Whole body counter surveys of Miharu-town school children for four
consecutive years after the Fukushima NPP accident
福島第一原子力発電所事故後、4 年間連続して行われた三春町児童生徒のホールボ
ディカウンター検査について
Proceedings of the Japan Academy, Series B, Vol. 91 No. 3 (2015)
http://dx.doi.org/10.2183/pjab.91.92 に掲載された
査読付き英文論文の抄訳 (参考文献等は省略)
早野龍五, 坪倉正治, 宮崎真 ほか
2015/3/11
要約
三春町学童に対するホールボディカウンター (WBC) 検査が、2011 から 2014 年にかけて 4
年間連続して行われた。これは福島第一原子力発全所事故後に行なわれた内部被ばく検査の
うち、唯一にして長期かつサンプリングの偏りがない取り組みである。
2014 年に初めて、身長 130cm 以下の子どもたちに、セシウム 134、137 とも 50 Bq/body
未満という低い検出限界をもつ Babyscan が使われたが、検知可能なレベルの放射性セシ
ウムを持っている子どもはみつからなかった。それぞれの WBC から得られた MDA 値を
使って、子どもたちの放射性セシウムの毎日の摂取量の上限が見積もられた。Babyscan で
の検査における上限は、セシウム 137 の 1 日摂取量に換算して 1Bq 未満であった。
検査時に記入いただいた食べ物と飲料水に関するアンケートの分析によれば、大多数の三春
の子どもたちは継続的に地元産か自家産の米、野菜を摂取していた。しかしながらこの選択
は体内の放射性物質量を増やさない。
I. イントロダクション
2011 年 3 月に起きた福島第一原子力発電所事故から約 4 年が経過した。福島県とその周囲の地
域においては、土壌と水の汚染による内部被ばくのリスクがどの程度であるか、が多くの住民の関
心事であった。しかしこれまでに報告された多数のデータは、首尾一貫して、リスクがあるとして
も検知できないほど低いことを示している。これらデータには、例えば WBC 検査の結果、陰膳調
査の結果、福島県で収穫されたすべての米の検査「全袋検査」などが含まれる。
1
しかしながら、これらの結果は住民の生活が正常に戻ったことを意味していない。2013 年 5 月
に福島市が行なったアンケート調査は、回答者のおよそ 80% が内部被ばくのリスクに関心を持っ
ていることを示した。また、南相馬市でのアンケート調査は、学童をもつ家庭のおよそ 4 分の 3
が、スーパーで福島県外産の食品だけを選んで買っていることを示した。
この点について、三春町学童が連続 4 年間 (2011 から 2014 年)、各年 90% 以上という高いカ
バー率で行った WBC 検査の結果は、貴重な、偏りのない情報を提供する。特に、検査を受けたう
ち大多数の子どもたちの家庭で、継続的に地元産や自家産の食品を食べている点は、報告する価値
が大きい。
三春町 (人口約 18,000 人) は福島第一原子力発電所のおよそ 50 キロ西に位置する。図 1 に示す
空間線量モニタリング結果 (2013 年 11 月) から推定される土壌汚染のレベルは、町の南部より北
部側の方が若干高い。農業を行っている家庭はおよそ 20% である。三春町にはおよそ 800 人の子
どもたちが在籍する 6 つの小学校と、およそ 500 人が在籍する 2 つの中学校がある。2011 年の秋
に、三春町教育委員会はすべての学童に WBC 検査を行うことを決め、2014 年まで 4 年間続けて
行われた。
2011 年から 2013 年の検査の結果は Ref 12 ですでに報告した。アンケート結果は、子どもたち
のおよそ 60% が継続的に地元産や自家産の米を食べていたことを示していたが、2012 年と 2013
年ともに、セシウム 137 の検出限界 300 Bq/body を越える子どもはみつからなかった。今回は、
50 Bq/body を下回る検出限界を持つ新開発の機器 Babyscan を身長 130 cm 以下の子どもたちの
検査に用いた、2014 年の検査の結果を報告する。研究は三春町教育委員会の支持のもと、東京大
学の倫理委員会によって認可された。
II.2014 年の調査の詳細
2014 年は、1,265 人の三春町の子どもたち (6 15 才、図 2) がひらた中央病院 (図 1) で WBC 検
