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感染症データブック
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目次
感染症に対するアプローチと治療原則
原因微生物ーグラム染色による分類
耐性菌について
抗菌薬各論
ペニシリン系 セフェム系 キノロン系
マクロライド系 カルバペネム系 その他
感染症各論
肺炎 尿路感染症 胆道炎 皮膚・軟部組織感染症
髄膜炎 CD関連腸炎・細菌性腸炎
PK/PD理論について
感染に対するアプローチ
Step1. 発熱の原因が感染症かどうか?
→ CRP上昇や発熱だけでは抗菌薬の適応にはならない
Step2. 感染臓器はどこか?
→ 問診、診察、検査によるfocusの絞り込み
Step3. 原因微生物は何か?
→ グラム染色、臓器特異的な菌、既往歴から
Step4. 治療薬は必要か?何を使うか?
→ カバーする菌を考えた治療薬選択
Step5. 治療効果判定
→ WBC・CRPは絶対ではない。 臓器特異的パラメータや全身状態を
考慮し、感受性結果によりde-escalationを行う
感染症診療の原則
感染部位
原因微生物 抗菌薬
患者
① どのような状態の患者に
② どの部位の
③ どのような微生物による
感染症だと判断し
④ どの抗菌薬を
⑤ どのくらいの用量で
⑥ どのくらいの期間
投与する
この一連のプランを
計画することが治療原則
グラム染色による菌の分類
グラム陽性球菌
• Streptococcus: pyogenes(Group A) 溶血性連鎖球菌
agalactiae(Group B) B群β溶血性連鎖球菌
anginosa
pneumoniae 肺炎球菌
• Enterococcus: faecalis
faecium
• Staphylococcus: epidermidis 表皮ブドウ球菌
aureus 黄色ブドウ球菌
Chain
Cluster
グラム陽性球菌
黄色ブドウ球菌
Staphylococcus
aureus
肺炎球菌
Streptcoccus
pneumoniae
溶血性連鎖球菌
Streptcoccus
spp.
集族性を持つ。
ブドウ房状の菌塊。
MRSA・MSSAの鑑
別は困難。
莢膜を持つ双球菌。
縦に並ぶ点も特徴。
貪食されると染色
性は低下する。
集塊を形成するこ
ともある。
連鎖状の球菌。
双球菌に見えるこ
ともあり注意。
貪食で染色性が低
下することが特徴。
グラム陽性球菌
連鎖球菌。溶連菌
との鑑別は困難。
双球菌に見えるこ
とがある
染色性が比較的均
一な点が手掛かり。
連鎖球菌。
E. faeciumとの鑑
別は困難。
集族性を示すこと
もある。
腸球菌
Enterococcus
faecalis
腸球菌
Enterococcus
faecium
Candida
spp.
カンジダ(酵母様真菌)
参考
大型のグラム陽性
の球体。
細菌と比較して大
きく、仮性菌糸を
持つことがある。
グラム陽性桿菌
• Actinomyces spp.
• Nocardia asteroides
Bacillus spp. 炭疽菌、セレウス
• Lactobaccillus spp.
• Clostridium botulinum ボツリヌス
difficile クロストリジウム・デフィシル
perfringens ガス壊疽菌
tetani 破傷風菌
• Corynebacterium spp.
• Listeria monocytogenes リステリア
• Mycobacterium spp. 結核菌、抗酸菌
• Propiobacterium acnes
嫌気性菌
放線菌
Nocardia
spp.
コリネバクテリウム
Corynebacterium
spp.
抗酸菌
Mycobacterium
spp.
グラム陽性桿菌
フィラメント状。
Actinomycesも同
様の構造をとり、
口腔内常在菌。
Nocardiaは土壌に
多い。
松葉状、柵状とさ
れるハの字型の菌。
口腔内常在菌。
グラム染色不染性。
硝子キズのように
透けて見える。
グラム陰性球菌
• Moraxella catarrhalis モラクセラ・カタラーリス
• Neisseria: elongata
gonorrhoeae 淋菌
meningitidis 髄膜炎菌
双球菌
モラクセラ・カタラーリス
Moraxella
catarrhalis
双球菌。
ソラ豆状と言われる。
莢膜は持つものと持
たないものがある。
肺炎球菌とは異なり、
長辺を接し横に並ぶ。
例外はあるものの、形態での鑑
別は難しく、検体で鑑別する。
喀痰 Moraxella catarrhalis
尿 Neisseria gonorrhoeae
髄液 Neisseria meningitidis
ただし、淋菌性の咽頭炎や髄膜
炎菌による尿道炎もあるため絶
対ではないことに注意する。
• Acinetobacter baumanii
• Pseudomonas aeruginosa 緑膿菌
• Stenotrophomonas maltophilia
• Citrobacter freudi
• Enterobacter :aerogenes
cloacae
• Serratia marcescens
• Escherichia coli 大腸菌
• Klebsiella pneumoniae 肺炎桿菌
• Morganella morganii
• Proteus mirabilis
• Salmonella spp.
• Shiggella spp
• Yersinia spp
グラム陰性桿菌
ブドウ糖非発酵菌
腸内細菌
グラム陰性桿菌
• Aeromonas hydrophilia
• Bacteroides fragilis バクテロイデス
• Prevotella spp.
• Fusobacteriumu nucleatum
• Bordetella pertussis 百日咳菌
• Campylobacter spp.
• Capnocytophaga spp.
• Gardnella spp.
• Haemophilus infuluenzae インフルエンザ桿菌
• Helicobacter pylori ピロリ菌
• Legionella pneumophila レジオネラ
• Pasturella multicoda
• Spilochaeta spp. スピロヘータ属
• Vibrio cholerae コレラ
• Vibrio vulnificus
嫌気性菌
グラム陰性桿菌
インフルエンザ桿菌
Haemophilus
infuluenzae
大腸菌
Eschelichia
coli
肺炎桿菌(クレブシエラ)
Klebsiella
pneumoniae
小型の小球桿菌。
球菌にも見える。
肺炎球菌と比較し
てもさらに小さい。
Pasteurella spp.
との鑑別は困難。
中型~大型の桿菌。
莢膜は持たない。
βラクタム薬投与で
フィラメント化する
ことがある。
中型~大型の桿菌。
莢膜を持つ。
大腸菌よりやや幅
広く、やや球形に
近く両端が鈍円。
グラム陰性桿菌
緑膿菌
Pseudomonas
aeruginosa
小型~中型の桿菌。
大腸菌よりやや小
さい。
グラム陰性に強く
染まる。
粘液膜(バイオフィ
ルム)を持つ緑膿菌。
スムース型よりも
毒性が強く除菌が
困難。
緑膿菌(ムコイド型)
Pseudomonas
aeruginosa
細菌の耐性
耐性の獲得の歴史
ABPC 感受性
ABPC 耐性
βラクタマーゼ阻害薬を配合
(SBT、CVA、TAZ)
→ ABPC/SBT 感受性
ペニシリン
感受性細菌
ペニシリン感受性ブドウ球菌
βラクタマーゼ
産生菌
ペニシリン耐性ブドウ球菌
PBP
変異株
メチシリン耐性ブドウ球菌
ABPC 耐性
ABPC/SBT 耐性
この一部がESBL
• PCGに対するMICにより耐性の程度が分けられている。
※ PISP:PCG MIC=4μg/ml、PRSP:PCG MIC≧8μg/ml(CLSI M100-S22, 2012)
• 耐性肺炎球菌株の疫学調査*
PISP PCG300-400万単位 4時間毎(1800-2400万単位/日)
PRSP PCG320万単位 4時間毎(1920万単位/日) で治療可能
PCG MIC>8μg/mlの場合 CTRX/VCM/LVFX/LZDから選択する
* Clin Infect Dis. 2009;48:1596-1600 . J Infect Chemother. 2012;18:609-20.
肺炎球菌の耐性について
肺炎球菌
米国
(2006、n=2897)
日本
(2009、n=127)
PISP 6.3%
PRSP 0.1% 0%
参考:肺炎球菌の感受性判定
• 肺炎と髄膜炎における肺炎球菌の感受性判定の違い*
※ 日本での肺炎球菌肺炎の治療は適正量であればPCG・ABPCで治療可能。
ただし、肺炎球菌性髄膜炎については、感受性検査が判明するまでは
VCM+CTRX併用投与が望ましい。
MEPMについてはin vitroで耐性と判定される株があり注意が必要。
※ CLSI M100-S19,PA2009
S I R
肺炎
PCG ≦2mcg/mL 4mcg/mL ≧8mcg/mL
CTRX ≦1mcg/mL 2mcg/mL ≧4mcg/mL
髄膜炎
PCG ≦0.06mcg/mL - ≧0.12mcg/mL
CTRX ≦0.5mcg/mL 1mcg/mL ≧2mcg/mL
インフルエンザ桿菌について
• 耐性機序・感受性により大きく4種類に分類される。
インフルエンザ桿菌の20%程度はBLNARとの報告。
BLNARは耐性機序はβラクタマーゼによらず、βラクタム阻害薬は無効。
※ 各地域・施設のAntibiogramで感受性は異なるため注意が必要。
インフルエンザ桿菌 ABPC ABPC/SBT CEZ CTM CTX・CTRX
BLNAS ○ ○ ○ ○ ○
BLPAR × ○ × ○ ○
BLNAR × × × × ○
BLPACR × × × × ○
ESBLについて
Extended Spectrum Beta-Lactamase:ESBL
基質特異性拡張型βラクタマーゼ
ペニシリン系、第1-3世代セファロスポリン、モノバクタム系を
加水分解し、クラブラン酸では阻害されないβラクタマーゼ
→ 臨床的にはCTRX・CAZ耐性の腸内細菌で疑う
治療
第一選択:カルバペネム系
感受性があればフルオロキノロン、アミノグリコシド
※ CMZ・FMOXは耐性があることがある。標準的な治療としては、
第一選択薬ではなく、重症感染症ではカルバペネム系の使用が望ましい。
※ AZT耐性株でもESBLを考慮する
ー必ず2セットー
血液培養
とりかた
• 菌血症を疑ったらとる。それ以外適応なし。
• 10cc×4本 40cc必要
• 両上肢から1セットずつがセオリー
• マスク・清潔手袋
• アルコール綿でごしごしして、イソジン消毒の後、
2分待って採取
• 嫌気好気ボトルはどっちからでもいいみたい
• 針はかえないでもいいみたい
コンタミネーション
• しやすい
• Propionibacterium spp. 100%
• Corynebacterium spp. 96%
• Bacillus spp. 92%
• CNS(S.epidermis etc) 82%
• Clostridium perfringers 77%
• しにくい
• Enterococcus spp. 16%
• Staphylococcus aureus 6%
• Streptococcus pneumoniae 以下0%
• Escherichia coli
• Klebsiella pneumoniae
• Bacteroides fragillis group
• Candida spp.
