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国際文化学部国際コミュニケーション学科
     2011 年度卒業研究




  TPP 協定について



     指導教員           川崎一彦

      2012 年 1 月 20 日

     8awk1116       前川昂也




                1
2
要旨

 TPPとは環太平洋戦略的経済連携協定、通称「環太平洋パートナーシップ
協定」である。2010年11月13日横浜で行われたAPEC(アジア太平洋
経済協力)で菅直人首相は「日本は再び国を開く時がきた」という発言をしまし
た。メディアを通してこの「平成の開国」という言葉は広まり、
                            「TPP=平成
の開国」という誤った認識が日本に広がる結果となりました。マス・メディア
ではTPPに関して「開国」か「鎖国」などという図式で報道されています。
しかし、実際はそんな「白か黒か」のような簡単な問題ではありません。
 しかし今更ですがTPPについてほとんど知らない人も多いようです。それ
もそのはずで、TPPに関してのニュースをメディアが取り上げるようになっ
たのはここ半年前ほどなのです。日本にとって非常に重要な問題であるにも拘
わらず、国民はTPPがどういったものなのかも詳しく知らされてはいません
でした。今では、日本がTPPに参加することはほとんど決定しています。こ
の論文ではTPPに参加した場合、どのような変化が起こるのか尐し触れてい
ます。まず、TPPとは何なのか、そしてTPPと類似している貿易協定「E
PA」「FTA」、について説明しています。そして日本の現状、世界の現状に
ついて述べます。「平成の開国」と言われていますがそもそも鎖国をしているの
か、TPP交渉参加国がどのような協定を結んでいるのか、関税は世界に比べ
て高いのかも検証します。3章では、内閣官房が作ったTPPに関しての資料
を検討して、TPPに関する意義とメリットを考察しています。政府が考えて
いるTPP参加への意義とはどのようなものなのか、資料に書かれている意義、
メリットは本当に実現できるのか、等についてです。「交渉について」では貿易
協定を結ぶ上で非常に重要になってくる「交渉」について書いています。政府
は交渉を有利に進めたいと考えているが、日本は本当に有利に交渉ができるの
でしょうか。
 そしてこのTPPで日本はアジアを取り込み、そして主導して経済成長を遂
げたいと考えています。しかし本当にアジアと取り込むことが可能なのか、そ
もそも取り込めるアジアは存在するのか、TPP交渉参加国に日本を加えたG
DPシェアのグラフ、各国での外需依存度などを使って考えています。
 リーマン・ショック以降の世界経済とTPPによる自由貿易は無関係な話で
はありません。アメリカの戦略、世界の経済バランス、様々な視点からTPP
協定について書きました。TPP協定を尐しでも理解してもらえればと思いま
す。

                 3
~目次~

はじめに                        4P

1) TPP を含む貿易について       5P

2)世界の TPPEPA の現状       7P
・日本の現状

3)TPP 参加の意義            9P
・国を開くメッセージ効果
・日本は不利になる

4)交渉について               12P
・利害の不一致

5)アジアの成長を取り込めるか        14P
・GDPシェア

6)アメリカの戦略              17P
・ドル安と TPP

7)世界経済でみた TPP          19P

8)グローバル・インバランス         23P

9)まとめ                  25P

10)   最後に              27P


                   4
はじめに


    私が TPP について知ったのは、2011 年 8 月、9 月頃でした。
ニュースでチラッと見かけたのが最初のきっかけです。それからパソコンをし
ている時にしばしば見かけるようになり、興味を持ちはじめ自分で調べること
になりました。当時今までのゼミの研究課題の「環境問題」について卒業研究
をしようと思っていましたが、タイムリーな話題で、なおかつ日本の近い将来
の重要な協定になるとのことなので TPP に関して卒業研究をすることにしまし
                   た。
初めてメディアで見かけた時は、農業関係者は反対している、というくらいし
か知らなく、TPP の交渉に参加するか否かで世論は沸騰していました。しかし、
今や日本はほぼ参加することが決定しているようなもので、なおかつ交渉も有
           利に進められない状況に陥っています。
そもそも、TPP とは何なのか、TPP によってどのようなことが起きるのか。ア
メリカが TPP 参加交渉に加わったことで大きく変化した TPP に日本が入るこ
とでどうなるのか、この研究で自分なりに調べて理解できたことをまとめみま
                   した。
私も興味を持って調べなければ、TPP がどういったものかも理解せずにいまし
た。しかし、実質アメリカと日本の二国間協定とまで言われているこの自由協
定は日本人にとって非常に重要なものです。一人の日本人として、尐しは理解
            しておいた方がいいと感じました。




                     5
1)TPPを含む貿易について


~まず TPP とは~
TPP とは「環太平洋パートナーシップ協定」、Trans Pacific Partnership
の略です。 非常に簡単に言うと参加国間の関税とそれ以外の障壁を取り除
こう!という自由貿易協定です。参加国は、最初の加盟国である、チリ、
ニュージーランド、シンガポール、ブルネイの4カ国、そしてアメリカ、
オーストラリア、ベトナム、マレーシア、ペルーである。まず TPP とは
何なのか、を説明したいが、TPP だけの説明をするよりそれに類似した
貿易のルールも知っておくと、TPP を理解しやすいと思う。むしろこの
類似した貿易のルールを尐しも知らないで、TPP を議論するのは間違っ
ていると思う。まずは「WTO」「FTA」「EPA」などの説明をしたい。
                、   、



~WTO とは~
World Trade organization(世界貿易機関)の略で自由貿易の促進を目的
としている国際機関である。1995年に設立され、現在は150カ国以
上が参加している。貿易ルールに関する国際的な立法権や司法権を有し、
ルールに違反した国に対する報復措置を容認することで実行力を持って
自由貿易を促進しようというものである。            発展途上国に対する例外措置を
除いては各国一律に、形式的なルールを当てはめようとするため、融通が
きかず交渉はいつも難航、そして決裂することがしばしばあった。そのた
め、 今世紀に入ってからは WTO 以外の新しい自由貿易の手段がとられる
ようになった。そしてそれが FTA(自由貿易協定)である。




                       6
~FTA とは~
自由貿易協定(Free Trade Agreement)の略で二国間、または複数国間で通商
上の障壁を取り除こうという協定である。         WTO とは違い相手国を選んで相手国
とだけで通用する関税のルールを定めるものである。この FTA は WTO のルー
ルの例外的措置という位置づけにされている。GATT 第24条では「実質上全
ての関税撤廃が必要」とされているが「全て」が何をさしているかは明示され
ていないので、解釈としては貿易の90%以上の量、品目について10年以内
に関税を撤廃することが必要という意味だとされてる。しかし期間の設定、除
外品目など例外的な措置がとられていて、これは国同士で交渉して決めるもの
とされているので、WTO とは違い各国の事情をより反映、より柔軟なルールを
作ることができると考えられている。
実際に、FTA のひとつである NAFTA(北米自由貿易協定)ではアメリカとカ
ナダの間で、乳製品、綿、砂糖などを除外品目としている。




~EPA とは~
EPA とは Economic Partnership Agreement(経済連携協定)の略で、FTA を
柱として関税撤廃だけではなく規制や制度の改正、または調和、サービスなど
の連携強化も含めた複数国間の協定である。日本はこの EPA によって重要品目
の除外、相手国への投資環境の設備など自国に有利になるように FTA を進めよ
うとしています。実質、東南アジアとの EPA/FTA によって日本が農業技術や食
品安全、貧困解消に関する支援を行うかわりに、タイは日本に「米」の自由化
を求めない、という取引がなされた。もちろん両方の国が合意する、このよう
な協定には数年にわたる慎重な交渉というプロセスを必要とする場合もありま
す。しかしこのようなことから FTA・EPA というのは相手国との柔軟な交渉が
可能なため、互いの国の事情に配慮したルール作りをすることができる。




                          7
2)世界の TPP/EPA の現状
日本はこれまで、シンガポール、マレーシア、チリ、タイ、ASEANなどの
12の国とEPA、もしくはFTAを締結しています。これを他の国に比べて
みると・・・・・アメリカは14カ国、EUは29カ国、中国は8カ国、韓国
は7カ国とFTAを締結しています。韓国は他の主要国に比べ締結している国
は尐ないが、EUとも締結(2011 年7月1日に発行)し、アメリカとは合意に
至っています。しかし日本はというと主要貿易相手国であるアメリカ、EU、
中国とのFTA・EPAの取り組みが遅れています。
そしてFTA相手国との貿易額が総貿易額に占める割合は日本が16%、韓国
は36%、アメリカは38%、EUは30%となっています。


これらのことから、日本は FTA に関して世界から出遅れていると言われていま
す。何故かというと、韓国はすでにアメリカと FTA を締結しています。そして
日本はこの主要貿易相手国であるアメリカとは FTA を締結していません。そう
するとアメリカの韓国に対する関税は撤廃されているのに、日本に対しては関
税が課せられている、という状態になるので日本の競争条件が不利になるので
は、という主張です。しかし実際には米韓 FTA では、韓国はとても苦い条件を
飲まされ、結果国内の雇用を失うなど、有利に立つことはありませんでした。


「TPP 不参加は鎖国」などとの議論もあります。
しかし、開国か鎖国か、などという単純な話ではない上に、現在の日本という
国は鎖国などしていないのが実情です。例えば主要国の平均関税率を見てみま
す。全品目の平均関税率でいうと、日本はアメリカ、韓国よりも低いという現
状です。農産物にしても EU、韓国よりも関税率が低いのです。農産物の関税率
の計算方法は複数あるらしいので一慨には言えませんが、日本だけが世界の中
でも突出して高いということはありません。それどころか日本の食糧自給率は
約40%、トウモロコシ、小麦、大豆に関してはほとんど輸入に頼っているの
で、日本の農業市場は閉鎖的ではなく、むしろ関税が低いのではないかとも考
えられます。
  日本は WTO に加盟しています。確かに他国よりは遅れているとしても、EPP、
FTA について最近はインドとの締結も果たし12国と地域に達しました。
これについてはさすがに「鎖国している」など言えないと思います。
結論、世界第3位の GDP を持つ経済大国で、WTO にも加盟し12カ国と EPA
を結んでいる日本が TPP に参加しないと「世界の孤児」になってしまうのでし
ょうか。そんな可能性はとても低いと考えられます。

                    8
~日本の現状~
結局政府は11月の APEC では、TPP に関して明確な方針は打ち出せず、「情
報収集を進めながら対応していく必要があり、国内の環境整備を早急に進める
とともに、関係国との協議を開始する。    」と表現するにとどまりました。さすが
に一カ月では決められなかったのです。TPP 交渉の方針は11年6月をめどに
出されることになりました。しかし政府が 6 月に向けて精力的に進めようとし
ている議論は「どうやって反対派を黙らせて、TPP 交渉参加という結論に持ち
込むか」という戦術論だけでした。
 マス・メディアにおいても、TPP 反対論は農業関係者以外では、ほとんど見
当たりません。TPP には、もちろん農業だけではなく、金融、サービス、人の
移動など、むしろこの非関税障壁のような危険な問題が山積みになっているの
に「自由貿易」「開国」といったムードだけで、話が進もうとしています。


 最終的には11月に行われる APEC までには参加交渉の結論が出されること
になっていました。そして国民には、この TPP という協定に関する十分な情報
がもたされないまま、政府は参加交渉のテーブルにつくことになります。むし
ろ、政府の人達も TPP という協定を全く理解しないでテーブルにつくことにな
ります。
 11月4日、野田首相は「最終的には政府・民主の三役会議で決定すること
になるが、いずれにしても私の政治判断が必要になる。その時期がきたら判断
したい。離脱うんぬんではなく、国益を実現するため全力を尽くすのが基本姿
勢だ」と述べ、交渉に参加する意向を表明した。  (11 月 5 日産経ニュース記事よ
り)
 この時点で、参加をほぼ確定したようです。
 しかし本当は、まずこのテーブルにつくまえに、先に締結された米韓 FTA を
よく分析すべきです。TPP と FTA は前提や条件が似ているところがあり、この
米韓 FTA によって韓国がどんな不利な条件を飲まされたかも考えるべきです。
そして日本のデメリットはあきらかなのです。




