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QGISを用いた文系大学におけるGIS教育の実践
- 1. 地 域 を 見 つ め 、 地 域 を 活 か す。 愛 知 大 学 地 域 政 策 学 部 QGISを用いた 文系大学におけるGIS教育の実践 駒木 伸比古・蒋 湧・湯川 治敏・飯塚 隆藤 ・村山 徹・小川 勇樹・戸田 敏行 nkomaki@aichi-u.ac.jp （駒木・愛知大学地域政策学部）
- 2. 本日の発表構成 愛知大学地域政策学部の紹介 地域政策学部におけるGIS教 育 地域政策学部のGISカリキュラム （科目） GISカリキュラムの工夫 卒業研究におけるGISの利用（一 部） これまでのGIS教育実践における 課題 QGISへの注目、書籍の企画・発 行 本書のコンセプト 作成にあたっての工夫など 章構成の検討（当時の資料より） 目次一覧 書籍内容 本書の構造 おわりに―これからの文系大学 におけるGIS教育 2/19地域を見つめ、地域を活かす。 愛知大学地域政策学部
- 3. 愛知大学地域政策学部の紹介 「地域を見つめ、地域を活かす」を理念とし、経済 学・法学をベースとして2011年4月に設置 大きく変化する地域社会を見据え “課題発見”“課 題解決”の力である地域貢献力を備えた人材育成 に取組む 「公共政策」、「地域産業」、「まちづくり」、「地域文 化」、「健康・スポーツ」、「食農環境」の6コースを 設定 「少人数教育」と「アクティブ・ラーニング」を通じて 、フィールドワークや行政への政策提案など、地域 との関わりを重視した教育を実施 地域分析に欠かせない「GIS」を教育の柱に据える 学生地域貢献事業など地域連携活動も充実し、学 生一人ひとりの目標や関心に応じた主体性のある 学びで、行政をはじめ幅広い業界へと卒業生を送 出している 3/19地域を見つめ、地域を活かす。 愛知大学地域政策学部
- 4. 地域政策学部におけるGIS教育 問題意識を持ちながら体系的に学 べるカリキュラムのコアにGIS教育 を位置づけており、地域の課題を発 見・解決する力を養うためのカリキ ュラムを構築 日本地理学会「GIS学術士」の科目認 定校に GIS専用のPC教室「GIS実験室」を 設置し、集中してGISを学ぶとともに 操作できる環境を整備 PCだけでなく、タブレットやGPSロガー 、スキャナ、プリンタ、デジタルカメラ、 プロジェクタなども所有 4/19地域を見つめ、地域を活かす。 愛知大学地域政策学部
- 5. 地域政策学部のGISカリキュラム（科目） 5/19地域を見つめ、地域を活かす。 愛知大学地域政策学部 科目区分 １年生 ２年生 ３年生 ４年生 A GISに関する 情報処理科目 （共通教育科目） B GISの基本機能と空間 データに関する講義 C GISによる地図作成 ・空間分析の実習 D GISを利用した 卒業研究 ・マルチメディア表現 ・社会データ分析入門 ・プログラミング ・GIS概論 ・GIS演習I ・GIS演習II ・地域政策とGIS活用 ・卒業研究 (1) (2) 段階的な学びを実現するため、 B→C1→C2→Dという順番に先 修制をとる
- 6. GISカリキュラムの工夫点 いわゆる「文系学生」に対してGISをどの ように教えるか？ GISに限らず「地理情報・空間情報」に関す る講義を設定（たとえ実習を受講しなくても 、知識として「地理空間情報」「地理リテラ シー」を学べるように） 実習科目を2段階に 操作を覚える基礎実習と、分析などを行う 応用実習を設定 さらに希望者には卒業研究でも利用 学外との連携 市内の高校（豊橋商業高校）とGPSを利用 した高大連携事業を毎年実施、高校生と 大学生の交流を図る 6/19地域を見つめ、地域を活かす。 愛知大学地域政策学部