抗菌薬の各論
抗菌薬スペクトラムの概要
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi.
ABPC
PIPC
ABPC/SBT
PIPC/TAZ
CEZ
CTM
CTRX
FMOX
CAZ
CPZ/SBT
CFPM
MEPM
※ 各地域・施設のAntibiogramによって感受性は異なるため、スペクトラムはあくまでも参考とする
■表記について
:効果あり :一部にのみ効果あり GPC:グラム陽性球菌 GNR:グラム陰性桿菌
MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 MSSA:メチシリン感受性黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌 Strep.:肺炎球菌、連鎖球菌
Entero.:腸球菌(E.fecaelis) Pept.:ペプトストレプトコッカス、口腔内嫌気性菌 Bactero.f:バクテロイデス、腹腔内嫌気性菌
Kleb.P:クレブシエラ(肺炎桿菌) BLNAS-BLPAR:インフルエンザ桿菌 Seratia:セラチア、アシネトバクター、シトロバクター
ESBLs:ESBL産生腸内細菌 Pseudo:緑膿菌、Myco:マイコプラズマ、クラミドフィラ、P.Legi:レジオネラ
抗菌薬スペクトラムの概要
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi.
CPFX
LVFX
GM・AMK
CAM
AZM
MINO
VCM
ST
CLDM
MNZ
※ 各地域・施設のAntibiogramによって感受性は異なるため、スペクトラムはあくまでも参考とする
■表記について
:効果あり :一部にのみ効果あり GPC:グラム陽性球菌 GNR:グラム陰性桿菌
MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 MSSA:メチシリン感受性黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌 Strep.:肺炎球菌、連鎖球菌
Entero.:腸球菌(E.fecaelis) Pept.:ペプトストレプトコッカス、口腔内嫌気性菌 Bactero.f:バクテロイデス、腹腔内嫌気性菌
Kleb.P:クレブシエラ(肺炎桿菌) BLNAS-BLPAR:インフルエンザ桿菌 Seratia:セラチア、アシネトバクター、シトロバクター
ESBLs:ESBL産生腸内細菌 Pseudo:緑膿菌、Myco:マイコプラズマ、クラミドフィラ、P.Legi:レジオネラ
ペニシリン系抗菌薬
ペニシリン系抗菌薬
• ABPC AMPC
グラム陽性連鎖球菌が起炎菌の場合に。
• PIPC
緑膿菌感染症に対して使用する。
• ABPC/SBT AMPC/CVA
腹腔内嫌気性菌をカバーする。
肺炎に対してはCTRXの方が有効。
• PIPC/TAZ
緑膿菌および腹腔内嫌気性菌をカバーする。
ESBLも一部感受性のため起炎菌不明の場合に。
βラクタム阻害薬 +
βラクタム阻害薬 -
ABPC|Ampicillin
特徴
一般的にはPCGの代替薬として使われる。腸球菌の第1選択薬。
スペクトラムは狭域で抗菌力は高い。
伝染性単核球症に使用すると皮疹を生じるため注意。
ブドウ球菌には無効。
スペクトラム
連鎖球菌、腸球菌、肺炎球菌、髄膜炎菌、リステリア、BLNAS
口腔内嫌気性菌、一部の腸内細菌(感受性のあるE.coli、P.mirabilis)
インフルエンザ菌(β‐lactamase非産生のもの)
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
ABPC
商品名 ビクシリン
AMPC| Amoxicillin
特徴
ABPCと同等の抗菌力とスペクトラムを持つ経口ペニシリン。
咽頭炎(A群β溶連菌)、中耳炎、急性副鼻腔炎、梅毒に対して使用する。
小児領域では重要な抗菌薬。
スペクトラム
ABPCと同等
連鎖球菌、腸球菌、肺炎球菌、髄膜炎菌、リステリア、BLNAS
口腔内嫌気性菌、一部の腸内細菌(E.coli、P.mirabilis)
※ 伝染性単核球症に対して使用すると皮疹を起こすため注意。
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
AMPC
商品名 サワシリン、パセトシン
bioavailability:74-92%
PIPC|Piperacillin
特徴
広域ペニシリンでGNRへのスペクトラムが広がっている。
抗緑膿菌作用を持つ。
国内での保険適応は最大8g/日までだが、抗緑膿菌作用を目的とする
場合には16g/日以上の投与が望ましい。(MIC高い。)
保険適応量ではUTI以外は有効血中濃度を保てない。
スペクトラム
ABPCのスペクトラムに加え
モラクセラ、一部のクレブシエラ、セラチア、エンテロバクター
シトロバクター、緑膿菌
グラム陰性菌+陽性菌+口腔内の嫌気性菌ねらい
商品名 ペントシリン、ペンマリン、ピペラシリンNa
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
PIPC
ABPC/SBT|Ampicillin/Sulbactam
特徴
ABPCとβラクタマーゼ阻害薬であるSBTの合剤。
嫌気性をカバーするペニシリン系抗菌薬。頭頚部の膿瘍へ良い適応。
多剤耐性アシネトバクターの治療選択薬の1つ。
抗結核菌作用があるとの報告がある。
スペクトラム
ABPCのスペクトラムに加えて MSSA、β‐lactamase産生インフル
エンザ菌、モラクセラ、一部のクレブシエラ、BLPAR、腹腔内嫌気性
菌に有効。
商品名 ユナシンS、ユナスピン、スルバシリン
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
ABPC/SBT
AMPC/CVA| Amoxicillin/Clavulanate
特徴
ABPC/SBTとほぼ同等の経口抗菌薬。
違いとしてはSBTが腎排泄であるがCVAは肝排泄である点。
AMPCとCVAの配合比率が商品によって異なる。
ヒト・動物咬傷、治療抵抗性の中耳炎・副鼻腔炎などに。
スペクトラム
ABPC/SBTと同等。
MSSA、β‐lactamase産生インフルエンザ菌、モラクセラ、一部のクレ
ブシエラ、BLPAR、腹腔内嫌気性菌に有効。
商品名 オーグメンチン、クラバモックス
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
AMPC/CVA
bioavailability:75%
PIPC/TAZ|Piperacillin/Tazobactam
特徴
広域ペニシリンであるPIPCとβラクタム阻害薬であるTAZの合剤。
PIPC4.0gに対してTAZ0.5gの配合。
抗緑膿菌作用を持ち、腹腔内嫌気性菌もカバーする。
国内での保険適応は最大18g/日(PIPCとして16g/日)まで。
ほとんどカルバペネム。ESBLsには効かない。
スペクトラム
PIPCのスペクトラムに加え
MSSA、モラクセラ、一部のクレブシエラ、BLPAR、腹腔内嫌気性菌
商品名 ゾシン
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
PIPC/TAZ
セフェム系抗菌薬
セフェム系の世代別分類
• 世代による分類=GNRスペクトラムに基づく
第1世代 CEZ(セファゾリン) PEK
第2世代 CTM(セフォチアム) HEM
CMZ(セフメタゾール) +
FMOX(フロモキセフ) PEK
第3世代 CTRX(セフトリアキソン) HEMPEK
以上
第4世代 CFPM(セフェピム) 第1世代+第3世代+緑膿菌
※ PEK(Proteus mirabisil,E.coli,Klebsiella spp.)