査を行った。子どもたちのうち、130 cm より背が高い場合はキャンベラ社製の WBC、Fastscan(2
分間計測、検出限界はセシウム 134、137 ともに 300 Bq/body) で測定された。130 cm より背が
低い子どもたちは、キャンベラ社が子ども用に新たに開発した WBC、Babyscan(4 分間計測、検
出限界はセシウム 134、137 ともに 50 Bq/body、図 3) で測られた。WBC 検査を受ける際には、
検査に参加した子どもたちの親に食べ物と飲料水に関するアンケートを書いていただいており、そ
の結果を後で論じる。
データの質が保たれていることは、体重とカリウム 40 の値との相関を示す図 4 から推定でき
る。計測されたカリウム 40 の値は、おおむね体重 1kg あたり 55.3 ± 0.9 Bq にフィットされ、も
ともと知られている人体内のカリウム 40 の含量とほぼ一致した。Babyscan により得られた値は
Fastscan より小さい位置に分布し、前者がより敏感である (つまり、より検出限界が低い) ことを
示している。
前年までの検査と同様に、機器の検出限界を超える子どもたちはいなかった; これは Babyscan
により測定された身長の小さな子どもも含めて、である。表 1 に、2013 年までの結果とともに、
2
2014 年の結果を要約する。
より詳細に、図 5 に被検者個々の体重とセシウム 137 の MDA 値との関係を示す。MDA とは
「最小検出限界 minimum detectable activity」の略で、放射性物質から放出されるγ線スペクト
ル (セシウム 137 の場合は 662 keV 付近) の統計的ゆらぎをもとに、個々の被検者ごとに計算され
る値である。計算された MDA 値はひらた中央病院で用いている名目上の検出限界 (Fastscan では
300 Bq/body、Babyscan では 50 Bq/body) よりも低い。図 6 は、被検者ごとの MDA 値を体重
1 kg あたりに直してプロットしたものである。
III. ディスカッション
A. セシウム 137 の 1 日摂取量の上限
我々はセシウム 137 の MDA 値から、慢性経口摂取のシナリオを用い、セシウム 137 の平均 1
日摂取量の上限を見積もった。セシウム 137 を 1 日 1Bq ずつ継続して摂取するという条件設定の
もと、年齢 3 ヶ月、5 才、10 才、15 才および成人の各年齢層での体内平衡残留量を Mondal3 ソフ
トウェアで計算し、その結果に補間曲線を挿入したものが図 7 である。年齢が若いほど生物学的半
減期が短いため、1 日の摂取量が同じでも、幼い子どもほど平衡残留量はより低くなる。これが、
より小さな子どもに Babyscan を用いた理由である。
図 7 に示した年齢とセシウム 137 の平衡残存量のカーブを用い、我々はセシウム 137 の検出限
界 300(50)Bq/body における 1 日摂取量の上限を推定し、図 8 に青 (オレンジ) 線で示した。同じ
く図 8 には、三春町の子どもたちの MDA 実測値から推定された個々の 1 日摂取量の上限も示し
た。Babyscan で検査された子どもたちの 1 日摂取量の上限は約 1 Bq と推測される (6 才児の場
合)。この上限の量を 1 年間続けて摂取したとして、計算される預託実効線量は 4 μ Sv(セシウム
134 の寄与を含むと計 8 μ Sv) 未満である。我々はこのような理由から、リスクは極めて低いと結
論する。
B. アンケートの分析
食べ物と飲料水に関するアンケートで、我々は以下を尋ねた。
• - 飲料水の選択
1. 井戸水
2. 水道水
3. 市販の水
• 米の選択
1. 福島産米を避ける
2. 生産地を気にかけない
3. 福島産米を買う
3
4. 地元産・自家産米を食べる
• 野菜の選択
1. 福島産品を避ける
2. 生産地を気にかけない
3. 福島産品を買う
4. 放射能検査後の地元産・自家産品を食べる
5. 放射能検査をうけていない地元産・自家産品を食べる
図 9 にまとめのグラフ、表 2 にアンケート回答のクロステーブルを示す。
ご覧のとおり、三春町ではおよそ 75% の家庭が水道水や井戸水を飲み、80% が福島産の米を食
べ、そして 75%(うちおよそ 10% が放射能検査を受けていない) が福島産の野菜を食べている。こ
