SlideShare a Scribd company logo
1 of 34
Download to read offline
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
石器の3D 計測、成果の
公開・共有を目指して
野口 淳
(NPO法人南アジア文化遺産センター/奈良文化財研究所客員研究員)
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
ざっくりと趣旨
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 2
• 3D計測を実施する、成果に触れる機会が増えている
• でも実際に、何ができるの? どうしたらいいの?
☞ 考古資料について、石器を題材に考えてみよう
なお...
発表中の3D計測データ・出力画像は、東村山市ふるさと歴史館が所蔵
するものを、許可を得て使用しているものです
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
3D計測データの特性
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 3
従来型の記録図面との対比で確認
1. 全体形状の情報をもつ ⇔ 特定の投影面のみ記録
2. 位置座標を有する ⇔ 図面上の相対位置のみ
3. デジタル・データ
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
3D計測データの特性
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 4
3D計測データとはどのようなものなのか?
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
3D計測データの特性
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 5
3D計測データとはどのようなものなのか?
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
3D計測データの特性
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 6
従来型の記録図面との対比で確認
1. 全体形状の情報をもつ ⇔ 特定の投影面のみ記録
向き・傾きを修正できる/図示されていない向き・関係の情報も取得できる
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
3D計測データの特性
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 7
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
3D計測データの特性
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 8
従来型の記録図面との対比で確認
2. 位置座標を有する ⇔ 図面上の相対位置のみ
基準点、特徴点、計測位置などを明示的・再現性を保って表示できる
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
3D計測データの特性
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 9
2. 位置座標を有する ⇔ 図面上の相対位置のみ
計測されたすべての点の位置を数値で指示できる
どこを指示しているのか第三者と共有できる
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
3D計測データの特性
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 10
従来型の記録図面との対比で確認
3. デジタル・データ
精確に複製できる、再利用が容易
複製に対する否定的な見解もありますが...
使われてこそ価値があると考えるべきでは?
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
規格化・標準化
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 11
3D計測データの特性を活かし再現性を担保するには
データの規格化・標準化が必要
☞ 厳密・絶対的な基準ではなく、再現性を確保するための共有
計測機器・手法も一つでなくてよい(仕様を共有すればOK)
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
石器の場合...
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 12
従来の図化・計測・記載方法を踏襲
• 長さ=y*、幅=x、厚さ=z
• 左下隅を原点とする
• 基準軸・向き・傾きは目視・手動設定**
* 第1軸=xとしないのは、第1象限の座標系と「上下
左右」の感覚を一致させるため(絶対ではない)
** 数値基準の自動判別が困難なため
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
石器の場合...
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 13
従来の図化・計測・記載方法を踏襲
• 長さ=y*、幅=x、厚さ=z
• 左下隅を原点とする
• 基準軸・向き・傾きは目視・手動設定**
* 第1軸=xとしないのは、第1象限の座標系と「上下
左右」の感覚を一致させるため(絶対ではない)
** 数値基準の自動判別が困難なため
その基準・設定納得いかない! ☞ 基準からの移動・回転を示せば良い
原データは保持したまま共有できる=再計測・図化は不要
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
気になる「精度」について
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 14
3D計測データはどのくらい「精確」なのか?
計測され表示される点の密度は149.85点/mm2
計測部位により密度は
若干異なるが…
手測りとの「精密度」の差は瞭然+表示計算はずれない(正確)
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
何ができるのか?
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 15
照明効果と陰影描画(シェーディング)
フリー利用できるソフトウェアでできます!
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
シェーディングの応用例
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 16
表面風化が著しく剥離
や稜線を確認しづらい
資料→ライトの下で向
きを変えて確認するの
と同じ
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
シェーディングの応用例
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 17
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
表面形状の特徴・変化量を可視化する
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 18
デジタル地図における可視化・表示の原理
• 表面形状を投影面における高さの情報と捉える
• 陰影図(レリーフ☞前述)
• 段彩(高さの色分け)、傾斜度、開度etc.
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
PEAKIT
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 19
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
連続断面
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 20
• いくつでも、好きなだけ
• どの方向でも
• 同じ場所で作図 → 誰がやっても同じ結果
☞ 再・現・性 !!
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
計測表も再現性!!
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 21
任意の一回限りの計測数値の一覧から
☞ 計測位置・手法を共有して再現性の保障
された計測数値へ
フリー利用できるソフトウェアでできます!
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
課題:公開と共有をどうすれば?
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 22
データの互換性
☞ 標準的なデータ形式を利用する
Wavefront OBJ、Stanfrod PLY、STLなど
各種3Dブラウザ・エディタだけでなくCAD、Officeでも使用可
まぁ、クリアできている
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
課題:公開と共有をどうすれば?
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 23
精密な3D計測データはデータサイズが大きい
・点群、メッシュの位置座標の集合なので、
それなりに...
・インターネットでの公開・共有にはまだ
敷居が高い? (通信負荷、コスト)
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
Sketchfab.com
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 24
内容の詳細と課題は仲林報告参照
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
Sketchfab.com
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 25
とりあえずサイズ制限ありということで(または有償プラン...)
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
国内企業(早稲田システム開発)
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 26
http://www.waseda.co.jp/
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 27
データ量問わず定額ら
しい...
(是非話しを聞きたい
です!!)
国内企業(早稲田システム開発)
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 28
考古・埋蔵文化財なら『総覧』
https://sitereports.nabunken.go.jp/ja
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 29
PDF形式にして画像をアップ
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 30
PDF形式にして画像をアップ
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 31
PDF形式にして画像をアップ
・冊子体(ただし電子版のみ)に編集
・PDF版を『総覧』にアップロード→公開共有
・書誌情報は『総覧』で付与される
(奈文研ID→DOI)
☞ 数値データ(一覧表)や3Dデータも掲載で
きるようになったらいいなぁ
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 32
再現性と再利用可能性にむけて
再現性・再利用可能性(reproducibility)
☞ 専門家ステイクホルダーの独占から公開・共有へ
=利用されることがステイタス
利用されること=より多くの価値・成果が生み出されること
利用されること ⇒ 内容そのものの要因
見つけやすさ・使いやすさ
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 33
データ生産者の復権
再現性・再利用可能性(reproducibility)
利用されること=より多くの価値・成果が生み出されること
まずデータなくしては始まらない!!
☞ データ生産者の重要性をもっと評価しよう!!
見つかる・使えるデータを作る人を称えよう!!
第1回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
2019/5/25石器の3D 計測、成果の公開・共有を目指して(野口) 34
fin

