日程：2017年3月27日 場所：統計数理研究所 発表者：中西淳

1. 日本人英語学習者による
前置詞使用の計量的分析
―学習者コーパス分析の結果を踏まえて―
神戸大学大学院国際文化学研究科
中西 淳
MAIL: atsushi.aout11@gmail.com
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2. はじめに
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3. 作文の『自然さ』
文法
仮定法,現在完了
内容語
名詞,動詞
基本語
前置詞,冠詞
基本語
文法
内容語
平易な基本語(前置詞・
冠詞など)の適切な使用
複雑な文法形式(仮定
法・現在完了など)
難しい内容語(名詞・動
詞など)の使用
指導においてあまり注目されていないが，
自然な作文を書くにあたって重要な項目で
ある。
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4. 本研究のねらい
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ライティングにおける前置詞頻度に注目し，日本人
英語学習者の作文の『自然さ』について検討する。
作文の自然さを議論するうえで，
前置詞に注目するのは妥当か？

5. 前置詞に注目すべき理由
• 機能語であるため，名詞や動詞などに比べトピックやジャンルの影
響を受けにくい。
安定性
• British National Corpus(BNC)の頻度上位20語中8語が前置詞である
ため，英語語彙の大部分を見たこととなる。
高頻度性
• 閉鎖類であるため，数に限りがあり網羅的な分析が可能である。
有限性
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6. 先行研究
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7. 日本人学習者の前置詞習得①
• 小池(2014)
• 投野(2007)
被験者 英語圏に移住した3人の幼児(5歳，7歳，10歳)
データ 2年半にわたるインタビュー形式の発話データ
手法 品詞タグを付与し，3か月ごとの品詞の使用割合を調べた。
結果 限定詞，前置詞の使用頻度増加
被験者 中学1年生～高校3年生の英語学習者
データ 論説文・叙述文(JEFLLコーパス)
手法 品詞タグを付与し，学年ごとの品詞の使用割合を調べた。
結果 限定詞，前置詞の使用頻度増加
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8. 日本人学習者の前置詞習得②
• 松下(2012)
被験者 大学生400人
データ 2つの論述文(ICNALE)
手法 母語話者や他のアジア圏学習者の前置詞使用と比較し，日本
人の前置詞使用傾向を特定
結果 [vs 母語話者]
過剰使用：for，at，by，with，through，near，around
過少使用：as，on，to，in，towards，within，like，into，
over，off，across，beyond，since，inside，of
[vs 他アジア圏の学習者]
過少使用：in
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9. リサーチデザイン
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10. 使用するデータ
ICNALEの日本人学習者(NNS)の作文800本と英語
母語話者(NS)の作文400本の前置詞の頻度を算出。
学習者を習熟度別(A1, B1-1, B1-2, B2)に分類。
自動タグ付けソフト(GoTagger)を用い，INとタグ
付けされる語の前置詞に相当する語を前置詞として
扱った。(38種)
about, above, across, against, along, among,
around, at, behind, below, beside, besides,
between, beyond, by, despite, during, except, for,
from, in, inside, into, near, of, off, on, onto,
through, throughout, till, to, toward, under, upon,
with, within, without
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11. リサーチクエスチョン(RQ)
RQ1 日本人学習者と母語話者は同様に前置詞を使用していると言え
るか？
RQ2 日本人学習者の習熟度が上昇すると母語話者に近接していると
言えるか？
RQ3 異なる習熟度の日本人学習者と母語話者を同時に見た場合，そ
れぞれどのような関係にあると言えるか？
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12. 手法
• 一元配置の分散分析
書き手属性(RQ1⇒NNS/NS，RQ2⇒習熟度レベル)が前置詞全体の総頻
度，種別数，多様性に与える影響が有意か検証する。
• 判別分析(変数増減法)
目的変数を書き手属性，説明変数を38種の個別前置詞頻度とし，変数増
減法を用いる。38種の前置詞頻度を組み合わせて，書き手属性を区別で
きるか検証する。
• コレスポンデンス分析
第1アイテムを書き手属性，第2アイテムを前置詞とする。日本人学習者
と母語話者間，日本人学習者の習熟度間の前置詞使用の差異を確認す
る。
総頻度 種別数 多様性
1作文中の38種前置詞の頻
度の合計
1作文中の38種前置詞の種
類数
種別数／総頻度(TTR)
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RQ1
RQ2
RQ3

