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日本の医療問題
医療チーム
有田直紀・井上彰・小田裕太郎
川井悠莉・北澤弘樹・仲野絵里佳

1
目次
●日本の医療・概要

●医療品問題

1.急速に増える日本の医療費
2.先進国で最低レベルの医療支出水準
3.高齢化による医療費の圧迫
3 高齢化による医療費の圧迫
4.支出増加にどう対応するか!?

32.日系製薬業界の国際競争力
33.医薬品業界の問題点
34 38.イノベーションを妨げるもの
34-38 イノベーションを妨げるもの
39-40.ジェネリック医薬品
41.ドラッグラグ
42.薬のネット販売の是非

●高齢化と医療
5.日本の高齢化の現状
6.高齢化の進行により医療はどうなるのか
7.後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の導入
8.後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の仕組み
9.後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の問題点(1)
10.後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の問題点(2)
11.高齢者医療への対策の例―スウェーデン―

●医療供給サイドの問題点
12.救急車たらい回し事件
13ー17.医師が足りない!
13 17 医師が足りない!
18.病院もベッドも充分にある
19.…でも常に使用中!?
20-21.救急医療施設の減少
22.医療現場の改善の方向性

●ケースに学ぶ地方医療問題
23-29.舞鶴市民病院のケース
25.補足 千葉県銚子私立総合病院のケース
29.補足
29 補足 阪南市立病院のケース
30.地方病院の抱える問題
31.福岡市東区のケース

●医療と情報の非対称性
●医療と情報 非対称性
43.情報の非対称性
44-46.情報の非対称性による非効率の解消

●日本の医療とモラルハザ ド
●日本の医療とモラルハザード
47.モラルハザードとは何か
48.モラルハザードの例
49-51.モラルハザード防止に向けて
52.登録医制度

●世界各国の医療保険制度をみてみよう!
53.OVERVIEW
54-55.アメリカ
56 57.ドイツ
56-57.ドイツ
58.シンガポール
59-60.フランス
参考文献

2
日本の医療・概要

3
1.急速に増える日本の医療費
〜日本の医療費がこれまでどのように推移してきたか〜
戦後、日本の総医療支出は右肩上がりに上昇。医療支出の対GDP比も、80年代には一時的に減少して
いるものの、概ね上昇傾向である。
2006年時点での、日本の総医療支出は約3300億ドル、
為替レートを1ドル95円と仮定した場合、日本円で約31兆円となる。(対GDP比8.1%)
為替レートを1ドル95円と仮定した場合 日本円で約31兆円となる (対GDP比8 1%)
※ここで言う“総医療支出”には、医療サービスの費用だけでなく、家庭で購入する医薬品や公衆衛生関連費用、医療施設への投資(医療機器費
用等)も含まれており、「国民医療費」よりも広い概念。

日本における総医療支出の推移(単位:1000ドル)と、総医療費の対GDP比の推移
日本における総医療支出の推移(単位:1000ドル)と 総医療費の対GDP比の推移
350000000
300000000

総医療支出

250000000
50000000

OECD Health 
Data2008、
総務省統計局の
「我が国の推計人
口(大正9年~平
成 年)」及び 平
成12年)」及び「平
成20年10月1日
現在推計人口」よ
り作成。

200000000
150000000
100000000
50000000
0
1960 1962 1964 1966 1968 1970 1972 1974 1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006
9.0
8.0
7.0
6.0
5.0
4.0
40
3.0
2.0
1.0
0.0

日本の医療支
出の対GDP比

OECD Health Data 
2008より作成。 4
2.先進諸国で最低レベルの医療支出水準!?
〜先進諸国との比較〜
日本の医療支出が一貫して上昇・急増傾向にあるにも関わらず、対GDP比で見た日本の医療支出は先進国
で最も低いレベルであり、ほぼ一貫してOECDの平均値も下回っている。
だとすれば、医療費が増大していくのは、そこまで大した問題ではないと考えることもできる。
しかし、問題はこれから医療費がどう推移していくかにある。

OECD主要国の医療支出に関する年次推移(対GDP比)
16.0

Canada
14.0

Finland

12.0

Germany
Japan

10.0

Norway
United Kingdom

8.0

United States

6.0

France
4.0

OECD AVERAGE

2.0
OECD Health Data 2008 より作成

0.0
00
1970 1972 1974 1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006

5
3.高齢化による医療費の圧迫
◇75歳以上の国民医療費はすでに10兆円近く
厚生労働省「平成18年度国民医療費の概況」によると、
2006年の時点で、75歳以上の国民医療費は10兆円弱。
65歳以上の国民医療費総計は17兆円に上る。
これは日本の国防費5兆円の3倍以上にあたる。
◇2050年までに高齢者比率は2倍に

2005年

国立社会保障・人口問題研究所は、2005年から
2055年にかけて、高齢者人口比率が約2倍に増える
と予測している。
と予測している

65歳以上の
人口比率

2030年

2055年

20.5%

31.83%

40.56%

(出所)国立社会保障・人口問題研究所「一般人口統計」より計算

◇将来の医療支出はうなぎ上り
厚生労働省は、2025年の医療関係給付額が2006年のそれよりも20兆円以上増えると見込んでいる。

2006年度

2011年度 2015年度 2025年度

年金

47.4兆円

54兆円

59兆円

65兆円

医療

27.5兆円

32兆円

37兆円

48兆円

福祉その他

14.9兆円
14 9兆円

18兆円

21兆円

28兆円

計

89.8兆円

105兆円

116兆円

141兆円

(出所)厚生労働省「平成20年度厚生労働白書」

6
4.支出増加にどう対応するか!?
~公的支出に頼り続けるのは難しい~
医療支出のうち公共部門の占める割合に関する
OECD主要国の年次推移
120.0

Finland

100.0

Japan
Norway

80.0

United Kingdom

60.0

United States
40.0

Germany

20.0

Canada

1960
1964
1968
1972
1976
1980
1984
1988
1992
1996
2000
2004

0.0
00

18
16
14
12
10
8
6
4
2
0

◇医療支出に占める公共部門割合は既に高い

OECD Health
H lth
Data 2008より
作成

2006年度 医療支出の対GDP比とその内訳
2006 Private
expenditure on
health % gross
domestic
product
2006 Public
expenditure on
health % gross
domestic
product

OECD Health
Data 2008 よ
り作成

左上図を見ると、医療支出にしめる公共部門の割
合は、主要国でも最高レベルである。
増税等で、もう少し公共部門での支出を増やせるか
もしれないが、頼り続けるのは難しい。
◇公共部門の支出割合が大きい他の国の状況は
日本と同様に、公共部門の支出割合が大きいの
日本と同様に 公共部門の支出割合が大きいの
は、ノルウェー・イギリス・フランスである。これら
の国は国民皆保険制度や公的医療制度を導入し
ている。しかし一方で、医療費の増大に対応し
て、民間部門の活用を行っている。
て 民間部門の活用を行っている
◇民間部門の活用がカギ
総医療支出の高い国々(アメリカやドイツ、フラン
ス、カナダなど)を見ると、日本よりも圧倒的に民
間部門の支出割合(対GDP比)が大きい。
全部を公費支出増大で賄うのではなく、 部を
全部を公費支出増大で賄うのではなく、一部を
民間部門の活用で賄うように政策をシフトしてい
く必要があるだろう。
7
高齢化と医療

8
5.日本の高齢化の現状
高齢化はどのように進行してきたのか?
人口ピラミッド(2000年)

人口ピラミッド(1950年)
男性

女性

0
200
85 歳以

男性
400

600

800 1,000 1,200 1,400

0

80
75
70

800 1,000 1,200 1,400

0

55

37
31
25
19
13

10
5
0歳
年

7

齢

0

1,400 1,200 1,000 800

600

400

人口(千人)

人口ピラミッドは「富士山型」をしてい
る。1950年の高齢化率は4.9%であっ
た。

200

1
年
齢
0
人口(千人)

人口ピラミッドは「ひょうたん型」をし
ている。2000年の高齢化率は17.3%
であった。

(出典)総務省統計局HP 「人口推計」 http://www.stat.go.jp/data/jinsui/index.htm

女性
性
200 400 600 800 1,000 1,200 1,400

105
98
91
84
77
70
63
56
49
42
35
28
21
14
7
0

49
43

25
20
15

200

600

67
61

35
30

400

400

73

50
45
40

600

男性
200

85
79

65
60
55

1,400 1,200 1,000 800

人口ピラミッド(2050年)

女性

1,400 1,200 1,000 800 600 400 200

0
人口(千人)

人口ピラミッドは「ちょうちん型」に近
い。2050年の高齢化率は35.7%にな
ると推測されている。また総人口は
約9000万人になる見込み。

国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」http://www.ipss.go.jp/ より作成

若年層が高齢者を支える仕組みにも限界が?!
総人口に占めるシェアを2006 年と
2050 年で対比してみると、生産年齢人
口は65.8%から53.6%に減少する。

生産年齢人口 人当たりが
生産年齢人口一人当たりが
支える高齢者の数が増大。

何らかの新たな制度/仕組
みの導入が必要。
9
6.高齢化の進行により医療はどうなるのか
高齢化の進行と医療費の増大
2030年には、75歳以上の後期高齢者が、現在の2倍近い2266万人に増加すると推計されている。また、年齢別に見ると、1人当
たりの老人医療費(65歳以上)は、老人の受診率の高さから、老人以外の1人当 たりの医療費の約5倍になっている。
老人医療費は2006年時点で17兆1223億円(医療費全体の51.7%)を占める。
老人医療費は2006年時点で17兆1223億円(医療費全体の51 7%)を占める

高齢者医療費は伸び率が大きい!

