日本の馬車の現状です。（2012年） （特に、通年に近い営業および大都市の営業の馬車です。）

1. 参考資料
日本における『馬車』の現状 （2013 年著）
うま博士（見習い）他
はじめに
このテーマにて調査を始めようと思ったきっかけは、
「馬に馴染みのない人が馬と関わるには、どのような
シチュエーションがあるか？」ということを考えたか
らである。この時にふと思い浮かんだのが、今回のテ
ーマの『馬車』である。
本稿を見て頂いている方のほとんどが馬と関わって
いるか、興味のある方であると思われ、そのことは非
常に喜ばしいことである。しかしながら、近年におけ
る趣味の多様化や日本の地理的・歴史的な背景もあり、
普段の生活の中でウマと関わる機会は益々失われてい
るのが現状である。
馬達にとって、馬と関わっているまたは興味のある
人が減ってしまうことは即ち、自分たちの生きるすべ
が無くなるということに直結している。それは、馬に
携わる人にとっても同じである。だからこそ、一人で
も多くの人に馬を身近に感じ、いかにして興味を持っ
てもらうかというのは、馬に携わるすべての人にとっ
ての課題なのではないだろうか？
『馬車』は、子供からお年寄りまで、幅広い年齢層
の人々が気軽に乗ることができると思われる。それゆ
え、多くの人に馬の魅力を知ってもらうきっかけにな
る可能性がある『馬車』について調査したいと考えた
のである。
序論
人と馬の関わり合いは、狩猟から始まり家畜化を経
て、車輪や馬具の発達により、乗り物として利用され
るようになった。その機動力などにより、馬は戦争に
おいても重要な役割を担うこととなり、これらの結果、
馬は人類の歴史において必要不可欠な存在となったの
である。
しかしながら、科学技術の進歩と共に馬の様々な役
割は次第に薄れ、現在では主に馬術や乗馬や競馬等が
スポーツやレジャーの為に行われる程度になっている。
本調査では、その様な歴史の中で、現在でもレジャ
ーとして存在し、簡単に誰でも乗れるという利点もあ
る『馬車』に焦点を当てる。世界の観光地でも人気が
ある『馬車』について、ここ日本における現状を報告
する。
『馬車』の歴史 1）,2）
『馬車』が初めて世界で登場した時期は明らかには
なっていないが、紀元前 2800 年～2700 年の古代メソ
ポタミア遺跡から『馬車』の粘土模型が発掘されてお
り、この時期には馬車が使用されていた可能性がある
と報告されている。
その後、古代ローマ帝政期には、帝国全土にはり巡
らされたローマ街道を用いた郵便馬車が発展した。さ
らに、17 世紀初頭にロンドンに辻馬車が登場し、ヨー
ロッパに広まり、19 世紀には馬を動力として鉄道を走
る馬車鉄道が発明され、『馬車』が隆盛した。しかしな
がら、蒸気機関の発明により、その安定した動力や飼
料・糞尿等の問題が無いことの為、『馬車』は次第にそ
の役割を車や鉄道などに移さなければならなくなった
のである。
日本における『馬車』の歴史は、江戸時代より前は
「騎馬文化主要説（騎馬が主流であった。）」「馬の頭数
の少なさ（ヨーロッパに比べて馬の頭数が少なかっ
た。）」「地形の問題（山地が多く車の走行に適していな
うま博士（見習い）
京都府生まれ。工学部化学科卒。修士課程修了。歯学部卒。
高校時代に競馬が好きになる。これが馬への最初の原点。
そこから月日は流れて、競馬から馬へ次第に興味が変化。
馬好きが高じて、歯学部在学中に日本ウマ科学会に入会。
さらに、馬産地にて歯科医師の修行を開始。そこで、本格
的に乗馬にトライする。現在も、馬についての新しい研究
対象を模索中。

2. かった。）」等により発達しなかったとの説がある。
実際、江戸時代には幕府により「車」の通行が一部を
除き禁止されたことにより、馬車が発展したのは、1869