- 7. 卒業研究におけるGISの利用（一例） 商店街活性化の取り組みにおける地ビールの位置付 け―今池ビールを事例に― 地域文化としての昆虫食と観光資源としての昆虫食と の比較研究 一宮市におけるモーニングサービスの現状 中津川市におけるリニア開通による移住・定住の促進 の可能性 一宮市に伝わる民話に関する地理学的研究 GISを用いた国道23号名豊道路における周辺環境分 析 東海地方における道の駅の分類と立地分析 地域との関わりからみたご当地ヒーローの地域的特性 農産物直売所における農家の参加状況―ふれあいド ーム岡崎を事例として― 豊田スタジアム立地による周辺地域の影響 プロスポーツと地域―四国アイランドリーグplusを事例 に― 東三河地域におけるパチンコ屋の立地分析 豊橋市におけるマンションの立地動向 テーマパーク閉園後の跡地利用に関する研究 成長する地方銀行と顧客サービスの検討―大垣共立 銀行を事例として GISを用いた東三河における信用金庫の立地に関す る研究 GISを用いた豊橋妖怪に関する地理学的研究 浜松市における太陽光パネル設置環境について―自 然環境と防災の観点から― 湖西市における津波対策及び避難所について ―メン タルマップを活用して― 愛知県春日井市におけるAEDの空間配置とシミュレ― ション分析―コンビニエンスストアの役割に着目して― 7/19地域を見つめ、地域を活かす。 愛知大学地域政策学部
- 8. 7年間のGIS教育実践で出現した課題とその対策 当初は有償のGISソフトウェアを利用 企業による導入に関するサポートが充実していた 充実したユーザコミュニティが存在していた 教育コンテンツが豊富にあった（企業によるものだけでなく、研究者によるも のや、書籍、Webなども充実） ただし、学生目線に立った教育という意味では… 自宅やノートPCでの作業に制限がある 卒業後に継続して利用することが難しい（費用などの観点から） 既刊のGISに関する教科書を利用 多くの事例が掲載、操作方法も丁寧に解説され、改訂版なども発行しており すぐに利用することができた ただし、地域政策学部の教育理念を鑑みると… 教育理念「東海地方を学びの場に」に適用させるためには工夫が必要だった 8/19地域を見つめ、地域を活かす。 愛知大学地域政策学部
- 9. QGISへの注目、書籍の企画・発行 QGISの利用を検討 オープンソースソフトウェア（フリーウェア）であ り、GISに関する基本的な機能を有している PostGISに接続が可能であり、「データベース」 としてのGIS利用に関しても学ぶことができる 学生教育のソフトとしてQGISの利用を決定 、書籍発行へ 2018年度は段階的・部分的にQGISを利用、 2019年度から本格的に実習に関してはQGIS を利用 2018年度に、本学部におけるGIS教育の教科 書として書籍を企画、発行へ 9/19地域を見つめ、地域を活かす。 愛知大学地域政策学部
- 10. 本書のコンセプト 趣旨： 地域研究の事例を通して、QGISとPostGISを活用した地域データ分析のプ ロセスを解説 すべての事例は、データ収集・処理から、空間分析と可視化まで、分析プロ セスを紹介 対象読者： GISの学習に関心のある一般市民、行政職員、学生、研究者など 特徴： 地域のデータ（オープンデータ・独自データ）を利用（東三河地域を中心に） 地域研究のシナリオに沿って、データ解析の手法とプロセス解説（逆引き表 を利用） 演習データを用意（出版社ホームページからダウンロード可能） http://www.kokon.co.jp/book/b439553.html 10/19地域を見つめ、地域を活かす。 愛知大学地域政策学部
- 11. 作成にあたっての工夫など 「地域分析」を前面に出す 地域政策学部の立地する豊橋市、東三河地域を 対象として、様々なテーマから地域分析を行うよ うに設計、学生がより身近に感じられるように PostGISへの注目 類似の書籍については、QGISによる空間解析な どが主に扱われていたが、データベースや工学 を専門・守備範囲とする本学教員の強みを活か す 「文系学生」への配慮 ICTに対して不慣れな学生に対しての配慮を行う （例えば、ディレクトリ構造に関する「コラム」など も入れておく） 11/19地域を見つめ、地域を活かす。 愛知大学地域政策学部
