ビットコインとブロックチェーン入門
藤本 健太
目次
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1. ビットコインは詐欺なのか?
2. ビットコインの基礎知識
3. 実際のビットコインを見てみる
4. ブロックチェーンの基礎知識
5. ブロックチェーンのビジネス性
6. ブロックチェーンの事例
1.ビットコインは詐欺なのか?
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① マウントゴックス事件を振り返る
② 円天との違い
③ ランサムウェアとの関連性
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①マウントゴックス事件を振り返る
 2014年にビットコインの交換所であるマウントゴックスで起きた事件。
 85万BTC(事件直後のレートで約470億円)が消えた(ハッキング?横領?)
 あくまでマウントゴックスのシステムないし運用の問題で発生した事件なので、
取引対象だったビットコイン自体の問題では無かったが、世間的にはネガティ
ブなイメージが付いてしまった。
 外貨両替所でハッキング受けても通貨そのものの安全性は関係無い事と同じ話。
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②円天との違い
 円天とは2001年にL&Gという健康食品会社が始めた電子マネー。
 楽天ポイントやマイレージに近い。
 例えば、10万円をL&Gに預けると、1年毎に10万円分の円天マネーが発行される。
 新しい出資金が無ければ配当が支払えないという典型的にネズミ講。2007年破産。
 円天とビットコイン、日本円の違い
円天 ビットコイン 日本円
発行者 L&G 不特定多数 日本銀行
発行ルール L&Gの独断 発行ルールがプログラ
ムされている(発行量
上限、発行者選定等)
日本銀行が国債を購入
する必要あり
・ビットコインは誰でも発行者になれる。
・発行ルールがプログラム上明文化されているので、
発行者の信用度に依存しない。
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③ランサムウェアとの関連性
 最近話題になったWannacryによる事件は振込先がビットコインになっていた。
 ビットコインの匿名性が悪用され、犯罪に利用されやすい。
 誰でもビットコイン口座を開設可能。
 第三者によってビットコイン口座は凍結できない。
2.ビットコインの基礎知識
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① ビットコインの始まり
② ビットコインが出来ること
③ ビットコインの仕組み
④ ビットコインの課題
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①ビットコインの始まり
 2008年にSatoshi Nakamotoを名乗る人物によって提唱された暗号通貨および
その基盤。
 2009年に運用開始して以来、一度もシステム停止したことが無い。
 提唱はML上で投稿されたので、Satoshi Nakamotoが誰なのかは不明。
 類似の暗号通貨は数百種類以上あり、それごとに基盤が異なる事が多く。機能
にも差異がある。
 Ethereum、Ripple、Dash、Monero等
 ちなみに、これらの通貨カテゴリーは海外だとCryptocurrency(暗号通貨)と言
われている。日本だと仮想通貨とも呼ばれる。
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②ビットコインが出来ること
 既存の銀行サービスの課題
 海外送金が遅い(数日)。手数料が高い(数千円程度)。
 銀行がつぶれたら、勝手に口座凍結される可能性がある。
 (特に海外)貧困層は銀行口座が持てない(口座維持手数料等がかかる)。
ビットコインなら、1時間で送金完了。手数料は100円程度。
ビットコインなら、誰にも自分の口座を操作されない。口座は半永久的に維持。
ビットコインなら、誰でも口座を持てる。維持費用は発生しない。
A銀行 コルレス銀行 B銀行
専用システム 専用システム 専用システム
• 海外送金時は、複数の銀行の
専用システムを経由する必要がある。
• 外部攻撃を防ぐため、専用システムの
運用費が高額になる。
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③ビットコインの仕組み データの持ち方
一般的な口座システム
残高がDBに管理される
Aさん:100万円
Bさん:20万円
ビットコインのシステム
取引履歴で管理される
前回の取引データをハッシュ値として持つ
Aさん→Bさん:10万円
Bさん→Cさん:20万円
・・・・
トランザクション:1取引
ブロック:複数のトランザクション
詳細
・トランザクション:1回の取引データ
・ブロック:複数の取引データと前回のブロック”ハッシュ値”、ナンス値
・ブロックは約10分毎に生成される。現在は47万ブロック
補足:ハッシュ値とは・・・
