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蚀語を瀟䌚知ずしお芋た時䜕が蚀えるか 瀟䌚的圧力が圢䜜る文法: 2010幎3月9日  蚀語凊理孊䌚 第16回 幎次倧䌚  斌 東京倧孊  「蚀語衚珟」ず「蚀語」のあいだ 吉川 正人 慶應矩塟倧孊倧孊院
1.	はじめに Introduction
1.1.「瀟䌚」ぞの回垰 チョムスキヌ以来、(理論)蚀語孊は認知科孊に しかし: 蚀語には個䜓の認知に還元できない諞性質が備わっおいる (マクロ)瀟䌚蚀語孊・蚀語/文化人類孊の瀺す通り ここで今䞀床、蚀語を「ヒト」から「瀟䌚」に返す必芁があるのでは? その䞀぀の契機が「耇雑適応系ずしおの蚀語」芳の提唱 (Beckner et al. 2009) 蚀語を話者ずいう゚ヌゞェントが耇雑な瀟䌚ネットワヌクによっお結び぀いた「耇雑適応系」ず看做す 3 NLP2010
1.2.「瀟䌚的圧力」ず文法 本発衚では: 蚀語を「瀟䌚知」ずみなした堎合、 「文法」は䞀䜓どのような姿になるのか? ずいうこずを考えおみる 結論: 我々の蚀語行動は「瀟䌚的圧力」によっお制玄されおおり、 「文法」を圢䜜っおいるのはそのような瀟䌚的圧力である ぀たり: 文法 = ある蚀語コミュニティ内で通甚する瀟䌚的芏範 4 NLP2010
1.3. 本発衚の構成 2節: 蚀語・文法の瀟䌚性」を瀺す議論の提瀺 1)	「事䟋基盀(exemplar-based)」論者の議論 2)	「文法の進化」の議論 3節: 瀟䌚的圧力が文法を圢䜜るずいう䞻匵の展開 1) 文法を構成する䞉芁玠「蚀語事䟋蚘憶 E」, 「運甚システム M」, 「瀟䌚的圧力 S」の玠描 2) 定型衚珟の重芁性の議論 時間があれば 補足1: 倚重文法仮説ずの関連; 補足2: 参考デヌタ 4節: 結語 たずめず展望 5 NLP2010
2.	背景 Background
2.1. 事䟋基盀論者の議論1 Port  (2007, et seq)の“Rich Phonology” 蚀語蚘憶 = 具䜓的・゚ピ゜ヌド的な事䟋蚘憶の集合䜓 抜象知識: 事䟋を構成する特性の「蚈算」による掟生物 「音玠」(など抜象的な)は知識は心的には実圚しない 事䟋基盀のモデルがなぜ「瀟䌚性」に結び぀く? 事䟋蚘憶  ≈「無知性」な蚘憶 本圓に抜象的・䜓系的な構造が埗られる ?? 考えられる可胜性: 「蚀語構造」=  瀟䌚的な構築物 ヒトの個䜓は瀟䌚的な芁因に敏感であるだけ 7 NLP2010
2.1. 事䟋基盀論者の議論2 Portの議論の新奇性 Tomasello (1999, 2003)の議論・蚀語/文化人類孊の議論(e.g., Enfield 2002)ず䜕が違う? 答え: トマセロ: 最終的に習埗の過皋で幌児は蚀語を内圚化させる 蚀語/文化人類孊: ヒト個䜓の知識構造にはあたり関心がない Port は 1) ヒト個䜓の持぀蚀語知識・凊理機構ず2) 瀟䌚的な蚀語構造ずを「二぀の異なる耇雑系」ず断蚀 (Port 2009) 8 NLP2010
2.2. 文法の「進化」ず瀟䌚的芁因1 Kirbyら (e.g., Kirby & Hurford 2002)の研究 「繰り返し孊習(iterated learning)」モデルにより蚀語進化をシミュレヌト 䞖代間の「継承」を通しお「埐々に単玔化される」文法進化の道筋を提瀺 Wray & Perkin(2005)の䞻匵: 文法の単玔化は「芋知らぬ人ず話す」こずの垰結 「゜ト向け (exoteric)」な蚀語ほど単玔化しやすい 非母語話者の孊習の容易性にも貢献 Kirbyらの研究の結果を説明する芁因では? 繰り返し孊習モデルでは「瀟䌚/文化的圧力」が未知 その堎合蚀語は「゜ト向け」になる 9 NLP2010
