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What is quality culture? Is it something tasty?
- 3. 偉い人たちは品質文化をどう理解してるの?
• ソフトウェア/デジタルな業界における品質文化そのものについて
真っ向から取り組んだものは、実はほとんどないような気がする
– 「品質文化試論」 → “真っ正面から立ち向かうのはやめよう”
• https://qiita.com/mkwrd/items/a85a95bdcf889521e69f
• しかし品質文化のようなものを構成する
考え方やプロセス、技術を個別に解説したものはたくさんある
• a.k.a アジャイル開発
• 「質とスピード」
– https://speakerdeck.com/twada/quality-and-speed-2020-autumn-edition
• 価値を届けるとかビルドトラップとか
• 技術的負債とか木こりのジレンマとか
• 自動化とかパイプライン化とか
• ホリスティックテスティングとかシフトレフトとか
• 「Agile Testingは新しい概念なのか?」
– https://confengine.com/conferences/scrum-fest-niigata-2022/proposal/16404/agile-testing
© NISHI, Yasuharu
p.3
- 4. 他の業界では?
• ハードウェアっぽい業界では?
– やはり、ほとんど説明されていない
• 日本的品質管理は、品質第一という原則であるがゆえに、
品質だけをわざわざ取り出さずに組織マネジメント全体の良し悪しを論じている気がする
– 具体的な考え方やプロセス、技術で説明しているものはある
• 全員に品質管理教育をしています
– 日本人は品質の高いものを好む、という暗黙の前提を指しているものもある
– 日本文化と関連させて説明しているものもある
• 「不確実性回避の強さ、技術主義にはしる長い日本文化」(園川隆夫/東京工業大学)
– 海外の人も安物(の海外のライバル)の製品じゃなくて、
品質の高い(自分たちの)製品を買ってくれないかなぁ、という責任回避と勝手な願望ですらある
• きちんと定義している人もいる
– 「環境変化に適応する自己変革能力」(新倉健一/前田建設工業)
– 二つの意味がある(近藤良夫/京都大学)
• 「ある企業や職場において、顧客に提供される製品やサービスの質が尊重される雰囲気」
• 「人間は、誰もが使用目的に適合した良い品質を好み、良い品質を得ようとする努力を惜しまない」
– 品質は、コストや生産性と異なる特性を本来もっている
» 歴史が長い – 生産性は数百年、コストは数万年、品質は(道具の歴史と同じで)数百万年
» 提供者と顧客が同様に興味を持つ – コストは逆向きに興味を持ち、顧客は生産性に興味を示さない
© NISHI, Yasuharu
p.4
- 5. 他の業界では?
• 医薬品業界
– 米FDAが定めたGMP(Good Manufacturing Practice: 医薬品の製造・品質管理の基準)に
“Quality Culture”を重視せよという項目が含まれた
• 世界中で同様の取り組みがなされているらしい
– 薬害などを規制だけで減らすのには限界がある、という発想らしい
• 明確な定義はなされておらず、いくつかの解釈が存在するらしい
– 「患者への高質な医薬品の提供に関連する
組織および組織内の個人の集団的な考え方、信念および行動」
– 「品質に関わる従業員が共有する信念、価値観、行動規範の集合体」
• 安全関連業界:安全文化
– チョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故の事故後検討会議の報告書で初めて使われたらしい
– 品質文化とちょっと違う … 全てに優先する?
• 「全てに優先して原子力施設等の安全と防護の問題が取り扱われ、
その重要性に相応しい注意が確実に払われるようになっている
組織、個人の備えるべき特性 および態度が組み合わさったもの」
– 認証を取得する必要のある組織の場合、
認証取得のための活動をすれば安全文化が構築できる、
と言わんばかりだったりする
• なるほどFDAは正しい
© NISHI, Yasuharu
p.5
https://compliancearchitects.com/
what-are-fdas-thoughts-on-quality-culture/
- 6. そもそも文化って何なの?
• 辞書を引くのはネタのない人がやること、と相場が決まっておりまして…
– 「文化」 (広辞苑)
3. 人間が自然に手を加えて形成してきた物心両面の成果…衣食住をはじめ技術・学問・芸術・道徳・宗教・政治
など生活形成の様式と内容とを含む。文明とほぼ動議に用いられることが多い…。
– “culture” (Oxford Learner’s English)
4. the beliefs and attitudes about something that people in a particular group or organization share
– (ある特定の集団や組織に共通する考え方や態度)
– 「文化」(日本語大シソーラス)
• 国民性、国民思想、国民精神、国民道徳、民族性、風土、民度
– 組織の場合、組織風土や社風
• 要するに文化とは「ある集団において優先度の高い思考様式・行動様式」のこと
– xx文化とは、xxを優先する思考様式・行動様式のことである
• 品質文化とは、品質を優先する思考様式・行動様式のことである
• 品質文化が根付いた組織とは、
みんなが自然に品質を優先するよう思考・行動する組織のことである
© NISHI, Yasuharu
p.6
- 7. 自然に品質文化が形成されるほど甘くない
• 日本人には品質を重視する国民性があるから何もしなくても品質文化は形成される?