の結果は、およそ 4 分の 3 の家庭が地元や福島産の食品を避けている、と答えた南相馬市の状況と
極めて対照的である。
本研究は、福島県において継続的に地元の食材を食べる人々の間ですら、内部被ばくのリスクは
小さいままである、としたこれまでの研究結果を引き続き支持する。
C. 飲料水、米、野菜のクロステーブルにおけるコレスポンデンス分析
図 9 は、およそ 20% の家庭が市販の水を買い、およそ 15% が福島産の食品を避けるとしてい
て、市販の水を選択することと福島産品を避けることに相関があるようにも思える。
この仮説の検証のため、我々は標準的な解析手法であるコレスポンデンス分析を行ない、その結
果を図 10 のようにグラフィカルに表示した。グラフ中、黒字の円が飲料水の選択、赤字の円が米・
野菜の選択を示し、赤字の円の大きさは表 2 の最後の列 (Bottled water の列) の数字に比例して描
かれている。「Bottle」の円を貫く実線は市販の水を選ぶ人たちの主軸を表し、主軸に対して垂直
に描かれた点線の交点は、市販の水を選ぶ人たちが米・野菜を選択する際の相対的な「距離」を示
す (距離が長ければ長いほど避ける傾向にある)。ご覧のごとく、市販の水を選ぶ人たちには福島産
の米、野菜を避ける傾向がある。
IV. 結論
三春町学童の WBC 悉皆検査は、2011 2014 年に 4 年間連続して行なわれた。これは、福島第
一原子力発電所事故の後に行なわれた、唯一にして長期かつサンプリングの偏りのない取り組みで
ある。2014 年には初めて、身長 130cm 以下の子どもたちに対してセシウム 134、137 ともに 50
Bq/body 未満の低い検出限界を持つ Babyscan も用いられたが、子どもたちから検出限界を超え
る放射性セシウムは一切検出されなかった。Babyscan で検査された子どもたちの、個々の MDA
値から推測されるセシウム 137 の 1 日摂取量の上限は 1Bq 未満であったが、これはコープふくし
まが行った陰膳調査のような他の研究の結果と矛盾しない。食べ物と飲料水の選択に関するアン
ケートの分析は、大多数の三春の子どもたちが継続的に地元産もしくは自家産の米や野菜を消費し
4
ていることを明らかにした。しかし、この子どもたちが県外産を選択する家庭の子どもたちと比べ
て内部被ばく量が増加する結果は得られていない。一方で、アンケート結果のコレスポンデンス分
析は、市販の水を選ぶ人たちに福島産の食品を避ける傾向があることを示した。将来的には、福島
の各地で行なわれている同様の分析は、明らかに存在するリスク認識の地域差を理解するために有
用な情報を提供するだろう。
5
表 1 三春町学童の WBC 測定者数 (年齢は 6 15 才)。三春町教育委員会は、公表されている学
童数と、WBC 測定を行なったときに学校に通っていた子どもたちの実数値は一致しないかも
しれない、としている。これまでの報告を繰り返すが、2011 年の測定では更衣を行っていない
ことに注意。
Enrolled Measured Coverage Radiocesium Detection
(with Babyscan) detected percentage
2011i)
1,585a)
1,494 (0) 94.3% 54*1
3.6%
2012ii)
1,413b)
1,383 (0) 97.9% 0 0.0%
2013iii)
1,381c)
1,338 (0) 96.9% 0 0.0%
2014iv)
1,315d)
1,265(360) 96.2% 0 0.0%
表 2 アンケート結果 (n = 1146) を要約したクロステーブル。このテーブルからは、WBC を
受けた方のうち、多質問肢を選択したものやまったく記載がないもの 119 件が除外された。
Rice Vegetables
← Supermarket → Home/Local ← Supermarket → Home/Local
Avoid Buy Buy Tested Avoid Buy Buy Tested Untested
Fukushima any Fukushima Fukushima any Fukushima
Well water 13 25 4 195 27 91 7 61 51
Tap water 84 154 14 387 105 349 14 104 67
Bottled water 64 66 4 136 64 146 6 34 20
6
図 1 2013 年 11 月 19 日時点の空間線量モニタリングから見積もられた空間線量率の地図。福