HEM(Haemophilus spp,Enterobacter spp,Moraxella)
髄
液
移
行
×
○GNR
GPC
セフェム系の臨床的分類
① グラム陽性球菌に効果があるもの
CEZ
→ 軟部組織感染症、化膿性関節炎、骨髄炎、心内膜炎などに対して
② 一般的なグラム陰性桿菌に効果があるもの
CTM CCL CTRX
→ 肺炎、尿路感染症に対して
③ 嫌気性菌にも効果があるもの
CMZ FMOX
→ 腹腔内感染症、ESBL感染症に対して
④ 緑膿菌に効果があるもの
CAZ CPZ/SBT CFPM
→ 緑膿菌感染症、発熱性好中球減症に対して
CEZ| Cefazolin
特徴
黄色ブドウ球菌、連鎖球菌に活性がある。腸球菌には無効。
MSSAの第1選択薬。
蜂窩織炎、手術時感染予防への投与、軽症の尿路感染症に対して使用。
スペクトラム
MSSA、腸球菌以外の連鎖球菌、PSSP
一部の腸内細菌(E.coli、Klebsiella、P.mirabilis)
※ 嫌気性菌には無効。髄液への移行性ないため髄膜炎には無効。
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
CEZ
商品名 セファメジン、ラセナゾリン
CTM| Cefotiam
特徴
第1世代に比べてGNRへの活性が広がっている。
耐性の弱い市中肺炎・尿路感染の起炎菌に一致したスペクトラム。
MSSAなどGPCに対する抗菌力は第1世代の方が強い。
市中発生の尿路感染症では最も良い適応と考えられる。
スペクトラム
CEZのスペクトラムに加え、具体的には第3世代でなくとも効く陰性菌
PISP、モラクセラ、BLNAS、BLPAR
感受性のいい腸内細菌群、インフルエンザ菌
※ BLNAR、PRSP、嫌気性菌には無効。 髄液への移行性なし。
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
CTM
商品名 パンスポリン、パセトクール
CCL| Cefaclor
特徴
CEZとCTMの中間のスペクトラム。CEZの経口代替薬。
CEZよりGPCに対する活性が弱く、CTMよりGNRに対する活性が弱い。
創処置後の感染予防や、軽症の尿路感染症、溶連菌が同定できていな
い場面での細菌性咽頭炎に。
スペクトラム
CEZのスペクトラムに加え
PISP、モラクセラ、BLNAS、一部のBLPAR
※ 小児への使用で血清病様反応をきたすことがある。
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
CCL
商品名 ケフラール、クリレール
bioavailability:93%
CTRX| Ceftriaxione
特徴
市中肺炎・尿路感染症の起炎菌をカバーしている第1選択薬。
髄液移行性も高く、髄膜炎にも高容量で使用される。
半減期長く、1日1回投与で良いため外来治療も可能。
腹腔内嫌気性菌のカバーは弱い。SBP(特発性細菌性腹膜炎)に有効。
Klebsiella.Pに対する抗菌活性が高く、最も有効。
スペクトラム
CTMのスペクトラムに加え
PRSP、BLNAR、淋菌、エンテロバクター、シトロバクター
セラチア
商品名 ロセフィン、リアソフィン、セフィローム
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
CTRX
CMZ| Cefmetazole
特徴
多くの(7-8割)腹腔内嫌気性菌をカバーし、
腹腔内・骨盤内感染症に良い適応。
その他のグラム陰性桿菌へのスペクトラムはCTMに相当する。
ESBLにも効果があると言われている。
喀痰・皮下組織への移行性は弱いがFMOXよりは良い。
糖尿病性足疾患には良い適応とされている。
スペクトラム
CTMのスペクトラムに加えて
腹腔内嫌気性菌(一部のBacteroidesに無効)、淋菌
感受性のあるESBLs
商品名 セフメタゾン、セフメタゾールNa
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
CMZ
FMOX| Flomoxef
特徴
CMZと同様に腹腔内嫌気性菌をカバーする。
ESBLの第1選択薬。
CTMとほぼ同等のスペクトラムだが、GPCへの活性はCMZより高い。
喀痰への移行性は弱い。
スペクトラム
CTMのスペクトラムに加えて
PRSP、腹腔内嫌気性菌(一部のBacteroidesに無効)、淋菌、ESBLs
※ 副作用として凝固能低下、ジスルフィラム作用がある。
商品名 フルマリン
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
FMOX
CAZ| Ceftazidime
特徴
抗緑膿菌作用を持つ第3世代セフェム。
グラム陰性桿菌にしか活性がなく、緑膿菌感染に対して使用する。
発熱性好中球減少症に対して選択薬の1つ。ただし耐性化しやすい。
陽性菌にはほとんど効かない。
スペクトラム
ESBL、淋菌を除くほとんどのグラム陰性桿菌、
アシネトバクター、S.maltophilia
※ 腹腔内嫌気性菌には無効。髄液への移行性ないため髄膜炎には無効。
MSSA、連鎖球菌への活性は低く、使用できない。
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
CAZ
商品名 モダシン、モダケミン
CPZ/SBT| Cefoperazone/Sulbactam
特徴
第2世代と同等の抗菌活性を持つCPZと、βラクタマーゼ阻害薬である
SBTの合剤。抗緑膿菌作用を持ち、一部の腸球菌に対しても効果がある。
嫌気性菌もカバーする。髄液への移行性は悪い。
スペクトラム
CAZのスペクトラムに加え
PISP、一部の腸球菌、嫌気性菌
※ CPZは肝排泄、SBTは腎排泄。胆道閉塞、腎不全時には使用注意。
商品名 スルペラゾン、セフォセフ、ワイスタール
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
CAZ
CFPM| Cefepime
特徴
MSSA・緑膿菌に有効な広域セフェム。
グラム陰性桿菌に対してはセフェム系で最も広いスペクトラムを持つ。
一部のESBLに対して有効な場合もある。AmpC過剰産生菌に有効。
発熱性好中球減少症の第1選択薬。
スペクトラム
CEZのスペクトラムに加えて
ほぼすべてのグラム陰性桿菌
※ 腹腔内嫌気性菌には無効。髄液への移行性ないため髄膜炎には無効。
副作用に使用開始数日後に生じる非痙攣性てんかん重責がある
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
CFPM
商品名 マキシピーム、セフェピム塩酸塩
キノロン系抗菌薬
ニューキノロン系について
• ニューキノロン系の特徴
濃度依存性抗菌薬。抗結核作用あり。
臓器移行性は良好で、bioavailabilityも高いため、経口薬と静注薬で効
果はほぼ同等と考えられる。ただし副作用が多く、相互作用に注意。
GNR
肺炎球菌GNR +
GNR 肺炎球菌 嫌気性菌+ +
CPFX
シプロフロキサシン
LVFX
レボフロキサシン
MFLX PZFX
モキシフロキサシン パスフロキサシン
抗菌薬名 スペクトラム
CPFX| Ciprofloxacin
特徴
グラム陰性桿菌、緑膿菌、結核菌をカバーする。
GPCへのカバーはほとんどない。嫌気性菌にもほぼ無効。
スペクトラム
グラム陰性桿菌、緑膿菌、結核菌
マイコプラズマ、レジオネラ、クラミドフィラ、淋菌、髄膜炎菌
※MSSA、A群溶連菌への効果もあると言われている
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
CPFX
商品名 シプロキサン
LVFX| Levofloxacin
特徴
肺炎球菌への活性を持つニューキノロン系抗菌薬。
レスピラトリー・キノロンと呼ばれ重症市中肺炎の選択肢の1つ。
非定型肺炎も考慮した市中肺炎で適応となるか。
嫌気性菌に対しては無効。MSSA・腸球菌に対してもほぼ無効。
スペクトラム
CPFXのスペクトラムに加えて
肺炎球菌、連鎖球菌
商品名 クラビット
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
LVFX
注意すべき副作用・相互作用
• 副作用
吐き気、中枢神経症状(頭痛、めまい、苛立ち)
心電図上QT延長
18歳以下の小児、妊婦、授乳婦には原則使用しない。
※小児の軟骨形成障害のため
• 相互作用(併用を避けるべき薬剤)
吸収率低下 アルミニウム、マグネシウム、経口鉄剤、
H2ブロッカー、PPI
QT延長 抗不整脈薬(classⅠ、Ⅲ)
痙攣・中枢神経症状 テオフィリン、NSAIDs
凝固能亢進 ワーファリン
カルバペネム系抗菌薬
• カルバペネム系の特徴
広域抗菌薬で、カバーできない菌種が少ない。抗緑膿菌作用あり。
ESBLsの第1選択薬。
殺菌性抗菌薬で、セフェム系同様時間依存性の抗菌薬。
抗菌活性はペニシリン系に劣る。
• カルバペネム系の適性使用の指針
・緑膿菌・セラチア・アシネトバクターなどが想定される場合
・医療関連感染が想定される場合
・好中球減少時の発熱
・壊死性菌膜炎
・腹腔内感染(GPC、緑膿菌、嫌気性菌を含む混合感染)
・カルバペネム系にのみ感受性がある場合
・ノカルジアに対してST合剤と併用して
カルバペネム系について
カルバペネム無効の微生物
市中 院内
GPC 市中型MRSA(CA-MRSA)
MRSA
MRCNS
Enterococcus faecium
GNR
MDRP(多剤耐性)緑膿菌
Stenotrophomonas maltophilia
GPR Clostridium difficile
非定型
リケッチア
レジオネラ
その他 ウィルス
抗酸菌 抗酸菌
真菌(Pneumocystisなど) 真菌(Candidaなど)
原虫(マラリアなど)
MEPM| Meropenem
特徴
広域抗菌薬。グラム陰性桿菌、緑膿菌、嫌気性菌、ESBLをカバー。
腸球菌には無効。
スペクトラム
MRSA、腸球菌、レジオネラ、クラミジア、マイコプラズマ
真菌、Stenotrophomonas maltophilia
以上を除くすべての菌
※ 保険適応は3g/dayまでで世界標準量と同等。
化膿性髄膜炎に対して現在6g/dayまでの保険適応拡大が申請中。
商品名 メロペン
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
LVFX
アミノグリコシド系抗菌薬
• アミノグリコシド系の特徴
殺菌性抗菌薬で、セフェム系とは異なり濃度依存性の抗菌薬。
グラム陰性菌に対して使うことが多い。
抗緑膿菌作用を持つ。嫌気性菌には無効。
尿路感染症でβラクタム薬にアレルギーを持つ場合の代替薬の1つ。
感染性心内膜症・血流感染症に対してシナジー効果を狙って使用する。
• 参考:腸球菌症の高度耐性(HLAR)について
腸球菌症に対して、本来アミノグリコシド系は耐性。あ
βラクタム薬との併用による相乗効果があって初めて効果がある。
ゲンタマイシン MIC<512μg/mL → 併用効果があり使用可能
MIC≧512μg/mL → SM使用を検討する
