2021年3月6日（土）神戸学院大学心理臨床カウンセリングセンター主催フォーラム

1. 遠隔心理支援で
対面面接は再現できるのか？
竹田剛（神戸学院大学心理学部・
(社医) なにわ生野病院心療内科）
2021年3月6日（土）
神戸学院大学心理臨床カウンセリングセンター
主催フォーラム

2. 自己紹介
• 竹田剛（たけだつよし）
公認心理師・臨床心理士
• 臨床スタイル
認知行動療法・ブリーフセラピー
• 研究テーマ
過食症・拒食症の治療
心理療法の統合

3. 大前提：遠隔心理支援と対面の
効果に差はない（同等の効果）
• 遠隔心理支援群 vs 対面面接群
抑うつ症状・不安症状への効果はほぼ同等 (Catarino et al., 2018)
• 全般性不安障害に対する遠隔支援の追跡調査
スクリーニング時 vs 終結時・3ヶ月フォローアップ時
いずれにおいても有意な改善 (Théberge-Lapointe et al., 2015)
• 8週間の心理面接で，遠隔群 vs 対面群
QoL，面接満足度，治療の信頼性，サービス提供の質に対する評価
に有意差なし（Egede etal.,2016）
15人中12人が遠隔による介入に肯定的評価（Etzelmueller et al, 2018）
• 長期的な身体疾患の併存や，精神症状の重篤さは，低い転機を予測
（Catarino et al., 2018）
←とはいえ，それは対面面接においても同様（Poletti et al., 2020）

4. 対面の心理面接における「基本的な仕事」
（鑪・名島，2000）
• 目でする仕事：
表情・動作・しぐさの裏の感情を読み解く
• 耳でする仕事：
来談動機・主訴・生育歴等の聞き取り
• 前論理的レベルの仕事：
イメージ・感情・身体感覚（無意識的情報処理）
オンライン上で「基本的な仕事」は本当に支障なく行えるのか？

5. 遠隔心理支援における
アイコンタクト改善の方法論 （Grondin et al., 2020）
• テレビ電話は，視聴覚的な非言語手がかりを高い精度で送受信できる
視聴覚ミラーニューロンが情報を補完し合う現象
オンラインカウンセリングでも生じると考えられている（Scharff, 2013a）
• 合わない目線も
合うように調整できる
大学生4人をクライアント
役とするオンライン・
ロールプレイを実施
➡4名とも「テレビ電話で
あることをすぐに忘れた」

6. 遠隔心理支援における
アイコンタクト改善の方法論 （Grondin et al., 2020）
• クライアントの姿は どこまで写すべきか？
➡ズームアウトしたカメラ＝侵襲性少ない
 ズームイン→アウト群：
クライアント「接近した状態から始まると
自己意識が高まり不快」
→ズームアウトすると軽減
 ズームアウト→イン群：
セラピスト＜ジェスチャーと身体の姿勢が見やすい＞
→ズームインしても，クライアントは自己意識高まらず
ズームイン
ズームアウト

7. 精神分析による面接における
オンラインツールの利用 （Merchant, 2016）
“私たちは、防衛・抵抗・転移の状態を評価するために、
（クライアントの）発言の速度やリズム、自発性やその中断、
音色の質に注意を払います。
 私たちは、逆転移を識別し、使用するために、 私たち自身の感情・
思考・空想の表現に 耳を傾け、心を込めた表現、緊張感、
あるいは話されている言葉とは反対の感情さえも伝えます。
 Skypeは、これらの現象に関して中立です。“
Skypeは、適切な接続とそれなりの品質の機器があれば、
治療の努力にプラスにもマイナスにもなりません。”
咳・くしゃみ・呼吸の振動・沈黙の質・声のトーンによって伝達される
分析家の物理的な存在感を伝えることも妨げない（de Benaim, 2013）

8. 遠隔心理支援における
セラピストの知覚 （Shepler et al. 2016）
• 臨床的力量／思いやり・善意／信頼性／敬意／共感的理解
大学生40名を2群（オンライン／対面）に分けて模擬面接を実施
終了後，セラピストの印象を質問紙により聴取
➡いずれの項目においても両群に有意差なし
治療同盟の形成についてもポジティブな結果（Simpson et al., 2014）

9. 無意識的なコミュニケーションも
生じる
• Anderson (2013)のオンライン教育分析の事例：
オンライン教育分析中，分析家の部屋のドアがノックされ，
その音はクライアントにも届いた。しばらく分析家は応答せず，
ノックは最終的に分析家が応答するまで続いた。
分析家は教育分析を中断したが，カメラをOFFにはしなかった。
分析家の対応中，クライアントは無音の画面を見続け待機した。
その間，クライアントに「分析家が攻撃され，殺されるのでは」
とのイメージが喚起され，不安感が高まった。
教育分析の再開後，このイメージについて扱うと，
クライアントの中にある暴力的な父親への感情が明らかとなった。
その他，転移（Scharff, 2013b），セラピストの身体化（Carlino, 2011），
逆転移（Bell, 2013）も生じることが事例的に検討されている