                    9
3)TPP 参加の意義

内閣官房の資料「包括的経済連携に関する検討状況」に基づいて、政府が TTP
に参加するにあたってどのような議論をしているのか見てみます。これによる
と「我が国が TPP に参加した場合の意義と留意点」と題してメリットを記して
います。尐し抜粋すると



① 国を開き日本経済を活性化するための起爆剤。アジア太平洋の成長を取り込
  み新成長戦略を実現。品目、分野によってプラス、マイナスはあるが全体と
  して GDP は増加。参考として、実質 GDP が 0.48~0.65%増(2.4 兆~3.2 兆
  程度増)の試算がある。*<川崎研一氏(内閣府経済社会総合研究客員主任
  研究員」計算>
・
「国を開く」という強い意志を示すメッセージ効果。日本に対する国際的な信
  用及び関心の高まり。
・米韓 FTA が発効すれば日本企業は米国市場で韓国企業より不利になる。TPP
 参加により同等の競争条件を確保しなければならない。



② TPP がアジア太平洋の新たな地域経済統合の枠組みとして発展していく可
  能性あり。また、TPP の下での貿易投資に関する先進的ルールが今後、同地
  域の実質的基本ルールになる可能性あり。
・TPP 交渉への参画を通じ、できるだけ我が国に有利なルールを作りつつ、ア
 ジア太平洋自由貿易構想の推進に貢献。横浜における APEC 首脳会議の主要
 な成果。



③ アジア太平洋の地域経済統合枠組み作りを日本が主導する政治的意義大。対
  中戦略上も対 EU 関係でも重要。



④ アジア太平洋地域の貿易、投資分野のルール作りにおいて主導的役割を果た
  すことにより、国際的な貿易・投資分野の交渉やルール作りにおける影響力
  を高め、交渉力の強化に貢献。



                        10
以上の抜粋した分をまとめてみると、政府の考える TPP 参加の意義というの
は大きく二つに分けられる。一つ目は、経済効果における意義です。もちろん
自由貿易をする上で、自国の経済を良くしようとするのはあたりまえなのでこ
れは当然です。抜粋した中では実質 GDP が 0.48~0.65%程増と書いてあります
が、あくまでこれは参加も交渉もしていない現段階の予想であるし、本当にそ
んなに上手いこといくかどうかも不安なところです。
 そして二つ目は国際的な貿易ルールをめぐる外交戦略上の意義というもので
す。この外交戦略上の意義とはどんなものなのでしょうか。




 ~国を開くというメッセージ効果~
 政府が TPP 参加の理由として挙げている二つ目の外交戦略上の意義というの
は、すなわち、
      「国を開くという強いメッセージ効果」  であり、それによって「日
本に対する国際的な信用及び関心の高まり」があるとしています。このような
「不順な」動機が 2 番目にきていることがまずとても残念なことです。そして
このような理由のために TPP に参加するのでは、犠牲なるかもしれない農家の
人達にとってはたまったものではありません。
 しかし、本質的に問題なのは、  「国を開く」というメッセージは日本のイメー
ジを良くするどころか逆に悪くし、日本の交渉上のポジションをも悪化させる
可能性があるのです。なぜかというと、日本の平均関税率は諸外国と比べても
低い方であり、その意味ではすでに日本は国を開いていると言ってもいい状態
だからです。それに拘わらず、日本が「国を開きます」など自分から宣言した
ら世界の国はどう思うでしょうか。 「日本はこれまで国を開いていなかったのか、
高関税で保護主義的な国だったのか」という印象を抱くか、抱いたふりをする
でしょう。つまり日本にイメージの悪化につながります。そして「すでに開か
れている国」あるいは「保護主義的な国」といった印象をいったん世界の国々
に抱かれてしまうと、TPP の交渉などにおいて、相当譲歩しなければこの印象
を振り払うことはできません。TPP の交渉が日本にとって不利な交渉になろう
と、
 「あの時、今以上に国を開きますと言ったね」と思われ、交渉に対して譲歩
し、離脱できなくなる可能性があります。いったん「国を開きます」と発言し
た以上、閉鎖的な国というメッセージ効果を恐れる日本は国を今まで以上に開
かなければならなくなるのです。

                    11
~日本は不利になる~
さらにまずいことと言えば、関税率が低いのに「国を開きます」と宣言すれば
日本が解放できるのは、関税以外のもの、すなわち非関税障壁、ということに
なる。
宣言してもしなくても、TPP に参加すれば非関税障壁というものは関わってく
るのだが、なおさら譲歩しなければならないとなれば、かなり不利になること
になります。これについてはあとで詳しく説明しますが、非関税障壁には社会
的規制、安全規制、取引慣行、果ては言語や文化まで外国企業が日本市場に参
入する際に面倒だと思われる全てが含まれます。食に関する安全規制、環境規
制、労働規制、保険制度、医療制度などが含まれます。アメリカが、
                              「これらは
アメリカとは違う」などと言って因縁をつけたりすると、最終的にはそれらを
撤廃しなければなくなります。




                  12
4)交渉について
 内閣官房の資料で、
         「TPP がアジア太平洋の新たな地域経済統合の枠組みとし
て発展していく可能性」があり、 「TPP の下での貿易投資に関する先進的ルール
が、今後同地域の実質的基本ルールになる可能性」があると指摘しています。
しかし、その可能性は低いのです。なぜなら、中国と韓国が TPP に参加しない
からです。これについては「アジアの成長を取り込めるか」で詳しく書きます。
 アジアの重要なカギは日本、中国、韓国の日中韓がとても重要なポイントに
なるわけですが、その中国と韓国が参加しないとなると、アジア太平洋の新た
な地域経済統合としての枠組みに発展する可能性は低く、同地域での実質的基
本ルールにもなり得ないでしょう。
 内閣官房の資料には「TPP 交渉への参画を通じ、できるだけ我が国に有利な
ルールを作り」と指摘しています。しかし日本が TPP に参加して自国に有利に
なるようにルール作りを主導できる可能性は、 ほとんどありません。 それは TPP
交渉参加国の顔ぶれを見ればわかります。国際ルールの策定の場では、利害や
国内事情を共有する国と連携しなければ交渉を有利に進めることができません。
多数派工作は外戦略の初歩です。ところが TPP 交渉参加国の中には日本と同じ
ような利害、国内事情を有する国はなく、連携できそうな相手がまったくいな
いのです。




 ~利害の不一致~
まずアメリカ以外の参加国は、日本とは違い外需依存度が極めて高い「小国」
ばかりです。アメリカも輸出倍増計画なるものをしているので、輸出の拡大を
狙っておりこれ以上、輸入を増やすつもりはないし、そうするための政策手段
も持っています。つまり、TPP 交渉参加国すべてが、今や輸出依存国なのです。
また、特異な通商国家であるシンガポールを除くすべての国が、一次産品(鉱
物、農産品)の輸出国です。マレーシア、ベトナム、チリなどは低賃金の労働
力を武器にできる発展途上国です。こうした中、日本だけが一次産品輸出国で
はなく、工業製品輸出国です。また国内市場の大きい先進国として、他の国か
ら労働力や農産品の輸入を期待されています。しかし日本は今深刻なデフレ不



                   13
況にあるため、低賃金の外国人労働者を受け入れるメリットはありません。そ
んなことをしたら、賃金がさらに下落しデフレが悪化、失業者も増えます。
今の日本の置かれている状況というのは、TPP 交渉に参加している国の中では
際立って異なるのです。その点、利害は相反しています。
 そして TPP のルールというのはシンガポール、チリ、ニュージーランド、ブ
ルネイによる P4 がベースとなるものと考えられています。つまりこの P4 が今
後のルール作りを制約するのであり、ゼロから策定されることではありません。
そのようなハンディキャップを背負って、外需依存度の高い小国と一次産品輸
出国を相手に日本に有利なルールが作ろうというのはあまりにも無謀というも
のです。
 こうなると、日本はいったいどの国々と連携して多数派を形成して、自国に
有利な TPP のルール作りを誘導することができるのでしょうか。
 最後に交渉での不利な点をまとめると、

①多数国間交渉においてルール作りを先導するのは利害の一致する国々と連携
 する多数派工作が不可欠。日本とは利害が一致する国はない。


②交渉参加国の中で日本より国内市場が大きいのはアメリカだけ。輸出すると
 したらアメリカしかないのだが、アメリカはドル安誘導など関税以外の政策
 手段をもっている。日本は円高、ドル安に打つ手がない。


③菅首相は APEC 横浜で開国宣言し、日本=鎖国というイメージを国際的にば
らまいた。閉鎖的というイメージを取り払うためにも、日本は交渉でも相当譲
歩しなければならなくなる。


④P4が TPP ルール作りの制約を持っている、それゆえ TPP では米などの除外
品をあらかじめ提示して交渉参加は認められない。




                   14
5)アジアの成長を取り込めるか
 アジアは今後の成長センターであり、アジアの成長をいかに取り込むかが日
本の成長戦略のカギになっています。 政府、財界、多くの経済学者やコメン
テーター達がこのように論じてきました。確かにアジアは今後とても成長する
見込みがありカギにはなっているのですが、成長するアジアに重要なのはなん
といっても中国であり、ついでインド、韓国といった国々になります。しかし
TPPにはこの3つの国のいずれも入ってはいません。中国、韓国がこれから
参加交渉に加わってくるのでは、とも考えられますがその可能性はとても低い
のです。

 中国はリーマンショックの世界不況以降、人民元を安く維持し、輸出を拡大
することで成長しようとしてきました。このためアメリカは中国の為替操作を
激しく非難し人民元の切り上げを求めている状態です。しかし人民元の切り上
げをすると外需依存度の高い中国の景気に悪影響が及ぶので、中国はアメリカ
の要求を断っています。この人民元切り上げの問題は米中両国間で大きな懸案
となっています。つまり中国は自国の輸出に有利になるように為替を操作して
いる国なのです。自由貿易以前の段階で米中関係はつかえてしまっています。
さらに、自国の利益を利己的に追及するために為替操作をしている国が、高度
に進んだ自由貿易ルールが敷かれている TPP に参加するのはとても思えません。
中国が FTA を結んでいる国も尐なく、ASEAN の国1カ国とニュージーランド、
チリ、ペルーといった小国ばかりです。


 では韓国はどうでしょうか。
 韓国はつい最近アメリカとの FTA に合意しています。複数国間による急進的
な自由貿易協定である TPP よりも、二国間で交渉する FTA の方が有利である
と考えており、それゆえ TPP ではなく、米韓 FTA を選択しているのです。な
ので、韓国は TPP に参加する可能性がとても低いと考えてよいでしょう。


 以上の事から韓国と中国が参加しそうにないことがわかりますが、実は政府
はおそらく参加しないということをわかっていたのではないかと推測していま
す。それは上の「TPP 参加の意義」でも抜粋した、内閣官房の資料による「経
済産業省計算」に補足で書かれていたことをみればわかります。この計算では
「日本が TPP、EU と中国との EPA いずれも締結せず、韓国が、米国、中国、

                   15
EU と FTA を締結した場合」の経済損失を計算しているのです。普通は「日本
が TPP を締結せず、韓国が TPP を締結した場合」というように、両方同じ条
件のもと、計算が行われるものです。しかし日本については TPP、韓国につい
ては FTA で計算しています。理由は一つ、政府は、韓国はアメリカとの FTA
を選択して、TPP に参加しないと考えているから、と解釈します。




 ~GDP のシェア~
 GDPのシェア(比重)を見てみましょう。現在TPPに交渉参加している 9
カ国に、日本を加えた10カ国の中のGDPのシェアの計算をしてみます。す
るとアメリカが 67.2%、日本 24%、オーストラリアが 4.4%、残りの7カ国全部
で約 4%程度です。つまり日本、アメリカの二つの国で約 90%を占めているの
です。アジアなどは小さなシェアになっています。これでは内閣府や政界が考
える「TPP によってアジアを取り込む」などというのは、まったくの誇大妄想
となってしまいます。つまり、結論から言うと日本が参加した場合の TPP とい
うのは日米 FTA のようなものなのです。GDP のシェアでもわかる通り、「アジ
ア」というのはただの名前だけだといっても過言ではないのです。
 中国と韓国が TPP に参加しそうになく、日米でほとんどのシェアを占めてい
ます。TPP において日本はどうやってアジアの成長を取り込むというのでしょ
うか。


