pp05

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PP05: リバタリアニズム
公共哲学
Ver.2022SS
1

2. ・社会による介入は個人の自由と衝突する
→選択への介入はパターナリズムに該当するので
×
情報開示、罰則、インセンティブを通じて本人の合理性に任せる
・社会による介入は「ナッジ」を通じて個人の自由と両立する
→合理性に対する懐疑、生活環境による誤りのパタン化
「選択ストラクチャ」への介入により望ましい社会の実現へ
＝選択への介入は問題だが、選択の背景となるストラクチャへの介
入は（離脱の余地が担保される限り）個人の自由と両立する
(＋) 統治のあり方として効率がよい、多くのひとにとって便利である
(ー) 個人の選択を操作している、目的と効果についての透明性
復習：リバタリアン・パターナリズム

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改めてパターナリズムの前提を確認
社会全体の幸福 vs. 自分の事柄について選択する自由
→必要となる生き方への介入
→具体的にどのような自由が保障されるべきなのか
それはどういった根拠で保障されるべきであるのか？

4. 今日の内容
1. 分配的正義とはなにか？
2. リバタリアニズム（自由
至上主義）とはか
?
3. リバタリアニズムの問題
とは？

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分配的正義とは何か
：権利と義務の割り当て

6. 正義に関わる二つのモチーフ
天 : 各人に相応しいものを割り当てる
剣 : 割り当てるルールが強制される
正義が法に関わっていることの言語的直観
e.g. 司法省(the department of justice); 国際司法裁判(international court of justice
)
→では裁判官は何を判断しているのか？
正義のイメージとギリシア神話の女神テミス

7. 分配的正義とその定義(1)
天 は「各人に相応しいものを割り当てること」を表わす。
→社会を支えるルールはみんなに相応しいものを割り当てるものだ！
e.g. あなたの功績に相応しい給与（利益）を割り当てる
e.g. あなたの罪に相応しい罰（負担）を割り当てる
(1)「分配的正義(distributive justice
)
誰かに相応しい利益や負担を「分配」するルールとその正しさ
→社会の基本となる法や制度全体に関わる
(2)「匡正的正義(retributive justice)」
分配的正義に反する不正な状況を「匡正」するルールとその正しさ
→損害賠償や刑罰、戦争などの行われ方に関連する

8. 権利と義務
剣は「ルールが強制されること」という意味を表わす。
→社会を支える大事なルールはきちんと守られなければならない！
誰かに対して利益や負担として分配するルールは「権利
(right)」や「義務(duty)」という特別な言葉で表現される。
(1) 権利：相応しい自由や利益を保障するもの
e.g. あなたの仕事に相応しい給与（利益）を受け取る権利がある
(2) 義務（責務）：相応しい負担を要求するもの
e.g. あなたの罪に相応しい罰（負担）を受ける義務がある

9. 誰かの自由や利益を「権利」として分配するということは、多くの
場合、誰かに対して負担を「義務」として分配する
e.g.1 私は殺害されない「権利」がある
⇄あなたは私を殺害しない「義務」がある
e.g.2 日本国民は教育を受ける「権利」がある
⇄国家は日本国民に教育を受けさせる「義務」がある
e.g.3 人間は生まれながらに最低限の医療を受ける「人権」がある
⇄世界中のひとは貧しい人に最低限の医療を受けさせる「義務」がある
＝権利保障の問題は、義務負担の問題でもある(3)
正義要求とその強制性について(1)
権利と義務はどういう関係にあるのか？(2)

10. 正義の義務はどういうものなのか？(4)
慈善（の義務）
*義務履行は任意である
*不履行の場合も問題なし
正義（の義務）
*義務履行は任意ではない
*不履行の場合は非難／強制
e.g.1 ミサに参加したら貧しい人に助けるチャリティに参加しようと言われた
e.g.2 ある有名な俳優は地震復興支援のチャリティとして1000万円を寄付した
→慈善の義務は、道徳的な賞賛に値するが履行されなくとも非難されない
e.g.1 日本国民にはその収入に応じて納税の義務がある
e.g.2 韓国の成人男性には2年間の兵役の義務がある
→誰かの権利を保障するために不可欠になる義務は、履行されなければ道徳
的に非難されたり法的に強制される場合がある
正義要求とその強制性について(2)

11. 国家 個人
法 自由
制度 利益
政策
まとめ: 分配的正義はどういう問題なのか？
国家に対する正義要求
権利保障⇄義務負担
国家の強制力
a. 権利義務の分配問題
b. この分配は国家の強制力をもって履行される
c. 分配的正義はこの国家の強制力の適切さに関わる
不正な国家とは？
過小：国家が正義が要求する権利を保障していない
過剰：国家が正義が要求する以上の強制力を行使している

12. 功利主義
50
-10
50
分配的正義
社会全体がどういう状態なのか？
まとめ：功利主義と分配的正義の違いは？
50 50
10
社会1
社会2
R1 R1
R1
社会1
社会2
R2 R2 R2
社会内部の個人がどういう状態なのか？
（量的比較の拒絶）

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リバタリアニズムとは何か？
：個人の自由こそ守られるべき価値である

14. リバタリアニズムの基本的な特徴
個人の自由こそ最も大事な価値である
→自由至上主義
1. 分配的正義の一つの立場
→権利義務の正しい分配を考えている
2. 経済的自由を権利として分配せよ
→この正しい分配は J.ロックの「自己所有権」を根拠にしている
→個人の自由はなぜ大事な価値であると考えられてきたのか？

