![ニューノーマルにおけるビジュアルコミュニケーションの考察
川添太郎*1
Consideration of Visual Communication accelerate Learning
Taro Kawazoe*1
Abstract - The author considers Visual Communication is improving people’s learning process dramatically.
Refer to case study of online education class, students were learning and recognizing unknown effectively by not
only providing information but also demanding to verbalize and present their own experience.
Keywords : visual communication, online education, learning process
1. はじめに
昨今、日常的なコミュニケーションのなかでも、画像
や映像を見せることで、
話を補完する場面が増えてきた。
登山で訪れた山頂の景色は、言葉で説明するよりも撮っ
た写真を見せるほうが感動は伝わる。新設のホテルを人
に紹介するとき、話をしながらホテルのホームページを
一緒に見せるだろう。外国人と話すとき、スマホの検索
画面を見せながら話すと会話は進みやすい。そういった
生活様式の変化と共に、新型コロナウイルスによってリ
モートミーティングが推奨される社会的背景も後押しと
なって、オーラルコミュニケーションからビジュアルコ
ミュニケーションへの世界的移行が進んでいる。
聴覚情報に視覚情報が加わることでコミュニケーショ
ンの情報量が増えるため、ひとびとが学びを得る機会は
今後段階的に増えていくと考えられる[1]。ただし、誰も
がビジュアルコミュニケーションを流暢に使いこなす未
来はいずれ訪れるとして、現時点ではまだ模索の段階で
ある。そこで本稿では、人々の学びを深めるビジュアル
コミュニケーションの在り方を考察する。
2. ビジュアルコミュニケーションの検証
2.1 検証方法
まず初めに、ビジュアルコミュニケーションの検証で
は大学教育分野を選んだ。理由は、コロナ禍においてオ
ンラインへの完全移行を余儀なくされた分野であり、ほ
ぼ例外なく全国の教育者たちが一斉に授業のオンライン
化に取り組んだからだ。これらの取り組みは現在も続い
ており、ZOOM 活用法やオンラインワークショップの開
催方法といった事例共有から、オンラインはやはり上手
くいかないといった諦めの声まで、様々なフィードバッ
クが聞こえてくるなか、正解と呼べる手法はまだ見えて
いない[2]。そこで、実際の教育現場に足を運んで、どの
ような取り組みが行われているかを観察し、オンライン
授業におけるインサイトを探るところから始めた。特に
オンライン化が誘引した問題に着目し、その改善案を同
オンライン授業で試験的に実践することで、ビジュアル
コミュニケーションの発展性を可視化しようと考えた。
2.2 観察
今回、都内某大学の１年生向けに行われる英語学のオ
ンライン授業を観察させてもらった。１コマ８０分、生
徒４０名により構成されるこのオンライン授業では、B
教授によって様々な授業手法がオンラインに最適化され
ていた。まず、授業におけるレクチャーは全てビデオコ
ンテンツ化されており、シラバスや宿題といった情報と
共に生徒たちに事前共有される。生徒たちは都合の良い
時間にそれらを事前に学習しておくことで、授業中はデ
ィスカッションや実技試験といった、実践的な課題に集
中して取り組むことができるのだ。実際の授業でも、
ZOOM のブレイクアウトルーム機能をつかったグルー
プディスカッションや、ディクテーションという英語の
リスニングテストを実施していた。オンラインの得意分
野を上手く活用することで、授業時間の大半を、知識の
習得ではなく、知識の活用に充てられていることは効率
的なやり方と感じた。
一方、オンライン化による弊害も如実に顕在化してい
た。一言で言えば、生徒の Ownership（当事者意識）が
低かったという事なのだが、その理由は幾つか考えられ
る。最大の理由は、コミュニケーションチャンネルが一
つしかない事で、生徒たちが発言しにくい環境であった
ことだ。これは従来型の授業でも起こり得ることだが、
生徒全員が質疑応答を行うと、そのやり取りだけで授業
が終わってしまうので、発言を最小限に留めなければな
らない。
また ZOOM の場合、
発言者のサムネールがフォ
ーカスされる仕様なので、発言への精神的障壁は更に高
くなる。そういった背景が生徒たちの発言意欲を削いで
*1: 独立研究者
*1: Independent Researcher](https://image.slidesharecdn.com/his2020papertarokawazoe-210830045922/85/Consideration-of-Visual-Communication-accelerate-Learning-1-320.jpg)
Recommended
More Related Content