2.2. 文法の「進化」ず瀟䌚的芁因2 Batali (2002)の研究 倚重゚ヌゞェントモデルを甚い「再垰的  (recursive)」な文法の創発をシミュレヌト ゚ヌゞェント間の亀枉により再垰的な文法の創発を実珟 各゚ヌゞェントは事䟋蚘憶 + 単玔な蚘号操䜜胜力しか持たない 「亀枉」は「凊理コスト」ベヌスに行われた コストは既に知っおいる = 「誰か」が䞀床でも甚いた衚珟を利甚する堎合最小 「瀟䌚的圧力」をうたく取り蟌むこずに成功 泚意: Batali (2002)のシミュレヌションで再垰的な文法を獲埗したのぱヌゞェント個人ではなくそのコミュニティ党䜓 10 NLP2010
3.	議論 Discussion
3.1. 提案 蚀語の「創造性」の起源 蚀語胜力ずしおの蚈算機構 = 文法? 瀟䌚芁因ぞの敏感さ = 瀟䌚認知胜力? (Cf. Tomasello 2003) 提案 文法は、1) 蚀語事䟋E、2) 蚀語運甚システムM、3) 瀟䌚的圧力S によっお圢䜜られおいる EずMは蚀語掻動の可胜性を提䟛し、Sが適切性を提䟛する Sに察する䞀定の感床はみな持ち合わせおいるずいう仮定の䞋 E, M の想定は目新しくないかもしれないが、Sの導入に新奇性がある 12 NLP2010
3.2. 蚀語事䟋蚘憶 E 蚀語事䟋蚘憶Eの䞭身 蚀語衚珟 f ずその䜿甚された状況 sずの察 (f, s)の膚倧なデヌタベヌス (黒田 2007) 恐らく゚ピ゜ヌド蚘憶(e.g., Tulving 2002)ず同䞀芖可胜 (f, s)を構成する「郚分」はその「玢匕」ずしお機胜 膚倧なデヌタベヌスからの情報の取り出し (= 思い出し)を効率化するのに貢献 「語」や「構文」、「抂念」は事䟋蚘憶の玢匕ずしお再解釈 Eから芋た「文法」≈ 「統語論」 蚀語事䟋に付䞎された文レベルの玢匕の䜓系 その実䜓ずしおは黒田・長谷郚 (2009)の「パタヌンラティスモデル (PLM)」を想定 13 NLP2010
3.3. 運甚システム M 運甚システムMの働き Eを、䜕らかの倖郚芁因に基づいお運甚するシステム 「創造性」の倧元はここにある 基本的なメカニズムは恐らくアナロゞヌ ただし M は無限の創造性を「無制限には」蚱さない M はバむアスに基づく保守的なシステム 日垞の蚀語掻動の即時性を鑑みるずそう考えおしかるべき 埓っお: M は(所謂)「文法」そのものではない Mはある蚀語Lの「党䜓像」を知らない 14 NLP2010
3.4. 瀟䌚的圧力 S[1] 瀟䌚的圧力 Sずは: コミュニケヌションの達成確率最倧化のため、「なるべく他人ず同じように話す」ように働く力 事実䞊、蚀語行動の「芏範」ずしお働く ヒトは蚀語掻動の堎においお、「どのように話すのがその堎で最も適切か」 「芏範」を掚察できる 芏範は遞択される なぜSが重芁なのか? 誰でも初めはどうやったらこずばが通じるのかを知らない 蚀語は垞に他者からやっお来る= ずりあえず他者の「真䌌」をするこずが最も安党 15 NLP2010
3.4. 瀟䌚的圧力 S[2] Sの芳点から説明可胜な蚀語事実 衚珟の適切性が堎面によっお異なるこず 遞択される芏範によっお倉化する この刀断は豊かな事䟋蚘憶を基に達成される 「゜ト向け蚀語」の単玔化 (Wray & Perkins 2005) 「゜ト向け」 = 「芏範の掚察が困難/䞍可胜」 芏則的な振る舞いの出珟 ↑の垰結1:「芏則的な話し方」は負荷が高い ↑の垰結2: Sの非垞に䜎い状況では「独特」な話し方になる 泚意 Batali (2002) の蚀う「瀟䌚的圧力」ずSずは若干趣が異なる 16 NLP2010
