”ポスト資本主義経済”試論

資本主義の未来
作成者
京都大学経済学部四回生高浜拓也
神戸大学経済学部二回生門田正吾

目次
1章.資本主義とは何なのだろうか？
2章.資本主義はどんな問題を引き起こしてるのか？
(1)世界的な経済成長の限界
(2)生態系の危機
(3)労働者の不要化
3章.今、生まれようとしてる経済とは、何か？
(1)歴史を振り返って経済を見つめ直す
(2)経済学で注目される信頼・共感・利他性
(3)シェアリングエコノミーの本当の意義
(4)経済におけるその他の特筆すべき動向(オープンソース、ミレニアル世
代)
(5)共有主義経済と資本主義経済との関係
(6)共有主義経済の可能性
(7)結局、私たちはどうすればいいのか？

資本主義を
イメージで捉えよう

1
23
お金を循環させて、
社会的余剰を生み出す
リターンGET！利益出た！
カフェができた！
(娯楽が生まれた)
カフェ作りたい
けど、お金ないんだ
よな…
事業の成功=未来の信頼のもと
リターン
資本
事業家
投資家
顧客

資本主義の定義
貨幣(※)や市場、私有財産制という制度的前提の下で、
「貨幣の増殖を条件づけられた『資本』の力によって、
リスクを伴う事業を通して人々の欲望を満たし、未来に
より多くの富をもたらす経済システム」
※貨幣について、後に補足説明あり。
3章の(5)共有主義経済と資本主義経済の関係にて。

どうして、ここ200年まで資本主義が広がらなかったのか？(※)
1.古代から中世まで、世界のほとんどの地域での常識は、「
社会の富は有限だから、奪い合わないように倹約すること」
である。あらゆる宗教はそれを美徳とした。
2.社会は常に繰り返しであって、未来は今より良くなるとい
う「進歩」の概念なんてなかった。ここ2,300年を除いた歴
史の大半において、人類は飢餓や貧困に苦しんでいたのだ。
(私有財産などがキーワード)
※利子という観点から、資本主義システム自体は、
中世のヨーロッパにあった(水野和夫法政大学)

どうして、ここ200年で資本主義が広がったのか？
1.アダム・スミスは固定概念を覆し、「私利を追求すること
は社会の富を拡大してより豊かにするのだ」という理論を
1776年に打ち立てた。
2.産業革命が勃興する中で、多額の資本を集めなければ実
行できない事業が急速に増加し、必要な資本を集めるために
最も適していたのが、株式会社という事業形態だった。

経済成長はここ200年の話

資本主義は、
人々の欲望を満たすありとあらゆる財を生産し、
社会の富を急上昇させた。

「安心がほしい」
「人間らしい働き方がしたい」
「人とのつながりがほしい」
といった欲望は、なぜ資本主義をもってしても
満たすことができないのだろう?

満たせない理由(=資本主義の性質)とは？
1.貨幣に還元できる欲望のみが優先的に追求される。従っ
て、貨幣に還元できない欲望は後回しになる(格差の助長)
2.事業のさらなる発展のために、人々の欲望を掻き立て続
ける。従って人々に充足をもたらすことはタブーである。
(断続的な不安)
3.人々を貨幣を介した取引関係へと導く。従って、共同体
は分解されて人々を個人へと切り離す。(個人化、孤独)

第1章まとめ
資本主義に生きる人々は、「自由」を獲得し、物質的な「
繁栄」を享受し、未来への絶えざる「進歩」を実現できた
。
しかしその代償として、得られないものが何かということ
にも、人々はこの数百年をかけて気づいてきた。
それは、現状に満足する「充足」、人々と無条件に助け合
えるような「つながり」、そして最低限の「平等」である
。

どのようにして、資本主義の弊害を補填してきたのか
？
1.19世紀、宰相ビスマルクは近代で初めて労働者の保護
政策や社会保障政策を積極的に開始し、福祉国家として
資本主義の弊害を補う道を開いた。
2.1970年代の二つの石油危機以来の世界的な不況の後に
は、高度な金融理論の開発によって金融経済のグローバ
ル化を果たし、金融資本主義への道を開いた。

現在、致命的な問題に直面してる根拠
主張の流れ
世界全体のGDPが減少傾向にある(根拠1)
→それだけで判断するのは早い(批判)
→世界全体で人口減少＝消費人口減少で、GDPも減少(根拠2)
→1人あたりの消費量(額)を上げれば大丈夫だ！(批判)
→これ以上消費量上げても、幸福度上がらない(根拠3)
→幸福にならないのに、消費を増やす必要ある？
※根拠のグラフは、小論文をご覧ください