島第一原子力発電所、三春町、福島市、郡山市とひらた中央病院の場所をそれぞれ示す。
FASTSCAN BABYSCAN
6 8 10 12 14 16
0
20
40
60
80
100
120
Age
N
図 2 対象者の年齢分布。グレーのバーは
Fastscan、ピンクのバーは Babyscan で測定
された人たちを示している。
FASTSCAN BABYSCAN
6 8 10 12 14 16
100
120
140
160
180
Age
Height
図 3 対象者の年齢と身長の分布。身長が
130cm より低い場合は Babyscan で検査さ
れた。
7
FASTSCAN BABYSCAN
55.3±0.9 Bqêkg
0 20 40 60 80 100
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
WeightHkgL
K40HBqêbodyL
図 4 対象者の体重 (kg) と測定されたカリウム 40(Bq) の関係
FASTSCAN BABYSCAN
0 20 40 60 80 100 120
0
50
100
150
200
Weight HkgL
137
CsMDAHBqêbodyL
図 5 対 象 者 の 体 重 (kg) と MDA(Bq/-
body、セシウム 137) の関係
FASTSCAN BABYSCAN
0 20 40 60 80 100
0
2
4
6
8
10
Weight HkgL
137
CsMDAHBqêkgL
図 6 対 象 者 の 体 重 (kg) と
MDA(Bq/kg、セシウム 137) の関係
8
Ê
Ê
Ê
Ê
Ê
Ê
0 5 10 15 20 25
0
50
100
150
Age
Bqêbody
図 7 丸点:Mondal3 ソフトウェアで計算されたセ
シウム 137 の体内残留量の平衡値。曲線:Mondal3
のアウトプットに、Gompertz 分布で補間した曲線
をあてはめ、1-σの不確実性バンドの範囲を帯で表
現したもの。
0 5 10 15
0
5
10
15
Age
Bqêday
図 8 青 (オレンジ) の曲線:セシウム
137 の検出限界が 300(50)Bq/body
の際に見積もられる 1 日摂取量の上
限の年齢依存。グレー (ピンク) の点:
三春町学童の実際の MDA 値を用いて
個々に見積もったセシウム 137 の 1 日
摂取量の上限。
9
Well water
21 %
Tap water
55 %
Bottled water
23 %
Other 2 %
0
20
40
60
80
100
Homeêlocal rice
62 %
Buy Fukushima 2 %
Buy any rice
20 %
Avoid Fukushima
rice 13 %
Other 3 %
0
20
40
60
80
100
Eat local, untested
produce 11 %
Homeêlocal produce
16 %
Buy Fukushima 2 %
Buy any produce
49 %
Avoid Fukushima
produce 16 %
Other 6 %
0
20
40
60
80
100
Water Rice Vegetable
図 9 アンケート結果からみる三春の家庭の飲料水、米、野菜の選択割合
:
Well
Tap
Bottle
Rice:AF
Rice:any
Rice:BF
Rice:Home
Veg:AF
Veg:any
Veg:BF
Veg:Home
Veg:UT
Well
Tap
Bottle
Rice:AF
Rice:any
Rice:BF
Rice:Home
Veg:AF
Veg:any
Veg:BF
Veg:Home
Veg:UT
図 10 表 2 のクロステーブルから、市販の水あるいは井戸水の選択が、米・野菜の選択とどの
ように関連しているかのコレスポンデンス分析結果を可視化したもの。詳細については、本文を
参照のこと。省略はそれぞれ、AF - 福島産品を回避、BF - 福島産品を購入、NC - 産 地を気
にかけない、Home - 地元産・自家産品を食べる、UT - 未検査品を食べる。
10

Whole-body counter surveys of Miharu-town school children for four consecutive years after the Fukushima NPP accident (和訳)

  • 1.