「世界一高齢者の割合が高い国」日本

国民医療費、高齢者医療費、国民所得の対前年度伸び率(%)(名目)

7
6

OECD主要国における人口に占める高齢者(65歳以上)の割合

4

40

3

35

2

30

1

25

0

20

15

16

17
国民医療費
高齢者医療費
国民所得

-2
-3
-4

15
10
5

(出典)厚生労働省 平成19年度版「厚生労働白書」より作成
国民所得や国民医療費の伸びと比べて、
高齢者医療費は伸び率が大きい。高齢者の増加により高齢者医療費はさら
高齢者医療費は伸び率が大きい
に増加すると考えられる。このままでは高齢者医療を維持できるかどうかも
定かではない。高齢化の現状を見据えて、高齢者医療費の給付、負担の構
高齢者医療費の給付、負担の構
造の見直しが必要とされている。
造の見直し

2050

2045

2040

2035

2030

2025

2020

2015

2010

2005

2000

1995

1990

1985

1980

1975

1970

1965

0

年度

1960

14

1955

平成13

1950

-1

カナダ
フランス
ドイツ
日本
イギリス
アメリカ
OECD全体

%

対前年度伸
伸び率(%)

5

45

(出典)OECD factbook 2009 より作成
OECD主要国全体として高齢化が進行していることが分かる。しか
し他のOECD主要国と比べても日本の高齢化の進行は急激
日本の高齢化の進行は急激なもの
であり、今や「世界一高齢者の割合が高い国」
「世界一高齢者の割合が高い国」となりつつある。

増え続ける高齢者医療費をいかに賄っていくかが医療の大きな課題となっている!
10
7.後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の導入
~その背景は?~

2008年、新たな高齢者医療制度を導入
老人保健制度

後期高齢者医療制度

老人保険制度は何が問題だったのか?
・現役世代と高齢世代の費用負担関係が不明確
現役世代と高齢世代の費用負担関係が不明確
つまり・・・
患者
負担

公費(約5割)
(国:都道府県:市町村=4:1:1)
老人保健拠出金(若年者の保険料を原資とする医療保険者からの拠出金)
約5割

この拠出金の部
分で、現役世代
の保険料と高齢
者の保険料が区
分されていない。

・財政や運営の責任が不明確
財政や運営の責任が不明確
つまり・・・
保険料を納める所 ⇒医療保険者(国保、健保組合など)
医療費を負担する所⇒市町村
⇒両者が分離しているため、財政、運営の責任の所在が分かりづらい
両者が分離し
るため 財政 運営 責任 所在が分かりづら

何をかえたのか?
①⇒高齢者の保険料と現役世代の保険料を分割して管理
②⇒運営主体を市町村単位から都道府県単位へ

11
8.後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の仕組み
~制度運営の主体は広域連合へ~

後期高齢者医療制度でどう変わったのか?
①⇒高齢者の保険料と現役世代の保険料を分割して管理
・高齢者と現役世代の医療費の負担関係が明確になった
高齢者と現役世代の医療費の負担関係が明確にな た

患者
負担

公費(約5割)
(国:都道府県:市町村=4:1:1)
高齢者の保険料
1割

後期高齢者支援金(若年者の保険料)
約4割

高齢者の保険料と
若年者の支援金に
分離することによ
り、高齢者と現役世
代の負担割合は1:
4と明確になった。

②⇒運営主体を市町村単位から都道府県単位へ
・財政や運営の責任を都道府県ごとに全ての市町村が加入する「広域連合」に一元化
保険料を納める所 ⇒広域連合
医療費を負担する所⇒広域連合
⇒財政・運営の責任は広域連合が担うことになった
広域連合とは?
特別地方公共団体として、複数の自治体にまたがる広域的な行政事務を処理するために設けることができる行政機
構。
具体的には、被保険者の認定や保険料額の決定、医療費の給付等制度の運営を行う。
広域連合が運営するメリットは?
・財政基盤が大きくなることで、医療費の変動や被保険者の保険料額について、安定的な運営が図られる点
・事務の一元化により、事務の効率化や経費削減が図られる点

12
9.後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の問題点(1)
後期高齢者医療制度は問題山積!?
制度開始時の不手際
・ 「後期高齢者医療被保険者証」が送付されていない
平成20年4月1日、制度開始時までに後期高齢者医療制度の対象者(被保険者)となっていたにもかかわらず、 多くの
方に「後期高齢者医療被保険者証」が送付されていないといった問題が生じた。
方に「後期高齢者医療被保険者証」が送付されていないといった問題が生じた
・相次ぐ事務処理のミス
平成20年4月15日からは「後期高齢者医療保険料」の特別徴収(年金からの天引き)が始まったが、保険料を徴収す
る全国多くの市区町村で、「保険料額を間違う」、「保険料を免除されている被保険者から徴収する」などのミスが相
次ぎ、問題となった。
次ぎ 問題となった

一律に75歳で区切ることに関する問題
・高齢者個人の特性が考慮されない
後期高齢者医療は「後期高齢者の心身の特性に相応しい医療」を目的としているが、個人差・性差・地域差などは
考慮されない。高齢者の特性を考慮せずに制度の目的が達成できるのかという指摘もある。
・暦年齢で区切ることの意味
暦年齢により、元気な人、逆にとても衰弱している人など個人により様々で、一律に暦年齢で区切ることには無理
があり、科学的根拠に乏しいという指摘もある。
・制度として持続可能か?
病気になるリスクが高い高齢者だけを切り離して保険制度として成り立つのかということも措適されている。高齢者
病気になるリスクが高い高齢者だけを切り離して保険制度として成り立つのかということも措適されている 高齢者
が必要な医療まで制限されて、切り捨てられるのではないかと懸念されている。
13
10.後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の問題点(2)
負担額の割合の公平性に関する議論
・現役世代と高齢者の費用負担関係は妥当か?
「高齢者の患者負担額が増加する」といった議論が頻繁になされているが、高齢者の患者負担額は1割に対し、
現役世代の支援金は4割となっている。
現役世代 支援金は 割とな
る
↓
高齢化がますます進行することが容易に想像できるわが国において、現役世代と高齢者の費用負担関係に
ついては偏った議論になるのではなく、慎重に議論していかなければならない。

低所得者の保険料負担の問題
・本当に低所得者にやさしい制度になっているのか?
後期高齢者制度では、低所得者層ほど保険料負担は軽減されると言われてきた。しかし、実際には、低所得者
後期高齢者制度では 低所得者層ほど保険料負担は軽減されると言われてきた しかし 実際には 低所得者
のほうが保険料負担が増えているというケースが多くみられることが指摘されている。こうした現状を踏まえ、
政府は国民が信頼できる医療制度を構築していかなければならない。

新政権による制度廃止をめぐる問題
・後期高齢者医療制度廃止をめぐる動き
2008年5月23日
↓
2009年9月16日
↓
2009年9月17日
↓
2009年10月3日

民主党はじめ、共産、社民、国民新の野党4党が、参議院に後期高齢者医療制度廃止法案
を共同提出
鳩山由紀夫首相の下、民主党政権発足
鳩山由紀夫首相の下 民主党政権発足
民主党の長妻厚労相が会見で「年齢区分で区切る仕組みは廃止する」と宣言
長妻厚労相は、もとの老人保健制度(老健)は復活させず、新制度を創設するとともに、来年度
中の現行制度の廃止は断念する方針を固めた

・制度廃止に反対する医療現場や広域連合
制度開始1年半しか経たない後期高齢者制度から早くも以前の老人保健制度へ戻すことに伴い、現場がさらに
混乱するという指摘もある。新政権には現場も含め国民全体が納得できる制度にしていくことが求められる。

14
11.高齢者医療への対策の例―スウェーデン―
~地域における責任分担~
スウェーデンにおける、高齢者医療発展の契機
1992年エーデル改革
2002年社会サービス法改正
2002年社会サ ビス法改正

課題 ①コミューン(後述)を高齢者ケアの責任主体にすること
①
(後 ) 高齢者
責任 体 す
②社会的入院患者を減らすこと

運営主体
ランスティング(日本の県に相当する広域な自治体 )
(日本の県に相当する広域な自治体。)
コミューン(日本の市町村に相当する自治体単位)
財源(ランスティングの役割)
ランスティング税
国からの交付金・補助金
患者の自己負担
自己負担額は各ランスティングが規定する。

医療施設の設置、医療従事者の確保を自
ら行う。歴史的に、保健医療を提供するた
めに設けられた地方自治体。

サービスの供給(コミューンの役割)
①老人ホームなど「特別な住居」における医療の提供はコ
ミューンの義務。
②在宅の高齢者への訪問看護に関しては、コミューンとラ
ンスティング間の相談によって、実施主体をどちら
ンスティング間の相談によって 実施主体をどちら
にするか決める。

ランスティングとコミューンの責任分担の例・・・社会的入院費支払い責任制度
任
社
院
任制
主治医による医学的措置が終了した後も、高齢者が一定期間以上、入院を続けた場合、患者の住む
コミューンが、ランスティングが運営する病院に超過金を支払う。この制度により、各コミューンは、ホー
ムヘルプサービス、グループホーム、ナーシングホームのような施設の充実を図った。
ランスティングとコミューンのそれぞれが財源(ファイナンス)・サービスの供給(デリバリー)について法的責任を負っ
ており、両地方自治体は垂直、上下の関係はなく、水平、対等の関係にある。
15
医療供給サイドの問題点

16
12.救急車たらい回し事件
〜何が問題なのか!?~
奈良県、東京都において母体搬送が遅延した事例は記憶に新しい。
救急車たらい回し事件としてマスコミなどで大きく取り上げられている。

救急車がたらい回し状態になるケースは年々増えてい
る。

右のグラフは、産科・周産期傷病者の搬送において照会回数が4
回以上とな た事案の件数と、その推移を示している。
回以上となった事案の件数と、その推移を示している。

1200

1084

1000
800

667

件数600
400

342
225

200

こうしたケースは首都圏・大都市周辺部で頻発している。

0
H.16

H.17

H.18

H.19

照会回数が4回以上となった事案のうち77%が、以下の7都府県で起きたものだった。
照会回数が4回以上となった事案のうち77%が 以下の7都府県で起きたものだった 宮城・茨城・千葉・東京・
神奈川・大阪・奈良といった、首都圏、大都市周辺部である。

一体何が問題なのか!?

(出所)いずれも総務省消防庁による「救急搬送における医療機関の受入状況等実態調査
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/07/dl/s0730-21b.pdfより作成。

提供側の問題
利用者側の問題
軽症者による救急車・救急医療サービスの
利用が近年増加している。
救急医療従事者が軽症者のケアにおわれ、
本当にサービスを必要としている重症者に
まで手が回らないという状態を招いている。

●医療資源の配置の問題
医療機関の連携、医師・スタッフの集約化が進んでいるか。
●医療資源の量の問題
救急医療に従事する医師・スタッフの数は十分か。
救急医療に従事する医師 スタッフの数は十分か
診療科ごとの医療資源の偏在がないか。
17
13.医師が足りない!
〜諸外国との比較~
・日本医師の数は戦後一貫して上昇しているも
のの、人口1000人あたりの医師数はOECDの
平均2.9人に対し2.1人と、非常に少ない!人口
師
1000人あたりの看護師の数も平均より少ない
実態がある。
2006年度人口1000人あたりの
医師数・看護師数
医師数 看護師数
14.0
12.0
10.0
10 0
8.0
6.0
4.0

医療施設従事者数

(万人)
28
26

診療所の従事者

24

病院の従事者

22
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
55 60 65 70 75 76 77 78 79 80 81 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06

2.0
0.0

医師数増加の限界的増え幅も逓減している。これは、80
年代に厚生労働省が、「医師の数が過剰だ」として、医師
をあまり増やさない方向に政策をシフトさせたせいもある。

(出展)厚生労働省「平成18年医師・歯科医師・薬剤師調査」
(出展)OECD Health Data 2008 より作成

18
14.医師が足りない!
~大野病院のケースに学ぶ日本の特殊性~
診療科名別にみた医師数

産婦人科や外科、内科などの医師数は絶対
数でも減少傾向にある。これらの診療科の共
通点は、訴訟リスク・患者死亡のリスクが
訴訟リスク 患者死亡のリスクが
高いこと!