15. 個人の自由はなぜ尊重されるべきなのか？
近代以前の社会モデル
王権神授説：
個人を統治する世俗＝国家権力は、神様の
権威を通じて授けられる
→その国家内部での個人の自由は、神様の
権威を通じた時の君主や教皇のさじ加減に
よって認められる
「神様＝国家のための個人」
君主や教皇の横暴に抵抗できない社会観

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近代的な社会観の出発
では、君主や教皇の横暴に対して個人の自由を守る
ためには、どのように社会を捉えればよいのか？
→社会や国家を考えるときに、神様の権威ではなく
「個人の自由」を前提にしよう！

17. 個人の自由を守る二つの論理
(1) 人間は、国家とは関係なく保障される権利がある
「自然権(natural rights)」論：
（歴史：ローマ市民に保証される自由→キリスト教社会で保証される自由→
人間として保証される自由→「人権(human rights)」として制度化）
→人間が生まれながらに保有する「前政治的な権利」
(2) 国家が必要であるとしてもは、それは神様ではなく人間によっ
て作られたものである
「社会契約(social contract)」論：
→国家権力の正しさを個人の「同意(契約)」という手続きから説明する理論
＝「個人のための国家」
(社会契約論の詳細は来週に話します)

18. 自己所有から私的所有へ
J.ロック『市民政府論』(1689年)(5)
自己所有権は「自然権」であり、そこから私的所有権が導出され
ることから市場における経済的自由こそ守られるべきである。
(1) 自己所有(self-ownership)権
自分の心身をコントロールして使用する権利
(心身は自分のものであり誰のものでもない
)
(2) 私的所有(private ownership)権
身体を使用して得た成果を自分のものとして
所有する権利
＝市場において自分の身体による労働から得
た成果は自分のものである(6)

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まとめ：個人の自由を前提にすること
個人の自由はなぜ重要なのか？
→国家の横暴に抵抗するため
方法：国家に先行して存在する「自然権」の擁護
→商人（土地所有者）の経済的自由の保障へ
では市場での私的所有権が徹底される社会とは？

20. Aさんの提案
先生は、ゼミ運営に報いるために
ケーキをくれたのだから、このケー
キは、レジュメ作成や、ゼミでの発
言回数といった個人の実績に応じる
形で分配するべきである。
ゼミでの分配から考える
例えば、あなたが所属するゼミの先生が、学生のゼミ運営に報い
るため、ケーキを購入してくれたとしよう。
ゼミで何をしたのかという歴史的根拠に基づく分配ルール
→ケーキ割り当ての不平等はルールを遵守した結果である
実績を問わない平等なケーキ割り当てはルール違反になる

21. R.ノージック『アナーキー・国家・ユートピア』(1974年
)
J.ロックの自己所有権を根拠にすれば、正しい国家とは、市場にお
ける経済的自由だけを権利として保障する「最小国家」である。
(1) 自己所有権
(2) 私的所有権
(3) 同意に基づく所有物の移転
→国家の権力行使は、上記の権利を保障
する警察権力や司法権、その他の公共財
の供給などに限定されるべきである。
リバタリアニズムの分配的正義
経済格差を是正するための課税制度は、個人の所有権を侵害する
点において不正な制度である(7)

22. 国家による自由への（過剰な）干渉を批判する
(1) 個人の自由を強力な形で擁護している
「自然権」としての自己所有権テーゼ
e.g. 奴隷制の否定、安楽死の合法化、売春の合法化、臓器売買の合法化(8)
(2) a. 国家の強制力は少ない方が良い（＝小さい政府）
b.市場での自由を尊重したほうが良い
→リバタリアニズムは、1970年代後半から80年代アメリカにおける再分配
政策による財政悪化という背景があり、現在の共和党支持者の一部で支持さ
れる思想でもある。日本でも国家の役割を民営化させる政策の背景になる。
e.g. 1 国内社会：課税制度を通じた再分配（福祉国家）批判
e.g. 2 国際社会：途上国に対する援助義務や人道的介入に否定的になる
リバタリアニズムの要点

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リバタリアニズムを検証してみよう
・リバタリアニズムが直観と合致するのかを確認する
合致する：直観を裏付ける議論の獲得
合致しない：直観か議論のどちらかが要修正
・リバタリアニズムに修正を迫る
リバタリアニズムによる議論で納得できない点は？

24. ・ロナウドはファンを魅了する素晴らし
いプレイヤーである
・ファンはロナウドのプレイを観るため
に喜んでチケット代を払っている
・ロナウドはこのチケット代の一部を得
ることで経済的に成功した
・ロナウドが暮らす社会では経済格差が
広がっているとする
税金は何のためにあるべきなのか？
A. ロナウドは経済格差を是正する国家に税金を支払う義務がある
B. ロナウドは慈善による寄付をしたらよいし税金を支払う義務はない

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リバタリアニズムのどこに問題があるのか？
ノージックによる「類推(analogy)」(9)
・プレイヤーとファンとのあいだの自由な取引→プレイヤーは利得を総取り
・実際の市場での自由な取引→市場でのプレイヤーも利得を総取り
ノージックを批判するためには？
→経済格差の格差はよくないというのは批判にならない
・上記の類推は失敗している、市場の問題を適切に特徴づけていない
・私的所有権の制限に関する積極的な主張が考えられる

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