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• スライドは24枚です。
• アナフィラキシーについて
• 実際の対応方法について
• アドレナリンについて
アナフィラキシー
~コード・ブルーを要請するまでにできること、
要請した後にできること~
救急科 馬渡貴之
先日、こういったニュースがありました。
こういうトラブルが実際に起こるのです。
ましてや、混乱した現場では・・・。
『アナフィラキシー』の定義
• アレルゲンなどの侵入により、複数臓器に全身性に
アレルギー症状が惹起され、生命に危機を与える過敏反応。
『アナフィラキシーショック』の定義
• アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合。
アナフィラキシーの診断
• アナフィラキシーは、『身体所見』で診断します。
即時型(Ⅰ型)アレルギーであり、
アレルゲン曝露後にマスト細胞や好塩基
球から様々なケミカルメディエーターが
放出されて、様々な症状が惹起される。
IgEが関与するアナフィラキシーもあれ
ば、関与しないものもある。
造影剤に関しては、数千件に1件の確率
でアナフィラキシーが発症すると言われ
ており、IgEが関与するもの、関与しな
いもののどちらも報告されている。
皮膚症状を伴わないアナフィラキシーは
“稀である”という認識で良い。
アナフィラキシーの重症度分類
グレード1の症状が複数あっても、
アナフィラキシーとは診断しない。
グレード2の症状が複数あったり、
グレード3の症状がある場合、
アナフィラキシーと診断する。
CT検査室や外来で、アナフィラキシー
を疑った場合、
皮膚症状を伴わないアナフィラキシーは
稀なので、
グレード2以上の皮膚症状があるかどう
かをまず見て、気づいてあげてください。
アナフィラキシー(ショック)を発見したら・・・。
アナフィラキシー(ショック)かなと思ったら・・・。
• アナフィラキシーショックの、
最大の死因は、『気道浮腫による窒息』と
『ショック(循環の破綻)』であることを認識してください。
• そうすると、おのずと、次に行うべき行動が見えてくるはずで
す。
• 日本アレルギー学会から治療ガイドラインが出ていますが、
今回はCT検査室での造影剤投与後のアナフィラキシーショック
を想定して、話を進めていきましょう。
第1段階(発見からコードブルー要請まで)
• 造影剤投与後に、投与最中に、
呼吸がさっきまでと違って変だ、呼びかけに反応が乏しいと思ったら、
⇒それはつまりアナフィラキシーなのかもしれないと思いましょう。
• 最初に行うべきことは、ALS(Advanced Life Support)ですが、
まずは服を可能な限り肌けさせて、皮膚症状があるかを確認してくだ
さい。
• 次に、呼びかけて明確な反応があるのかないのかを確認してください。
呼びかけに反応がなく、意識が悪ければ、もうそれ以上の追及は不要です。
『呼びかけても、反応が鈍い』という大雑把な捉え方で構いません。
• この時点で、通常は、隣室在中の放射線科医師を呼びに行きましょう。
第1段階(発見からコードブルー要請まで)
• 応援が到着する前後に、A,B,C,Dの確認を行ってください。
何事も、緊急で困ったときは必ずA⇒B⇒C⇒Dで診ていくと良いです。
• Air way:舌根沈下していないか、うめき声はあるか、口周りや咽喉頭が
腫れていないか。
• Breathing:呼吸はしているか、SpO2測定値はどれくらいか。
• Circulation:血圧は測れるか、脈は触れるか、湿潤冷汗があるか。
• Dysfunction of CNS :反応が鈍いか。何度も詳細に確認する必要はありません。
第2段階(コードブルー要請からアドレナリン筋注まで)
• 第1段階で皮膚症状甚大+ABCDの一つでも異常があれば、
すぐに人を呼び、
を要請するべきです。
• ここからは可能な限り役割分担、複数人体制になりましょう。
『患者の初期治療にあたるグループ』
『発症からの時間経過を記録し、救急科に情報伝令できるグループ』
『初期治療に必要な薬剤や器具を準備提供するグループ』
『患者家族に説明対応するグループ』など。
• 何よりも慌てないことが肝要です。困ったら必ずABCDに立ち返ること。
難しく考えず、感覚としては・・・・。
なんだか呼びかけたら反応が悪いし、
よく見たら皮膚真っ赤になってるし、
あれ?
なんだか呼吸状態、荒れてない?
血圧もよく測れないよ、ってか、血圧低くない?
やばいよ、コードブルーした方がいいよ!!
くらいの流れで構わないと思います。
第2段階(コードブルー要請からアドレナリン筋注まで)
• 患者の初期治療にあたるグループは、
患者の静脈に薬剤投与可能な点滴ルートが確保されているかをまず確認し
てださい。
ルート内にアレルゲンと疑われる薬剤は残っていませんか?