    Whole body countersurveys of Miharu-town school children for four consecutive years after the Fukushima NPP accident 福島第一原子力発電所事故後、4 年間連続して行われた三春町児童生徒のホールボ ディカウンター検査について Proceedings of the Japan Academy, Series B, Vol. 91 No. 3 (2015) http://dx.doi.org/10.2183/pjab.91.92 に掲載された 査読付き英文論文の抄訳 (参考文献等は省略) 早野龍五, 坪倉正治, 宮崎真 ほか 2015/3/11 要約 三春町学童に対するホールボディカウンター (WBC) 検査が、2011 から 2014 年にかけて 4 年間連続して行われた。これは福島第一原子力発全所事故後に行なわれた内部被ばく検査の うち、唯一にして長期かつサンプリングの偏りがない取り組みである。 2014 年に初めて、身長 130cm 以下の子どもたちに、セシウム 134、137 とも 50 Bq/body 未満という低い検出限界をもつ Babyscan が使われたが、検知可能なレベルの放射性セシ ウムを持っている子どもはみつからなかった。それぞれの WBC から得られた MDA 値を 使って、子どもたちの放射性セシウムの毎日の摂取量の上限が見積もられた。Babyscan で の検査における上限は、セシウム 137 の 1 日摂取量に換算して 1Bq 未満であった。 検査時に記入いただいた食べ物と飲料水に関するアンケートの分析によれば、大多数の三春 の子どもたちは継続的に地元産か自家産の米、野菜を摂取していた。しかしながらこの選択 は体内の放射性物質量を増やさない。 I. イントロダクション 2011 年 3 月に起きた福島第一原子力発電所事故から約 4 年が経過した。福島県とその周囲の地 域においては、土壌と水の汚染による内部被ばくのリスクがどの程度であるか、が多くの住民の関 心事であった。しかしこれまでに報告された多数のデータは、首尾一貫して、リスクがあるとして も検知できないほど低いことを示している。これらデータには、例えば WBC 検査の結果、陰膳調 査の結果、福島県で収穫されたすべての米の検査「全袋検査」などが含まれる。 1
  • 2.
    しかしながら、これらの結果は住民の生活が正常に戻ったことを意味していない。2013 年 5月 に福島市が行なったアンケート調査は、回答者のおよそ 80% が内部被ばくのリスクに関心を持っ ていることを示した。また、南相馬市でのアンケート調査は、学童をもつ家庭のおよそ 4 分の 3 が、スーパーで福島県外産の食品だけを選んで買っていることを示した。 この点について、三春町学童が連続 4 年間 (2011 から 2014 年)、各年 90% 以上という高いカ バー率で行った WBC 検査の結果は、貴重な、偏りのない情報を提供する。特に、検査を受けたう ち大多数の子どもたちの家庭で、継続的に地元産や自家産の食品を食べている点は、報告する価値 が大きい。 三春町 (人口約 18,000 人) は福島第一原子力発電所のおよそ 50 キロ西に位置する。図 1 に示す 空間線量モニタリング結果 (2013 年 11 月) から推定される土壌汚染のレベルは、町の南部より北 部側の方が若干高い。農業を行っている家庭はおよそ 20% である。三春町にはおよそ 800 人の子 どもたちが在籍する 6 つの小学校と、およそ 500 人が在籍する 2 つの中学校がある。2011 年の秋 に、三春町教育委員会はすべての学童に WBC 検査を行うことを決め、2014 年まで 4 年間続けて 行われた。 2011 年から 2013 年の検査の結果は Ref 12 ですでに報告した。アンケート結果は、子どもたち のおよそ 60% が継続的に地元産や自家産の米を食べていたことを示していたが、2012 年と 2013 年ともに、セシウム 137 の検出限界 300 Bq/body を越える子どもはみつからなかった。今回は、 50 Bq/body を下回る検出限界を持つ新開発の機器 Babyscan を身長 130 cm 以下の子どもたちの 検査に用いた、2014 年の検査の結果を報告する。