（明治 2）年に横浜～東京間の乗合馬車が開業してか
らであった。さらに、1882（明治 15）年に新橋～日本
橋間に馬車鉄道が開通し、『馬車』は盛隆した。しかし
ながら、世界の状況と同じく、蒸気機関の導入によっ
て急速に衰退していったのである。
現在の日本における『馬車』
現在、日本における『馬車』において、インターネ
ット等で確認できた施設（期間限定の祭り等を除く）
は 28 施設（図.1）であり、これ以外もあると思われる
為、おおよそ 30 前後の施設があるといえる。
これら施設は期間限定のところが多い為、本調査で
は、これらの中でほぼ通年を通して営業している①北
海道開拓の村・②ノーザンホースパーク・③京馬車・
④砂丘の馬車・⑤由布院観光辻馬車・⑥ハウステンボ
スと都市で運営している※札幌観光幌馬車の七ヶ所に
ついて報告する。
図 1 2012 年現在の日本の馬車
① 北海道開拓の村
明治・大正期の道内の建物を復元した野外博物館で
ある北海道開拓村の中に当時の交通を再現した馬車鉄
道がある。
馬車鉄道とはその名の通り、客車を馬が引いている
鉄道で、運転手の御者と車掌がいる。
ここでは、再現された開拓時代の街並みの中を駆け
抜ける馬車鉄道が、静の中の動としてひときわ注目を
浴び、観光の一役を担っている。冬は馬そりとして運
行している。
馬車鉄道はここと岩手県の小岩井農場（トロ馬車）
のみで運行されている。
設立 29 年で、馬は北海道和種 2 頭で 18 歳と 21 歳
の騸馬である。車両は定員 16 名の 2 台で、客車は鉄
道ファンも注目する日本車両製造株式会社製である。
図 2 北海道開拓村の中を駆け抜ける馬車鉄道
② ノーザンホースパーク
馬のテーマパークとしては最も規模が大きく、北海
道では有名な観光地であるノーザンホースパークは、
「馬と大地と人の絆」をテーマにした自然公園である。
ご想像の通り馬車の馬も 11 頭という多さである。
こちらでは、季節感あふれる美しい自然公園の中を
馬車で巡り自然を満喫することができるのが魅力であ
る。色々あるアクティビティーの中で馬車は一番人気
である。こちらも冬は馬そりとなる。
設立 23 年で、馬はクライスディール種・ノルマン
ディーコブ種・日本ばん系種の計 11 頭で 6～21 歳の
騸馬である。馬車は定員 9～12 名の 3 台で日本製と外
国製である。
図 3 ノーザンホースパークでの美しい自然公園の中を
巡る馬車

3. ③ 京馬車
2 年前に地元亀岡を盛り上げたいとのことで設立さ
れたのが京馬車です。トロッコ亀岡駅と保津川下りの
発着地点を結び、地元の活性化を目指している。
変わらない風景の中で、ゆっくり歩く馬にひかれ、
心地の良い風を肌で感じながら、馬車を純粋に楽しむ
ことが出来るという贅沢な時間が最大の魅力です。
設立 2 年で、馬は日本ばん系種 3 頭 4～5 歳牝馬で
ある。馬車は定員 8・16 名の 2 台で日本での手造り製
である。
図 4 遠方からの観光客を乗せて移動中の京馬車（車中から）
④ 砂丘の馬車
鳥取砂丘の広大な景色を堪能でき、馬に安心してよ
く触れ合える砂丘の馬車です。設立以来 49 年と最も
歴史がある。
御者と馬とのかけ会いを楽しみながら、国の天然記
念物である砂丘の魅力や知識、馬の個性などの楽しい
話を聞きながら砂の上を進んで行きます。
設立 49 年で、馬は中半血種 1 頭 12 歳牝馬である。
馬車は定員 10 名の数台で日本での手造り製である。
図 5 鳥取砂丘でスタンバイ OK の砂丘の馬車
⑤ 由布院観光辻馬車
37 年前の地震での震災からの町興しで設立され、今
では町のシンボルになっているのが、由布院観光辻馬
車です。今では、予約も取れないほどの人気ぶりです。