– 「江戸しぐさ」と同じくらい偏った思い込みであり、事実とは異なる考え方である
• 日本には品質の低い組織やコストだけを優先する組織、品質不正を行う組織が少なくない
• その中には、昔は品質文化が醸成されていた(と言われている)組織もある
– イマドキの日本の組織は多国籍だったりするので、国籍に依存する考え方ではうまくいかない
• だからといって品質文化を強制してもうまくいかない
– 人間は、自分が納得できる原則(principle)に従って思考し行動を行うものである
• 納得感を感じない原則には従わないし、無理に従うと心や身体を壊してしまう
• 不適切な原則を強制しても持続可能な組織はつくれないし、そんなことができる時代でもない
– 「24時間戦えますか」はもう通用しない
– イマドキのソフトウェア/デジタルな組織は、やる気のある人たちを最大化して組織を構成することができる
• 強制されなければやらない人たちを、採用や組織配置などで最小化できる
– 強制されなければやらない人たちを最小化できない産業や組織では強制するための策がかなり必要になり、
かなりの手間やコストがかかってしまうだけでなく、根付くための期間も長く、根付く割合も低く、崩壊しやすくなる
例) 単価がとても低いソフトハウス
• 自組織の「やる気⇔強制」のスライダーをどこに置けるかは、実は文化形成の大きなポイントになる
© NISHI, Yasuharu
p.7
- 9. どんな原則があるの?
• 品質文化の土台となる原則には色々たくさんある
– イマドキのソフトウェア/デジタルな組織でよく言われる原則
• 「質とスピード」
• 価値を届けるとかビルドトラップとか
• 技術的負債とか木こりのジレンマとか
• 自動化とかパイプライン化とか
• ホリスティックテスティングとかシフトレフトとか
– 伝統的なハードウェア組織のTQM(総合的品質管理)の原則
• 品質第一
– 技術的負債とか木こりのジレンマとか
• 目的指向とプロセス主義
– 「それで何が嬉しいの?」とシフトレフト
• 改善サイクルと標準化
– ふり返りして成長しよう
• 方針管理
– 階層間の納得感の共感
• 悪さの知識と水平展開
– バグやトラブルをパターン化して組織みんなで共有して気をつける
• 全員参加と後工程はお客様
– より広い意味でのホリスティックテスティングと、より広い意味でのテスタビリティやオブザーバビリティ
• 事実に基づく管理と5ゲン主義
– 思い込みや社内政治で行動しない、現場現物現実+原理原則
• 自律と小集団活動
• 人間性尊重
– これで全部ではない
© NISHI, Yasuharu
p.9
https://www.pro-pharma.ch/services/qualityculture
- 10. しかしよく見ると
• どうも趣きの違う原則が含まれている気がするぞ…
– 価値を届けるとかビルドトラップとか
– 技術的負債とか木こりのジレンマとか
– 自動化とかパイプライン化とか
• 「品質文化」と一括りにするのはちょっと大きすぎる気がする
– サブ文化に分けてみたらどうだろう
• 「価値を届けるとかビルドトラップとか」 → 価値文化
• 「技術的負債とか木こりのジレンマとか」 → 組織能力文化
• 「自動化とかパイプライン化とか」 → エンジニアリング文化
– ドメインや組織の構造や状況、歴史などによってサブ文化間のバランスが異なる
• スケールが重要な産業においてはエンジニアリング文化に傾けた方がよいし、
組織が大きくなっていく時期には組織能力文化に傾けた方がよいかもしれない
• 3つのサブ文化は独立ではなく、一つの品質文化を構成する3つの側面なので、
互いに良い影響を与え合うようにしなければならない
– 「設計を改善するのはいいが納期は絶対だ」のような、
サブ文化同士をトレードオフにしてしまう原則は採用すべきでない
© NISHI, Yasuharu
p.10
- 11. 価値文化
• 「嬉しい」組織にする
– お客様が嬉しい
– (内部)ステークホルダーが嬉しい
– 社会も嬉しい
例) SDGs、カーボンニュートラル
• 本当の価値は何か、どうやって実現できるかを考え抜いて考え抜いて考え抜く
– お客様の価値
• 機能・非機能?サービス?ビジネス?ブランド?
