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山形浩生
2015.06.03
簡単に自己紹介
 1990 東大都市工学科修士課程修了
 民間調査会社で国内不動産開発案件調査
 1996 MIT不動産センター修士課程修了
 民間調査会社で主にODA関連インフラ
開発案件調査と海外不動産調査
プロジェクト例
 主にインフラプロジェクトのF/S調査、
経済性調査、影響調査。
 ガーナの配電計画
 スリランカの電源計画
 中国ベトナム高速道路
 ラオスへのバス供与
2021/6/5 (c) H. Yamagata. Some Rights Reserved 3
2021/6/5 (c) H. Yamagata. Some Rights Reserved 4
経済学系の翻訳
 『クルーグマン教授の経済入
門』
 アベノミクスの理論的基礎の一
つであるウェブ論文「日本のは
まった罠」収録
 ピケティ『21世紀の資本』
本日の構成
 日本経済の現在
 アベノミクスおさらい
 初期の成果と消費税
 現状の評価
 経済学と不動産
 日本不動産の簡単な現状
 モデル的な枠組み
 日本経済の将来見通しと不動産
 短期:アベノミクスのこれから
 長期の課題
日本経済:過去数年の簡単なまとめ
 20年にわたる長期デフレ不況
 絶望のふちからアベノミクス/黒田日銀
緩和で復活。
 でも消費税率引き上げでもとの木阿弥
日本の名目GDPの推移
http://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WEO&d=NGDP&c1=JP&s=&e=
Hansen/Summers “Secular Stagnation” の見本?
•マイナス近郊金利による失業の蔓延
•需要の停滞がやがて供給力にも影響しかねない
•(人口も?)
アベノミクスのおさらい
 大胆な金融政策
 黒田日銀による量的質的緩和
 2年で2%の安定的なインフレ目標
 機動的な財政政策
 民間投資を喚起する成長戦略
消費税率引き上げまでは好調
岩田規久男「量的・質的金融緩和と我が国の金融経済情勢」2014.06
岩田規久男「量的・質的金融緩和と我が国の金融経済情勢」2014.06
金融緩和は実体経済を動かす
 金融緩和は単なるお金のお遊び
で、その下の実体経済のファン
ダメンタルズは効かない、とい
う説が聞かれたが……
 お金の市場(金融!)が利率を
通じて実体経済を動かす、とい
うのがケインズ理論の基本
 (だから「雇用、利子、お金の
一般理論」!)
岩田規久男「量的・質的金融緩和と我が国の金融経済情勢」2014.06
しかし財政政策は……
 理論的には、大規模な財政出動も継続が必
要。「機動的な」財政政策というのはそう
いう意味だろうと思ったが……
 公共事業偏重の財政出動
→ 予算はつけたが執行できない!
 その他の部分では引き締め
 そして2014年4月の消費税率引き上げ……
日本の四半期実質GDP推移
527.5
530
528.6
535
525.5
522.7
524.2
527.3
516
518
520
522
524
526
528
530
532
534
536
2013
4-6
2013
7-9
2013
10-12
2014
1-3
2014
4-6
2014
7-9
2014
10-12
2015
1-3
(兆円)
消費税率引き上げの影響
 おおむね右の図の通り
 ただし、回復はもっと
遅い。V字回復ではない
鈍いU字回復
 逆乗数効果?(ゼロ金
利下ではクラウディン
グアウトが起きず財政
の影響は通常より大き
い)
櫨 浩一「消費増税後の日本経
4月の各種指標も不調
 個人消費は前回の引き上げより激しい落ち込み
日本経済:これまでの簡単なまとめ
 20年にわたる長期デフレ不況
 絶望のふちからアベノミクス/黒田日銀
緩和で復活。
 でも消費税率引き上げで、もとの木阿弥
 (これで10%引き上げを強行していたらど
うなったことか……)
金融緩和と不動産
 急激に価格上昇
 短期的には供給過多で横ばい
 外国人投資家
 ピケティ談義?
