L'Interaction qu'entraîne la "faiblesse" 「弱さ」が誘発する相互行為
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日本フラスン語教育学会発表スライド
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L'Interaction qu'entraîne la "faiblesse" 「弱さ」が誘発する相互行為
- 1. 大阪市立大学大学院文学研究科 フランス語圏言語文化 福島 祥行 fukushim@lit.osaka-cu.ac.jp 日本フランス語教育学会春季大会 慶應義塾大学三田キャンパス（2 juin 2018） 「弱さ」が誘発する相互行為 ―フランス語学習者の相互行為分析から― L'interaction qu'entraîne la "faiblesse"
- 2. 2/41 コミュニケーションのターン ◼ コミュニケーションのありがちなイメージ：「話し 手」sujet parlantが「発信」し、「聞き手」sujet écoutant が「受信」するのをひとつのターン tour/turn とみなし、発話者が交替しながら、ター ンがつづいていく（turn taking system 順番ど りシステム）。
- 4. 4/41 コミュニケーションのターン ◼ コミュニケーションはマルチチャンネル、マルチ モーダル（cf. Condon & Sander 1974）。 ◼ 発 話 者 énonciateur と 共 発 話 者 co- énonciateur は「発信しつつ受信」する（ex. 音声 発話を発信しつつ、ジェスチャーを視覚的に受信）。 ◼ 「受信」は受動的行為ではなく、能動的行為である （cf. Gibson 1962）。 ◼ 「受信」されてこそ「発信」が成立する（コミュニ ケーションの協働達成）。
- 6. 6/41 教え－学びの同時並行性 ◼ コミュニケーションの場では、さまざまな方法とさま ざまなチャンネルで、「発信しつつ受信」と「受信し つつ発信」が同時並行的におこなわれている。 ◼ 「教え」と「学び」の場合も、「学ばれてこそ教えが 達成される」という協働達成構造と、「教えつつ学 ぶ」「学びつつ教える」というマルチモーダル、マ ルチチャンネル構造はおなじ（cf. 福島 2015）。 ◼ 「学び」が受動的ではなく、能動的行為である点も おなじ。
- 9. 9/41 教え－学びの相互行為性 ◼ 「教え」と「学び」は、「共発話者をふくむ外界」との 相互行為 interaction 裡に生じる。 ◼ 「外界≠人間」のケース：プリント、辞書、環境、風景 etc.との相互行為。 （事物をふくむ） 環境 環境との 相互行為 学習者 学び 教え
- 11. 11/41 「弱いロボット」の思考 ◼ 「弱いロボット」の思考（岡田 2012; 2017）：ひとり ではゴミを拾えないので、他人に拾ってもらうゴミ 箱ロボット（Sociable Trash box）や、たどたどしく 語りかけてくるロボット（Talking-Ally）など。 ◼ 自己のみで完結せず、他者（外界）の存在＝助力 を前提とするデザイン。 ◼ 他者（外界）にむかって開かれていることが、他者 （外界）からの action の端緒となる。 ◼ 「弱い」ことが相互行為を誘発する。
- 12. 12/41 「弱いロボット」の思考 ◼ 「関係論的な行為方略」(岡田 2017: 200) ◼ 「わたしたちの共同行為を生みだすためのポイン トは、自らの状況を相手からも参照可能なように表 示しておくこと。『いま、どんなことをしようとしてい るのか』『どんなことに困っているのか』、そうした 〈弱さ〉を隠さず、ためらうことなく開示しておくこ とで、お掃除ロボットは周りの手助けを上手に引 きだしているようなのである」(岡田 2017: 204)。
- 13. 13/38 ◼ Social Trash Box（岡田他）
