患者との対話と診断
発表のネタにした本
• Every patient tells a story (Dr. Lisa Sanders)
• 日本語に翻訳されてないらしい
• 翻訳されている類書としては「医者は現場で
どう考えるか」など
誤診断の頻度
• 診断ミスは疾患の悪化・患者の死亡を招きうる
• どんな統計でも診断ミスは医療事故の一位かニ位
• 検査技術の発達により、診断ミスは減少(死体
解剖の件数が減っている)
• とはいえ、診断ミスは問題視され続けており、原
因の究明は進んでいる
診断ミスとは何か?
• 患者が考える「診断ミス」≠医者の考える「診断ミス」
• 喉の痛みで来院した患者さんの処置を考える
• 一回目の処置で症状が軽快せず、再度来院した場合は「診断ミ
ス」か?
• 患者の基準では診断ミスとなることが多いが医師はそう判断し
ない
• 医師の目線で考えると、可能性のある全ての疾患の検査を全て
実施するのは時間的にもコスト面でも非現実的。
「再診」と「経過」
• まずは「よくある疾患」からスタート
• 想定している「今後の経過」を患者と共有し、
違う経過になった場合にはもう一度きてもらう
• 再診を繰り返し真の病名に迫っていく
• 時間の経過と症状の推移が診断の重要な手がか
りになる
患者に話させる
• 診療は医師⇨患者の質問ばかりになりがち
• 時間がないので、医師は診断を確定させるのに必要な情報「だけ」
がほしいという心理になる
• 患者に積極的に話してもらった方がよいことがわかっている
• 実は患者に話してもらった方が医師が質問するより早く診断がつ
く
• 患者が症状を話すことで、満足度は上がる
• 医療訴訟になりにくい
身体診察の重要性
• 高度な最先端の技術を駆使した検査の重要性ばかりが重点的に教え
られ、身体診察は顧みられなくなっている
• 人間は自分が知っていることをより重要だと思うので、身体診察を教
えられなかった医者は身体診察を軽んじるようになり、身体診察の技
能はますます伝承されなくなる
• 身体診察をするのは、時間の無駄だと考えられやすいし、何より患者
の体に触るのは気が重いので避けてしまいやすい
• しかし、検査では見つからなかった初見が身体診察で見つかることが
ある。ある研究では1/4のケースで身体診察により診断が変わった。
虫垂炎の診断スコア
• 急性虫垂炎は処置が遅れた場合 孔して死ぬ危険がある(2%)
• CTや超音波登場以前は、確実な診断が難しく間違えて取る方が
死ぬよりマシとの判断で20%程度無症状の虫垂が切除されてい
た
• CTで確実に診断ができるようになった
• CTで確実に判断ができるなら、急性虫垂炎の診断スコア
(MANTRELS)は不要なのか?
MANTRELSの効用
• CTで確定診断できるなら、CTだけでいいよね、という発想も
出てくる
• 虫垂炎を疑う患者にすべてCTを施す場合と、まずMANTRELS
で絞る場合で比較した
• MANTRELS併用:手術までに平均五時間
• CTのみ:手術までに平均十時間
• MANTRELSを併用したほうが軽症で済んだ
MANTREL
• Migration of pain  心窩部痛・臍周囲→右下腹部痛へ
• Anorexia       食思不振
• Nausea        嘔気
• Tenderness in RLQ   右下腹部痛
• Rebound tenderness  反跳痛 2点(他は1点)
• Elevated temperature  発熱
• Leukocytosis       白血球上昇>10000  2点
• Shift of WBC count   白血球の左方移動
• 7点以上は即オペ、4点未満は他の病気を考える、4-6点はCT
病気の診断と感情
• 患者の症状の認知や説明は患者の感情と切り離せない
• e.g. 経済状況・家族歴...
• e.g. 性交渉やコンドーム使用の有無について、最初から率直に語っ
てくれるとは限らない。信頼関係の確立が必要。
• 医者の感情や患者との関係性も医者の診断に影響する。
• 時間がないと、検査を怠りより軽い疾患と診断してしまいやすい。
• 友達に対しては正確な診断を下したり、身体検査をしたりしにくい。
胸のできもの
• そろそろ診療時間が終わるというタイミングで「胸
の間できものがある」と心配そうに相談された
• 「にきびだからだいじょぶ」とよく見もせずに流
してしまった
• ヘルペスにかかった彼氏と旅行に行っていたこと
が一か月後にわかった
クラスメイトの異常
• クラスメイト(女性)が突然興奮状態になって独り言を言い出し
た
• 血圧が異常に高い
• SSRIは服用していたらしいが(SSRIは過剰摂取で異常行動を引き
起こすことがある)最近は精神的に安定しており、過剰摂取服用
する理由はない
• 光をつけるとまぶしがる
• 翌日になり症状がおさまったので帰宅
チョウセンアサガオ中毒
• 庭に生えていたチョウセンアサガオをレタスと間
違えて食べたことが判明
• 典型的な症状なのになぜわからなかったのか?
