 110 52 99 2104 製造食料品 43 94
49 印刷物 40 90 2208 お酒 82 73
22 飲料 95 81
(出所)韓国貿易協会
韓国からモンゴルへの直接投資を見ると、2003 年までにモンゴル側の弱点として投資環
境未整備、狭い市場、技術人材の不足、インフラ未整備、不利な気象条件などの要因によ
り、また韓国側においては中国やベトナムなど低賃金と大市場規模へのシフトという要因
により、投資は本格化されなかった。投資分野も小規模の製造業や飲食店、卸売り・小売
分野に留まったが、担ぎや商人の活発な活動が投資の支えとなっていた。しかし、2004 年
以降はモンゴルの経済成長に従い、鉱山開発、建設、不動産、情報サービスなど多様な分
野に投資が本格化した。特に、2007 年の両国首脳会談でモンゴル鉱山開発へ韓国企業の参
加を合意し、南コビ地域のタワントルゴイ有煙炭鉱(埋蔵量 50 億トン)の開発を韓国鉱業
振興公社などが模索している。モンゴルに投資している主な韓国企業としては、韓国通信
がモンゴル通信の株 40%を獲得し経営に参加しているのを始め、SK テレコムが移動通信
分野に投資している。韓国タバコ公社がタバコ販売法人を運営し、現代自動車は整備工場
を運営している。
図表6.韓国の対モンゴル直接投資の推移
(単位:千ドル、件)
投資 新規法人数 申告金額 実行金額
合計 239 291,631 150,072 韓国の対モンゴル投資の推移
2008 78 141,246 58,218 千ドル 件
2007 54 50,161 44,367 160,000 90
2006 26 44,129 19,407 140,000 80
2005 25 14,226 6,705 120,000 70
2004 18 7,931 3,345 60 申告金額
2003 7 4,567 927 100,000
50 実行金額
2002 5 5,715 2,884 80,000 申告件数
40
2001 5 4,552 2,634 60,000
2000 7 5,457 2,584 30
40,000 20
1999 3 4,272 1,855
1998 1 458 130 20,000 10
1997 3 356 1,400 0 0
1996 2 708 570
94
95
96
97
98
99
00
01
02
03
04
05
06
07
08
1995 3 5,134 4,806
19
19
19
19
19
19
20
20
20
20
20
20
20
20
20
1994 2 2,720 241
(出所)韓国輸出入銀行・海外投資統計情報;http://www.koreaexim.go.kr/kr/oeis/m03/s01.jsp
5
- 7. 投資分野 現地法人数 申告金額 実行金額
実行金額
農林水産 4 280 280
鉱業 21 61,202 20,882 千ドル
25,000
製造業 41 23,212 10,917
電気。ガス・水道 1 200 200 20,000
建設 26 39,821 14,290 15,000
卸売・小売 52 41,055 22,540
3 4,588 2,694
10,000
運輸
宿泊・飲食店業 10 10,727 7,785 5,000
出版・放送通信・情報サービス 11 33,715 23,310
0 農 鉱 製 電 建 卸 運 宿 出 金 不 科 施 公 保 芸 協
金融・保険 1 211 164 林 業 造 気 設 売 輸 泊 版 融 動 学 設 共 険 術 会
不動産 29 29,533 17,432 水 業 。 ・ ・報 ・ ・ 産 技 管 ・ ・暇 ・ ・
科学技術サーバス 14 4,889 3,256 産 ガ 小 飲 サ 放 保 術 サ 理 社 社 サ ス 個
ー
ス 売 食 ー 送 険 サ ・ 会 会 ー ポ 人
施設管理・事業支援サーバス 10 18,512 10,839 店 ビ 通 ー バ 事 保 福 ビ ー サ
・ ス
公共・社会保障行政 2 300 30 水 業 ス 信 バ 業 障 祉 ス ツ ー
保険・社会福祉 3 19,550 14,441 道 ・ ス 支 行 ・ ビ
情 援 政 余 ス
芸術・スポーツ・余暇サービス 5 1,520 750
協会・個人サービス 6 2,316 263
投資分野/年度別実行金額 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
鉱業 199 0 0 143 730 839 700 4,463 13,809
製造業 1,240 334 450 110 258 857 377 1,051 4,144
建設業 713 370 2,240 2,764 8,202
卸売・小売 45 1,440 2,250 84 460 1,623 3,136 2,435 6,431
出版・放送通信・情報サービス 1,100 709 0 385 175 297 3,596 9,299 5,999
不動産 38 74 5 10 1,687 0 6,079 9,539
施設管理・事業支援サーバス 200 100 105 5,339 4,488 607
保険・社会福祉 1,185 11,926 1,330
(出所)韓国輸出入銀行