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 任意の文字列から(暗号学的)ハッシュ関数をかけて出力される固定長の値。
ハッシュ値から元の値に戻すことは不可能とされている。
 ハッシュ関数には色々種類がある。
 SHA-256:256文字で出力するハッシュ関数。ビットコイン、SSL通信等で利用される。
 MD5:128文字で出力するハッシュ関数。ファイルの改ざんチェック等に利用される。
 利用イメージ(SHA-256)
・・・・awfafaghipahaapoih
・・・・awfafaghipahaapoig
テキスト化
・・・・・jopgishdfoisdhfoishf
・・・・・lkdjdfghngsdvgbgnz
改ざん
ハッシュ関数
(SHA-256)
出力
出力
全然違う
← 256文字 →
← 256文字 →
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③ビットコインの仕組み データの更新(Proof of Work)
①各マイナーは、過去の取引データ全てを同期している。
②マイナー同士で、特定の値を求める競争を行う。
競争のお題
ナンス値を調整して、更新するブロックにハッシュ関数(SHA-256)をかけて、
先頭に0が特定数(17個くらい)連続するハッシュ値を求める。
③最初に求めたマイナーがデータの更新権限を取得する。
マイナーはインセンティブ(12.5BTC)と取引手数料(送金者負担で100円程度)を得る。
マイナーとは、ビットコインにサーバーリソースを提供する人
補足:ハッシュレート(採掘速度)
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 ハッシュ関数で特定の値(先頭に0が連続する)を効率的に求める事は原理上出来
ないため、総当たりで実施していくしかない。つまり、秒間のハッシュ計算数
が高ければ高いほど、更新権限を得る可能性が高い事になる。
 ハッシュレートの上昇に応じて、ハッシュ計算の難易度は自動で上昇し約10分に調節される
 現在、全ノードのハッシュレートは、550京回/秒
ハッシュレートの時間推移 マイナーのハッシュレート比率
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③ビットコインの仕組み データの信頼性
 分散型ネットワークの性質上、同期が取れないと異なるブロックが生成される
状況が発生する。その際は、ブロックが長い方を正とする。
例)なんらかの理由で同期が遅れ、2つのビットコインネットワークでそれぞれブロック生成
ネ
ッ
ト
ワ
ー
ク
A
Block
100
Block
101A
Block
102A
Block
103A
ネ
ッ
ト
ワ
ー
ク
B
Block
100
Block
101B
Block
102B
補足:改ざんするためには・・・
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 長いブロックを持つマイナーを正とする特徴を持つため、改ざんを行うために
は、他のマイナーがブロックを生成するよりも倍速でブロックを生成する必要
があり、実現が極めて困難。
 過去のデータを改ざんするためには、遡った分だけのハッシュ計算が必要なのでもっと無理
正
常
な
更
新
改
ざ
ん
攻
撃
正常な更新が約10分でハッシュを見つけ
るまでに、改ざん側は本来20分かかる作
業を実施しなければならない。
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④ビットコインの課題 技術面
 ハッシュレートの上がり方が指数関数的で、マイニング性能は日進月歩。誰か
がネットワークを破壊しかねない。
 ハッシュレート1割を持ったマイナーがデータ改ざんに成功する確率は0.1%
 改ざんしようとしたら出来てしまう。(ビットコインの価値が下がるので普通はやらない)
 ビットコインの仕組み上、スケールアウトできない。7取引/秒が上限。
ハッシュレートの時間推移 マイナーのハッシュレート比率
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④ビットコインの課題 運用面
 ビットコイン口座をスマホ等で自己管理出来るが、引き出し用パスワードを忘
れると、誰も引き出せなくなる。
 ビットコインプロトコルを改善するためには、全マイナーの95%の同意が必要。
様々なステークホルダーがいるため、改善が進まない。
 ビットコインの価値が無くなると、ネットワークを維持するマイナーがいなく
なってしまう。
3.実際のビットコインを見てみる
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① ビットコインの入手方法
② ビットコインの取引を見る
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①ビットコインの入手方法
 取引所でビットコインを購入する
 購入するためには、本人確認(免許証登録等)が必要
 株やFXと違い、24時間取引可能
 bitflyer:国内最大の暗号通貨取引所
 coincheck:スマホアプリが多機能。EthereumやRipple等も扱っている
