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特別寄稿 梅澤貴典
ライブラリアンの講演術
“伝える力”の向上を目指して
006 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
本稿では、公共や大学などの各図書館で「利用者のための講習会」を担当される
職員の方々に向けて、限られた時間の中でより良く内容を伝えるための「心構え
とコツ」、「内容の作り方」、「講習の実例」について紹介する。 
とりわけ、「人前で話すのが苦手だ」とか「ちゃんと伝わっている気がしない」、
あるいは「相手が興味をもって聴いているか不安だ」という方々にこそ、大いに活
用していただき「聴き手・話し手どちらにとっても実り多く、楽しい講習」となる
ことを目的としている。
筆者は、ちょうど電子化の波が押し寄せていた時代(2001 ∼ 2008年)に、理
工学系の大学図書館に勤務して情報リテラシー教育を担当していた。理工学部の
新入生向けの導入教育(高校までの学習を大学教育に円滑に導入するための教育
のこと)から、研究室のテーマで個別デザインした大学院生向けのオーダーメイ
ド型まで、それぞれレベルに応じた講習会を企画・実施してきたが、上手く伝
わったこともあれば失敗したこともある。ここでは、それらの経験を踏まえて
「講習の心構え7ケ条」(どのように話すか)、「伝えるべき7ケ条」(何を話すか)、「大
学新入生向け講習の誌上実演」の3章を順に紹介する。
ライブラリアンの講演術
“伝える力”の向上を目指して
中央大学 学事部学事課 副課長。青山学院大学Ⅱ部文学部英米文学科
卒業。在学中は学生雇員として4年間大学図書館に勤務。中央大学の
理工学部図書館では7年間、電子図書館化と学術情報リテラシー教育
を担当。働きながら東京大学の大学院教育学研究科(大学経営・政策
コース)修士課程を修了し、現在は社会人や一般市民も対象として「学
術情報リテラシー教育による知的生産力・企画立案力の向上」を目指
し、研究と実践を続けている。
1. はじめに
梅澤貴典(うめざわ・たかのり)
007ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
読者の中には、筆者よりも経験が豊富な方も多いと思われるので恐縮だが、「こ
んな考え方、やり方もある」という参考にしていただければ幸いである。
まずは、図書館という場に限らず「人前で話す」際の全般に言える心構えとコツ
を7つのポイントにまとめた。これは「企画案のプレゼンテーション」や「研究会
での発表」など、さまざまな場面に応用して役立てられるはずだ。
1)「今日の話を聴くと、何が得られるのか」を始めに宣言する
2)「この人の話を聴いてみたい!」と思わせる
3)「ここがポイント!」と分かるように話す
4)「たとえ話」を使って、具体的なイメージをもたせる
5)単に「聴く」だけでなく、レクチャーに参加させる
6)先の読めない展開で、ワクワクさせる
7)「ご清聴ありがとう」から「質問をどうぞ!」へ
1)「今日の話を聴くと、何が得られるのか」を始めに宣言する
「始めに結論を述べる」のはスピーチの基本だが、これが意外に守られていない
ことも多い。今日話そうとしている内容が「図書館の活用法」であり、ゴールは
「蔵書検索システムで資料を探せるようになること」であり、それが身につくと
「これまで我流で探していた時よりも、効率的に多くの信頼できる情報が見つか
ること」を、必ず冒頭で宣言しているだろうか?
「そんなことは自明であり、わざわざ説明する必要はない」と考えてしまって、
「はい。まずは『キーワード』の欄に、『憲法』と入力して検索ボタンを押してみま
しょう」などと、前置きなく始めていないだろうか。
「いったい何の役に立つのだろう?」と疑問に思いながら長い話を聴くのは、誰
しも苦痛なものだ。そして聴き手の表情や態度からそれが話し手にも伝われば、
お互いにとってますます辛い時間になるだろう。それを防ぐためにも、シンプル
2. 講習の心構え7ケ条
008 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
なメッセージとして「この話を聴くメリット」を始めに宣言するのは、最も大切な
ことの一つだ。
筆者が山梨県の公立大学・都留文科大学で非常勤講師として担当している「図
書館情報技術論」の授業(図書館司書の資格取得を目指す3年生のための3日間の
集中講義)では、初日の朝1時限目の冒頭で「皆さんには、この授業で 一生の宝
になるスキル を身に付けてもらいます」と宣言した。
本から電子データベースまで、さまざまな「裏付けある情報」の探し方に精通す
ることは、「学生・社会人・市民として、これから遭遇するあらゆる問題に対し
て、解決策を見つけて乗り越える力」になるからだ。ましてや「教える側 」として
の知識・技術を学ぶことは、さまざまな利用者のニーズを想定しなければならず、
「探す側」として1回の講習を聴くだけの効果とは格段の差がある。そのように理
由を説明した上で、「皆さんには、今日で検索エンジンとフリー百科事典に頼る
生き方を卒業してもらいます」とも付け加えた。その理由は「どこの誰が言ったか
