SI企業におけるHCDとビジネスチャンス

Masaya Ando
Masaya AndoProfessor at Chiba Institute of Technology
ユニバーサルデザイン研究会
                                           2011年2月14日



     SI企業における人間中心設計とビジネスチャンス
              ~“ユーザビリティ”から“UX”への転換




                                 安藤 昌也
                                 ando-m@aiit.ac.jp
Copyright ©   Masaya Ando
1

   自己紹介




                安藤 昌也
                ANDO Masaya, Ph.D.
                公立大学 産業技術大学院大学 助教

                早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。NTTデータ通信(現、NTTデータ)を
                経て、1998年 アライド・ブレインズ株式会社の取締役シニアコンサルタントに就任。
                早稲田大学、国立情報学研究所で研究員などを兼務し、2008年より現職。
                博士(学術)。専門は、人間中心デザイン。UX(ユーザ体験)の研究者。
                ユーザビリティやアクセシビリティのJIS, ISOの国内委員、人間中心設計推進機構
                理事を務める。 twitter: masaya21
Copyright ©   Masaya Ando
2

   コンサルとしてのキャリアー “ユーザを理解し翻訳する仕事”
       消費者・ユーザの意識                        ユーザの利用環境を
        価値観を理解する                            を観る




                               とにかく
                            現場のユーザを観よ!




              ユーザの利用状況                    Workの現場を
                を理解する                        を観る
Copyright ©   Masaya Ando
3

   国内唯一のHCD専門学術プログラムの提供
    履修証明プログラム
     「人間中心デザイン」

     – ブログ:
       http://hcdprogram.wordpress.com/
     – Twitter:
       aiit_hcd




Copyright ©   Masaya Ando
4




                            Human-centered Design




Copyright ©   Masaya Ando
5

   みなさんの人間中心設計のイメージは?
                        システムの使いやすさ -ユーザビリティ の実現




         操作画面(UI)をわかりやすように            とりあえず、ユーザビリティテスト
          配置すればいいんでしょ?                をやっておけばいいんでしょ?




                             お客さまの言う通りに作っていれば
                                まず問題ないでしょ?
Copyright ©   Masaya Ando
6




                            人間中心設計の新展開




Copyright ©   Masaya Ando
7

   人間中心設計の新展開




                            から

                                 へ

Copyright ©   Masaya Ando
8

   人間中心設計ISOの改訂
    ISO13407は、2010年にISO9241-210に改訂された。

                                   調べる




                                         企画する




         確かめる



                            設計する
                            つくる
Copyright ©   Masaya Ando
9

   “ユーザエクスペリエンス:UX”への転換
    9241-210では、HCDの原則としてユーザエクスペリエ
     ンス(UX)の実現を挙げ、“ユーザビリティの実現”から
     さらに進化した。

              「人間中心設計の目的は,設計プロセス全般にわ
              たってUXを考慮することにより,よいUXを実現す
              ることである」 (ISO9241-210, 6.4)

               ISO9241-210におけるUXの定義
              ユーザエクスペリエンス(UX):
              製品やシステム,サービスの利用,および/もしくは予想された
              使い方によってもたらされる人々の知覚と反応

Copyright ©   Masaya Ando
10

   UXとユーザビリティ

                             モノサイド                   ユーザサイド

                                         コンテキスト



                            インタラクティブ
                               製品        相互作用




                  有効さ・効率             ユーザビリティ      満足度




                                                  ユーザエクスペリエンス

Copyright ©   Masaya Ando
11




                        SI企業におけるUXを重視した
                        人間中心設計への対応事例




Copyright ©   Masaya Ando
12

   UXを意識したHCDに舵をきった企業
    近年、国内メーカー系を中心にUXを実現するための
     HCDプロセスを全面的に採用した企業が登場している。
              富士通グループ
                     – グループ全体の事業方針としてHCD技法を応用した
                       「フィールド・イノベーション」を採用
                     – 富士通デザイン(株)の、基本デザインポリシーとして
                       「Human-centered Design」を採用
                     – 富士通研究所の10年間の開発戦略を「ヒューマンセント
                       リックなネットワーク社会の実現」と策定

              日立製作所
                     – 新しいシステム開発手法「エクスペリエンス指向アプロー
                       チ」を開発。手法自体で、グッドデザイン賞を受賞。
Copyright ©   Masaya Ando
13

   富士通グループ
    「フィールド・イノベーション」は、現場のユーザの声に基
     づくシステム開発。多数の実績を挙げ注目を集めている。
                            富士通Webサイト




                                        これまでのHCDの取り組み経験や技
                                         術を、「フィールド・イノベーション」とい
                                         う新サービスへ昇華。
                                        「ビジネス・フィールドワーク(エスノグ
                                         ラフィ)」が大きな特徴に