35.0%

30.0%

内        科
小   児   科
精   神   科
外       科
産  婦  人  科

25.0%

20.0%

福島県立大野病院産科医逮捕事件・・・

15.0%

10.0%

5.0%

0.0%
平成 6年

平成 8年

平成10年

平成12年

平成14年

平成16年

平成18年

(出展)厚生労働省 『診療科名(主たる)別にみた医師数』

日本の医療崩壊、とりわけ産婦人科の減少のきっかけになったとされ
る医療過誤事件。
2004年12月17日に福島県大野病院で帝王切開手術を受けた産婦が死
亡。手術を執刀した動因産婦人科の医師一人が業務上過失致死と医師法
違反の容疑で2006年2月18日に逮捕、翌3月10日に起訴された事件。
日本で始めて医師個人が業務上過失致死罪で起訴され、しかも「医師逮
日本で始めて医師個人が業務上過失致死罪で起訴され しかも「医師逮
捕」という形で顕在化するという刑事事件に発展した。2008年8月20日、
福島地方裁判所は被告人の医師を無罪とする判決を言い渡した。
←地裁初公判時の記事

日本の医療訴訟は刑事事件として扱われうるのだ!
(出展)毎日新聞 2007/01/26 夕刊

19
15.医師が足りない!
〜医師が恐れる医療訴訟のリスク!~
1200

40

新受訴訟件
件数

30
800

25

600

20
15

400

10
200

・訴訟件数は最近こそ減少傾向にあるもの
の、90年代に比べて大幅に増加している!
・ 全国の警察 届け出のあ た医療事故は
全国の警察へ届け出のあった医療事故は、
1997年には21件だったが、2002年には187件と
なっており、5年間で約9倍に増えている。

5

20
02
20
03
20
04
20
05
20
06
20
07

20
01

20
00

0

19
99

0

19
98

平均審理期間
間(月)

35

1000

(出展)最高裁判所ホームページ

医療事故届け出高水準 警察に昨年226件
2008年中に全国の警察が届け出を受けた医療事故は226件だったことが16日、
警察庁のまとめで分かった。前年より20件(8.1%)減少したものの、00年に急増
降
続
年中 警
して以降、高い水準が続いている。一方、同年中に警察が業務上過失致死容疑などで送
検した医療事故は79件。前年比13件(14.1%)減で、5年ぶりに80件を下回っ
た。
統計がある1997年から99年まで、届け出件数は年間20~40件台だった。とこ
ろが99年、東京都立広尾病院で~死亡事故が発生。これを受ける形で、医療関係者か
らの届け出は99年の20件から翌年には4倍の80件まで急増。届け出全体も41件
ら 届け出は
年
件から翌年には 倍
件まで急増 届け出全体も
件
から124件へと増えた。〇六年には、福島県立大野病院で~医師を~逮捕。届け出件
数は05年から減少に転じていたが、この事件の翌07年に再び急増している。
(出展)日本経済新聞 2009/04/17 朝刊

しかし医療従事者個人の責任を追及し厳罰に処しても、ヒューマンエラーは減少しないのでは?
→刑事訴訟は個人責任追及が主眼…医療制度そのものの問題点の分析がおろそかに!
・・・ちなみに米国や諸外国では、医療事故が刑事事件になることはきわめてまれなことなのだ!

20
16.医師が足りない!
~産婦人科の例~
1994年から2006年にかけて、総医師数は19%増
加している一方、産婦人科は13%減少している

産        科
婦    人    科

産科・婦人科の医師数
1,800
1,600

医師数の年次推移
270,000

総医師数
産  婦  人  科
11,500

1,400
1,200
1,000

260,000

11,000

800
600

250,000
10,500

400
200

240,000
10,000

0
1994

230,000

210,000

9,000
1994

1996

1998

2000

2002

2004

2006

1998

2000

2002

2004

2006

(出展)厚生労働省『診療科名(主たる)別にみた医師数』

9,500

220,000

1996

産科・婦人科別にみると、お産を扱わない婦人科が
増加している一方、産科は減少。

(出展)厚生労働省『診療科名(主たる)別にみた医師数』

2005年の産婦人科における訴訟件数は149件、2006
年は161件、2007年には108件となっている。この内、
2006年の診療科別訴訟件数は右図のとおり。医師
2006年の診療科別訴訟件数は右図のとおり 医師一
人当たりの訴訟件数の割合では産婦人科が約1.7%で
ダントツなのがわかる。
法廷に持ち込まれるリスクが高いため、
産婦人科に従事しようという医学生が減ってきているのだ!
(出展)裁判所「医事関係訴訟事件の診療科目別既済件数」

訴訟件数
内科
小児科
精神(神経
皮膚科
外科
整形外科
形成外科
泌尿器科
産婦人科
眼科
耳鼻咽喉科

256
33
32
19
188
119
20
24
161
28
23

医師一人当たりの
訴訟件数の割合
0.363%
0.224%
0.249%
0.242%
0.871%
0.631%
1.048%
0.391%
1.678%
0.227%
0.258%

21
17.医師が足りない!
~過労と低報酬~
2004年 O E C D 主要国における1人当たり年間診療回数
16.0
14.0
12.0
12 0

2004 Doctors' consultations
Number per capita

10.0
8.0
6.0

・2004年度の一人当たり年間診療回数は、日本が13.8回で、
OECD平均6.7回の2倍以上である。また、特に主要国の中では群
を抜いている。
・医師の絶対数が少ないのに加え 医師一人にかかる負担も大
医師の絶対数が少ないのに加え、医師 人にかかる負担も大
きい。医師数と診療回数だけを見ても、日本の医師にのしかかる
負担はOECD平均の3倍程度となり、ここから医師の労働環
境の悪さによる過労と不足の根本的な構図が見えてくる。

4.0
2.0
0.0
Canada Finland France Germany Japan

United United OECD
Kingdom States Average

(出展)OECD Health Data 2008 より作成
(出展)OECD Health Data 2008 より作成
(10万円)
250

医師の年収

また日本では開業医と勤務医の報酬には大きな差があ
る。
諸外国と比べても開業医の報酬は高く、勤務医の報酬は低
い。
過剰労働なのに低報酬+
刑事罰・巨額の損害賠償
による威嚇効果

200

医療従事者の医療行為の
消極性・保守性

150
100
50
0

一般診療所の院長

一般病院の医師

(出展)厚生労働省『2007年度医療経済実態調査』

医療技術を発展を阻害
医療の萎縮化!
22
18.病院もベッドも充分にある
~過剰な病院・病床数~
病院数と一般診療所数の年次推移
120,000

80,000
60,000
40,000

病院
一般診療所
般診療所

20,000
20 000

16.0
2006 Total hospital beds
Per 1 000 population

14.0
12.0

2006 Acute care beds
Per 1 000 population

10.0

6.0

とはいえ、まだ先進諸国に比べた絶対数、そして10万人あたりの
病院数は圧倒的に多い。人口1000人あたりの病床数は、OECD諸
国の中でも、日本は群を抜いてトップである。
100床あたり医 100床あたり
師数
看護職員数

2006年度人口1000人あたりの病床数

8.0

0
(出展)厚生労働省「平成19年 医療施設(動態)調査」より作成

2004年

一般診療所数が緩やかに増加しているのに対して、総病
院数は1990年代から大幅に減っている

100,000

19
87
19
89
19
91
19
93
19
95
19
97
19
99
20
01
20
03
20
05
20
07

10,200
10,000
9,800
9,600
9,400
9,200
9,000
8,800
8,600
8,400
8,200

100床あたり病院職
員数(常勤)

アメリカ

73.3

237.9

イギリス

57.5

227.7

イタリア

103.9

166.4

306.7

62

286.6

379.3

ドイツ

39.5

113

フランス

44.9

100.1

日本

14.3

63.2

2.0
0.0
Finland France Germany Italy

Japan Norway United United OECD
Kingdom States AVERAGE

(出展)OECD Health Data 2008 より作成

イタリアでは1つの病床に対して1人の医師がついている
状態なのに、日本では14人の医師が100の病床をカ
バーしている!

127

カナダ

491.3

4.0

-

ただでさえ医師が少ないのに病床が多いせいで、100
床あたりの職員数は低すぎる状態になっているのだ!

-

出典:OECD Health Data 2007より作成
注:アメリカ合衆国の看護職員数は、2002年の数字を用いている。

91.6

では病院・病床がこんなに多いなら、
なぜ救急車たらい回し事件などが起こるのか?
23
19.…でも常に使用中!?
~長い在院期間~
2004年

急性期1病床あた
りの年間退院数 平均在院日数

人口一人あたり
外来診察回数

アメリカ

43.2

5.6

3.8

イギリス

74.1

6.6

46.5

6.8

カナダ

30.2

7.3

6

ドイツ

31.5

8.7

7

フランス

70.5

5.5

6.6

日本

12.6

20.2

ても、そのほとんどが常に埋まっているのである。

5.3

イタリア

2007年の病床利用率は8割を超えている。“過剰”とは言っ

13.8

-

出典:OECD Health Data 2007より作成
注:日本の年間退院数は、2005年の数字を用いている

●日本は外来診療の頻度が高いうえに入院期間が長い!
●病院にベッドがあるから、長く在院できるし、「完治するまで
入院していたい」と思う。それが、過剰な病床数を維持するイ
ンセンティブとなり、回り回って在院日数を長くする循環が生
じている ユニバ サル アクセスの仕組みのため 医療機関
じている。ユニバーサル・アクセスの仕組みのため、医療機関
側は基本的に、来院する患者を拒否することも出来ない。
●また、それは過剰に存在する病床の稼働率を上げるため、
病院側にも患者の在院日数を積極的に短くしようというインセ
ンティブは働かない

病床数は多いものの、
常に満床状態なのでいざというときに
患者が受け入れられない!

厚生労働省「平成19年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」

過剰病床数

供給が需要を生んでいる状態に!

