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システム開発における
契約のお話
IT業界では、以下のような契約形態がある
・請負契約
・委任契約(準委任)契約
・派遣契約
請負契約
1.契約内容
・システム開発の成果に対して報酬を支払う契約
2.責任
・委託先には、完成責任、瑕疵担保責任がある
・委託先の総合的な能力に期待
3.指揮・命令
・指揮命令系統は、請負側にある
【用語】
瑕疵・・・読み方:かし
通常、一般的には備わっているにもかかわらず本来あるべき機
能・品質・性能・状態が備わっていないこと。
委任契約(準委任)契約
1.契約内容
・業務内容に制限がある
2.責任
・原則的に業務の完成責任を負うものではない
・成果物を伴わなければならないものでもない
・瑕疵担保責任はない
3.指揮・命令
・指揮命令系統は、請負側にある
【用語】
• 委任と準委任の違い
簡単にいうと
法律に関する内容を委任する場合が委任契約、
それ以外が準委任契約
委任契約
典型的なパターンは裁判の時に契約する弁護士です。裁判は自分の主張が100パーセント通る保証はありま
せんが契約します。100パーセントでないため請負契約にならない。うまくいくかわからないけど、プロの意見
を求める、ということ。
準委任契約
典型的なパターンはコンサルタントを依頼する時です。コンサルタントも意見は言いますが何かを請け負うこ
とはありません。また、内容的には医者にかかる時も同じです。病気が100パーセント治る保証はありません
が医療行為を受けます。そのため、医者と患者の間には準委任契約が結ばれているということもできます。
派遣契約
1.契約内容
・業務内容に制限がある
2.責任
・原則的に業務の完成責任を負うものではない
・成果物を伴わなければならないものでもない
・瑕疵担保責任はない
3.指揮・命令
・派遣期間というものがあり、期間を延長するには、
再契約が必要
・労働者派遣法に基づく必要がある
・指揮命令系統は、発注者側にある
おさらい
請負契約
・請負契約は、受注者がシステムの完成に責任を持ち、成果物
を発注者に引き渡すことを約束する契約
・発注側のユーザー企業にとっては、完成と引き渡しが保証さ
れるので大変安全な契約である一方、受注者側にとっては、想
定したコストで完成できなければ、大幅な赤字案件になる可能
性すらある、リスクの高いビジネス形態
・適切なリスク管理をして、高い付加価値のあるシステムを構築
できれば、大きな利益を得られる契約形態
おさらい
委任(準委任)契約
・「SES(システムエンジニアリングサービス)」のこと。
・この契約は、発注者がシステム開発行為を行うことを受注者に委託し、受注者
がそれを受諾することにより成立する契約です。
・この契約が請負型契約と大きく違うのは
1.契約で合意したスキルレベルのシステムエンジニアを提供して
システム開発行為を行うことは約束する。
2.システム開発の成果物の完成は約束しない。
・発注側にとっては、開発の遅れが直接コスト増に響くほか、最悪の場合はシス
テムが完成しないリスクまで自ら負わなければならないものです。
・逆に受注者側は、失敗リスクを負わないという点で魅力的な契約。
しかし、その分、大きな利益にはつながりにくい契約。
おさらい
請負契約
・委任契約と派遣契約の大きな違いは、派遣契約をする場合は、
人材派遣業の申請を行い、厚生労働大臣の許可が必要。
・派遣先の上司の指揮命令下、時間管理のもと労働する必要。
実際は、民法が深く関わってるけど、ここでは
割愛します。あしからず。。。
実際は、こんな感じで作業が行われてます。
業務委託(契約)ってあるけど
一般的なビジネス用語として浸透しているが、法律上の用語の
表現としては存在しない。ただし、「委託」という表現自体は、民
法の委任契約の規定等に存在。
では、どういう意味で使う
• 委託とは、一定の行為を他人に依頼すること
• 法律行為を他人に「委託」することを「委任」と
いう。
図でいうとこんな感じ。
なので!