由布院の歴史等を聞きながら、町の郊外ののどかな
田園地帯や神社などの観光地を回ります。
個人経営 3 件から成り立っており、それぞれの個性
があり、異なった楽しみ方ができるのも魅力の一つで
す。
設立 35 年で、個人経営 3 件のうちの 1 件では、馬
はペルシュロン種 1 頭 13 歳牝馬です。
馬車は定員 10 名の１台でポーランド製である。他 2
件ある。
図 6 由布院駅前から出発する観光辻馬車
⑥ ハウステンボス
ハウステンボス内のこだわりのオランダ製のレンガ
で舗装された異国情緒ある街並みを、優雅に巡ります。
このレンガの路の上に響く馬の蹄の音を聞きながら、
130 年も前にオランダの馬車職人の手によって作られ
た、貴重なアンティークの馬車に乗ることができます。
多くの修学旅行生や家族連れの観光客に注目される存
在である。
設立 15 年で、馬は中半血種 1 頭 8 歳騸馬です。馬
車は定員 2 名の 3 台でオランダ製である。
他人数乗りの馬車を、近々導入する予定とのことで
ある。

4. 図 7 ハウステンボスの観覧車横で出発前の二人乗りの
アンティーク馬車
※ 大都市の馬車
大都市で唯一運営しているのが、札幌幌馬車観光で
ある。
愛嬌のある馬・四代目の銀太くんに引かれながら、
自動車が走り抜ける大都会・札幌の中心をのんびりと
観光しながら回れることである。二階建てのひときわ
高い目線からの眺めには圧巻させられます。
市民にも定着し、都会ゆえに注目度満点で、町を歩
く沢山の人たちを笑顔にさせてくれます。
「人と車と動物の調和された街作り」の実践をして
おり、札幌名物となっている。
4 月から 11 月までの期間限定である。
設立 35 年で、馬はペルシュロン種 1 頭 10 歳騸馬です。
馬車は定員 28 名の１台で日本での手造り製である。
図 8 時計台前で待機中の札幌観光幌馬車
結論
日本の馬車について、主にほぼ通年営業している施
設を調査した結果、
○馬の馬齢は 4～21 歳と幅広く、性別は牝馬か騸馬で
ある。
○ほとんどの施設の馬が 1～3 頭の少頭数である。
○馬の種類は様々な種類が用いられている。
○馬車は 8～28 名と多人数乗りがほとんどである。
○全ての施設が観光地と共に存在している。
さらに視察することによって、利用客が馬に触れて
楽しんだり、子供たちがボロを見て喜び馬の生態を学
んだり、お年寄りが昔を懐かしんだりしていたのが印
象的であった。
これらのことから、『馬車』は観光地に「華」を添え、
幅広い年齢層の人々に身近で温かい存在として親しま
れていることが強く印象付けられた。
そこでは、『馬車』の馬が利用客はもちろん言うまで
もなく、地元の人々や多くの通りすがりの観光客の心
を和ませ、可愛がられていたのである。
これらのことから、より多くの馬が『馬車』の馬と
して人々に愛され、長く活躍できる可能性があると考
えられる。
馬の活躍の機会が、昔と比べて少なくなっているの
は周知のとおりである。馬と触れ合う機会がほとんど
ない一般の人々が、馬と身近に触れ合うことにより、
馬に興味を持ったり好きになったりする可能性が広が
ることは言うまでもない。
馬には、ホースセラピーと言われるように人を癒す
効果があると言われている。最近、これらに焦点を当
てたいくつかの施設で、新しく『馬車』の運営が始ま
っている。
一般の人々が、最も気軽に馬を体感できるものの一
つが『馬車』なのではないか？そして、『馬車』は、馬
の活躍の場所を一つでも広げるきっかけとなるのでは
ないか？と著者は期待して止まない。
参考文献
1）ラスロー・タール『馬車の歴史』野中邦子訳、東京、
平凡社、1991 年
2）北海道開拓の村『北海道開拓の村企画展「北海道に
おける軌道～馬車鉄道から路面電車へ」』、2001 年