SlideShare a Scribd company logo
1 of 7
Download to read offline
140604 日比谷
海の放射能汚染
湯浅一郎(ピースデポ)
(1)はじめに
1)ピースデポ、「市民の手による平和のためのシンクタンク」。
「軍事力によらない安全保障体制の構築をめざして」核軍縮・基地問題を中心に一次資料に基づく正確な情
報の発信源となる。→「核兵器・核実験モニター」、「イアブック核軍縮・平和」の刊行。
2)1868 年、フェルデイナンド・フォン・リヒト・ホーフェン(シルクロードの命名で知られる地理学者)
の懸念; 米国から中国への船旅で、瀬戸内海を通った、
「 広い区域に亙る優美な景色で、これ以上のものは世界の何処にもないであらう。将来この地方は、世界で
最も魅力のある場所のひとつとして高い評価をかち得、沢山の人を引き寄せるであらう。 《中略》
かくも長い間保たれて来たこの状態が今後も長く続かんことを私は祈る。その最大の敵は、文明と以前知ら
なかった欲望の出現とである」(リヒトホーフェン『支那旅行日記』より)。
それから約80年後(1938 年)に、核分裂とそれに伴う膨大なエネルギーの放出が発見され、核兵器と核
発電(原発)が作り出され、社会に定着していった。その流れ全体を問うことが人類に課せられた急務である。
3)海の汚染という観点から福島事故の犯罪性を考える。
過失~対処できるのに怠った問題
引き起こした事態の深刻さと犯罪性は?
(2)事故から2年半後に表面化した「汚染水処理」問題
1)はじめに ―港湾内魚類の超高濃度汚染― 13年3月16日付「福島民報」記事
「アイナメ74万ベクレル 福島第一原発港湾― 東京電力は15日、福島第一原発の港湾内で捕獲した
アイナメから、魚類では過去最大値となる1キロ当たり74万ベクレルの放射性セシウムを検出したと発表
した。これまでの最大値は、福島第一原発の港湾内で捕獲したアイナメの51万ベクレルだった。」
→原発から放射能汚染水が出続けていることを示唆(東電は、汚染水が漏洩していたことを知っていたはず)
。10万ベクレルを越える魚がどのようにして生まれたのかの説明は、国、東電など誰もしていない。
2)経過 ;このころから原発からの「汚染水の海洋への漏えい」がにわかに政治課題に。
*地下貯蔵タンクからの漏水(4月5日)に始まり、海への漏えいを認めざるを得ない状況に。
*トレンチなどの滞留水が海へ300トン流出 (13年8月7日、第31回原子力災害対策本部);
地下水の流れに関する試算発表。「1~4号機には一日約千トンの地下水流入。このうち約400トンが原
子炉建屋に流入。残りの一部が、トレンチ内の汚染水に触れて、汚染水として海に放出されている」。
*6月から7月にかけ、1~4号機取水口付近の地下水からトリチウム、ストロンチウムなど検出。
「地下水の水位変動が海の潮汐変動に応答している。潮汐に対応して海へと出ていくはずである。」
ただし、「港湾外への影響はほとんど見られない」と主張(東電)。分析精度が悪いため見えないだけ。1
ベクレル/kg。普通は1Bq/立方m。東電は、これを参議院選挙の直前に認識していたが、発表は選挙直
後。
1日 2年
流出量(東電の試算);トリチウム 500億Bq 約40兆Bq
セシウム 40-200億Bq 約20兆Bq
ストロンチウム 30-100億Bq 約10兆Bq
*汚染水貯蔵タンクからの漏えい
8月19日、鋼板をボルトで締めただけの「フランジ型」地上タンクから汚染水300トンが漏えい。耐用
年数5年なのに。8月31日、他の4か所で最大で1800ミリシーベルトの高放射線検出、9月1日、タ
ンク間をつなぐ配管のつなぎ目からも漏えい。8月28日、原子力規制委員会が国際原子力事象評価尺度(I
NES)の暫定評価を8段階の上から5番目に当たる「レベル3」(重大な異常事象)に引き上げた。
3)対症療法でしかない政府の政策パッケージ
この混迷により2020年オリンピック開催地の最終選考への悪影響を懸念して、9月3日、政府は、原子
力災害対策本部・原子力防災会議合同会議を開催し、「汚染水問題に関する基本方針」を発表。
①汚染源を「取り除く」;原子炉建屋地下等のトレンチ内に滞留する高濃度汚染水を除去し、また、国費で
より高性能な多核種除去設備(ALPS)を整備(150億円)して高濃度汚染水の浄化を加速。
②汚染源に「近づけない」方策;建屋を囲む凍土方式の遮水壁の設置(320億円)等を国費で行う。
③汚染水を「漏らさない」ため;水ガラスによる壁の設置や、海側遮水壁の設置等を多重的に行う。