Featured
Featured (20)
Consideration of Visual Communication accelerate Learning
- 1. ニューノーマルにおけるビジュアルコミュニケーションの考察 川添太郎*1 Consideration of Visual Communication accelerate Learning Taro Kawazoe*1 Abstract - The author considers Visual Communication is improving people’s learning process dramatically. Refer to case study of online education class, students were learning and recognizing unknown effectively by not only providing information but also demanding to verbalize and present their own experience. Keywords : visual communication, online education, learning process 1. はじめに 昨今、日常的なコミュニケーションのなかでも、画像 や映像を見せることで、 話を補完する場面が増えてきた。 登山で訪れた山頂の景色は、言葉で説明するよりも撮っ た写真を見せるほうが感動は伝わる。新設のホテルを人 に紹介するとき、話をしながらホテルのホームページを 一緒に見せるだろう。外国人と話すとき、スマホの検索 画面を見せながら話すと会話は進みやすい。そういった 生活様式の変化と共に、新型コロナウイルスによってリ モートミーティングが推奨される社会的背景も後押しと なって、オーラルコミュニケーションからビジュアルコ ミュニケーションへの世界的移行が進んでいる。 聴覚情報に視覚情報が加わることでコミュニケーショ ンの情報量が増えるため、ひとびとが学びを得る機会は 今後段階的に増えていくと考えられる[1]。ただし、誰も がビジュアルコミュニケーションを流暢に使いこなす未 来はいずれ訪れるとして、現時点ではまだ模索の段階で ある。そこで本稿では、人々の学びを深めるビジュアル コミュニケーションの在り方を考察する。 2. ビジュアルコミュニケーションの検証 2.1 検証方法 まず初めに、ビジュアルコミュニケーションの検証で は大学教育分野を選んだ。理由は、コロナ禍においてオ ンラインへの完全移行を余儀なくされた分野であり、ほ ぼ例外なく全国の教育者たちが一斉に授業のオンライン 化に取り組んだからだ。これらの取り組みは現在も続い ており、ZOOM 活用法やオンラインワークショップの開 催方法といった事例共有から、オンラインはやはり上手 くいかないといった諦めの声まで、様々なフィードバッ クが聞こえてくるなか、正解と呼べる手法はまだ見えて いない[2]。そこで、実際の教育現場に足を運んで、どの ような取り組みが行われているかを観察し、オンライン 授業におけるインサイトを探るところから始めた。特に オンライン化が誘引した問題に着目し、その改善案を同 オンライン授業で試験的に実践することで、ビジュアル コミュニケーションの発展性を可視化しようと考えた。 2.2 観察 今回、都内某大学の１年生向けに行われる英語学のオ ンライン授業を観察させてもらった。１コマ８０分、生 徒４０名により構成されるこのオンライン授業では、B 教授によって様々な授業手法がオンラインに最適化され ていた。まず、授業におけるレクチャーは全てビデオコ ンテンツ化されており、シラバスや宿題といった情報と 共に生徒たちに事前共有される。生徒たちは都合の良い 時間にそれらを事前に学習しておくことで、授業中はデ ィスカッションや実技試験といった、実践的な課題に集 中して取り組むことができるのだ。実際の授業でも、 ZOOM のブレイクアウトルーム機能をつかったグルー プディスカッションや、ディクテーションという英語の リスニングテストを実施していた。オンラインの得意分 野を上手く活用することで、授業時間の大半を、知識の 習得ではなく、知識の活用に充てられていることは効率 的なやり方と感じた。 一方、オンライン化による弊害も如実に顕在化してい た。一言で言えば、生徒の Ownership（当事者意識）が 低かったという事なのだが、その理由は幾つか考えられ る。最大の理由は、コミュニケーションチャンネルが一 つしかない事で、生徒たちが発言しにくい環境であった ことだ。これは従来型の授業でも起こり得ることだが、 生徒全員が質疑応答を行うと、そのやり取りだけで授業 が終わってしまうので、発言を最小限に留めなければな らない。 また ZOOM の場合、 発言者のサムネールがフォ ーカスされる仕様なので、発言への精神的障壁は更に高 くなる。そういった背景が生徒たちの発言意欲を削いで *1: 独立研究者 *1: Independent Researcher
