IT化と1億総クリエイター化:
知的財産権制度についての近い未来の話
東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻
特任助教 吉岡(小林)徹
t-koba@tmi.t.u-tokyo.ac.jp
1FIT2018福岡:「ITと法化」
n×109(nは7以下の自然数)
昭和期のモデル
Before the Internet era
• 財や情報の生産・伝達(流通)に十分な資源が必要
• インセンティブ(知的財産権)を付与して促進(田村, 2010)
2
生産・
創出
量産・
複製
伝達・
流通
田村善之(2010)『知的財産法 第5版』有斐閣. (Graphic source) FLATICON www.flaticon.com
昭和期のモデル
Before the Internet era
• 財や情報の生産・伝達(流通)に十分な資源が必要
• インセンティブ(知的財産権)を付与して促進(田村, 2010)
3
生産・
創出
量産・
複製
伝達・
流通
発明や外観
(意匠)を
特許権・意匠
権で一定期間
独占
発明や外観
(意匠)を
特許権・意匠
権で一定期間
製造・流通を
独占
表現物の複製
行為を著作権
で長期間独占
音楽などの流通
には著作隣接権
を付与
映画は著作権を
特定人に集約
∵投資の保護
商号・標章に定
着した信用を商
標権で付与
田村善之(2010)『知的財産法 第5版』有斐閣. (Graphic source) FLATICON www.flaticon.com
昭和期の知的財産保護モデルのポイントと前提
IP protection regime: Before the Internet era
• ボトルネックとなりうる複製・製造・流通を規制
• 集合的に行われることが多く、侵害行為が目に見えやすい
• なお、私的な領域で行われることはあまり多くなく、個人の活動
の自由や、消費者の利益を損なうことに繋がりにくい
• 著作物の複製を除く → そのため「私的複製の例外」を用意
• 絶対的な排他権は公示を求め、相対的な排他権は依拠を
求める
• 気が付かずに他人の権利を侵害してしまう可能性を緩和
• ただし、そもそも侵害があっても発見は必ずしも容易ではない
4
現代(平成期)のモデル - 1
After the Internet era
• 物・情報の生産・伝達(流通)の障壁が低下
5
生産・
創出
量産・
複製
伝達・
流通
コンピューターが
自動で制作 or
制作を支援
個人でもマルチ
メディアを作成
インターネットで
自由に発信
インターネットで
自由に発信
これらが
NEXT11レベル
まで広く普及
個人のクリエーターのエンパワ
メント=1億総クリエーター化
(中山信弘, 1996)
(Graphic source) FLATICON www.flaticon.com
現代(平成期)のモデル - 2
After the Internet era
• 物・情報の生産・伝達(流通)の障壁が低下
6
生産・
創出
量産・
複製
伝達・
流通
付加価値製造
(≒3Dプリン
ター)で1ロット
から生産
クリエーターに限らない個人の
エンパワメント
(Graphic source) FLATICON www.flaticon.com
• では次の10年は?
7
いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 1
Current challanges in the intellectual property protection system
• 音楽・言語・映像作品が自動で大量に生成
8
• 「誰が作品の法的な権利者なのか?」は実質的に問題でなく、これ
らを活用して作品を多数作り、あたかも人間(自然人)が生み出し
たかのように振る舞われたとき、どうするか、が問題
magenta
Google brain teamが中心と
なって開始したプロジェクト。
自動作曲・自動作画を実現。
Googleの提供するオープン
ソースの機械学習パッケージ
を使用。
いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 1
Current challanges in the intellectual property protection system
• 制約付きながら、創作そのもののサービス事業も拡大
9
• 途上国の数十億人からも創作が行われ、それが瞬時にインターネッ
トで共有されるなかで、古典的な知的財産権は必ずしも尊重されな
い恐れ(先進国側も然り:チェックしきれるだろうか?)