アミノグリコシド系について
アミノグリコシド系の使い方
• 投与量:体重と腎機能によって量を調整する。
肥満患者 理想体重からの補正体重を用いる
るい痩患者 実測体重を用いる
※アミノグリコシド系は脂肪組織へは少量しか分布しないため。
理想体重:Ideal Body Weight(IBW)
男性:IBW(kg)=50+0.9×(身長cm-152)
女性:IBW(kg)=45.5+0.9×(身長cm-152)
補正体重:Dosing Weight(DW)
補正体重=理想体重IBW+0.4×(実測体重ー理想体重IBW)
• 投与法:MDD/ODDで行い投与間隔は推定Ccrで決定する。
MDD:Multiple Daily Dosing 1日分割法
ODD:Once Daily Dosing 1日1回分割法
MDD、ODDでも腎機能に関わらず初回は通常初期投与量を投与する。
MDDでの投与方法*
臨床状況
対象疾患
初期投与量
(mg/kg)
維持投与量
(mg/kg)
投与間隔 目標血中濃度(μg/ml)
トラフ値 ピーク値
感染性心内膜炎
GM 1 1 8時間毎 2-4 0
GNR感染症
GM 2.5 1.7 8時間毎 4-10 1-2
AMK 7.5 7.5 12時間毎
敗血症性ショック
GM 3 1.7 8時間毎 4-10 1-2
AMK - - - - -
腎機能正常(Ccr>90ml/分)におけるMDDでの投与量と投与間隔
* Gilbert DN, Leggett JE:Aminoglycoside. Mandell GL, et al(eds);
Principles and Practice of Infectious Diseases, 7th ed,
Elsevier, Churchill Livingstone, 2009
MDDでの投与量・間隔の調整*
腎機能障害 血液透析 腹膜透析
持続血液
濾過透析
>50-90 10-50 <10 HD CAPD CAVH
GM 60-90%
8-12時間毎
30-70%
12時間毎
20-30%
24-48時間毎
20-30%
1/2量を透析後に
毎回追加
3-4mg/L/日
透析液交換毎に
30-70%
12時間毎
AMK 60-90%
12時間毎
30-70%
12時間毎
20-30%
24-48時間毎
20-30%
1/2量を透析後に
毎回追加
15-20mg/L/日
透析液交換毎に
30-70%
12時間毎
* Gilbert DN, Leggett JE:Aminoglycoside. Mandell GL, et al(eds);
Principles and Practice of Infectious Diseases, 7th ed,
Elsevier, Churchill Livingstone, 2009
腎機能低下時のMDDでの投与量と投与間隔
ODDでの投与方法*
* Gilbert DN, Leggett JE:Aminoglycoside. Mandell GL, et al(eds);
Principles and Practice of Infectious Diseases, 7th ed,
Elsevier, Churchill Livingstone, 2009
Ccr
(mL/min)
投与量 投与間隔
(時間毎)GM AMK
≧80 5 (7.0) 15 24
70 4 (5.5) 12 24
60 4 (5.5) 7.5 24
50 3.5 (5.0) 7.5 24
40 2.5 (3.5) 4 24
30 2.5 (3.5) 7.5 24
20 4 (5.5) 7.5 48
10 3 (4.0) 4 48
<10 2 (4.0) 3 48
血液透析(HD) 2 (4.0) 3 48
※
括弧内は分布 容量が増
える場合の投与量
重症患者では
GM 7-9mg/kg
AMK 20-25mg/kg
を初回投与する。
目標血中濃度
トラフ値
GM :<1μg/ml
AMK:<1μg/ml
ピーク値
GM :16-24μg/ml
AMK:56-64μg/ml
参考:注意すべき副作用
① 腎毒性
通常治療開始1週間以内に出現。
近位尿細管障害を起こし、初期徴候は尿中円柱、蛋白尿、尿濃縮力低
下。血清Creは5-7日で上昇する。
非乏尿性急性腎不全で腎毒性は通常可逆性。
② 耳毒性
治療開始終了後数日から数週間で発生し耳鳴り・ふらつきといった症
状を呈す。不可逆性の聴力消失や前提障害をきたす。
③ 神経筋接合部遮断
重症筋無力症患者、非脱分極性筋弛緩薬、麻酔薬との併用で筋弛緩作
用を増強するため使用は避ける。
急速静注も呼吸筋麻痺を起こすため、30分以上かけて投与する。
GM| Gentamicin
特徴
主にグラム陰性桿菌をカバー。緑膿菌に有効。嫌気性菌には無効。
髄液移行はなし。感染性心内膜炎、血流感染症に対して併用使用する。
呼吸器系、胆道系、膿瘍への移行は弱い。
活性が高く、βラクタムより素早く抗菌作用を示す。
スペクトラム
グラム陰性桿菌、アシネトバクター、セラチア、緑膿菌など
※ 腎障害と不可逆性の聴力障害が副作用にあり、14日以上使用する場合
は、週に1回の聴力検査を行う。
商品名 ゲンタシン、エルタシン
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
LVFX
AMK| Amikacin
特徴
GMと同様の特徴を持つが、活性はGMに劣る。
ゲンタマイシン耐性の際に使用する。
抗酸菌に対しても有効。
スペクトラム
GMのスペクトラムに加えて
抗酸菌
※ 腎障害と不可逆性の聴力障害が副作用にあり、14日以上使用する場合
は、週に1回の聴力検査を行う。
商品名 ビクリン、アミカシン
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
LVFX
マクロライド系抗菌薬
マクロライド系について
• マクロライド系の特徴
比較的広域な静菌性抗菌薬。
肺炎球菌、溶血性連鎖球菌の耐性化の問題が深刻。
非定型肺炎、性行為感染症(クラミジア)に対して有効。
• マクロライド系抗菌薬
EM エリスロマイシン
CAM クラリスロマイシン
AZM アジスロマイシン
※エリスロマイシンは耐性化が深刻で下剤としての役目しかない。
※マクロライド系の中にどれか一つでも耐性があれば基本的に無効と考える(交叉耐性)
殺菌力が改善
半減期が長い
副作用が少ない
相互作用が少ない
• 薬剤相互作用
肝代謝される際に肝臓のチトクロームP450(CYP3A4)との作用があり
代謝拮抗するため併用薬剤に注意する必要がある。
• 併用禁忌/併用注意の薬剤
○濃度上昇により中毒の可能性があるもの
バルプロ酸、カルバマゼピン、ジゴキシン、テオフィリン
ワーファリン、シクロスポリン、タクロリムス、カルシウム拮抗薬
○QT延長を起こす可能性があるもの
テルフェナジン、ピモジド
マクロライド系の相互作用
CAM| Clarithromycin
特徴
溶血性連鎖球菌、肺炎球菌をカバーし、中耳炎・副鼻腔炎・肺炎に
使用されるが耐性が深刻で重症例での選択薬とはならない。
非定型肺炎、性行為感染症の治療薬。ピロリ菌の除菌にも使用される。
スペクトラム
溶血性連鎖球菌、肺炎球菌、モラキセラ、インフルエンザ桿菌、
百日咳菌、マイコプラズマ、クラミドフィラ、レジオネラ
バートネラ、ピロリ菌
※嫌気性菌・緑膿菌には無効。MACの治療薬。
商品名 クラリス、クラリシッド
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
LVFX
AZM| Azithromycin
特徴
CAMとほぼ同等のスペクトラムを持つが、抗菌活性、半減期、副作用
など改善されている。特に、インフルエンザ桿菌、モラキセラ、レジ
オネラへの活性は他のマクロライド系よりも高い。
中等症以上のCOPD急性増悪例において使用検討する。
スペクトラム
CAMのスペクトラムに加えて
サルモネラ菌、赤痢菌
※ 静注では500mg×1/dayが基本。
商品名 ジスロマック、ジスロマックSR
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
LVFX
テトラサイクリン系抗菌薬
• テトラサイクリン系の特徴
静菌性広域抗菌薬。
GPC、GNR、一部の嫌気性菌、マイコプラズマ、レジオネラ
リケッチア、マラリアなどの原虫まで幅広くカバーする。
腎機能による量調節は不要。
消化器症状・前庭症状を含め副作用が多く、妊婦・小児には禁忌。
• テトラサイクリン系が第一選択となる場合
・リケッチア感染症(ツツガムシ、日本紅斑熱、ライム病など)
・βラクタムアレルギーの代替薬
・CA-MRSA(市中獲得型MRSA)
・マラリア予防
テトラサイクリン系について
MINO| Minocycline
特徴
超広域でマイコプラズマ、レジオネラまでカバーする。
MSSA、溶血性連鎖球菌、肺炎球菌には耐性化が進んでいる。
リケッチア感染症の第一選択薬。その他人獣共通感染症や性感染症で。
スペクトラム
MRSA、緑膿菌、バクテロイデスなどを除くほとんどの菌
レジオネラ、マイコプラズマ、マラリア、コレラを含む
※ 日光過敏性、前庭症状があり注意。授乳婦・小児へは禁忌。
ほぼ同等の経口薬にDOXY(ドキシサイクリン)があり前庭症状は少ない。
商品名 ミノマイシン、ミノペン
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
LVFX
その他抗菌薬
VCM| Vancomicine
特徴
MRSAの第一選択薬で時間依存性抗菌薬。
Corynebacterium感染症や、難治性偽膜性腸炎に対しても使用する。
グラム陽性球菌に効果が高いが、ほとんどのグラム陰性菌には無効。
腎毒性・耳毒性があるためTDMが必要。
スペクトラム
グラム陽性球菌、嫌気性菌、Corynebacteriumu jeikeium
Elizabethkingia meningoseptica
※ レッドマン症候群(上半身の蕁麻疹様の発疹)に注意する。
商品名 バンコマイシン
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
LVFX
ST| Sulfamethoxazole - Trimethoprim
特徴
広域抗菌薬。サルファメソキサゾールとトリメトプリムの合剤。
前立腺、骨、髄液への移行性が良く、前立腺炎や尿路感染症に。
ペニシリンアレルギーの場合の代替薬に使用できる。
カリニ肺炎、Stenotrophomonasの第1選択薬。
スペクトラム
緑膿菌、バクテロイデスなどを除くほとんどの菌
Pneumocystis jirovecci、感受性のあるMRSA
※ 皮疹、血球減少、薬物相互作用に注意。
商品名 バクタ、バクトラミン、ダイフェン
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
LVFX
CLDM| Clindamycin
特徴
グラム陽性菌と嫌気性菌をカバーする静菌性抗菌薬。
肺炎球菌・腸球菌・Bacteroides fragilisは耐性化しつつある。
誤嚥性肺炎や膿瘍に対して使用。また壊死性筋膜炎で併用使用される。