3.5. 定型衚珟の重芁性 Sの䞋で「継承」されるのは䜕か? 明らかに: 瀟䌚/文化的に重芁な衚珟(パタヌン) = 「定型衚珟」 抜象的・䞀般的な「芏則」それ自䜓の継承は保蚌されない 定型衚珟や「䞀定の話し方」の継承の道筋 コミュニケヌション䞊有甚なものは生き残り、そうでないものは淘汰される 数の原理・瀟䌚蚀語孊的芁因に巊右される 「発話淘汰モデル(Utterance Selection Model)」(e.g., Baxter et al. 2006;  Blythe & Croft 2009) で衚珟可胜 17 NLP2010
3.x. 創発文法ず倚重文法仮説 「創発文法 (Emergent Grammar)」 (Hopper 1998)ずの関わり 䌚話の堎で動的に文法が構築されるずいう芳点は文法の「起源」の説明ずしお想定する 創発文法の掟生圢ずしおの「倚重文法仮説 (Multiple-Grammar Hypothesis)」(岩厎勝䞀氏) 倚重文法仮説(MGH)は本発衚の䞻匵ずかなりの郚分で共通 ただし: 「小文法」ず文法党䜓(倧文法?)ずの関係に察する想定は異なる MGHでは小文法は文法党䜓を「構成する」ず看做される ここでは「文法党䜓」のようなものを想定しない 18 NLP2010
3.y. 瀟䌚的圧力の実䜓? Eve:	Mommy letter . Eve:	Kathy letter ? Mother:	what did you say ? Eve:	Kathy letter ? Mother:	Kathy doesn't want a letter . Mother:	no . Eve:	no # no . Eve:	a little pencil . Eve:	that . Mother:	what is that ? 19 ,[object Object]
語結合 (逞脱)
困惑
吊定
吊定
語結合 (逞脱)
唐突な発蚀
困惑CHILDES (MacWhinney 2000)内のコヌパス (Brown 1973) より ,[object Object],女児 Eve, 1æ­³6ヶ月

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  • 1. 蚀語を瀟䌚知ずしお芋た時䜕が蚀えるか 瀟䌚的圧力が圢䜜る文法: 2010幎3月9日 蚀語凊理孊䌚 第16回 幎次倧䌚  斌 東京倧孊 「蚀語衚珟」ず「蚀語」のあいだ 吉川 正人 慶應矩塟倧孊倧孊院
  • 3. 1.1.「瀟䌚」ぞの回垰 チョムスキヌ以来、(理論)蚀語孊は認知科孊に しかし: 蚀語には個䜓の認知に還元できない諞性質が備わっおいる (マクロ)瀟䌚蚀語孊・蚀語/文化人類孊の瀺す通り ここで今䞀床、蚀語を「ヒト」から「瀟䌚」に返す必芁があるのでは? その䞀぀の契機が「耇雑適応系ずしおの蚀語」芳の提唱 (Beckner et al. 2009) 蚀語を話者ずいう゚ヌゞェントが耇雑な瀟䌚ネットワヌクによっお結び぀いた「耇雑適応系」ず看做す 3 NLP2010
  • 4. 1.2.「瀟䌚的圧力」ず文法 本発衚では: 蚀語を「瀟䌚知」ずみなした堎合、 「文法」は䞀䜓どのような姿になるのか? ずいうこずを考えおみる 結論: 我々の蚀語行動は「瀟䌚的圧力」によっお制玄されおおり、 「文法」を圢䜜っおいるのはそのような瀟䌚的圧力である ぀たり: 文法 = ある蚀語コミュニティ内で通甚する瀟䌚的芏範 4 NLP2010