抜本的対策とするが、実際は対症療法の積み上げ。9月7日のオリンピック最終選考会で安倍首相は「状況
はコントロールされている」、「汚染は原発港湾内0.3平方キロ内に閉じ込めている」と言い切る。
4)根本問題をはぐらかす東電の水処理対策 ―地下水の流入が本質ではないー
東電や政府は、地下水の流入対策が根本問題のように言うが、地下水は、副次的な要素。本質は、原子炉、
とりわけ溶け落ちた燃料デブリの存在状態や、それに即して冷却作業の現状に関わること。
原子力規制委員会の混迷; 例;13年7月10日、会議における更田委員の発言。
「○更田委員:海側の海水配管トレンチ、ケーブルトレンチからの漏えいというのは非常に大きな危惧を持
って、強い関心を持って、最も関心・注意しなければならない点として押さえてきたところですけれども、
いまだに元がわからない。一昨年漏えいして滞留していたものが広がったのか、(中略)あるいは現在も漏え
いが続いているのか、元のところがはっきりしていない。」
→状況は、11年3月11日の直後と変わっていない。今は崩壊熱が小さく、放出される放射能も少ない
ため、汚染度合いが事故当時より小さいだけで冷却に関する構造は同じである。
今こそ、事故発生当時、それぞれの原子炉で何が起きていたのか?を思い起こすべき。例えば1号機につ
いては、国会事故調報告書165ページに以下の記述がある。
「溶融炉心の格納容器床面への落下;-1号機では、12日2時45分までには原子炉圧力容器の底部付近
に破損が生じた。流動性に富み、密度の大きな溶融炉心の大部分は、破損口の拡大とともに、1時間程度で
格納容器底部に落下したと推定される。落下した溶融炉心の(中略)大部分はコンクリートを熱分解しなが
ら下方に向けて移動したと思われる。しかし、その大部分が格納容器床面に落下したと考えられる溶融燃料
が、現在、どこにどのような状態で存在しているのかについてはなにもわかっていない。」
2,3号機についても事情は変わらない。溶けた燃料の所在と存在状態がわからないまま、崩壊熱を出し
続けている。冷却系統の損傷個所は、いまだ不明で、補修など成しうるはずもない。事故発生時に冷却系統
を閉じることができなかった状況は、現在も継続している。現在の冷却作業も、閉じた循環系を作れず、滞
留水の一部が、わからないところから漏えいしている。これが問題の本質である。この系統的な記述はない。
仮に空冷を考えるにしても燃料デブリの所在と存在状態がつかめない中では、困難ではないか?
無人機による調査や探索の状況を明らかにさせるべし。
5)「循環冷却ライン」でしかない冷却システム
―冷却用の水は滞留汚染水を使用し、再び滞留水に入るー
以上の観点で「廃炉中長期ロードマップ」を見直すと、現在の冷却の実態がさりげなく示されている。
滞留水の水収支:1~4号機の原子炉建屋、及びタービン建屋の床面に推定で約7.3万トンの滞留水が存
在する。それは、海水配管トレンチの滞留水ともつながっている可能性が高い。そこへ地下水が1日に約4
00トン流入。
タービン建屋にたまっている滞留水から、1日、約800トンの汚染水を取りこみ、セシウム、塩分を除去
する装置を通過して淡水とする。その内、約400トンを冷却用として原子炉に注水する。原子炉に入り燃
料デブリと接触して更に汚染された水は、再び原子炉建屋やタービン建屋にたまっていく。
図1 汚染水処理の全体像(循環注水ライン)(「廃炉措置に向けた中長期ロードマップ」の図を一部改変)
残りの約400トンは、陸上の中低レベルの一時貯蔵タンクにためた後、ALPSで処理後、貯蔵タンクに
ためていく。2.5日で1基づつ増えていく。初めから閉じて循環する冷却系統は考えられず、注水したものは、
すべてそのまま滞留水に入っていくことが前提。だから循環系でなく「注水ライン」なのだ。
建屋に流入してくる約400トン/日の地下水が問題となるのは、ここにおいてである。1日に850トンの
地下水をくみ上げていたサブドレインが地震で使用困難に陥り、地下水の多くが建屋地下の滞留水に流入す
るようになった。毎日1000トンもの地下水が原発建屋に押しよせ、地下水400トンは、日々発生する
汚染水と混じって、滞留水は増え続けている。
地下水のバイパス計画の妥当性?-貯蔵タンクより下流側の井戸から取水する限りにおいて、タンクなどか
らの汚染水の流入の危険性が伴う。何故、より上流側で取らないのか?→本当の狙いは、貯蔵タンクにたまっ
ていく汚染水の放流のきっかけを作りたいという意志?
最大の問題=滞留水における放射性物質の収支が示されない; これでは、滞留水の放射能濃度がどう低下