douyin(抖音)
中国のBytedance社
による短編動画共有
サービス
(Source)
https://www.douyin.com/
いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 1
Current challanges in the intellectual property protection system
• 工業製品のデザインも遠からず大量に生産
10
• グローバル化とも相まって、権利化のコストが安い意匠権を中心に、
大量の産業財産権の登録出願を行い、新規参入を阻害可能
• 商標ではすでに…(制度運用の隙間を突かれた面はあるが…)
Autodesk社(CAD開発企業)の実
験例。18世紀のデンマークの椅
子のデザインを学習させ、家具
を自動で設計
(Source) Wired,
https://www.wired.com/2016/10/elbo-
chair-autodesk-algorithm/
いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 1
Current challanges in the intellectual property protection system
• (参考)商標では文字の商標がすでに枯渇気味
11
商標登録の650万件のデータを分析し、
マーケティングの観点からは有利と
言われている、頻出後に近い語(造
語含む)、短い音節の語は枯渇傾向
にあることを示した
Barton Beebe & Jeanne C. Fromer, "Are We Running Out
of Trademarks? An Empirical Study of Trademark
Depletion and Congestion," Harvard Law Review, 131
(2017): 945-1045.
出願件数
登録査定率
平
均
音
節
数
いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 2
Current challanges in the intellectual property protection system
• デジタル化で侵害の発見が容易に…新たな「炎上」の種
12
• 「パクられる」ことは抑制される
• クリエーターは権利クリアランスのリスクが増える一方、非クリ
エーターには炎上を「楽しむ」時代に
(Source) 株式会社アンク, http://www.ank.co.jp/works/products/copypelna/
いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 2
Current challanges in the intellectual property protection system
• 知的財産権の厄介な問題も顕在化
• 著作権は、創作的な表現(表現選択の幅があるなかで選ばれた表
現)である限り発生
• 例:俳句、モジュール部分のコード
• ありふれた表現は保護されないが、とりあえず争うことはできてしまう
• 特許権は、新規、かつ、進歩的な技術思想である限り発生
• 一つの作品・製品・サービスの中に、大量の権利が含まれうる
• これも検知可能になってしまう
13
• 蟻が象の歩みを止めることも可能
いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 3
Current challanges in the intellectual property protection system
• 製品・サービスが多数の技術が組み合わさった複雑なシ
ステムに変化
14
• 知的財産権の「藪」(thicket)が実質的な問題
• 契約(例:open source licenseや標準化団体のIPR policy)で一定
の権利制限をかけるか、パテントプールで一括処理することで一定
度解消可能だが、限界あり
(Source) Tim Pohlmann & Knut Blind, https://www.iplytics.com/wp-
content/uploads/2017/04/Pohlmann_IPlytics_2017_EU-report_landscaping-SEPs.pdf
いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 3
Current challanges in the intellectual property protection system
• "Connected" = 産業間連携
15
(Source) Nokia, http://company.nokia.com/sites/default/files/styles/tablet_1440/public/lander/liftup/nokia-startup-
explosion-of-possibilities-nt.png?itok=Vc0PVNn2
• 知的財産権が産業を大きく超えて利用される(→契約処理が難化)
通信機器メーカーのNokiaは自動車、工場、生活を
つなぐ存在に
いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 4
Current challanges in the intellectual property protection system
• Additive manufacturingで遠からずロット数1も実現
16
• 大規模な製造元・流通元を抑える特許制度・意匠制度のアプローチ
に限界が発生
(Source) 3D Systems,
https://ja.3dsystems.com/how-to-buy/3d-printers
高精度な付加製造を実現する機器メーカーが多数登場。
3Dシステムズはその一例。
いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 4
Current challanges in the intellectual property protection system
• ものづくりはより小ロットに・ボーダレスに
17
• 日本で排他権を持つことの意味は減少(なくなるわけではない)
(Source) 高須正和(日経ビジネスオンライン)
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/0309
00211/040600003/?P=2&mds
いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 4
Current challanges in the intellectual property protection system
• (参考)Shenzhenの現状
18
(Source)
筆者撮影
いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 5
Current challanges in the intellectual property protection system
• 技術+分析+「データ」
• Economist誌では次世代の「資源」はデータと紹介
• "The world’s most valuable resource is no longer oil, but data"
19
• データ(とくに個人に関わるデータ)と試行錯誤(ユースケース)
が、希少な資源に
• ありものを組み合わせて安全に使われる方が有利に
(Source) Economist, May 6, 2017
いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 5
Current challanges in the intellectual property protection system
• データは知的財産権の保護対象外
• 国としての囲い込みの動きはあるが、基本的には契約で決めてい
く世界
• 意味のあるデータを組み合わせれば価値が生まれる
• GAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple) + BAT (百度, 阿里
巴巴, 騰訊)がデータを寡占…しているがいつまで続くのか?