分からない情報に頼っていると、いつか無意識に間違った情報を拡散することに
なり、周囲からの信頼を失う」からだ。ましてや、図書館の職員や学校の教員の
発言には、友人同士や家族の間でやりとりされる日常会話としての情報交換とは
異なり、責任が生じる。
この理由を説明せずに、いきなり「Web情報は、玉石混交なので危険です」と
か「フリー百科事典は、信用できないのでレポートに使ってはいけません」という
話から始めると、幼い頃からWebに慣れ切った世代の学生達にはたちまち拒否
反応を起こされ、ますます身構えられてしまうだろう。
講習にあたっては、「何を伝えるべきか」より前に、まずは「どのような相手か」
を認識することが第一歩となる。たとえば、「これだけ情報がWeb化された時代、
図書館なんて、カフェ的な勉強部屋としての役割以外に、何があるのだろう?」
と考えている相手には、こちらが予定していた「本の探し方」を伝える前に、まず
は「なぜ本を探すのか?」という話から講習をスタートさせるほうが、格段に興味
をもたれるだろう。
009ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
2)「この人の話を聴いてみたい!」と思わせる
講演の成否は第一印象に大きく左右されるため、まずは笑顔と挨拶が大切であ
る。仏頂面の人や、小声で下を向いている人の話を長時間にわたって聴くのは、
避けたいものだ。
しかし、誰もが「人前で話すこと」を得意としているわけではない。むしろ、図
書館の職員になることを望んで学び、実際に働いている方々は「本は好きだが、
どちらかと言えば人と接するのは苦手だ」という層も多いのではないだろうか。
「生まれながらに人前で話すのが得意で、緊張もしないし、全く苦痛ではない」
という資質をもった人は非常に稀な存在であり、もし居たとしても多くは図書館
職員という仕事は選ばないか、そもそも思い浮かばないだろう。なので、本稿で
は「人前で話すのが苦手な読者」を想定することとしたい。誰もが「得意」にまでな
る必要は、全くない。講習には付き物である「緊張」についても、筆者も新たな場
に立つ度に毎回必ず苦しめられており、恐らくなくなることはないだろう。話す
のを「楽しい」とまで感じられれば理想的だが、その少し前の段階として、まずは
「どのようにすれば、少なくとも苦痛ではなくなるか」について考えたい。
そこで、「伝える内容の精査」を提案したい。一見「人前で話すコツ」にはあまり
結びつかないようだが、実は大いに関係があると考えている。それは、「褒めら
れる経験を繰り返すと、もっと褒めてほしくなる」のと同じように、「相手に喜ん
でもらえたり、しっかり話が伝わったりした経験を繰り返すと、もっと話してみ
たくなる」からだ。「正直、こんな内容ではきっと退屈だろうな∼」と内心で思い
ながら話す講習は、お互いに不幸な時間となってしまう。
そのために、後述するような受講者アンケートなどを駆使して「相手が何を求
めているか」を毎回精査して伝える内容を加除し、順番や見せ方などの工夫を繰
り返していくと、「この講習ならば、必ず学びの役に立つはずだ!」という自信が
生まれる。この時点では「次回は、堂々と話せそうだ」とまでは思えなくても構わ
ない。「少なくとも、内容については充実しているぞ」という自信だけで良い。
ところが、話す本人が納得できる内容をつくってしまえば、誰しも「せっかく
なので活用してほしい」、「相手に伝えたい」と思うものだ。そのような自信は態
度として聴き手に伝わる。少しでも興味をもって聴いてもらえれば、聴き手が
「面白い」と感じている箇所(頷いたり、笑ったり、ふとメモを取ったり、「そう
だったのか!」という顔をするはずだ)が分かり、「ああ、こういうことが知りた
010 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
かったのだな」というポイントを(想定外だったことを含めて)少しずつ次の講習
に反映していけば、回を重ねるごとにますます自信をもって臨めるようになるだ
ろう。
実は、かつては筆者自身も人前で話すことは大の苦手で、発表などはとても苦
痛だった。少しずつ変わったのは、中学生の頃から社会人になるまで続けた子供
キャンプ引率の野外教育ボランティア活動を通して、少しずつ「聴き手が喜んで
くれる楽しさ」を味わった経験による。毎年、夏休みになると100人の小学生を
連れて八ヶ岳に3日間のキャンプに行くのだが、行き帰りのバスやキャンプファ
イヤー、雨の日の体育館などでさまざまなレクリエーションを行う。何かゲーム
をする際、もしもルールの説明が少しでも曖昧だと、前のほうに座った元気な子
供から厳しい突っ込みを受ける。たとえば「リーダー 1人VS子供100人で、勝
ち抜きジャンケン」をする場合を考えてみよう(実際にはより複雑なゲームのほう
が盛り上がるのだが、あくまでも例として)。「負けた人は座って、最後に勝ち
残った人が優勝です」と言ったら、必ず「あいこの人はどうするの?」と訊ねられ
る。この時、経験の浅い初心者のリーダーだと、その質問をした目の前の相手一
人にだけ視線を向けて「あいこは負けと同じように、座ってください」と答える。
すると、後ろのほうに座った大勢が「今、何て言ったの?」とザワザワし始める。