研究は三春町教育委員会の支持のもと、東京大 学の倫理委員会によって認可された。 II.2014 年の調査の詳細 2014 年は、1,265 人の三春町の子どもたち (6 15 才、図 2) がひらた中央病院 (図 1) で WBC 検 査を行った。子どもたちのうち、130 cm より背が高い場合はキャンベラ社製の WBC、Fastscan(2 分間計測、検出限界はセシウム 134、137 ともに 300 Bq/body) で測定された。130 cm より背が 低い子どもたちは、キャンベラ社が子ども用に新たに開発した WBC、Babyscan(4 分間計測、検 出限界はセシウム 134、137 ともに 50 Bq/body、図 3) で測られた。WBC 検査を受ける際には、 検査に参加した子どもたちの親に食べ物と飲料水に関するアンケートを書いていただいており、そ の結果を後で論じる。 データの質が保たれていることは、体重とカリウム 40 の値との相関を示す図 4 から推定でき る。計測されたカリウム 40 の値は、おおむね体重 1kg あたり 55.3 ± 0.9 Bq にフィットされ、も ともと知られている人体内のカリウム 40 の含量とほぼ一致した。Babyscan により得られた値は Fastscan より小さい位置に分布し、前者がより敏感である (つまり、より検出限界が低い) ことを 示している。 前年までの検査と同様に、機器の検出限界を超える子どもたちはいなかった; これは Babyscan により測定された身長の小さな子どもも含めて、である。表 1 に、2013 年までの結果とともに、 2
  • 3.
    2014 年の結果を要約する。 より詳細に、図 5に被検者個々の体重とセシウム 137 の MDA 値との関係を示す。MDA とは 「最小検出限界 minimum detectable activity」の略で、放射性物質から放出されるγ線スペクト ル (セシウム 137 の場合は 662 keV 付近) の統計的ゆらぎをもとに、個々の被検者ごとに計算され る値である。計算された MDA 値はひらた中央病院で用いている名目上の検出限界 (Fastscan では 300 Bq/body、Babyscan では 50 Bq/body) よりも低い。図 6 は、被検者ごとの MDA 値を体重 1 kg あたりに直してプロットしたものである。 III. ディスカッション A. セシウム 137 の 1 日摂取量の上限 我々はセシウム 137 の MDA 値から、慢性経口摂取のシナリオを用い、セシウム 137 の平均 1 日摂取量の上限を見積もった。セシウム 137 を 1 日 1Bq ずつ継続して摂取するという条件設定の もと、年齢 3 ヶ月、5 才、10 才、15 才および成人の各年齢層での体内平衡残留量を Mondal3 ソフ トウェアで計算し、その結果に補間曲線を挿入したものが図 7 である。年齢が若いほど生物学的半 減期が短いため、1 日の摂取量が同じでも、幼い子どもほど平衡残留量はより低くなる。これが、 より小さな子どもに Babyscan を用いた理由である。 図 7 に示した年齢とセシウム 137 の平衡残存量のカーブを用い、我々はセシウム 137 の検出限 界 300(50)Bq/body における 1 日摂取量の上限を推定し、図 8 に青 (オレンジ) 線で示した。同じ く図 8 には、三春町の子どもたちの MDA 実測値から推定された個々の 1 日摂取量の上限も示し た。Babyscan で検査された子どもたちの 1 日摂取量の上限は約 1 Bq と推測される (6 才児の場 合)。この上限の量を 1 年間続けて摂取したとして、計算される預託実効線量は 4 μ Sv(セシウム 134 の寄与を含むと計 8 μ Sv) 未満である。我々はこのような理由から、リスクは極めて低いと結 論する。 B. アンケートの分析 食べ物と飲料水に関するアンケートで、我々は以下を尋ねた。 • - 飲料水の選択 1. 井戸水 2. 水道水 3. 市販の水 • 米の選択 1. 福島産米を避ける 2. 生産地を気にかけない 3. 福島産米を買う 3
  • 4.
