立命館大学 情報理工学部 知能情報学科
谷口忠大
Information  このスライドは「イラ
ストで学ぶ人工知能概
論」を講義で活用した
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STORY まとめ
 ホイールダック2号は地図を持って,ダンジョンに突入
した.ホイールダック2号は宝箱を見つけ,敵をかわし,
扉を見つけて次の階,次の階へと進んでいった.ときに
は道に迷うこともあった.しかし,ついにホイールダッ
ク2号は迷路を抜けてスフィンクスに対峙した.
 スフィンクスはホイールダック2号に謎かけを行った.
ホイールダック2号は自らに備え付けられた自然言語処
理能力,論理的思考力をフル回転させて,それに答えた.
 スフィンクスは驚き,岩の台座から飛び降りて,海に
落ちて死んでいった.
 ホイールダック2号の戦いは終わった.
 ホイールダック2号は沈みゆく夕日を見ながら,自ら
に優れた知能を授けてくれた開発者に感謝の気持ちを抱
くのであった.
仮定 まとめ
 さて,結局,ホイールダック2号はどれだけのこと
を仮定していたでしょうか.
 それらの仮定はどうやったら外せるでしょうか.
Contents
 15.1 ホイールダック2号の冒険:総集編
 15.2 身体の知
 15.3 記号の知
 15.4 人工知能と未来
リプレイ:探索
 ホイールダック2号は地図を持って,洞窟に突入し
た.
 まずは,とにかくアイテムの入った宝箱を見つけな
ければならない.ホイールダック2号は解探索の手
法を用いて,迷路の1階をくまなく探した.アイテ
ムを見つけたホイールダック2号は最短経路探索を
用いてゴールに向かった.
 途中,敵と遭遇することもあったがミニマックス戦
略を用いて自らの被害は最小に留めた.
リプレイ:多段決定
 2階は時間的に変化する通路があり,また,時間と
ともにダメージを受ける環境だった.何よりも急い
で宝箱を探してゴールする必要がある.ホイール
ダック2号は動的計画法を用いてゴールまでを駆け
抜けた.
 3階には地図が無かった.試行錯誤しか無い.何度も
失敗したが,強化学習により,徐々にゴールに近づ
けるようになり,3階もクリアすることができた.
リプレイ:位置推定
 何かの拍子に,自分の位置がわからなくなってしま
うと,いくら地図があったからといって,どうしよ
うもない.
 ホイールダック2 号は過去に見てきた周囲の情報と
自らの行動履歴の情報をベイズフィルタにより統合
することにより,自らの地図上の位置を推定するこ
とができた.
 実際には粒子フィルタとして実装された.
リプレイ:学習と認識
 この間,宝箱やゴールの認識にはクラスタリングに
もとづいて得られた概念が用いられた.また,宝箱
の中には微妙に形が違う「罠」の入った宝箱もあっ
たが,これはパターン認識技術を用いて判別した.
リプレイ:言語と論理
 この調子でホイールダック2号は階をすすめ,つい
に,スフィンクスに対峙することになった.
 スフィンクスが人間の言葉で何かを言っている.ホ
イールダック2号は,その言葉を自然文に書き換え
た.そして,形態素解析で単語に区切り,構文解析
で係り受け構造を分析し,述語論理式に変換した.
その上で,導出原理を用いることで,スフィンクス
の問いに答えることができた.
リプレイ:ラストバトル
 スフィンクスは驚き,岩の台座から飛び降りて,海
に落ちて死んだ.
 ホイールダック2号は見事自らの知能で,スフィン
クスに打ち勝ったのである.
 おめでとうホイールダック2号!
15.1.2 「仮定」と人工知能の開発
 さて,結局,ホイールダック2号はどれだけのこと
を仮定していたでしょうか?
 それらの仮定はどうやったら外せるでしょうか?
 ex. 地図の存在->SLAM, 辞書の存在->教師なし言語獲
得, 離散的状態空間の存在 -> 連続空間への拡張,記
号化
「何かを仮定して,何かを作る.」
これこそ工学の本質.
そして,仮定を外していく度に,
知能に近づいていける.
SLAM = Simultaneous Localization and Mapping (地図と自己位置の同時推定)
Contents
 15.1 ホイールダック2号の冒険:総集編
 15.2 身体の知
 15.3 記号の知
 15.4 人工知能と未来
1960-70年代のGOFAI研究への批判
 GOFAI
 Good Old Fashioned AI (古き良き時代のAI)
 述語論理,意味ネットワーク,プロダクションシス
テム,エキスパートシステム,and so on.
 現実世界に繋がっていない「記号システム」の中で
の情報処理を主な問題としていた.
頭でっかちなAI
※知能における身体の意義を軽視してきた.
