Jass263. 言語を再び社会に チョムスキー革命以来 (理論)言語学 =認知科学 言語 = 認知的対象 言語(学)の個人化 しかし: 社会言語学・言語/文化人類学の存在 言語 = 社会・文化的対象/現象 このような “認知 – 社会/文化” のギャップ 以下の「住み分け」により解消 認知 = 個 = 基本社会 = 個の集まり(= 集団) = 応用 それでいいのか?? JASS 26 @ 阪大 3 4. それではよくない 本当に社会は(単なる)個の集まりか? 不完結な個の集合: 個には無い特性を個に「与える」 (Cf. 三宅・宮川・田村 2001) 従って重要な問い: 言語知識に関して個は完結しているか? しかし、だとしたら? 言語知識 = 社会 as 複雑適応系 の持つ知識 =社会知 (Beckner et al. 2009) この可能性を追求する 特に「社会統語論 (Sociosyntax)」 JASS 26 @ 阪大 4 (と考えてみよう) . . . 否。 5. 本発表の構成 2節: 社会知とは何か 社会知の定義 (暫定) 3節: 個人における社会知の利用可能性 個人知の不完全性 社会知利用の動機 社会知利用を可能にするメカニズム 4節: 「社会統語論」の可能性 個人知の社会的制御 入力頻度の再解釈 5節: 結語 JASS 26 @ 阪大 5 7. 社会知の定義 社会知の性質 社会 (e.g., 言語コミュニティ) (≠ 個人) が所有する知識 「誰かと共有していること」によって初めて意味を成す Cf. ヒトの脳における個々のニューロンとネットワークの関係 当該社会の成員なら等しく利用可能 「利用」というところが重要 (次節) 条件が整えば「部外者」のも継承可能 垂直・水平の双方の意味での継承 以上のような性質をもつもの ≝ 社会知 当然ながら厳密な定義にはなっていない 未定義の要素も多い JASS 26 @ 阪大 7 9. ここで問題 ヒトはニューロンとは違う ニューロン: ネットワーク表現は利用不可能 (低知能) ヒト: ネットワーク表現 (= 社会知) を利用可能= 個人による社会知の利用が可能 従って: “脳-ニューロン”とのアナロジーは破綻 ネットワーク表現 & 個体にも利用可能?? そんなことは可能なのか? .. . その辺りがヒトがヒトたる所以 言ってしまえば「メタ認知」の成せる業ということになろう JASS 26 @ 阪大 9 (と考えよう) 可能。 10. 個人知の不完全性 大前提 どの個人も、社会知の全体像を知らない。(不可知論) 言ってしまえばそんなもの存在しなくてもよい e.g., 任意の言語 L における可能な表現の境界(条件) 従って: 個の利用する知識 ≠ 社会知全体 これによって先の問題は (疑似) 解決 個は何をやっているか 社会知の部分的利用 & 社会知全体の推察 重要: 自分の知らないことの存在は知りようがない 「みんなが何を知っているか」 (と思うか) が重要 e. g., 規範・ステレオタイプの優位性 (Cf. Johnson 2006) 権威の弱い自分の経験より「他人の経験の利用」を優先 JASS 26 @ 阪大 10 11. 社会知利用の動機 新たな問題: そんな面倒な知識をなぜ敢えて利用する? かなり強力な動機が必要 社会知利用の動機 (有力候補) 社会的圧力=「みんなと同じように振る舞わないとヤバそう」感 (Batali 2002; 吉川 2010) 「とりあえず模倣」の原則を生む (Keller 1994) 意識的・無意識的双方あり 前者 = 適応理論 (Accommodation Theory)後者 = 同化の本能? (Trudgill 2004:28, 2008: 252) 「知ったかぶる」ことから始まると言ってもいい 言語は常に他者からやってくる JASS 26 @ 阪大 11 12. 社会知利用のメカニズム でもどうやって? これに関しては多くは語れない が: 意図読み系の社会認知能力は有効なはず (e.g., Tomasello & Rakoczy, 2003) エピソード想起の関連もありそう (e.g., Klein et al. 2009) 加えて ヒトは「他人同士のやり取り」が理解可能 これにより: 他との関係において「自分が何をしているのか」が理解可能 JASS 26 @ 阪大 12 14. 