 友人からビットコインをもらうという手もある
国内主要6社
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②ビットコインの取引を見る
 ビットコインはオープンな分散台帳なのでWebで誰でも参照出来る。
 例:https://blockchain.info/
 藤本の口座に入金されたトランザクション
 https://blockchain.info/ja/tx/a9f33a2fbd7ab7e4dc85166acb17265f2f2c2396e5e72e5e649332d247c24356
 寄付サービスの入出金確認
 https://blockchain.info/address/1Kxjt3hNB5Zj8vSdYaVgaBrTdzXtNvb8MZ
補足:ビットコインで文字データ管理
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 ビットコインは、通常はビットコインの取引履歴を管理するためのネットワー
クだが、取引データの特定の領域に文字データを書き込むことが出来るので、
これを活用したサービスもある。
 ビットコイン上で結婚証明
 https://blockchain.info/tx/3df6354ef03bc70bd3c8157d01f2349d0a42d1f35b6e67103588bdb4444d934a
 Proof of Existence(ファイル存在証明)
 https://blockchain.info/tx/51595fbf021280f8db107455f7f6c9dee85df77b9c03595bdaea0579cdfa50c5
 444f4350524f4f46:「DOCPROOF」を16進数に変換したもの
 以降の文字列:「これはテストです」のハッシュ値
4.ブロックチェーンの基礎知識
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① パブリックチェーンとプライベートチェーン
② スマートコントラクト
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①パブリックチェーンとプライベートチェーン
 暗号通貨の基盤となるブロックチェーンには、管理者の有無によってパブリッ
クチェーンとプライベートチェーンの2つに大きく分けられる。
Bitcoin Ethereum Ripple Hyperledger Fabric
分類 パブリックチェーン プライベートチェーン
ソースコード オープンソース
取引履歴 第三者も確認可能 第三者は確認不可?
管理者 不在 だいたいRipple社 複数の企業・団体
処理性能 7tps 7~15tps 1,000tps 数百~1,000tps
取引手数料 管理者に搾取されない 管理者が搾取しようと思えば搾取出来る
永続性 1つでもマイナーがいれば維持される 提供企業が倒産したら消滅
安定性 システムダウンしにくい
改ざんの懸念 改ざんが困難
主なブロックチェーン基盤
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②スマートコントラクト
 スマートコントラクトとは、契約(プログラムコード)を分散ネットワークに格
納する事で、決済等を自動実行する機能。
 EthereumやHyperledger Fabricが持っている機能。
 Ethereumでは、プログラムの登録と実行時に手数料が発生する。参照するだけなら手数料は
発生しない。
 自動化出来る例
 100円を貸すので、1週間後に105円で返す
 100円支払うごとに、デバイスの使用権を1時間譲渡する
 スマートコントラクトのメリット
 相手を信用しなくても、サービスを受けられる。
 取引データだけでなく、プログラムコードも永続化出来る。
 契約(プログラム)が改ざんされない
5.ブロックチェーンのビジネス性
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① パブリックチェーンとプライベートチェーンの方向性
② パブリックチェーンが出来る事
③ プライベートチェーンが出来る事
④ ブロックチェーン技術活用のユースケース
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①パブリックチェーンとプライベートチェーンの方向性
A銀行 コルレス銀行 B銀行
・決済完了に数日かかる
・数千円の手数料
・口座が必要(貧困層無視)
・取引が秘匿
遅延や手数料問題は
中央統合サーバー導入で
解決できるが運用・管理を
誰にするか揉めて実現せず
例)海外送金
従来手法
プライベートチェーン パブリックチェーン
専用システム 専用システム 専用システム
既存プレイヤーを活かした現業務の大幅改善
既存プレイヤー無視の圧倒的コストダウン
→これが意味することは・・・
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②パブリックチェーンが出来ること 中間搾取の排除
手数料取りすぎじゃない?
手数料取りすぎじゃない?