15.2.1 物理記号システム仮説
とプロダクションシステム
 プロダクションシステム
 手続き的知識の表現法
 外界を記号表現し,if-thenルールを適用していくこと
で,問題解決を図る.
実世界で機敏に動けなかった.
ロドニー・ブルックスのNewAI
 1986年の論文を皮切りとして、彼のロボッ
ト工学関連の業績は学界に多大な影響を与
え、人工知能の研究の方向性にも影響を与
えた。
 彼は、ゴットロープ・フレーゲに端を発す
るアラン・チューリング以来の記号処理ア
プローチによる知的機械の実現には強く反
対の立場をとっている。
 代わりにブルックスは生物学に発想を求め
たロボット的アーキテクチャ(サブサンプ
ション・アーキテクチャ)を提唱した。 ブルックスの知能ロボッ
ト論―なぜMITのロボット
は前進し続けるのか?
現実は動的であり
不確実であり多様である.
 表象主義のアプローチで作ら
れたロボットは,現実では上
手く動かなかった.
扉,ブロック,壁・・・・
production rule -> 前進
その結果,扉までの距離が変化
扉,ブロック,壁・・・・人・・・
・・・あれ?
完全に世界を記述する.できるという視点が不完全.
遅い
サブサンプションアーキテクチャ
サブサンプションアーキテクチャ
 能力レベル(例)
 レベル0:障害物回避
 レベル1:徘徊
 レベル2:探索(物体収
集)
 2つのポイント
 能力レベルは制御アーキテ
クチャのレイヤーとして実
装されるため,レイヤーを
漸増的に追加することが可
能.
 各レベルにセンサ入力と
セン
サ
モー
タ
レベル
0
レベル
1
レベル
2
Ghenghis robot, Brooks 1989
Click and watch video!
http://www.youtube.com/watch?v=K2xUHYFcYKI
• 六脚ロボット
• 不整地を歩行
• 人間の後をついてく
る
• 八つのレイヤー
• 57個の有限状態機械
• SAを一躍有名に
ロドニー・ブルックス
MIT AIラボ所長に就任.1990年 iRobot 社を設立,
実世界で役立つロボットの研究開発を進める.
2002年にルンバをリリース.
演習15-1 人間を他の動物と分かつもの
 以下の内,人間と他の動物種を区別するものと
して,最も「適当でない」とものはどれか?
1. 言語を操る能力
2. お金を扱う能力
3. 宗教を持つ能力
4. 二足歩行する能力
受動歩行機械
 受動歩行機械
 適切な身体さえもてば,
機械は歩行を行うこと
ができる.
 CPUもモータも必要な
い.
 VIDEO
 https://www.youtube.c
om/watch?v=m14J1_pP
yEs
人工生命
 進化の計算モデル
 人工生命の研究では遺伝的アルゴリズム,遺伝的プロ
グラミングをはじめとする進化をモデル化する手法が
考案され,生物的な振る舞いを創発的に生みだしうる
ことを示した.
 カール・シムズの仮想生命
 Karl Sims - Evolved Virtual Creatures, Evolution
Simulation, 1994
 https://www.youtube.com/watch?v=JBgG_VSP7f8
 仮想生命は環境との相互作用を通して,徐々に環境に
適した身体と行動方策を獲得していった.
行動や機能とは何か?
 人間の行動はすべて「計画」されているのか?
 我々の知能の発現はすべて脳内で決定されているこ
となのか?
脳
環境身体
行動や機能は脳・身体・環境の
相互作用により創発されるものである.
脳内の情報処理だけでは
人間の知的な行動は
説明できない!!
演習15-2
 脳,身体,環境の相互作用からの行動・機能の創発
の事例として最も不適切なものを選べ.
① プロダクションシステムにおける問題解決
② 人間が物体を把持する動作
③ 二足歩行動作
④ 強化学習を用いた起き上がり挙動の学習
Contents
 15.1 ホイールダック2号の冒険:総集編
 15.2 身体の知
 15.3 記号の知
 15.4 人工知能と未来
15.3.1 身体と記号との間
 人間と言語的コミュニケーションを実現する知能を
つくり出すことが可能なのだろうか.
 GOFAIのアプローチ
 行動主義ロボティクスのアプローチ
 人工生命のアプローチ
 etc. etc. いずれも厳しい.
この二つを如何につなげるか? 連続的
環境情報
記号的思考
連続的計算と運動制御
離散的的計算と記号的思考
知識の表現形式
 単語の意味の表現形式
 前節までの自然言語処理での解析は主に文の構造,文
法に関するものであり,単語の意味に触れるものでは
ない.
 それぞれの単語が何の意味を持つものなのか,これを
理解するために,私達は辞書を使うが,それに相当す
るものとして意味ネットワークなどの手法がある.