確認したい前提
資本主義経済では基本的に経済成長が前提となる。
なぜなら経済全体で保有している資本の総額は、1年後
には現在の総額を上回っていなければ、資本家が投資を
行う意味がないからだ。

グローバ
リゼーシ
ョン
少子
高齢化
今後、起こり得る状況
消費(成長)フロンティアがなくなる
(現在の中国、インド)
πの奪い合い
(=ゼロサムゲーム)

これから、何を考えていくべきか？
世界経済が、いかにして経済成長を前提としなくともよい経
済システムに移行できるか。
そしてその経済システム下においては、いったい何が、経済
成長に代わって人々の意欲を掻き立てるシンボルになるのか
。
そう、今最も必要なのは、既存の経済システムの中での(プ
ロダクトなどの)イノベーションではなく、その経済システ
ム自体を変容させるようなイノベーションなのである。

パトロゴから引用
2枚のスライドはワークスアプリケーションズ社と大阪大学が開発し
た「イノベーションのためのパトス・ロゴス・エトス」をもとにし
て作ったものです。
世の中のゼロサムゲームを意識してみてください。そして、自分た
ちがどのような仕組みづくりをするべきなのか考えてみてください
。
神戸大学門田正吾 2018/5/3

“パトスロゴス大阪2期スライド引用”

– COP15
“このままいくと、(今世紀の終わりまでに)世界の温度
は今より4度上昇するだろう。そうなれば、激烈な津波
が襲い、世界の食糧備蓄は減少し、生態系や生物多様
性は損なわれ、海面上昇によって生命が脅かされる ”

邪魔する裏取引き
2013年2月、イギリスの『ガーディアン』紙は、2002年から
2010年の間に、アメリカの匿名億万長者のネットワークが
、「気候変動を裏付ける科学に疑問を投げかける団体」に、
ほぼ1億2千万ドルの寄付を行っていたというスクープを報
道した。
「この資金の流れがバラク・オバマ大統領の環境政策に対す
る保守派のバックラッシュを引き起こした結果、連邦議会が
気候変動対策を打ち出す機会はことごとく潰された」のだ。

おまけ … 2016年、この動画を見ました。アメリカの環境専門家が、
企業から多額のお金をもらい、地球温暖化はないと言うように
指示されてる、と。そして、実際に言っている専門家がいる。

環境保護と自由貿易
自由貿易を至上の価値とする資本主義的な経済では、国内だけでうまく循
環させる経済は、他国の企業からすれば望まれないのだ。
自由貿易が最重要になっている限り、環境保護は、それを阻害しない程度の
行動しかとれなくなってしまう。
例：中国も2012年、欧州連合域内のギリシャ・イタリアにおける再生可能
エネルギー計画がWTO違反の恐れありとして、協議を要請して報復した。

どれくらい、削減する必要があるのか？
気温上昇を2度未満に抑える国際的な目標を達成するための削減
すべき温室効果ガスを計算した。
排出の削減において富裕国と貧困国との間の公正原理を尊重す
るのであれば、先進国は年8~10%の割合で温室効果ガスの排出
を削減する必要があると。
しかし実際のところ、人類が石炭を燃料にし始めて以来、人類
が成功したのは、世界的にも稀な景気後退時における年1%程度
の排出減に過ぎないのだ。

テクノロジによる解決は？
2000年代以前から、どれだけ一部の国々が「緑の資本主義(環境面で持
続可能な範囲での経済成長)」などを唱えて様々な技術開発を行ってい
ようと、指標が示すのは、1990年代に年1%程度であった地球の温室効
果ガスの排出量は、 2000年から上昇し始め、2010年には史上最高の
5.9%を記録したのだ。

労働者の悩み
1.資本主義勃興以来の数百年間、世界中の労働者達が最
も悩まされてきた問題は,「搾取」だった。
2.加速的な生産性の向上により、今後の100年間、世界
の労働者達が最も悩まされる問題は,「不要」になるだ
ろう。

テクノロジーが仕事を代替しても、新たな仕事が生まれるはず
！
この使い古された反論には、2つの重要な論点が抜け落ちて
いる。
1.雇用の量：新しく作られる仕事の数は、仕事を奪われた
労働者たちの数全てを賄うほど十分なのか?
2.雇用の質：新しく作られる仕事は、今後のテクノロジー
の発展によって再び代替されないものなのか？

– 歴史学者 Yuval Noah Harari (Harari 2015)
“21世紀の経済において最重要な問題は、この余分な
人々をどう扱うべきか、になるだろう ”

