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平均-分散ポートフォリオ理論
2016 年 12 月 16 日
山嵜 涼雅
1 ポートフォリオの収益率の平均と分散
ポートフォリオとは、個人や企業が所有する金融資産の組み合わせのことである。
例えば、Aさんは100万円を運用しようと考えている。日本債券に30万円、
外国株式に70万円投資することもできるし、日本株式に20万円、
外国債券に50万円、外国株式に30万円投資することもできる。
このような幾通りも考えられる組み合わせをポートフォリオという。
ここで、𝑛個の資産のポートフォリオの収益率の平均と分散を考える。
𝑛個の資産の個々の収益率を、𝑟1, 𝑟2,…, 𝑟𝑛 とし、それらの期待値を
E( 𝑟1) = 𝑟1̅, E( 𝑟2) = 𝑟2̅,…, E( 𝑟𝑛 ) = 𝑟𝑛̅とする。また、それぞれの資産に、
𝑤1, 𝑤2,…, 𝑤𝑛 というウェイトをつける(𝑤1 + 𝑤2 +…+ 𝑤𝑛 = 1)。
収益率=
受取金額-投資金額
投資金額
で定義される。
ポートフォリオの収益率を𝑟とすると、
𝑟 = 𝑤1 𝑟1 + 𝑤2 𝑟2 +…+ 𝑤𝑛 𝑟𝑛である。
よって、ポートフォリオの収益率の平均E( 𝑟)は、
E( 𝑟) = 𝑤1E( 𝑟1)+𝑤2E( 𝑟2) + ⋯ + 𝑤𝑛 E( 𝑟𝑛 )となる。
また、𝑛個の資産の個々の収益率の分散を、𝜎1, 𝜎2,…, 𝜎𝑛 、ポートフォリオの収益率の分散を
σとすると、
σ = E[( 𝑟 − 𝑟̅)2] (分散の定義)なので、
= E[(∑ 𝑤𝑖 𝑟𝑖
𝑛
𝑖=1
− ∑ 𝑤𝑖 𝑟𝑖̅
𝑛
𝑖=1
)
2
]
= E[(∑ 𝑤𝑖 𝑟𝑖
𝑛
𝑖=1
− ∑ 𝑤𝑖 𝑟𝑖̅
𝑛
𝑖=1
)(∑ 𝑤𝑗 𝑟𝑗
𝑛
𝑗=1
− ∑ 𝑤𝑗 𝑟𝑗̅
𝑛
𝑗=1
)]
= ∑ 𝑤𝑖
𝑛
𝑖,𝑗=1
𝑤𝑗 𝜎𝑖𝑗
となる。
ここで、𝜎𝑖𝑗は、𝑖 ≠ 𝑗のとき、𝑟𝑖と𝑟𝑗の共分散を表し、𝑖 = 𝑗のとき、𝑟𝑖(𝑟𝑗)の分散を表す。
2 分散化
ポートフォリオを考えるとき、そのポートフォリオの分散はできるだけ小さいほうが
望ましい。というのも、分散が大きければ大きいほどポートフォリオの収益率の
ばらつきは、大きくなる。収益率のばらつきが大きくなると、期待収益率の予想が
困難になる。。
多くの資産からなるポートフォリオの方が、少数の資産からなるポートフォリオよりも
分散を小さくすることができる。例えば、一方の資産が下落していたとしても、
一方の資産が上昇していれば、互いに相殺される結果リターンの数字が安定するからだ。
これをポートフォリオ効果という。
では、実際に数式を用いて、多くの資産からなる、つまり、分散化した
ポートフォリオの方が、少数の資産からなるポートフォリオよりも
分散を小さくすることができる理由を説明する。
まずは、多数の資産の収益率が互いに相関がない場合について考える。
すべての資産の収益率の平均は同じ(𝑚とする)で、分散は𝜎2
とする。
また、個々の資産のウェイトも同じであるとする。
このとき、𝑛個の資産のポートフォリオの収益率は、
𝑟 =
1
𝑛
∑ 𝑟𝑖
𝑛
𝑖=1
となりE( 𝑟) = 𝑚である。
また、 𝑟の分散を V( 𝑟)とすると、
V( 𝑟) =
𝜎2
𝑛
となる。
次に、多数の資産の収益率が相関がある場合について考える。
ここでも、すべての資産の収益率の平均は同じ(𝑚とする)で、分散は𝜎2
とする。
また、個々の資産のウェイトも同じであるとする。
𝑖 ≠ 𝑗の場合は𝜎𝑖𝑗 = 0.3𝜎2
とすると、𝑛個の資産のポートフォリオの収益率の分散を
V( 𝑟)とすると、V( 𝑟)は、
E[(∑
1
𝑛
( 𝑟𝑖 − 𝑟̅)
𝑛
𝑖=1
)
2
]
となる。計算過程で、𝜎𝑖𝑗が出てくるが、
𝑖 = 𝑗の場合は𝜎𝑖𝑗 = 𝜎2
、𝑖 ≠ 𝑗の場合は𝜎𝑖𝑗 = 0.3𝜎2