• 囲い込めばユーザーは限られる
• データを共有可能な形にすると乗り換えられる
20
小括
In a nutshell...
21
作品・製品・サービス
に関わる知的財産権の
数の増加、権利の藪化
権利クリアランスの
難度上昇
知的財産権侵害発見の
容易化
知的財産権侵害の抑止
の困難化
知的財産権の実効性
の確保の難度上昇
創作行為の自動化
製品・サービスのシス
テム化
Connected
グローバルな権利者の
増加
侵害発見の自動化
グローバルな創作、製
造の増加
小ロット化、流通の分
散化
創る人の弱体化
創らない人のエンパ
ワメント
データの資源化 使われることが重要に
あり物の組み合わせが
有利に
では私達はどうするべきか?
What should we do?
• 契約で法制度を一定度オーバーライドすることが手
• これにより「創る人のコミュニティ」を創る
• 契約で一定の制約をつけつつ、お互いの成果を使いあえ
る環境づくりが望ましい
• Creative CommonsやOpen source licenseの取り組みは近い将
来にも有効
• 大事になるのは契約を作り、理解していく力
• 日本の企業・個人双方の学び直しが必要な面がある
22
制度に期待してはいけない!!
知的財産の自発的"オープン"に利点はあるのか?
Does IP-sharing bring benefit to originating actors?
• 技術が他社に伝わったとしても、その企業は伝わった先
の企業から技術を学ぶことができる(Yang et al., 2010;
Yoneyama, 2013; Alnuaimi & George, 2016; Yoshioka-Kobayashi &
Watanabe, 2018)
• 再吸収を含む自組織への知識の流れの多い組織は財務パ
フォーマンスが良い (Belenzon, 2012)
23
(Graphic source) FLATICON www.flaticon.com
X社
Y社
Z社
X社
スピルオーバー
(意図的かどうかを
問わず他組織に技術
が移転)
再吸収
技術の源流と
なった組織
受け手組織
源流組織
発明の生産性が上昇(Yang et al., 2010)、
質の高い発明を生産(Yoshioka-Kobayashi
& Watanabe, 2018)
知的財産の自発的"オープン"の利点
Does IP-sharing bring benefit to originating actors?
• なぜ大事か?=組織の異分野の技術知識の学習には障壁
あり
• 組織によって技術吸収能力が存在 (Cohen & Levinthal, 1990)
• 事前に有している知識基盤が主に影響する
• そのため、例えば技術獲得のM&Aは容易に成功しない
• 成功のためには買収企業が被買収企業の技術分野の知識を一定程
度有していないといけない (Desyllus & Hughes, 2010)
• 「自分にはわからないが、買ってくればよい」は幻想
24
(Graphic source) FLATICON www.flaticon.com
IBMパテントコモンズの効果の検証
Empirical analysis on the impact of Patent Commons Project by IBM
25
20052002-04 2006-08 2009-11 2012-14
処置群特許
(パテント・
コモンズ)
対照群特許
引用
被引用特許=処置群・対照群
を引用する後続の特許
2002-04
被
引
用
数
2006-08
パテント・コモンズの効果
被引用特許の出願年
対照群特許
処置群特許
-1
-0.5
0
0.5
1
1.5
'06-08 '09-11 '11-14
Differencebetween
treatedand
control(Growrthofforward
citationsto'02-04)
Self forward citations growth External
特許のコモンズは自組織での後続開発を促す
Patent Commons stimulates internal technology development
26
***
***
***
n.s.
n.s.
n.s.
*** 0.1%水準で統計的に有意, n.s. 非有意
(n=878 - 884 : 対照群グループにより異なる)
コモンズ内の特許は平均して1件
自己被引用数が多い
02
~
04
の
被
引
用
数
か
ら
の
伸
び
自己被引用
伸び
外部からの
被引用伸び
(Source) 吉岡(小林)徹、東京大学政策ビジョン研究センターシンポジウム発表資料
http://pari.u-tokyo.ac.jp/wp-content/uploads/2018/09/yoshioka.pdf
知的財産の自発的"オープン"から得られるもの
Non-financial returns from IP-sharing
• 少なくとも技術的知識のオープンは、さらなる技術的知
識となって帰ってくる
• 「与えよ、さらば与えられん」
• これを支えるのが契約
• Creative Commonsにせよ、GPLライセンスにせよ、契約
• 守らない者に反撃するために、知的財産権を使っている
27
小括
In a nutshell (cont.)