ペニシリンアレルギーの場合の代替薬の1つ。
スペクトラム
MSSA、肺炎球菌、連鎖球菌、嫌気性菌
※ エリスロマイシン耐性の場合は使用できないこともある(D-testで判定)
投与中は偽膜性腸炎に注意する。
商品名 ダラシン、ミドシン、クリンダマイシン
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
LVFX
MNZ| Metronidazole
特徴
嫌気性菌をカバーする抗菌薬。偽膜性腸炎の第1選択薬。
アメーバ赤痢、トリコモナスにも効果があり抗原虫薬でもある。
ピロリ菌除菌の際のセカンドライン。
アルコールとワーファリンには注意が必要。妊婦への使用も注意。
スペクトラム
ほとんどの嫌気性菌(アクチノマイコシス・アクネ菌を除く)
原虫(トリコモナス、ジアルジア、アメーバ赤痢など)
※ Bacteroidesへの耐性は極めて稀。
商品名 フラジール、アスゾール
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
LVFX
FOM| Fosfomycin
特徴
緑膿菌を除く多くのグラム陰性桿菌をカバー。
腸球菌に対しても効果があり、尿路感染症治療薬として使用可能。
ESBLにも効果がありde-escalation時の経口薬の選択肢の1つ。
スペクトラム
グラム陰性桿菌、ESBL大腸菌、腸球菌など
※ 上部尿路感染症への有効性についてはまだエビデンスが乏しい。
商品名 ホスミシン、ハロスマイシン
GPC 嫌気性菌 GNR 非定型
MRSA MSSA Strep. Entero. Pepto. Bactero.f E.Coli Kleb.P BLNAS BLPAR BLNAR Seratia ESBLs Pseudo. Myco. P.Legi
LVFX
Bioavailability:100%
感染症各論
肺炎
肺炎
肺炎の起炎菌の頻度
原因微生物 基幹病院 大学病院・関連病院
肺炎球菌 23.0% 24.6%
インフルエンザ菌 7.4% 18.5%
クレブシエラ 4.3% 1.3%
モラクセラ・カタラーリス 1.8% 2.2%
黄色ブドウ球菌 2.1% 3.4%
緑膿菌 2.5% 0.4%
マイコプラズマ 4.9% 5.2%
クラミドフィラ属 5.5% 8.7%
レジオネラ 0.6% 3.9%
結核菌 1.5% ---
• 鑑別に使用する項目|成人市中肺炎診療ガイドラインより
1. 年齢60歳未満
2. 基礎疾患がない、または、軽微
3. 頑固な咳がある
4. 胸部聴診上所見が乏しい
5. 痰がない、または、迅速診断法で原因菌不明
6. WBC<10,000/ul
○上記6項目を使用した場合
4項目以上合致 → 非定型肺炎疑い 3項目以下合致 → 細菌性肺炎疑い
この場合の非定型肺炎の感度:77.9% 特異度:93.0%
○上記1~5までの5項目を使用した場合
3項目以上合致 → 非定型肺炎疑い 2項目以下合致 → 細菌性肺炎疑い
この場合の非定型肺炎の感度:83.9% 特異度:87.0%
細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別
市中肺炎の重症度評価
CURB-65
Confusion 意識障害、見当織障害
Uremia BUN>20mg/dl
Respiratory rate 呼吸数≧30回/分
Blood pressure sBP<90mmHg dBP≦60mmHg
65 over 年齢65歳以上
英国胸部疾患学会による市中肺炎の重症度分類
SCORE 方針 死亡率
0-1 外来治療 1.5%
2 入院を検討 9.2%
2 入院治療 22 %
市中肺炎の重症度評価
A-DROP
Age 男性70歳以上、女性75歳以上
Dehydration BUN>21mg/dl または 脱水あり
Respiration SpO2 ≦90% (PaO2 ≦60Torr)
Orientation 意識障害
Pressure sBP≦90mmHg
日本呼吸器学会による市中肺炎の重症度分類
SCORE 方針 死亡率
0 外来治療 1.5%
1-2 外来または入院治療 9.2%
3 入院治療 22 %
4-5 ICU入院
市中肺炎の重症度評価
rATS; the revised American Thoracic Society score
■大項目(1項目以上でICU入院)
気管内挿管および人工呼吸器装着
昇圧剤を必要とするショック状態
■小項目(3項目以上該当でICU入院)
RR≧30/min
PaO2/FiO2<250
複数の肺葉の肺炎
意識障害
BUN≧20mg/dL
WBC<4000
Plt<1000000
低体温:深部体温<36℃
補液による救命を必要とする血圧低下状態
IDSA/ATSによる市中肺炎のICU入室基準
院内肺炎の重症度評価
I-ROAD
Immunodeficiency 悪性腫瘍 または 免疫不全状態
Respiration SpO2 >90%の維持にFiO2 >35%
Orientation 意識障害
Age 男性70歳以上、女性75歳以上
Dehydration 乏尿 または 脱水
該当項目を3項目以上満たす → 重症群 (死亡率40.8%)
該当項目が2項目以下
次のどちらかを満たす → 中等症群 (死亡率24.9%)
次のどちらも満たさない → 軽症群 (死亡率12.1%)
① CRP≧20mg/dL ② 胸部X線陰影の広がりが一側肺の2/3以上
日本呼吸器学会による院内肺炎の重症度分類
肺炎治療の実際
肺炎のグループ分け
• 市中肺炎
• 肺炎球菌肺炎
• 誤嚥性肺炎
• ESBL肺炎
• 緑膿菌肺炎
• MRSA肺炎
免疫不全、抗菌薬曝露あり
免疫正常、抗菌薬曝露なし
市中肺炎
• 想定する起炎菌
肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、クレブシエラ、モラクセラ
• 治療
CTRX 2g×1/day
BLNAR、口腔内嫌気性菌も含めて想定菌をカバーしている。
CorynebacteriumなどのGPRはカバーしていない。
軽症~中等症であればCTM 1g×4/dayでも良いかもしれない。
※ 非定型肺炎を疑う場合
CAM(クラリス)400mg×2/day
MINO(ミノマイシン)100mg×2/day
AZM(ジスロマック)500mg×1/day いずれかを併用する
肺炎球菌肺炎
• 治療
ABPC 2g×4/day または
PCG 400万単位×6/day
グラム染色と尿中抗原検査を行うこと。
インフルエンザ桿菌、モラクセラを見落すと治療失敗する。
進行が速い肺炎球菌性肺炎に対しては、
抗菌活性が高いPCGやABPCによる治療が望ましい。
※ 肺炎球菌は培養で生えてこないことが多い。
肺炎球菌肺炎の喀痰培養は45-50%陰性になるとの報告も。*
* The nonvalue of sputum culture in the diagnosis of pneumococcal pneumonia.
Am Rev Respir Dis. 1971 Jun;103(6):845-8.
参考:肺炎球菌尿中抗原
• 感度80% 特異度95% (LR+16、LR-0.21)*
• 尿中抗原を積極的に調べる場合
① 肺炎球菌肺炎の可能性が高い
② 良質な喀痰が得られない
③ 既に抗菌薬投与されている
※小児では偽陽性になることがある。
※既感染の場合、数週間~数カ月排泄され、陽性になるため注意が必要。
*Current and Potential Usefulness of Pneumococcal Urinary Antigen Detection in Hospitalized
Patients With Community-Acquired Pneumonia to Guide Antimicrobial Therapy
Arch Intern Med. Published online September 27, 2010.
誤嚥性肺炎
• 想定する起炎菌
口腔内常在菌(肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、黄色ブドウ球菌など)
嫌気性菌(ペプトストレプトコッカス、フゾバクテリウム、バクテロイデスなど)
• 治療
CTRX 2g×1/day または
ABPC/SBT 1.5g×4/day
一般的にはCTRXで問題ない。ただし口腔内が極めて不潔な
場合や、嘔吐後の細菌性肺炎ではBacteroidesのカバー目的に
ABPC/SBTを使用する。
※ GNRカバー弱いがCLDM 600mg×3/dayでも多くの場合治療は可能。
ただし静菌性作用のため軽症例に対して使う。CTRXとの併用も可。
非定型肺炎
• 想定する起炎菌
マイコプラズマ、クラミドフィラ、百日咳
• 治療
AZM 2g 空腹時単回投与内服
AZM 500mg×1/day
CAM 400mg×2/day いずれか
レジオネラ症を除く非定型肺炎を全例考慮する必要はない。
市中肺炎に非定型肺炎をカバーしても死亡率に有意差はない。
AZM5日間投与で心血管系のリスクが上昇したとの報告もある。
※ マイコプラズマ:咽頭炎、耳痛、下痢、皮疹が特徴との報告あり
クラミドフィラ:咽頭炎、筋肉痛が特徴との報告あり
• 治療
LVFX 500mg×1/day または
AZM 500mg×1/day
※ レジオネラはグラム染色では良く染まらない。
確定診断は、身体所見に加えて次のいずれかを満たすこと。
①尿中抗原陽性 ②喀痰培養陽性 ③喀痰PCR陽性
レジオネラを疑う病歴
・還流型の温泉歴 ・最近、屋内の配管工事を行った
・肝不全・腎不全 ・糖尿病 ・悪性疾患 ・喫煙 ・免疫不全状態
※ 保険適応よりLVFX 500mg×1/dayとしているが、750mg×1/dayが望ましい。
レジオネラ肺炎
レジオネラ肺炎
予測因子*
・体温 > 39.4℃
・血清Na < 133mEq/L
・LDH > 255U/L
・CRP > 18.7mg/dl
・血小板数 < 17.1万
・痰がない
各1点として
0-1点 確率は3%
4点以上 確率は66%
※ エビデンスレベルは低く、
あくまでも参考とする指標とする。
臨床症状と特徴*
・下痢
・上気道症状なし
・混迷などの神経学的徴候
・体温>39℃
・比較的徐脈
・グラム染色で細菌が見えない
・横紋筋融解症
・顕微鏡的血尿、腎不全
・β-ラクタム抗菌薬無効
・アミノグリコシド系抗菌薬
・WBC上昇
・肝機能障害(正常の2-5倍程度)
・低Na血症
・低P血症
* Winthrop-University Hospital Criteriaより
参考:レジオネラ尿中抗原
• 感度83% 特異度99%*
• 尿中抗原は基本的には1型を調べている。
※ 血清1型はレジオネラ全体の半数程度で、その診断率は感度95%以上と
されている。それ以外の血清型では約78.6%、L. pneumophila以外の
菌種では13.6%と低い。
※ その他検査・・・迅速LAMP法、喀痰培養、血清抗体検査、PCR検査
* 『レジオネラ肺炎診断法に関する検討』吉岡浩明ら, 日本臨床微生物学雑誌 Vol. 22 No. 1 2012.