していくのかわからない。冷却に伴い、冷却水に混入する相当量の放射性物質が生成される。セシウム除去
装置により約400トンを日々処理していることで除去される放射能量(トリチウムは無視)、その差し引きが
日々の放射性物質の収支になる。現時点で滞留水全体が有している放射能量と比べた時、その処理量は、ど
のくらいの割合を占めるのか。何日、何年あれば放射能をゼロにできるのか?この見通しが見えない。中長
期ロードマップには2020年内に「建屋内の滞留水処理の完了」となっている。現時点における1日当た
りの放射能の収支すら示さない中で、何年後に処理が完了するなどとしても、あくまでも希望的観測でしか
ない。
13年夏に大きな課題となったのは、第1=原子炉建屋やタービン建屋、更には海水配管トレンチなどの
滞留水が、1日に約300トン、海に流出している問題。この海へのルートは、一つとは考えにくく、トレ
ンチなどに流入し、砕石を通じて地下水系に入っているものなど、いくつものルートがあるはず。
第2=地上タンクに既に相当量が貯蔵され、少なくとも2年は状況が変わらないまま、2.5日で1基の割
りで増え続けるタンク群がある。そこからの汚染水漏えい問題は、いつ表面化するかわからない。
東電、政府の「根本的な対策」は、この問題にまったく触れていない。問題の根源は、1~3号機を中心に
今だに2000度C以上の熱を発している溶融燃料の塊が、その存在状態も不明のまま、原子炉内に現存し
ていること自体にある。徐々に熱量は減るとはいえ、冷却を続けねばならず、同時に高濃度汚染水が生成さ
れ続ける。溶融燃料の存在が、冷却系統を寸断し、閉じて循環できる冷却作業を拒み続けているのである。
(3)世界三大漁場を汚染した福島事故 ―事故発生直後に放出された膨大な放射能は広く分散―
1) 福島事故による汚染と幾重もの生活権、人権侵害
①強制立ち退きを強いられている地域。故郷を奪われる。生活とその基盤そのものを奪われている。
②平常時の数十倍の放射線が立ち込めている所での暮らしをしいられる人々。
③農漁業労働ができない、or労働の無意味化を強いられる。④被曝前提の労働を人海戦術で継続する。
⑤自然環境汚染。時空間的な境目が不鮮明な形で、放射能汚染が浸みこむ。
⑥世界三大漁場を台なしにしている。
憲法11条、基本的人権、25条、健康で文化的な生活を営む権利、生存権の侵害。
2)放射能の放出量と海への4つの供給ルート
2)-1 放出量
今「汚染水」で問題になっている量は、事故直後の放出量のおよそ104 乗分の1。現在は何十兆レベル。
当時は1~10京レベル。
2)-2 海への4つの供給ルート
a)大気経由の降下物 ・大気へ出たものの8割は海へ。 西風が卓越(風向き)。
b)原発から直接、海へ流入
c)河川・地下水経由の流入―11年6~8月にかけて。阿武隈川河口からのセシウム137流出量は524億
ベクレル/日(筑波大など)。3年を経過した現在、試算当時と比べ量が減少していることを想定すれば、原
発から地下を通じて流出している量は阿武隈川からの流出量に匹敵。
陸の汚染は、放出されたものの2割によるもの。
d)海底からの溶出
3)海洋の放射能汚染の実態
事故発生直後から数カ月に放出された膨大な放射性物質群は、環境中に移動、拡散し、生態系の隅々に浸透
している。「汚染水問題」に関心を持つことに加え、より以上に事故直後、放出された物質の行方に思いをは
せるべきである。
a) 海水
福島原発に近い大陸棚以浅の海域の海水中濃度は、通常(2~3Bq/m3)の数十~数百倍。
海水の分析―1000 倍違う。 東電のデータは全てBq/l.国際的には、Bq/立方m。
現在も、福島第1沖30kmの海水中のセシウム濃度は下げ止まり=原発からの供給が続いている。
b)海底土
・福島沖、茨城県の沖が高い-仙台湾の北東の入り口も。
・当時の海況に規定され、原発の北側よりも南側の沿岸域が高濃度。当時、黒潮と親潮の境目は銚子沖に東に
向けて存在。3月末には黒潮勢力が増して「いわき沖」あたりまで北上。福島沖には親潮系の低温、低塩分水
がゆっくりと南下。原発から出た大半は、その流れに乗ってゆっくり南下し、茨城県側に入った辺りで大規模
な潮目に遭遇する。潮目では、南北から水が集まり、そこで沈降する。プランクトンが集まり、それを求める
小魚、高級魚が集まる。その結果、暖流、寒流を問わず、様々な魚種が集まるきわめてよい漁場となる。
放射能は、海水に運ばれながら潮境まで達した後、沈降流に乗って、相当量が海底に貯まっていく。その結