こうなると1対100のコミュニケーションを取るのは難しくなり、当然ゲームも
盛り上がらず、辛い(しかし貴重な)失敗の経験となってしまう。次善の手は、そ
う訊かれて「それは全員に伝えるべきポイントだったな」と気づいたら「良い質問
ですね。あいこは負けと同じですよ∼!」と全員に向けて大きな声で伝えること。
そして最善の手は、最初からシンプルに漏れなく要点を説明することであり、そ
れができれば小学生はすぐにルールを理解してゲームに集中できるため、場は大
いに盛り上がる。
小学生は素直なので「分からない」と感じれば集中力を切らして「つまらない」と
いう態度を示し、私語や周りとのつつき合いが始まって騒ぎ出し、話し手にとっ
ても「伝わらなかった。失敗した」ことが実感できる。
ところが、大学生や大人が相手の場合は、たとえ「分からない」、「つまらない」
と感じても、一応は最後まで話を聴いてくれる(例外もあるが)。ましてや、単位
に関わる必修科目のガイダンスとして実施した場合は尚更であり、いくら内容が
退屈であっても、どれだけ図書館職員が義務的な態度で話したとしても、その講
習の評判いかんに関わらず「大学としての恒例行事」として毎年継続されることも
011ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
多いだろう。しかし、それが落とし穴なのである。
新入生にとって、入学して最初のガイダンスで「図書館って、本当はすごいん
だ。ここで真剣に学べば、大きく成長できるかも知れない」と感じられるか、あ
るいは「ちょっと考えれば分かるような内容で、退屈だった。やはりWebがあれ
ば図書館なんて不要だ」と思わせてしまうかでは、その後の学び方や生き方が大
きく変わってしまう。これは、大学図書館に限らず、公共あるいは学校図書館で
も同じことが言えよう。
「最初に聴き手の興味を惹きつけられるかどうか」によって、時には相手の人生
をも左右する可能性があり、一つ一つの講習を担当する職員にとっては、ここが
正念場であり、「腕の見せ所」となる。
とはいえ、始めの前提の通り、誰もが「話の達人」になる必要はない。ましてや、
子供向け教育テレビの「歌のお姉さん」や「体操のお兄さん」のような過剰な笑顔
とサービス精神を発揮する必要も全くない。大切なのは、その講習が「聴き手に
とって、必ず役立つ」と信じ、その内容を「伝えたい」と自身が願っているかどう
かである。「役立つ」と心の底から思えないならば内容の再検討が必要だし、役立
つならば、必ず「伝えたい」と思えるはずだ。その意思は必ず、話し手の表情と第
一声の挨拶にも表れる。
不思議なことに「心からの笑顔」かどうかは、聴き手には伝わってしまう。また、
小さな子供ほど鋭く見破るものである。したがって、いわゆる「営業スマイル」は
通用しない。小学生が相手だとしても「聴き手への敬意」を忘れないことが大切だ。
筆者が小学6年生80人を相手にアメリカやスウェーデンなど「世界の図書館探
訪記」について話した際、アンケートに「あやすような口調など、子供扱いをしな
いでくれて嬉しかった」と書かれた経験がある。これは、12歳というその時点で
の年齢だけを基準にしないで「将来、ハーバード大学に留学して、君もこのワイ
ドナー記念図書館で勉強するかも知れない」、「ノーベル平和賞を取って、君がこ
の受賞会場(ノルウェーのオスロ市庁舎)に立つ日が来るかも知れない」という「い
つかは、大人になる相手だ」という視点で話したからだろうと考えている。
「子供は無知なものだ」という決めつけが聴き手との間に見えないバリアを生ん
でしまうように、「利用者はマナーが悪いものだ」という決めつけもまた危険であ
る。「本を汚さないこと」、「静かにすること」などの「べからず集」ばかりのガイダ
ンスもしばしば見受けられるが、まだ入学したばかりの1年生にとっては、本を
012 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
汚したのも騒いだのも、全く身に覚えのない濡れ衣である。そんな話からスター
トする講習が、聴き手の興味を惹くはずがない。飲食物の持ち込み制限などを
「その図書館のルール」として伝える必要はもちろんあるが、「学びの楽しさ」に目
覚めた者は、自然と「本や情報に対する敬意」を払うようになるものだ。汚損や騒
音の予防策としては「マナー違反者予備軍への事前指導」よりも講習によって「学
びにワクワクさせる」ほうが、遥かに有効だ。
同じように、会場がざわついた際に「静かにしなさい!」と怒鳴ってばかりの講
習も、貴重な時間を無駄にしてしまう失敗例である。筆者は最大で1会場500人
( 2回)の新入生向けガイダンスの経験があるが、だいたいの割合で言えば前列
に座った3割は、そもそも自らの「学びたい」という意思で熱心に聴く。中央の5
割は、必要を感じれば集中するが、もしも興味を感じなかったとしても一応は最
後まで聴く。問題は後ろのほうに座った2割で、この層を惹き込めるかどうかが
成否を分ける。最初に興味をもたせられなかったらたちまち私語が始まるだろう
が、それを注意して黙らせるのに時間を取っていては、最初から前のほうで一生
懸命聴いている学生達に申しわけない。
比率の違いこそあれ、いずれの現場でもこのような現象は起きているはずだが、