長い平均

「完治するまで

在院日数

入院したい」

ちなみに、OECDのデータにおける”hospital beds”の定義には、「療
養・居住用施設におけるベッド」が含まれていない。日本において
は、療養は自宅か病院で行われており、療養・居住用の医療施設に
入って療養を行うという選択肢が存在しない。だから日本の(病院に
おける)病床数は諸外国と比べても非常に多いのだ。
おける)病床数は諸外国と比べ も非常 多
だ
(出典)厚生労働省の「平成17年 受療行動調査の概要(確定)」

24
20.救急医療施設の減少
〜減少する救急医療施設〜
さらに、総病院数は多くとも、救急医療施設は減少傾向にある。
医療法の救急体制では、症状が軽い順に初期・2次・3次と体系的に救急医療
機関
機関が定められる。救急医療の経験がある医師が常に診療でき、エックス線や
。
医
経
医師 常
、
線
専用病床など救急用の設備がある病院や診療所を救急告示医療施設といい、
主に2次に位置づけられる。

救急医療施設の総数が
過去5年間で「医師不足」などを理由に

1割近く減っている!!
割近く減

初期救急医療

二次救急医療

三次救急医療

入院治療が必要でない患者

入院治療が必要な患者

二次救急医療では対応できない複数診
療科にわたる高度な処置が必要な患者

在宅当番医制 28,717ヵ所
休日夜間急患センター 511ヵ所

病院群輪番制病院 3143ヵ所
共用利用型病院 10ヵ所

救命救急センター 210ヵ所

救急医療に取り組む病院は赤字になる構造にある

点滴に使うチューブや注射針など
の医療機材は保険請求できない!

心臓マッサージの医療
費は、サウナや温泉の
マッサージよりも安い!

医療廃棄物の処理に掛
かる月数百万円の費用
や、感染対策に掛かる経
費も病院の負担!

例えば…

創傷の処置に用いる大量のガーゼや包
帯、尿をためる袋も病院の持ち出し!

『2001年3月末に全国で5076施設あった救急告示医療施
設が06年3月末までに約8.5%に当たる432施設減少
し、4644施設になっていた。今年度(2007年)に入っても
減少傾向は変わらず、38都道府県の121施設が救急告示
(救急医療施設の指定)を撤回、または撤回する予定』
(救急医療施設の指定)を撤回 または撤回する予定』
(出展)2007年3月20日 読売新聞
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20070320ik03.htm

救急医療をすればするほど赤字になる
→病院が撤退!救急告示を取り下げる病院が増加
→残りの救急病院に患者が殺到
→医師に過重な負担を発生
(救急患者をいくら診ても医師の給料は同じ)
→勤務医を辞めて開業する医者が増加
→残された医師の負担がさらに増大・疲弊

悪循環に!

25
21.救急医療施設の減少
〜規模の経済を考えよう!〜
施設ごとの症例数を考えると、日本の医療施設の数は多すぎるとの指摘もある。
「日本の医療の大きな欠点として、施設ごとの症例数が少なす
「日本の医療の大きな欠点として 施設ごとの症例数が少なす
ぎて医師に必要とされる専門的なトレーニングを十分に積めて
いないということがある。施設ごとの症例数が少ないのは、施設
がありすぎて症例数が分散されてしまっているからである。」

病院数の多さと施設当たり手術件数の少な
さを改善するには、医療資源の集約化を進
めるべき。

「日本では、一年間に行う外科手術の数が200例以下という施
設が8割以上を占める。対してドイツでは桁が一つ違い、年間
1000例以上の施設数が大半となっている。」
『こんな医療でいいですか?』 南和友 著 より抜粋

しかし病院の統廃合には、周辺住民から反
対の声が大きい・・・

医療分野 も
医療分野でも
規模の経済を活用するべき!

人口100万人あたりのCTスキャン、MRIの数は、他国に比べて著しく高い。
人口100万人あたりのMRIの数(台)
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0

人口100万人あたりのCTスキャンの数(台)

OECD Health Data 2009より作成

100
80
60
40
20
0

(左)2005年のデータ
アメリカのみ2007年を使用
(右)2002年のデータ
アメリカ、カナダは2007年
オランダは2005年のデータを使用

26
22.医療現場の改善の方向性
救急利用の適正化
10年間の救急搬送人員の変化(重症度別)

救急医療従事者が重症患者へのケアに集中できるよう、他の
医療機関でもケアが可能な患者への対応に追われないよう、患
者の適切な振り分けがなされる必要がある。
者の適切な振り分けがなされる必要がある

58%増
59%増

医療資源 集約化
医療資源の集約化
日本の病院数は他国に比べて多い。病院の区分を明確化し、そ
の数を適正化する必要がある。手術件数が多いほど、手術による
死亡率が下がるため、医療資源を集約化することは医療の質の向
上につながる。

(出展)総務省消防庁「救急・救助の現況」より作成

長期入院の解消

集中治療室から一般病床への移動や転院が進まず、新たな救急患者のための病床が確保できないという問題があ
る。病院側に、患者を早期に退院させる金銭的なインセンティブがないため、長期入院が慢性的に起こる。院内感
染の発生率があがるという負の面もあるため、諸外国では日本に比 入院日数が圧倒的に短い。
染の発生率があがるという負の面もあるため、諸外国では日本に比べ入院日数が圧倒的に短い。

労働環境の改善
労働環境の改善が図られなければ、勤務医の開業医への転換は避けられない。救急医療に従事することへの
労働環境の改善が図られなければ 勤務医の開業医 の転換は避けられない 救急医療に従事すること の
金銭的なインセンティブ、救急医療提供における開業医と勤務医の連携、医師をサポートするスタッフの増加
が求められる。

27
ケースに学ぶ地方医療問題

28
23.舞鶴市民病院のケース
~研修医を呼び込む努力は必要不可欠~
舞鶴市民病院が辿った経緯

2004年3月

• 副院長退職、音羽病院へ赴任。
• 副院長に続いて 内科医14名のうち13名が退職
副院長に続いて、内科医14名のうち13名が退職

2004年4月

• 新臨床研修制度の導入
• 研修医の一斉引き上げ

2004年~

• 深刻な医師不足
• 大学病院から内科医2名を派遣してもらうものの、過労のためにその2人とも2か月で退職

2005年11月

2006年6月

2006年8月~

• 療養型病院への転換を行政が打ち出したため、外科医も引き上げ
• 院長が辞任。医師がゼロに
事実上、経営が破綻
• 事実上 経営が破綻
• 外部からの医師派遣に頼ることになる
• 病院の再建を巡って、迷走が続いている

舞鶴市民病院はそれまで、研修医に対する高度な研修プログラムを提供することで有名だった。
しかし、その研修プログラムの中心的な役割を担っていた副院長と医局長が辞職したのをきっかけ
に内科医13名が退職してしまい、大騒動となってしまった。
地方の公立病院は財政難と人手不足に慢性的に悩まされるので、安価な働き手である研修医を引
きつける必要があるのだが、その努力を怠ってしまうと、人手不足による機能不全に陥りやすい。

29
24.舞鶴市民病院のケース
~新臨床研修制度で医師不足~
舞鶴市民病院が辿った経緯

2004年3月

• 副院長退職、音羽病院へ赴任。
• 副院長に続いて 内科医14名のうち13名が退職
副院長に続いて、内科医14名のうち13名が退職

2004年4月

• 新臨床研修制度の導入
• 研修医の一斉引き上げ

2004年~

• 深刻な医師不足
• 大学病院から内科医2名を派遣してもらうものの、過労のためにその2人とも2か月で退職

2005年11月

2006年6月

2006年8月~

• 療養型病院への転換を行政が打ち出したため、外科医も引き上げ
• 院長が辞任。医師がゼロに
事実上、経営が破綻
• 事実上 経営が破綻
• 外部からの医師派遣に頼ることになる
• 病院の再建を巡って、迷走が続いている

新臨床研修制度の導入で、研修医(新人医師)は研修先の病院を自由に選択できるようになった。
それにより、労働条件の悪い大学病院を研修先に選ぶ研修医が激減。
そのため、大学病院では研修医が不足気味になった。
研修医も医師であり、重要な働き手なので、大学病院は、地方の病院に派遣していた研修医を引き上
げさせ、不足分を補うようになった。
これにより、地方の病院から研修医が一斉に引き上げて、地方の病院(主に公立病院)は医師不足
に。

30
25.補足 千葉県銚子私立総合病院のケース
~新臨床研修制度で医師不足~

◇新臨床研修制度

具体例:千葉県銚子市立総合病院

2004年4月より施行。
新人医師には2年間の臨床研修を義務付けるが、研修先
新人医師には2年間の臨床研修を義務付けるが 研修先
は自由に選択可能。病院インターンのようなものとして機
能しているが…

新研修医制度導入で、研修医は研修
先を選択できるようになった。
労働条件の悪い大学病院を志向する
研修医が激減。
大学病院は自分の病院のための人員
確保で精いっぱい

新臨床研修制度
新人医師の不足
経営悪化
財政支援も受けられない
休診
市長がリコールされる事態に

大学病院は、必要に応じて、地方病院
から医師を引き上げるようになった。
師を
げ
な

研修医は研修プログラムの充実している病院や勤務条件の良
好な病院を選択する。地方病院も、これからは、そのような研修
医を呼び込むための努力が必要となる。

31
26.舞鶴市民病院のケース
~医師不足が医師不足を招く~
舞鶴市民病院が辿った経緯

2004年3月

• 副院長退職、音羽病院へ赴任。
• 副院長に続いて 内科医14名のうち13名が退職
副院長に続いて、内科医14名のうち13名が退職

2004年4月

• 新臨床研修制度の導入
• 研修医の一斉引き上げ

2004年~

• 深刻な医師不足
• 大学病院から内科医2名を派遣してもらうものの、過労のためにその2人とも2か月で退職

2005年11月

2006年6月

2006年8月~

• 療養型病院への転換を行政が打ち出したため、外科医も引き上げ
• 院長が辞任。医師がゼロに
事実上、経営が破綻
• 事実上 経営が破綻
• 外部からの医師派遣に頼ることになる
• 病院の再建を巡って、迷走が続いている

医師不足の状態で医師数名を確保しても、焼け石に水である。
まず、確保した数名の医師にすべての負担がかかるので、長続きしない。
また、重労働勤務となる病院に行きたがる医師も少ないため、医師の確保がより困難になる。
そのため、常に十分な数の医師を確保し、大幅な医師の不足を常に予防する必要がある。
それができないと、医師の不足は慢性的に続いてしまう。

32
27.舞鶴市民病院のケース
~行政側の一方的なアプローチが危機を呼ぶ~
舞鶴市民病院が辿った経緯

2004年3月

• 副院長退職、音羽病院へ赴任。
• 副院長に続いて 内科医14名のうち13名が退職
副院長に続いて、内科医14名のうち13名が退職

2004年4月

• 新臨床研修制度の導入
• 研修医の一斉引き上げ

2004年~

• 深刻な医師不足
• 大学病院から内科医2名を派遣してもらうものの、過労のためにその2人とも2か月で退職

2005年11月

2006年6月

2006年8月~

• 療養型病院への転換を行政が打ち出したため、外科医も引き上げ
• 院長が辞任。医師がゼロに
事実上、経営が破綻
• 事実上 経営が破綻
• 外部からの医師派遣に頼ることになる
• 病院の再建を巡って、迷走が続いている