ESBL肺炎
• 想定する起炎菌
大腸菌、クレブシエラ、プロテウス・ミラビリスなど
• 治療
MEPM 1g×3/day または
FMOX 1g×4/day
本来は肺炎にFMOXの適応はない。(市中肺炎ガイドラインより)
ESBL肺炎を疑うのは、これまでの既往などから。
エビデンスレベルと移行性、肺がvital organであることを考慮す
ると重症例ではMEPMの使用が望ましい。
また特にクレブシエラではMEPMの使用が望ましい。
※ 治療については検討の余地あり。
緑膿菌肺炎
• 想定する起炎菌
緑膿菌
• 治療
PIPC 4g×4/day
CPFX 400mg×3/day
MEPM 1g×3/day いずれか
PIPCの保険適応は8g/日までだが、抗緑膿菌作用に乏しい。
保険適応を考えるとPIPC/SBT4.5g×4/dayとなる。
CPFXは肺炎には良い適応だがやや広域過ぎる。MRSAには無効。
※ CPZ/SBT・CAZ・AMKは肺炎球菌に効果乏しく肺炎へは使いにくい。
併用薬または感受性判明後のde-escalationの1選択肢として考える。
MRSA肺炎
• 想定する起炎菌
黄色ブドウ球菌(MRSA)
• 治療
VCM 20mg/kg×2/day
グラム陽性球菌以外には基本的に無効。
MRSA肺炎の可能性が極めて高い場合に使用。グラム染色は必須。
必ずTDMを行う必要がある。
※ RedMAN症候群(VCM投与後の発赤・掻痒症)に注意。
1gを2時間以上かけて投与すること。
ヒドロキシジン(アタラックスP)の前投与が有効との報告も。
肺炎治療フローチャート
肺炎
院内肺炎
ESBL肺炎
MRSA肺炎
緑膿菌肺炎
市中肺炎 肺炎球菌肺炎
軽症群
中等症~重症群
肺炎球菌の可能性
重症度評価
非定型肺炎の可能性
レジオネラ肺炎
誤嚥性肺炎口腔内汚染・誤嚥・嘔吐
+
+
-
+
-
ABPC
2g×4/day
ABPC/SBT
1.5g×4/day
AMPC
3T3×/day
+
AMPC/CVA
3T3×/day
CTRX
2g×1/day
レジオネラ肺炎の可能性
非定型肺炎
+
- AZM
2g単回投与
LVFX
0.75g×1/day
MEPM
1g×3/day
PIPC
4g×4/day
VCM
15mg/kg
※ あくまでも治療指針の1例であり絶対ではない。
施設・地域背景、患者背景や重症度によって治療を柔軟に変更すべきである。
グラム染色
尿中抗原
尿路感染症
尿路感染症
• 症状
実質臓器 腎臓
前立腺、精巣上体
管腔臓器 尿管、膀胱
• 尿路感染は基本的には除外診断。
→発熱+膿尿(尿WBC>10/HPF)は必ずしも尿路感染症ではない。
発熱+膿尿+他臓器に感染所見がないことが診断基準と考える。
• 治療期間の目安 ※単純性の場合
膀胱炎:3-7日間 腎盂腎炎:14日間
発熱・悪寒・背部痛
排尿時痛、頻尿、夜間尿
尿路感染症
• 単純性尿路感染症
→閉経前の女性、妊娠していない、解剖学的に異常がない
• 複雑性尿路感染症
→男性、閉塞起点の存在、瘻孔、神経因性膀胱、腎不全、妊娠
カテーテル留置、糖尿病、免疫不全など
• 想定する起炎菌
(単純性) 大腸菌、クレブシエラ、プロテウスなど
(複雑性) 上記に加え、エンテロバクター、緑膿菌、腸球菌、MRSA など
グラム陽性球菌
Chain → 腸球菌
Cluster → MRSA
単純性膀胱炎
• 治療
CCL(ケフラール) 3T3× 3-7day
ST(バクタ) 4T2× 3day
FOM(ホスミシン) 6T3× 3day
膀胱炎の治療期間は複雑性では7日間を目安とする。
薬剤により治療期間は異なる。症状に応じて治療期間検討する。
地域毎の大腸菌感受性に合わせて抗菌薬選択をする必要がある。
※ ST合剤は妊婦には禁忌。
ワーファリン、フェニトイン、ジゴキシン、ピルなどの薬剤との
相互作用があるため、処方には注意すること。
単純性腎盂腎炎
• 想定する起炎菌
大腸菌、クレブシエラ、プロテウス
• 治療
CTRX 2g×1/day
地域毎の感受性によるが軽症例ではCEZ、CTMでも治療可能。
CEZ耐性でCTM感受性の大腸菌も多い。
尿路では抗菌薬が濃縮されるため、耐性菌でも治療されてしまう
ことがある。
※ 経口抗菌薬で治療する場合
CCL 6T3×/day または LVFX(CPFX) 1C1×/dayが選択肢となる。
複雑性腎盂腎炎①
• 想定する起炎菌
大腸菌・クレブシエラ(ESBL含む)
• 治療
ESBLs FMOX 1g×4/day
クレブシエラの場合はFMOX耐性の場合があるため、重症度に
応じてMEPM 0.5g×4/dayを考慮する。
※ 閉塞起点がある場合は閉塞の解除とドレナージが必須。
その後の感染のリスクにはなるが、神経因性膀胱の患者などでは
ドレナージ目的に数日バルーンを入れても良いかもしれない。
複雑性腎盂腎炎②
• 想定する起炎菌
緑膿菌、腸球菌、MSSA、MRSA
• 治療
緑膿菌 PIPC 4g×4/day または
CPFX 400mg×3/day
腸球菌 ABPC 2g×4/day
GNRはカバー出来ないため、大腸菌やクレブシエラも考える
場合にはABPC/SBT 1.5g×4/dayを考慮する。
※ 腸球菌や黄色ブドウ球菌は稀。多くは定着菌。
免疫不全患者やブドウ球菌菌血症患者で考え、必ずグラム染色行う。
急性細菌性前立腺炎
• 想定する起炎菌
大腸菌、クレブシエラ、プロテウス、緑膿菌、腸球菌
• 治療
ST(バクタ) 4T2× 14day
LVFX(クラビット) 250mg 2T2× 14day
前立腺への移行性がよい抗菌薬を選択する。
敗血症・重症例の場合は静注での治療を検討し、腸球菌・緑膿菌の
関与がないか調べる必要がある。
腸球菌:ABPC 2g×4/day+GM 5mg/kg×1/day
緑膿菌:PIPC/TAZ 4.5g×4/day
※ 前立腺炎を腎盂腎炎と誤診されていることもあるため、男性の尿路
感染症では直腸診を行う。
尿路感染症治療フローチャート
無症候性
細菌尿
膿尿 急性前立腺炎
単純性腎盂腎炎
ESBLs
発熱
基礎疾患・閉塞起点など
腸球菌
下部尿路症状
+
-
GPCのみ
-
ST
2g×4/day
PIPC/TAZ
4.5g×4/day
CTRX
2g×1/day
or
CTM
1g×4/day
FMOX
1g×4/day
尿グラム染色・培養の既往
緑膿菌
緑膿菌の既往 PIPC
4g×4/day
ABPC
2g×4/day※ あくまでも治療指針の1例であり絶対ではない。
施設・地域背景、患者背景や重症度によって治療を柔軟に変更すべきである。
+
- +
-
膀胱炎
CCL 3T3×/day
直腸診
※男性の場合
軽症~中等症群
重症群
腎盂腎炎
経過観察
複雑性腎盂腎炎
+
抗菌薬暴露+
起炎菌不明
ESBL+緑膿菌 PIPC/TAZ
4.5g×4/day
軽症~中等症群
胆道感染症
胆管炎の診断基準*
A)全身の炎症所見
1.発熱*(悪寒戦慄を伴う場合もある)
2.炎症反応所見:WBC・CRP上昇
B)胆汁うっ滞所見
1.黄疸
2.肝胆道系酵素異常:ALP・γ-GTP・AST・ALTの上昇
C)胆管病変の画像所見
1.胆管拡張
2.胆管狭窄、胆管結石、ステントなど
疑診:Aのいずれか+BまたはCのいずれかを満たすもの
確診:A・B・Cそれぞれでいずれかを満たすもの
* 急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2013より
胆のう炎の診断基準*
A)局所の臨床兆候
1.Murphy’s sign
2.右上腹部の腫瘤触知・自発痛・圧痛
B)全身の炎症所見
1.発熱
2.WBC・CRPの上昇
C)急性胆のう炎の特徴的画像検査所見
腹部エコー・CT
→ 胆嚢腫大、胆嚢壁肥厚、嵌頓胆嚢結石、胆泥など
疑診:Aのいずれか+Bのいずれかを満たすもの
確診:A・B・Cそれぞれでいずれかを満たすもの
* 急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2013より
胆のう炎・胆管炎
• 想定する起炎菌
大腸菌、腹腔内嫌気性菌、ESBLs、緑膿菌
• 治療
大腸菌 ABPC/SBT 1.5g×4/day
嫌気性菌
ESBLs FMOX 1g×4/day
緑膿菌 PIPC/TAZ 4.5g×4/day
※ 基本的には絶食とドレナージが全て。緑膿菌は免疫不全者で考慮する。
胆道炎治療フローチャート
胆道炎
院内感染 ESBL
緑膿菌
市中感染 軽症群重症度評価
中等症~重症群
ABPC/SBT
3g×4/day
FMOX
1g×4/day
PIPC/TAZ
4.5g×4/day
※ あくまでも治療指針の1例であり絶対ではない。
施設・地域背景、患者背景や重症度によって治療を柔軟に変更すべきである。
CTRX
2g×1/day
+
CLDM
600mg×3/day
※PTGBD,ERBD検討する
免疫不全
+
-
治療経過中の再燃
AmpC
CFPM
1g×4/day
+
CLDM
600mg×3/day
皮膚・軟部組織感染症
皮膚・軟部組織感染症
• 皮膚・軟部組織感染症の分類
※ ガス壊疽菌・嫌気性菌が関わるものを壊死性皮膚軟部組織感染症とする。
膿痂疹 癤・癰 丹毒 蜂窩織炎 筋膜炎
表皮
真皮
皮下組織
筋肉
皮膚・軟部組織感染症
• 治療
蜂窩織炎
CEZ1g×4/day
AMPC 3C3× + AMPC/CVA 3C3×/day
頭頚部の蜂窩織炎はABPC/SBT1.5g×4/dayでも。
患肢挙上を指示する。
壊死性筋膜炎
MEPM 1g×3/day + CLDM 600mg×3/day
壊死性筋膜炎の可能性があると判断した場合は、すぐに
外科的なコンサルトを行い手術の準備をする。