Copyright ©   Masaya Ando
14

   日立製作所
    HCDの技法をベースに、UXを本格的に取り込んだシス
     テム開発手法を開発。2010年のグッドデザイン賞受賞。
                            エクスペリエンス指向アプローチの基本プロセス




                                         (出所:日立評論 2010 07http://www.hitachihyoron.com/2010/07/pdf/07a03.pdf)

Copyright ©   Masaya Ando
15

   参考:日立製作所でのHCD導入分野




                (出所:2008年11月河崎宜史氏資料よりhttp://www.hitachi.co.jp/Prod/comp/soft1/events/report/omw_200811cosmi/pdf/cb-1.pdf)
Copyright ©   Masaya Ando
16

   UXを考慮したSI企業のHCD取り組みの特徴

   発注担当者ではなく、システムの実利用者の視点
    “現場”を重視する開発プロセス

   要件定義までのプロセスで、HCDの技法を積極
    的に活用

   フィールドワークなど、ユーザと積極的に関わるこ
    とを重視し、ユーザの本質的課題の発見に力点

                 顧客の現場を重視したHCDの開発プロセスにより
                 ビジネス価値創造に貢献する点が評価されている
Copyright ©   Masaya Ando
17




                       SI企業は、HCD・UXを
                     どのように考え、対応すべきか?




Copyright ©   Masaya Ando
18

   システム開発による価値創造の考え方の変化
    ビジネスのサービス化により、ユーザがシステムといか
     に良い関係を築けるかが、提供価値になりつつある。
                       開発企業の世界観                                     提供価値
                                                  システムの
                                                   提供            ・課題解決
                                                           真の    ・機能実現
         SIer                     システム                           ・~ができるようになっ
                                                           ユーザ
                                                                  た

                                                 変化
                                                                    提供価値

                                                 ユーザの世界観         ・システムへの信頼感が
                       システムとユーザの                  新しい価値           増した
                         関係を作る                                   ・仕事のやる気が高まった
                                                           真の    ・使い方を工夫するように
          SIer                     システム            関係             なった
                                                           ユーザ
                                                                  これこそUX
(参考:2011/1/27, コクヨ株式会社 竹綱 章浩氏 AIITデザインミニ塾発表資料)
Copyright ©   Masaya Ando
19

   “使いやすいシステム”から“ありがたいシステム”へ
    システム開発の評価軸を変えることで、全く新しいソ
     リューションサービスを提供できるチャンスは大きい。

   使いやすいシステム =ユーザビリティ
              – あくまで機能提供が前提。だから、発注担当者が顧客。
              – 評価指標は、機能の有効さ、利用の効率。

   ありがたいシステム =ユーザエクスペリンス:UX
              – 「あ、これいいな」という感情を重視。真のユーザが顧客。
              – 評価指標は、システムの信頼感、利用意欲、工夫意欲。

                  • ユーザ(従業員)の意欲の向上は、顧客企業の創造性の向上
                    を促す重要な提供価値
                  • 意欲が高まると、システムへの丌満が低下する効果もある
Copyright ©   Masaya Ando
20

   本日のまとめ
                    人間中心設計の新展開である、ユーザビリティから
                    ユーザエクスペリエンスへ転換について説明した
   1. 人間中心設計の考え方は、使いやすさの実現を超え
      て、よりよいユーザ体験の実現へと進化している。
   2. すでに国内メーカー系では、新サービスとしてUXを考
      慮したHCD開発プロセスを整備。注目されつつある。
   3. システム開発の提供価値は、機能の実現ではなく、
      ユーザの利用意欲や変革意欲など、UXがもたらす新
      しいビジネス価値へとパラダイムシフトしつつある。
   4. UXを考慮したシステム開発は世界的にも始まったば
      かり。新しいソリューションビジネスのチャンスがある。
Copyright ©   Masaya Ando
21

   連絡先
    安藤研究室では、UX評価の方法論やエスノグラフィッ
     ク・アプローチによるHCDについて研究を行っています。
              – 講義、ワークショップ、手法導入、共同研究等のご相談があれ
                ばお声掛けください。



                             安藤個人宛 連絡先
                                Mail: ando-m@aiit.ac.jp
                                        masaya.ando@gmail.com
                                Twitter: masaya21



Copyright ©   Masaya Ando
1 of 22

More Related Content

What's hot(20)

9コマシナリオの使い方9コマシナリオの使い方
9コマシナリオの使い方
Mayumi Okusa9.9K views
UXの考え方とアプローチUXの考え方とアプローチ
UXの考え方とアプローチ
Masaya Ando105.8K views