    4. 地元産・自家産米を食べる • 野菜の選択 1.福島産品を避ける 2. 生産地を気にかけない 3. 福島産品を買う 4. 放射能検査後の地元産・自家産品を食べる 5. 放射能検査をうけていない地元産・自家産品を食べる 図 9 にまとめのグラフ、表 2 にアンケート回答のクロステーブルを示す。 ご覧のとおり、三春町ではおよそ 75% の家庭が水道水や井戸水を飲み、80% が福島産の米を食 べ、そして 75%(うちおよそ 10% が放射能検査を受けていない) が福島産の野菜を食べている。こ の結果は、およそ 4 分の 3 の家庭が地元や福島産の食品を避けている、と答えた南相馬市の状況と 極めて対照的である。 本研究は、福島県において継続的に地元の食材を食べる人々の間ですら、内部被ばくのリスクは 小さいままである、としたこれまでの研究結果を引き続き支持する。 C. 飲料水、米、野菜のクロステーブルにおけるコレスポンデンス分析 図 9 は、およそ 20% の家庭が市販の水を買い、およそ 15% が福島産の食品を避けるとしてい て、市販の水を選択することと福島産品を避けることに相関があるようにも思える。 この仮説の検証のため、我々は標準的な解析手法であるコレスポンデンス分析を行ない、その結 果を図 10 のようにグラフィカルに表示した。グラフ中、黒字の円が飲料水の選択、赤字の円が米・ 野菜の選択を示し、赤字の円の大きさは表 2 の最後の列 (Bottled water の列) の数字に比例して描 かれている。「Bottle」の円を貫く実線は市販の水を選ぶ人たちの主軸を表し、主軸に対して垂直 に描かれた点線の交点は、市販の水を選ぶ人たちが米・野菜を選択する際の相対的な「距離」を示 す (距離が長ければ長いほど避ける傾向にある)。ご覧のごとく、市販の水を選ぶ人たちには福島産 の米、野菜を避ける傾向がある。 IV. 結論 三春町学童の WBC 悉皆検査は、2011 2014 年に 4 年間連続して行なわれた。これは、福島第 一原子力発電所事故の後に行なわれた、唯一にして長期かつサンプリングの偏りのない取り組みで ある。2014 年には初めて、身長 130cm 以下の子どもたちに対してセシウム 134、137 ともに 50 Bq/body 未満の低い検出限界を持つ Babyscan も用いられたが、子どもたちから検出限界を超え る放射性セシウムは一切検出されなかった。Babyscan で検査された子どもたちの、個々の MDA 値から推測されるセシウム 137 の 1 日摂取量の上限は 1Bq 未満であったが、これはコープふくし まが行った陰膳調査のような他の研究の結果と矛盾しない。食べ物と飲料水の選択に関するアン ケートの分析は、大多数の三春の子どもたちが継続的に地元産もしくは自家産の米や野菜を消費し 4
  • 5.
  • 6.