28
創る人の弱体化
創らない人のエンパ
ワメント
創る人の「創る」た
めのコミュニティ
例)Open source
コミュニティ
契約が重要

IT化と1億総クリエイター化:知的財産権制度についての近い未来の話

  • 1.
  • 2.
    昭和期のモデル Before the Internetera • 財や情報の生産・伝達(流通)に十分な資源が必要 • インセンティブ(知的財産権)を付与して促進(田村, 2010) 2 生産・ 創出 量産・ 複製 伝達・ 流通 田村善之(2010)『知的財産法 第5版』有斐閣. (Graphic source) FLATICON www.flaticon.com
  • 3.
    昭和期のモデル Before the Internetera • 財や情報の生産・伝達(流通)に十分な資源が必要 • インセンティブ(知的財産権)を付与して促進(田村, 2010) 3 生産・ 創出 量産・ 複製 伝達・ 流通 発明や外観 (意匠)を 特許権・意匠 権で一定期間 独占 発明や外観 (意匠)を 特許権・意匠 権で一定期間 製造・流通を 独占 表現物の複製 行為を著作権 で長期間独占 音楽などの流通 には著作隣接権 を付与 映画は著作権を 特定人に集約 ∵投資の保護 商号・標章に定 着した信用を商 標権で付与 田村善之(2010)『知的財産法 第5版』有斐閣. (Graphic source) FLATICON www.flaticon.com
  • 4.
    昭和期の知的財産保護モデルのポイントと前提 IP protection regime:Before the Internet era • ボトルネックとなりうる複製・製造・流通を規制 • 集合的に行われることが多く、侵害行為が目に見えやすい • なお、私的な領域で行われることはあまり多くなく、個人の活動 の自由や、消費者の利益を損なうことに繋がりにくい • 著作物の複製を除く → そのため「私的複製の例外」を用意 • 絶対的な排他権は公示を求め、相対的な排他権は依拠を 求める • 気が付かずに他人の権利を侵害してしまう可能性を緩和 • ただし、そもそも侵害があっても発見は必ずしも容易ではない 4
  • 5.
    現代(平成期)のモデル - 1 Afterthe Internet era • 物・情報の生産・伝達(流通)の障壁が低下 5 生産・ 創出 量産・ 複製 伝達・ 流通 コンピューターが 自動で制作 or 制作を支援 個人でもマルチ メディアを作成 インターネットで 自由に発信 インターネットで 自由に発信 これらが NEXT11レベル まで広く普及 個人のクリエーターのエンパワ メント=1億総クリエーター化 (中山信弘, 1996) (Graphic source) FLATICON www.flaticon.com
  • 6.
    現代(平成期)のモデル - 2 Afterthe Internet era • 物・情報の生産・伝達(流通)の障壁が低下 6 生産・ 創出 量産・ 複製 伝達・ 流通 付加価値製造 (≒3Dプリン ター)で1ロット から生産 クリエーターに限らない個人の エンパワメント (Graphic source) FLATICON www.flaticon.com
  • 7.
  • 8.
    いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 1 Currentchallanges in the intellectual property protection system • 音楽・言語・映像作品が自動で大量に生成 8 • 「誰が作品の法的な権利者なのか?」は実質的に問題でなく、これ らを活用して作品を多数作り、あたかも人間(自然人)が生み出し たかのように振る舞われたとき、どうするか、が問題 magenta Google brain teamが中心と なって開始したプロジェクト。 自動作曲・自動作画を実現。 Googleの提供するオープン ソースの機械学習パッケージ を使用。
  • 9.
    いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 1 Currentchallanges in the intellectual property protection system • 制約付きながら、創作そのもののサービス事業も拡大 9 • 途上国の数十億人からも創作が行われ、それが瞬時にインターネッ トで共有されるなかで、古典的な知的財産権は必ずしも尊重されな い恐れ(先進国側も然り:チェックしきれるだろうか?) douyin(抖音) 中国のBytedance社 による短編動画共有 サービス (Source) https://www.douyin.com/
  • 10.
    いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 1 Currentchallanges in the intellectual property protection system • 工業製品のデザインも遠からず大量に生産 10 • グローバル化とも相まって、権利化のコストが安い意匠権を中心に、 大量の産業財産権の登録出願を行い、新規参入を阻害可能 • 商標ではすでに…(制度運用の隙間を突かれた面はあるが…) Autodesk社(CAD開発企業)の実 験例。18世紀のデンマークの椅 子のデザインを学習させ、家具 を自動で設計 (Source) Wired, https://www.wired.com/2016/10/elbo- chair-autodesk-algorithm/
  • 11.
    いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 1 Currentchallanges in the intellectual property protection system • (参考)商標では文字の商標がすでに枯渇気味 11 商標登録の650万件のデータを分析し、 マーケティングの観点からは有利と 言われている、頻出後に近い語(造 語含む)、短い音節の語は枯渇傾向 にあることを示した Barton Beebe & Jeanne C. Fromer, "Are We Running Out of Trademarks? An Empirical Study of Trademark Depletion and Congestion," Harvard Law Review, 131 (2017): 945-1045. 出願件数 登録査定率 平 均 音 節 数
  • 12.
    いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 2 Currentchallanges in the intellectual property protection system • デジタル化で侵害の発見が容易に…新たな「炎上」の種 12 • 「パクられる」ことは抑制される • クリエーターは権利クリアランスのリスクが増える一方、非クリ エーターには炎上を「楽しむ」時代に (Source) 株式会社アンク, http://www.ank.co.jp/works/products/copypelna/
  • 13.
    いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 2 Currentchallanges in the intellectual property protection system • 知的財産権の厄介な問題も顕在化 • 著作権は、創作的な表現(表現選択の幅があるなかで選ばれた表 現)である限り発生 • 例:俳句、モジュール部分のコード • ありふれた表現は保護されないが、とりあえず争うことはできてしまう • 特許権は、新規、かつ、進歩的な技術思想である限り発生 • 一つの作品・製品・サービスの中に、大量の権利が含まれうる • これも検知可能になってしまう 13 • 蟻が象の歩みを止めることも可能
  • 14.
    いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 3 Currentchallanges in the intellectual property protection system • 製品・サービスが多数の技術が組み合わさった複雑なシ ステムに変化 14 • 知的財産権の「藪」(thicket)が実質的な問題 • 契約(例:open source licenseや標準化団体のIPR policy)で一定 の権利制限をかけるか、パテントプールで一括処理することで一定 度解消可能だが、限界あり (Source) Tim Pohlmann & Knut Blind, https://www.iplytics.com/wp- content/uploads/2017/04/Pohlmann_IPlytics_2017_EU-report_landscaping-SEPs.pdf
  • 15.
    いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 3 Currentchallanges in the intellectual property protection system • "Connected" = 産業間連携 15 (Source) Nokia, http://company.nokia.com/sites/default/files/styles/tablet_1440/public/lander/liftup/nokia-startup- explosion-of-possibilities-nt.png?itok=Vc0PVNn2 • 知的財産権が産業を大きく超えて利用される(→契約処理が難化) 通信機器メーカーのNokiaは自動車、工場、生活を つなぐ存在に
  • 16.
    いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 4 Currentchallanges in the intellectual property protection system • Additive manufacturingで遠からずロット数1も実現 16 • 大規模な製造元・流通元を抑える特許制度・意匠制度のアプローチ に限界が発生 (Source) 3D Systems, https://ja.3dsystems.com/how-to-buy/3d-printers 高精度な付加製造を実現する機器メーカーが多数登場。 3Dシステムズはその一例。
  • 17.
    いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 4 Currentchallanges in the intellectual property protection system • ものづくりはより小ロットに・ボーダレスに 17 • 日本で排他権を持つことの意味は減少(なくなるわけではない) (Source) 高須正和(日経ビジネスオンライン) https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/0309 00211/040600003/?P=2&mds
  • 18.
    いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 4 Currentchallanges in the intellectual property protection system • (参考)Shenzhenの現状 18 (Source) 筆者撮影
  • 19.
    いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 5 Currentchallanges in the intellectual property protection system • 技術+分析+「データ」 • Economist誌では次世代の「資源」はデータと紹介 • "The world’s most valuable resource is no longer oil, but data" 19 • データ(とくに個人に関わるデータ)と試行錯誤(ユースケース) が、希少な資源に • ありものを組み合わせて安全に使われる方が有利に (Source) Economist, May 6, 2017
  • 20.