- 2. いた様に感じた。また他にも、大学入学以来一度も顔を 合わせていない同級生たちと、なかなか仲間意識が芽生 えないといった問題や、ZOOM 操作に慣れていない生徒 も少なからず散見された。 2.3 改善案 そこで著者は、生徒たちの Engagement（参加意識）を 高めるための改善案を B 教授と共同開発し、同オンライ ン授業で実践することで、生徒たちの反応を見ることに した。新たなオンライン授業のフレームワークとして、 下記の 3 メソッドとその狙いは表１に示す。 表１ オンライン授業の当事者意識を高める改善案 Table 1. Improvement Plan to increase Engagement of Online Lessons 改善案 具体実施と狙い ① セ ル フ ビデオ ・１分の自己紹介ビデオ（又は他己紹介 ビデオ）を共有サーバーに掲載 Ø 自身の俯瞰視 Ø 仲間意識の醸成 ② プ レ ゼ ン テ ー ション ・授業冒頭のアイスブレークに２人１組 で今週の出来事をインタビュー ・チームディスカッションのサマリーを 代表者が発表 Ø 発言機会の創出 Ø リスニング理解度の向上 Ø サマリー力の向上 ③ マ ル チ チ ャ ン ネ ル コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョン ・生徒全員がホワイトボードを使ってフ ィードバック ・チームディスカッションの映像アーカ イビング Ø 発言機会の創出 Ø 発言による交通渋滞の解消 Ø 生徒毎の発言のトラッキング 2.4 実践結果 改善案の実施には、その手法自体にまだ改善の余地が 残されている為、 今後も検証を続ける必要があるのだが、 ひとまず現時点での総括としては次の通りである。 生徒たちの Engagement （参加意識） が最も高まったと 感じられた改善案はプレゼンテーションの導入であった。 生徒たちは、授業の文脈だけでなくリアルタイムに起こ る発言も踏まえて、自分の発表内容を短時間にサマライ ズする必要があるので、結果として他者の話をよく聞く 様になったのだ。自身が発言することを前提に授業に臨 むと、生徒たちに当事者意識が芽生え、併せて情報の吸 収率が飛躍的に向上したのである。 3. ビジュアルコミュニケーションの考察 当検証の結果から導き出した、生徒たちの学びのプロ セスを可視化した図を紹介する。そこからは、生徒たち は単に情報を受信するだけでなく、自らの経験を言語化 し発信したことが、未知への学びにつながったという構 造が見えてきた。 図１ 学びのプロセス Figure 1. Learning Process 既存の教育では、 教える-教わるという単方向の知識伝 達が主として行われてきたが、それはこの図において右 側半分の領域に限られる。他者に発信する機会を持たず に受信だけを続けることは、物事を半分しか認知せずに 放置していることに他ならない。ひとは他者に自己体験 を言語化し発信することで、得た知識をさらに深く認知 するのである。 また学びを深めるために、 発信相手には、 その後自身の言葉で再発信することを促すまでを想定し てコミュニケーションを組み立てることが重要になって くる。 以上の目的において、プレゼンテーションに最適なビ ジュアルコミュニケーションは、人々の学びを促進し、 知性を高めるのにその有用性を発揮するであろうと著者 は考えている。 4. おわりに 最後に、ビジュアルコミュニケーションを効果的に利 用しているオンラインサービスを探したが、e ラーニン グにおける MOOC=Massive Open Online Course などは、 ビデオ配信による教育コンテンツがほとんどで、受信者 が発進することまでは許容していない。YouTube に掲載 される情報コンテンツも、多くはセルフプロモーション を目的としているため、公平性を求める場合は他のプラ ットフォームが必要となる。双方向型のオンライン授業 だと、ミネルバ大学が独自開発したオンライン教育シス
- 3. テム[3]が、扱いやすい画面共有による共同作業や発言を 検知し生徒の評価スコアに反映する機能など、ZOOM の 機能を凌駕する学習環境を提供しているが、これはミネ ルバ大学の生徒だけに提供されるシステムのため、一般 人は利用することはできない。 そういった意味では、今後、受信と発信の双方向性を もった人々の知性を高める新たなサービスの誕生を期待 したい。 参考文献 [1] Ahissar, M. and Hochstein, S., 2004. The reverse hierarchy theory of visual perceptual learning. Trends in Cognitive Sciences, 8(10), pp.457-464. [2] Northcote, M., Mildenhall, P., Marshall, L. and Swan, P., 2010. Interactive whiteboards: Interactive or just whiteboards?. Australasian Journal of Educational Technology, 26(4). [3] Haruka Nakayama, 2017, ミネルバ⼤学 双⽅向型オンラ イン授業を⽀えるテクノロジー, viewed 16 Oct 2020, <http://harunakatayama.com/2017/10/21/edtech-minerv a/>.