研究概要A4
- 1. イオントラップ内の予期せぬイオン分子反応
横浜市立大学大学院 生命ナノシステム科学研究科 物質システム科学専攻
沖原 由衣
<背景>
質量分析学とは、物質の質量を測定することで、その物質の特徴を掴む手法です。本実験
では、最も一般的で2002年にノーベル賞を受賞したエレクトロスプレーイオン化(ESI)
法と、イオントラップ質量分析計(QIT)を組み合わせて使用しました。特に QIT の機能の
一つである衝突誘起解離(CID)法は、調べたい物質のみを捕まえて破壊するため、その物
質の構造を調べることができることから、食品や化粧品など様々な分野の研究に役立ちま
す。しかし、受賞から15年経過した今でも未解明な現象が多く存在します。特に、高真
空に保たれる QIT 内で測定物質がしばしば予期せぬ複合体を形成する現象を観測しました。
そこで、未知の物質の同定に貢献すべく、装置内での反応メカニズムの解明をしています。
<現在までの結果>
3種類のアルカリ金属イオン(Li+
、Na+
、K+
)付加体を使用した測定で、トラップ内で予期
せぬ水和複合体を観測しました。また、CID 法を用いることで、その水和複合体のイオン量
が増大することを発見しました。
図1 測定物のプロトン化イオンの CID 測定結果 図2 リチウムイオンが付加した測定物の CID 測定結果
<今後>
トラップ内でのイオンと滞在水分子との衝突相互作用による複合体形成の機構の解明を目
的に、アルカリ金属イオンのイオン半径と水和反応の関係性や、トラップ内でのイオン蓄
積時間とエネルギー再分配に関わる頻度因子の比較により、トラップ内での予期せぬ分解
や再配列反応や複合体形成の解明を進めています。
この研究を進めることで、未知の物質の構造情報の同定に貢献でき、装置の改良や様々な
製品の安全面の強化に繋がると考えています。
<主な活動実績>
第63回質量分析総合討論会ポスター発表(2015.06.17-19 つくば国際会議場)
HCOOH
Ile-H2O+H+
H2O
Ile+Li+
Ile+H2O+Li+
Ile+H+