「つまらなくとも、黙って座っていなさい」という話し手の要求を聞き入れてもら
うより、最初のインパクトで「今日の話は、ひょっとしたら聴き逃すと損かもし
れないぞ!?」と自分で気づかせるほうが、結果的には手っ取り早く静かになる。
筆者は、このような手強い講習の場合「一番後ろに座っているあのブロックが、
自らの意思で全員スマホを置いたら、自分の勝ち」というルールを心の中で設け
て挑んでいる。その瞬間はだいたい最初の5分間が経過した頃に訪れるが、成功
すると、コツコツと準備してきた苦労が全て報われるような嬉しい気持ちになる。
このような場を、「図書館がいかに知的生産活動の助けとなり、人生を豊かに
するか」に自ら気づかせるような、「図書館ファンを増やす活動の一環」と考えて
みてはいかがだろうか。
3)「ここがポイント!」と分かるように話す
笑顔と挨拶の次に大切なのは、話し方である。
終始、お経のように抑揚なく平板なトーンで話してしまっては、伝わるものも
013ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
伝わらない。ましてや昼休み直後(大学で言うと3時限目)の「魔の時間帯」におい
ては、聴き手は睡魔という強敵とも戦わなければならない。
ここでも「講習全体の目的」と同じように、まずは要点を箇条書きで見せてしま
うことが大切である。話の全体像が見えず「どこが区切りか」、「どこがゴールか
(いつ終わるか)」が分からない状態でダラダラと聴き続けた場合、よっぽど興味
のある内容でない限りは睡魔のほうが勝ってしまうだろう。
また、ひと固まりの文章の中で「最も重要な言葉」を強調して話すように心掛け
ると、講習にリズムとドラマ性が生まれ、聴き手が理解しやすい。たとえば「皆
さんが日頃いろいろな場面で使っている『Web情報』と『図書館が集めた資料』と
の違いは、『責任の有無』です。つまり『誰が言ったのか?』と後から辿れるかどう
かです」と話すとしても、終始同じトーンではなく、『 』内の言葉に意識的に力
点を置くと伝わりやすい。これについては既知の読者も多いと思われるが、自身
が話した講習の録画や録音を見返して(聴き返して)みた経験はあるだろうか。も
しなければ、一度でも試してみることをお勧めしたい。筆者が補講用の録画を見
返してみたところ、まさに「反省点の山」であった。たとえば「早口である(伝えた
い内容を詰め込み過ぎ)」、「話が脱線する(そして、なかなか戻って来ない)」、「話
が飛ぶ(前提となる知識を伝える前に、より応用的な話をしてしまう)」など、見
逃せない欠点を多く知ることができた。
できれば他者(同僚)にも聴かせて意見を求めるとより良いのだが、もちろん自
分一人が聴くだけでも構わない。音声だけでも、ぜひ一度ICレコーダ(スマホに
も録音機能があるものが増えてきた)を使って、聴き返してみる機会を設けてみ
てほしい。
4)「たとえ話」を使って、具体的なイメージをもたせる
平易な文章に「たとえ話」を加えることによって、聴き手はより具体的にイメー
ジして理解できる。筆者が大学図書館職員向けの研修で70分間話した講演録の
文字起こし原稿録では、「たとえば」という言葉を54回も使っていた。ほぼ1.3
分間に1回の「たとえ話」をしていた計算となる。さすがにこれは多過ぎるかも知
れないが、少しずつでも活用することを勧めたい。
さっそく例を挙げると、「レポートや仕事では、裏付けのある情報源しか使っ
014 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
てはいけません」と言われても、実感までは湧かない。そこで、以下のように話
してみてはどうだろうか。
「あなたがもしも病気にかかった時、主治医が治療法をフリー百科事典で調べ
ていたら、どう思いますか?『ちょっと待って! 医学なら医学で、専門の機関
がつくったデータベースがあるんじゃないの? そんな情報源で調べて、万が一
にも間違っていたら、誰が責任を取るの?』と、考えるでしょう。
今の『医学』の部分を、そのまま将来あなたが就く仕事の分野に置き換えてみて
ください。『法律』でも、『農業』でも、『輸出入』でも、『株式投資』でも、何でも構
いません。
命に関わる問題だと人は真剣になるので医学という分野を例に出しましたが、
『プロとして責任を取らなければならない』という意味で、『不確かかも知れない
情報源を使っても構わない』という分野は、この世に一つもありません」。
「伝えるべき要素」を単に過不足なく話すのと、このように「たとえ話」に落とし
込んで話すのでは、「実感として受け取るメッセージ」に違いが出るはずだ。
5)単に「聴く」だけでなく、レクチャーに参加させる
相手が数人であれ、500人であれ、「一方的に話し、聴く」講習と「お互いにや
り取りして、聴き手の意思が反映される」講習では、後者のほうが興味と理解を
得られやすいのは当然であろう。
少人数のゼミなどであれば、簡単な自己紹介をして互いの素性を知った上で話
し始め、時々話を振って意見を求めながら進めるのが理想的だが、大人数が相手
の場合や時間が限られている際は、なかなかそこまではできない。そんな時は
「今日お話しする○○という言葉について、既に知っていた方はどれくらいいま
すか?」と挙手を求めたり、「この図書館には、何冊の本があると思いますか?