  • 5. 1.3. 本発衚の構成 2節: 蚀語・文法の瀟䌚性」を瀺す議論の提瀺 1) 「事䟋基盀(exemplar-based)」論者の議論 2) 「文法の進化」の議論 3節: 瀟䌚的圧力が文法を圢䜜るずいう䞻匵の展開 1) 文法を構成する䞉芁玠「蚀語事䟋蚘憶 E」, 「運甚システム M」, 「瀟䌚的圧力 S」の玠描 2) 定型衚珟の重芁性の議論 時間があれば 補足1: 倚重文法仮説ずの関連; 補足2: 参考デヌタ 4節: 結語 たずめず展望 5 NLP2010
  • 7. 2.1. 事䟋基盀論者の議論1 Port (2007, et seq)の“Rich Phonology” 蚀語蚘憶 = 具䜓的・゚ピ゜ヌド的な事䟋蚘憶の集合䜓 抜象知識: 事䟋を構成する特性の「蚈算」による掟生物 「音玠」(など抜象的な)は知識は心的には実圚しない 事䟋基盀のモデルがなぜ「瀟䌚性」に結び぀く? 事䟋蚘憶 ≈「無知性」な蚘憶 本圓に抜象的・䜓系的な構造が埗られる ?? 考えられる可胜性: 「蚀語構造」= 瀟䌚的な構築物 ヒトの個䜓は瀟䌚的な芁因に敏感であるだけ 7 NLP2010
  • 8. 2.1. 事䟋基盀論者の議論2 Portの議論の新奇性 Tomasello (1999, 2003)の議論・蚀語/文化人類孊の議論(e.g., Enfield 2002)ず䜕が違う? 答え: トマセロ: 最終的に習埗の過皋で幌児は蚀語を内圚化させる 蚀語/文化人類孊: ヒト個䜓の知識構造にはあたり関心がない Port は 1) ヒト個䜓の持぀蚀語知識・凊理機構ず2) 瀟䌚的な蚀語構造ずを「二぀の異なる耇雑系」ず断蚀 (Port 2009) 8 NLP2010
  • 9. 2.2. 文法の「進化」ず瀟䌚的芁因1 Kirbyら (e.g., Kirby & Hurford 2002)の研究 「繰り返し孊習(iterated learning)」モデルにより蚀語進化をシミュレヌト 䞖代間の「継承」を通しお「埐々に単玔化される」文法進化の道筋を提瀺 Wray & Perkin(2005)の䞻匵: 文法の単玔化は「芋知らぬ人ず話す」こずの垰結 「゜ト向け (exoteric)」な蚀語ほど単玔化しやすい 非母語話者の孊習の容易性にも貢献 Kirbyらの研究の結果を説明する芁因では? 繰り返し孊習モデルでは「瀟䌚/文化的圧力」が未知 その堎合蚀語は「゜ト向け」になる 9 NLP2010
  • 10. 2.2. 文法の「進化」ず瀟䌚的芁因2 Batali (2002)の研究 倚重゚ヌゞェントモデルを甚い「再垰的 (recursive)」な文法の創発をシミュレヌト ゚ヌゞェント間の亀枉により再垰的な文法の創発を実珟 各゚ヌゞェントは事䟋蚘憶 + 単玔な蚘号操䜜胜力しか持たない 「亀枉」は「凊理コスト」ベヌスに行われた コストは既に知っおいる = 「誰か」が䞀床でも甚いた衚珟を利甚する堎合最小 「瀟䌚的圧力」をうたく取り蟌むこずに成功 泚意: Batali (2002)のシミュレヌションで再垰的な文法を獲埗したのぱヌゞェント個人ではなくそのコミュニティ党䜓 10 NLP2010
  • 12. 3.1. 提案 蚀語の「創造性」の起源 蚀語胜力ずしおの蚈算機構 = 文法? 瀟䌚芁因ぞの敏感さ = 瀟䌚認知胜力? (Cf. Tomasello 2003) 提案 文法は、1) 蚀語事䟋E、2) 蚀語運甚システムM、3) 瀟䌚的圧力S によっお圢䜜られおいる EずMは蚀語掻動の可胜性を提䟛し、Sが適切性を提䟛する Sに察する䞀定の感床はみな持ち合わせおいるずいう仮定の䞋 E, M の想定は目新しくないかもしれないが、Sの導入に新奇性がある 12 NLP2010
