第2回日本心身医学関連学会合同集会でのシンポジウム「医療における共感を考える」における話題提供

1. 心理臨床の対話における非言語コミュニケーション：
映像解析による検討
追手門学院大学 長岡千賀
日本心身医学会
シンポジウム2 医療における共感を考える
1

2. 第2回
日本心身医学関連学会合同集会
ＣＯ Ｉ 開示
筆頭発表者名： 長岡 千賀
演題発表に関連し、開示すべきCO I 関係にある
企業等はありません。

3. 自己紹介
長岡千賀
• 博士（人間科学）
• 専門：認知科学，社会心理学，
非言語コミュニケーション研究
• 例えば，同調性
3(デズモンド・モリス 『マンウォッチング』から）
Meltzoff & Moore (1977)

4. 自己紹介
長岡千賀
• 博士（人間科学）
• 専門：認知科学，社会心理学，非言語コミュニケーション研究
• 例えば，同調性
• 相互作用における言語・非言語行動と、その機能を検討してきた。
• 題材は例えば、臨床心理の対話（特に深層心理学派; 2004-2012年）
• 自閉スペクトラム症児の作業療法（感覚統合; 2011年-）
• クライエントのこころの動きと、それを支えるセラピストの関わり方
を探る
4

5. • 吉川左紀子（京都大学こころの未来研究センター） 認知心理学
• 桑原知子（京都大学教育学研究科） 臨床心理学
• 渡部 幹（モナッシュ大学ビジネススクール） 社会心理学
• 大山泰宏（京都大学教育学研究科） 臨床心理学
• 小森政嗣（大阪電気通信大学情報通信工学部） 実験心理学
• 畑中千紘（京都大学こころの未来研究センター） 臨床心理学
• 長岡千賀（追手門学院大学経営学部） 認知心理学
心理臨床のセラピスト養成の難しさ：臨床心理学における研究の動機
5
心理臨床対話研究 プロジェクトメンバー

6. 研究の方法（概要）
1. 現実のカウンセリングにできる限り近い設定で，模擬カウンセリ
ング場面を撮影し，非言語行動を分析する
• プロのセラピストとクライエント役の対話 1回あたり約50分
2. 他の対話と比較する
• カウンセリング と 悩み相談
• 「質が高い」カウンセリング と そうでないカウンセリング
3. 非言語行動の分析結果を，当のクライエント役やセラピストの内
観と対照する
 クライエントとセラピストの関係性を，非言語コミュニケーショ
ンから捉える試み
• 両者の発話と沈黙の時間長，身体動作の同調性
• セラピストの表情，瞬目，話者交替時の言葉（相槌的表現） 6

7. 事例の設定
• 初回面接を想定
• 各ケースともクライエントの主訴や性別，年齢等は同一とした
（事例間の比較をより有効にするため）
• 相談申込書における主訴
「相談したいこと：人と一緒にいると緊張する。（教室やサー
クルでみなが楽しそうにしていると怖くて入れない。影で悪口
を言われているような）
やけ食い？をする。」
• 悩み相談では，高校時代の恩師に，上記の悩みを相談するとい
う設定
7

8. 8
分析事例
ThA： 臨床心理士A(女性・約4年の経験) N-ThC教師C（女性・約4年の経験）
ThB： 臨床心理士B(女性・約27年の経験) N-ThD教師D（女性・約27年の経験）
Cl1-4 ：女性・学部学生～臨床心理学専攻修士学生
※セラピスト本人による事後評価（9段階）
低評価
高評価
事例
No.
セラピ
スト
クラ
イエ
ント
事後
評価
※
熟達者による評価
心理
臨床
対話
事例1 ThA Cl1 3 関係性が十分深まら
ず，語りは表面的事例2 ThA Cl2 4
事例3 ThA Cl3 6 関係性が十分深まり，
語りが非常に内省的事例4 ThB Cl4 7
悩み
相談
事例3’ N-ThC Cl3 - 相性の良い組み合わせ
事例4’ N-ThD Cl4 - 強い上下関係

9. 9
方法：収録装置
約1.60m
第３小型カメラ
Cl撮影用カメラ
Th撮影用
カメラ
ピンマイク
壁側に
セラピスト
（Th）↓
クライエント
↓ （Cl）

10. 方法：ビデオ解析手法
各話者の身体動作の大きさの評価
ビデオ解析による定量化手法
参考：小森政嗣・長岡千賀. (2010)心理臨床対話におけるクライエン
トとカウンセラーの身体動作の関係：映解析による予備的検討，
認知心理学研究 8(1) 1-9.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcogpsy/8/1/8_1_1/_article/-char/ja/
10