①1,000冊 ②1万冊 ③5万冊のうちから、1つだけ選んでください」とクイズ
を出してみるなど、双方向性をもたせることが可能である。
「どうやら会場の大部分が、初めて知った言葉のようですね」という流れになれ
ば、聴き手は「自分だけが知らなかったわけではない」と安心できるし、話し手は
「基礎から説明したほうが良さそうだ」と、結果を講習に反映して内容をアレンジ
することができる。
続きは本誌で

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  • 2. 006 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 本稿では、公共や大学などの各図書館で「利用者のための講習会」を担当される 職員の方々に向けて、限られた時間の中でより良く内容を伝えるための「心構え とコツ」、「内容の作り方」、「講習の実例」について紹介する。  とりわけ、「人前で話すのが苦手だ」とか「ちゃんと伝わっている気がしない」、 あるいは「相手が興味をもって聴いているか不安だ」という方々にこそ、大いに活 用していただき「聴き手・話し手どちらにとっても実り多く、楽しい講習」となる ことを目的としている。 筆者は、ちょうど電子化の波が押し寄せていた時代(2001 ∼ 2008年)に、理 工学系の大学図書館に勤務して情報リテラシー教育を担当していた。理工学部の 新入生向けの導入教育(高校までの学習を大学教育に円滑に導入するための教育 のこと)から、研究室のテーマで個別デザインした大学院生向けのオーダーメイ ド型まで、それぞれレベルに応じた講習会を企画・実施してきたが、上手く伝 わったこともあれば失敗したこともある。ここでは、それらの経験を踏まえて 「講習の心構え7ケ条」(どのように話すか)、「伝えるべき7ケ条」(何を話すか)、「大 学新入生向け講習の誌上実演」の3章を順に紹介する。 ライブラリアンの講演術 “伝える力”の向上を目指して 中央大学 学事部学事課 副課長。青山学院大学Ⅱ部文学部英米文学科 卒業。在学中は学生雇員として4年間大学図書館に勤務。中央大学の 理工学部図書館では7年間、電子図書館化と学術情報リテラシー教育 を担当。働きながら東京大学の大学院教育学研究科(大学経営・政策 コース)修士課程を修了し、現在は社会人や一般市民も対象として「学 術情報リテラシー教育による知的生産力・企画立案力の向上」を目指 し、研究と実践を続けている。 1. はじめに 梅澤貴典(うめざわ・たかのり)
  • 3. 007ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 読者の中には、筆者よりも経験が豊富な方も多いと思われるので恐縮だが、「こ んな考え方、やり方もある」という参考にしていただければ幸いである。 まずは、図書館という場に限らず「人前で話す」際の全般に言える心構えとコツ を7つのポイントにまとめた。これは「企画案のプレゼンテーション」や「研究会 での発表」など、さまざまな場面に応用して役立てられるはずだ。 1)「今日の話を聴くと、何が得られるのか」を始めに宣言する 2)「この人の話を聴いてみたい!」と思わせる 3)「ここがポイント!」と分かるように話す 4)「たとえ話」を使って、具体的なイメージをもたせる 5)単に「聴く」だけでなく、レクチャーに参加させる 6)先の読めない展開で、ワクワクさせる 7)「ご清聴ありがとう」から「質問をどうぞ!」へ 1)「今日の話を聴くと、何が得られるのか」を始めに宣言する 「始めに結論を述べる」のはスピーチの基本だが、これが意外に守られていない ことも多い。今日話そうとしている内容が「図書館の活用法」であり、ゴールは 「蔵書検索システムで資料を探せるようになること」であり、それが身につくと 「これまで我流で探していた時よりも、効率的に多くの信頼できる情報が見つか ること」を、必ず冒頭で宣言しているだろうか? 「そんなことは自明であり、わざわざ説明する必要はない」と考えてしまって、 「はい。まずは『キーワード』の欄に、『憲法』と入力して検索ボタンを押してみま しょう」などと、前置きなく始めていないだろうか。 「いったい何の役に立つのだろう?」と疑問に思いながら長い話を聴くのは、誰 しも苦痛なものだ。そして聴き手の表情や態度からそれが話し手にも伝われば、 お互いにとってますます辛い時間になるだろう。それを防ぐためにも、シンプル 2. 講習の心構え7ケ条
  • 4. 008 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して なメッセージとして「この話を聴くメリット」を始めに宣言するのは、最も大切な ことの一つだ。 筆者が山梨県の公立大学・都留文科大学で非常勤講師として担当している「図 書館情報技術論」の授業(図書館司書の資格取得を目指す3年生のための3日間の 集中講義)では、初日の朝1時限目の冒頭で「皆さんには、この授業で 一生の宝 になるスキル を身に付けてもらいます」と宣言した。 本から電子データベースまで、さまざまな「裏付けある情報」の探し方に精通す ることは、「学生・社会人・市民として、これから遭遇するあらゆる問題に対し て、解決策を見つけて乗り越える力」になるからだ。ましてや「教える側 」として の知識・技術を学ぶことは、さまざまな利用者のニーズを想定しなければならず、 「探す側」として1回の講習を聴くだけの効果とは格段の差がある。