舞鶴市は、市民病院の生き残り戦略として、療養型病院への転換を打ち出した。
この企画自体は現在進行形なので、その成果はまだ評価できないものの、
行政側の一方的な取り決めによって、院長を除く医師をほぼ全員失ってしまった点は失敗だと言える。
また、療養型病院 の転換をきっかけに、赴任予定だった内科医2名も赴任を拒否。これにより、医師
また、療養型病院への転換をきっかけに、赴任予定だった内科医2名も赴任を拒否。これにより、医師
不足の状態が、それからもずっと続いてしまう。
病院に勤務する人間のことを考えずに、行政側が一方的な方針決定を行うと、事態は悪い方向に向
かってしまう。

33
28.舞鶴市民病院のケース
~医師が不足すると、経営も成り立たない~
舞鶴市民病院が辿った経緯

2004年3月

• 副院長退職、音羽病院へ赴任。
• 副院長に続いて 内科医14名のうち13名が退職
副院長に続いて、内科医14名のうち13名が退職

2004年4月

• 新臨床研修制度の導入
• 研修医の一斉引き上げ

2004年~

• 深刻な医師不足
• 大学病院から内科医2名を派遣してもらうものの、過労のためにその2人とも2か月で退職

2005年11月

2006年6月

2006年8月~

• 療養型病院への転換を行政が打ち出したため、外科医も引き上げ
• 院長が辞任。医師がゼロに
事実上、経営が破綻
• 事実上 経営が破綻
• 外部からの医師派遣に頼ることになる
• 病院の再建を巡って、迷走が続いている

ごく当然のことながら、稼ぎ手の医師が不足すると、営業規模も小さくならざるを得ない。
しかし、医師以外の事務員数はすぐには変動しない。
そのため、医師が急激に不足すると、固定費が売上よりも相対的に急増してしまい、業績が悪化す
る。
その一方、交付金削減によって自治体側の財政も厳しくなり、一般繰入は減少傾向にある。
そのため、悪化した業績を埋め合わせる資金が乏しく、公立病院経営は窮地に立たされている。

34
29.補足 阪南市立病院のケース
~医師の不足と経営悪化~
阪南市立病院は2006年から経営改善に取り組み、ある程度の成果を挙げてきた。
しかし、その翌年の内科医一斉辞職により内科が休止。収支が急激に悪化した。
損益収支の具体的な数字から明らかなように、稼ぎ手の医師を確保しないことには、どの病院もやっていけない。

年度

1998~2002年 損失拡大

損益収支
(単位:百万円)

収支の悪化

2001

収支の改善
2006年~ 民間ノウハウ導入による経営再建

2007年 内科医集団辞職。内科休止

2008.5. 医師給与を引き上げ。これにより内科医の誘致を図
る。

2008.9. 内科医確保に伴い、内科REOPEN

※右の、損益収支表は、
「阪南市立病院改革プラ
ン 第2章 阪南市立病院
の経営改善について」より
引用。

△140

2003

2005年 医療開発に成功

△116

2002

2003年~ 行政改革による一般繰入の減少

△141
△

2004

△139

2005

△43

2006

△106

2007

△1,177
△1 177

内科休止と、
病院側の対応
内科の休止に伴い、病院の収支は急激に悪化。
2007年の損失額は2006年の10倍に膨らむ

35
30.地方病院の抱える問題
~自治体の支援が先細り、公立病院の経営は火の車に~

公立病院は、「救急・小児・周産期・災害・精神など
の不採算・特殊部門にかかわる医療の提供」の役割
を期待されている。
(総務省「公立病院改革ガイドライン」より。)

医療施設の収益率(1施設当たり)

右の表は、病院の収益率を示したもの。
これを見ると、公立病院の収支は非常に悪い。
病
支
常
このように、慢性的に経営状況が悪い公立病院は、
地方自治体の財政支援が必要不可欠となる。
しかし

交付金削減で、自治体側の財政も厳しくなり、一般
繰入が減少。
これにより、公立病院の経営は厳しくなった。
病
経営 厳

ただし、公立病院の
経営には元々問題が
あったという指摘もある。
ソフトバジェット

2005年度

2007年度

公立病院

-9.1

-17.4

国立病院

0.5

0.3

医療法人立病院

1.3

2.5

個人立病院

8.7

5.7

一般診療所

34.8

34.8

厚生労働省 「第16回医療経済実態調査」より作成

・国と自治体の間におけるソフトバジェットの問題
自治体は借金をして(公立病院特例債などを発行して)病院を作れば交付金が下り
‥‥自治体は借金をして(公立病院特例債などを発行して)病院を作れば交付金が下り
る。そのため、自治体の側には予算制約による財政規律が働きにくい。
・自治体と公立病院の間におけるソフトバジェットの問題
病院の最終的な経営権は自治体にあり、病院側は常に自治体の財政を頼むことに
‥‥病院の最終的な経営権は自治体にあり、病院側は常に自治体の財政を頼むことに
なる。それによって、病院側には予算制約による経営規律が働きにくい。
36
31.福岡市東区のケース
~機能分化のススメ~

◇機能分化の論点
施設ごとに機能を分けることで、それぞれの施設がその
機能に特化できる。医療資源を集約化することで、より効
率的な治療体制を敷くことができる。
ただし、地域内に複数の医療機関がない場合(例:千葉
県銚子市等)は、機能分化がそもそもできないという問題
点がある。

福岡市東区の事例。複数の医療機関の間で
機能分化を図り、相互連携を促進した。これに
より、効率化・経営改善・訴訟減少といった効
より 効率化 経営改善 訴訟減少とい た効
果が表れたとされる。

地域住民

◇施設間ネットワ クが重要
◇施設間ネットワークが重要
それぞれの施設が機能を分担する以上は、相互連携
が必要不可欠である。
それだけでなく、「前の医療機関で、患者がどんな治
それだけでなく 「前の医療機関で 患者がどんな治
療・検査を受けたか」といった情報の共有が進めば、例
えば患者を大病院に移送してもスムーズに次の治療に
移ることが可能となる。

◇患者への周知徹底も必須
右の例では大病院が入院治療に特化しているが、そ
の上では、外来患者がいきなり大病院を訪れると業務
に差し障りが出る。そのため、外来診療は診療所に行
くように、といった周知徹底が必要となる。

診療所

中小病院

外来診療に特化

療養病床に特化

大病院
入院治療に特化

地域完結型医療体制
出典:東京大学医療製作人材養成講座「医療政策入門」
pp.169~ 「なぜ、今、「地域主導なのか」」 信友浩一教授

37
医薬品問題

38
32.日系製薬業界の国際競争力
~急増する医薬品・医薬用品の貿易赤字~

医薬品・医薬用品の貿易収支(単位:千円)
1,500,000,000

1,000,000,000

500,000,000

輸出
輸入
収支

0
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

-500,000,000

-1,000,000,000
-1 000 000 000
(出典)JETRO「貿易統計データベース」より作成

医薬品・医薬用品の貿易収支は一貫して赤字であり、その額は2000年以降急増
医薬品・医薬用品の貿易収支は一貫して赤字であり、その額は2000年以降急増
つまり、日本製ドラッグが日本を含めた世界で売れていない!!
本製
グ
本 含
界
な
原因

世界の有名製薬会社と争えるような新薬の開発が進んでいない
39
33.医薬品業界の問題点
~世界に遅れをとる日本製薬業界~
◇世界の強豪製薬会社の薬と争える新薬が少ない
株式会社メディサーチが発表した、世界銘柄別売上 上位30品目を見ると、
米国企業が15種 スイス企業が5種
英国企業が4種
フランス企業が3種
日本企業がたったの2種(武田のアクトスと、エーザイのアリセプト)!!
と、日本勢は劣勢である。
また、アクトスは2011年に、アリセプトは2010年に特許切れとなる。

ローカルドラッグの多くは、新薬の改
良型であり、新規に開発されたもの
は比較的少ないとされる。そのため、
は比較的少ないとされる そのため
他国では新薬として承認されにくい。

全医薬品に占める「ローカルドラッグ」の割合が多すぎる!
ある特定の国でしか流通しておらず、他国では承
認されていない薬品をローカルドラッグと呼ぶ。
日本で1997年に年間推定売り上げ高100億円以
上の薬(143 種)のうち、英米独仏の4カ国すべて
で使用されている標準的な薬は43%、

1990年~1995年にかけての新薬承認の状況

(出典)日本経済新聞1998年8月24日

承認新薬数

他国で承認
された割合

他国で未承
認の割合

日本

96

30%

70%

アメリカ

76

92%

8%

イギリス

87

82%

18%

ドイツ

4カ国の何れでも使用されていないローカ
ルドラッグが40%に達した。

国名

78

88%

12%

(出典)毎日新聞1997年9月2日より作成

40
では、国際間競争に耐えうる新薬の開発<イノベーション>が何故日本で進まないのか?
34.イノベーションを妨げるもの
~Ⅰ.国内は過当競争市場~
日本と欧米の製薬会社における研究開発費と営業利益(一社あたり)

◇営業利益の小さい日本企業

単位:百万ドル

日本企業は欧米企業と比べて、利益も研究開発
費も非常に少な
費も非常に少ない。

7000
6000
5000

金銭的理由でイノベーションが起こりづらい
理由:国内は小規模企業の過当競争

4000

一社当たり
研究開発費

3000

一社当たり
営業利益

2000

従業員の規模別で見た医薬品の企業数を見ると
日本は小規模企業が多く、企業数も全体で1200
を超えている。
それぞれが小規模なので、それぞれ単体の利益
額・研究開発費額も少なくなる。
製
また、それぞれが単体で研究開発から製造、販
売まで手掛けているために、業界全体では過剰
投資・資源の分散・コスト高につながっている。

◇業界再編による国際競争力の向上が必要
これから新薬開発を進める上でも経営資源の集
約や、巨額
投資 必要 なる
、業界再
約や、巨額のR&D投資が必要となるため、業界再
編は避けられないとの見方がされている。

1000
0
日本企業 米国企業

欧州企業 日本企業 米国企業 欧州企業

1998年度

2007年度

従業者規模別、医薬品企業数
従業者規模別 医薬品企業数
3001人以上, 40

1001~3000人,
64

301~1000
人, 119

(出展)医薬産業政策研究
所「政策研ニュースNo.26」
2008年12月より引用

10人以下,
10人以下 252

101~300人,
202
11 50人,
11~50人 399
51~
10
0人, 155

(出展)厚生労働省
「医薬品・医療機器産
業実態調査」2006年
度版より作成

41
35.イノベーションを妨げるもの
~Ⅱ.劣悪な日本の研究・審査・市場環境~

日本(一部は欧州にも該当)
◇少ない科学技術予算と、軽薄な産学官連携
◇少ない科学技術予算と 軽薄な産学官連携
2006年度における科学技術予算のうち、ライフ
サイエンス分野の予算は約3154億円。アメリカ
NIHの2006年予算は約286億ドルなので、日本
年予算は約
億ド な
本
の予算はアメリカのそれの1/9~1/10程度。
更に日本は、産学官の連携が薄い。
◇承認が遅く、治験環境も非常に悪い
◇承認が遅く 治験環境も非常に悪い
新薬審査時間が長く(詳しくは別のスライドで扱
う)、承認までに多大な時間がかかる。
また、治験を行う上でも、コストが高く、進行が
また 治験を行う上 も
が高く 進行が
遅く、患者が少ないために、困難を極める。
◇薬価規制のため、高い収益は期待できない
薬価規制により、ある程度の収入は約束されて
いる。しかし、薬価は低い水準に抑えられる傾
向が高いので、大きな収益は期待できない。
収益性がそこまで高くない以上、巨額のハイリ
収益性がそ ま 高くな 以上 巨額
イリ
スクな投資も不可能となる。
これは欧州各国も抱える問題点である。