資本主義の問題を時系列で表すと

所有権
私たちが「これは自分の食べ物だと言って鍵をかける(=
所有権を主張する)」のは、地球上の全生物の中で、私
たち現代の人間の文化だけだ。
労働による対価の資産の私有は、当たり前の普遍的事
実というわけではない。
※所有権について「豊かさの誕生」という本がオススメです

利己的と利他的
アダムスミスは、私益の追求が、価格メカニズムとい
う「見えざる手」によって公益につながることを説い
た。
しかし、利己的な追求が社会に有益となるのは、人間
の強欲や攻撃性を適切に制御する相互の「共感」を考
慮に入れた場合に限ることを喚起している。

現在の経済学
社会全体に公益をもたらしてくれた資本主義体制だが
、
数学的なモデル化がしやすいという理由だけで、人間
とは「利己的な存在であり、合理的に自己利益を追求
する」存在として定義された。

愛情ホルモン：オキシトシン
オキシトシンという神経伝達物質が他者への共感・信頼・
協力を促され、その分泌によって、快感を生じさせるドー
パミンとセロトニンの分泌が誘発され、他者への協力が自
分の快感につながる「善循環」が強化されることを証明さ
れた。
外部の制度・文化的環境によって利己的、利他的な動機の
バランスが変化するといった傾向はある。

現代社会のインセンティブ
現代社会では過剰に競争が促進されることによって個
人主義的で利己主義な動機が過剰に強化されている。
人間の他者を信頼し、協力し合う環境を整備すること
によって利他的動機を促進し、共同体を調和させる方
向へとシフトすべき。

間違えた「熱狂と無関心」
間違った熱狂：「これは、資本主義経済で停滞した成
長を再度加速できるほどの、新たな莫大なマーケット
である！」
間違った無関心：「シェアリングエコノミーは、新た
な富を生み出してはいないという点で、進歩をもたら
さない」

本当の革新性①
広義の定義においては、個々人が私有していた財が共
有化されることによって、人間の意識が「個人」から
「共同体の一員」へとシフトしていること、
そして、あらゆる資産が、将来の増殖を目的とした資
本としてではなく、「分かち合う」という行為自体が
喜びを生む現在充足的な捉えられ方へのシフトが起き
ているということだ。

本当の革新性②
1.貨幣の重要性が下がること
a.借りることによって、経済費用が下がるから。
b.貨幣を媒体にせず、直接ニーズをマッチングさせるから。
これからは、信用も評価される。
2.物を消費するのではなく、共有ないし循環させることによ
り、持続可能な成長になり得ること

貨幣に基づいた個人主義的な経済がその重要性を減らし、
代わりに、共同体での共助、信頼に基づく経済への特徴的な変化は、
シェアリングエコノミー以外の様々な経済の側面にも表れている。

オープンソース
誰にも利益が行かない仕組みとなっている。それは無
料で作られているし、無料で売られている、人類に共
有され財産である。
例：アンドロイドOS、wikipedia

–Johnny Appleseed
“台頭する協働型コモンズにおけるイノベーションと創造性の大衆化から
は、金銭的な見返りを得たいとう願いよりも、人類の社会的福祉を増進
したいという欲求に基づいた、新しい種類のインセンティブが生まれつ
つある。そして、それが功を為している。”

ミレニアル世代
それはお金が目的ではなく、他人を喜ばせることが、自
分の喜びでもある20代が増えている(利己性と利他性の
一体化)。
この傾向を受け、優秀な人材を採用したい多くの企業は
、自社の社会的地位や高い福利厚生ではなく、自社の社
会にとっての存在意義をアピールすることが目立ってき
た。

ここで、改めて
資本主義システムを捉え直
す

資本主義の定義
貨幣(※)や市場、私有財産制という制度的前提の下で、
「貨幣の増殖を条件づけられた『資本』の力によって、
リスクを伴う事業を通して人々の欲望を満たし、未来に
より多くの富をもたらす経済システム」
※貨幣について、後に補足説明あり。
3章の(5)共有主義経済と資本主義経済の関係にて。
説明します

シェアリングエコノミによる限界費用の低
減
限界費用ゼロ社会(3Dプリンタ)
労働者の経済的動機の重要性の低下など
資本主義経済の影響力を弱める
これだけでは、資本主義の終わりではない。
なぜなら、資本の媒体が貨幣から、信用やデータに分散しつつあるだけだから。
貨幣！信用！データ！貨幣！
金持ちになるぞ！フォロワー増やせ！
もっと、情報を！
経済格差格差の多元化