11. 方法：ビデオ解析手法
各話者の身体動作の大きさの評価
• この波形に対し相互移動相関分析を行った
11
-5
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
0 500 1000 1500 2000 2500
INTENSITYOF
BODYMOVEMENT[dB]
TIME[s]
COUNSELOR
CLIENT
セラピストとクライエントの身体動作の大きさの変化の一例
時間遅れなしの移動相関
セラピスト
クライエント
相関を求める
セラピスト
クライエント
時間遅れ
相関を求める
時間遅れありの移動相関

12. 時間遅れ(秒)
経過時間(分)
‑5 ‑4 ‑3 ‑2 ‑1 0 1 2 3 4 5
0
10
20
30
40
(e) 事例 3’ ( 悩み相談事 例 )
結果のグラフの見方
悩み相談（聞き役は高校教諭：50分間）
聴き手が
話し手(Cl)より
遅れて動作
相関が非常に
高い
＝体の動きが
同調している
時
間
経
過
聴き手が
話し手(Cl)より
先に動作
12どちらが他方のフォロワー？

13. 13
結果
時
間
経
過
時間遅れ(秒)
経過時間(分)
‑5 ‑4 ‑3 ‑2 ‑1 0 1 2 3 4 5
0
10
20
30
時間遅れ(秒)
経過時間(分)
‑5 ‑4 ‑3 ‑2 ‑1 0 1 2 3 4 5
0
10
20
30
(a) 事例 1( 低評価事 例) (b) 事例 2( 低評価事 例 )
低評価事例
時間遅れ(秒)
経過時間(分)
‑5 ‑4 ‑3 ‑2 ‑1 0 1 2 3 4 5
0
10
20
30
時間遅れ(秒)
経過時間(分)
‑5 ‑4 ‑3 ‑2 ‑1 0 1 2 3 4 5
0
10
20
30
(c) 事例 3( 高評価事 例) (d) 事例 4( 高評価事 例 )
高評価事例 時
間
経
過
約0.5秒セラピストが遅れる

14. 14
分析事例
ThA： 臨床心理士A(女性・約4年の経験) N-ThC教師C（女性・約4年の経験）
ThB： 臨床心理士B(女性・約27年の経験) N-ThD教師D（女性・約27年の経験）
Cl1-4 ：女性・学部学生～臨床心理学専攻修士学生
※セラピスト本人による事後評価（9段階）
高評価
悩み相談
事例
番号
セラピ
スト
クラ
イエ
ント
事後
評価
※
熟達者による評価
心理
臨床
対話
事例1 ThA Cl1 3 関係性が十分深まら
ず，語りは表面的事例2 ThA Cl2 4
事例3 ThA Cl3 6 関係性が十分深まり，
語りが非常に内省的事例4 ThB Cl4 7
悩み
相談
事例3’ N-ThC Cl3 - 相性の良い組み合わせ
事例4’ N-ThD Cl4 - 強い上下関係

15. 15
時
間
経
過
時間遅れ(秒)
経過時間(分)
‑5 ‑4 ‑3 ‑2 ‑1 0 1 2 3 4 5
0
10
20
30
時間遅れ(秒)
経過時間(分)
‑5 ‑4 ‑3 ‑2 ‑1 0 1 2 3 4 5
0
10
20
30
(a) 事例 1( 低評価事 例) (b) 事例 2( 低評価事 例 )
低
評
価
事
例
時間遅れ(秒)
経過時間(分)
‑5 ‑4 ‑3 ‑2 ‑1 0 1 2 3 4 5
0
10
20
30
時間遅れ(秒)
経過時間(分)
‑5 ‑4 ‑3 ‑2 ‑1 0 1 2 3 4 5
0
10
20
30
(c) 事例 3( 高評価事 例) (d) 事例 4( 高評価事 例 )
高
評
価
事
例
時間遅れ(秒)
経過時間(分)
‑5 ‑4 ‑3 ‑2 ‑1 0 1 2 3 4 5
0
10
20
30
40
時間遅れ(秒)
経過時間(分)
‑5 ‑4 ‑3 ‑2 ‑1 0 1 2 3 4 5
0
10
20
30
40
(e) 事例 3’ ( 悩み相談事 例 ) (f) 事例 4’ ( 悩み相談事 例 )
←臨床対話
↓悩み相談

16. 考察
1. セラピストの身体動作はクライエントの身体動作の約0.5秒後に
起こる傾向がある
• セラピストはクライエントに「沿う」（フォロワー）
• クライエントを見て動くというより，予測的に動く
2. この傾向は高評価群において特に顕著
3. この傾向は悩み相談の対話では確認されない
4. この傾向は、カウンセリング対話の序盤では程度が弱く一貫して
おり、中盤において強まる
16