 そして TPP 交渉参加国には、GDP に占める輸出額の割合が高く、国内市場
の小さい国が非常に多いのです。外需依存度が日本より小さい国はアメリカし
かありません。つまり TPP に参加しているアメリカ以外の全ての国は日本より
外需依存度が高いということになります。シンガポール、マレーシアに至って
は GDP より輸出の規模の方が大きいほどです。つまり日本を含めた10カ国で
日本が輸出できる市場は、実質的にアメリカだけなのです。そして上で挙げた
通り、この10カ国の中のほとんどのアジア太平洋諸国の成長は、輸出に大き
く依存しています。TPP 交渉に参加しているアジア太平洋諸国にとって、この
10カ国の中における有力な輸出先は日本とアメリカのです。そしてアメリカ
はというとそう簡単に輸出させてくれる訳がありません。
 APEC に出席するために来日したオバマ大統領は、横浜市において、アメリ
カが今後5年間で輸出を倍増する戦略を進めていることを説明したうえで、こ
う発言しています。

                    16
「それが今週アジアを訪れた理由の大きな部分だ。この地域で、輸出を増やす
ことにアメリカは大きな機会を見出している」
                    「国外に10億ドル輸出するたび
に、国内に5000人の職が維持される」
                  「巨額の貿易黒字がある国は輸出への
不健全な依存をやめ、内需拡大策をとるべきだ。いかなる国もアメリカに輸出
さえすれば経済的に繁栄できると考えるべきではない。」
 つまり、アジア地域への輸出の拡大によってアメリカ国内の雇用を維持しよ
うとしている一方、アメリカには輸出してくるなよと言わんばかりの発言をし
ています。逆に貿易黒字の国に対して内需を拡大し、アメリカからの輸入を増
やせ、と言っているのです。
なぜオバマ大統領はあからさまにアジアへの輸出拡大、そして自国の雇用を守
る、などという発言をしたのでしょうか。それを知るにはそもそもどうしてア
メリカがTPPに参加表明したのか、知る必要があります。




                 17
6)アメリカの戦略
 そもそもTPPとは、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドと
いった小国による小さな連合でした。ところが2009年にアメリカのオバマ
大統領が関与を表明。それによって大きく変化することになり、TPPは小さ
な通商国家の集まりからアメリカの世界経済戦略への一端へとかわりました。
つまり、TPPが何を狙っているかを知るには、アメリカが何を狙っているか、
アメリカの戦略的意図を考える必要があります。


まず先ほど書いた、オバマ大統領があからさまに自国の雇用と輸出拡大なる発
言をした理由は、おそらくこの演説がアメリカ国内の有権者を意識したものだ
からです。オバマ政権の支持率は低下していて、大統領は追い詰められていま
す。

例えば、オハイオ州の北東部に位置するマホーニング・バレー地域は、民主党
の支持率が強く、来年の選挙ではオバマ大統領の楽勝が当然とみなされている
地域です。しかしその地域でも選挙に不利となる問題が起きています。それは
失業率が10%に達する一方、所得が減尐しているということ。楽勝と言われて
いる地域での支持率低下は致命的ともいえ、大統領の足元が非常に不安定とな
っています。雇用を増やしたい、支持率をつなぎとめたい、と尐なからず考え
ているはずです。そう考えたら APEC でのあからさまに雇用を増やす、輸出を
伸ばす、といった発言も理解できます。そしてTPPはそのための手段の一つ
となっているのです。


2012年の大統領一般教書演説を覗いてみても、自由貿易という言葉はひと
つも出てきていないのです。そして貿易政策についてはこのように書いていま
す。
「企業がもっと海外に製品を売るのを助けるため、我々は2014年までに輸
出を 2 倍にする目標を設定している。なぜなら、我々がより多く輸出をすれば、
この国でもっと雇用を生み出せるからだ。すでに我々の輸出は増えている。最
近、我々はインドと中国との合意に署名したが、それは合衆国の25万人以上
の雇用を支えることとなるだろう。そして先月、我々は韓国との貿易協定に合
意したが、それは尐なくとも7万人のアメリカ仁の雇用を支えるだろう。この
協定は、産業界と労働者、民主党と共和党から前例のない支持を得ている。そ
して私は、議会に対しこれを可及的速やかに通すことを要請する。私は就任前、
貿易協定を強化すること、そしてアメリカの労働者を裏切らず、アメリカの雇

                  18
用を促進するような協定にのみ署名することを宣言した。それこそが韓国との
協定であり、パナマやコロンビアとの協定交渉やアジア太平洋そしてグローバ
ルな貿易交渉の継続の中で私がやろうとしていることである。」


 貿易政策についてはこれが全部です。まずオバマ大統領は貿易協定がアメリ
カの雇用を増やす、と重ねて強調しています。そして、アジア太平洋との貿易
協定もその一環と言っています。これを見るとわかる通り、オバマ大統領は自
国のこと、すなわち国内のことしか視野に入れていません。内向きなのです。
もしオバマ大統領が本気で国際的なリーダーシップを発揮して TPP を「アジア
太平洋の新たな地域経済統合の枠組み」として発展させようと思っているなら
このような内向きな、発言はするわけありません。おそらくアメリカの中では
アジア太平洋諸国にとって互恵的な「新たな地域経済統合の枠組み」の基礎に
するつもりなどないと思います。つまり、アメリカにとって TPP とは、アメリ
カのアメリカによるアメリカのための貿易協定と考えているのです。もしそれ
が本当ならば、アジア太平洋の地域連合だとか、貿易・投資に関する先進的ル
ールとか、日米同盟の強化だとか、そのような大きな話ではないのです。勝手
に日本国内だけで、そんなふうに大騒ぎしているだけということになります。




                  19
7)ドル安と TPP
 前に述べたように、日本が加わった場合の TPP は GDP の比重で日米が9割
以上を占めます。TPP は実質日米 FTA のようなものです。日本が期待できる輸
出先はアメリカしかなく、アメリカも期待できる輸出先は日本しかありません。
そしてアメリカは経常収支赤字の削減がしたいので、輸出を飛躍的に増やした
いと切望しており、そして輸入を増やすつもりは毛頭もありません。    これを TPP
で考えると、日本への輸出を格段に増やす一方、  日本からの輸入は阻止したい、
と考えていることになります。一見すると TPP によって日米両国の関税が引き
下げられた場合、自由貿易の結果、日本の方が貿易黒字になり、アメリカは赤
字になってしまうように思えます。しかし、戦後の GATT/WTO の交渉で関税
がかなり引き下げられた今日では関税は国内市場を保護する主な手段ではなく
なっているのです。そしてグローバル化した今日世界において、国内市場を保
護するための最も強力な手段は関税ではありません。それよりも通貨なのです。
 アメリカの国際戦略の基本は経常収支赤字の削減で、リーマンショック以降
の経済戦略の大命題のために、ドル安を志向するようになっています。また、
今回の不況が大規模かつ長期化の様相を呈しているため、アメリカは当面、金
融緩和政策をとらざるを得ず、その点からもドル安を基調としてしばらく続く
ことが見込まれます。このドル安は日本企業の国際競争力を奪う、強力な手段
です
 また、ドル安は国際競争力で不利になりたくない日本の製業に対し、アメリ
カにおける現地生産比率を高めるように仕向けることができます。ドルが安い
だけでなく、安定しないというリスクだけでも、日本企業が海外生産比率高め
るのに十分な効果を発揮します。
 そしてすでに日本の製造業の現地生産は進展しています。日本の自動車メー
カーはアメリカでの新車販売台数の6割以上を現地生産車としています。報
道???出所を明記して下さい。によればホンダの 2009 年のアメリカでの現地
生産比率は8割を超えているそうです。日本の輸出産業は、為替リスク回避の
ために、すでに海外生産比率を高めてきているのです。言いかえれば、海外生
産の進展によって、関税の有無は輸出の増減と関係なくなりつつあるというこ
とです。
そしてこれからも、アメリカの現地生産が進むのであれば、仮に日本が TPP に
参加しアメリカに関税を撤廃してらったとしても、もはや、関税撤廃と輸出競
争力の強化とは何の関係もないことになってしまいます。
 結果、TPPに参加して日本の輸出を伸ばそうというもくろみはドル安によ
って潰されるのです。

                    20
8)世界経済での問題


 日本のTPPにおける無防備や無理解は、日本人がリーマンショック後、何
がおきているかをあまり理解してないところにあると思います。世界の構造変
化を無視はできないのです。TPPを理解すれことは、単なるアジア太平洋貿
易の枠組みというものを超えて、世界経済全体の構造を理解することに繋がる
と思うので、まずリーマンショックに至る世界経済の構造問題を見たいと思い
ます。




 ~金融のグローバリゼーション~
 まず、リーマンショックを引き起こした金融のグローバリゼーションは、1
980年代にアメリカがいわゆる新自由主義的な理念に基づき、規制の緩和な
ど金融市場の自由化を推し進めたことに端を発しています。そして厳密には1
980年代に始まったグローバリゼーションは2008年のリーマンショック
までの間に第一期と第二期のふたつに分けることができます。
 まず第一期は1980年代に始まり、1997~98年のアジア通貨危機で
終焉します。前期のグローバリゼーションの原動力になったのは、先ほど書い
たようにアメリカ主導による国際的な金融市場の規制緩和などによる国際的な
資本取引の活発化です。これにより、新興国、とりわけ東アジア諸国には海外
から資本が大量に流入に新興国経済は急成長を遂げました。新興国は海外資本
の流入が経済成長を促進するものだと考え、対内直接投資(海外の企業による
自国企業に対する直接投資)催す政策を積極低的に推進しました。また、アメ
リカを中心とする経済学者や政策担当者は資本の自由な移動が刑事亜を成長さ
せると信じており、この信念を批判したのは一部の良識的な知識人に限られて
いたそうです。
 しかし、無規制な資本の国際的な移動は経済の変動制(ボラティリティ)を
著しく高めました。世界中を自由に移動するマネーは好況も不況も増幅させる
ように働き、バブルとクラッシュを起こしやすくしたのです。一国の経済は、
世界経済の変動に大きく影響を受けるようになり、政府は自国の経済を管理す
ることができなくなっていきました。ロシアや南米において金融危機が発生す
るようになり、ついに東アジアにおいて、巨大な金融危機を引き起こしたので

                 21
す。この金融危機があってから、様々な学者が批判を始めました。自由貿易の
強力な掩護者として有名なインドの経済学者バグワティすら、
                           「物品の自由化と
金融の自由化は同列には論じられない」と金融のグローバリゼーションを厳し
く批判しました。そして自由な資本移動が大きな利益をもたらすことを示す実
証的な証拠はないと断言しました。例えば戦後、スオスを除く西ヨーロッパは
1980年代後半まで資本の自由化なしで経済成長を遂げています。日本でも
外国資本による巨額の対内直接投資なしでも高い経済成長を実現しました。む
しろ歴史を振り返ると無規制な金融市場は危機や混乱を繰り返すものだという
ことがわかりました。経済学者のゴードンハンソンも「対内直接投資による正
の外部効果はほとんどなかったばかりか、国内経済に悪影響を及ぼした場合す
らある」と実証結果を2001年に発表しています。
 現在、資本移動の急激な自由化が進められたのはアメリカの金融機関という
歴集団の強力なロビー活動のせいであると言われています。例えば政府機関の
要職はウォール街の金融機関出身者で占められています政治は金融機関に有利
なように金融市場の自由化の方向へと動かされているのです。バグワティはこ
のような金融の癒着を「ウォール街・財務省複合体」と呼んでいます。政治が
ウォール街に乗っ取られ金融市場の改革はなかなか進まないですが、アジア通
貨危機のおかげで、
        「外資の導入を積極的に促進すればよい」というような考え
が間違いだという認識は現在にいたっては世界の知識人の間では共有されるよ
うになりました。しかし日本人にはこの期に及んで外資導入を進めたがる金融
資本主義者が生き残っているのも現状です。