More Related Content

More from NOGUCHI Atsushi

JSAI32 Noguchi "Summarizing Lithic morphology: a practice for 3D morphologica...
JSAI32 Noguchi "Summarizing Lithic morphology: a practice for 3D morphologica...JSAI32 Noguchi "Summarizing Lithic morphology: a practice for 3D morphologica...
JSAI32 Noguchi "Summarizing Lithic morphology: a practice for 3D morphologica...NOGUCHI Atsushi
 
JSAI32 Noguchi etal "Development of interactive map of artifacts in archaeolo...
JSAI32 Noguchi etal "Development of interactive map of artifacts in archaeolo...JSAI32 Noguchi etal "Development of interactive map of artifacts in archaeolo...
JSAI32 Noguchi etal "Development of interactive map of artifacts in archaeolo...NOGUCHI Atsushi
 
土器の形態・軸を測ってみた
土器の形態・軸を測ってみた土器の形態・軸を測ってみた
土器の形態・軸を測ってみたNOGUCHI Atsushi
 
土器の形態・軸を測ってみた
土器の形態・軸を測ってみた土器の形態・軸を測ってみた
土器の形態・軸を測ってみたNOGUCHI Atsushi
 
日本列島の旧石器時代遺跡-データベースから見た分布と立地-(SlideShare公開版)
日本列島の旧石器時代遺跡-データベースから見た分布と立地-(SlideShare公開版)日本列島の旧石器時代遺跡-データベースから見た分布と立地-(SlideShare公開版)
日本列島の旧石器時代遺跡-データベースから見た分布と立地-(SlideShare公開版)NOGUCHI Atsushi
 
遺物分布はどのように理解されてきたのか/ How we document, recognize and interpret the distributio...
遺物分布はどのように理解されてきたのか/ How we document, recognize and interpret the distributio...遺物分布はどのように理解されてきたのか/ How we document, recognize and interpret the distributio...
遺物分布はどのように理解されてきたのか/ How we document, recognize and interpret the distributio...NOGUCHI Atsushi
 

More from NOGUCHI Atsushi (6)

JSAI32 Noguchi "Summarizing Lithic morphology: a practice for 3D morphologica...
JSAI32 Noguchi "Summarizing Lithic morphology: a practice for 3D morphologica...JSAI32 Noguchi "Summarizing Lithic morphology: a practice for 3D morphologica...
JSAI32 Noguchi "Summarizing Lithic morphology: a practice for 3D morphologica...
 
JSAI32 Noguchi etal "Development of interactive map of artifacts in archaeolo...
JSAI32 Noguchi etal "Development of interactive map of artifacts in archaeolo...JSAI32 Noguchi etal "Development of interactive map of artifacts in archaeolo...
JSAI32 Noguchi etal "Development of interactive map of artifacts in archaeolo...
 
土器の形態・軸を測ってみた
土器の形態・軸を測ってみた土器の形態・軸を測ってみた
土器の形態・軸を測ってみた
 
土器の形態・軸を測ってみた
土器の形態・軸を測ってみた土器の形態・軸を測ってみた
土器の形態・軸を測ってみた
 
日本列島の旧石器時代遺跡-データベースから見た分布と立地-(SlideShare公開版)
日本列島の旧石器時代遺跡-データベースから見た分布と立地-(SlideShare公開版)日本列島の旧石器時代遺跡-データベースから見た分布と立地-(SlideShare公開版)
日本列島の旧石器時代遺跡-データベースから見た分布と立地-(SlideShare公開版)
 
遺物分布はどのように理解されてきたのか/ How we document, recognize and interpret the distributio...
遺物分布はどのように理解されてきたのか/ How we document, recognize and interpret the distributio...遺物分布はどのように理解されてきたのか/ How we document, recognize and interpret the distributio...
遺物分布はどのように理解されてきたのか/ How we document, recognize and interpret the distributio...
 

ADSS01 Noguchi share