    いま起こっていることと知的財産制度の関係 - 5 Currentchallanges in the intellectual property protection system • データは知的財産権の保護対象外 • 国としての囲い込みの動きはあるが、基本的には契約で決めてい く世界 • 意味のあるデータを組み合わせれば価値が生まれる • GAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple) + BAT (百度, 阿里 巴巴, 騰訊)がデータを寡占…しているがいつまで続くのか? • 囲い込めばユーザーは限られる • データを共有可能な形にすると乗り換えられる 20
  • 21.
  • 22.
    では私達はどうするべきか? What should wedo? • 契約で法制度を一定度オーバーライドすることが手 • これにより「創る人のコミュニティ」を創る • 契約で一定の制約をつけつつ、お互いの成果を使いあえ る環境づくりが望ましい • Creative CommonsやOpen source licenseの取り組みは近い将 来にも有効 • 大事になるのは契約を作り、理解していく力 • 日本の企業・個人双方の学び直しが必要な面がある 22 制度に期待してはいけない!!
  • 23.
    知的財産の自発的"オープン"に利点はあるのか? Does IP-sharing bringbenefit to originating actors? • 技術が他社に伝わったとしても、その企業は伝わった先 の企業から技術を学ぶことができる(Yang et al., 2010; Yoneyama, 2013; Alnuaimi & George, 2016; Yoshioka-Kobayashi & Watanabe, 2018) • 再吸収を含む自組織への知識の流れの多い組織は財務パ フォーマンスが良い (Belenzon, 2012) 23 (Graphic source) FLATICON www.flaticon.com X社 Y社 Z社 X社 スピルオーバー (意図的かどうかを 問わず他組織に技術 が移転) 再吸収 技術の源流と なった組織 受け手組織 源流組織 発明の生産性が上昇(Yang et al., 2010)、 質の高い発明を生産(Yoshioka-Kobayashi & Watanabe, 2018)
  • 24.
    知的財産の自発的"オープン"の利点 Does IP-sharing bringbenefit to originating actors? • なぜ大事か?=組織の異分野の技術知識の学習には障壁 あり • 組織によって技術吸収能力が存在 (Cohen & Levinthal, 1990) • 事前に有している知識基盤が主に影響する • そのため、例えば技術獲得のM&Aは容易に成功しない • 成功のためには買収企業が被買収企業の技術分野の知識を一定程 度有していないといけない (Desyllus & Hughes, 2010) • 「自分にはわからないが、買ってくればよい」は幻想 24 (Graphic source) FLATICON www.flaticon.com
  • 25.
    IBMパテントコモンズの効果の検証 Empirical analysis onthe impact of Patent Commons Project by IBM 25 20052002-04 2006-08 2009-11 2012-14 処置群特許 (パテント・ コモンズ) 対照群特許 引用 被引用特許=処置群・対照群 を引用する後続の特許 2002-04 被 引 用 数 2006-08 パテント・コモンズの効果 被引用特許の出願年 対照群特許 処置群特許
  • 26.
    -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 '06-08 '09-11 '11-14 Differencebetween treatedand control(Growrthofforward citationsto'02-04) Selfforward citations growth External 特許のコモンズは自組織での後続開発を促す Patent Commons stimulates internal technology development 26 *** *** *** n.s. n.s. n.s. *** 0.1%水準で統計的に有意, n.s. 非有意 (n=878 - 884 : 対照群グループにより異なる) コモンズ内の特許は平均して1件 自己被引用数が多い 02 ~ 04 の 被 引 用 数 か ら の 伸 び 自己被引用 伸び 外部からの 被引用伸び (Source) 吉岡(小林)徹、東京大学政策ビジョン研究センターシンポジウム発表資料 http://pari.u-tokyo.ac.jp/wp-content/uploads/2018/09/yoshioka.pdf
  • 27.
    知的財産の自発的"オープン"から得られるもの Non-financial returns fromIP-sharing • 少なくとも技術的知識のオープンは、さらなる技術的知 識となって帰ってくる • 「与えよ、さらば与えられん」 • これを支えるのが契約 • Creative Commonsにせよ、GPLライセンスにせよ、契約 • 守らない者に反撃するために、知的財産権を使っている 27
  • 28.
    小括 In a nutshell(cont.) 28 創る人の弱体化 創らない人のエンパ ワメント 創る人の「創る」た めのコミュニティ 例)Open source コミュニティ 契約が重要