~第二期グローバリゼーション~
第一期で自由な国際資本移動の問題点が明らかになったとはいえ、国際金融
システムの制度改革が進んだというわけもなく、グローバル経済の不安定な部
分は残されたままでした。東アジア諸国はこうしたことが2度と起きないよう
に金融リスク強い経済構造を構築し始めました。しかし皮肉なことにこのリス
ク対策が再びグローバリゼーションを促進する結果となり、リーマンショック
の原因のひとつにすらなってしまったのです。そしてこのアジア通貨危機から
2008年までが第二期グローバリゼーションになります。
 これにについて、簡単に説明すると、まず2000年代半ばまでの世界経済
は好況でした。しかしこれはアメリカの住宅バブル、そしてそれを背景にした
アメリカの消費者の過激な消費に全面的に依存していた結果だったということ
です。住宅バブルを背景に、中国などの東アジア諸国はアメリカに向けて輸出
を拡大し、輸出主導による好景気を謳歌しました。言うまでもなく、日本もこ

                 22
の恩恵を受け、2002~6 年の景気回復を実現したのです。この時期目覚ましい
成長を遂げた東アジア、特に中国は、先ほど書いたアメリカやヨーロッパへの
輸出に依存して成長していたのであり、自国の内需の拡大による成長では必ず
しもないということです。アメリカの輸入は住宅バブルによる過剰消費の産物
だし、ヨーロッパもバブルの影響を受けていたわけなのでアジアの成長センタ
ーはアメリカの住宅バブルのたまものだったということです。日本は東アジア
に巨額の輸出をしていますが、東アジアはさらにアメリカ、ヨーロッパに巨額
の輸出を行っています。これは日本が東アジアへ資本財を輸出、その資本財を
東アジアが加工組立てし製品になりアメリカやヨーロッパに輸出しているから
です。日本は東アジアというよりは、東アジアを経由してバブルで浮かれてい
るアメリカなどに輸出をしていたのです。これが第二期のグローバリゼーショ
ンの貿易の流れです。ですので、アメリカの住宅バブルが崩壊したら、最終消
費地が不況になるので東アジアも不況になり、日本も不況になるのです。




 ~これからの世界経済~
 リーマンショックを機に、アメリカを先頭に世界中で金融緩和が行われまし
たが資金需要がないために世界中に過剰に供給され始め、経済を悪化させまし
た。
 世界経済を正常化し安定化させるには、金融政策だけではなく、需要を拡大
させることが一番大切だとされています。しかし、これまでの世界経済を引っ
張ってきたアメリカの旺盛な消費需要は住宅バブルによって消滅したのでアメ
リカの消費を頼むことはできません。アメリカにとって代わる牽引役がいなけ
れば安定化はできません。今までのような、貿易不均衡は時速不可能なのです。
 これが[グローバル・インバランス]というもので、これからの世界経済の
立て直しにはこれがとても重要となるのです。




                  23
9)グローバル・インバランス

 国際連合貿易開発会議が、2010年度版「貿易開発報告書」において、こ
の問題を論じています。


 【2000年代にはアメリカの過剰な消費が世界経済を牽引していた。しか
し、このグローバル・インバランスの世界構造こそが、金融危機の遠因である。
この構造はもはや持続不可能である。世界経済秩序の安定化のためにはこれの
リバランスが必要である。アメリカは、過剰消費を改める一方で日本、ドイツ
中国といった経済収支黒字国は内需を拡大し、輸入を増やすべきである。しか
し今のところ日本、ドイツ、中国いずれもが依然として輸出主導で景気回復を
図ろうとしている。このためリバランスは進んでいない。】

 「貿易開発報告書」はこのように述べた上で、アメリカに代わる牽引役を検
討しています。その中で中国については、アメリカの代役を期待することはで
きないと考えているようです。理由は第一に中国の消費がアメリカの八分の一
にすぎなく、輸入は8%を占めるにすぎないからです。そしてアメリカと中国
では輸入している消費財の性質がまったく違うからです。
 ようは、アメリカに代わる牽引役を検討しているので、アメリカの消費需要
の代わりになるかというポイントが重要なのです。  「貿易開発報告書」によると、
アメリカが輸入している製品と類似度が90%以上であるのが、ドイツ、次い
で日本が 70~80%となっています。以上のことから、国連貿易開発会議はドイ
ツと日本が世界経済を牽引できる国だと指摘しています。両国は消費需要が大
きいだけではなく、輸入している製品の性質がアメリカと近いからです。そし
て日本はドイツより消費規模が大きいことからドイツ以上の役割を果たすこと
ができると期待されています。
 国連貿易開発会議は、リーマンショック後の世界刑事亜の秩序回復、すなわ
ちリバランスのためには、ドイツ、そしてそれ以上に日本が内需主導で成長し、
輸入を拡大すべき、と主張しているのです。


 しかし、日本では、ほとんどこのような議論はされていません。それどころ
か、日本は依然として輸出主導の経済成長を目指しています。しかしそれは国
連貿易開発会議が懸念するように、リーマンショック後の世界秩序の再建とい
う世界が取り組まなければならない問題を悪化させるものなのです。日本はも
ともと、輸出主導の国ではないですし、内需でもっている国なのだから、これ

                  24
からも内需を拡大するべきだと思います。そうしたら日本経済もよくなり、世
界秩序の再建にも貢献できます。しかし輸入を増やすからといって、TPPへ
の参加による関税の撤廃によるべきではありません。日本国内では成長するア
ジア太平洋地域の市場獲って成長していかないと、
                      「世界の孤児になる」などと
いう議論がまかり通っています。席亜???が進もうとしている方向とはまさ
に逆をいこうとしているのです。




                 25
10)まとめ
 【TPP 交渉について米通商代表部(USTR)の高官が、日本の参加を認める
のには米政府・議会の非公式な事前協議が必要で、参加決定に時間がかかるた
め「受け入れ困難になりつつある」との認識を示していたことが、日本政府の
内部文書で分かった。正式協議を合わせると、米議会の参加承認を得るには半
年間程度が必要な見込みで、早期参加表明しても来年の夏にまとまる予定のル
ール策定作業に実質的に加われない可能性も出てきた。日本に有利な条件を得
るため早い参加が必要、という TPP 推進派の主張の前提条件が崩れかねない状
況だ。野田首相は今月12、13日にハワイで開かれるアジア太平洋経済協力
会議(APEC)首脳会議で参加表明を行いたいと意向とみられ、民主党内で調整
中。表明すればこれで最速となる。日本政府は米国の承認手続きに関連し、米
議会の了承には最低90日間の協議期間が必要としていたが、事前協議には触
れていなかった。日本政府関係者によると、この期間は3ヶ月間程度という。
内部文書によると USTR 高官や米議会関係者は、事前協議は「米政府と議会が
時間をかけ非公式な協議を行う」とし、日本政府の TPP への姿勢を歓迎できる
見通しがついて「初めて90日の期間に入る」と説明している。日本を受け入
れるため、現在米国やチリ、豪州など9カ国で進行中の TPP 交渉を遅らせるこ
とは望ましくなく「すでに加盟期限は過ぎた」と明確に述べている米議会関係
者もいる。TPP 後押しする経済産業省などはこれまで「早期に参加して有利な
条件を獲得すべきだ」と主張。しかし APEC で参加を表明しても交渉参加でき
るのは早くて来年の夏前。9カ国は来年の夏までの合意を目指している。日本
が加わった段階ではルールの細部まで議論が終了している可能性が大きい。  】
→11 月2日 東京新聞より


記事にも書いてある通り、まず日本は TPP に参加すること自体があやしいのが
現状になっている。要するに、アメリカにお願いして日本は入れてもらうよう
なものになっているので、推進派の早期参加でルール作りを主導なんてことは、
夢のまた夢の話になっている。


 そして最速で参加表明しても日本が TPP のルール作りの交渉に参加できるの
は来年の夏前くらいになるということ。日本以外の TPP 参加国は TPP の交渉
を遅らせたくないと考えている。そして追い打ちのこの記事を紹介したい。




~ホノルルでのAPEC首脳会議~
                   26
2011 年の 11 月12日、朝日新聞の政治ニュースに
 【オバマ大統領が12日朝にホノルルで開く TPP 交渉9カ国の首脳会合に、
野田首相が招待されない見通しがあることが11日わかった。9カ国が積み上
げた交渉の成果を大枠合意として演出する場に、交渉参加に表明したばかりの
日本は場違いとの判断が背景にあるとみられ、TPP 交渉の厳しい洗礼を受ける
形だ。 】とある。
 すでに扱いがひどく、日本はやはりお願いして TPP に参加する立場になりそ
うだ。 野田首相はやっと APEC 首脳会議に参加できたが、日本時間で 13 日午前、
APEC 首脳会議の前にオバマ大統領と日米首脳会議も行った。
 しかし、実は APEC の首脳会議のほうでアメリカに厳しい洗礼を受けたので
ある。
 アメリカ通商代表であるロン・カーク氏が記者会見で「野田はすべての品目
で関税をなくすと言った」と表明したとのこと。日本はそんな発言していない
ので、外務省は即座に「そんなことは言ってない」とカーク発言に講義したが、
これに対してアメリカは一切修正に応じていない。しかもこれは関税の例外部
分を認めるかどうかという TPP の核心部分である。日本が死守しようとしてい
るコメの例外扱いは認めない、というアメリカからの強烈なメッセージだろう。
そしてもう一つカーク氏は、 「日本は非科学的で不当な障壁を撤廃する必要があ
る」と述べ、日本側に迫る重点部分として「牛肉、郵政、自動車」の3分野を
突きつけたとのこと。このうち、自動車市場の開放要求があったらしく、日本
側としては想定外で衝撃を受けたという。詳しくはわからないが、これも日本
にとってと非常に痛手となると予想される。
 カーク氏が関税の完全撤廃を発言したのも実は日本には前例があるからであ
る。というのも日本の過去の交渉姿勢で、日本は経済連携協定(EPA)で全
体の 1 割にあたる940品目を関税撤廃の例外品目に指定して特に米 778%、小
麦 225%など、農産物は世界的にもまれな高関税を維持しているのだ。医療品や
自動車分野でも独自の非関税障壁を課していると、アメリカ側は不満がある。
 要は市場開放を求める一方、例外品目を作りたい日本に対して「いいとこど
り」と牽制しているのだ。FTAなどの二国間交渉よりもさらに自由度が高い
TPPでは、そもそも交渉が難しい。複数国、さらに原参加国であるP4に交
渉の主導権がある、そして今の日本の立場を考えると例外品目を作ることはほ
ぼ不可能、といえるだろう。
 さらにわざわざホノルルまで行ってオバマ大統領にTPP参加を表明したと
なると、離脱不可能なわけで、今年の夏前位に参加できたとしても日本の不利
は目に見えます。



                    27
10)おわりに

 日本がTPPの交渉に参加するためには、すでに参加している9カ国すべて
の国から承認を得る必要があります。
 そのため『 政府は16日、TPPの交渉に向けた事前協議団をベトナムと
ブルネイに派遣すると発表し、午後には外務省・片上慶一経済外交担当大使が
ベトナムへ向けて出発した。 協議団には農水省や経産省からも担当者が加わ
り、現時間17日にベトナムと、現時間19日にはブルネイと協議を行って日
本の交渉参加に関して要求などをきくことにしている』とある。
                            (出所を明示し
て下さい)
 これからうまくいけば、その他の参加交渉国にも協議団を派遣すると思われ
る。私はベトナムよりも先にP4であるチリ、ニュージーランド、シンガポー
ル、などに要求を聞きに行って承認を得るべきだと思いますが、そこは政府も
別の考えがあるのかな、と思われます。


 この先予測出来ませんが、今のままだと米国などの農産物に例外措置をとれ
ず、関税の完全撤廃、そしてアメリカの要求している様々な非関税障壁を撤廃
する形になるだろうと思います。非関税障壁は日本が大きく変わる可能性もあ
るので、これからも経過を見ていきたいと考えています。