に注意すると、
最終的に、
V( 𝑟) =
0.7𝜎2
𝑛
+ 0.3𝜎2
を得る。
(一部、練習問題にもなっているので、計算過程は省略する。)
今回の分析では、すべての資産の収益率の平均は同じ(𝑚)と仮定した。
一般的には、分散を小さくしようとすれば、ポートフォリオの期待収益率も
小さくなってしまう。ゆえにポートフォリオの期待収益率を下げてまで、
分散を小さくしようという人はまずいないので、現実とは少し離れている。
ただ、今回の分析で分かったこととして、
まず、多数の資産の収益率が互いに相関がない場合について、
V( 𝑟) =
𝜎2
𝑛
という結果を得た。これは、𝑛を大きくすればするほど分散が小さくなり、
0に限りなく近づくことを示している。
lim
n→∞
𝜎2
𝑛
= 0
また、多数の資産の収益率が相関がある場合について、
V( 𝑟) =
0.7𝜎2
𝑛
+ 0.3𝜎2
という結果を得た。これは、𝑛を大きくすればするほど分散は小さくなるが、
今回の例では、0.3𝜎2
に限りなく近づくことを示している。(下限が0.3𝜎2
)
lim
n→∞
0.7𝜎2
𝑛
+ 0.3𝜎2
= 0.3𝜎2
つまり、多数の資産の収益率が互いに相関がない場合については、
分散化によって、ポートフォリオの収益率の分散をどんどん小さくすることができ、
多数の資産の収益率が相関がある場合については、
ポートフォリオの収益率の分散を、ある下限より小さくすることはできない。
3 ポートフォリオのダイヤグラム
平均-標準偏差ダイヤグラム(横軸に標準偏差、縦軸に平均収益率を取った二次元の図)上
で二つの資産が表現されているとする。
𝑤1 = 1 − 𝛼、 𝑤2 = 𝛼 (0 ≤ 𝛼 ≤ 1 とする)と置くと、二つの資産で組み合わせたものに
よって決まる平均-標準偏差ダイヤグラム上の曲線は、前のホワイトボードの三角形の
内部に存在する(証明省略)。

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  • 1. 平均-分散ポートフォリオ理論 2016 年 12 月 16 日 山嵜 涼雅 1 ポートフォリオの収益率の平均と分散 ポートフォリオとは、個人や企業が所有する金融資産の組み合わせのことである。 例えば、Aさんは100万円を運用しようと考えている。日本債券に30万円、 外国株式に70万円投資することもできるし、日本株式に20万円、 外国債券に50万円、外国株式に30万円投資することもできる。 このような幾通りも考えられる組み合わせをポートフォリオという。 ここで、𝑛個の資産のポートフォリオの収益率の平均と分散を考える。 𝑛個の資産の個々の収益率を、𝑟1, 𝑟2,…, 𝑟𝑛 とし、それらの期待値を E( 𝑟1) = 𝑟1̅, E( 𝑟2) = 𝑟2̅,…, E( 𝑟𝑛 ) = 𝑟𝑛̅とする。また、それぞれの資産に、 𝑤1, 𝑤2,…, 𝑤𝑛 というウェイトをつける(𝑤1 + 𝑤2 +…+ 𝑤𝑛 = 1)。 収益率= 受取金額-投資金額 投資金額 で定義される。 ポートフォリオの収益率を𝑟とすると、 𝑟 = 𝑤1 𝑟1 + 𝑤2 𝑟2 +…+ 𝑤𝑛 𝑟𝑛である。 よって、ポートフォリオの収益率の平均E( 𝑟)は、 E( 𝑟) = 𝑤1E( 𝑟1)+𝑤2E( 𝑟2) + ⋯ + 𝑤𝑛 E( 𝑟𝑛 )となる。 また、𝑛個の資産の個々の収益率の分散を、𝜎1, 𝜎2,…, 𝜎𝑛 、ポートフォリオの収益率の分散を σとすると、 σ = E[( 𝑟 − 𝑟̅)2] (分散の定義)なので、 = E[(∑ 𝑤𝑖 𝑟𝑖 𝑛 𝑖=1 − ∑ 𝑤𝑖 𝑟𝑖̅ 𝑛 𝑖=1 ) 2 ]