13. 結果と考察
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14. RQ1 NNS/NS比較(前置詞全体)
2.12
1.90
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
ENG JPN
多様性
21.62
20.34
0
5
10
15
20
25
ENG JPN
総頻度
10.84
9.20
0
2
4
6
8
10
12
ENS JPN
種別数
• 一元配置の分散分析の結果，日本人学習者は母語話者に比べ，より少ない量の
前置詞を(p<.001, η2= .018)，より少ない種類で(p<.001, η2=.12)，かつ，よ
り制約的な多様性でもって(p<.001, η2= .09)使用していることが確認された。
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15. RQ1 NNS/NS比較(個別前置詞)
• 判別分析の結果，22種の前置詞が導入され，84%の精度で判別可能であった。
判別式
母語話者＝0.21[about]+1.93[across]+0.59[against]-0.20[at]+1.38[behind]-
1.06[besides]+1.41[beyond]-0.24[by]-0.15[for]-0.16[from]+0.07[in]+0.54[into]-
0.94[near]+1.45[off]+0.48[on]+4.27[onto]-0.46[through]+1.68[throughout]-
2.76[till]+0.21[to]+1.73[upon]-0.28[with]-0.13
標準判別係数に注目すれば，on, to, inなどの多義性が高いものやupon, onto,
throughoutなどの2個以上の前置詞成分が合成されて1語になった形のものなどが特
に母語話者を特徴づけることが明らかになった。
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16. RQ1 NNS/NS比較(考察)
→前置詞全体使用，個別前置詞使用どちらにおいても，日本人学習者と母語
話者には相違が存在した。
• 日本人学習者の作文中に，L1干渉による前置詞の脱落や回避が見られた。
• 母語話者は前置詞を用いて，複数の要素を一つの構文にまとめているもの
が見られた。
日本人学習者 母語話者
I am learning how hard working is. Because
I do a part time job.
By working a part time job, college
students will better understand the value
of hard work.
1. Because we will graduate the university and start working. (→graduate from)
2. You will think money’s importance. (→importance of money)
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17. RQ2 NNS習熟度別比較(前置詞全体)
• 一元配置の分散分析の結果，総頻度のみ習熟度間の平均値の差は有意であり
(p=.016,η²=.03)，種別数と多様性の平均値に差は確認されなかった。
19.94 20.18 21.26
22.92 22.12
0
5
10
15
20
25
A2 B11 B12 B2 ENS
総頻度
8.78 9.20 9.27 9.33
10.84
A2 B11 B12 B2 ENS
種別数
1.88 1.94 1.89 1.83
2.12
0
0.5
1
1.5
2
2.5
A2 B11 B12 B2 ENS
多様性
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18. RQ2 NNS習熟度別比較(個別前置詞)
• 判別分析の結果，5種の前置詞が変数として導入されたが，正判別率は37.5%と
極めて低かった。(about, for, in, throughout, to)
(考察)
→前置詞全体の総頻度のみにおいて，日本人学習者の習熟度間で相違が見られ
た。
• 日本人学習者の使うことのできる前置詞には限りがある。
• 習熟度が上昇により前置詞使用量は増加しても，自然な作文を書くことには繋
がらなかった。
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19. RQ3 習熟度間＆母語話者比較
• コレスポンデンス分析の結
果，1次元の寄与率は84%と
なり，右側にすべての習熟度
の日本人学習者，左側に母語
話者が付置された。
• 母語話者と日本人学習者は明
確に区別されており，母語話
者と日本人学習者の前置詞使
用は大きく異なることが確認
される。
母語話者 日本人学習者
寄与率 83.70%
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20. 総合考察
前置詞使用に関して・・
• 日本人学習者と母語話者の間には根本的な相違が存在する。
• 習熟度レベルの異なる日本人英語学習者間の差異は必ずしも明
確でない。
• 日本人英語学習者の習熟度が上昇しても，必ずしも自然な作文
を書けるようにはならない。
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体系的な前置詞指導の必要性
基本語に注目したライティング指導の必要性

21. Thank you!
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