                 28
~参考文献等~


中野剛志「TPP亡国論」集英社新書

・東洋経済
   http://www.toyokeizai.net/business/society/detail/AC/74e5fb3b9fb64af
   c8bcb5e669734ddf6/

・サルでもわかるTPP                 http://luna-organic.org/tpp/tpp-3-1.html


・毎日JP http://mainichi.jp/

・TPP問題
   http://tpp.gakumu.com/index.php?%EF%BC%B4%EF%BC%B0%EF%BC%B0%E3%
   81%AE%E6%AD%A3%E4%BD%93




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  • 1. 国際文化学部国際コミュニケーション学科 2011 年度卒業研究 TPP 協定について 指導教員 川崎一彦 2012 年 1 月 20 日 8awk1116 前川昂也 1
  • 2. 2
  • 3. 要旨 TPPとは環太平洋戦略的経済連携協定、通称「環太平洋パートナーシップ 協定」である。2010年11月13日横浜で行われたAPEC(アジア太平洋 経済協力)で菅直人首相は「日本は再び国を開く時がきた」という発言をしまし た。メディアを通してこの「平成の開国」という言葉は広まり、 「TPP=平成 の開国」という誤った認識が日本に広がる結果となりました。マス・メディア ではTPPに関して「開国」か「鎖国」などという図式で報道されています。 しかし、実際はそんな「白か黒か」のような簡単な問題ではありません。 しかし今更ですがTPPについてほとんど知らない人も多いようです。それ もそのはずで、TPPに関してのニュースをメディアが取り上げるようになっ たのはここ半年前ほどなのです。日本にとって非常に重要な問題であるにも拘 わらず、国民はTPPがどういったものなのかも詳しく知らされてはいません でした。今では、日本がTPPに参加することはほとんど決定しています。こ の論文ではTPPに参加した場合、どのような変化が起こるのか尐し触れてい ます。まず、TPPとは何なのか、そしてTPPと類似している貿易協定「E PA」「FTA」、について説明しています。そして日本の現状、世界の現状に ついて述べます。「平成の開国」と言われていますがそもそも鎖国をしているの か、TPP交渉参加国がどのような協定を結んでいるのか、関税は世界に比べ て高いのかも検証します。3章では、内閣官房が作ったTPPに関しての資料 を検討して、TPPに関する意義とメリットを考察しています。政府が考えて いるTPP参加への意義とはどのようなものなのか、資料に書かれている意義、 メリットは本当に実現できるのか、等についてです。「交渉について」では貿易 協定を結ぶ上で非常に重要になってくる「交渉」について書いています。政府 は交渉を有利に進めたいと考えているが、日本は本当に有利に交渉ができるの でしょうか。 そしてこのTPPで日本はアジアを取り込み、そして主導して経済成長を遂 げたいと考えています。しかし本当にアジアと取り込むことが可能なのか、そ もそも取り込めるアジアは存在するのか、TPP交渉参加国に日本を加えたG DPシェアのグラフ、各国での外需依存度などを使って考えています。 リーマン・ショック以降の世界経済とTPPによる自由貿易は無関係な話で はありません。アメリカの戦略、世界の経済バランス、様々な視点からTPP 協定について書きました。TPP協定を尐しでも理解してもらえればと思いま す。 3
  • 4. ~目次~ はじめに 4P 1) TPP を含む貿易について 5P 2)世界の TPPEPA の現状 7P ・日本の現状 3)TPP 参加の意義 9P ・国を開くメッセージ効果 ・日本は不利になる 4)交渉について 12P ・利害の不一致 5)アジアの成長を取り込めるか 14P ・GDPシェア 6)アメリカの戦略 17P ・ドル安と TPP 7)世界経済でみた TPP 19P 8)グローバル・インバランス 23P 9)まとめ 25P 10) 最後に 27P 4
  • 5. はじめに 私が TPP について知ったのは、2011 年 8 月、9 月頃でした。 ニュースでチラッと見かけたのが最初のきっかけです。それからパソコンをし ている時にしばしば見かけるようになり、興味を持ちはじめ自分で調べること になりました。当時今までのゼミの研究課題の「環境問題」について卒業研究 をしようと思っていましたが、タイムリーな話題で、なおかつ日本の近い将来 の重要な協定になるとのことなので TPP に関して卒業研究をすることにしまし た。 初めてメディアで見かけた時は、農業関係者は反対している、というくらいし か知らなく、TPP の交渉に参加するか否かで世論は沸騰していました。しかし、 今や日本はほぼ参加することが決定しているようなもので、なおかつ交渉も有 利に進められない状況に陥っています。 そもそも、TPP とは何なのか、TPP によってどのようなことが起きるのか。ア メリカが TPP 参加交渉に加わったことで大きく変化した TPP に日本が入るこ とでどうなるのか、この研究で自分なりに調べて理解できたことをまとめみま した。 私も興味を持って調べなければ、TPP がどういったものかも理解せずにいまし た。しかし、実質アメリカと日本の二国間協定とまで言われているこの自由協 定は日本人にとって非常に重要なものです。一人の日本人として、尐しは理解 しておいた方がいいと感じました。 5
  • 6. 1)TPPを含む貿易について ~まず TPP とは~ TPP とは「環太平洋パートナーシップ協定」、Trans Pacific Partnership の略です。 非常に簡単に言うと参加国間の関税とそれ以外の障壁を取り除 こう!という自由貿易協定です。参加国は、最初の加盟国である、チリ、 ニュージーランド、シンガポール、ブルネイの4カ国、そしてアメリカ、 オーストラリア、ベトナム、マレーシア、ペルーである。まず TPP とは 何なのか、を説明したいが、TPP だけの説明をするよりそれに類似した 貿易のルールも知っておくと、TPP を理解しやすいと思う。むしろこの 類似した貿易のルールを尐しも知らないで、TPP を議論するのは間違っ ていると思う。まずは「WTO」「FTA」「EPA」などの説明をしたい。 、 、 ~WTO とは~ World Trade organization(世界貿易機関)の略で自由貿易の促進を目的 としている国際機関である。1995年に設立され、現在は150カ国以 上が参加している。貿易ルールに関する国際的な立法権や司法権を有し、 ルールに違反した国に対する報復措置を容認することで実行力を持って 自由貿易を促進しようというものである。 発展途上国に対する例外措置を 除いては各国一律に、形式的なルールを当てはめようとするため、融通が きかず交渉はいつも難航、そして決裂することがしばしばあった。そのた め、 今世紀に入ってからは WTO 以外の新しい自由貿易の手段がとられる ようになった。そしてそれが FTA(自由貿易協定)である。 6
  • 7. ~FTA とは~ 自由貿易協定(Free Trade Agreement)の略で二国間、または複数国間で通商 上の障壁を取り除こうという協定である。 WTO とは違い相手国を選んで相手国 とだけで通用する関税のルールを定めるものである。この FTA は WTO のルー ルの例外的措置という位置づけにされている。GATT 第24条では「実質上全 ての関税撤廃が必要」とされているが「全て」が何をさしているかは明示され ていないので、解釈としては貿易の90%以上の量、品目について10年以内 に関税を撤廃することが必要という意味だとされてる。しかし期間の設定、除 外品目など例外的な措置がとられていて、これは国同士で交渉して決めるもの とされているので、WTO とは違い各国の事情をより反映、より柔軟なルールを 作ることができると考えられている。 実際に、FTA のひとつである NAFTA(北米自由貿易協定)ではアメリカとカ ナダの間で、乳製品、綿、砂糖などを除外品目としている。 ~EPA とは~ EPA とは Economic Partnership Agreement(経済連携協定)の略で、FTA を 柱として関税撤廃だけではなく規制や制度の改正、または調和、サービスなど の連携強化も含めた複数国間の協定である。日本はこの EPA によって重要品目 の除外、相手国への投資環境の設備など自国に有利になるように FTA を進めよ うとしています。実質、東南アジアとの EPA/FTA によって日本が農業技術や食 品安全、貧困解消に関する支援を行うかわりに、タイは日本に「米」の自由化 を求めない、という取引がなされた。もちろん両方の国が合意する、このよう な協定には数年にわたる慎重な交渉というプロセスを必要とする場合もありま す。しかしこのようなことから FTA・EPA というのは相手国との柔軟な交渉が 可能なため、互いの国の事情に配慮したルール作りをすることができる。 7
  • 8. 2)世界の TPP/EPA の現状 日本はこれまで、シンガポール、マレーシア、チリ、タイ、ASEANなどの 12の国とEPA、もしくはFTAを締結しています。これを他の国に比べて みると・・・・・アメリカは14カ国、EUは29カ国、中国は8カ国、韓国 は7カ国とFTAを締結しています。韓国は他の主要国に比べ締結している国 は尐ないが、EUとも締結(2011 年7月1日に発行)し、アメリカとは合意に 至っています。しかし日本はというと主要貿易相手国であるアメリカ、EU、 中国とのFTA・EPAの取り組みが遅れています。 そしてFTA相手国との貿易額が総貿易額に占める割合は日本が16%、韓国 は36%、アメリカは38%、EUは30%となっています。 これらのことから、日本は FTA に関して世界から出遅れていると言われていま す。何故かというと、韓国はすでにアメリカと FTA を締結しています。そして 日本はこの主要貿易相手国であるアメリカとは FTA を締結していません。そう するとアメリカの韓国に対する関税は撤廃されているのに、日本に対しては関 税が課せられている、という状態になるので日本の競争条件が不利になるので は、という主張です。しかし実際には米韓 FTA では、韓国はとても苦い条件を 飲まされ、結果国内の雇用を失うなど、有利に立つことはありませんでした。 「TPP 不参加は鎖国」などとの議論もあります。 しかし、開国か鎖国か、などという単純な話ではない上に、現在の日本という 国は鎖国などしていないのが実情です。例えば主要国の平均関税率を見てみま す。全品目の平均関税率でいうと、日本はアメリカ、韓国よりも低いという現 状です。農産物にしても EU、韓国よりも関税率が低いのです。農産物の関税率 の計算方法は複数あるらしいので一慨には言えませんが、日本だけが世界の中 でも突出して高いということはありません。それどころか日本の食糧自給率は 約40%、トウモロコシ、小麦、大豆に関してはほとんど輸入に頼っているの で、日本の農業市場は閉鎖的ではなく、むしろ関税が低いのではないかとも考 えられます。 日本は WTO に加盟しています。確かに他国よりは遅れているとしても、EPP、 FTA について最近はインドとの締結も果たし12国と地域に達しました。 これについてはさすがに「鎖国している」など言えないと思います。 結論、世界第3位の GDP を持つ経済大国で、WTO にも加盟し12カ国と EPA を結んでいる日本が TPP に参加しないと「世界の孤児」になってしまうのでし ょうか。そんな可能性はとても低いと考えられます。 8