 知識のタイプ
 手続き的知識 (procedural knowledge)
 「もし~であれば,~である」というように問題解決の手
続きを記述した知識. Howに対応.
 プロダクションシステムなどで表現
 宣言的知識 (declarative knowledge)
 「・・・である」というように,ある事象を宣言的に記述
した知識.Whatに対応.
15.3.2 意味ネットワークとフレーム理論
 意味ネットワーク(semantic network)
 知識を概念(concept)とそれらを結ぶ関係(relation)
で記述することによって表現する.
 概念はその性質を示す属性情報を持ち,属性は具体
的な値をとることにより,概念が実体(instance)とし
て存在する.
階層構造(hierarchy)
 概念の階層構造を表現するために,以下のような関
係が用いられる.
 is_a: 上位-下位の関係を表現
 上位概念の持つ性質は基本的には下位概念にも受け継がれ
るという性質の継承を持つ.
 ex) 「動物」は「鳥」の上位概念
 has_a: 部分-全体の関係を表現
 概念を構成する要素とその概念との関係を示す.性質の継
承は存在しない.
 ex) 「手」は「人」の部分である.
意味ネットワークにおける継承
 田中は二足歩行する.
 手は透明・・・・ではない.
人間
サラリーマ
ン
田中 山本
経営者
手 指
島本
has-a has-a
is-a is-a
is-a is-a is-a
二足歩行
do
爪
has-a
color
透明
意味ネットワークの特徴
 利点
 有向グラフによるネットワーク表示により視覚的に知識を
表現することができるため,人が直感的に理解しやすい.
 知識の追加・変更が比較的容易である.
 概念の階層関係を定義することにより,概念が持つ属性の
継承を階層関係において実現することができ,複雑な知識
の構造化を実現できる.
 欠点
 推論規則を対象領域ごとに用意する必要がある.
 知識の量が多くなると管理が難しくなる.
 概念や関係の定義が任意であり,知識表現としての統一性
が保証されない.
フレーム表現やオントロジーなどが開発されたが根本的にはよく似て
いる
演習15-3 意味ネットワーク
 以下の知識を意味ネットワークで表現せよ.
 関係としてはis_a関係,has_a関係,do関係を用いよ.
 「鳥は飛ぶ」
 「鳥は動物である」
 「カモメは鳥である」
 「ニワトリは鳥である」
 「人間は動物である」
 「人間は足を持つ」
 「山田は人間である」
 「人間は歩く」
15.3.3 記号接地問題と「認知的な閉じ」
 記号接地問題
 記号システム内のシンボルがどのようにして実世界の
意味と結びつけられるかという問題.ハルナド
(Harnad)によって1990年の論文で命名された。
ペンギン・・・??
言葉の意味とは何か?
グラフ構造を持った意味ネットワーク,辞書の例で・・
自由
束縛
意志
社会秩序
心
積極的
精神作用
辞書に存在しない言葉 辞書に存在する言葉
石
砂
岩
未定義語に基づく定義
無限ループに基づく定義
言葉の意味は感覚的に理解するしかない???
国語辞典の罠!!
「岩波国語辞典」の例
• 石 <土や木より固く,水に沈み,
砂より大きく,岩より小さいかた
まり.>
• 砂 <非常に粒の細かい石>
• 岩 <大きな石>
鈴木孝夫「ことばと文化」よ35
15.3.4 マルチモーダルカテゴリゼーション
 視覚・聴覚・触覚情報を用いた物体のカテゴリ
ゼーションが提案されている.
 確率モデルLatent Dirichlet Allocation (LDA)の拡張
 教師なしでカテゴリ分類し物体概念を形成
 マルチモーダル情報を分類する事で人の感覚に即した
物体概念が形成可能
 ぬいぐるみ、マラカス、ボール、etc…
物体カテゴリ
長井隆行, 中村友昭:マルチモーダルカテゴリゼーション —経験を通して概念を形成し言葉の意味を理解
するロボットの実現に向けて,人工知能学会誌,27(2012)555-562.
ロボットによるカテゴリ形成実験[Nakamura ‘11]
 マルチモーダル情報は
全てロボットにより取得
見
る
握
る
振
る
• 視覚情報 PCA SIFT (36次元) 500次元のHG
• 聴覚情報 MFCC (13次元) 50次元のHG
• 触覚情報 センサー値の変化情報(2次元) 15次元HG
Tomoaki Nakamura, Takayuki Nagai, and Naoto Iwahashi, "Multimodal Categorization by
Hierarchical Dirichlet Process", IROS2011, pp.1520-1525
実験結果
ぬいぐるみ 野菜のおもちゃ
鈴入り人形 マラカス スポンジボール ガラガラ
カップ 積み木 ペットボトル ゴム製人形
マルチモーダルな情報の統合によって
多くの被験者と同様なカテゴリ分類を自動的に形成した.
