2017年8月26日 JSPS科研費シンポジウム 日本語教師の専門性を考える 北海道秩父別町交流会館 自身が携わった日本語教育実践をとおして、私が日本語教師の役割をどのように考えてきたかを振り返る。振り返りをもとに、現時点で私が考える日本語教師の役割を提示する。

1. 大学における対話の場づくりと
日本語教師の役割
―私は教育実践をとおして日本語教師の役割をどのように考えてきたか―
古屋憲章
（早稲田大学大学院日本語教育研究科博士後期課程）
2017年8月26日
JSPS科研費シンポジウム 日本語教師の専門性を考える
北海道秩父別町交流会館

2. 対話とは
• 舘岡（2012）
バフチンは、人はそれぞれ自らの視点から世界を見ており、他者
のそれとは一致しないことを「視覚の余剰」と呼んでいる。（中
略）したがって、それぞれが独自の視野をもっているかぎり、それ
ぞれのことばの理解も完全なる一致に至ることはありえないことに
なる。したがって、自己の理解と他者の理解とのズレは永遠に続
き、このような闘争のプロセスこそが対話であるとする。つまり、バ
フチンにおいて「理解」とは、あることばに対して与えられている
（辞書などにあるような）特定の意味に至ることではなく、他者
と互いに妥当な意味を模索する対話を行うこと、つまり、たえず
交渉され、専有されていくものである。（p.59）

3. 教育実践１
「考えるための日本語」（総合活動型日本語教育）
表現する
（ 書 く ）
話し合う
（「レポート検討」）
考える
「自分の興味・関心」を題材に、
下記のサイクルを繰り返すことによって、
「自分にしか書けないレポート」を作成する。
古屋（2004）

4. 教育実践１
「考えるための日本語」（総合活動型日本語教育）
における教師の役割
• 古屋（2004）
①日本語学習者が(コミュニティー内共通言語としての）日本語
によって相互に「私」について表現する活動を繰り返すことができる
協働的コミュニティーを設計し、運営すること、②コミュニティー内に
おいて、学習者が「私」について表現する活動をサポートすること
（p.140）
教師が論理的に問い詰めていくことによって、学習者が持つ一般
論 を剥ぎ取ったり、学習者が思いもよらぬ方向から疑問を投げか
けることによって一般論からの視点を変えること（p.145）

5. 教育実践２
「イベント企画プロジェクト」
• 古屋・古賀・三代（2012）
「イベント企画プロジェクト」は、クラス内、あるいは学内だけではなく、広く
外部に開かれたオープンなイベントをクラスのメンバーである学習者が全て
自分たちで企画・開催するという実践である。「イベント企画プロジェクト」
の目的は、次の二点である。
（1）自分たちが大学生活を送る中で感じている問題をクラスのメンバーで
共有し、共有された問題を解決するための話し合いの場として、イベ
ントを企画する。
（2）クラスのメンバーと協働でイベントを企画・開催する経験を通し、学び
を形成する。（p.86）

6. 教育実践２
「イベント企画プロジェクト」における教師の役割
• 古屋・古賀・三代（2012）
私たちの「イベント企画プロジェクト」における教師観は、環境整
備、注意・確認・アドバイス、クラス活動の方向づけ、軌道修正、
問題解消を行う役割を担う存在から、クラス活動の見守り役に
徹しつつ、状況に応じて注意・確認・アドバイスを行う役割を担
う存在、かつ「イベント企画プロジェクト」の教室というコミュニティ
を他の様々なコミュニティとつなげ、拡張を促す存在へと変容した。
（pp.102-103）

7. 教育実践３
「わせだ日本語サポート」（留学生支援システム）
日本語科目
学生読書室
日本語教育研究センター
キャリアセンター
国際教養学部
留学センター
ライティング
センター
事務スタッフ
日本語教師
わせだ日本語サポート
早稲田大学
教務担当者
大学院
日本語教育研究科
院生スタッフ
・日本語学習アドバイジング
・日本語学習リソースに関する情報提供
・日本語学習相談千・孫・伝城・馮・古屋（2014）

8. 教育実践３
「わせだ日本語サポート」（留学生支援システム）
における教師の役割
受容的な態度
問題点を
掘り下げる
問い直しを促す
働きかけ
問題意識
を探る
振り返りを促す
リソースを
紹介する
姿
勢
問題意識の
明確化を促す
アドバイザー
千・孫・伝城・馮・古屋（2014）

9. 教育実践３
「わせだ日本語サポート」（留学生支援システム）
における教師の役割
日本語学習環境整備への参与
教室における日本語の授業
アクションリサーチ
ノットワーキング
オーガナイズ
メディエーター
古屋（2015）

10. 対話の場づくりにおける日本語教師の役割
ファシリテーター
（うながす）
対話の場づくり
プロデューサー
（つくる）
メディエーター
（つなぐ）
対話者
（問いかける）
※本図の作成にあたり、
山西（2009）を参照した。

11. 参考文献
千花子・孫雪嬌・伝城里美・馮士懿・古屋憲章（2014）「学習者の自律的な日本語学習
を実現するための支援―「わせだ日本語サポート」利用者へのインタビューから考える―」
『WEB版日本語教育 実践研究フォーラム報告』
舘岡洋子（2012）「テキストを媒介とした学習コミュニティの生成―二重の対話の場としての
教室―」『早稲田日本語教育実践研究』刊行記念号，57-70
古屋憲章（2004）「協働的コミュニティーの設計，運営者としての日本語教師―私にとって
総合活動型日本語教育とは何か―」『早稲田大学日本語教育実践研究』1，139-
145．
古屋憲章（2015）「日本語教師は教室外日本語学習環境整備にどのように携わったか―
メディエーターとしての日本語教師―」『The 22th Princeton Japanese Pedagogy
Forum PROCEEDINGS』，28-38．
古屋憲章，古賀和恵，三代純平（2012）．クラス担当者の実践観，教室観，教師観
はどのように変容したか――5学期にわたる「イベント企画プロジェクト」のリフレクションから
『早稲田日本語教育実践研究』発刊記念号，85-105．
山西優二（2009）「開発教育の教師・指導者とは―ファシリテーターを深め、ファシリテーター
を越える―」『開発教育』56，10-23．