- 16. 16/41 相互行為分析 ◼ 対象：フランス語初学者クラスの大学生4名（いず れも初学者。週3コマ受講）。 ◼ 4名のグループワーク（GW）。グループは、授業ご と、トランプをもちいてランダムに組まれる。 ◼ 360度カメラ（Gear360 SM-R210）により撮影。カ メラはGWをする机の真ん中に設置 ◼ 再生は主としてGoPro VR Player。 ◼ データ１：4月からはじめて、12回目の授業。 ◼ データ２：4月からはじめて、2回目の授業。
- 17. 19/41 相互行為分析 ◼ データ1：つぎのタスクをグループでおこなってい る。 ◼ prendreの説明文 を例文とともに作 成する。 ◼ GW 開 始 直 後 の シーン。
- 18. 20/41 相互行為分析 ◼ 状況：Aが辞書の例文「prendre ses lunettes め がねをかける」を参考に、じぶんのプリントに Je prends ses lunettes. と書く。Bは辞書を見ていた が、「眼鏡」のフランス語がわからず、例文を書き はじめているAを頼る。 ◼ 008行目：B「見してー」⇒A（プリントを差しだす）
- 19. 21/38 音声 視線 動作
- 20. 22/41 相互行為分析 ◼ Bがじぶんの書いた ses を書き写すのを見たAは、 「自信のなさ」（＝弱さ）を告白する。 ◼ 010行目：A「セ シェ シェであってんのかわからへ んけど」（プリント見せつつ）⇒B「ごめん」 ◼ 011行目：B「わからん。セってなんやったっけ？」 ◼ 012行目：A「あれやない」⇒B「ソノみたいな」
- 21. 23/38
- 22. 24/38
- 23. 25/41 相互行為分析 ◼ Aは「ses＝所有形容詞」ということをふりかえる。B もまた、所有形容詞であることに到達する。最終的 に、ふたりとも mes という「正答」にいたる。 ◼ 012-013行目：A「あれやない。モ、モン。前やった やつ」 ◼ 012-013行目：B「ソノみたいな。カレカノジョの」 ◼ 014-015行目：A「じゃあモン？ モンマ……メ、メ、 メ、メ」 ◼ 014-015行目：B「あ、ほんまや。モンマメ。メや」
- 24. 26/38
- 25. 27/38
- 26. 28/41 相互行為分析 ◼ 014行目：A「じゃあ、モン？」（半疑問形。視線は、 C⇒じぶんのプリント⇒Bと彷徨う）、B（AとAのプリ ントを見て）「あ、ほんまや」（訂正にとりかかる） ◼ 015-016行目：A「メ、メ、メ、メ」（Bのペン先を見て、 みずからも訂正すべくプリントを回収し消しゴムを 掴む）、B「モンマメ。メや」（ふりかえりをしつつ、修 正を確認） ◼ AもBも、互いの「弱さ」（不全）がリソースとなって、 学び直している。
- 27. 30/41 相互行為分析 ◼ データ2：発音記号と解釈、説明いりのプリントを参 考に、つぎのタスクをグループでおこなっている。 ◼ 本文を、1文ず つ発音⇒とな りの人が耳コ ピ⇒そのとなり の人が解釈。 ◼ 本文3行目に はいったところ のシーン。
- 28. 31/41 相互行為分析 ◼ それまで、つぎの発話者を、手で指しながら「仕 切って」いたCの発話番になる。 ◼ 001行目：Cが順番を確認すると、ABDは「同意」も しくは「承認」をあたえる。
- 29. 32/38
- 30. 33/41 相互行為分析 ◼ Cは Je suis の Je の発音に違和感を感じ、みずか らの能力缺如（＝弱さ）を吐露する。すかさず、Aが 発音してみせ、Bは同意をあたえ、Dも発音しなお す。 ◼ 003行目：C「ジェ……なんて読むんだ、ジェ」、A 「ジュスイ」、B（うなずく）、D（ややおくれて）「ジュ スイ」 ◼ 004行目：C「ジュスイ」、B（ユニゾンで）「ジュスイ」
- 31. 34/38
- 32. 35/41 相互行為分析 ◼ Cは、みずからの「つまづき」によって、 「Je suis を ジュスイと発音できる能力」を「獲得」した。 ◼ Cの「つまづき」（＝弱さの提示）が、A, B, Dの「Je suis をジュスイと発音できる能力」を誘発した。 ◼ ぎゃくにいえば、A, B, Dの「能力」は、Cの「つまづ き」がなければ、顕わにならず（確認＝リフレク ションが生じない）、発音できる能力は無いのと同 じであった。