果が、茨城県沖のように、相当離れているにもかかわらず海底土の高濃度汚染が出現。
c)水産生物
・福島県;相馬漁協、いわき漁協がタコなどの試験操業を再開したのを除き、ほとんどの魚種で操業自粛が
続く。さらに宮城県から茨城県までもスズキ、クロダイなど中層性魚などについて自粛が継続。若干の改善
があるようにも見えるが、事故から1年後と2年半後でも、さほど変化が見られない。
事故から3~4か月の 11年7月~9月、汚染はピークに達し、最多の48種の水産生物が基準値を超えていた。そ
のなかの29種は底層性魚、さらに12種が暫定規制値500 ベクレルを超えていた。基準値を越える種数は、事
故から1年後、31(16)種になり、2年後には19(5)へと減少。( )内は暫定規制値を越える種数。
中層性魚で雑食性のスズキ、クロダイでは、基準値を超える高濃度のものが3年たっても広域的に存在する。
特にスズキは、500ベクレルを超えるものの範囲が非常に広い。またクロダイも、1年を超えたあたりから、
暫定規制値を超えるものが出現しだしている。アイナメ、メバル類、ソイの仲間など底層性魚で沿岸にいて、
定着性が強いものでは、福島沖を中心に基準値を超えるものが多数、存在する。現在も続く福島第1原発の
港湾で超高濃度に汚染された魚種は、ほとんどこの仲間である。
回遊魚では、初めの半年間は、マサバなどに基準値を超える汚染が見られたが、1年を経て基準値を超える
ものは見かけなくなる。
最高濃度が出る地点は、多くの種が、原発の南側の近隣(広野~四倉)。南流が卓越していたことから当然の
結果。アイナメ、メバル類を始め多くの魚種がこれに該当し、新地から北茨城までの約120kmに基準値を超え
るものが多数出ている。その中で、クロダイ、マアジ、ヒラメ、ヌマガレイ、マダラ、マサバ、ホウボウ、
ケムシカジカの8種は、原発の北側の新地から原町辺りに最高値が出ている。これらは、回遊性があるとか、
自力で動く傾向があるものとみられる。とりわけ前4種は、基準値を超える範囲は200~350kmと広い。ス
ズキは、最高値が2100ベクレルで、金華山から銚子までの約350kmで基準値を超えている。
d)生物への生理的、遺伝的影響
本質的に問題なのは、放射能汚染による個々の生物の繁殖力の低下、遺伝的変化、そして、それらが織りな
す食物連鎖構造への長期的な影響である。実際には、セシウムの他にもストロンチウム、トリチウム、さら
にはプルトニウム、ヨウ素、テルル、テクノチウムなど多様な核種が存在。ストロンチウムはカルシウムと
似た性質をもち、体内に摂取されると、かなりの部分は骨の無機質部分に取り込まれ長く残留する。トリチウ
ムは、天然にも存在する人工放射能の一つで、放出されるベータ線は微弱なので無害といわれ続けてきたが、
カナダではトリチウムによる健康損傷と思われるものが発生している。小さなエネルギーでも体の中で継続
的に電離エネルギーを出し続ければ、細胞損傷を起こし、免疫機能の低下などの要因になると言われる。そ
れらは、同時に人間や他のあらゆる生物に降り注ぎ、浸透している。その相乗的な影響が、実際の被害とな
る。これらの物質が、魚類や無脊椎動物に摂取されることで、細胞や遺伝子を損傷し、癌や遺伝性障害を引
き起こす可能性はある。しかも、これらは同時に重なり合うことによる相乗的な影響をもたらすかもしれな
い。その推移は今後の課題である。
繁殖力の低下や遺伝的変化、そして、それらが織りなす食物連鎖構造への長期的な影響に関して参考にな
るのは、チェルノブイリ原発事故に関する膨大な調査である。ロシア語の文献も含めて吟味したヤブロコフ
らの総合的な報告書から、いくつか引用しておきたい。
・「コイの繁殖機能と、精子および卵に蓄積した放射性核種の濃度には相関が見られた」
・「ベラルーシの汚染地域では汚染度の高い湖沼ほど、コイの個体群中における染色体異常とゲノム突然変異
の出現率が優位に高い」。
・「チェルノブイリ原発の冷却水用貯水池で飼われていたハクレンの種畜(種オス)群において、数世代のう
ちに精液の量と濃度が有意に低下し、精巣には壊滅的な変化が認められた」。
どれも淡水魚の事例であるが、海においても基本的には同じ状況のはずである。これらの症状が、生態系に
対する遺伝的影響にまで、どう及んでいくのかが懸念される。
e)複層的な海洋汚染
第1次影響海域:福島第1原発から南方向の福島県沖、茨城県北部―最も高濃度な汚染
第2次:第1次の周囲、原発から北へ50km、南は120kmの、南北170km海域。
第3次:スズキ、クロダイは魚自身の遊泳行動が主。数種の回遊魚(マダラ、ヒラメ、マサバ、スケトウ