  • 13. 3.2. 蚀語事䟋蚘憶 E 蚀語事䟋蚘憶Eの䞭身 蚀語衚珟 f ずその䜿甚された状況 sずの察 (f, s)の膚倧なデヌタベヌス (黒田 2007) 恐らく゚ピ゜ヌド蚘憶(e.g., Tulving 2002)ず同䞀芖可胜 (f, s)を構成する「郚分」はその「玢匕」ずしお機胜 膚倧なデヌタベヌスからの情報の取り出し (= 思い出し)を効率化するのに貢献 「語」や「構文」、「抂念」は事䟋蚘憶の玢匕ずしお再解釈 Eから芋た「文法」≈ 「統語論」 蚀語事䟋に付䞎された文レベルの玢匕の䜓系 その実䜓ずしおは黒田・長谷郚 (2009)の「パタヌンラティスモデル (PLM)」を想定 13 NLP2010
  • 14. 3.3. 運甚システム M 運甚システムMの働き Eを、䜕らかの倖郚芁因に基づいお運甚するシステム 「創造性」の倧元はここにある 基本的なメカニズムは恐らくアナロゞヌ ただし M は無限の創造性を「無制限には」蚱さない M はバむアスに基づく保守的なシステム 日垞の蚀語掻動の即時性を鑑みるずそう考えおしかるべき 埓っお: M は(所謂)「文法」そのものではない Mはある蚀語Lの「党䜓像」を知らない 14 NLP2010
  • 15. 3.4. 瀟䌚的圧力 S[1] 瀟䌚的圧力 Sずは: コミュニケヌションの達成確率最倧化のため、「なるべく他人ず同じように話す」ように働く力 事実䞊、蚀語行動の「芏範」ずしお働く ヒトは蚀語掻動の堎においお、「どのように話すのがその堎で最も適切か」 「芏範」を掚察できる 芏範は遞択される なぜSが重芁なのか? 誰でも初めはどうやったらこずばが通じるのかを知らない 蚀語は垞に他者からやっお来る= ずりあえず他者の「真䌌」をするこずが最も安党 15 NLP2010
  • 16. 3.4. 瀟䌚的圧力 S[2] Sの芳点から説明可胜な蚀語事実 衚珟の適切性が堎面によっお異なるこず 遞択される芏範によっお倉化する この刀断は豊かな事䟋蚘憶を基に達成される 「゜ト向け蚀語」の単玔化 (Wray & Perkins 2005) 「゜ト向け」 = 「芏範の掚察が困難/䞍可胜」 芏則的な振る舞いの出珟 ↑の垰結1:「芏則的な話し方」は負荷が高い ↑の垰結2: Sの非垞に䜎い状況では「独特」な話し方になる 泚意 Batali (2002) の蚀う「瀟䌚的圧力」ずSずは若干趣が異なる 16 NLP2010
  • 17. 3.5. 定型衚珟の重芁性 Sの䞋で「継承」されるのは䜕か? 明らかに: 瀟䌚/文化的に重芁な衚珟(パタヌン) = 「定型衚珟」 抜象的・䞀般的な「芏則」それ自䜓の継承は保蚌されない 定型衚珟や「䞀定の話し方」の継承の道筋 コミュニケヌション䞊有甚なものは生き残り、そうでないものは淘汰される 数の原理・瀟䌚蚀語孊的芁因に巊右される 「発話淘汰モデル(Utterance Selection Model)」(e.g., Baxter et al. 2006; Blythe & Croft 2009) で衚珟可胜 17 NLP2010
  • 18. 3.x. 創発文法ず倚重文法仮説 「創発文法 (Emergent Grammar)」 (Hopper 1998)ずの関わり 䌚話の堎で動的に文法が構築されるずいう芳点は文法の「起源」の説明ずしお想定する 創発文法の掟生圢ずしおの「倚重文法仮説 (Multiple-Grammar Hypothesis)」(岩厎勝䞀氏) 倚重文法仮説(MGH)は本発衚の䞻匵ずかなりの郚分で共通 ただし: 「小文法」ず文法党䜓(倧文法?)ずの関係に察する想定は異なる MGHでは小文法は文法党䜓を「構成する」ず看做される ここでは「文法党䜓」のようなものを想定しない 18 NLP2010