• 業務委託契約の実態は、法律上は必ずしも
明らかになっていない。
• このため、業務委託契約書を作成する実務で
は、契約内容(特に業務委託の内容)を契約
書で明確に定義づけたうえで作成する作業
が重要
契約を巡っては、結構トラブルもある
事例概要
原告:ソフトウェア開発会社(受託者)
被告:ソフトウェア開発会社(委託者)
請求内容
本訴請求: ソフトウェア代金請求(訴額 698万円)
反訴請求: 前払金返還請求(訴額 425万円)
経緯
受託者は委託者から、ある大規模な通信システムの一部に使うプログラムの開発を
委託され、契約を結んだ。
ところが、開発は大幅に遅れ、結局は開発不能が確定した。そのため、委託者は受
託者の債務不履行を理由に本件契約を解除し、開発費を支払わなかった。
そこで、受託者は訴訟を提起し、本件プログラム開発委託契約は準委任契約である
と主張して、作業を行った分の報酬を請求した。
争点
本件契約の類型は、請負か、準委任か。
受託者の主張
本件契約は準委任契約であるから、受託者はプログラムを完成させる義務を負って
おらず、プログラムが未完成であっても、作業した分についての報酬を得る権利があ
る。
委託者の主張
本件契約は請負契約であるから、受託者にはプログラムを完成させる義務があった。
プログラムを完成させていない受託者には、報酬を求める権利はない。
判決
受託者の請求棄却、委託者の請求認容(前払金425万円全額の返還)。
①受託者作成の開発工程表には、受託者がプログラムを完成させることを前提に、
完成までのスケジュールが記載されていること、②プログラムの規模・内容も受託者
が完成可能なものであること、などから本件契約は請負契約であると認定された。
反省点
業務委託する場合は、請負か、準委任か、契約書で明確に定めておくべきである
本件では、プログラム開発「委託」契約が結ばれたが、この「委託」は、民法上の用語ではない。その
ため、「委託」を民法上のどの契約類型にあてはめるかによって、契約から生じる当事者の権利・義務
が異なってくることがある。
民法は、依頼者から独立した立場で、他人のために役務を行う契約類型として、「請負」と「委任」(「準
委任」を含む。)を規定するが、請負と委任の主な相違点は、a) 仕事の完成義務の有無、及びb) 瑕疵
担保責任の有無である。
すなわち、請負であれば、仕事を請け負った者(請負人)は、基本的には、仕事を最後まで完成させな
ければ報酬を請求することはできず、また、成果物の瑕疵(欠陥)につき修補や損害賠償をする義務
を負うが、委任における受任者はこのような義務を負わない。
もっとも、委任における受任者は、善管注意義務(その職業・地位に応じて通常期待される程度の注
意を払って事務を処理する義務)を負っており、専門家として期待されるだけの行為をしなければ、損
害賠償責任を問われることもある。
そのため、一口に開発委託契約といっても、その実質が請負と委任のどちらにあたるかによって、受
託者の義務が異なる場合がある。本件では、契約類型をめぐるトラブルを避けるためにも、契約書に
おいて、当該契約がいずれの契約類型であるかを明示しておくべきであった。
ただし、いくら契約で明記したとしても、実質が伴っていなければ、明記したとおりの契約類型とは認め
られないことがある。例えば、契約書に「請負契約」と明記しても、実質がどうみても委任であるならば、
裁判所はその契約を請負とは認めない可能性が高い。
契約時に未確定の仕様があれば、未確定事項として書面に明記して管理すべきである
本件で受託者は、委託者から受託者に対する仕様書の提出が遅れたり、仕様に関する指示がたびた
び変わったりしたことで、プログラム開発が不能になったと主張した。
しかし、未確定の事項があるならば、未決事項として書面に明記しておき、確定後には、変更管理
手続に則って、両当事者でその確定に伴う影響を検討し、契約条件を修正しておくべきであった。
まとめ
契約を法律として理解することで
・責任範疇を理解してきましょう
・法律上の指揮命令系統が誰が持っているかを把握
しておきましょう
※とはいいつつも、人と人とお付き合い
契約を知った上でのコミュニケーションをとり業務を進
めていきましょう。

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