ダラ)北海道東部から三陸沿岸の広い範囲で、中低濃度汚染。
第4次:黒潮続流に乗って、太平洋規模で拡散したものの影響(グローバルな汚染)。
*事故は、天然の恵みの場である世界三大漁場の一つを汚染した。
太陽エネルギーの不均一、地球自転でできる太平洋亜熱帯循環流などのぶつかり合う場。大洋の西北端。
黒潮と親潮がぶつかる潮境(フロント)(潮目が複雑に分布)。レーチェル・カーソン言うところの惑星海流
が作る天然の恵みの場に大量の放射能を垂れ流した。
・三陸沖漁場に沿って、南北にきれいに核施設が並んでいるロケーションの異常さ?
=一次産業軽視の象徴。持続可能な生存にとって何が重要かが見えない現代文明の愚かしさと犯罪性。
(4)おわりに ―生命の母・海からの警告―
・海洋とは? 地球上に生命をもたらし、保持してきた基盤。同時に多様な生命体が生きる場である。
・そもそも地球上に生命が生まれてきた条件とは?
a)太陽との適度な距離→表面温度→水が3態に変化し、循環できる。
浅い海で、穏やかな化学反応の末、生命体は登場してきた。生命の母としての海洋。
b)大きさ(直径)→重力の大きさ→大気・海洋系を保持
c)磁場―太陽からの放射線などを遮る能力
我が太陽系には、こうした条件を備えた星が1個あった。地球である。これに40数億年という悠久の時間の
経過が加わって、地球上の多様な生命系の保持が可能になっている。奇跡的なこと。
・太陽エネルギーは、核融合により生み出される。太陽を構成するガスは、水素やヘリウムの原子核や電子
が分離したプラズマ状態にあり、これらは太陽の外に向かって吹きだしている=太陽風。宇宙空間にはおびた
だしい量の放射線が飛び交っている。
太陽風は、太陽系の全体を覆っており、地球創生のころは地球表面にまで直接、到達していたであろう。
今日の地球には、地球内部の外核の運動により磁場が形成されている。磁場を中心に、大気、及び海洋が多
重のバリアーとなり、電気を帯びた粒子の地表への流入を食い止め、放射線が地表面に到達することを極力防
いでいる。おかげで生命体は、生理的及び生殖活動を保持することができるのである。
ところが、ここ70年来、人類は、せっかく地球が地表に到達する放射線を極力少なくしてくれていること
を知りつつ、そのありがたさを忘れ、核実験や原発などにより、わざわざ地上に放射性物質を生み出す活動を
進めてきた。地球が総力を挙げて、放射線から生命を守る環境を作り出しているのに、そこに最後に登場した
生物が、生きる場の只中で放射性物質を作り始めてしまったのである。これが、地球を外から眺めたときの現
在のありようである。なんとも愚かしい構図である。
・人類は、海洋を含め、自然は無尽蔵の場であると勘違いしている。膨大な海水量を過信しすぎて、海を毒壺、
ゴミ捨て場とみなしてきたのではないか。しかし、海は、地球上に生命をもたらし、保持してきた基盤であり、
同時に多様な生命体が生きる場である。福島事故では、世界三大漁場の中で最も優秀な三陸・常磐沖漁場を汚
染した。
リヒトホーフェンが、瀬戸内海を見ながら、その将来について「その最大の敵は、文明と以前知らなかった欲
望の出現とである」と懸念したことを想い起こしたい。伊方原発で事故が起きれば、やはり太陽エネルギーと
潮汐により宇宙が作りだす豊穣の海、瀬戸内海を台無しにしてしまう。20世紀初めの数十年間、人類は、ま
さに、それまで知ることのなかった「核エネルギー、人工的な合成物質や遺伝子」などの応用を一気に始めた。
現代(1930 年代以降)の人類は、自然の物質循環に乗らない人工的な毒物を大量に生みだし、それに依存す
る社会を形成している。核エネルギー利用(原発、核兵器)は、その典型。原発は、ひとたび事故を起こせば、
途方もない事態に至ることが、福島やチェルノブイリの事故で実証されているのではないのか。水俣病を初め
公害問題の原則の一つは、潜在的にみて生命や細胞に悪影響をもたらす可能性がある物質に依存する社会を
つくってはならないということのはずである。今は、産業革命以降の人類の歩みを省察すべきときではない
だろうか。
人類には、生命の母・海からの警告に真摯に向き合うことが求められている。私には、<これ以上、海を毒
壺にするな>という海のうめき声が聞こえる気がしてならない。現代文明の脆弱な社会構造を振り出しに戻っ
てみなおすべき時である。そうした観点からみても、原発は、稼動させることなく、このまま廃炉に向かう
ことこそが、リヒトホーフェンの懸念に対する現代人からのせめてもの、そして最良の答えである。