日本経済と不動産
 近年では、多くの
点でGDPとほぼ連
動するようになっ
てきた。
 バブル期の異常な
財からようやく普
通の経済学的な扱
いが可能な存在に
長谷川德之輔「あのバブルから四半世紀、再びバブルは起きるのか」
(財)土地総合研究所編『超金融緩和期における不動産市場の行方』2014.12所収
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(財)土地総合研究所編『超金融緩和期における不動産市場の行方』2014.12所収
大和不動産鑑定「オフィスプライスインデックス」2015.04
http://daiwakantei.co.jp/daiwawp/office_price_index/
オフィス還元利回り (cr)
大和不動産鑑定「オフィスプライスインデックス」2015.04
http://daiwakantei.co.jp/daiwawp/office_price_index/
経済学での不動産
 あまり得意ではない。集積をきちんと説明で
きる理論が長いことなかった。
• 多くの理論は、集積を
別の集積で説明するも
の
集積をきちんとモデル化できるように
なったのはごく最近(1990年代)
 Krugman, Paul (1991): “Increasing Returns and Economic
Geography”
 実際のモデルはややこしいので割愛するが……
 前提
○ 2つの地域を想定
○ 労働者は多様な製品が安く手に入るほうに住みたがる(前方連関効果)
○ 企業は製品の市場が大きいほうに立地したがる(後方連関効果)
○ 生産には規模の経済が働く(収穫逓増)
○ 賃金は労働力の需給で決まる(地代は明示的には出ないが、賃金の一部と見
ることもできる)
 結果
○ 輸送費が高ければ、企業は両地域に分散立地
○ 輸送費が低くなれば、片方で作ってもう片方に輸送するほうがいい。それに
あわせて人も集中する(集積効果!)
不動産の扱いにくさ
 プレーヤーの多さ
 利用者
 家主/投資家
 建設業者
 これらの相互作用
 資産としての側面と実用財としての側面
 (建設までのタイムラグ)
Wheaton-diPasquale Model (4象限モデ
ル)
 一応、前の各種要因を整合的に考えるモデル
 均衡モデルなので時間は明示的には考えない)
床の市場
建物の市場
建設の市場
第1象限:床面積の市場
 床面積のストックに対し、一定の経済活
動のもとで賃料水準が決まる。
現在の床面積ストック
現在の賃料水準
R: 賃料 (円/m2)
S: 総床面積 (m2)
(経済活動が活発
になったら……)
第2象限:物件の市場
 賃料水準に対し、そのときの期待収益率
をもとに物件価格が決まる。
現在の賃料水準
現在の賃料水準
R: 賃料 (円/m2)
P: 物件価格 (円/m2)
P= R/i
i: 期待収益率
(期待収益率が下
がったら……)
第3象限:建設の市場
 物件価格に対し、建築業者の活動水準を
もとに着工水準が決まる。
現在の価格水準
現在の着工水準
R: 賃料 (円/m2)
P: 物件価格 (円/m2)
注:物件価格があまりに
下がるともはや建設活動
は起きなくなると想定
(建設業界が飽和、
建設費が高騰etc)
第4象限:ストック調整
 (均衡モデルなので、着工と同じだけ取
り壊しが起こり、ストックは一定と想
定)
現在の価格水準
現在のストック水準
着工水準(m2)
S: 総床面積 (m2)
•ストックは、新規着工の
何倍にあたるか。
•建物の償却速度と解釈し
てもいい
(新工法で償却速度が
下がったら……)
以上四つをあわせて一つのモデル
 普通の財なら、第1象限だけで需要供給が決ま
る。
 不動産は供給調整に時間がかかる。一周めぐっ
てストック(供給)が変わる(一周するのに10
年?)
床の市場
物件の市場
建設の市場
期待収益率が下がった場合……
 物件価格が上がり、建設が活発になり、着工
が増え、ストックが増え、賃料が下がる。
経済活動が上がった場合
……
 賃料が上がり、物件価格が上がり、建設が活
発になり、着工が増え、ストックが増える。
課題
 均衡モデルなので、均衡から均衡への移行
過程はうまく表現できない
 バブル的にオーバーシュートして減衰する?
 先を見越してなめらかに移行する?
 各種の外的要因は連動する
 現在も、景気改善と期待収益率変動と建設費高
騰は連動している。
 あわせた場合の影響は……
 それでも、長期的な動向を考えるには役立つ
日本経済の短期的な見通し
 消費税率引き上げの影響が予想よりあまりに大き
い!
 一つの可能性は、乗数効果が逆に効いている?
○ ゼロ金利下では財政出動がクラウディングアウトをもたら
さず、乗数効果が高まる
→おそらくその逆も真。財政出動が減ったらその分が景気に
直撃
 インフレ2%へのコミットのためには、近いうちにもう
一段の緩和が必要
○ いまの日銀なら、おそらくやってくれる……はず?
 2017年の消費税再引き上げは大丈夫か?
将来展望:アベノミクスが続いた場合
 経済活動 → 上昇
 期待収益率 → 下がる(リスクプレミアム低下)
 建設活動 → 頭打ち?
 (あくまでモデルで見た場合の予想)
日本経済についてのIMFの見通
し
IMF予想。おおむね1.1-1.7%成長 (
実質成長は、0.5%以下……
長期的な課題
 人口高齢化、少子化
 移民は可能か?
 地方格差
 「シンギュラリティ」

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