  • 19.
  • 26.
  • 28. 4.1. 議論のたずめ 本発衚では 蚀語を瀟䌚知ずしお芋た時、 「文法」ずは䜿甚者が埓う「芏範」であり、 それを圢䜜っおいるのは「他人ず同じように話す」ように働く力 =「瀟䌚的圧力」Sである ずいう仮説を提案 その際 話者個人が持぀のは具䜓的な蚀語事䟋の蚘憶Eずその運甚システム Mのみであり、 それにSが加わるこずで文法が圢䜜られる ず䞻匵 21 NLP2010
  • 29. 4.2. 展望 それで、我々は䜕をどうすればいいか? この倧仮説を実蚌に萜ずし蟌むのは倧仕事 案1: ゞャンル毎のコヌパス分析 無理に䞀般化を蚈らずに、共通点ず差異ずを分析 (BCCWJは有甚) 案2: ヒト個䜓の知識の探求 習埗デヌタ (e.g., CHILDES, MacWhinney 2000)などを利甚 これも無理な䞀般化を目指さない 案3: 発話淘汰モデル等を甚いた蚀語倉化の分析 瀟䌚的倉数を取り蟌んだ動的な分析ぞ 22 NLP2010
  • 31. 謝蟞 以䞋の方々からのコメントが本発衚の準備にあたっお参考になりたした 黒田 航氏  (情報通信研究機構) 井䞊 逞兵教授 (慶應矩塟倧孊) 久保田ひろい氏 (慶應矩塟倧孊倧孊院) この堎を借りお謝意を衚したす 24 NLP2010
  • 32. 参考文献 (発衚論文未掲茉のもの) Brown, R. W. 1973. A first language: The early stages. Cambridge, MA.: Harvard University Press. Enfield, N. (ed.) 2002. Ethnosyntax: Explorations in grammar and culture. Oxford: Oxford University Press. Hopper, P. 1998. Emergent grammar. In Tomasello, M. (ed.) The new psychology of language (pp. 155-175). Mahwah, N.J.: Lawrence Erlbaum Associates. MacWhinney, B. 2000. The CHILDES Project: Tools for analyzing talk. Mahwah: Lawrence Erlbaum Associates. Port, R. 2009. The dynamics of language. In Myers, R. (ed.) Encyclopedia of complexity and systems science (pp. 2310–2323). London: Springer. Tomasello, M. 2003. Constructing a language: A usage-based theory of language acquisition. Cambridge, MA.: Harvard University Press. Tulving, E. 2002. Episodic memory: From mind to brain. Annual Review of Psychology, 53, 1–25. 25 NLP2010