そのように理 由を説明した上で、「皆さんには、今日で検索エンジンとフリー百科事典に頼る 生き方を卒業してもらいます」とも付け加えた。その理由は「どこの誰が言ったか 分からない情報に頼っていると、いつか無意識に間違った情報を拡散することに なり、周囲からの信頼を失う」からだ。ましてや、図書館の職員や学校の教員の 発言には、友人同士や家族の間でやりとりされる日常会話としての情報交換とは 異なり、責任が生じる。 この理由を説明せずに、いきなり「Web情報は、玉石混交なので危険です」と か「フリー百科事典は、信用できないのでレポートに使ってはいけません」という 話から始めると、幼い頃からWebに慣れ切った世代の学生達にはたちまち拒否 反応を起こされ、ますます身構えられてしまうだろう。 講習にあたっては、「何を伝えるべきか」より前に、まずは「どのような相手か」 を認識することが第一歩となる。たとえば、「これだけ情報がWeb化された時代、 図書館なんて、カフェ的な勉強部屋としての役割以外に、何があるのだろう?」 と考えている相手には、こちらが予定していた「本の探し方」を伝える前に、まず は「なぜ本を探すのか?」という話から講習をスタートさせるほうが、格段に興味 をもたれるだろう。
  • 5. 009ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 2)「この人の話を聴いてみたい!」と思わせる 講演の成否は第一印象に大きく左右されるため、まずは笑顔と挨拶が大切であ る。仏頂面の人や、小声で下を向いている人の話を長時間にわたって聴くのは、 避けたいものだ。 しかし、誰もが「人前で話すこと」を得意としているわけではない。むしろ、図 書館の職員になることを望んで学び、実際に働いている方々は「本は好きだが、 どちらかと言えば人と接するのは苦手だ」という層も多いのではないだろうか。 「生まれながらに人前で話すのが得意で、緊張もしないし、全く苦痛ではない」 という資質をもった人は非常に稀な存在であり、もし居たとしても多くは図書館 職員という仕事は選ばないか、そもそも思い浮かばないだろう。なので、本稿で は「人前で話すのが苦手な読者」を想定することとしたい。誰もが「得意」にまでな る必要は、全くない。講習には付き物である「緊張」についても、筆者も新たな場 に立つ度に毎回必ず苦しめられており、恐らくなくなることはないだろう。話す のを「楽しい」とまで感じられれば理想的だが、その少し前の段階として、まずは 「どのようにすれば、少なくとも苦痛ではなくなるか」について考えたい。 そこで、「伝える内容の精査」を提案したい。一見「人前で話すコツ」にはあまり 結びつかないようだが、実は大いに関係があると考えている。それは、「褒めら れる経験を繰り返すと、もっと褒めてほしくなる」のと同じように、「相手に喜ん でもらえたり、しっかり話が伝わったりした経験を繰り返すと、もっと話してみ たくなる」からだ。「正直、こんな内容ではきっと退屈だろうな∼」と内心で思い ながら話す講習は、お互いに不幸な時間となってしまう。 そのために、後述するような受講者アンケートなどを駆使して「相手が何を求 めているか」を毎回精査して伝える内容を加除し、順番や見せ方などの工夫を繰 り返していくと、「この講習ならば、必ず学びの役に立つはずだ!」という自信が 生まれる。この時点では「次回は、堂々と話せそうだ」とまでは思えなくても構わ ない。「少なくとも、内容については充実しているぞ」という自信だけで良い。 ところが、話す本人が納得できる内容をつくってしまえば、誰しも「せっかく なので活用してほしい」、「相手に伝えたい」と思うものだ。そのような自信は態 度として聴き手に伝わる。少しでも興味をもって聴いてもらえれば、聴き手が 「面白い」と感じている箇所(頷いたり、笑ったり、ふとメモを取ったり、「そう だったのか!」という顔をするはずだ)が分かり、「ああ、こういうことが知りた
  • 6. 010 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して かったのだな」というポイントを(想定外だったことを含めて)少しずつ次の講習 に反映していけば、回を重ねるごとにますます自信をもって臨めるようになるだ ろう。 実は、かつては筆者自身も人前で話すことは大の苦手で、発表などはとても苦 痛だった。少しずつ変わったのは、中学生の頃から社会人になるまで続けた子供 キャンプ引率の野外教育ボランティア活動を通して、少しずつ「聴き手が喜んで くれる楽しさ」を味わった経験による。毎年、夏休みになると100人の小学生を 連れて八ヶ岳に3日間のキャンプに行くのだが、行き帰りのバスやキャンプファ イヤー、雨の日の体育館などでさまざまなレクリエーションを行う。何かゲーム をする際、もしもルールの説明が少しでも曖昧だと、前のほうに座った元気な子 供から厳しい突っ込みを受ける。たとえば「リーダー 1人VS子供100人で、勝 ち抜きジャンケン」をする場合を考えてみよう(実際にはより複雑なゲームのほう が盛り上がるのだが、あくまでも例として)。「負けた人は座って、最後に勝ち 残った人が優勝です」と言ったら、必ず「あいこの人はどうするの?」と訊ねられ る。この時、経験の浅い初心者のリーダーだと、その質問をした目の前の相手一 人にだけ視線を向けて「あいこは負けと同じように、座ってください」と答える。 すると、後ろのほうに座った大勢が「今、何て言ったの?」とザワザワし始める。 