10. 検討点①：
遠隔心理支援で生じる「つまずき」への対処
• 遠隔心理支援を行う心理職4名へのインタビュー調査
（MacMullin et al., 2020）
能力と自信 技術的問題 場所の問題
誤解の問題
境界線の
問題
倫理的懸念

11. 検討点①：
遠隔心理支援で生じる「つまずき」への対処
• クライアントは「対面面接室と同等の部屋」で面接
に臨んでいるとは限らない：リビングで，ベッドの
上で，ホテルの部屋で･･･
場所の問題
➡治療契約として枠組みを明確に定めておく必要がある
• 「画面の中」からの限られた情報のうち，文脈的手
がかりを見落とすことで，発言意図や感情のトーン
の誤解が生じるリスクがある
誤解の問題
➡全身を映すカメラの設定，明瞭な発話の促し，
「どんな感じがされますか？」等積極的な感情の同定が有効

12. 検討点②：テレプレゼンスtelepresence
の問題
• 鮮明さと
相互作用性によって影響される
（Steuer, 1992）
利用者が，自身が受ける感覚的な情報の流れをコントロールしたり，
環境に変更を加えられる程度のこと
「身体性」と関連
e.g. 身体機能を拡張しようとする時，それはスムーズに行えるか？
自分の行動に対する環境からの感覚的フィードバックが行われるか？
シミュレートされた環境や仮想空間の
中において 物理的に存在して
いるという経験，体験（Sheridan, 1992）
• 言葉のキャッチボールに微妙な間がある（不規則になる）
• フィードバックを得ようとし過ぎて動きが不自然になり
感情的なやりとりが微妙に中断される
• （面接特性または上記の影響を受け）会話量が減少する

13. 検討点②：テレプレゼンスの問題
• 遠隔会議におけるテレプレゼンス測定尺度（Berthiaume et al, 2018）
あなたが感じる
「竹田の講演のテレプレゼンス」
を評価してください！
Zoomのチャットに
回答用フォームのURLを
お送りします

14. 検討点②：テレプレゼンスの問題
• 遠隔会議におけるテレプレゼンス測定尺度（Berthiaume et al, 2018）
以下の質問は，最近の遠隔会議の間にあなたが感じたことを測定するものです。
以下で用いる「相手」とは，あなたが話し合っている主な一人のことを指します
（男性・女性，心理職，医師，教師など）。各質問について，あてはまる程度の
強さを0%-100%の間で回答してください。
1. 遠隔会議は自然なものに感じられた。
2. 遠隔会議における相手との意見交換は，
相手の存在を肌で感じながら行われているように感じられた。
3. 相手と同じ部屋にいるように感じられた。
4. 相手は私の存在を肌で感じているように感じられた。
5. 相手との会議に自分が活発に参加している印象をもった。
6. 遠隔会議が終わった時，「現実世界」に戻ったような感じがした。
7. 遠隔会議の間，時間の感覚を失っていた。
ただし 仮想空間においても･･･
• 経験と慣れによって適応する
（e.g. Biocca et al, 1998）
• 特殊なデバイスを使用しているという
意識も薄れる（e.g. Winograd et al., 1986）
• より強い感情が喚起・表出されることで
心理面接の臨場感が高まる
（Bouchard et al., 2011）

15. 検討点③：ドロップアウトが生じやすい（？）
• MacMullin et al. (2020)のインタビュー調査において
「対面よりも高率で生じる印象」という語りが得られた
 テレプレゼンスが低い状態が続いたことの影響
 遠隔での面接は「意図性」が高まりにくいリスクがある？
• テクノロジーの利便さと心理療法の重さは
別物である という旨の心理教育を行う
• 動機づけ面接の技法を用い，
面接への動機づけを高める
遠隔心理支援 遠隔なので気軽に始められます！
参加のハードルが低いです！！

16. まとめ
• 遠隔心理支援は，
「目でする仕事」「耳でする仕事」「前論理的な仕事」
それぞれについてポジティブな論証が行われている
• やってみる？ ただし慣れや練習，密な交流や説明が必要
• どう慣れるのか（どう慣れさせるか） ＋続けさせるか
• 技術的な再接続スキルや計画が必要（Kudiyarova,2013）
代替のコミュニケーション手段を用意し説明する（MacMullin et al., 2020）
• 積極的にフィードバックを収集し，違和感を確認する（Inchausti et al., 2020）
積極的に受容・共感・自己一致していることを伝える（Simpson etal.,2014）
心理職の事前訓練，継続的なスーパーバイズの必要性

17. 引用文献
Anderson, G. (2013). A male analyst reflects on his teleanalysis when a
candidate. In Scharff, J. (ed.) Psychoanalysis Online: Mental health,
Teletherapy, and Training. London: Karnac Books.
Bell, F. (2013). Psychotherapy via Skype: A therapist’s experience. The
Psychiatrist, 37(4), 144–145.
Berthiaume M., Bouchard S., Brisebois C., & Robillard G. (2018). The
validation of a telepresence scale for psychotherapy delivered in
videoconference. Annual Review of CyberTherapy and Telemedicine, 16,
131-136.
Biocca, F. & Rolland, J. (1998). Virtual eyes can rearrange your body:
adaptation to visual displacement in see-through, head-mounted
displays. Presence Teleoperators & Virtual Environments, 7, 262–277.
Bouchard, S., Dumoulin, S., Michaud, M., & Gougeon, V. (2011).
Telepresence experienced in videoconference varies according to
emotions involved in videoconference sessions. Annual Review of
CyberTherapy and Telemedicine, 9, 104-107.
Carlino, R. (2011). Distance psychoanalysis. London: Karnac Books.