- 34. 37/41 個体能力主義⇒関係論的能力主義 ◼ 共同学習 apprentissage collectif は「ひとりでで きないことでも、複数名でならできる」という思想に もとづく（ex. 巨大オブジェ製作、催事企画 etc.） ◼ だが、そもそも、「ひとりでできる」ことなど存在す るのか？ たとえば「読書」は「本」を、「散歩」は「道 や風景など」の「他者（外部）」を必要とする。 ◼ 「学び」は、《他者》（外界の環境をふくむ）との相互 行為 interaction によって誘発される生態論的 écologique、関係論的 relationnel なもの。
- 35. 38/41 個体能力主義⇒関係論的能力主義 ◼ 「できる」（能力）は、「個体」のなかに閉じられてい るのではなく、「他者（外部）」との相互行為裡にし か発現しえない。 ◼ 「個体能力主義」から「関係論的能力主義」へ。 ◼ 「フランス語能力」もまた「本人のなか」にはなく、 「他者（外部）」との相互行為裡に発現する。 ◼ 「すべては社会的相互行為のなかに存在する」と 考える協働学習 apprentissage collaboratif・協 調学習 apprentissage coopératif へ。
- 36. 39/41 「弱さ」と関係論的能力主義 ◼ 「弱さ」を提示する構造は、「ともに学ぶ」という関 係のなかにあって、「他者の補完」を誘発しやすい。 ◼ 「補完」できるということじたいが、その能力の発露。 ◼ 「弱さ」は、補完という他者の能力をつくりあげ、補 完されることで自己の能力をつくりあげる。 ◼ 自律的学習者 apprenant autonome とは、「ひと りでできるもん」な人ではなく、「ひとりでできない けれど、援助・依存可能な他者＝外部を増やして いける」人のことである。
- 37. 40/41 「弱さ」応用の具体例 ◼ まずは実践する機会。 ◼ 相互に補完を強いる構造（そのような明示的指示、 ジグソーのような相補必要教材）。 ◼ 「つまづき」や「《知識》不足」や「他者（＝外部）依 存」を積極的に容認するとの明示的指示。 ◼ 漸進的プロセス（「答」ににじりよる）の意識化。 ◼ 「つっこみ」を惹起するような「ボケ／隙」の提示 （ヘンな記述、例文、イラスト etc）。
- 38. 41/41 参考文献 ◼ Condon, William S. & Sander, Louis W. (1974). Synchrony Demonstrated between Movements of the Neonate and Adult Speech, Child Development, Vol.45, No.2: 456-462. ◼ Gibson, James J. (1962). Observations on active touch, Psychological Review, Vol.69, No.6.: 477-491. ◼ 岡田美智男 (1995). 『口ごもるコンピュータ』東京:共立出版. ◼ 岡田美智男 (2012). 『弱いロボット』東京: 医学書院. ◼ 岡田美智男 (2017). 『〈弱いロボット〉の思考 わたし・身体・コミュニケーション』 東京: 講談社. ◼ 福島祥行 (2015). 「協働学習における「学習者」の構築――フランス語初修者の 相互行為分析から――」『人文研究』66, 153-171. ◼ 福島祥行 (2016). 「グループ・ワークにおけるふりかえりの生成――フランス語初 級クラスの相互行為分析から――」 『Revue Japonaise de Didactique du Français』第11号, 第1・2巻: 29-45. ◼ 福島祥行 (2017). 「相互行為分析からみたグループワークにおける「アクティ ブ」の発露について」, 『外国語教育メディア学会（LET）第57回全国研究大会発 表予稿集』: 154-155. fukushim@lit.osaka-cu.ac.jp