【要旨】
近年、日本には年間1000万人を超える訪日外国人観光客が訪れる。その要因は円安、ビザの条件緩和、発展途上地域での所得の増加による中間層の拡大などであるが、その影響は大きく日本政府が当初目標にしていた東京オリンピックの開催年である2020年までに2000万人という数字は2016年中に到達すると予想され、その後4000万人に修正を行うほど訪日外国人観光客数が増え続けている。
では、日本にそれほどの観光客を受け入れるだけの宿泊施設はあるのだろうか。全国的に見れば客室数は足りている可能性が高いが、多くの観光客が訪れる主要都市では不足が予想される。そのため、各都市でホテルの建設ラッシュが起こっているが、追い付いていない状況である。この問題を解決するために政府が出した提案の一つに「民泊」である。簡潔に言えば、ある個人(法人も可)が所有する住宅を有償で他の人に宿泊施設として貸し出すという新たな“宿泊施設”である。しかし、民泊には多くの問題が発生すると想定されている。主な問題としては、違法な営業、近隣住民とのトラブル、衛生管理面での不徹底である。
今回、京都市を事例に取り上げた理由としては、2015年12月マンションに無許可で外国人を宿泊させていたとして、全国で初めて摘発される事件の発生したことと、や2016年7月に市民から苦情・相談の受け付けを主に行う「民泊通報・相談窓口」の開設など民泊に関する動きが盛ん起こっていたからだ。これらの出来事から我々は京都市の民泊問題は非常に深刻であり、早急に取り組むべき課題としたが、民泊の実態は誰も把握できていない。この問題を考えていく際、民泊関係のトラブルに巻き込まれている人々とその一方で民泊を用いて新たなビジネスを考える人々が存在する。我々はそれぞれにヒアリングを行うことで、京都市における民泊の在り方が発見できるのではないかと考えた。
本稿は、そのような問題意識もと京都市における民泊問題に対する政策提言を行う。本稿の構成は以下の通りである。
第1章では、民泊サービスの主体者やサービスの内容、それ関わる法律を説明する。また、政府を中心に行われてきた民泊議論の流れやそこで決められた今後の方針を見ていく。
第 2章では、根来氏、宮崎氏の先行研究を紹介し本稿の位置付け述べる。シェアリング・エコノミー(共有型経済)を民泊と結び付けた研究は国内ではまだ未成熟であるため、非常に先進的な取り組みである。
第3章では、シェアリング・エコノミーの理論を用いて民泊ビジネスの分析を行う。また、民泊ビジネスの経済波及効果の算出を行う。また、民泊に関わる利害関係者へのインタビュー調査を行い、それぞれの立場からわかる民泊の分析内容を説明する。
第4章では、第 3章の分析結果をもとに、京都市における民泊問題の政策提言を以下のように行う。
①持続可能的な情報提供の仕組み
②旅館業許可ナンバープレートの発行
③行政と仲介業者の連携