- 12. 章構成の検討（当初の資料より） 執筆者それぞれの関心・専門分野を考慮しながら、「分析手法」、「主なキーワード」、「基 礎概念とデータ処理」、「空間解析手法」、「可視化・地図作成」の4項目についてそれぞ れマトリックスにより整理、すりあわせを行った 12/19地域を見つめ、地域を活かす。 愛知大学地域政策学部 主なキーワード 基礎概念とデータ処理 空間解析手法 可視化・地図作成 担当 注 1 はじめに 目標：基礎概念、用語、研究環境とデータ 基礎概念・定義 1-1 地理空間情報、空間データモデル、1-2 参 照系、1-3 GISデータとQGIS、1-4プラグイン の仕組み 蒋 2 地域統計データの可視化 目標：統計GIS作成のプロセスを紹介 オープンデータ、主題図 2-1 行政オープンデータの入手と初期処理 2-3 属性結合（CSVファイルとレイヤ属性テー ブルの結合） 2-2 レイヤ管理、スタイル、ラベル、属性テー ブル、2-4 プリントレイアウト 湯川 3 地域商業 目標：①住所からポイントデータ作成、②商圏 空域の計算、③商圏における人口密度の分析 空間データ作成、空間解析の基本（商圏分析、 商圏と人口のオーバーレイ分析） 3-1 住所データ（CSV）からポイントデータを 作成 3-2 ポロノイ図の作成, 3-3 空間結合と集計、3- 4 バッファ、3-5 カーネル密度 3-6 主題図作成（2-2 と2-4 を参照） 駒木 4 地域歴史と文化 目標：① GPSと空間データ作成、②画像ファ イル（古地図）のGIS表現、③ 歴史記載と文献 の空間関連付け（オーバーレイ分析） 多様な空間データの収集、時空間的な歴史デー タと文化遺産の表現 4-1 GPSデータ処理、4-2 画像データ処理（ジ オリファレンス）、4-3 ２D＋M（時間軸） データモデル 4-4 オーバーレイ分析（3-3参照） 4-5 主題図作成（2-2 と2-4 を参照） 飯塚 5 土地利用と都心居住 目標：①空間データベースの必要性、②空間 データベース機能（PostGIS）を用いた空間解 析方法 空間データベース構築、SQLでデータとの対 話、事例：人口、店舗と土地利用の統合分析 5-1 PostgreSQLの基礎とGDB構築、5-2 GDB へのデータインプット、5-3 空間ビューの作 成、5-4 DBマネージャーの使用 5-5 PostGISとSQLスクリプトの作成 5-6 主題図作成（2-2 と2-4 を参照） 蒋 6 公共交通システム 目標：空間ネットワーク分析（PostGISの拡張 機能） pgTopology、pgRoutingの機能を用いた空間 ネットワークの解析、事例：豊橋交通ネット ワーク・徒歩圏分析 6-1 道路モデル作成（5-1〜5-4参照） 6−2と6−3 pgRoutingの利用、SQLスクリプ ト作成（5-6参照） 5-6 主題図作成（2-2 と2-4 を参照） 蒋 7 地域防災 目標：PostGISを活用した総合分析 自然、災害リスクと地域特性の総合分析 7-1 浸水エリアデータ処理（2-1参照）、ラス タデータ処理（標高） 7-2〜7−3 SQLによる空間結合、集計、バッ ファ、インタセクト 5-6 主題図作成（2-2 と2-4 を参照）、ラスタ レイヤの表現 村山・蒋 8 越境地域連携の空間解析 目標：行政団体間の越境連携事業の空間ネット ワーク分析 地方創生の広域連携、交付金、事業内容と連携 規模の空間解析 8-1 典型的なソーシャルネットワークとして、 データ構造を設計し、データベースを構築（5- 1〜5-4参照） 8-2 時系列・事業立地と事業タイプの繋がり で、交付金事業の空間波及効果を可視化、8-3 交付金額と連携団体数に着目し、連携規模の空 間解析を行う 8-4 主題図作成（2-2 と2-4 を参照） ⼩川・⼾⽥・蒋 付録 QGISとPostGISのインストール PostgreSQL9.6、 PostGIS 2.3、 QGIS 3.01 蒋 分析手法の構成 章立て 第1部 GIS演習Ⅰ相当・QGIS 機能中心 第2部 GIS演習Ⅱ相当・ PostGIS解析中心 ※ 当初案のため、最終版とは章構成・担当などが異なります