Similar to SI企業におけるHCDとビジネスチャンス(20)

UXD教育の実態と課題UXD教育の実態と課題
UXD教育の実態と課題
Masaya Ando3.1K views
Devlove2012 itowpondeDevlove2012 itowponde
Devlove2012 itowponde
英明 伊藤2.9K views
UXSTRAT 2013 Redux in Tokyo via schooUXSTRAT 2013 Redux in Tokyo via schoo
UXSTRAT 2013 Redux in Tokyo via schoo
Atsushi HASEGAWA, Ph.D.1.2K views
World Usability Day 2009 JapanWorld Usability Day 2009 Japan
World Usability Day 2009 Japan
Masaya Ando1K views
定性調査のポイント定性調査のポイント
定性調査のポイント
Fumito Sato2.7K views
企業とお客様を幸せにする次世代デジタルコミュニケーションの考え方企業とお客様を幸せにする次世代デジタルコミュニケーションの考え方
企業とお客様を幸せにする次世代デジタルコミュニケーションの考え方
INFOBAHN.inc(株式会社インフォバーン)11.9K views

SI企業におけるHCDとビジネスチャンス

  • 1. ユニバーサルデザイン研究会 2011年2月14日 SI企業における人間中心設計とビジネスチャンス ~“ユーザビリティ”から“UX”への転換 安藤 昌也 ando-m@aiit.ac.jp Copyright © Masaya Ando
  • 2. 1 自己紹介 安藤 昌也 ANDO Masaya, Ph.D. 公立大学 産業技術大学院大学 助教 早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。NTTデータ通信(現、NTTデータ)を 経て、1998年 アライド・ブレインズ株式会社の取締役シニアコンサルタントに就任。 早稲田大学、国立情報学研究所で研究員などを兼務し、2008年より現職。 博士(学術)。専門は、人間中心デザイン。UX(ユーザ体験)の研究者。 ユーザビリティやアクセシビリティのJIS, ISOの国内委員、人間中心設計推進機構 理事を務める。 twitter: masaya21 Copyright © Masaya Ando
  • 3. 2 コンサルとしてのキャリアー “ユーザを理解し翻訳する仕事” 消費者・ユーザの意識 ユーザの利用環境を 価値観を理解する を観る とにかく 現場のユーザを観よ! ユーザの利用状況 Workの現場を を理解する を観る Copyright © Masaya Ando
  • 4. 3 国内唯一のHCD専門学術プログラムの提供  履修証明プログラム 「人間中心デザイン」 – ブログ: http://hcdprogram.wordpress.com/ – Twitter: aiit_hcd Copyright © Masaya Ando
  • 5. 4 Human-centered Design Copyright © Masaya Ando
  • 6. 5 みなさんの人間中心設計のイメージは? システムの使いやすさ -ユーザビリティ の実現 操作画面(UI)をわかりやすように とりあえず、ユーザビリティテスト 配置すればいいんでしょ? をやっておけばいいんでしょ? お客さまの言う通りに作っていれば まず問題ないでしょ? Copyright © Masaya Ando
  • 7. 6 人間中心設計の新展開 Copyright © Masaya Ando
  • 8. 7 人間中心設計の新展開 から へ Copyright © Masaya Ando
  • 9. 8 人間中心設計ISOの改訂  ISO13407は、2010年にISO9241-210に改訂された。 調べる 企画する 確かめる 設計する つくる Copyright © Masaya Ando
  • 10. 9 “ユーザエクスペリエンス:UX”への転換  9241-210では、HCDの原則としてユーザエクスペリエ ンス(UX)の実現を挙げ、“ユーザビリティの実現”から さらに進化した。 「人間中心設計の目的は,設計プロセス全般にわ たってUXを考慮することにより,よいUXを実現す ることである」 (ISO9241-210, 6.4) ISO9241-210におけるUXの定義 ユーザエクスペリエンス(UX): 製品やシステム,サービスの利用,および/もしくは予想された 使い方によってもたらされる人々の知覚と反応 Copyright © Masaya Ando
  • 11. 10 UXとユーザビリティ モノサイド ユーザサイド コンテキスト インタラクティブ 製品 相互作用 有効さ・効率 ユーザビリティ 満足度 ユーザエクスペリエンス Copyright © Masaya Ando
  • 12. 11 SI企業におけるUXを重視した 人間中心設計への対応事例 Copyright © Masaya Ando
