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卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
の病態・診断・治療
月経周期
from Wikipedia by Shinme
月経・妊娠とホルモン
• FSH(卵胞刺激ホルモ
ン・Follicle
stimulating hormone)
は卵胞を育てる
• LHとFSHのサージは
排卵を起こす
http://www.babycare-net.com/mama.html
• 妊娠後は絨毛からhCG
(LH・FSHに類似)が産生
される
女性ホルモンとフィードバック
エスト
ロゲン インヒビン
LH FSH
GnRH
卵胞 黄体
下垂体
前葉
視床下部
卵巣
視床下部
エスト
ロゲン
プロゲス
テロン
GnRH
下垂体
前葉
発育
促進
FSH LH
ネガティブ
フィード
バック
ネガティブ
フィード
バック
ポジティブ
フィード
バック
卵胞期
黄体期
排卵
エストロゲン
レベルが低い
ときはネガティ
ブフィードバッ
ク、高いとき
はポジティブ
フィードバッ
クが起きる
卵子数とホルモン
• 自然なホルモン分泌状態
• 排卵期以外はGnRHはエストロゲンのネガティブフィードバック
を受けている
• 最もエストロゲン産生能が高い卵子が生き残り、他の卵胞はLH
レベルが十分でないため
• 不妊治療による人工的なホルモン環境
• 複数の卵子が生育し、多胎妊娠やOHSS(卵巣刺激過剰症候群)
の可能性が増大
OHSSの病態
• OHSSとは?
ゴナトトロピン療法(排卵誘発法)で
多数の卵胞が発育→卵巣の腫大・卵巣茎捻転
腫大した卵巣が産生する血管作動因子により
血管透過性亢進→低蛋白症→胸水・腹水→腹部膨満感•呼吸困難
→血漿成分減少→血栓•乏尿•腎不全

→電解質異常(低Na、高K)
Gray's Anatomy
成熟した卵胞
血管壁
血液
体液
腎臓は血流低下に弱い!
Na 水
蛋白
K
OHSSの病態
腫大した卵巣が血管作動因子を分泌
• レニンーアンギオテンシン系(卵胞液)
• プロレニン、血漿レニン活性、アンギオテンシン様免疫活性、アンギオテンシン変換酵素
• 血管新生を介し卵胞の発育、排卵に関与
• OHSS時
• 自ら小動脈の血管収縮や血管透過性亢進を誘発
• プロスタグランディンやアルドステロン合成促進→さらに血管新生と血管透過性亢進
• インターロイキン(卵子や 顆粒膜細胞)
• IL―1:血管透過性の亢進や急性反応、IL―6と IL―8:血管新生と血管透過性亢進
• VEGF(卵胞液)
• OHSS における血管透過性亢進因子の主要な因子、妊娠で増悪(hCGの分泌)
OHSSのリスク因子と予防
OHSSは医原病&命に関わるため、発症させないことが大切!
• ホルモン投与方法の工夫
• GnRH パルス療法:自然のゴナトトロピン分泌に近い→単一卵胞の発育
• Coasting法:卵胞径とE2の値によりゴナトトロピン量を調節
• 黄体期補充療法:黄体期はゴナトトロピンは投与せず黄体ホルモンのみ
• 多数の卵胞が発育→選択的卵胞減数術・hCG投与中止を考慮
• 胚凍結:OHSSが起こりやすい症例で卵巣刺激を回避
• リスク因子:35歳以下・PCO(多嚢胞性卵巣症候群)・ネックレスサイン・E2
(エストラジオール:高活性エストロゲン)・痩せ型
OHSSの症状・所見
ゴナトトロピン療法を受ける患者さんにはOHSSの可能性について了
解をとっておくこと!(OHSSは命に関わるため、早期発見が重要)
• 自覚症状:腹部膨満感・急激な体重増加・尿量減少・息苦しさ・腹
痛や腰痛
• 血圧・脈拍・体重・腹囲・尿量測定
• 血液一般・生化学・尿検査(比重・電解質)
• 超音波検査:卵巣径の測定・腹水のチェック
OHSSの画像診断
経膣超音波像で多数の黄体嚢胞&卵巣が腫大
Creative Commons Credit (Je Hunk Lee)
病状の把握
• 血清エストラジオール・プロゲステロン測定
• 胸部 X 線:胸水把握
• 血液線溶凝固系測定
• 動脈血ガス分析:胸水貯留,呼吸困難の場合
• 中心静脈圧測定:高度の循環血液不足による低血圧
OHSSの治療
• 外来で管理する場合:水分・塩分の制限、尿量の計測(減ると危険)
• 血液濃縮改善:細胞外液輸液・胸水や腹水の濾過濃縮後再灌流法
• 血栓予防:ヘパリン投与
• 血液浸透圧改善:アルブミン投与
• 乏尿:利尿剤(浸透圧利尿薬が第一選択、ループ系利尿薬は電解質失調を起こす可能
性があるため慎重に)
• 腎血流改善:低容量ドパミン療法
• 胸水や腹水の除去:腹水・胸水 刺術
• 凝固能亢進や血栓症に注意!!!
番外編
• 月経不順は放置されがち(女性は忙しい!当面困らないし)
• 不妊や子宮体がん、老化、動脈硬化を招くことはあまり知られていない
• 患者さんや友達に重要性を伝えよう
• 受診を促すだけでは受診・治療継続してもらいにくい
• 受診基準
• 20歳以上で60日以上低温期
• 3ヶ月以上月経がない

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