「働き方改革」にはベクトルが真逆の施策が含まれているために議論が混乱しがちです。これをご紹介するとともに、このテーマは組織マネジメントの議論とセットで行うべきことをご説明しています。 いま話題のティール組織とも絡めたショートプレゼンテーションです。

1. 混乱する「働き方改革」とティール組織
森・濱田松本法律事務所
弁護士 荒井 太一
※このスライドは個人の見解をまとめたものであり、所属する組織の見解を代表するものではありません。

2. 「働き方改革」の混乱
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「サービス残業」・「長時間労働」問題などで揺れる「働き方改革」
スタンダードなアプローチ
前提: 仕事ツラい。嫌々。やらされる。
かわいそうなこと。
「公」の時間を厳しく管理しよう。
「私」を大事にしよう
「公」「私」をしっかり分けよう。
 残業を規制しよう
 労働時間を管理しよう・監視しよう
 プレミアムフライデーでお休みにしよう

3. 働き方改革のもう一つのアプローチ
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しかし、 『 「ツラい労働」を解決しよう 』が本当の問題の所在だとすれば、
解決にはもう一つのアプローチがある。
前提: 仕事したい、楽しい。
目的や可能性を追求したい。
「公」を居心地良くしよう。
自分流でやろう。
「公私混同」OK。
仕事をもっと働きやすくしよう。
 フリーランスになろう
（「好きなことで、生きていく」）
 副業やろう
 在宅勤務・フレックスタイム・裁量労働
で任せてもらおう
一見矛盾するアプローチだが、「選択肢を作る」ことに意義。
本当の意味で自分の「働き方」を選べる社会の実現が本質。

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組織のオペレーションシステム
 労働法規制が前提とする産業資本主義時代の典型的組織は、
いわば効率的な製造ラインの発想
 さらに典型的な日本型雇用においては、雇用が保障され、
他方、自分で職務を選べない、という特徴もある。
「ティール組織」(フレデリック・ラルー著)の組織モデルで言えば、
順応型（アンバー）といえる
– 厳密な規律や秩序が重視される。官僚制のような、階級制
度や厳密に定義された役割を通じた統制がおこなわれる。
根底にあるのは、「労働者は信用できない」という認識。
帰属意識と縄張り意識が強く、組織を守ることが最優先事
項。その結果、外部との間に壁が設けられる

5. 「働き方改革」の限界
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 労働者がもっと自由に働きたくても、組織運営の基本となる
オペレーションシステム（OS）はこれと相反する価値観で動い
ている。OSの変更なくして、「柔軟な働き方」は困難
 雇用のオペレーションシステムは採用・人事異動・業務遂行方
法・給与・退職にいたるまで、一貫して統一的なデザインのもと
おこなわれており、改定することは全社プロジェクトとなる
「働き方改革」は「組織・マネジメント改革」と両輪
 経営陣の理解のない中、労働者だけでこうしたオペレーション
システムを変えることはほとんど「負けゲーム」

6. （働く人の視点）働き方改革への対応
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 キャリア設計は自己責任であることを自覚する必要
 他方、特に典型的日本型雇用において自分のキャリアへの
要望を受容してもらうことを過度に期待することはやめるべき
（組織のほうはそういうOS設計ではない。）
 典型的日本型雇用の特徴を生かし、雇用保証を享受し誠実に
労務提供をおこないながら、自己の目指すキャリア、使命に
ついては、兼業・副業などで模索することが最適な戦略では
ないか

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（組織の視点）働き方改革への対応
 労働者人口が減少していき、人材獲得競争が激化するなか、
仕事の楽しさ、企業の社会的意義、職場の相性を重視する
「好きなことで、生きていく」価値観のミレニアル世代にとって、
「言われたことを、やっていろ」の組織が働く場所として訴求で
きるだろうか。
また、採用に成功したとしても、十分に活用することは可能
だろうか
 日本型雇用のよい面を残しながら、業務の内容によっては、
労働者のそれぞれの個性を許容する組織デザインに向けて
変容せざるを得ないのではないか

8. （組織の視点）働き方改革への対応
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 組織のオペレーションシステムをすべて変える必要はない
（というか、組織の考え次第。）
 ただし、こうした働く人の変化に対応するために一定程度呼応
する共存（一国二制度）戦略を余儀なくされる可能性は高いの
ではないか
 「働き方改革」、特に「柔軟な働き方」を許容し、これを実現させ
るためには、組織のオペレーションシステムの改革が必要で
あることを理解し、本気で取り組むべき問題