  • 9. ~日本の現状~ 結局政府は11月の APEC では、TPP に関して明確な方針は打ち出せず、「情 報収集を進めながら対応していく必要があり、国内の環境整備を早急に進める とともに、関係国との協議を開始する。 」と表現するにとどまりました。さすが に一カ月では決められなかったのです。TPP 交渉の方針は11年6月をめどに 出されることになりました。しかし政府が 6 月に向けて精力的に進めようとし ている議論は「どうやって反対派を黙らせて、TPP 交渉参加という結論に持ち 込むか」という戦術論だけでした。 マス・メディアにおいても、TPP 反対論は農業関係者以外では、ほとんど見 当たりません。TPP には、もちろん農業だけではなく、金融、サービス、人の 移動など、むしろこの非関税障壁のような危険な問題が山積みになっているの に「自由貿易」「開国」といったムードだけで、話が進もうとしています。 最終的には11月に行われる APEC までには参加交渉の結論が出されること になっていました。そして国民には、この TPP という協定に関する十分な情報 がもたされないまま、政府は参加交渉のテーブルにつくことになります。むし ろ、政府の人達も TPP という協定を全く理解しないでテーブルにつくことにな ります。 11月4日、野田首相は「最終的には政府・民主の三役会議で決定すること になるが、いずれにしても私の政治判断が必要になる。その時期がきたら判断 したい。離脱うんぬんではなく、国益を実現するため全力を尽くすのが基本姿 勢だ」と述べ、交渉に参加する意向を表明した。 (11 月 5 日産経ニュース記事よ り) この時点で、参加をほぼ確定したようです。 しかし本当は、まずこのテーブルにつくまえに、先に締結された米韓 FTA を よく分析すべきです。TPP と FTA は前提や条件が似ているところがあり、この 米韓 FTA によって韓国がどんな不利な条件を飲まされたかも考えるべきです。 そして日本のデメリットはあきらかなのです。 9
  • 10. 3)TPP 参加の意義 内閣官房の資料「包括的経済連携に関する検討状況」に基づいて、政府が TTP に参加するにあたってどのような議論をしているのか見てみます。これによる と「我が国が TPP に参加した場合の意義と留意点」と題してメリットを記して います。尐し抜粋すると ① 国を開き日本経済を活性化するための起爆剤。アジア太平洋の成長を取り込 み新成長戦略を実現。品目、分野によってプラス、マイナスはあるが全体と して GDP は増加。参考として、実質 GDP が 0.48~0.65%増(2.4 兆~3.2 兆 程度増)の試算がある。*<川崎研一氏(内閣府経済社会総合研究客員主任 研究員」計算> ・ 「国を開く」という強い意志を示すメッセージ効果。日本に対する国際的な信 用及び関心の高まり。 ・米韓 FTA が発効すれば日本企業は米国市場で韓国企業より不利になる。TPP 参加により同等の競争条件を確保しなければならない。 ② TPP がアジア太平洋の新たな地域経済統合の枠組みとして発展していく可 能性あり。また、TPP の下での貿易投資に関する先進的ルールが今後、同地 域の実質的基本ルールになる可能性あり。 ・TPP 交渉への参画を通じ、できるだけ我が国に有利なルールを作りつつ、ア ジア太平洋自由貿易構想の推進に貢献。横浜における APEC 首脳会議の主要 な成果。 ③ アジア太平洋の地域経済統合枠組み作りを日本が主導する政治的意義大。対 中戦略上も対 EU 関係でも重要。 ④ アジア太平洋地域の貿易、投資分野のルール作りにおいて主導的役割を果た すことにより、国際的な貿易・投資分野の交渉やルール作りにおける影響力 を高め、交渉力の強化に貢献。 10
  • 11. 以上の抜粋した分をまとめてみると、政府の考える TPP 参加の意義というの は大きく二つに分けられる。一つ目は、経済効果における意義です。もちろん 自由貿易をする上で、自国の経済を良くしようとするのはあたりまえなのでこ れは当然です。抜粋した中では実質 GDP が 0.48~0.65%程増と書いてあります が、あくまでこれは参加も交渉もしていない現段階の予想であるし、本当にそ んなに上手いこといくかどうかも不安なところです。 そして二つ目は国際的な貿易ルールをめぐる外交戦略上の意義というもので す。この外交戦略上の意義とはどんなものなのでしょうか。 ~国を開くというメッセージ効果~ 政府が TPP 参加の理由として挙げている二つ目の外交戦略上の意義というの は、すなわち、 「国を開くという強いメッセージ効果」 であり、それによって「日 本に対する国際的な信用及び関心の高まり」があるとしています。このような 「不順な」動機が 2 番目にきていることがまずとても残念なことです。そして このような理由のために TPP に参加するのでは、犠牲なるかもしれない農家の 人達にとってはたまったものではありません。 しかし、本質的に問題なのは、 「国を開く」というメッセージは日本のイメー ジを良くするどころか逆に悪くし、日本の交渉上のポジションをも悪化させる 可能性があるのです。なぜかというと、日本の平均関税率は諸外国と比べても 低い方であり、その意味ではすでに日本は国を開いていると言ってもいい状態 だからです。それに拘わらず、日本が「国を開きます」など自分から宣言した ら世界の国はどう思うでしょうか。 「日本はこれまで国を開いていなかったのか、 高関税で保護主義的な国だったのか」という印象を抱くか、抱いたふりをする でしょう。つまり日本にイメージの悪化につながります。そして「すでに開か れている国」あるいは「保護主義的な国」といった印象をいったん世界の国々 に抱かれてしまうと、TPP の交渉などにおいて、相当譲歩しなければこの印象 を振り払うことはできません。TPP の交渉が日本にとって不利な交渉になろう と、 「あの時、今以上に国を開きますと言ったね」と思われ、交渉に対して譲歩 し、離脱できなくなる可能性があります。いったん「国を開きます」と発言し た以上、閉鎖的な国というメッセージ効果を恐れる日本は国を今まで以上に開 かなければならなくなるのです。 11
  • 12. ~日本は不利になる~ さらにまずいことと言えば、関税率が低いのに「国を開きます」と宣言すれば 日本が解放できるのは、関税以外のもの、すなわち非関税障壁、ということに なる。 宣言してもしなくても、TPP に参加すれば非関税障壁というものは関わってく るのだが、なおさら譲歩しなければならないとなれば、かなり不利になること になります。これについてはあとで詳しく説明しますが、非関税障壁には社会 的規制、安全規制、取引慣行、果ては言語や文化まで外国企業が日本市場に参 入する際に面倒だと思われる全てが含まれます。食に関する安全規制、環境規 制、労働規制、保険制度、医療制度などが含まれます。アメリカが、 「これらは アメリカとは違う」などと言って因縁をつけたりすると、最終的にはそれらを 撤廃しなければなくなります。 12
  • 13. 4)交渉について 内閣官房の資料で、 「TPP がアジア太平洋の新たな地域経済統合の枠組みとし て発展していく可能性」があり、 「TPP の下での貿易投資に関する先進的ルール が、今後同地域の実質的基本ルールになる可能性」があると指摘しています。 しかし、その可能性は低いのです。なぜなら、中国と韓国が TPP に参加しない からです。これについては「アジアの成長を取り込めるか」で詳しく書きます。 アジアの重要なカギは日本、中国、韓国の日中韓がとても重要なポイントに なるわけですが、その中国と韓国が参加しないとなると、アジア太平洋の新た な地域経済統合としての枠組みに発展する可能性は低く、同地域での実質的基 本ルールにもなり得ないでしょう。 内閣官房の資料には「TPP 交渉への参画を通じ、できるだけ我が国に有利な ルールを作り」と指摘しています。しかし日本が TPP に参加して自国に有利に なるようにルール作りを主導できる可能性は、 ほとんどありません。 それは TPP 交渉参加国の顔ぶれを見ればわかります。国際ルールの策定の場では、利害や 国内事情を共有する国と連携しなければ交渉を有利に進めることができません。 多数派工作は外戦略の初歩です。ところが TPP 交渉参加国の中には日本と同じ ような利害、国内事情を有する国はなく、連携できそうな相手がまったくいな いのです。 ~利害の不一致~ まずアメリカ以外の参加国は、日本とは違い外需依存度が極めて高い「小国」 ばかりです。アメリカも輸出倍増計画なるものをしているので、輸出の拡大を 狙っておりこれ以上、輸入を増やすつもりはないし、そうするための政策手段 も持っています。つまり、TPP 交渉参加国すべてが、今や輸出依存国なのです。 また、特異な通商国家であるシンガポールを除くすべての国が、一次産品(鉱 物、農産品)の輸出国です。マレーシア、ベトナム、チリなどは低賃金の労働 力を武器にできる発展途上国です。こうした中、日本だけが一次産品輸出国で はなく、工業製品輸出国です。また国内市場の大きい先進国として、他の国か ら労働力や農産品の輸入を期待されています。しかし日本は今深刻なデフレ不 13
  • 14. 況にあるため、低賃金の外国人労働者を受け入れるメリットはありません。そ んなことをしたら、賃金がさらに下落しデフレが悪化、失業者も増えます。 今の日本の置かれている状況というのは、TPP 交渉に参加している国の中では 際立って異なるのです。その点、利害は相反しています。 そして TPP のルールというのはシンガポール、チリ、ニュージーランド、ブ ルネイによる P4 がベースとなるものと考えられています。つまりこの P4 が今 後のルール作りを制約するのであり、ゼロから策定されることではありません。 そのようなハンディキャップを背負って、外需依存度の高い小国と一次産品輸 出国を相手に日本に有利なルールが作ろうというのはあまりにも無謀というも のです。 こうなると、日本はいったいどの国々と連携して多数派を形成して、自国に 有利な TPP のルール作りを誘導することができるのでしょうか。 最後に交渉での不利な点をまとめると、 ①多数国間交渉においてルール作りを先導するのは利害の一致する国々と連携 する多数派工作が不可欠。日本とは利害が一致する国はない。 ②交渉参加国の中で日本より国内市場が大きいのはアメリカだけ。輸出すると したらアメリカしかないのだが、アメリカはドル安誘導など関税以外の政策 手段をもっている。日本は円高、ドル安に打つ手がない。 ③菅首相は APEC 横浜で開国宣言し、日本=鎖国というイメージを国際的にば らまいた。閉鎖的というイメージを取り払うためにも、日本は交渉でも相当譲 歩しなければならなくなる。 ④P4が TPP ルール作りの制約を持っている、それゆえ TPP では米などの除外 品をあらかじめ提示して交渉参加は認められない。 14
  • 15. 5)アジアの成長を取り込めるか アジアは今後の成長センターであり、アジアの成長をいかに取り込むかが日 本の成長戦略のカギになっています。 政府、財界、多くの経済学者やコメン テーター達がこのように論じてきました。確かにアジアは今後とても成長する 見込みがありカギにはなっているのですが、成長するアジアに重要なのはなん といっても中国であり、ついでインド、韓国といった国々になります。しかし TPPにはこの3つの国のいずれも入ってはいません。中国、韓国がこれから 参加交渉に加わってくるのでは、とも考えられますがその可能性はとても低い のです。 中国はリーマンショックの世界不況以降、人民元を安く維持し、輸出を拡大 することで成長しようとしてきました。このためアメリカは中国の為替操作を 激しく非難し人民元の切り上げを求めている状態です。しかし人民元の切り上 げをすると外需依存度の高い中国の景気に悪影響が及ぶので、中国はアメリカ の要求を断っています。この人民元切り上げの問題は米中両国間で大きな懸案 となっています。つまり中国は自国の輸出に有利になるように為替を操作して いる国なのです。自由貿易以前の段階で米中関係はつかえてしまっています。 さらに、自国の利益を利己的に追及するために為替操作をしている国が、高度 に進んだ自由貿易ルールが敷かれている TPP に参加するのはとても思えません。 中国が FTA を結んでいる国も尐なく、ASEAN の国1カ国とニュージーランド、 チリ、ペルーといった小国ばかりです。 では韓国はどうでしょうか。 韓国はつい最近アメリカとの FTA に合意しています。複数国間による急進的 な自由貿易協定である TPP よりも、二国間で交渉する FTA の方が有利である と考えており、それゆえ TPP ではなく、米韓 FTA を選択しているのです。な ので、韓国は TPP に参加する可能性がとても低いと考えてよいでしょう。 以上の事から韓国と中国が参加しそうにないことがわかりますが、実は政府 はおそらく参加しないということをわかっていたのではないかと推測していま す。それは上の「TPP 参加の意義」でも抜粋した、内閣官房の資料による「経 済産業省計算」に補足で書かれていたことをみればわかります。この計算では 「日本が TPP、EU と中国との EPA いずれも締結せず、韓国が、米国、中国、 15