しかし、2006 年以降の 2008 年までの韓国からの投資拡大の一要因にはウォン高の影響
もあった。ウォンの対米ドル為替レートが 2003 年の 1200 ウォン台から 2008 年上半期に
は 900 ウォン台まで下がり、海外投資へのシフトが生じたのである。2008 年下半期からの
急速なウォン低は韓国の海外投資に悪影響を与え、1998 年の投資撤退のような現象が起こ
る可能性がある。2009 年の韓国経済は不況に直面しており、鉱業、建設、不動産、サービ
ス分野を中心とした対モンゴル投資は撤退あるいは停滞を強いられるであろう。モンゴル
も 2008 年末以降金融危機状態が発生しており、モンゴル政府は IMF に救助金融を要請し
ている事情を勘案すると、韓国―モンゴルの今後の経済関係は短期的に萎縮する可能性が
高いと言える。一例として、建設分野はモンゴルが 2007 年、2008 年に建設ブームであっ
たため、住宅建設に韓国の建設企業の進出もあったが、モンゴルでの建設市場は金融貸出
による資金確保に問題が発生し、2009 年始まりからモンゴル建設産業は麻痺状態に陥って
いる。
一方、韓国におけるモンゴル人の経済活動を見ると、韓国法務省の資料によると、2007
年末現在に韓国に滞在するモンゴル人は 3 万人に達している。そのうち、結婚移民者が 2,088
人、留学生 1,939 人、雇用勤労者(農業研修生と産業研修生を含む)が約 11,000 人、非法
滞在者は約 14,000 人である。モンゴル人口の約1%が韓国に居住していることになる。
2008 年には 33,000 人が韓国に滞在しているという。韓国はモンゴルにおいて最大の労働
力送出対象国である。韓国での事業分野は飲食店、運送業、旅行業、その他サービス業で
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- 8. ある。韓国滞在のモンゴル人のモンゴルへの送金額は 3 億ドル以上と推定されているが、
これはモンゴル GDP 約 40 億ドル(2007 年)の 7%を超える規模である。しかし、韓国で
のモンゴル人の事業分野が経済不況で失業圧迫の高いサービス分野や低賃金製造業分野に
集中していることを勘案すると、2009 年の経済不況に対応できるとは見え難い。
しかし、韓国―モンゴルの経済関係を中長期的に見ると、モンゴルは資源大国として成
長する可能性がある。モンゴルは 2007 年に「2021 国家開発戦略」を制定し、15 年間に年
平均 15%の経済成長を成し遂げ、2021 年に一人当たり GDP が 15,000 ドルとなる、いわ
ゆる「15・15・15 戦略」を発表した。この実現のために、モンゴルにおいて中国、ロシア
に続き 3 番目の貿易・投資国である韓国と、鉱山、建設、交通、エネルギーなどの分野で
韓国との経済協力に積極的である。その中には、東モンゴル地域での農畜産産業開発、イ
ンフラ・住宅建設などに韓国の資本を参加させ、労働力は北朝鮮から誘致する計画も含ま
れている7。モンゴルは韓国と北朝鮮の両方と友好関係を維持していることから、政治的・
経済的に北東アジア域内の協力を推進するに適切な場所であることを強調しているようで
ある。資源不足の韓国はモンゴルとの協力により安定的経済成長がより確かなものになる
だろう。その意味で、現在の世界同時不況の時こそ、韓国とモンゴルの経済協力を長期的
に推進する知恵が両国に必要となる。
韓国とモンゴルの社会・文化的交流の推移
1994 年 3 月に韓国では「韓国モンゴル交流協会」が創立され、モンゴル留学生の受け入
れやモンゴルでの韓国語教育を支援する土台ができた。また、医療分野では韓国医者のモ
ンゴルでのボランティア活動が活発化し、1994 年に韓国の延世大学医学部のセブランス病
院はウランバートルに「延世モンゴル友好病院」を開院した。2004 年からウランバートル
市とウランバートル大学が共催する「モンゴル・ハングル祭り」には韓国語スピーチ大会、
韓国歌コンクール、コンピューター大会などに数千人が参加している。モンゴルで韓国語
を勉強する学生の数も増え、2007 年の韓国語能力試験に応じた人数が 14,595 人でそのう
ち 13,457 人が合格した。モンゴルのウランバートルには「ソウル街」が、韓国のソウルに
は「モンゴル村」ができ、相互文化交流の場となっている。しかし、自己防衛的文化が強
い韓国社会のモンゴルに対する理解は相互対等ではなく、一方主義的な側面が強い。
韓国の一部知識人には、韓国とモンゴルの人種・言語・文化的近接性から、将来に韓国
―モンゴル同盟や、韓国―北朝鮮―モンゴルの国家連合あるいは連邦国家設立を訴える人
もいる8。その論理が、1 世紀前の日本が朝鮮半島と満州を政治経済的権益圏あるいは生命
線として考えたことと似ているかどうかは別として、韓国知識社会に北東アジア地域に対
して朝鮮半島を越えた政治・経済・文化の統合概念が出てきたことは珍しい現象である。
7エンフバヤル大統領インタビュー、『中央日報』2008 年 4 月 26 日
8李相勉「韓国―モンゴル国家連合の意義」『2007 東アジア平和問題研究所国際学術大会』
、
(ソウル、2007.3.20)
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