アメリカ
◇潤沢なNIH予算と、濃密な産学官連携
◇潤沢なNIH予算と 濃密な産学官連携
アメリカのライフサイエンス研究の中核をなす、
NIH(National Institute of Health)への予算は、日
本の科学技術予算よりもずっと大きい。
本 科学技術予算よりもず と大き
また、産学官の連携が濃密で、研究者の交流や
移動が頻繁に起きている。
◇承認は迅速だが、訴訟リスクが大きい
◇承認は迅速だが 訴訟リスクが大きい
FDRによる新薬審査は迅速であり、概して期限
が守られる。そのため新薬をいち早くマーケット
に出すことができる。ただし、訴訟大国だけあっ
出す とが きる ただ 訴訟大 だ あ
て訴訟リスク・コストは高い。
◇高い収益が期待できる米国市場
対して、アメリカだと、新薬の薬価は高くつく傾
向がある。これは、医薬品企業と薬剤給付管理
会社や保険会社との交渉で薬価をある程度自
由に設定できるからである。
由に設定できるからである
ハイリターンであるから、ハイリスクなR&Dに投
資することも可能となる。
42 42
36.イノベーションを妨げるもの
~Ⅲ.イノベーションの世界規模での停滞~
◇既存薬品を上回る効果が要求される
既存の治療薬が存在する場合、それを上回る効
果を示さなければ、新薬と承認されにくい。
果を さなければ 新薬と承認され く
◇新薬候補品が枯渇し始めている
効果のありそうな化合物の組み合わせは、ほとん
ど既に出揃っている、と言われている。
◇ニーズの高い薬品は要求水準も高い
アルツハイマーへの治療薬など、ニーズの高い治
治 薬
ズ 高 治
療薬は要求水準も高く、新薬開発は困難を極める。

◇新薬開発のステージが上がっている
低分子化合物 → 分子標的薬剤 → 抗体医薬
→ 核酸医薬 と新薬開発のステージが上がって
いくにつれ、新薬開発の成功率は減少傾向。か
つ、臨床試験コストは上昇傾向にある。
◇安全性確保の必要性が上昇
日本の薬害エイズ事件や、アメリカのバイオックス
副作用問題などから、世界各国で医薬品の安全
性確保が課題となっている。
性確保が課題とな ている
そのため、開発コストが増加している。

新薬開発のハードルが上がっている
研究拠点の集約化と余剰人員の削減
医薬品開発に必要な資源を集約しなければ、新薬開発
医薬品開発に必要な資源を集約しなければ 新薬開発
の高いハードルを乗り越えることが難しくなっている。

技術の向上で、人的資源の節約が図れる一方で、研究
者に対する要求水準(そのような技術を使いこなせるか)
が高まっている。

43
37.イノベーションを妨げるもの
~Ⅳ.新薬~
現在の薬価基準の問題点:
メーカーがお金と時間をかけて新薬
を開発しても、それが何十年も前の
古い薬と同等に扱われてしまう!

医薬品の流通ルート
メーカー

厚生労働省

薬価差益がもっと欲しい!
薬価は変えられないから
メーカーが仕切値を安くし
て!

仕切価(自由価格)
製薬メーカーから卸事
業者への引渡価格
薬価基準の改定でどんどん
薬価が安くなって…研究開
発費の元が取れない!

薬価の7割は保険料と税金で賄っている
以上、薬価は私が決めた公定価格で売買
してください。また、2年に1度の改定で、
薬価と市場実勢価格の差を埋めます!

医療機関・薬局

実勢価格(自由価格)
卸から病院・薬局へ
の納入価格

卸

薬価基準(公定価格)
実勢価格の加重平均値
+C(現在は2%)
を一律適用

薬価差益

患者

提言
新薬については開発したメーカーに十分な利益が出るような価格基準を設け、特許が切れるま
で公定価格を引き下げない。特許が切れてジェネリック医薬品が出回り始めた医療品について
で公定価格を引き下げない 特許が切れてジェネリック医薬品が出回り始めた医療品について
は現行制度をこれまで通り適応する。このようにして国内でのイノベーションを促し、海外に頼る
海外に頼る
ことのないよう政府は医療品産業をしっかり育成していく必要がある!

44
38.イノベーションを妨げるもの
~Ⅴ.相次ぐ国内研究拠点の閉鎖~

近年、外資系製薬メーカーが国内の研究所閉鎖
を相次いで決定している。
2007年 グラクソスミスクライン(イギリス)
筑波研究所閉鎖
2007年 バイエル(ドイツ)
神戸研究所閉鎖
2008年 ファイザー(アメリカ)
愛知研究所閉鎖
2008年 ノバルティスファーマ(スイス)
筑波研究所閉鎖
2009年 メルク(アメリカ)
筑波研究所閉鎖予定
これらの企業は、世界各地に散在する研究所を閉鎖し、
本国あるいはアメリカの研究拠点に資源を集約化してい
る。

その原因には、
・新薬開発のハードルの上昇
・開発技術の向上
開発技術の向上
の二つが考えられる。
(引用元)ノルバティス ファーマHP 筑波研究所の閉鎖について

45
39.ジェネリック医薬品
~Ⅰ.日本さん、もっと僕を使ってください~

ジェネリック医薬品(後発医薬品)とは?

特許権の消滅には20年~25年ほどかか
り、そのころにはもう新薬は新薬ではない!

ジェネリック医薬品(後発医薬品)とは、先
ジ ネリ ク医薬品(後発医薬品)とは 先
発医薬品(新薬)の特許が切れた後に販
売される、先発医薬品と同じ有効成分、同
じ効能 効果をも 医薬品の と。
じ効能・効果をもつ医薬品のこと。

①先発医薬品より安価で、経済的!
患者の自己負担の軽減、
医療保険財政の改善に貢
献!

②効き目や安全性は先発医薬品と同じ!
(出展)IMS Health, MIDAS, New Market Segmentation, RX only MAT Dec 2006
IMS St ateg c Management Review 2006 PERSPECTIVES O THE GLOBAL
S Strategic a age e t e e
006
S C
S ON
G O
PHARMACEUTICAL MARKET

ジェネリック医薬品シェア(数量ベース)

・アメリカ、イギリス、ドイツなど・・・約半分がジェネリック医薬品
・日本・・・2割にも満たない!
日本
2割にも満たない!
日本で普及していない理由

日本では、欧米と同様の基準で
ジェネリック医薬品の性能を審
査!

患者にとっても、医療費削減にも有益な
ジェネリック医薬品だが、
日本では普及していない!

もっと使えば日本はよくなるのに・・・

・安全供給の不安・・・採算性等の問題で、すぐに製造販売が中止になることがある
・品質の不安・・・一部の後発品では溶出性・血中濃度が先発品と異なるのではないか
安
部 後
性
濃度が
・後発医薬品メーカーによる情報提供の不足・・・勉強不足・情報不足
・医師側の知識不足・・・どのジェネリックをどう選べばいいのかという不安やジェネリック医薬品に対する不信感

46
40.ジェネリック医薬品
~Ⅱ.欧米での取り組み、追いつけJAPAN~

欧米各国でのジェネリック医薬品事情
アメリカ
代替調剤制度:「商品名処方」と「一般名処方」にかか
わらず、医師が処方した医薬品を、薬局の薬剤師が品質
とコストを考慮し、患者の同意のうえで同一有効成分の
他の医薬品に替えることが認められている制度。
他の医薬品に替えることが認められている制度

イギリス

ドイツ
参照価格制度:一定の価格を超えた薬代を患
者が自己負担する制度
ドイツでは外来薬剤費の1割を患者が負担する
ことになっているが、さらに、薬剤費が一定価格
(先発品と後発品の価格の間で設定される参照
価格)を超過する分についても患者が負担する。

一般名(有効成分名)処方制度:医師が処方箋を発
般名(有効成分名)処方制度 医師が処方箋を発
行する際、商品名を指定せず一般名で処方し、成分が同
じ複数の薬の中から薬剤師が調剤できる制度。
英米では医薬分業が確立しているため 医師側にジェ
が確立しているため、医師側にジェ
ネリックへの深い知識がなくても、薬剤師と患者が自由に
新薬かジェネリックかを選ぶことができるのだ!
ちなみに、日本も2008年4月から処方箋様式が、後発
ちなみに 日本も2008年4月から処方箋様式が 後発
医薬品への変更が認められない場合のみ「後発医薬品
への変更不可」欄に署名する形式に変更された。

総枠予算制度:開業医により処方される薬に
ついて、薬剤費総枠予算を超過すると医師にも
ペナルティが課せられる。
日本は、後発医薬品メーカーがもっと医療関
係者にジェネリック医薬品の情報を伝えてい
かなければならないと同時に、我々患者も、
ジェネリックの存在、その性能に対する知識を
ジ
深めていかなければならない。

日本も欧米のようにジェネリック医薬品がもっと普及していけば、患者の自己負担や、
日本も欧米のようにジ ネリ ク医薬品がも と普及していけば 患者の自己負担や
保険料の負担が大きく軽減され、さらに医療費も抑制される!
(参照)東京大学医療政策人材養成講座編 「医療政策」入門医療を動かすための13講

47
41.ドラッグラグ
~日本で新薬開発が進ない上、輸入もままならない~
ドラッグラグとは?
新薬開発後、患者へ投入できるまでの行政の規制による空走時間のことで、欧米で承認されている医薬品
が日本では未承認のままで、国民に提供されないことが日本で問題になっている。

どれくらいドラッグラグがあるの?
米国よりも平均で

2.5年

日本は上市されるのが遅い。

(出展)厚生労働省・第1回有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会資料

解決策は?