統語論と社会統語論 統語とはなんぞや 有限の資源から無限の表現を作り出す仕組み 有限な資源 = {形態素, 語, 構文, 機能範疇, etc.} (なんでもよし) 作り出す仕組み = {厳密なルール, 一般認知, 制約の束, etc} では 「社会」統語論 (Sociosyntax) とは 有限な資源 = 社会・文化資源たる表現の(断片の)目録 作り出す仕組み = 「社会的な」何か と考えた上で統語の働きを分析する試み 特に重要なのは後者 Cf. 前者: 定型表現 (e.g., Wray 2002)や構文の研究 (構文文法) JASS 26 @ 阪大 14 15. 個人知の社会的制御 ただし: 以下を否定する訳ではない 「作りだす仕組み」= 計算(or 演算) = 認知的営み 要点: (個に閉じた) 認知的営み「だけ」では不十分でしょう それじゃあきっと「文法」(≈ 統語論) の姿は見えてきません e. g., 言い間違え, 正用と誤用の境界 (黒田・寺崎 2010), 個人差 「文法」の姿を捉えるには社会的な制御が不可欠 一個人の「中」には文法は無いと考える= 文法の外在化 (externalization) ⇔ 内在化 (internalization) この点で例えばTomasello (2003) の主張とも食い違う JASS 26 @ 阪大 15 16. 社会統語論のモデル JASS 26 @ 阪大 16 表現の集積 (事例記憶) e … e … e e … e … e …. e ? ? 社会 ? 計算 システム ? ? フィードバック 社会性認知 社会的制御 ? 個(認知) (吉川 2010) 17. 入力頻度の再解釈 文法獲得において入力頻度は重要? 入力に基づく強化学習としての言語習得 用法基盤モデル (Usage-based Model) の重要な主張 しかし: 頻度は “1” でも表現は記憶されねばならない (e.g., Bybee 2010, Arnon & Snider 2010) 思い出しは条件が整えば可能 それならばなぜ頻度が重要? 頻度 = 社会的な強化要因 ≠ 学習に必要な認知的要因= 他者利用の履歴 頻度 1or 低頻度でも「人気者」の使用なら思い出せる JASS 26 @ 阪大 17 19. まとめ 本発表では 言語を社会知と看做す言語モデルを提案し その構想にあたっての問題点を検討し モデルの基礎づけを行ったうえで 「社会統語論 (Sociosyntax)」の可能性を論じた 重要な点 従来: 文法 = 「個」の中に閉じた認知システム 本発表の主張: 文法 = 社会知 (と個人知の相互作用) 文法の姿を決定するステレオタイプ・規範 = 社会知 JASS 26 @ 阪大 19 20. 課題 社会的であるとはどういうことか? 「社会性」を規定する要因は未検証 社会(心理)学の知見を取り入れる必要アリ 研究プログラム(の青写真)止まり 実証的な研究にどう落とし込むか 可能性1: 「社会的」タグを駆使した構造記述可能性2: 言語変化の記述 or シミュレーション Cf. 発話淘汰モデル (e.g., Baxter et al. 2006) JASS 26 @ 阪大 20 23. 追加参考文献 Batali, J. 2002. The negotiation and acquisition of recursive grammars as a result of competition among exemplars. In Briscoe, T. (ed.) Linguistic evolution through language acquisition: Formal and computational models (pp. 111–172). Cambridge: Cambridge University Press. Baxter, G., Blythe, R. A., Croft, W., & McKane, A. J. 2006. Utterance selection model of language change. Physical Review E, 73, 046118. Bybee, J. 2010. Language, usage and cognition. Cambridge: Cambridge University Press. JASS 26 @ 阪大 23