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働き方の未来と未来の組織（ティール組織）
ティール組織は、いわば「働き方改革」のひとつの到達点
「好きなことで、生きていく」
価値観と、一定の目的を
有する組織とは究極的に
は矛盾する関係なのか？
「ティール組織」
組織の「存在目的」に
共鳴したスタッフが人格の
「全体性」をもって参加し、
スタッフが互いにリスペクト
しながら「自主経営」を
おこなう

10. 働き方の未来と未来の組織
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ティール組織は、必ずしも荒唐無稽の議論とは言えない？
「 自立した自由な働き方が増えることで、企業もそうした働き方を
緩やかに包摂する柔軟な組織体になることが求められる。また、
変化のスピードが速くなることで、企業自体がそれに対応するた
めに機動的に変化せざるを得ない時代がやってくる。」
「 2035年の企業は、極端にいえば、ミッションや目的が明確な
プロジェクトの塊となり、多くの人は、プロジェクト期間内はその
企業に所属するが、プロジェクトが終了するとともに、別の企業
に所属するという形で、人が事業内容の変化に合わせて、柔軟
に企業の内外を移動する形になっていく。」
（厚生労働省「働き方の未来2035」）

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まとめ
 労働者のキャリアや人生設計に対する志向は今後も強まる。労働者は、声を上
げ組織を変えていくか（Voice）、退出することで別の働き方をさぐるのか考える
(Exit)。または、副業などで部分的退出をおこなう方法もある
 組織と人は不可分な関係にある。労働人口の急激な縮小による人材獲得競争
にさらされる中、魅力的な職場環境づくりは、不可避ではないか
 経営者・企業は、この動きから距離を置くのか、一部取り込むのか、全部取り込
むのか、考える必要がある。ただし、これまでの産業資本主義的（工場的）な組
織の論理のままでいられるかは十分留意する必要
 テレワーク・副業はいわば現状を維持したまま、一部、新しいキャリア観にマッ
チするようアップデートをおこなう、いわば日本型雇用オペレーションシステムの
部分的アップデート
 柔軟な働き方を活用し、「公私混同」を促進させることで、労働者の活力を引き
出し、企業の潜在的な活力を発揮させることが望まれる

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働き方改革の本質は、
 働き手が、人生、生活、業務のそれぞれのレイヤーごとに
「自分はどうしたいか」を考えること
 企業が、どの程度それらを、積極的に取り込むか、
（しぶしぶ？）許容するか、認めないかを考えること
 行政が、それを（可能な範囲で）可能にし、または快適にする
ルール・環境を作ること
ではないか。

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訴訟・M&A・一般企業法務を主要業務とします。
豊富な経験・実績、総合商社法務部での勤務経験から、
企業の現場を熟知しており、ビジネスに寄り添ったアド
バイスを得意としています。
▌主要な取扱分野
 日本企業間及びクロスボーダー間の企業買収、合併、
会社分割、事業提携その他のM&A案件。
 ベンチャー企業も含む様々な規模・業界の依頼者に
対する日常的な法律相談。
 厚生労働省労働基準局への出向経験を有するなど、
労働法に関する知見も豊富に有しています。
▌主な受賞歴
 Chambers Asia 2017 において、
Employment 分野の Up and Coming
に選ばれました。
▌モットー
 依頼者とのコミュニケーションを重視し、多様な経験と
柔軟な発想から、経営者の意思決定に役立つ
「スッキリ」としたアドバイスを心がけています。
▌経歴
2002年 慶應義塾大学法学部卒業
2009年 バージニア大学ロースクール卒業
2009年 米国三井物産株式会社、三井物産
株式会社にて執務（～2011年）
2015年 厚生労働省労働基準局にて執務
（～2016年）
2017年 厚生労働省 柔軟な働き方に関する
検討会委員就任
▌著書・論文
 『企業訴訟実務問題シリーズ
労働訴訟 – 解雇・残業代請求』
（中央経済社 2017年2月刊（共著））
 『M&A法大系』
（有斐閣 2015年12月刊（共著））
 『実践 就業規則見直しマニュアル』
（労務行政 2014年3月刊（編著））
等、著書・論文多数
Mail taichi.arai@mhmjapan.com
荒井 太一
Taichi Arai
パートナー
2003年 弁護士登録
東京弁護士会所属
2010年 ニューヨーク州弁護士登録
Tel 03-5220-1853