ロボットが「感覚的」に物体概念を獲得した?
15.3.5 記号創発システム
-記号系を創発的にとらえる理解-
 ロボットから見た世界
 生物から見た世界 (ユクスキュル)
 それぞれの動物が知覚し作用する世界
の総体がその動物にとっての環世界で
ある.
 センサ・モータ系で閉じた身体から得ら
れる情報の中で如何に,記号系が組織化
されていくのか.
 自らの環世界に立脚して,多様な行動や
概念を獲得し,それに基づいて記号論的
相互作用(コミュニケーション)を行なう
知能を探求する必要があるのではない
か?
出典;エルンスト・マッハ『感覚
の分析』
ハエの環世界
「生物から見た世界」
ユクスキュル
記号創発システム
記号創発ロボティクス
人工知能学会誌 特集号 2012/11 「記号創発ロボティクス」 の扉絵
Contents
 15.1 ホイールダック2号の冒険:総集編
 15.2 身体の知
 15.3 記号の知
 15.4 人工知能と未来
人工知能・ロボット研究者の
二つの立場
工学重視 人間理解重視
・ とにかく憧れのロボットを作りたい.
・ 便利な機械を作りたい.
・ 人工知能は使えてナンボ!
・ 人間の知能を理解したい.
・ ロボットを作るのはその検討のた
・ 人間や動物を模倣できてナンボ!
構成論的アプローチしばしば同じで,しばしば違う
発達する知能
環境に適応し多様な概念や行動を獲得する知能
 人間は生まれた時,未分
化な認識世界の中で活動
を始める.
 環境適応の中で様々な概
念や行動を獲得していく.
 そして言語を用いたコ
ミュニケーションをも可
能にする.
 その構造,計算論的プロ
セスを知りたい.
発達知能への構成論的アプローチ
 人間知能のプロセスを理解したい.
 計算論的に理解する=>構成する.
 知能を作ることによって理解する.
 ロボット,数理モデル,シミュレーション etc.etc.
数理モデルで
理解する
(モデル化)
数理モデルで
描き出す
(構成)
構成論的アプローチとは?
 実際の車を分解してみる?
 ミニチュアモデル
ラジコンでも作ってみる?
「知能」の仕組みを
理解したい
「クルマ」の仕組みを
理解したい
• 実際の人間で実験してみる?
• 同じ事できるロボットでも
作ってみる?
人工知能研究は「便利なものを作る」ためだけのもの
じゃない
15.4.2 自律的な知能と道具としての知能
自律的な知能 道具としての知能
 自律的な存在としての知的
さ
 「2歳児スゴイ!」
 「人間はこういうふうに知
識獲得しているはずだ!」
 利用価値のある知的さ
 「便利!」
 「これは製品化できる!」
演習15-4 構成論的アプローチ
 構成論的アプローチの説明として最も不適切なもの
を選べ.
① 人間の知能を知るためにロボットをつくる.
② 人間の行う行動の一つを可能にするプログラムを作
成すること.
③ 構成することにのみ関心を持つ.人間の知能との関
係性を考えることは研究の態度を不純にするために,
望まれない.
④ 人工知能の研究のみでとられるアプローチではなく,
広く他の領域でも扱われることがある.
15.4.3 これから
 学ぶ上で
 境界を一切気にせずに境界を超えて学びを進めること
こそ,人工知能に関する学びの本質である.
 21世紀:不確実性,言語を操る情報技術の進展
 現実の知能が扱う程度に複雑な大量データ (Big
Data ??)
 WEB, クラウド,安価なセンサ,広大なメモリ空間,計算資
源
 確率的情報処理の進化:
 ベイズ理論(グラフィカルモデル,ノンパラメトリックベ
イズ理論),マルコフ連鎖モンテカルロ法,など
 安価で統合的なオープンソース知能情報処理環境の充
実
まとめ
 人工知能の学習および研究における「仮定」の重要性につ
いて学んだ.
 プロダクションシステムの概要について学んだ.
 サブサンプションアーキテクチャと受動歩行機械,人工生
命における身体の進化について紹介し,知能における身体
の重要性について学んだ.
 意味ネットワークによる記号の意味定義の方法について学
んだ.
 「自律的な知能」の実現と「道具としての知能」の実現と
いう人工知能研究における二つの方向性について理解した.
おつかれさまでした.
“When will they come???
It depends on all of you!!!!”
「彼らは何時やってくるのだろう?
それは,人工知能を学んだ
君たち次第だ」
谷口忠大「記号創発ロボティクス」
(講談社メチエ)2014

人工知能概論 15