  • 13. 12 UXを意識したHCDに舵をきった企業  近年、国内メーカー系を中心にUXを実現するための HCDプロセスを全面的に採用した企業が登場している。 富士通グループ – グループ全体の事業方針としてHCD技法を応用した 「フィールド・イノベーション」を採用 – 富士通デザイン(株)の、基本デザインポリシーとして 「Human-centered Design」を採用 – 富士通研究所の10年間の開発戦略を「ヒューマンセント リックなネットワーク社会の実現」と策定 日立製作所 – 新しいシステム開発手法「エクスペリエンス指向アプロー チ」を開発。手法自体で、グッドデザイン賞を受賞。 Copyright © Masaya Ando
  • 14. 13 富士通グループ  「フィールド・イノベーション」は、現場のユーザの声に基 づくシステム開発。多数の実績を挙げ注目を集めている。 富士通Webサイト これまでのHCDの取り組み経験や技 術を、「フィールド・イノベーション」とい う新サービスへ昇華。 「ビジネス・フィールドワーク(エスノグ ラフィ)」が大きな特徴に Copyright © Masaya Ando
  • 15. 14 日立製作所  HCDの技法をベースに、UXを本格的に取り込んだシス テム開発手法を開発。2010年のグッドデザイン賞受賞。 エクスペリエンス指向アプローチの基本プロセス (出所:日立評論 2010 07http://www.hitachihyoron.com/2010/07/pdf/07a03.pdf) Copyright © Masaya Ando
  • 16. 15 参考:日立製作所でのHCD導入分野 (出所:2008年11月河崎宜史氏資料よりhttp://www.hitachi.co.jp/Prod/comp/soft1/events/report/omw_200811cosmi/pdf/cb-1.pdf) Copyright © Masaya Ando
  • 17. 16 UXを考慮したSI企業のHCD取り組みの特徴 発注担当者ではなく、システムの実利用者の視点 “現場”を重視する開発プロセス 要件定義までのプロセスで、HCDの技法を積極 的に活用 フィールドワークなど、ユーザと積極的に関わるこ とを重視し、ユーザの本質的課題の発見に力点 顧客の現場を重視したHCDの開発プロセスにより ビジネス価値創造に貢献する点が評価されている Copyright © Masaya Ando
  • 18. 17 SI企業は、HCD・UXを どのように考え、対応すべきか? Copyright © Masaya Ando
  • 19. 18 システム開発による価値創造の考え方の変化  ビジネスのサービス化により、ユーザがシステムといか に良い関係を築けるかが、提供価値になりつつある。 開発企業の世界観 提供価値 システムの 提供 ・課題解決 真の ・機能実現 SIer システム ・~ができるようになっ ユーザ た 変化 提供価値 ユーザの世界観 ・システムへの信頼感が システムとユーザの 新しい価値 増した 関係を作る ・仕事のやる気が高まった 真の ・使い方を工夫するように SIer システム 関係 なった ユーザ これこそUX (参考:2011/1/27, コクヨ株式会社 竹綱 章浩氏 AIITデザインミニ塾発表資料) Copyright © Masaya Ando
  • 20. 19 “使いやすいシステム”から“ありがたいシステム”へ  システム開発の評価軸を変えることで、全く新しいソ リューションサービスを提供できるチャンスは大きい。 使いやすいシステム =ユーザビリティ – あくまで機能提供が前提。だから、発注担当者が顧客。 – 評価指標は、機能の有効さ、利用の効率。 ありがたいシステム =ユーザエクスペリンス:UX – 「あ、これいいな」という感情を重視。真のユーザが顧客。 – 評価指標は、システムの信頼感、利用意欲、工夫意欲。 • ユーザ(従業員)の意欲の向上は、顧客企業の創造性の向上 を促す重要な提供価値 • 意欲が高まると、システムへの丌満が低下する効果もある Copyright © Masaya Ando
  • 21. 20 本日のまとめ 人間中心設計の新展開である、ユーザビリティから ユーザエクスペリエンスへ転換について説明した 1. 人間中心設計の考え方は、使いやすさの実現を超え て、よりよいユーザ体験の実現へと進化している。 2. すでに国内メーカー系では、新サービスとしてUXを考 慮したHCD開発プロセスを整備。注目されつつある。 3. システム開発の提供価値は、機能の実現ではなく、 ユーザの利用意欲や変革意欲など、UXがもたらす新 しいビジネス価値へとパラダイムシフトしつつある。 4. UXを考慮したシステム開発は世界的にも始まったば かり。新しいソリューションビジネスのチャンスがある。 Copyright © Masaya Ando
  • 22. 21 連絡先  安藤研究室では、UX評価の方法論やエスノグラフィッ ク・アプローチによるHCDについて研究を行っています。 – 講義、ワークショップ、手法導入、共同研究等のご相談があれ ばお声掛けください。  安藤個人宛 連絡先 Mail: ando-m@aiit.ac.jp masaya.ando@gmail.com Twitter: masaya21 Copyright © Masaya Ando