①治験実施期間の短縮
日本では馴染みのない国際共同治験を推進させる。

②製薬企業による治験の早期開始
行政は、製薬企業が申請前に必要な準備を適切か
つ効率的に行うことができるための承認審査の基準
の明確化や、承認審査に係る相談体制の充実強化
を行う。製薬企業の方も、社会的責任を意識して治
を行う 製薬企業の方も 社会的責任を意識して治
験に取り組む。

③承認審査の迅速な実施
質を確保しつつ、審査人員を増やす。柔軟かつ効率
質を確保しつつ 審査人員を増やす 柔軟かつ効率
的な審査体制を構築する。

日本国内で新薬開発が進まず、さらに海外から
輸入されたものについても使用が遅れ、前頁の
患者満足の低下につながっている!
国際共同治験とは?
同一の試験計画に基づき、各国で同時並行的
に治験を実施すること。
国際共同治験のメリット
(1)様々な人種の治験データを一斉に集めら
れる。
(2)人件費等のコストの安い国や地域を選ん
( )人件費等
ト 安 国や地域を選ん
で治験を行うことにより新薬開発コストを減らせ
る。
承認審査等の審査人員の国際比較(平成18年現在)
日本・・・197人

アメリカ・・・2200人

ドイツ・・・1100人 スウェーデン・・・400人
(出展)医薬品医療機器総合機構治験問題検討委員会中間報告

2009年度までに審査員を倍増することが厚生
2009年度までに審査員を倍増することが厚生
労働省によって目標化された!
48
42.薬のネット販売の是非
~安全性?利便性?揺れ動く薬市場~
風邪薬、妊娠検査薬、漢方薬などがもうネットで手に入れることができなくなる!
2009年6月1日に改正薬事法の施行が予定されている。
厚生労働省は、一般医薬品を以下の3つに分類した。
①特にリスクの高い第一類医薬品(H2ブロッカー含有胃薬、毛髪用薬など)
②比較的リスクの高い第二類医薬品(主要な風邪薬や解熱剤、胃腸薬、妊娠検査薬など)
②比較的リスクの高い第二類医薬品(主要な風邪薬や解熱剤 胃腸薬 妊娠検査薬など)
③比較的リスクの低い第三類医薬品(ビタミン剤や整腸薬、消化薬など)
改正薬事法で定めるこれらの医薬品に関し、第1類・第2類の医薬品のネット販売を規制する。
省令が施行されると、解熱鎮痛剤、風邪薬、胃腸薬、水虫薬、妊娠検査薬、漢方薬などのネット販
売ができなくなる。

•通信販売で買えなくなる医薬品の
例
•副作用
①使用箇所でのニキビ
②重い低血圧
③不整脈、動悸 など
循環器疾患での死亡
の可能性も指摘され
ているため。

市販薬が通信販売で手に入らなくなることに対して、
市販薬が通信販売で手に入らなくなることに対して
楽天や漢方薬業界などが検討会で異議を唱えたもの
の、厚生労働省は5月22日、薬局などが無い離島に住
む人や漢方薬などの特定の薬を5月まで継続利用してい
た人に限り、2年間は従来通りの購入を認める経過措置
た人に限り 2年間は従来通りの購入を認める経過措置
案を決定したのみ。
その代わりコンビニでは薬剤師の代わりに登録販売士を
置けば大衆薬を販売できるようになった。
我々消費者にとってはありがたいが、既存の薬局は苦戦
我々消費者にと てはありがたいが 既存の薬局は苦戦
を強いられる。
49
医療と情報の非対称性

50
43.情報の非対称性
医療の質・コストへの評価は曖昧に

情報の非対称性・・・一般消費者にとってサービスの内容が分かりにくい
患者側に少ない
情報量

患者

非対称な情報量

本当に必要な治療・薬なのか、そうでないのか
もっと安いコストで治療をできるのか、そうでないのか
医師
異な 治療 質
医師によって異なる治療の質

必要な治療や薬、診療
必要な治療や薬 診療
報酬・薬価などについ
て、知識をもつ。

専門的知識
医者
公定価格
診療の裁量・自由度の大きさ

…これらの点を、患者自身が自力で判断するのは困難

提供される医療サ ビスの質 コスト の評価が曖昧に
提供される医療サービスの質・コストへの評価が曖昧に

医師 側 、質 向
医師の側に、質の向上への
インセンティブが働きにくい
金銭的な動機による過剰
診療がおこりかねない
診療がおこりかねな

こうした問題を患者の
努力のみによって解決
するのは難しい。
どんな仕組みで解決で
きるだろうか。

料金設定の方法
DPC疾患別定額払いの導入

個票データの活用
個票デ タ 活用
クリニカルパスの開発

第三者によるチェック
第三者によるチ ック
レセプト審査、評価機関の強化

51
44.情報の非対称性による非効率の解消
解決策① 支払制度

料金設定の方法…コストの扱い方がポイント
一つ一つの検査、診断ごとにかかったコストを積み上げて料金を設定する出来高払い制では、
診 ご
げ
定
医師による過剰診療がおこりかねない。医学的見解からすると過剰な検査でも、検査をすること
で、医師の収入の増加につながるからだ。これに対し、個別の疾病に対する投薬・注射・検査・
処置 画像診断について、あらかじめ決められた 定額が支払われる方式を、包括払い制とい
処置・画像診断について あらかじめ決められた一定額が支払われる方式を 包括払い制とい
う。この方法のもとでは、医師には、コスト抑制のインセンティブが生まれる。
日本では、DPC(Diagnosis-Procedure Combination)という疾患別定額払いの枠組みがつくら
れ、急性期の入院医療において2003年4月から導入がスタ トし、現在 般病床数の約半分で
れ 急性期の入院医療において2003年4月から導入がスタートし 現在一般病床数の約半分で
はこの仕組みを取り入れている。

医療費の支払方式
包括払い
サ ビス利用量に対応
サービス利用量に対応
サービス利用量に対応しない

出来高払い
予算配分方式
人頭払い

DRG分類(Diagnosis Related Group: 疾病
を、治療に費やされる医療資源によって
分類したもの)にもとづく包括払い方式
が、米国メディケア、民間保険に導入され
た。ドイツ・フランスにおいても導入されて
いる。
期のはじめに病院の支出・収入が定まる
費用補填方式。ヨーロッパに多い。

英国の開業医への支払い形態に
使われている。
52
45.情報の非対称性による非効率の解消
解決策② データの活用

個票データの活用
疾患別定額払いの患者データからは、患者の状態・重症度、診療行為の中身がわかる。
年齢

投薬

疾病の度合い

治癒状況等

処置・手術

医療機関のサービスの評価・比較
医療機関 サ ビ
評価 比較
治療方法の費用対効果の分析
治療方法の標準化
将来の医療費の算出

治療手順を標準化する制度の実例
病気ごとに必要とされる治療手順を標準化したものをクリニカルガイドラインという。ガイドラインの
普及によって、医療の質を管理することが期待できる。アメリカでは、厚生省直轄の研究機関
AHRQ(Agency for Healthcare Research and Quality)が、疾病についてガイドラインを作成してい
る。AHRQは患者の年齢・病状の進行度合い・処置、手術のコード・最終結果などについて、すべ
る AHRQは患者の年齢 病状の進行度合い 処置 手術のコ ド 最終結果などについて すべ
てデジタル化してデータを整備している。

ペイ・フォー・パフォーマンス…アメリカの成果主義
イ フォ
パフォ マンス アメリカの成果主義
日本の診療報酬のシステムには、質の向上への経済的インセンティブが存在しない。ペイ・
フォー・パフォーマンスとは、パフォーマンスのよい病院に対して、ボーナスをつけるという、成果
主義を取り入れた仕組みであり、アメリカでは一部の病院で導入されている。例えば、数種類の
疾患について成果主義を取り入れ、トップ10%に入った医療機関は診療報酬が上乗せされる、
というプロジェクトには、約270の医療機関が参加した。

53
46.情報の非対称性による非効率の解消
解決策③ 医療評価

③第三者によるチェック機能
レセプトとは、医療機関が保険者に対し医療費の請求を行うための医療費明細書である。このレ
レセプトとは 医療機関が保険者に対し医療費の請求を行うための医療費明細書である このレ
セプトの内容を審査することで、異常な額の請求がないかどうかチェックしたり、ある疾病に対し
てどのような治療がなされたのかという情報を集めたりできる。
現在のレセプトは、医療機関と保険者の間で、紙
現在のレセプトは 医療機関と保険者の間で 紙ベースでやりとりがなされているが 平成23年
スでやりとりがなされているが、平成23年
度にレセプトのオンライン化を終える計画があり、情報のデジタル化によって、作業の迅速化、情
報の有効活用がなされることが期待されている。しかし、病院の比較にこのデータを用いるため
には、病名・手術・処置行為のコード化のステップが必要である。

患者や疾患、診療行為の
デ タは非常に有用!
データは非常に有用!

…しかし日本では、国へのデータ提出は任意である
こと、研究者へのデータベースの公開はなされてい
ないことから活用は進んでいない…

医療評価機関
米国では、医療評価活動が、政府機関・民間組織によって行われている。民間非営利組織として
は、医療評価機関 JCAHO (Joint Commission on Accreditation of Healthcare Organizations)
が、 1953年に、ヘルスケア関連施設、プログラムの評価 認証を始めている。政府による医療機
が 1953年に ヘルスケア関連施設 プログラムの評価・認証を始めている 政府による医療機
関の許認可においても、JCAHOによる認証は利用されている。
日本においては、日本医療機能評価機構が、病院の評価を行っている。

54
日本の医療とモラルハザード

55
47.モラルハザードとは何か
1970年前後を境に、日本の医療費と高齢者の受療率が急激に増大した!
外来受療人数 (10万人対 )

国民医療費
億円

65歳以上

350 000

全年齢

16 000
14 000

300 000

12 000

250 000

10 000

200 000

8 000

150 000

外来

6 000

100 000

4 000

50 000

2 000
0
1970

75

80

85

89

87

90

93

96

99

2002

75

85

87

90

93

96

99

2002

2005

厚生労働省 「国民医療費の状況」より作成

厚生労働省 「統計表、受療率の算出に用いた人口」より作成
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/02/toukei.html
ス)

0
1965

(2010年1月19日にアクセ

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/05/kekka1.html

(2010年1月19日にアクセス)

高齢者のみ受療人数が急増!
理由:

福祉元年と呼ばれる1973年に、老人(70歳以上)の自己負担額無料化が実施された

医療費がタダになる ⇒ 些細なこと事でも病院に行こうとするインセンティブが生まれる ⇒ 医療費と受診者の増加

このように、個々人が自分のインセンティブに従って行動することで、結果的に社会全体とし
て悪い結果を招いてしまうことを、経済学ではモラルハザード
モラルハザードと呼ぶ。

56
48.モラルハザードの例
モラルハザードは、何も前スライドの例だけに留まらない!

① 医療 需要側(患者)
医療の需要側(患者)
自己負担額が安すぎると…

自己負担が安いから、いつでも好きな時に病院に行けばいい!
自己負担が安いから い でも好きな時に病院に行けばいい!

