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実務家から見た
IPA「情報システム・モデル取引・契約書」第二版
2021.11.27 情報ネットワーク法学会研究大会
ビジネス法務研究会
登壇者紹介
©Masahiro Ito 2
過去の研究大会振り返り
• 2016年 システム開発契約・紛争全般
 請負/準委任の境界,モデル契約,プロジェクトマネジメント責任等
• 2017年 プロジェクトマネジメント義務・協力義務
 事例の分析等を通じて
• 2018年 プロジェクトの中止の見極め
 タイミングと手法,法的分析
• 2019年 セキュリティ要件におけるベンダ・ユーザの責任分界点
 ハッキング事故等の分析
• 2020年 システム開発取引における債権法改正の影響
 主に契約不適合について
©Masahiro Ito 3
今回のテーマ
2020年12月22日公開のIPA「情報システ
ム・モデル取引・契約書」第二版に基づ
いてシステム開発契約実務を考える
©Masahiro Ito 4
初版の位置づけ
©Masahiro Ito 5
歴史
• 90年代
ソフトウェアが独立した取引の対象になることに伴って,適切な契約
形式,条件を定める動き
JEITAモデル契約(1994),JISAモデル契約(1994)
ウォーターフォール型
• 2007年
経済産業省「情報システムの信頼性向上のための取引慣行・契約に関
する研究会モデル契約」公表
©Masahiro Ito 6
初版の概要
• 契約当事者
対等な交渉力があるベンダ・ユーザ
• 開発プロセス
ウォーターフォール型
• 契約形態
工程単位の多段階契約で,各個別契約は請負・準委任
• 業務の範囲
要件定義から運用・保守
スクラッチ開発のほか,パッケージ型,中小規模も用意
©Masahiro Ito 7
初版の振り返り
• 標準的な条件,実務慣行の定着
瑕疵担保責任の検収時から〇ヶ月,損害賠償額の上限 等
フェーズごとの多段階契約
• 請負・準委任二分論
請負・準委任原理主義者の発生
• 法務と現場の乖離
会議運営,変更管理手続などの行為規範は契約書に沿って運営されて
いるか
©Masahiro Ito 8
第2版へ
©Masahiro Ito 9
第2版公表までの流れ
©Masahiro Ito 10
2018年 経産省「DXレポート~IT「2025年の崖」克服とDXの
本格的な展開~」公表
契約の在り方の見直しの提言
2019年 経産省⇒IPA「モデル取引・契約書見直し検討部会」
立上げ
民法改正対応モデル契約見直し検討WG
DX対応モデル契約見直し検討WG
2019年12月 民法改正を踏まえたモデル契約見直し版公表
2020年4月 改正民法施行
2020年12月 モデル契約第2版公表
• セキュリティ
セキュリティに関する事項の責任分界点と契約上の注意
• プロジェクトマネジメント義務及び協力義務
大型紛争で問題となるベンダ・ユーザの義務,役割分担
• 契約における「重大な過失」の明確化
責任限定条項の適用の分水嶺となる「重大な過失」の有無について
• システム開発における複数契約の関係
ウォーターフォール型開発における多段階契約の下流工程で生じたトラブル
の上流工程への影響等について
• 再構築対応
仕様は「現行踏襲」を前提として行われるマイグレーション事案における留
意点
第2版の検討事項(債権法改正対応以外)
11
条項の見直しなし
ディスカッション
©Masahiro Ito 12
IPAモデル契約は
実務で遭遇しますか?
(他のモデル契約は?)
©Masahiro Ito 13
検収・契約不適合責任
田中先生
©Masahiro Ito 14
仕様変更
大井先生
©Masahiro Ito 15
セキュリティ
影島先生
©Masahiro Ito 16
【以下参考】民法(関連条項)
©Masahiro Ito 17
(請負)契約不適合責任の存続期間
• 改正前民法637条1項
前三条の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は,
仕事の目的物を引き渡した時から一年以内にしなければならない。
• 改正後民法637条1項
前条本文に規定する場合において,注文者がその不適合を知った時か
ら一年以内にその旨を請負人に通知しないときは,注文者は,その不
適合を理由として,履行の追完の請求,報酬の減額の請求,損害賠償
の請求及び契約の解除をすることができない。
©Masahiro Ito 18
(請負)契約不適合責任に基づく代金減額請求権
• 改正前民法634条・635条
瑕疵の修補
瑕疵の修補に代わる又はともにする損害賠償の請求
契約目的が達成できないときの解除
• 改正後民法559条・563条・564条
履行の追完
(追完がないとき等の)代金減額請求
損害賠償請求
解除
©Masahiro Ito 19
(請負)完成しなかったときの報酬請求権
©Masahiro Ito 20
注文者に帰責事由 請負人に帰責事由 双方に帰責事由なし
旧法 報酬全額の請求可能
(旧536条2項)
割合報酬の請求可能
(判例)
割合報酬の請求可能
(判例)
改正法 報酬全額の請求可能
(新536条2項)
割合報酬の請求可能
(新634条)
割合報酬の請求可能
(新634条)
新634条(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)
次に掲げる場合において,請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって
注文者が利益を受けるときは,その部分の仕事の完成とみなす。この場合において,請負
人は,注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
① 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなく
なったとき。
② 請負が仕事の完成前に解除されたとき。
(準委任)成果報酬型準委任の位置づけ
• 改正前民法
明文なし
• 改正後民法648条の2
1. 委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約
した場合において,その成果が引渡しを要するときは,報酬は,そ
の成果の引渡しと同時に,支払わなければならない。
2. 第634条の規定は,委任事務の履行により得られる成果に対して報酬
を支払うことを約した場合について準用する。
©Masahiro Ito 21
(準委任)中途終了時の報酬請求権
©Masahiro Ito 22
委任者に帰責事由 受任者に帰責事由 双方に帰責事由なし
旧法 報酬全額の請求可能
(旧536条2項)
割合報酬の請求可能
(旧648条3項)
割合報酬の請求可能
(旧648条3項)
改正法 報酬全額の請求可能
(新536条2項)
割合報酬の請求可能
(新648条3項)
割合報酬の請求可能
(新648条3項)
新648条(受任者の報酬)
3 受任者は,次に掲げる場合には,既にした仕事の割合に応じて報酬を
請求することができる。
① 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行を
完成することができなくなったとき。
② 委任が履行の中途で終了したとき。

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