    表 1 三春町学童のWBC 測定者数 (年齢は 6 15 才)。三春町教育委員会は、公表されている学 童数と、WBC 測定を行なったときに学校に通っていた子どもたちの実数値は一致しないかも しれない、としている。これまでの報告を繰り返すが、2011 年の測定では更衣を行っていない ことに注意。 Enrolled Measured Coverage Radiocesium Detection (with Babyscan) detected percentage 2011i) 1,585a) 1,494 (0) 94.3% 54*1 3.6% 2012ii) 1,413b) 1,383 (0) 97.9% 0 0.0% 2013iii) 1,381c) 1,338 (0) 96.9% 0 0.0% 2014iv) 1,315d) 1,265(360) 96.2% 0 0.0% 表 2 アンケート結果 (n = 1146) を要約したクロステーブル。このテーブルからは、WBC を 受けた方のうち、多質問肢を選択したものやまったく記載がないもの 119 件が除外された。 Rice Vegetables ← Supermarket → Home/Local ← Supermarket → Home/Local Avoid Buy Buy Tested Avoid Buy Buy Tested Untested Fukushima any Fukushima Fukushima any Fukushima Well water 13 25 4 195 27 91 7 61 51 Tap water 84 154 14 387 105 349 14 104 67 Bottled water 64 66 4 136 64 146 6 34 20 6
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    図 1 2013年 11 月 19 日時点の空間線量モニタリングから見積もられた空間線量率の地図。福 島第一原子力発電所、三春町、福島市、郡山市とひらた中央病院の場所をそれぞれ示す。 FASTSCAN BABYSCAN 6 8 10 12 14 16 0 20 40 60 80 100 120 Age N 図 2 対象者の年齢分布。グレーのバーは Fastscan、ピンクのバーは Babyscan で測定 された人たちを示している。 FASTSCAN BABYSCAN 6 8 10 12 14 16 100 120 140 160 180 Age Height 図 3 対象者の年齢と身長の分布。身長が 130cm より低い場合は Babyscan で検査さ れた。 7
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    FASTSCAN BABYSCAN 55.3±0.9 Bqêkg 020 40 60 80 100 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 WeightHkgL K40HBqêbodyL 図 4 対象者の体重 (kg) と測定されたカリウム 40(Bq) の関係 FASTSCAN BABYSCAN 0 20 40 60 80 100 120 0 50 100 150 200 Weight HkgL 137 CsMDAHBqêbodyL 図 5 対 象 者 の 体 重 (kg) と MDA(Bq/- body、セシウム 137) の関係 FASTSCAN BABYSCAN 0 20 40 60 80 100 0 2 4 6 8 10 Weight HkgL 137 CsMDAHBqêkgL 図 6 対 象 者 の 体 重 (kg) と MDA(Bq/kg、セシウム 137) の関係 8
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    Ê Ê Ê Ê Ê Ê 0 5 1015 20 25 0 50 100 150 Age Bqêbody 図 7 丸点:Mondal3 ソフトウェアで計算されたセ シウム 137 の体内残留量の平衡値。曲線:Mondal3 のアウトプットに、Gompertz 分布で補間した曲線 をあてはめ、1-σの不確実性バンドの範囲を帯で表 現したもの。 0 5 10 15 0 5 10 15 Age Bqêday 図 8 青 (オレンジ) の曲線:セシウム 137 の検出限界が 300(50)Bq/body の際に見積もられる 1 日摂取量の上 限の年齢依存。グレー (ピンク) の点: 三春町学童の実際の MDA 値を用いて 個々に見積もったセシウム 137 の 1 日 摂取量の上限。 9
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    Well water 21 % Tapwater 55 % Bottled water 23 % Other 2 % 0 20 40 60 80 100 Homeêlocal rice 62 % Buy Fukushima 2 % Buy any rice 20 % Avoid Fukushima rice 13 % Other 3 % 0 20 40 60 80 100 Eat local, untested produce 11 % Homeêlocal produce 16 % Buy Fukushima 2 % Buy any produce 49 % Avoid Fukushima produce 16 % Other 6 % 0 20 40 60 80 100 Water Rice Vegetable 図 9 アンケート結果からみる三春の家庭の飲料水、米、野菜の選択割合 : Well Tap Bottle Rice:AF Rice:any Rice:BF Rice:Home Veg:AF Veg:any Veg:BF Veg:Home Veg:UT Well Tap Bottle Rice:AF Rice:any Rice:BF Rice:Home Veg:AF Veg:any Veg:BF Veg:Home Veg:UT 図 10 表 2 のクロステーブルから、市販の水あるいは井戸水の選択が、米・野菜の選択とどの ように関連しているかのコレスポンデンス分析結果を可視化したもの。詳細については、本文を 参照のこと。省略はそれぞれ、AF - 福島産品を回避、BF - 福島産品を購入、NC - 産 地を気 にかけない、Home - 地元産・自家産品を食べる、UT - 未検査品を食べる。 10