抗菌活性の高いPCGやABPCを併用することも検討する。
• 見逃してはいけない兆候
重篤かつ持続的な疼痛
水疱形成
皮膚壊死や斑状出血
組織内ガス
紅斑の境界を越えた浮腫
皮膚の感覚脱失
急速な進行
多臓器障害(意識障害、腎不全など)
• finger test
局麻下で2cmほど、深筋膜まで切開を入れ、浅筋膜のレベルで探索する。
出血しない悪臭がして濁った浸出液がでてくる、指で組織が抵抗なくはがれる、などの
所見があれば“finger test”陽性で壊死性筋膜炎の診断とする。
ガス壊疽・壊死性筋膜炎
所見が認められた場合、
試験切開を行う。
※finger test施行する。
必ず発赤部位をマーキングし、
1時間後の発赤の拡大の有無を確認する
壊死性筋膜炎の早期予測
LRINEC score| Laboratory Risk Indicator for Necrotizing Fasciitis
CRP ≧150 mg/L 4点
WBC 15000-25000/μL 1点
>25000/μL 2点
Hb 11.0 -13.5 g/dL 1点
≦11g/dL 2点
Na <135 mEq/L 2点
Cre >1.6 mg/dL 2点
Glu >180mg/dL 1点
※ 6点以上で壊死性筋膜炎の可能性が高くなる
ただしLRINECscoreの有用性はまだエビデンスに乏しい。
細菌性髄膜炎
細菌性髄膜炎
• リスク因子
中耳炎、副鼻腔炎、頭部外傷、糖尿病、免疫抑制剤、脾摘後
• 起炎菌
肺炎球菌、インフルエンザ菌、リステリア、髄膜炎菌、緑膿菌など
• 治療
CTRX2g×2/day
+ VCM 15mg/kg×3/day
+ ABPC 2g×6/day 14日間以上
※ ABPCはリステリアのカバー目的。50歳以上では必ず使用する。
CD関連腸炎
• リスク因子
抗菌薬投与、制酸薬使用、高齢、ICU入室、免疫抑制剤、
経鼻胃管、CDI患者と同室など
※ Clostridium difficileによる感染症:Clostridium difficile infection。
抗菌薬使用後多くは5-10日後(8週間以内)に発症すると言われている。
WBC>15000、Cre>ベースラインの1.5倍であれば重症CDIと判断
• 治療
軽症~中等症 MNZ 6T3×/day
重症・複雑性 VCM散0.5g4×/day 10-14日間
※ 治療は基本的にMNZ経口が第1選択。VCM使用は重症・中毒性巨大結腸症、MNZ
再々発例で検討する。絶食時のCDIではMNZ膣錠250mg×4/日で挿肛する。
CD関連腸炎
静注薬から経口薬へのタイミング
Oral switch :COMS
• C:clinical improvement observed
臨床的に改善
• O:oral route is not compromised
経口摂取可能(嘔吐・嚥下障害なし)
• M:Markers showing a trend towards normal
解熱して24h以上 かつ
血圧不安定、呼吸数異常、脈拍異常、
白血球異常(SIRS基準を参考)がどれも無い
• S:Specific indication / deep-seated infection
経口薬の適応にならない疾患ではない
PK/PD理論
PK/PD理論とMIC
• PK:Pharmacokinetics 薬物動態:どれだけ体内に存在するか
• PD:Pharmacodynamics 薬力学:どれだけその部位で作用するか
• MIC:最小発育阻止濃度
抗菌薬の血中濃度が高いほど、細菌に対する作用は強くなる。
この作用を測る指標としてMICが用いられる。
MICが低い=その菌に対する抗菌力が高い
ただし試験管内での結果(in vitro)に過ぎないため、体内動態により
人体での実際の結果(in vivo)では異なってくることに注意が必要。
抗菌薬投与は移行性やbioavailabilityを考慮して決定する。
PK/PD理論のパラメーター
• Cmax 薬剤投与後の最高血中濃度
• AUC 血中濃度曲線下面積。体内に取り込まれた薬剤の量の指標。
• MIC 最小発育阻止濃度。抗菌力の指標。
• Time above MIC 血中濃度がMICを超えている時間(時間依存性の効果指標)
• Cmax/MIC CmaxとMICの比(濃度依存性の効果指標)
• AUC/MIC AUCとMICの比(濃度依存性の場合の持続効果指標)
PK/PD理論と抗菌薬の殺菌力
抗菌薬は殺菌力を決定する因子によって2つに分けられる。
• 時間依存性抗菌薬
MICよりも高い濃度に細菌を曝露させた時間(TimeaboveMIC)に
殺菌力が依存するもの
• 濃度依存性抗菌薬
最高血中濃度(Cmax)に殺菌力が依存するもの
※ 参考
PAE(Post-Antibiotic Effect:持続効果)について
「MIC以下の濃度になっても抗菌薬の作用が持続する作用」を指す。
言い換えると、抗菌薬曝露後に抗菌薬濃度がゼロになったとしても菌
の増殖を抑える作用のこと。一部の抗菌薬は長いPAEを持つ。
抗菌薬特性の分類
• PK/PDパラメーターによる抗菌薬特性の分類
抗菌薬の特性 PK/PDパラメーター 抗菌薬の種類
濃度依存性殺菌作用
持続効果(PAE)が長い
AUC/MIC or Cmax/MIC
キノロン系
アミノグリコシド系
時間依存性殺菌作用
持続効果(PAE)が短い
Time above MIC
ペニシリン系
セフェム系
カルバペネム系
時間依存性殺菌作用と
持続効果(PAE)が長い
AUC/MIC
クラリスロマイシン
アジスロマイシン
テトラサイクリン系
バンコマイシン
• 濃度依存性抗菌薬のPK/PDを考える場合、MPC(耐性菌出現阻止濃度)
とMSW(耐性菌選択濃度域)を考慮する必要がある。
MSWすなわちMICとMPCの間の濃度は
「通常の菌は殺菌されるが、耐性菌は生き残ってしまう濃度」であり、
この濃度での抗菌薬投与は耐性菌増加につながる。
• 濃度依存性の抗菌薬の投与法
→ 高濃度で短時間投与。MPCの値を超えるように投与量を調節する
濃度依存性抗菌薬の投与方法
時間依存性抗菌薬の投与方法
• 時間依存性の抗菌薬のPK/PDを考える場合は、「どれだけの時間、
MICの値より高い濃度で推移したか」について考える。
• MICより濃度が高くても殺菌効果は上がらないため、Cmaxではなく
Time above MICが重要で、投与量ではなく投与回数が重要視される。
• 濃度依存性の抗菌薬の投与法
→ 頻回投与。MICを超える量と半減期を考慮し投与する。
参考資料
参考資料
• 感染症レジデントマニュアル 青木 眞
• 絶対わかる抗菌薬はじめの一歩 矢野 晴美
• 抗菌薬の使い方、考え方ver3 岩田 健太郎
• StepUp式感染症診療のコツ 本郷 偉元
• がん患者の感染症診療マニュアル改訂2版 大曲 貴夫
• ICU/CCUの薬の考え方、使い方 大野博司
• 感度と特異度からひもとく感染症診療のDecision Making 細川直登
• 感染症ケースファイル 谷口智宏
• 日常診療に役立つ抗感染症薬のPK-PD 戸塚恭一
• 感染症診断に役立つグラム染色 永田邦昭
• Antibiotic Essentials 2013, 12th edition B.A.Cunha
• サンフォード感染症治療ガイド2012
• medicina vol.50 no.7 2013-7,医学書院
• 抗菌薬インターネットブック(http://www.antibiotic-books.jp/drugs)
• その他複数文献よりの引用あり

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  1. PK-PD理論について
  2. Extended Spectrum beta(β) Lactamase(ESBL:基質特異性拡張型βラクタマーゼ)産生菌
  3. 新しいデータがあれば。
  4. BLNAS:βラクタマーゼ非産生 アンピシリン感受性 BLPAR:βラクタマーゼ産生  アンピシリン耐性 BLNAR:βラクタマーゼ非産生 アンピシリン耐性 BLPACR:βラクタマーゼ産生  アモキシシリン・クラブラン酸耐性 要はβラクタマーゼを産生するかどうか、ということ、それからペニシリンに耐性があるかどうか、ということで分類しています。βラクタマーゼを産生せず、ペニシリン(アンピシリン)に感受性がある、素直な菌がBLNAS。 ペ ニシリンGを改良したアンピシリン(ABPC)が、グラム陰性桿菌であるインフルエンザ菌(や大腸菌)にも有効となったわけですが、インフルエンザ菌はβ ラクタマーゼを産生する形質を獲得する(=BLPAR/BLPACR)ことでABPCの魔の手から逃れようとしました。 それらの菌に対して人類は、βラクタマーゼ阻害薬+ペニシリンの合剤、あるいは第2世代のセフェム系薬で対応していました。 ところが次に、インフルエンザ菌はβラクタマーゼ阻害薬に頼らずにABPCに耐性を持つメカニズムを開発しました。細胞壁合成酵素そのものが変化することで耐性を獲得したのです。それがBLNARであります。 ちなみにこのBLNARの出現は、経口セフェムという、スペクトラムが広くて一見便利ではあるけれども、実際血中濃度、局所濃度が上がらない抗菌薬が頻用されたことによって加速した、といわれています。 抗菌薬に充分量(MIC以上)接触すると菌は死滅していきますが、不充分な量であれば耐性を獲得させる手助けをすることになるのです…。 BLNARの出現により、第2世代のセフェムが(すべてのインフルエンザ菌に対してではないのですが)使い物にならなくなり、特に肺炎業界の抗菌薬シェアがぐぐっ、と変わるという結果になったのです。