More Related Content

Viewers also liked

相馬市仮設焼却炉の概要と問題点
相馬市仮設焼却炉の概要と問題点相馬市仮設焼却炉の概要と問題点
相馬市仮設焼却炉の概要と問題点Kazuhide Fukada
 
201406世界古川論文
201406世界古川論文201406世界古川論文
201406世界古川論文Kazuhide Fukada
 
平成 26 年度(平成 25 年度繰越)南相馬市における仮設処理施設用地 周辺井戸等調査業務特記仕様書
平成 26 年度(平成 25 年度繰越)南相馬市における仮設処理施設用地 周辺井戸等調査業務特記仕様書 平成 26 年度(平成 25 年度繰越)南相馬市における仮設処理施設用地 周辺井戸等調査業務特記仕様書
平成 26 年度(平成 25 年度繰越)南相馬市における仮設処理施設用地 周辺井戸等調査業務特記仕様書 Kazuhide Fukada
 
永尾俊彦「放射性ごみの焼却、除染はしても・・」『生活と自治』2014年8月号
永尾俊彦「放射性ごみの焼却、除染はしても・・」『生活と自治』2014年8月号永尾俊彦「放射性ごみの焼却、除染はしても・・」『生活と自治』2014年8月号
永尾俊彦「放射性ごみの焼却、除染はしても・・」『生活と自治』2014年8月号Kazuhide Fukada
 
川内原発の再稼働審査における火山影響評価の現状
川内原発の再稼働審査における火山影響評価の現状川内原発の再稼働審査における火山影響評価の現状
川内原発の再稼働審査における火山影響評価の現状Kazuhide Fukada
 
低レベル放射線曝露と自覚症状・疾病罹患の関連に関する疫学調査
低レベル放射線曝露と自覚症状・疾病罹患の関連に関する疫学調査低レベル放射線曝露と自覚症状・疾病罹患の関連に関する疫学調査
低レベル放射線曝露と自覚症状・疾病罹患の関連に関する疫学調査Kazuhide Fukada
 
放射線リスクに関する基礎的情報
放射線リスクに関する基礎的情報放射線リスクに関する基礎的情報
放射線リスクに関する基礎的情報Kazuhide Fukada
 
平成27年度相馬市・新地町災害廃棄物代行処理施設解体撤去工事
平成27年度相馬市・新地町災害廃棄物代行処理施設解体撤去工事平成27年度相馬市・新地町災害廃棄物代行処理施設解体撤去工事
平成27年度相馬市・新地町災害廃棄物代行処理施設解体撤去工事Kazuhide Fukada
 

Viewers also liked (10)

相馬市仮設焼却炉の概要と問題点
相馬市仮設焼却炉の概要と問題点相馬市仮設焼却炉の概要と問題点
相馬市仮設焼却炉の概要と問題点
 
201406世界古川論文
201406世界古川論文201406世界古川論文
201406世界古川論文
 
平成 26 年度(平成 25 年度繰越)南相馬市における仮設処理施設用地 周辺井戸等調査業務特記仕様書
平成 26 年度(平成 25 年度繰越)南相馬市における仮設処理施設用地 周辺井戸等調査業務特記仕様書 平成 26 年度(平成 25 年度繰越)南相馬市における仮設処理施設用地 周辺井戸等調査業務特記仕様書
平成 26 年度(平成 25 年度繰越)南相馬市における仮設処理施設用地 周辺井戸等調査業務特記仕様書
 
1411 iwateqdata
1411 iwateqdata1411 iwateqdata
1411 iwateqdata
 
永尾俊彦「放射性ごみの焼却、除染はしても・・」『生活と自治』2014年8月号
永尾俊彦「放射性ごみの焼却、除染はしても・・」『生活と自治』2014年8月号永尾俊彦「放射性ごみの焼却、除染はしても・・」『生活と自治』2014年8月号
永尾俊彦「放射性ごみの焼却、除染はしても・・」『生活と自治』2014年8月号
 