資本主義の本質的な定義は、
従来の貨幣を前提とした定義から、
より純粋化されたものとして認識されねばならないだろう
。

貨幣や、経済格差は、資本主義の本質的な性質ではない
資本主義とは、何らかの価値の源泉として所有されている「資産が、より多くの価
値を生み出す『資源』として認識されている」様式のことなのだ。
ここで重要なのは、「貨幣の増殖」が従来の資本主義の重要な性質であったのは、
資本主義の「媒体」、言い換えれば「表出形態」が貨幣であったからに過ぎず、そ
の媒体に応じて現れる「現象」が、例えば貨幣的な経済格差だったということであ
る。
すなわち、貨幣や、経済格差は、資本主義の本質的な性質ではない。資本主義の本
質的な規定を為すのは、制度的な「前提」としての私有制、そして、資産の「認知
様式」としての資源化(未来への有用性の意識)、である。

前のスライドを図解化

もう少し、説明を
どれだけ、媒体が増えたところで、人が「ある価値」を投資的な認
知(未来に現在以上の価値を生み出すことが目的)である限り、
個人、あるいは特定の集団(企業や国家など)が私有した資産を増長す
る傾向に働くだろう(利己的競争)。
メタップスCEOの佐藤航陽氏は、資本の媒体が多様化したことで、
これからの経済は資本主義ではなく価値主義だと述べているが資本
主義の中にあることを見落としていると言えるだろう。

経済システムを資産の保有形態とその用途で分類
※点線で区切った
よりも右上の領域
は、利他的でその
経済全体が活性化
される

可能性①
・経済成長の限界を解決
貨幣を介在させずとも、必要とされる財が必要とする人へと届く仕組み
を作りつつあることだ。
個人主義的な自己責任へと還元される「自助」でもなく、政府が社会保
障などの責任を負う「公助」でもなく、コミュニティが自然に助け合う
「共助」の領域を増やすことによって、政府や個人の負担なく、互いに
財がうまく再配分されるという点で、政策的にも実現が容易と言える。
その点で、貨幣的な経済成長を前提とせずとも、社会の安寧と発展を促
す可能性を秘めているのではないだろうか。

可能性②
・生態系の危機を解決
分かち合うという行為は、基本的に新たな物を生産・消費する行為
を生まないため、資源の消費を極力抑えられるといえる。
また、IoTやブロックチェーンなどの自律分散的なネットワークが世
界全体に張り巡らされ、それに常時繋がって人々が生きることは、
自分が自分より大きく複雑な生命体の一部として生きている感覚を
復活させ、
その時に、他なるものへの共感性が十分に養われていれば、他者や
自然も、自身と分かちがたい重要な一部として尊重する意識は強ま
るのではないかということだ。

可能性③
・人間の不要化を解決
シェアリングエコノミによって、消費(需要)が減り、生産
が減れば、労働も不要になってくる。
人が資本主義的な過酷な競争から適度に解放され、より
現在充足的な行為に意識と時間を割けるようなる。
現在の資源を過度に消費しているのは、単に労働者が働
き過ぎなのだ。

可能性③
・人間の不要化を解決
現在の資本主義社会は、希少性を前提として、「有用性(や
必要性)」が過剰に重要視されており、人間の経済行動が、
「現在という時を未来の利益のためだけに用いる」、目的
に隷従した「労働」へと成り下がっている。
打算的動機に基づいて、今を犠牲にする「労働」ではなく
、今ある自分の感情のままに行為し、誰かと喜びを分かち
合い、それを味わう、真に現在に充足的な「表現」へと、
人間は移行できる可能性を秘めている。

資本主義以前の歴史から見つけ出してきたのは、
人が「個人」としてではなく、
「共同体の一部」として生きる経済の姿であり、
人が共感によって分かち合い、助け合う経済だった。

資本主義は経済を支配するのではなく、
経済の半分を担い、もう半分を、
資本主義と相補的な共有主義経済が担うのが
一番自然な形ではないだろうか。
そしてそれは今実際にそうなりつつあるのではないだろうか
。

システム全体の軌道修正
1.自分が共同体の一部として、生きてる感覚を取り戻す
- テクノロジによる、集団の規模の調整
2.個人に閉じない経済の仕組みを創る
- シェアリングエコノミによる、人間関係の構築
3.企業は、営利非営利で区別されるのではなく、社会と社員によ
っての存在意義を追求するものとなる
- 社会的な存在意義の追求で、同業他社との競争に終始することか
ら脱却(競争の否定ではない)

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