・治療の必要がないと思われる些細な事でも病院に行っ
てしまう(前頁の例)。
・健康維持の努力を怠り、却って病気にかかりやすくな
る。

医療費は増大し、病院が本当の重病人以外の患者で溢れかえる

② 医療の 供給側(医者、病院)
情報の非対称性:
医者の処方する薬や診断内容/
医者の処方する薬や診断内容/
方法が適切であるか患者には判
断できない。

強い金銭的インセンティブにより、治療方法にゆがみが生じる!

・自分の報酬を増やすため、過剰な量の薬/高額な薬
を用いたり、不必要に多くの診断を行ったりする
医療費/
医療費/受診率の増大と薬漬療法及び後発医薬品の導入遅れの元凶

このように、モラルハザードは、現在の日本医療が抱える問題のいくつかの原因となっている。
う 、
、現在 日本医療 抱
問題
く
原因
。
57
49.モラルハザード防止に向けて
~Ⅰ.免責制度を通じた自己負担額再検討〜

日本政府は1973年の福祉元年依頼、高齢者を中心に
被保険者の負担額を徐々に上げる政策を続けてきた
しかし、前頁のグラフにあるように、国民医療費は上る一方

医療保険制度の変遷

1973 福祉元年。 70歳以上老人医療費無料化。
1983

免責制度をつくり、

老人保健法を施行。高齢者の負担が外来1ヶ月
400円、入院1日300円に。

1986 高齢者の負担が外来1ヶ月800円、入院1日400

ある一定額までは保険適応範囲外とする
自己負担枠の創設なども検討されている

円に。

2002 高齢者医療自己負担の定率化(老人1割、その他
3割)。
3割)

“免責制度という考え方が医療保険に組み込まれることで、改
善の余地はあるのではないか。医療保険が崩壊するよりは、そ
の方がいいと感じている。”

2008 後期高齢者医療制度施行。

現在その存続を検討中

社会保障の在り方に関する懇談会(第7回、2005年3月18日)にて、杉田亮毅委員の発言から転載
社会保障の在り方に関する懇談会(第7回 2005年3月18日)にて 杉田亮毅委員の発言から転載
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/syakaihosyou/dai6/6gijiyousi.html

(2010年1月19日にアクセス)

風邪など、軽い症状や病気で病院にかかるインセンティブを失わせる効果が期待できる
(治療費が安く、自己負担が大きくなる可能性が高いから)
(治療費が安く 自己負担が大きくなる可能性が高いから)
主な反対意見

・“軽度の医療の負担割合が極端に大きくなってしまい、皆保険制度の意義が問われることになる。”
・“高齢者は500円や1000円を払っても病院にいくので、これによって受療行動が変わることはないのではないか。 ”
高齢者は500円や1000円を払っても病院にいくので、これによって受療行動が変わることはないのではないか。
上:財政制度等審議会 財政制度分科会 財政構造改革部会 2009年5月18日 中川日本理事会常任理事の発言から転載 http://www.mof.go.jp/singikai/zaiseseido/gijiyosi/zaiseib210518.htm

58

下:財政制度等審議会 財政制度分科会 財政構造改革部会 2008年4月25日 矢﨑独立行政法人国立病院機構理事長の発言から転載 http://www.mof.go.jp/singikai/zaiseseido/gijiyosi/zaiseib200425.htm
両リンクとも2010年1月19日にアクセス
50.モラルハザード防止に向けて
~Ⅱ.健康診断/指導を通じた成人病の早期治療〜

特定保険診査・特定健康指導
・2008年度より施行、40歳~74歳までの公的医療保険加入者全員を対象としたoptionalな“健康診断”制度
・国と市町村が費用の3分の1ずつを負担、保険者の裁量で受診者の自己負担あり
・血圧、血糖値、腹囲等を男女別に測定、基準値を満たしているかどうか検査
通称“メタボ健診”
・各保険者が執り行い、医師や保健師がメールや電話で健康維持指導
人々に健康管理を行うインセンティブを与え、予防可能な疾病で病院にかかることを防ぐ効果が期待できる
被保険者だけでなく、保険
者も巻き込んでの問題解決
を目指しているのだ!

さらに、保険者である市町村には、受診率や指導実施率などのノルマを課し、2012年ま
でに達成できなかった場合には後期高齢者制度の補助金を削減するとしている。

加えて、この制度には将来の成人病を
予防するという役割もある。

予防が困難な肺炎・結核
防
難な肺炎 結核
人々の死因は変化してきた

死亡数(人口10万人対)
肺炎

400

結核

悪性新生物

450

脳血管疾患

350
300

心疾患

250
200

早期の健康管理・治療で予防可能な成人病
(心疾患、悪性新生物、脳血管疾患)

150
100
50
0

これら予防可能な疾病を発症した者に
対し、国民健康保険料の負担を将来的
に上げる可能性も指摘されている。

99 5 1015202530354045

52

57

62

67

72

77

82

87 89

94

98

西暦

59
厚生労働省 『人口同形統計100年の歩み 主要死因別にみた性/年齢別死亡率』 (1998年) 232~243頁より作成
51.番外編
~診療報酬引き下げによる医療供給側への対処〜
診療報酬とは?
診療報酬
“診療行為の代償として医者又は病院が受け取る出来高払いの報酬のこと。”(ブリタニカ国際大百科事典)
この 部(通常3割)を被保険者負担分として被保険者が支払うことになる。通常2年に 度厚労省による改定
この一部(通常3割)を被保険者負担分として被保険者が支払うことになる 通常2年に一度厚労省による改定
が行われる。

・報酬目的の過剰な診察を抑制する

厚生労働省(平成17年時)は、2015年も
しくは2025年までに診療報酬の合計
しくは2025年までに診療報酬 合計
10%引き下げを目標にしている。

・医者にも負担を強いることで、自己負担率上
昇等の負担を負う国民の被害者感情を抑える

ちなみに、2008年の改定では、前年比
ちなみに 2008年の改定では 前年比
+0.38%と微増した。(薬価は-5.2%と減少)

(右図)厚生労働省 医療構造改革厚労省試案より作成
http://www.mhlw.go.jp/topics/2005/10/dl/tp1019-1a.pdf (2010年1月19日にアクセス)

医療費試算

現行制度維持
60

診療報酬▲10%

50
医療費(兆円)

診療報酬そのものについては、
・ 各地域により異なる医療資源の偏在を
考慮した配分をすべき
・ 勤務医と開業医の収入の差を生めるよう
に働くべき
との議論がある。(財政制度等審議会
との議論がある (財政制度等審議会

厚生労働省

診療報酬+自己負担1000円/外来1回

40
30
20
10
0
2006

2015

2025

医療費が将来的に増えていくことに変わりはないが、診療報酬の見直しと前頁の自
己負担枠導入によって15年後に10兆円前後の医療費が削減できる!
己負担枠導入によって15年後に10兆円前後の医療費が削減できる!
60
52.登録医制度
〜本当に重病の人を救う〜
免責制度を設けて自己負担額を増やす

そこで考え出されたのが登録医制度

確かに医療費抑制に効果があるが、本当に病
、本当に病
院に行くべき重病の人まで受診に来なくなって
しまうかもしれない。

もともとは、患者が自分の信頼できるかかり付け医をもち、軽症の人
まで大病院に駆け込むのを防ぐ、という目的で考案された。

登録医制度とは?
登録医制度
大病院が周辺医療機関の医師を“登録医”として把握。患者の病状が悪
化した際、周辺医療機関が大病院宛に患者の紹介状を作成し、大病院側
でスムーズで確実な対応が出来るようにする。各地域ごとに実践されては
でスム ズで確実な対応が出来るようにする 各地域ごとに実践されては
いるが、国として統一された制度ではない。

医療の効率化、
医療機能 分化を促進 うる
医療機能の分化を促進しうる!

この登録医制度を利用し、患者がかかり付け医に医療費を 括前払い
この登録医制度を利用し、患者がかかり付け医に医療費を一括前払い
(その後は追加的費用は基本的に発生しない)出来るようにしてはどうか?

医療費もしっかり確保出来て、病状が悪化したときも躊躇わずにすぐ病院に行ける。
大きな医療費削減効果が望め、患者(特に病院に頻繁に通いがちな人)にとってとてもやさし
い。
つまり、免責制度創設とのトレ
つまり 免責制度創設とのトレードオフの関係になる
ドオフの関係になる。
但し、一括払いの後追加的報酬が一切望めない医者、病院側からの反対は避けられない。

61
世界各国の
医療保険制度を見てみよう!

62
53.OVERVIEW
アメリカ
雇用先を通じた民間保険機関への加入

ドイツ
メルケル首相以下連立政権による改革

・公的保険制度のMedicare及びMedicaid

・保険料を全国統一化

・莫大な医療費と散在する保険未加入者

・無保険者の一掃

・世界NO.1の医療技術

・連邦政府補助金の増額

・オバマ大統領による保険制度大改革案

・富裕層のみアクセス可能な私的保険

シンガポール

フランス

医療費強制積立貯蓄制度
・政府が関与しない個人単位での積立
・自営業者の加入を義務付けるメディセーブ講座
・年齢と共に上昇する保険料
・支払い上限額・免責枠の存在

皆保険の下での医療費償還制度
・医療費の一部は受診後に償還
償還率は医療内容 薬剤により異なる
・償還率は医療内容・薬剤により異なる
・医療費の財政圧迫が問題化
・医療費を賄うための一般福祉税導入

63
54.アメリカ
〜Ⅰ.保険未加入者と莫大な医療費〜
公的保険は二種類だけ!
政府

Medicare – 高齢者、障害者のための殆ど自己負担のない公的保障
Medicaid – 低所得者を対象とした公的保障 資産も含めた非常に厳しい審査がある
低所得者を対象とした公的保障。資産も含めた非常に厳しい審査がある。

その他の大部分の国民は、
各個人、または雇用先で私的保険に加入する!

公的保険が存在しないため、病気がちな人ほ
ど保険に入ろうとする逆選択が働きやすい!

その結果、保険未加入者が
なんと全体の20%も!
なんと全体の20%も!

Health Insurance Coverage of Adults 19-64
20%

(2008)
Employer
Individual
Medicaid
Other Public
Uninsured

3%

Per capita total expenditure on health (2006)
8000

8%

6714

7000

63%

6%

6000
US $

5000

Kaiser family foundation “Health coverage and uninsured” より作成
http://www.statehealthfacts.org (2010年1月19日にアクセス)

/

4000
2514

2784

Japan

3000

UK

3119

3328

3554

Sweden

Germany

France

2000
1000
0

医療費も莫大に!!

USA

WTO “WHOIS Detailed Data Based Search” より作成 http://apps.who.int/whosis/data/
(2010年1月19日にアクセス)

米国医療は技術が世界で最も高いと言われる 方、様々な批判を受けている。
米国医療は技術が世界で最も高いと言われる一方 様々な批判を受けている
このような状況を打破するため、オバマ大統領は大統領選挙遊説中、
国民皆保険制度創設を宣言した。

64
日本の医療問題
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