• 第2段階まで進んでいる時点で、ためらわずにアドレナリン0.5mgを
大腿前面外側に筋注してください。
アナフィラキシーに対するアドレナリン不使用は
死亡のリスクを高めるとされており、投与を躊躇する閾値を下げてくださ
い。
第3段階(アドレナリン筋注から救急科到着まで)1/4
• ABCの破綻を防ぐことを常に意識してください。
• Air way, Breathing
酸素投与を開始してください。酸素マスク6~10L/minで投与です。
しかし、酸素マスクを患者に付けたからといって安心しないでください。
舌根沈下していたり、呼吸が止まっていては、鼻や口から酸素投与しても
何の意味もありません。
• 呼吸が弱かったり、舌根沈下している場合は、患者の頭側に立ち、バッ
クバルブ付酸素マスクを使用して、患者の換気をアシストしてく
ださい。
それでやっと初めて、酸素が肺に行きわたります。
第3段階(アドレナリン筋注から救急科到着まで)2/4
• それと同時に、余裕があれば気管挿管の器具準備を始めてください。
• 頭の下に枕を入れて気道を確保してください。
挿管ブレードは男性4サイズ、女性3サイズを用意してください。
挿管チューブは男性8mmサイズ、女性7mmサイズを用意してくれてい
ると助かります。スタイレットも準備しておいてください。
(挿管チューブの袋は開封せず、準備のみで構いません)
• 喘息症状があると判断すれば、ハイドロコートン 500mg(+生食50ml)
急速投与を行ってください。しかしステロイド投与はあくまでも補助です。
• メインはアドレナリン筋注投与であることを忘れないでください
第3段階(アドレナリン筋注から救急科到着まで)3/4
• Circulation
血圧を測定してください。血圧が低値で測定困難な場合は、『湿潤冷汗』
や『全身の虚脱』で“血圧低下している”と判断してください。
血圧測定にこだわるあまり、他の処置がおざなりになることを避けましょ
う。
• 可能であればモニタを装着して、モニタ心電図で波形を確認しましょう。
致死性不整脈であれば除細動が優先して必要になります。
• 血圧低下がある場合は下肢を拳上させ、静脈路からソリューゲンF500ml
を急速投与してください。
第3段階(アドレナリン筋注から救急科到着まで)4/4
• ショックの改善が乏しかったり、呼吸器症状が強い場合は、5分ごとに
アドレナリン0.5㎎/回の筋注を繰り返します。ためらわないでください。
• アドレナリンの静脈投与は、心停止(もしくはそれに近い状態)であれば
静脈投与が必要ですが、それ以外では有害作用が多く、推奨されません。
• しかしながら極度の血圧低下の場合は、回避的に、アドレナリン0.1mgの
静脈投与を行うことがあります。
(アドレナリンに関してはのちほど、詳細を説明します)
第4段階(救急科到着以降)
• 救急科が到着したら、
『①どういう経緯で患者がアナフィラキシーを発症したか』
『②呼吸状態は切迫しているのか、自発呼吸はしっかりあるのか』
『③血圧はどれくらいか、不整脈はあるか』
『④薬剤は何を、いつ、どれくらい筋注もしくは静注したか』
などを教えてください。
• 特に、①はあとで聞いても良いですし、②③は救急科がその場で再度確認
すれば良いのですが、④に関しては教えてもらわないと分からない重要
なことなので、必ずメモで記録しておいてください。
第4段階(救急科到着以降)
• 気道や呼吸に問題がある場合は救急科の指示で気管挿管を行います。
• コードブルーに応じて参集した救急科薬剤師と共に、気管挿管に必要な薬
剤を準備して気管挿管を実施します。
• エレベーター確保を行い、移送が可能もしくは移送が優先されると判断す
れば早急に1階初期治療室にストレッチャー移動を行います。
• 終始状況を把握していたスタッフが、お手数ですが、一緒に付いて来て、
患者名やID、投与した薬剤を救急科看護師に必ず伝えてください。
•家族対応を忘れずに・・・。
• アドレナリンはマスト細胞や好塩基球からのケミカルメディ
エーターを抑制する最も即効性で有効な薬剤です。
•α作用で末梢血管収縮させ低血圧を改善させ、
上気道浮腫を軽減させます。
•β作用で気管支攣縮、心臓ポンプ機能を改善させます。
• そのため、アナフィラキシーに対しての第一選択薬なのです。
= =
~アドレナリンを理解する~
(アドレナリン1Aを無意識に『イットウで!!』と言っているうちは、
まだ真に理解していないことを理解せよ)
• アドレナリンは1Aが何ccで、1Aに何mgのアドレナリン成分
が入っていて、それは何パーセント溶液で、たとえば生食水
9mlに溶かすと何パーセントになるか分かりますか?
• アドレナリン製品は1アンプルが、1mlの水溶液です。
• その1mlの水溶液の中に、アドレナリンが1mgはいってます。
• ではこの製品自体は何倍希釈(何パーセント)の濃度でしょうか?
• 水溶液1mlの中に、薬剤が1mg入っているのです。
(1ml=1g=1000mg)
1mg/1ml=1mg/1g=1mg/1000mgとなります。
1000の水の中に、1の薬剤があるわけですから、1000倍希釈もしくは
0.001=0.1%の濃度だということが理解できます。
~具体的なアドレナリンの使い方~
•心停止時は、アドレナリン1A(1mg)原液を静注する。
• アナフィラキシーの時は0.5㎎を筋注するので、
1A(1ml)から液体を半量吸って、筋注する。
~具体的なアドレナリンの使い方 その2~
• アナフィラキシーショックの補助治療として
0.1mgを静注する場合は、原液1mg/1mlに生食水9mlを足して、
アドレナリン1mg/10mlにします。
• もともと原液は1000倍希釈(0.1%)なので、
アドレナリン1mg/10mlは10000倍希釈(0.01%)になります。
• 1mg/10ml=0.1mg/1mlですから、1ml静注すれば、
0.1㎎静注したことになります。
それでは、
実際のシミュレーションに移りましょう。

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