17. 17
事例4
（高評価事例）
01020304050
時刻（分）

18. Cl長い沈黙(90秒)を
含む発話
Th相槌的表現
少ない
Th相槌的表現
連続
18
事例4
（高評価事例）
01020304050
時刻（分）
コミュニケーションの特徴
Clの質問への応答
相槌的表現を最初に含む
相槌的表現を最初に含まない

19. 19
相槌的表現とは
– 相槌的表現がある例：
A：お腹が痛いです
B：ふん，どんな風に痛い？
A：お腹が痛いです
C：お腹が痛いの．どんな風に痛い？
– 相槌的表現がない例：
A：お腹が痛いです
D：どんな風に痛い？

20. Cl長い沈黙(90秒)を
含む発話
Th相槌的表現
少ない
Th相槌的表現
連続
20
事例4
（高評価事例）
01020304050
時刻（分）
コミュニケーションの特徴
終盤
中盤
序盤
Clの質問への応答
相槌的表現を最初に含む
相槌的表現を最初に含まない

21. Cl長い沈黙(90秒)を
含む発話
Th相槌的表現
少ない
Th相槌的表現
連続
21
事例4
（高評価事例）
01020304050
時刻（分）
コミュニケーションの特徴
終盤
中盤
序盤
Th：Clの主観に身をおき感情移入した質問。内面にシフト。
Cl：それより前に比べて深く主観を語る。話すのがつらい。
Th：事実を確認する質問
Cl：Thが答えをくれると期待して
応答
Cl：自分がつらいところを探っていこうか，
引き返そうか…
Cl：自分の中で少し整理がついてきた。
Thからもらった答えのような気がした。
ClとThの内言報告，臨床心理学的
解釈を枠内に示す。

22. 考察
1. セラピストの身体動作はクライエントの身体動作の約0.5秒後に
起こる傾向がある
• セラピストはクライエントに「沿う」（フォロワー）
• クライエントを見て動くというより，予測的に動く
2. この傾向は高評価群において特に顕著
3. この傾向は悩み相談の対話では確認されない
4. この傾向は、カウンセリング対話の序盤では程度が弱く一貫して
おり中盤において強まる
5. 身体動作の同調性は、語りの深まりや両者の内的状態と対応して
変化する傾向がある
 身体動作の同調性は、クライエントとセラピストの関係性、言う
なれば共感の指標となると考えられる。 22

23. 考察
• 両者の関係性が、時間経過に伴って変化することは示唆的である
• クライエントが治療に協力的、適応的に振る舞う兆しの程度が変化
する
• 序盤「やってもらいたい」→
終盤「自分でできた気がする」「このThとならこれからもできる気がする」
• 同時に、セラピストの関わり方も変化する
• 序盤：Thは、Clが知覚・認知している世界を読み解く
• このときThは、Clを、症状でカテゴリー化して見るのとは別に、世界
でただ1人しかいないユニークな存在として情報収集（個別化;
Nagaoka, et la., 2013）。その人の、きらっと光る素敵なところを見
つける（セラピスト談）
• 中盤・終盤：Clがしんどそうであっても、話せそうなら待つ（Clの長い
沈黙発生）
23

24. おわりに
• 心理臨床の対話における身体動作の同調性を，定量的分析で示した。
• ただし，こうした非言語コミュニケーションの「型」を身につけれ
ば，良質なクライエント-セラピストの関係性を作れるわけではない
と考えられる。
24

25. 参考文献
25
• 小森政嗣・長岡千賀. (2010). 心理臨床対話におけるクライエントとカウンセラーの身体動作
の関係：映解析による予備的検討，認知心理学研究 8(1) 1-9.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcogpsy/8/1/8_1_1/_article/-char/ja/
• Meltzoff, A. N., & Moore, M. K. (1977). Imitation of facial and manual gestures by
human neonates. Science, 198, 75-78. doi:10.1126/science.198.4312.75
• Morris, D. (1977). Manwatching: Afield guide to human behavior. New York: Abrams.
• 長岡千賀・小森政嗣・桑原知子・吉川左紀子・大山泰宏・渡部幹・畑中千紘. (2011). 心理臨
床初回面接の進行: 非言語行動と発話の臨床的意味の分析を通した予備的研究 (<特集> 相互作
用のマルチモーダル分析). 社会言語科学, 14(1), 188-197.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jajls/14/1/14_KJ00008208122/_article/-char/ja/
• Nagaoka, C., Yoshikawa, S., Kuwabara, T., Oyama, Y., Watabe, M., Hatanaka, C., &
Komori, M. (2013). A comparison of experienced counsellors, novice counsellors, and
non-counsellors in memory of client-presented information during therapeutic
interviews. Psychologia, 56(2), 154-165.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/psysoc/56/2/56_154/_article/-char/ja/