• 電灯をつけられなかったため、典型的な症状の
一つである「顔の紅斑」を確認できなかった
• クラスメイトなどで客観的に観察できなかった
原因不明の吐き気
• 患者は女子大学生。幾つも病院を回っているが吐き気が収まらない
• 突然激しい吐き気が始まる。数日続き、その間は食事も困難
• 特になにもしなくても一ヶ月ほど吐き気がない時期が続いたりもす
るが、また吐き気が始まる
• 吐き気止めは効果なし
• 喫煙はしていない
• 月経周期とは関係ない
吐き気の原因究明
• インターンがこの症例の治療にあたった
• 難しい症例の原因を突き止めるのは経験豊富な医者か駆け出し
の医者である
• 駆け出しの医者はどんな症状も軽んじないから人が気づかない
ことに気付く
• 問診により、吐き気が起きるのはシャワーの後と判明
• 検索でそっくりの症例報告を発見。マリファナを使用している
人に起きる症状とのこと。
診断はついたけれど
• インターンは喜びいさんで患者に「吐き気はマリファナのせいだっ
たんですよ!マリファナ止めれば収まります!」と説明。
• 患者は「そんなことあるわけない!吐き気のストレスを和らげる
ために薬を飲んでたの!マリファナでリラックスできるって効い
たから!」と怒り狂い、診察室を出ていった。
• いまもその患者は「原因不明の吐き気」を治療するためドクター
ショッピングを続けているのだろう。
• 正確に診断するだけでなく、患者に診断を受け入れてもらうには
どう進めるか?が必要だった
診断名を早く確定させす
ぎる危険
• 診断名はさまざまな主観が混じっているが、一度決めると一人歩きする
• 患者を引き継ぐときは、前任医師の診断を鵜呑みにせず、検査結果を見
直して、必要であれば診断を変えるのが基本。
• 自分で決めた診断名にも縛られる
• 売春婦の関節炎を淋病と診断し、抗菌剤投与中に再発しても「またかかっ
たんだ」と投与続行⇦まずは追加検査が必要
• 結局リウマチ熱でした(注:普通かかるのはこどもで、成人は典型的
でない)
病気は人を差別する
• 患者が医者に「性別・人種・年齢・職業・社会
的地位で差別してほしくない」と思うのは当然
• しかし、病気は人を属性で「差別」する
• 女性は男性より圧倒的に乳がんにかかりやす
い
• 人種によって疾患の罹患率が異なる
「合理的な」先入観
• 正確な診断のため「合理的な」先入観を持って診断することは必要。
• 患者の属性だけで診断を確定したり、肉体的魅力など疾患と関係ないことを
交えてはいけない
• 典型的な冠動脈疾患の症状を訴える患者のビデオを医者が観察し、診断を比
較する実験
• 閉経後は女性のリスクは上昇し男性と同等またはそれ以上になる
• 実験の結果、男性の方が女性より多くの質問、多くの注目をうけ、冠動脈
の疾患であると診断された数もより多かった
• 冠動脈疾患を持つ女性患者は発見されにくく不利であるとわかる
医師の言葉と患者の言葉
• 患者の言葉:個々の患者にあわせ、患者が理解できる説明・質
問の仕方
• 患者の語彙やライフスタイルを考えて工夫する
• 医師の言葉:専門用語で診断に必要なポイントを抑えコンパク
トに話す
• 医者同士でディスカッションしたり、 間時間で困った症例を
説明するには医師の言葉が必要
• 両方の言葉を身につけ、場面にあわせて使い分ける必要がある
優秀な医者と探偵の共通
点
• 名探偵ホームズを作り出したコナン・ドイルは医者
• ホームズのモデルもまた医者である(作者の恩師の
外科医
• 犯人と疾患の推理過程は似ている
• 卓越した観察眼と推理力が優れた医者と探偵の強み
見ていても気づかない
• 人間は視界に入った視覚情報の大部分を意識する前に
はな捨てている(脳のリソースの節約のため)
• 人がどれだけものを見ていないか確かめる実験
• 被験者に複数人でボールをパスし合う様子を撮影した
動画を見てもらい、パスの数を数えてもらう
• →ほぼ半分の被験者がゴリラの着ぐるみを着た人に気
がつかない
診断のコツを授業で学ぶ
• 学校では事実を詰め込むが思考方法は教えない
• 数年かけて臨床の場で身につけるのが一般的である
「診断のコツ」を授業で教える試み
• 視覚的な情報のみで診断がつくケースの写真を見せる
• 「診断があたったかどうか」ではなく、「写真から
読み取った症状の記述」で成績を評価
人間の限界
• 医療は日々進化するが、人間の時間は有限。
熱心に最新情報を追いかけても、最新の研究
結果は網羅できない。
• 一人で把握できる分野は年々狭くなっていく
• → 膨大な記憶容量を備えるコンピュータなら
人間を超えられる?
コンピュータは医者の代
わりになるか?
• コンピュータが得意なのは「入力された症状
や検査結果から可能性の高い病名を導き出す
こと」
• 人間は様々な角度から症状を調べ、検査を実
施できる。この点において、コンピュータは
人間に敵わない。

患者との対話と診断

Editor's Notes