川内原発の再稼働審査における火山影響評価の現状
川内原発の再稼働審査における火山影響評価の現状川内原発の再稼働審査における火山影響評価の現状
川内原発の再稼働審査における火山影響評価の現状
 
低レベル放射線曝露と自覚症状・疾病罹患の関連に関する疫学調査
低レベル放射線曝露と自覚症状・疾病罹患の関連に関する疫学調査低レベル放射線曝露と自覚症状・疾病罹患の関連に関する疫学調査
低レベル放射線曝露と自覚症状・疾病罹患の関連に関する疫学調査
 
放射線リスクに関する基礎的情報
放射線リスクに関する基礎的情報放射線リスクに関する基礎的情報
放射線リスクに関する基礎的情報
 
2014122120南相馬
2014122120南相馬2014122120南相馬
2014122120南相馬
 
平成27年度相馬市・新地町災害廃棄物代行処理施設解体撤去工事
平成27年度相馬市・新地町災害廃棄物代行処理施設解体撤去工事平成27年度相馬市・新地町災害廃棄物代行処理施設解体撤去工事
平成27年度相馬市・新地町災害廃棄物代行処理施設解体撤去工事
 

More from Kazuhide Fukada

土壌汚染の講習テキスト
土壌汚染の講習テキスト土壌汚染の講習テキスト
土壌汚染の講習テキストKazuhide Fukada
 
福島民友・6国清掃に誹謗中傷
福島民友・6国清掃に誹謗中傷福島民友・6国清掃に誹謗中傷
福島民友・6国清掃に誹謗中傷Kazuhide Fukada
 
女性自身10月20日号
女性自身10月20日号女性自身10月20日号
女性自身10月20日号Kazuhide Fukada
 
2015.9告訴団強制起訴議決
2015.9告訴団強制起訴議決2015.9告訴団強制起訴議決
2015.9告訴団強制起訴議決Kazuhide Fukada
 
手術の適応症例について
手術の適応症例について手術の適応症例について
手術の適応症例についてKazuhide Fukada
 
原子力災害対策計画に
原子力災害対策計画に原子力災害対策計画に
原子力災害対策計画にKazuhide Fukada
 
重金属による土壌汚染
重金属による土壌汚染重金属による土壌汚染
重金属による土壌汚染Kazuhide Fukada
 
819福島原発告訴団院内集会資料
819福島原発告訴団院内集会資料819福島原発告訴団院内集会資料
819福島原発告訴団院内集会資料Kazuhide Fukada
 
南相馬ー避難勧奨地域の核汚染
南相馬ー避難勧奨地域の核汚染南相馬ー避難勧奨地域の核汚染
南相馬ー避難勧奨地域の核汚染Kazuhide Fukada
 
最後の被爆医師、肥田舜太郎医師98 広島ー福島
最後の被爆医師、肥田舜太郎医師98  広島ー福島最後の被爆医師、肥田舜太郎医師98  広島ー福島
最後の被爆医師、肥田舜太郎医師98 広島ー福島Kazuhide Fukada
 
あの夏のことを話しましょう 週刊女性9月8日号
あの夏のことを話しましょう 週刊女性9月8日号あの夏のことを話しましょう 週刊女性9月8日号
あの夏のことを話しましょう 週刊女性9月8日号Kazuhide Fukada
 
生活クラブ生協講演150719改1
生活クラブ生協講演150719改1生活クラブ生協講演150719改1
生活クラブ生協講演150719改1Kazuhide Fukada
 
郡山市の除染土壌等に係る輸送車両の運行について
郡山市の除染土壌等に係る輸送車両の運行について郡山市の除染土壌等に係る輸送車両の運行について
郡山市の除染土壌等に係る輸送車両の運行についてKazuhide Fukada
 
第24回目調査 福島県飯舘村の空間放射線量 
第24回目調査 福島県飯舘村の空間放射線量 第24回目調査 福島県飯舘村の空間放射線量 
第24回目調査 福島県飯舘村の空間放射線量 Kazuhide Fukada
 
第3回フクシマエコテッククリーンセンターに係る福島県産業廃棄物技術検討会 議事録
第3回フクシマエコテッククリーンセンターに係る福島県産業廃棄物技術検討会 議事録第3回フクシマエコテッククリーンセンターに係る福島県産業廃棄物技術検討会 議事録
第3回フクシマエコテッククリーンセンターに係る福島県産業廃棄物技術検討会 議事録Kazuhide Fukada
 
資料5 前回の産業廃棄物技術検討会における指摘事項と対応状況
資料5 前回の産業廃棄物技術検討会における指摘事項と対応状況資料5 前回の産業廃棄物技術検討会における指摘事項と対応状況
資料5 前回の産業廃棄物技術検討会における指摘事項と対応状況Kazuhide Fukada
 