 パブリックチェーンによって、P2Pな究極的なシェアリングエコノミーが可能
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②パブリックチェーンが出来ること ICO(Initial Coin Offering)
 証券会社を介さないで、株(トークン)を購入出来る仕組み
 法規制の影響を受けず、どんな企業でも出資を募れるし、誰でも出資出来る。
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②パブリックチェーンが出来ること AugurのICO事例
 Augurは、ICOで5.6億円を調達(現在はBeta版を公開)
 現在のレート:1REP = $29.8(クラウドセール時 1REP = $0.5)
 Augur側の資産:5.6億円 + 220万REP(72.7億円)
補足:M2Mへの適用
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 パブリックチェーン基盤でマイクロペイメント(少額決済)を実現しようと研究
開発中
 1取引の送金が0.1円未満
 手数料が0.00001%未満
 全世界で秒間1,000万取引以上
 適用分野はC2Cではなく、M2Mとなる。
 例)完全自動運転が確立された将来に、マイクロペイメントを使った渋滞緩和
サービス
 ユーザーは、運転開始時にどの程度急ぎなのかを自動車にインプットするだけで、後は自動車
同士で連携する。
0.1円上げるから道譲って
了解
了解
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③プライベートチェーンで出来ること 地域通貨
地域通貨のニーズ
・都市部への貨幣流入を防ぎ、地域で循環させたい
・どういった場所で経済が活発なのか把握したい
プライベートチェーンが解決してくれること
通貨を電子化し、機能の付与(利用期限など)や
利用状況の可視化が出来る
既存システムでも出来ないこ
とはない
高セキュリティな環境を低コストで実現 ブロックチェーンの十八番
取引履歴が残るので内部不正が発生しにくい プライベートでもある程度は
管理元がいる安心感(爺さん婆さんも安心) プライベートならでは
他の通貨への両替を制限して価格変動を抑える
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④ブロックチェーン技術活用のユースケース
6.ブロックチェーンの事例
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① IT企業や金融機関の取り組み
② 業態ごとの代表的プレイヤー
③ Hyperledger Project
④ 政府の取り組み(エストニア)
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①IT企業や金融機関の取り組み
プラベートブロックチェーンの
巨大コンソーシアム(128社/団体)
Rippleコインは既に市場に流通
日本ではSBIや67の銀行と提携
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②業態ごとの代表的プレイヤー
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②業態ごとの代表的プレイヤー
日本ブロックチェーン協会理事
シェアリングエコノミー協会代表理事
日本ブロックチェーン協会代表理事
日本一のビットコイン取引所
電通グループ
電子政府のモデルケース
野口 悠紀雄教授(経済学者) 斉藤 賢爾上席所員
実証1件(三井住友信託銀行)
実証2件(UFJ、テックビューロなど)
実証2件(みずほ、カレンシーポートなど)
実証2件(東京海上、ドコモ、
オリックスなど)
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③Hyperledger Project
 Linux Foundationが中心となり、世界30以上のIT企業が連携して、オープン
ソースなコンソーシアム型ブロックチェーンの設計・開発、標準化を実施。
 現在取り組んでいる産業分野
 金融、ヘルスケア、サプライチェーン
 複数の基盤開発プロジェクト
 Fabric(IBM中心、富士通も関与)
 Iroha(NTTデータ、ソラミツ、日立)
 Sawtooth Lake(Intel中心)
 初期メンバー
 ブロックチェーン特化企業:Blockchain、ConsenSys、Digital Asset、R3
 IT企業:シスコ、富士通、日立、IBM、Intel、NEC、NTTデータ、Red Hat、Vmware
 金融:ABN AMRO、ANZ銀行、BNYメロン、CLSグループ、CMEグループ、預託信託会社
(DTCC)、ドイツBörseグループ、JPモルガン、ステート・ストリート、SWIFT、ウェル
ズ・ファーゴ
 その他:アクセンチュア、キャストトン、クレジット、 、IntellectEU、Nxt Foundation、
Symbiont
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④政府の取り組み エストニア
 背景:エストニアは、長くロシアの支配下にあり、「国家がいついなくなって
もおかしくない」という脅威にさらされており、国土を失ってもサイバー上で
国家を維持するために電子国家の発想に至り、推進している。
 IDカード
 日本のマイナンバーカードみたいなもの。これ1
枚で結婚、離婚、不動産売買以外の行政手続きは
全てオンラインで利用出来る
 例)国会の閣議が5時間から30分、確定申告最短
3分、処方箋の99%電子化
 X-Road(ガードタイム社)
 各省庁独自のDB間の連携が可能。
 運転免許証のDBが住民票DBを参照する事が出来
るので、免許作成時の住所申請や住所変更に伴う
免許更新が不要
 民間企業も利用可能。医療や金融機関等
 政府、企業等に分散化されたデータの改ざんの検
出にブロックチェーン技術を利用している。
 ロシアからの大量ハッキング対策
 2,000種以上のサービス、900以上の組織が日常
的に利用。

(旧)ビットコインとブロックチェーン入門