18. 引用文献
Catarino, A., Bateup, S., Tablan, V., Innes, K., Freer, S., Richards, A., Stott,
R., Hollon, S., Chamberlain, S., Hayes, A., & Blackwell, A. (2018).
Demographic and clinical predictors of response to internet-enabled
cognitive–behavioural therapy for depression and anxiety. BJPsych
Open, 4, 411-418.
De Benaim, B., de P. de Varela, Y., de Setton, L. & Anonymous (2013).
Four women analysts reflect on their teleanalyses when candidates. In
Scharff, J. (ed.) Psychoanalysis Online: Mental health, Teletherapy, and
Training. London: Karnac Books.
Egede, L.E., Acierno, R., Knapp, R.G., Walker, R.J., Payne, E.H., & Frueh,
B.C. (2016). Psychotherapy for depression in older veterans via
telemedicine: Effect on quality of life, satisfaction, treatment credibility,
and service delivery perception. The Journal of Clinical Psychiatry ,
77(12), 1704–1711.
Etzelmueller, A., Radkovsky, A., Hannig, W., Berking, M., & Ebert, D.D.
(2018). Patient’s experience with blended video- and internet based
cognitive behavioural therapy service in routine care. Internet
Interventions , 12, 165–175.

19. 引用文献
Grondin, F., Lomanowska, A. M., Békés, V., & Jackson, P. L. (2020).
A methodology to improve eye contact in telepsychotherapy via
videoconferencing with considerations for psychological distance.
Counselling Psychology Quarterly, 1-14.
Inchausti, F., MacBeth, A., Hasson-Ohayon, I., & Dimaggio, G. (2020).
Telepsychotherapy in the age of COVID-19: A commentary. Journal of
Psychotherapy Integration, 30(2), 394–405.
Kudiyarova, A. (2013). Psychoanalysis using Skype. In Scharff, J. (ed.)
Psychoanalysis Online: Mental health, Teletherapy, and Training. London:
Karnac Books.
MacMullin, K., Jerry, P., & Cook, K. (2020). Psychotherapist experiences with
telepsychotherapy: Pre COVID-19 lessons for a post COVID-19 world.
Journal of Psychotherapy Integration, 30(2), 248–264.
Merchant, J. (2016). The use of Skype in analysis and training: a research
and literature review. Journal of Analytical Psychology, 61(3), 309-328.

20. 引用文献
Poletti, B., Tagini, S., Brugnera, A., Parolin, L., Pievani, L., Ferrucci, R.,
Compare, A., & Silani, V. (2020). Telepsychotherapy: a leaflet for
psychotherapists in the age of COVID-19. A review of the evidence.
Counselling Psychology Quarterly, DOI:
10.1080/09515070.2020.1769557.
Scharff, J. (2013a). Telepsychotherapy and teleanalysis in training
psychotherapists and psychoanalysts. In Scharff, J. (ed.)
Psychoanalysis Online: Mental health, Teletherapy, and Training.
London: Karnac Books.
Scharff, J. (2013b). Technology-assisted psychoanalysis. Journal of the
American Psychoanalytic Association, 61(3), 491-510.
Shepler, D. K., Ho, M. A., Zoma, P. N., Bober, C. C., & Dluzynski, J. L.
(2016). Perceptions of the therapist in a virtual world: An exploratory
analog study. The Humanistic Psychologist, 44(2), 164-176.

21. 引用文献
Sheridan, T.B. (1992). Musings on telepresence and virtual presence.
Presence Teleoperators & Virtual Environments, 1, 120–125
Simpson, S., & Reid, C. L. (2014). Therapeutic alliance in
videoconferencing psychotherapy: a review. Australian Journal of Rural
Health, 22(6), 280-299.
Steuer, J. (1992). Defining virtual reality: dimensions determining
telepresence. Journal of Communication, 42 (4), 73–93.
鑪 幹八郎・名島潤慈 (2000). 新版心理臨床家の手引 誠信書房.
Théberge-Lapointe, N., Marchand, A., Langlois, F., Gosselin, P., & Watts,
S. (2015). Efficacy of a cognitive-behavioural therapy administered by
videoconference for generalized anxiety disorder. Revue Europeenne de
Psychologie Appliquee , 65(1), 9–17.
Winograd, T. & Flores, F. (1986). Understanding Computers and
Cognition: A New Foundation for Design. New Jersey: Ablex.