第2回フクシマエコテッククリーンセンターに係る福島県産業廃棄物技術検討会 議事録
第2回フクシマエコテッククリーンセンターに係る福島県産業廃棄物技術検討会 議事録第2回フクシマエコテッククリーンセンターに係る福島県産業廃棄物技術検討会 議事録
第2回フクシマエコテッククリーンセンターに係る福島県産業廃棄物技術検討会 議事録Kazuhide Fukada
 
資料6 埋立方法に関する追加説明資料
資料6 埋立方法に関する追加説明資料資料6 埋立方法に関する追加説明資料
資料6 埋立方法に関する追加説明資料Kazuhide Fukada
 

More from Kazuhide Fukada (20)

Btamura
BtamuraBtamura
Btamura
 
土壌汚染の講習テキスト
土壌汚染の講習テキスト土壌汚染の講習テキスト
土壌汚染の講習テキスト
 
福島民友・6国清掃に誹謗中傷
福島民友・6国清掃に誹謗中傷福島民友・6国清掃に誹謗中傷
福島民友・6国清掃に誹謗中傷
 
女性自身10月20日号
女性自身10月20日号女性自身10月20日号
女性自身10月20日号
 
Fri925
Fri925Fri925
Fri925
 
2015.9告訴団強制起訴議決
2015.9告訴団強制起訴議決2015.9告訴団強制起訴議決
2015.9告訴団強制起訴議決
 
手術の適応症例について
手術の適応症例について手術の適応症例について
手術の適応症例について
 
原子力災害対策計画に
原子力災害対策計画に原子力災害対策計画に
原子力災害対策計画に
 
重金属による土壌汚染
重金属による土壌汚染重金属による土壌汚染
重金属による土壌汚染
 
819福島原発告訴団院内集会資料
819福島原発告訴団院内集会資料819福島原発告訴団院内集会資料
819福島原発告訴団院内集会資料
 
南相馬ー避難勧奨地域の核汚染
南相馬ー避難勧奨地域の核汚染南相馬ー避難勧奨地域の核汚染
南相馬ー避難勧奨地域の核汚染
 
最後の被爆医師、肥田舜太郎医師98 広島ー福島
最後の被爆医師、肥田舜太郎医師98  広島ー福島最後の被爆医師、肥田舜太郎医師98  広島ー福島
最後の被爆医師、肥田舜太郎医師98 広島ー福島
 
あの夏のことを話しましょう 週刊女性9月8日号
あの夏のことを話しましょう 週刊女性9月8日号あの夏のことを話しましょう 週刊女性9月8日号
あの夏のことを話しましょう 週刊女性9月8日号
 
生活クラブ生協講演150719改1
生活クラブ生協講演150719改1生活クラブ生協講演150719改1
生活クラブ生協講演150719改1
 
郡山市の除染土壌等に係る輸送車両の運行について
郡山市の除染土壌等に係る輸送車両の運行について郡山市の除染土壌等に係る輸送車両の運行について
郡山市の除染土壌等に係る輸送車両の運行について
 
第24回目調査 福島県飯舘村の空間放射線量 
第24回目調査 福島県飯舘村の空間放射線量 第24回目調査 福島県飯舘村の空間放射線量 
第24回目調査 福島県飯舘村の空間放射線量 
 
第3回フクシマエコテッククリーンセンターに係る福島県産業廃棄物技術検討会 議事録
第3回フクシマエコテッククリーンセンターに係る福島県産業廃棄物技術検討会 議事録第3回フクシマエコテッククリーンセンターに係る福島県産業廃棄物技術検討会 議事録
第3回フクシマエコテッククリーンセンターに係る福島県産業廃棄物技術検討会 議事録
 
資料5 前回の産業廃棄物技術検討会における指摘事項と対応状況
資料5 前回の産業廃棄物技術検討会における指摘事項と対応状況資料5 前回の産業廃棄物技術検討会における指摘事項と対応状況
資料5 前回の産業廃棄物技術検討会における指摘事項と対応状況
 
第2回フクシマエコテッククリーンセンターに係る福島県産業廃棄物技術検討会 議事録
第2回フクシマエコテッククリーンセンターに係る福島県産業廃棄物技術検討会 議事録第2回フクシマエコテッククリーンセンターに係る福島県産業廃棄物技術検討会 議事録
第2回フクシマエコテッククリーンセンターに係る福島県産業廃棄物技術検討会 議事録
 
資料6 埋立方法に関する追加説明資料
資料6 埋立方法に関する追加説明資料資料6 埋立方法に関する追加説明資料
資料6 埋立方法に関する追加説明資料
 

140604海の汚染(福島告訴団)