  5. FMOXでいいと思うけど.
  6. 40ccよりもう少し少なくていいみたいやけど。 まぁ、難しい場合が多いみたいやけど。同じところからでもOKみたい 2セットで90%は原因菌がわかる 1セットだけなのは心電図でV1〜V3だけとってるのと同じ
  7. 腸球菌感染症に対してはGMと併用
  8. ABPCに水酸基がついて吸収が良くなったものがAMPC。経口ABPC(ビクシリンカプセル)もあるが腸管吸収に劣るためAMPCの方が望ましい。
  9. ABPC/SBTと同等の経口抗菌薬SBTPC:トシル酸スルタミシリン(ユナシン)もあるが、ABPCは腸管吸収が悪いためバイオアベイラビリティーがやや低い可能性がある。下痢がほぼ必発する。 抗結核菌作用はSBTによるとの報告。
  10. ABPC/SBTとほぼ同じ。CVAは肝排泄。
  11. 一般的にはペニシリン系よりは半減期が長い(1.5hぐらいが多い) ペニシリン系よりβ‐lactamaseに分解されにくい。 世代が上がるごとに陰性菌狙いとなる(よりβ‐lactamaseに分解されにくい)
  12. 保険適応5g/日まで
  13. 保険適応4g/日まで。海外では6g/日まで使用するとのこと。一例として、亀田総合病院では2g8時間おき(Ccr>50)で使用している。
  14. CEZと同等のものはCEX(セファレキシン)。血清病様反応:Ⅲ型(免疫複合体型)アレルギー反応。症状は発熱、倦怠感、関節痛、関節炎、紅斑、膨疹、麻疹様発疹、リンパ節腫脹、腹痛、腎炎、神経炎、血管炎など。
  15. 保険適応4g/日まで。淋菌の第1選択薬でもある。CTRX1g筋注または静注(vs淋菌)+ジスロマックSR2g(vsクラミジア)で。脳外科術後髄膜炎、シャント関連髄膜炎の良い適応でもある。 CTX(セフォタキシム)はCTRXと同一のスペクトラムを有し、違いとしてはCTXは腎代謝である。CTRXについて、胆石症の副作用が報告されており、小児の場合や胆石・胆泥のある患者では使用は注意が必要。
  16. バクテロイデスに無効と言われているのは膿瘍のデブリードメントの問題も。軽症~中等症の腹腔内感染症に使用するのが良いか。
  17. MSSA,PRSPへの活性はデータが少ない。
  18. 疾患毎のセフェピムの推奨投与量(Drug Information Lexicomp. Cefepime http://www.uptodate.comより) ■脳膿瘍・脳外科術後の予防投与:2g/8h(+VCMと併用)  ■好中球減少性発熱:2g/8h  ■複雑性/重症腹腔内感染症:2g/12h(+MNZと併用)  ■院内肺炎:1-2g/8-12h  ■市中肺炎:1-2g/12h ■皮膚軟部組織感染症:2g/12h  ■尿路感染症(軽症-中等症):0.5-1g/12h  ■尿路感染症(重症):2g/12h
  19. MFLXはスペクトラムが広いが、耐性を作りにくいという特徴があり、オランダでは肺炎の推奨薬の一つとして挙げられている。保険適応は400mg/日までで、PK/PDによる効果が期待される量も400mg×1/dayである、点滴薬はない。 またMFLXは肝代謝であり腎機能による用量調整は不要。ただし尿路での濃縮に乏しいため尿路感染には使用しない。 ニューキノロン系は肺炎使用時には結核リスク評価を行う必要がある。 基本陰性菌狙い、基本嫌気性菌には効かない 緑膿菌にも効く 非定型肺炎もOK
  20. 緑膿菌に対しては400mg×3/day(内服の場合、500mg×2/day)が望ましい。保険適応は静注600mg/日まで。内服は800mg/日までと若干少ない。
  21. PK/PDから効果が期待される量は750mg×1/day。保険適応は500mg/日まで。
  22. 第4世代セフェムやPIPC/TAZとの大きな違いはESBL・AmpCも含めてカバーしている点。腹腔内嫌気性へのカバーが良好である点である。 効かない→
  23. Ccr>50:MEPM 1g×3/dayで。重症または中枢神経系感染症では2g×3/dayが望ましいが保険適応外。
  24. アミノグリコシド系の保険適応量は80-120mg/日までと適切な投与量の半分程度しかないことに注意が必要。 →添付文書通りでは有効濃度に達しない。 GM・TOBを先に使う。AMKから先に使用しない! GMに耐性ができてもAMKは有効。逆は無効。
  25. 国内での適応内容量は極端に少なく、効果は乏しい。国際的に使用されている用法・用量での使用が望ましい。 これまで歴史的にはMDDが行われてきた。現在のところODDがMDDより効果的である臨床的消化はない。 ただし、PK/PD理論からはODDの方が腎毒性、耳毒性を減少させる可能性があり、投与も簡便であるためODDの方が推奨されるようになってきている。
  26. 3回目の投与直前に採血→trough
  27. 呼吸筋麻痺がおこった場合はグルコン酸Caの投与を行う。
  28. テオフィリンでは痙攣をおこすことがある。中毒域に達する可能性は低い?
  29. 空腹時または食後2時間経ってから内服すること。バートネラはネコ引っかき病の起炎菌。カンピロバクターの選択薬の一つ。
  30. 小児ではマクロライド耐性マイコプラズマ(MRMP)が問題となってきている。マイコプラズマであれば、マクロライド使用後2.5日程度で治療効果を認めるとの報告(*Gotoら)があり、3日経過しても改善見られない場合、MRMPを疑い、LVFXの使用を検討しても良い。
  31. 市中獲得型MRSA(CA-MRSA)には効果があるとされており、MRSAが懸念される皮膚軟部組織感染症では経口投与が可能な場合にVCMなどの代替薬として使用可能。 抗けいれん薬やワーファリン、ジゴキシン、経口避妊薬、ペニシリン系抗菌薬では併用に注意する。
  32. レッドマン症候群は僕の認識ではヒスタミン放出によるもの。アレルギー反応ではない。点滴速度をゆるめるか、抗ヒスタミン剤を。
  33. ワーファリン、メトトレキサート、フェニトイン、ジゴキシンの薬物濃度上昇。SU剤での低血糖。経口避妊薬の効果を薄める。SMX:TMP=5:1の比率で配合されている。 Burkholderia cepaciaでも第一選択薬となる(15mg/kg/dayを2-3回に分割して)。PCP(カリニ肺炎)の場合は50kgで9錠、60kgで12錠程度。予防は1日1錠または2錠を週3回。 STの代謝の際にTMPが尿細管でクレアチニンの排泄を阻害するため、Creの軽度上昇が見られるが、投与中止にて速やかに改善する。経過中の高K、低Naに注意は必要。
  34. グラム陽性菌はマクロライドに耐性が誘導される。マクロライド耐性の場合にCLDMを使用する場合はDテストと呼ばれる確認検査(寒天培地にCLDM・CAMのディスクを載せて阻止炎の形成を確認する。D-test陽性=CLDM非推奨)が必要となる。 日本嫌気性菌感染症研究会の「嫌気性菌感染症の診断・治療ガイドライン」ではB.fragilisのCLDM感受性率は37.1%と報告されている、 
  35. PRSP(ペニシリン耐性肺炎球菌)の存在 → 髄膜炎の場合以外は問題視しなくてよい。高用量ペニシリンで治療可能となった。 PCG使用する際は高K血症に注意する。 
  36. 小児は上咽頭のバリアが未熟、IgAが少ない、潜在的な中耳炎といった要素から偽陽性になりやすい。
  37. 標準的には15-20mg/kg×2/day
  38. CLDMではなくMNZの方がBacteroidesへの耐性がなく嫌気性菌カバーとしては望ましいか。
  39. 発赤部位をマーキングし1時間後の広がりを確認
  40. 肺炎球菌性髄膜炎に対して、抗菌薬投与前のステロイドの投与が優位にその後の神経学的予後を改善したとの報告があるが、手順は煩雑である。 診療開始から1時間以内に血液検査、血液培養、頭部CTおよびルンバール、抗菌薬投与が推奨されているため実際の実施はかなり難しい。
  41. MNZと比較してVCMの治療成績が高いというわけではない。VCMの使用は基本的にはMNZで治療失敗した場合や再発の場合と考える。 ただし再発例に対するMNZの治療成績がVCMに必ずしも劣るわけではない。