• 価値を無秩序に埋め込みすぎると嬉しくなくなるのでお客様のストーリーを大事にする
• 価格差だけが価値にならないようにビジネスをピボットする
• 価値を実現するために常に組織内のサイロを崩していく
– (内部)ステークホルダーの価値
• 納得感が共感できる仕事、フェアで透明な管理、ビジョンやパーパスの明確な経営
– 無理を通せば道理どころか全てが引っ込む
• 不当・無用な邪魔が入らない、技術的負債や組織的負債にエネルギーや時間を取られない
– 社会の価値
• かなり昔から商売の極意として知られていた:三方よし
© NISHI, Yasuharu
p.11
- 12. 組織能力文化
• 「強い」組織にする
– 個々の納得感が共感されてチームや階層の納得感となり、
それらが共感されて組織の納得感になるようにする
• 全員参加、サイロを崩す
– カイゼン能力、問題解決能力を養う
• 良さの知識だけでなく悪さの知識も重視する
• 抱え込まずみんなでシェアしみんなで解決する
• ゴールを常に見直し、今の方向性で続けていいのかをいつも自問する
• 技術的負債や組織的負債に気づき解消しようとする
• 問題を発見する能力と、発見された問題をみんなが受け入れる能力も重要である
– ロジックとアートを区別し、それぞれを重視するとともに、思い込みや社内政治での行動を排除する
• ロジックだけだと人間が機械にように扱われ、アートだけだと思い込みが増えてしまう
– 個々のエンジニアやチームが自律し成長できるように、
失敗したりできなかったりする時に寄り添う役割が必要になる
• 教えすぎるコーチや巻き取りすぎるQAは時に自律や成長を阻害してしまう
– 複数の組織やチーム、個人の間を回遊して色々なことを伝えたり広めたりする役割が必要になる
• 組織のインターフェースを定義して完全に役割分担したつもりでも必ず穴が発生するので、
常にそれを見つけて、埋めようと呼びかけ、なんで穴ができたんだろうと問いかける
– 変えるべきところと変えるべきではないところをいつも考える
• ゴールも問題も常に動き続けるし、自分たちも常に変わり続ける
© NISHI, Yasuharu
p.12
- 13. エンジニアリング文化
• 「すごい」組織にする
– 仕事で発生する制約を常に技術で超えようとする思考様式を持つ
• 時間的制約、空間的制約、移動的制約、エネルギー的制約などをエンジニアリングで解消する
• 常に技術で超えなければならない、というわけではないので注意が必要
• 人海戦術は「負け」という発想を持つ
– 不具合の原因や良い設計の要因を、技術的に追い込むようにする
• 自分のレイヤの技術だけでなくその上下のレイヤの技術をいつも身につけようとする
• 取り替える文化・再起動文化・コピペ文化・スクリプトキディ文化はどんどん撲滅する
– 速く上手に失敗する
• 一度決めたことが間違っていたり古びてしまったらどんどん変える勇気を持つ
• 技術的世代交代を上手に行う
– 技術感度を高める
• 外部のコミュニティなどのオープンな情報を上手に活用する
• 必要な外部組織とどんどん連携する
© NISHI, Yasuharu
p.13
- 15. 原則を習慣化する
• サブ文化と原則を設計しただけでは文化は根付かない
– 地道で泥臭い活動が必要になる
• ミーム
• 技術的施策
• 組織的施策
• 人事的施策
• 財務的施策
など
– 文化が根付くと、文化が人を育て、人が文化を育てるという好循環になる
• サブ文化と原則の設計に失敗すると、どう頑張っても文化は根付かないし人も育たないという悪循環になる
• 根付いたからといって油断すると、数年で消失してしまうこともある
– トップ層や中間管理層という上位層こそ文化に忠実でなくてはならない
• ダメな施策の例) 上司が分からない技術セミナーに部下を参加させる
• ミームとしての組織方言を重視する
– ミームとは、習慣や技能、物語といった、文化を形成し進化する情報である
– 品質文化が根付いた組織には、文化を伝播・強化する、その組織固有の方言がある
– さまざまな原則をトップ層から中間管理層、フロントラインまで、
意思決定時に口癖のように言う組織は文化が根付いていることが多い
© NISHI, Yasuharu
p.15