  • 16. EU と FTA を締結した場合」の経済損失を計算しているのです。普通は「日本 が TPP を締結せず、韓国が TPP を締結した場合」というように、両方同じ条 件のもと、計算が行われるものです。しかし日本については TPP、韓国につい ては FTA で計算しています。理由は一つ、政府は、韓国はアメリカとの FTA を選択して、TPP に参加しないと考えているから、と解釈します。 ~GDP のシェア~ GDPのシェア(比重)を見てみましょう。現在TPPに交渉参加している 9 カ国に、日本を加えた10カ国の中のGDPのシェアの計算をしてみます。す るとアメリカが 67.2%、日本 24%、オーストラリアが 4.4%、残りの7カ国全部 で約 4%程度です。つまり日本、アメリカの二つの国で約 90%を占めているの です。アジアなどは小さなシェアになっています。これでは内閣府や政界が考 える「TPP によってアジアを取り込む」などというのは、まったくの誇大妄想 となってしまいます。つまり、結論から言うと日本が参加した場合の TPP とい うのは日米 FTA のようなものなのです。GDP のシェアでもわかる通り、「アジ ア」というのはただの名前だけだといっても過言ではないのです。 中国と韓国が TPP に参加しそうになく、日米でほとんどのシェアを占めてい ます。TPP において日本はどうやってアジアの成長を取り込むというのでしょ うか。 そして TPP 交渉参加国には、GDP に占める輸出額の割合が高く、国内市場 の小さい国が非常に多いのです。外需依存度が日本より小さい国はアメリカし かありません。つまり TPP に参加しているアメリカ以外の全ての国は日本より 外需依存度が高いということになります。シンガポール、マレーシアに至って は GDP より輸出の規模の方が大きいほどです。つまり日本を含めた10カ国で 日本が輸出できる市場は、実質的にアメリカだけなのです。そして上で挙げた 通り、この10カ国の中のほとんどのアジア太平洋諸国の成長は、輸出に大き く依存しています。TPP 交渉に参加しているアジア太平洋諸国にとって、この 10カ国の中における有力な輸出先は日本とアメリカのです。そしてアメリカ はというとそう簡単に輸出させてくれる訳がありません。 APEC に出席するために来日したオバマ大統領は、横浜市において、アメリ カが今後5年間で輸出を倍増する戦略を進めていることを説明したうえで、こ う発言しています。 16
  • 17. 「それが今週アジアを訪れた理由の大きな部分だ。この地域で、輸出を増やす ことにアメリカは大きな機会を見出している」 「国外に10億ドル輸出するたび に、国内に5000人の職が維持される」 「巨額の貿易黒字がある国は輸出への 不健全な依存をやめ、内需拡大策をとるべきだ。いかなる国もアメリカに輸出 さえすれば経済的に繁栄できると考えるべきではない。」 つまり、アジア地域への輸出の拡大によってアメリカ国内の雇用を維持しよ うとしている一方、アメリカには輸出してくるなよと言わんばかりの発言をし ています。逆に貿易黒字の国に対して内需を拡大し、アメリカからの輸入を増 やせ、と言っているのです。 なぜオバマ大統領はあからさまにアジアへの輸出拡大、そして自国の雇用を守 る、などという発言をしたのでしょうか。それを知るにはそもそもどうしてア メリカがTPPに参加表明したのか、知る必要があります。 17
  • 18. 6)アメリカの戦略 そもそもTPPとは、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドと いった小国による小さな連合でした。ところが2009年にアメリカのオバマ 大統領が関与を表明。それによって大きく変化することになり、TPPは小さ な通商国家の集まりからアメリカの世界経済戦略への一端へとかわりました。 つまり、TPPが何を狙っているかを知るには、アメリカが何を狙っているか、 アメリカの戦略的意図を考える必要があります。 まず先ほど書いた、オバマ大統領があからさまに自国の雇用と輸出拡大なる発 言をした理由は、おそらくこの演説がアメリカ国内の有権者を意識したものだ からです。オバマ政権の支持率は低下していて、大統領は追い詰められていま す。 例えば、オハイオ州の北東部に位置するマホーニング・バレー地域は、民主党 の支持率が強く、来年の選挙ではオバマ大統領の楽勝が当然とみなされている 地域です。しかしその地域でも選挙に不利となる問題が起きています。それは 失業率が10%に達する一方、所得が減尐しているということ。楽勝と言われて いる地域での支持率低下は致命的ともいえ、大統領の足元が非常に不安定とな っています。雇用を増やしたい、支持率をつなぎとめたい、と尐なからず考え ているはずです。そう考えたら APEC でのあからさまに雇用を増やす、輸出を 伸ばす、といった発言も理解できます。そしてTPPはそのための手段の一つ となっているのです。 2012年の大統領一般教書演説を覗いてみても、自由貿易という言葉はひと つも出てきていないのです。そして貿易政策についてはこのように書いていま す。 「企業がもっと海外に製品を売るのを助けるため、我々は2014年までに輸 出を 2 倍にする目標を設定している。なぜなら、我々がより多く輸出をすれば、 この国でもっと雇用を生み出せるからだ。すでに我々の輸出は増えている。最 近、我々はインドと中国との合意に署名したが、それは合衆国の25万人以上 の雇用を支えることとなるだろう。そして先月、我々は韓国との貿易協定に合 意したが、それは尐なくとも7万人のアメリカ仁の雇用を支えるだろう。この 協定は、産業界と労働者、民主党と共和党から前例のない支持を得ている。そ して私は、議会に対しこれを可及的速やかに通すことを要請する。私は就任前、 貿易協定を強化すること、そしてアメリカの労働者を裏切らず、アメリカの雇 18
  • 19. 用を促進するような協定にのみ署名することを宣言した。それこそが韓国との 協定であり、パナマやコロンビアとの協定交渉やアジア太平洋そしてグローバ ルな貿易交渉の継続の中で私がやろうとしていることである。」 貿易政策についてはこれが全部です。まずオバマ大統領は貿易協定がアメリ カの雇用を増やす、と重ねて強調しています。そして、アジア太平洋との貿易 協定もその一環と言っています。これを見るとわかる通り、オバマ大統領は自 国のこと、すなわち国内のことしか視野に入れていません。内向きなのです。 もしオバマ大統領が本気で国際的なリーダーシップを発揮して TPP を「アジア 太平洋の新たな地域経済統合の枠組み」として発展させようと思っているなら このような内向きな、発言はするわけありません。おそらくアメリカの中では アジア太平洋諸国にとって互恵的な「新たな地域経済統合の枠組み」の基礎に するつもりなどないと思います。つまり、アメリカにとって TPP とは、アメリ カのアメリカによるアメリカのための貿易協定と考えているのです。もしそれ が本当ならば、アジア太平洋の地域連合だとか、貿易・投資に関する先進的ル ールとか、日米同盟の強化だとか、そのような大きな話ではないのです。勝手 に日本国内だけで、そんなふうに大騒ぎしているだけということになります。 19
  • 20. 7)ドル安と TPP 前に述べたように、日本が加わった場合の TPP は GDP の比重で日米が9割 以上を占めます。TPP は実質日米 FTA のようなものです。日本が期待できる輸 出先はアメリカしかなく、アメリカも期待できる輸出先は日本しかありません。 そしてアメリカは経常収支赤字の削減がしたいので、輸出を飛躍的に増やした いと切望しており、そして輸入を増やすつもりは毛頭もありません。 これを TPP で考えると、日本への輸出を格段に増やす一方、 日本からの輸入は阻止したい、 と考えていることになります。一見すると TPP によって日米両国の関税が引き 下げられた場合、自由貿易の結果、日本の方が貿易黒字になり、アメリカは赤 字になってしまうように思えます。しかし、戦後の GATT/WTO の交渉で関税 がかなり引き下げられた今日では関税は国内市場を保護する主な手段ではなく なっているのです。そしてグローバル化した今日世界において、国内市場を保 護するための最も強力な手段は関税ではありません。それよりも通貨なのです。 アメリカの国際戦略の基本は経常収支赤字の削減で、リーマンショック以降 の経済戦略の大命題のために、ドル安を志向するようになっています。また、 今回の不況が大規模かつ長期化の様相を呈しているため、アメリカは当面、金 融緩和政策をとらざるを得ず、その点からもドル安を基調としてしばらく続く ことが見込まれます。このドル安は日本企業の国際競争力を奪う、強力な手段 です また、ドル安は国際競争力で不利になりたくない日本の製業に対し、アメリ カにおける現地生産比率を高めるように仕向けることができます。ドルが安い だけでなく、安定しないというリスクだけでも、日本企業が海外生産比率高め るのに十分な効果を発揮します。 そしてすでに日本の製造業の現地生産は進展しています。日本の自動車メー カーはアメリカでの新車販売台数の6割以上を現地生産車としています。報 道???出所を明記して下さい。によればホンダの 2009 年のアメリカでの現地 生産比率は8割を超えているそうです。日本の輸出産業は、為替リスク回避の ために、すでに海外生産比率を高めてきているのです。言いかえれば、海外生 産の進展によって、関税の有無は輸出の増減と関係なくなりつつあるというこ とです。 そしてこれからも、アメリカの現地生産が進むのであれば、仮に日本が TPP に 参加しアメリカに関税を撤廃してらったとしても、もはや、関税撤廃と輸出競 争力の強化とは何の関係もないことになってしまいます。 結果、TPPに参加して日本の輸出を伸ばそうというもくろみはドル安によ って潰されるのです。 20
  • 21. 8)世界経済での問題 日本のTPPにおける無防備や無理解は、日本人がリーマンショック後、何 がおきているかをあまり理解してないところにあると思います。世界の構造変 化を無視はできないのです。TPPを理解すれことは、単なるアジア太平洋貿 易の枠組みというものを超えて、世界経済全体の構造を理解することに繋がる と思うので、まずリーマンショックに至る世界経済の構造問題を見たいと思い ます。 ~金融のグローバリゼーション~ まず、リーマンショックを引き起こした金融のグローバリゼーションは、1 980年代にアメリカがいわゆる新自由主義的な理念に基づき、規制の緩和な ど金融市場の自由化を推し進めたことに端を発しています。そして厳密には1 980年代に始まったグローバリゼーションは2008年のリーマンショック までの間に第一期と第二期のふたつに分けることができます。 まず第一期は1980年代に始まり、1997~98年のアジア通貨危機で 終焉します。前期のグローバリゼーションの原動力になったのは、先ほど書い たようにアメリカ主導による国際的な金融市場の規制緩和などによる国際的な 資本取引の活発化です。これにより、新興国、とりわけ東アジア諸国には海外 から資本が大量に流入に新興国経済は急成長を遂げました。新興国は海外資本 の流入が経済成長を促進するものだと考え、対内直接投資(海外の企業による 自国企業に対する直接投資)催す政策を積極低的に推進しました。また、アメ リカを中心とする経済学者や政策担当者は資本の自由な移動が刑事亜を成長さ せると信じており、この信念を批判したのは一部の良識的な知識人に限られて いたそうです。 しかし、無規制な資本の国際的な移動は経済の変動制(ボラティリティ)を 著しく高めました。世界中を自由に移動するマネーは好況も不況も増幅させる ように働き、バブルとクラッシュを起こしやすくしたのです。一国の経済は、 世界経済の変動に大きく影響を受けるようになり、政府は自国の経済を管理す ることができなくなっていきました。ロシアや南米において金融危機が発生す るようになり、ついに東アジアにおいて、巨大な金融危機を引き起こしたので 21