こうなると1対100のコミュニケーションを取るのは難しくなり、当然ゲームも 盛り上がらず、辛い(しかし貴重な)失敗の経験となってしまう。次善の手は、そ う訊かれて「それは全員に伝えるべきポイントだったな」と気づいたら「良い質問 ですね。あいこは負けと同じですよ∼!」と全員に向けて大きな声で伝えること。 そして最善の手は、最初からシンプルに漏れなく要点を説明することであり、そ れができれば小学生はすぐにルールを理解してゲームに集中できるため、場は大 いに盛り上がる。 小学生は素直なので「分からない」と感じれば集中力を切らして「つまらない」と いう態度を示し、私語や周りとのつつき合いが始まって騒ぎ出し、話し手にとっ ても「伝わらなかった。失敗した」ことが実感できる。 ところが、大学生や大人が相手の場合は、たとえ「分からない」、「つまらない」 と感じても、一応は最後まで話を聴いてくれる(例外もあるが)。ましてや、単位 に関わる必修科目のガイダンスとして実施した場合は尚更であり、いくら内容が 退屈であっても、どれだけ図書館職員が義務的な態度で話したとしても、その講 習の評判いかんに関わらず「大学としての恒例行事」として毎年継続されることも
  • 7. 011ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 多いだろう。しかし、それが落とし穴なのである。 新入生にとって、入学して最初のガイダンスで「図書館って、本当はすごいん だ。ここで真剣に学べば、大きく成長できるかも知れない」と感じられるか、あ るいは「ちょっと考えれば分かるような内容で、退屈だった。やはりWebがあれ ば図書館なんて不要だ」と思わせてしまうかでは、その後の学び方や生き方が大 きく変わってしまう。これは、大学図書館に限らず、公共あるいは学校図書館で も同じことが言えよう。 「最初に聴き手の興味を惹きつけられるかどうか」によって、時には相手の人生 をも左右する可能性があり、一つ一つの講習を担当する職員にとっては、ここが 正念場であり、「腕の見せ所」となる。 とはいえ、始めの前提の通り、誰もが「話の達人」になる必要はない。ましてや、 子供向け教育テレビの「歌のお姉さん」や「体操のお兄さん」のような過剰な笑顔 とサービス精神を発揮する必要も全くない。大切なのは、その講習が「聴き手に とって、必ず役立つ」と信じ、その内容を「伝えたい」と自身が願っているかどう かである。「役立つ」と心の底から思えないならば内容の再検討が必要だし、役立 つならば、必ず「伝えたい」と思えるはずだ。その意思は必ず、話し手の表情と第 一声の挨拶にも表れる。 不思議なことに「心からの笑顔」かどうかは、聴き手には伝わってしまう。また、 小さな子供ほど鋭く見破るものである。したがって、いわゆる「営業スマイル」は 通用しない。小学生が相手だとしても「聴き手への敬意」を忘れないことが大切だ。 筆者が小学6年生80人を相手にアメリカやスウェーデンなど「世界の図書館探 訪記」について話した際、アンケートに「あやすような口調など、子供扱いをしな いでくれて嬉しかった」と書かれた経験がある。これは、12歳というその時点で の年齢だけを基準にしないで「将来、ハーバード大学に留学して、君もこのワイ ドナー記念図書館で勉強するかも知れない」、「ノーベル平和賞を取って、君がこ の受賞会場(ノルウェーのオスロ市庁舎)に立つ日が来るかも知れない」という「い つかは、大人になる相手だ」という視点で話したからだろうと考えている。 「子供は無知なものだ」という決めつけが聴き手との間に見えないバリアを生ん でしまうように、「利用者はマナーが悪いものだ」という決めつけもまた危険であ る。「本を汚さないこと」、「静かにすること」などの「べからず集」ばかりのガイダ ンスもしばしば見受けられるが、まだ入学したばかりの1年生にとっては、本を
  • 8. 012 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 汚したのも騒いだのも、全く身に覚えのない濡れ衣である。そんな話からスター トする講習が、聴き手の興味を惹くはずがない。飲食物の持ち込み制限などを 「その図書館のルール」として伝える必要はもちろんあるが、「学びの楽しさ」に目 覚めた者は、自然と「本や情報に対する敬意」を払うようになるものだ。汚損や騒 音の予防策としては「マナー違反者予備軍への事前指導」よりも講習によって「学 びにワクワクさせる」ほうが、遥かに有効だ。 同じように、会場がざわついた際に「静かにしなさい!」と怒鳴ってばかりの講 習も、貴重な時間を無駄にしてしまう失敗例である。筆者は最大で1会場500人 ( 2回)の新入生向けガイダンスの経験があるが、だいたいの割合で言えば前列 に座った3割は、そもそも自らの「学びたい」という意思で熱心に聴く。中央の5 割は、必要を感じれば集中するが、もしも興味を感じなかったとしても一応は最 後まで聴く。問題は後ろのほうに座った2割で、この層を惹き込めるかどうかが 成否を分ける。最初に興味をもたせられなかったらたちまち私語が始まるだろう が、それを注意して黙らせるのに時間を取っていては、最初から前のほうで一生 懸命聴いている学生達に申しわけない。 比率の違いこそあれ、いずれの現場でもこのような現象は起きているはずだが、 「つまらなくとも、黙って座っていなさい」という話し手の要求を聞き入れてもら うより、最初のインパクトで「今日の話は、ひょっとしたら聴き逃すと損かもし れないぞ!?」と自分で気づかせるほうが、結果的には手っ取り早く静かになる。 筆者は、このような手強い講習の場合「一番後ろに座っているあのブロックが、 自らの意思で全員スマホを置いたら、自分の勝ち」というルールを心の中で設け て挑んでいる。その瞬間はだいたい最初の5分間が経過した頃に訪れるが、成功 すると、コツコツと準備してきた苦労が全て報われるような嬉しい気持ちになる。 このような場を、「図書館がいかに知的生産活動の助けとなり、人生を豊かに するか」に自ら気づかせるような、「図書館ファンを増やす活動の一環」と考えて みてはいかがだろうか。 3)「ここがポイント!」と分かるように話す 笑顔と挨拶の次に大切なのは、話し方である。 終始、お経のように抑揚なく平板なトーンで話してしまっては、伝わるものも