- 13. 目次一覧 第1部―入門編 第1章：GISの基本概念 第2章：基盤地図情報の可視化 第3章：地域社会情報の可視化 第4章：地域の歴史と文化財に関 する分析 第5章：地域における商業の分析 第6章：観光振興の空間的な定量 評価 第2部―応用編 第7章：都心居住と土地利用の評 価 第8章：歩いて暮らせるまちの検 証 第9章：安全安心まちづくりの検証 第10章：越境地域連携事業の空 間ネットワーク分析 付録 付録1：QGISのインストール 付録2：PostgreSQLデータベース のインストール 付録3：SQL言語の概要 13/19地域を見つめ、地域を活かす。 愛知大学地域政策学部
- 14. 書籍内容（第1章～第3章） 第1章「GISの基本理念」 GISの理論や概念、地理空間情報、データ モデル、測地系と座標系、データ形式などに ついて解説 第2章「基盤地図情報の可視化」 データの入手、主題図の概念、ベースマッ プの作成方法などについて手順を追って解 説 第3章「地域社会情報の可視化」 e-Statや国土数値情報サイトからのデータ 入手・QGISによる可視化、地図データと統 計データの結合・可視化などについて解説 14/19地域を見つめ、地域を活かす。 愛知大学地域政策学部
- 15. 書籍内容（第4章～第6章） 第4章「地域の歴史と文化財に関する分 析」 地域や歴史財をテーマに旧版地形図や文 化財に関するデータの作成・分析について 解説 第5章「地域における商業の分析」 商圏分析をテーマに、データの作成やジオ プロセッシングに関する概念・方法について 解説 第6章「観光振興の空間的な定量評価」 観光振興をテーマに、観光スポットに関する 定量的分析について解説、観光振興政策へ のつながりについて提示 15/19地域を見つめ、地域を活かす。 愛知大学地域政策学部
- 16. 書籍内容（第7章～第8章） 第7章「都心居住と土地利用 の評価」 空間データベースの構築、デ ータのインポート、データ構造 の実装、空間解析について解 説 第8章「歩いて暮らせるまち の検証」 空間トポロジーの定義、実装、 経路分析などについて解説 16/19地域を見つめ、地域を活かす。 愛知大学地域政策学部
- 17. 書籍内容（第9章～第10章） 第9章「安全安心まちづくりの 検証」 災害リスク評価をテーマに、空間 データベースの整備、PostGISを 用いた分析などについて解説 第10章「越境地域連携事業の 空間ネットワーク分析」 自治体間連携をテーマに、空間 データベースの整備、Rおよび PostGISを用いた分析などにつ いて解説 17/19地域を見つめ、地域を活かす。 愛知大学地域政策学部
- 19. おわりに―これからの文系大学におけるGIS教育 「地域政策学部」という地域系・政策系学部におけるGIS教育 必ずしもGISのスペシャリストになるわけではないが、ジェネラリストにはなれ るのではないか GISはあくまでも「ツール」であり、地理情報に関する理解の深耕や地理的・ 空間的思考力の涵養が重要 一定以上のPCスキル取得が必要、情報科目との連携も必須 2022年からの高校における「地理総合」の必修化 現状、特に愛知県では高等学校での地理選択者が少ない 碓井（2016）が指摘するように、G空間社会における地図・GISリテラシー教 育の在り方についても議論が必要 最終的には、G空間社会において、地理的思考力、空間的思考力に基 づき地理空間情報の活用が進む、そうした状況において活躍できる人 材を育てたい 19/19地域を見つめ、地域を活かす。 愛知大学地域政策学部