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Daisuke Yamamoto
Department of Neurology, Shonan Kamakura General Hospital
parenteral administration of antiparkinsonian drugs
パーキンソン病治療薬の
休薬の仕方
Introduction
パーキンソン病(PD)は
1000人に1人、高齢では100人に1人の疾患です。
PD患者が急病で入院になる場合も多いです。
PD治療薬の中断は、悪性症候群のリスクになりえます。
入院疾患の治療を行いながら、
どのようにPD治療薬を休薬、再開するのか?は
重要なテーマです。
本スライドは、
神経内科専門医にコンサルテーションできない環境にある、
先生方のためのスライドです。
PDとは、端的にはドーパミンが足りなくなる病気である。
L-DOPA/DCIは、ドーパミンを補う薬そのものである。
その他薬剤もいろいろあるが、ここでは、L-DOPA/DCIが中核的治療薬
であることを理解する。
商品名:
メネシット、パーキストン、ドパコール、ネオドパゾール、マドパー
これら薬剤の有無と、投与量を確認しよう!
PD治療薬の
最低限の基礎知識①
→PDの中心的治療薬はL-DOPA/DCIである。
感染症や手術など、内服ができなくなった場合には、PD治療薬を、Levodopa
静注に置き換える。
この後、詳細については記載を加えるが、基本的原則は、
「内服のL-DOPA/DCIを、Levodopa静注に置換する」、でよい。
Levodopaの商品名:ドパストン 1A (50mg/20mL)
ドパストンは生食で希釈する。
PD治療薬の
最低限の基礎知識②
→内服できない場合は、Levodopa静注に置換。
PD治療薬の中には、ドーパミンアゴニスト(DA)という
ジャンルがあります。
PD治療薬としては、L-DOPA/DCIの次に重要な薬剤です。
内服できない場合には中止せざるを得ません。
ただし、まれにDA中止による精神症状の増悪がありえます。
ドーパミンアゴニスト離脱症候群(DAWS)と言います。
頻度は多くはありませんが、可能な限り早期の内服再開が望ましいです。
PD治療薬の
最低限の基礎知識③
→ドーパミンアゴニスト中止はリスクがありうる。
外科手術などで絶食しなくてはならないときの対処法として
「手術当日,朝1 回1 時間程度でL-DOPA/DCI 100 mg につき
Levodopa 50~100 mg を経静脈内に点滴投与する。
2 日目以降も同様な対応を行うが,症状に応じて増量してよい(グレードC1)」
休薬の仕方は、二通り示されている。
<1>
『パーキンソン病治療ガイドライン2011』
「L-DOPA/DCI 100 mg につきLevodopa 50~100 mg の割合で,
1 回2~3 時間で経静脈投与を行うとしているが,
1 時間でもよいと考える(エビデンスレベルⅣ)」
休薬の仕方は、二通り示されている。
<2>
『パーキンソン病治療ガイドライン2002』
後者<2>の方法での対応を、現実的には行っていると思われます。
ただし、置換についての明確な指針はありません。
最も厳密に、
Levodopa静注への
置き換えを行う方法。
INTENSIVIST 2016; 8: 827-837
詳細な、換算式が記載されています。
L-DOPA/DCI以外も計算できます。
この論文は非常にまとまっていますので、
是非読んでみてください。
L-DOPA/DCIをLevodopa静注に置換する方法が示されている。
ただし、この方法が十分な力価で置換を保証するものではない。
あくまで、一つの方法である。
また、L-DOPA/DCI以外の薬についてのLevodopa換算は
理想的には行いたいが、
煩雑なので行わなくてもよいと思われる。
ただし、これらを置換しない場合には、
L-DOPA/DCIの置換量のみでは
Levodopaは少な目で置換されていることは認識しておくこと。
ここまでのまとめ
メネシット(100mg) 3錠分3 で
内服しているパーキンソン病患者。
誤嚥性肺炎で入院した。
誤嚥リスクで内服できない。
↓
L-DOPA/DCI 300mgを
Levodopa静注に置換する。
(※半分量~等量換算)
↓
Levodopa 150~300mg/dayで投与。
具体的処方例
RP)
ドパストン1A(50mg)+ 生食100ml
1日3回
1回2時間かけて投与
(※Levodopa 150mg/day)
そもそも、置換療法の目的
冒頭に述べましたが、悪性症候群の予防が
第一目的です。
他の意味合いとしては、
内服できない期間の、ADL低下や嚥下機能低下を
少しでも防ぐために、
継続的にPD治療薬を投与するために
静注薬への置換を行います。
こちらの意味合いの方が重要であります。
報告は乏しいですが、levodopa持続静注による方法も提案されています。
先述の方法は、分割内服と似たような血中濃度を点滴で実現できますが、
持続静注療法の有効性も報告されています。
ピークとトラフを作るよりは、持続的に少量でも継続投与したほうが、
ADLを保つために有効なのではないか?という発想です。
2つの方法の使い分けはありませんが、安全に施行できるし、
この方法がいい症例もあると思います。是非、検討してみてください。
上級編
→Levodopa持続静注による置換方法。
Levodopa持続静注について検討された、
素晴らしい論文があります。
PD治療薬休薬についての勉強にもなりますので
興味のある方は読んでみてください。
メネシット(100mg) 3錠分3 で
内服しているパーキンソン病患者。
誤嚥性肺炎で入院した。
誤嚥リスクで内服できない。
↓
Levodopa持続静注療法。
↓
ドパストン6A(300mg)+生食180mlで、
Levodopa 300mg : 300ml の
点滴が作れる。
具体的処方例 RP)
ドパストン6A + 生食180ml
10ml/hr (=10mg/hr)で投与すると、
240mg/dayで、総量は分割投与法とあ
まり変わらない。
これが持続投与のミニマムの投与量と
考えて、たとえば、20ml/hrや、30ml/hr
も試してみてもよいと思われる。
紹介論文を参考にしてみて下さい。
薬物の経腸投与が可能な場合は、
点滴置換でなくてももちろんよいです。
悩む場合には、NGチューブからの投薬を検討してください。
ただし、現在多くの患者が使用している
ドーパミンアゴニストは、NGチューブからの投与ができない
剤型(徐放製剤)である可能性が高いので、
それは知っておいてください。
DAの剤型変更については、薬剤師に相談してください。
ドーパミンアゴニストの貼付剤(ニュープロパッチ)の場合は、休薬せ
ずに、そのまま使用し続けてください。
さまざまな診療科で直面しうる問題でありますが、
明確なAnswerがないのがこの休薬・置換問題です。
専門医に相談できない場合でも、
本スライド内容で基本的対応は可能であると思われます。
PD患者のADLを少しでも下げないための工夫を検討しましょう。
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