  • 9. 013ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 伝わらない。ましてや昼休み直後(大学で言うと3時限目)の「魔の時間帯」におい ては、聴き手は睡魔という強敵とも戦わなければならない。 ここでも「講習全体の目的」と同じように、まずは要点を箇条書きで見せてしま うことが大切である。話の全体像が見えず「どこが区切りか」、「どこがゴールか (いつ終わるか)」が分からない状態でダラダラと聴き続けた場合、よっぽど興味 のある内容でない限りは睡魔のほうが勝ってしまうだろう。 また、ひと固まりの文章の中で「最も重要な言葉」を強調して話すように心掛け ると、講習にリズムとドラマ性が生まれ、聴き手が理解しやすい。たとえば「皆 さんが日頃いろいろな場面で使っている『Web情報』と『図書館が集めた資料』と の違いは、『責任の有無』です。つまり『誰が言ったのか?』と後から辿れるかどう かです」と話すとしても、終始同じトーンではなく、『 』内の言葉に意識的に力 点を置くと伝わりやすい。これについては既知の読者も多いと思われるが、自身 が話した講習の録画や録音を見返して(聴き返して)みた経験はあるだろうか。も しなければ、一度でも試してみることをお勧めしたい。筆者が補講用の録画を見 返してみたところ、まさに「反省点の山」であった。たとえば「早口である(伝えた い内容を詰め込み過ぎ)」、「話が脱線する(そして、なかなか戻って来ない)」、「話 が飛ぶ(前提となる知識を伝える前に、より応用的な話をしてしまう)」など、見 逃せない欠点を多く知ることができた。 できれば他者(同僚)にも聴かせて意見を求めるとより良いのだが、もちろん自 分一人が聴くだけでも構わない。音声だけでも、ぜひ一度ICレコーダ(スマホに も録音機能があるものが増えてきた)を使って、聴き返してみる機会を設けてみ てほしい。 4)「たとえ話」を使って、具体的なイメージをもたせる 平易な文章に「たとえ話」を加えることによって、聴き手はより具体的にイメー ジして理解できる。筆者が大学図書館職員向けの研修で70分間話した講演録の 文字起こし原稿録では、「たとえば」という言葉を54回も使っていた。ほぼ1.3 分間に1回の「たとえ話」をしていた計算となる。さすがにこれは多過ぎるかも知 れないが、少しずつでも活用することを勧めたい。 さっそく例を挙げると、「レポートや仕事では、裏付けのある情報源しか使っ
  • 10. 014 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して てはいけません」と言われても、実感までは湧かない。そこで、以下のように話 してみてはどうだろうか。 「あなたがもしも病気にかかった時、主治医が治療法をフリー百科事典で調べ ていたら、どう思いますか?『ちょっと待って! 医学なら医学で、専門の機関 がつくったデータベースがあるんじゃないの? そんな情報源で調べて、万が一 にも間違っていたら、誰が責任を取るの?』と、考えるでしょう。 今の『医学』の部分を、そのまま将来あなたが就く仕事の分野に置き換えてみて ください。『法律』でも、『農業』でも、『輸出入』でも、『株式投資』でも、何でも構 いません。 命に関わる問題だと人は真剣になるので医学という分野を例に出しましたが、 『プロとして責任を取らなければならない』という意味で、『不確かかも知れない 情報源を使っても構わない』という分野は、この世に一つもありません」。 「伝えるべき要素」を単に過不足なく話すのと、このように「たとえ話」に落とし 込んで話すのでは、「実感として受け取るメッセージ」に違いが出るはずだ。 5)単に「聴く」だけでなく、レクチャーに参加させる 相手が数人であれ、500人であれ、「一方的に話し、聴く」講習と「お互いにや り取りして、聴き手の意思が反映される」講習では、後者のほうが興味と理解を 得られやすいのは当然であろう。 少人数のゼミなどであれば、簡単な自己紹介をして互いの素性を知った上で話 し始め、時々話を振って意見を求めながら進めるのが理想的だが、大人数が相手 の場合や時間が限られている際は、なかなかそこまではできない。そんな時は 「今日お話しする○○という言葉について、既に知っていた方はどれくらいいま すか?」と挙手を求めたり、「この図書館には、何冊の本があると思いますか? ①1,000冊 ②1万冊 ③5万冊のうちから、1つだけ選んでください」とクイズ を出してみるなど、双方向性をもたせることが可能である。 「どうやら会場の大部分が、初めて知った言葉のようですね」という流れになれ ば、聴き手は「自分だけが知らなかったわけではない」と安心できるし、話し手は 「基礎から説明したほうが良さそうだ」と、結果を講習に反映して内容をアレンジ することができる。 続きは本誌で