  • 22. す。この金融危機があってから、様々な学者が批判を始めました。自由貿易の 強力な掩護者として有名なインドの経済学者バグワティすら、 「物品の自由化と 金融の自由化は同列には論じられない」と金融のグローバリゼーションを厳し く批判しました。そして自由な資本移動が大きな利益をもたらすことを示す実 証的な証拠はないと断言しました。例えば戦後、スオスを除く西ヨーロッパは 1980年代後半まで資本の自由化なしで経済成長を遂げています。日本でも 外国資本による巨額の対内直接投資なしでも高い経済成長を実現しました。む しろ歴史を振り返ると無規制な金融市場は危機や混乱を繰り返すものだという ことがわかりました。経済学者のゴードンハンソンも「対内直接投資による正 の外部効果はほとんどなかったばかりか、国内経済に悪影響を及ぼした場合す らある」と実証結果を2001年に発表しています。 現在、資本移動の急激な自由化が進められたのはアメリカの金融機関という 歴集団の強力なロビー活動のせいであると言われています。例えば政府機関の 要職はウォール街の金融機関出身者で占められています政治は金融機関に有利 なように金融市場の自由化の方向へと動かされているのです。バグワティはこ のような金融の癒着を「ウォール街・財務省複合体」と呼んでいます。政治が ウォール街に乗っ取られ金融市場の改革はなかなか進まないですが、アジア通 貨危機のおかげで、 「外資の導入を積極的に促進すればよい」というような考え が間違いだという認識は現在にいたっては世界の知識人の間では共有されるよ うになりました。しかし日本人にはこの期に及んで外資導入を進めたがる金融 資本主義者が生き残っているのも現状です。 ~第二期グローバリゼーション~ 第一期で自由な国際資本移動の問題点が明らかになったとはいえ、国際金融 システムの制度改革が進んだというわけもなく、グローバル経済の不安定な部 分は残されたままでした。東アジア諸国はこうしたことが2度と起きないよう に金融リスク強い経済構造を構築し始めました。しかし皮肉なことにこのリス ク対策が再びグローバリゼーションを促進する結果となり、リーマンショック の原因のひとつにすらなってしまったのです。そしてこのアジア通貨危機から 2008年までが第二期グローバリゼーションになります。 これにについて、簡単に説明すると、まず2000年代半ばまでの世界経済 は好況でした。しかしこれはアメリカの住宅バブル、そしてそれを背景にした アメリカの消費者の過激な消費に全面的に依存していた結果だったということ です。住宅バブルを背景に、中国などの東アジア諸国はアメリカに向けて輸出 を拡大し、輸出主導による好景気を謳歌しました。言うまでもなく、日本もこ 22
  • 23. の恩恵を受け、2002~6 年の景気回復を実現したのです。この時期目覚ましい 成長を遂げた東アジア、特に中国は、先ほど書いたアメリカやヨーロッパへの 輸出に依存して成長していたのであり、自国の内需の拡大による成長では必ず しもないということです。アメリカの輸入は住宅バブルによる過剰消費の産物 だし、ヨーロッパもバブルの影響を受けていたわけなのでアジアの成長センタ ーはアメリカの住宅バブルのたまものだったということです。日本は東アジア に巨額の輸出をしていますが、東アジアはさらにアメリカ、ヨーロッパに巨額 の輸出を行っています。これは日本が東アジアへ資本財を輸出、その資本財を 東アジアが加工組立てし製品になりアメリカやヨーロッパに輸出しているから です。日本は東アジアというよりは、東アジアを経由してバブルで浮かれてい るアメリカなどに輸出をしていたのです。これが第二期のグローバリゼーショ ンの貿易の流れです。ですので、アメリカの住宅バブルが崩壊したら、最終消 費地が不況になるので東アジアも不況になり、日本も不況になるのです。 ~これからの世界経済~ リーマンショックを機に、アメリカを先頭に世界中で金融緩和が行われまし たが資金需要がないために世界中に過剰に供給され始め、経済を悪化させまし た。 世界経済を正常化し安定化させるには、金融政策だけではなく、需要を拡大 させることが一番大切だとされています。しかし、これまでの世界経済を引っ 張ってきたアメリカの旺盛な消費需要は住宅バブルによって消滅したのでアメ リカの消費を頼むことはできません。アメリカにとって代わる牽引役がいなけ れば安定化はできません。今までのような、貿易不均衡は時速不可能なのです。 これが[グローバル・インバランス]というもので、これからの世界経済の 立て直しにはこれがとても重要となるのです。 23
  • 24. 9)グローバル・インバランス 国際連合貿易開発会議が、2010年度版「貿易開発報告書」において、こ の問題を論じています。 【2000年代にはアメリカの過剰な消費が世界経済を牽引していた。しか し、このグローバル・インバランスの世界構造こそが、金融危機の遠因である。 この構造はもはや持続不可能である。世界経済秩序の安定化のためにはこれの リバランスが必要である。アメリカは、過剰消費を改める一方で日本、ドイツ 中国といった経済収支黒字国は内需を拡大し、輸入を増やすべきである。しか し今のところ日本、ドイツ、中国いずれもが依然として輸出主導で景気回復を 図ろうとしている。このためリバランスは進んでいない。】 「貿易開発報告書」はこのように述べた上で、アメリカに代わる牽引役を検 討しています。その中で中国については、アメリカの代役を期待することはで きないと考えているようです。理由は第一に中国の消費がアメリカの八分の一 にすぎなく、輸入は8%を占めるにすぎないからです。そしてアメリカと中国 では輸入している消費財の性質がまったく違うからです。 ようは、アメリカに代わる牽引役を検討しているので、アメリカの消費需要 の代わりになるかというポイントが重要なのです。 「貿易開発報告書」によると、 アメリカが輸入している製品と類似度が90%以上であるのが、ドイツ、次い で日本が 70~80%となっています。以上のことから、国連貿易開発会議はドイ ツと日本が世界経済を牽引できる国だと指摘しています。両国は消費需要が大 きいだけではなく、輸入している製品の性質がアメリカと近いからです。そし て日本はドイツより消費規模が大きいことからドイツ以上の役割を果たすこと ができると期待されています。 国連貿易開発会議は、リーマンショック後の世界刑事亜の秩序回復、すなわ ちリバランスのためには、ドイツ、そしてそれ以上に日本が内需主導で成長し、 輸入を拡大すべき、と主張しているのです。 しかし、日本では、ほとんどこのような議論はされていません。それどころ か、日本は依然として輸出主導の経済成長を目指しています。しかしそれは国 連貿易開発会議が懸念するように、リーマンショック後の世界秩序の再建とい う世界が取り組まなければならない問題を悪化させるものなのです。日本はも ともと、輸出主導の国ではないですし、内需でもっている国なのだから、これ 24
  • 26. 10)まとめ 【TPP 交渉について米通商代表部(USTR)の高官が、日本の参加を認める のには米政府・議会の非公式な事前協議が必要で、参加決定に時間がかかるた め「受け入れ困難になりつつある」との認識を示していたことが、日本政府の 内部文書で分かった。正式協議を合わせると、米議会の参加承認を得るには半 年間程度が必要な見込みで、早期参加表明しても来年の夏にまとまる予定のル ール策定作業に実質的に加われない可能性も出てきた。日本に有利な条件を得 るため早い参加が必要、という TPP 推進派の主張の前提条件が崩れかねない状 況だ。野田首相は今月12、13日にハワイで開かれるアジア太平洋経済協力 会議(APEC)首脳会議で参加表明を行いたいと意向とみられ、民主党内で調整 中。表明すればこれで最速となる。日本政府は米国の承認手続きに関連し、米 議会の了承には最低90日間の協議期間が必要としていたが、事前協議には触 れていなかった。日本政府関係者によると、この期間は3ヶ月間程度という。 内部文書によると USTR 高官や米議会関係者は、事前協議は「米政府と議会が 時間をかけ非公式な協議を行う」とし、日本政府の TPP への姿勢を歓迎できる 見通しがついて「初めて90日の期間に入る」と説明している。日本を受け入 れるため、現在米国やチリ、豪州など9カ国で進行中の TPP 交渉を遅らせるこ とは望ましくなく「すでに加盟期限は過ぎた」と明確に述べている米議会関係 者もいる。TPP 後押しする経済産業省などはこれまで「早期に参加して有利な 条件を獲得すべきだ」と主張。しかし APEC で参加を表明しても交渉参加でき るのは早くて来年の夏前。9カ国は来年の夏までの合意を目指している。日本 が加わった段階ではルールの細部まで議論が終了している可能性が大きい。 】 →11 月2日 東京新聞より 記事にも書いてある通り、まず日本は TPP に参加すること自体があやしいのが 現状になっている。要するに、アメリカにお願いして日本は入れてもらうよう なものになっているので、推進派の早期参加でルール作りを主導なんてことは、 夢のまた夢の話になっている。 そして最速で参加表明しても日本が TPP のルール作りの交渉に参加できるの は来年の夏前くらいになるということ。日本以外の TPP 参加国は TPP の交渉 を遅らせたくないと考えている。そして追い打ちのこの記事を紹介したい。 ~ホノルルでのAPEC首脳会議~ 26
  • 27. 2011 年の 11 月12日、朝日新聞の政治ニュースに 【オバマ大統領が12日朝にホノルルで開く TPP 交渉9カ国の首脳会合に、 野田首相が招待されない見通しがあることが11日わかった。9カ国が積み上 げた交渉の成果を大枠合意として演出する場に、交渉参加に表明したばかりの 日本は場違いとの判断が背景にあるとみられ、TPP 交渉の厳しい洗礼を受ける 形だ。 】とある。 すでに扱いがひどく、日本はやはりお願いして TPP に参加する立場になりそ うだ。 野田首相はやっと APEC 首脳会議に参加できたが、日本時間で 13 日午前、 APEC 首脳会議の前にオバマ大統領と日米首脳会議も行った。 しかし、実は APEC の首脳会議のほうでアメリカに厳しい洗礼を受けたので ある。 アメリカ通商代表であるロン・カーク氏が記者会見で「野田はすべての品目 で関税をなくすと言った」と表明したとのこと。日本はそんな発言していない ので、外務省は即座に「そんなことは言ってない」とカーク発言に講義したが、 これに対してアメリカは一切修正に応じていない。しかもこれは関税の例外部 分を認めるかどうかという TPP の核心部分である。日本が死守しようとしてい るコメの例外扱いは認めない、というアメリカからの強烈なメッセージだろう。 そしてもう一つカーク氏は、 「日本は非科学的で不当な障壁を撤廃する必要があ る」と述べ、日本側に迫る重点部分として「牛肉、郵政、自動車」の3分野を 突きつけたとのこと。このうち、自動車市場の開放要求があったらしく、日本 側としては想定外で衝撃を受けたという。詳しくはわからないが、これも日本 にとってと非常に痛手となると予想される。 カーク氏が関税の完全撤廃を発言したのも実は日本には前例があるからであ る。というのも日本の過去の交渉姿勢で、日本は経済連携協定(EPA)で全 体の 1 割にあたる940品目を関税撤廃の例外品目に指定して特に米 778%、小 麦 225%など、農産物は世界的にもまれな高関税を維持しているのだ。医療品や 自動車分野でも独自の非関税障壁を課していると、アメリカ側は不満がある。 要は市場開放を求める一方、例外品目を作りたい日本に対して「いいとこど り」と牽制しているのだ。FTAなどの二国間交渉よりもさらに自由度が高い TPPでは、そもそも交渉が難しい。複数国、さらに原参加国であるP4に交 渉の主導権がある、そして今の日本の立場を考えると例外品目を作ることはほ ぼ不可能、といえるだろう。 さらにわざわざホノルルまで行ってオバマ大統領にTPP参加を表明したと なると、離脱不可能なわけで、今年の夏前位に参加できたとしても日本の不利 は目に見えます。 27
  • 28. 10)おわりに 日本がTPPの交渉に参加するためには、すでに参加している9カ国すべて の国から承認を得る必要があります。 そのため『 政府は16日、TPPの交渉に向けた事前協議団をベトナムと ブルネイに派遣すると発表し、午後には外務省・片上慶一経済外交担当大使が ベトナムへ向けて出発した。 協議団には農水省や経産省からも担当者が加わ り、現時間17日にベトナムと、現時間19日にはブルネイと協議を行って日 本の交渉参加に関して要求などをきくことにしている』とある。 (出所を明示し て下さい) これからうまくいけば、その他の参加交渉国にも協議団を派遣すると思われ る。私はベトナムよりも先にP4であるチリ、ニュージーランド、シンガポー ル、などに要求を聞きに行って承認を得るべきだと思いますが、そこは政府も 別の考えがあるのかな、と思われます。 この先予測出来ませんが、今のままだと米国などの農産物に例外措置をとれ ず、関税の完全撤廃、そしてアメリカの要求している様々な非関税障壁を撤廃 する形になるだろうと思います。非関税障壁は日本が大きく変わる可能性もあ るので、これからも経過を見ていきたいと考えています。 28
  • 29. ~参考文献等~ 中野剛志「TPP亡国論」集英社新書 ・東洋経済 http://www.toyokeizai.net/business/society/detail/AC/74e5fb3b9fb64af c8bcb5e669734ddf6/ ・サルでもわかるTPP http://luna-organic.org/tpp/tpp-3-1.html ・毎日JP http://mainichi.jp/ ・TPP問題 http://tpp.gakumu.com/index.php?%EF%BC%B4%EF%BC%B0%EF%BC%B0%E3% 81%AE%E6%AD%A3%E4%BD%93 29