  • 2. = E[(∑ 𝑤𝑖 𝑟𝑖 𝑛 𝑖=1 − ∑ 𝑤𝑖 𝑟𝑖̅ 𝑛 𝑖=1 )(∑ 𝑤𝑗 𝑟𝑗 𝑛 𝑗=1 − ∑ 𝑤𝑗 𝑟𝑗̅ 𝑛 𝑗=1 )] = ∑ 𝑤𝑖 𝑛 𝑖,𝑗=1 𝑤𝑗 𝜎𝑖𝑗 となる。 ここで、𝜎𝑖𝑗は、𝑖 ≠ 𝑗のとき、𝑟𝑖と𝑟𝑗の共分散を表し、𝑖 = 𝑗のとき、𝑟𝑖(𝑟𝑗)の分散を表す。 2 分散化 ポートフォリオを考えるとき、そのポートフォリオの分散はできるだけ小さいほうが 望ましい。というのも、分散が大きければ大きいほどポートフォリオの収益率の ばらつきは、大きくなる。収益率のばらつきが大きくなると、期待収益率の予想が 困難になる。。 多くの資産からなるポートフォリオの方が、少数の資産からなるポートフォリオよりも 分散を小さくすることができる。例えば、一方の資産が下落していたとしても、 一方の資産が上昇していれば、互いに相殺される結果リターンの数字が安定するからだ。 これをポートフォリオ効果という。 では、実際に数式を用いて、多くの資産からなる、つまり、分散化した ポートフォリオの方が、少数の資産からなるポートフォリオよりも 分散を小さくすることができる理由を説明する。 まずは、多数の資産の収益率が互いに相関がない場合について考える。 すべての資産の収益率の平均は同じ(𝑚とする)で、分散は𝜎2 とする。 また、個々の資産のウェイトも同じであるとする。 このとき、𝑛個の資産のポートフォリオの収益率は、 𝑟 = 1 𝑛 ∑ 𝑟𝑖 𝑛 𝑖=1 となりE( 𝑟) = 𝑚である。 また、 𝑟の分散を V( 𝑟)とすると、 V( 𝑟) = 𝜎2 𝑛 となる。
  • 3. 次に、多数の資産の収益率が相関がある場合について考える。 ここでも、すべての資産の収益率の平均は同じ(𝑚とする)で、分散は𝜎2 とする。 また、個々の資産のウェイトも同じであるとする。 𝑖 ≠ 𝑗の場合は𝜎𝑖𝑗 = 0.3𝜎2 とすると、𝑛個の資産のポートフォリオの収益率の分散を V( 𝑟)とすると、V( 𝑟)は、 E[(∑ 1 𝑛 ( 𝑟𝑖 − 𝑟̅) 𝑛 𝑖=1 ) 2 ] となる。計算過程で、𝜎𝑖𝑗が出てくるが、 𝑖 = 𝑗の場合は𝜎𝑖𝑗 = 𝜎2 、𝑖 ≠ 𝑗の場合は𝜎𝑖𝑗 = 0.3𝜎2 に注意すると、 最終的に、 V( 𝑟) = 0.7𝜎2 𝑛 + 0.3𝜎2 を得る。 (一部、練習問題にもなっているので、計算過程は省略する。) 今回の分析では、すべての資産の収益率の平均は同じ(𝑚)と仮定した。 一般的には、分散を小さくしようとすれば、ポートフォリオの期待収益率も 小さくなってしまう。ゆえにポートフォリオの期待収益率を下げてまで、 分散を小さくしようという人はまずいないので、現実とは少し離れている。 ただ、今回の分析で分かったこととして、 まず、多数の資産の収益率が互いに相関がない場合について、 V( 𝑟) = 𝜎2 𝑛 という結果を得た。これは、𝑛を大きくすればするほど分散が小さくなり、 0に限りなく近づくことを示している。 lim n→∞ 𝜎2 𝑛 = 0 また、多数の資産の収益率が相関がある場合について、 V( 𝑟) = 0.7𝜎2 𝑛 + 0.3𝜎2 という結果を得た。これは、𝑛を大きくすればするほど分散は小さくなるが、 今回の例では、0.3𝜎2 に限りなく近づくことを示している。(下限が0.3𝜎2 ) lim n→∞ 0.7𝜎2 𝑛 + 0.3𝜎2 = 0.3𝜎2
  • 4. つまり、多数の資産の収益率が互いに相関がない場合については、 分散化によって、ポートフォリオの収益率の分散をどんどん小さくすることができ、 多数の資産の収益率が相関がある場合については、 ポートフォリオの収益率の分散を、ある下限より小さくすることはできない。 3 ポートフォリオのダイヤグラム 平均-標準偏差ダイヤグラム(横軸に標準偏差、縦軸に平均収益率を取った二次元の図)上 で二つの資産が表現されているとする。 𝑤1 = 1 − 𝛼、 𝑤2 = 𝛼 (0 ≤ 𝛼 ≤ 1 とする)と置くと、二つの資産で組み合わせたものに よって決まる平均-標準偏差ダイヤグラム上の曲線は、前のホワイトボードの三角形の 内部に存在する(証明省略)。