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アンケート調査からみた全国の高等学校におけるGIS利用の現状と課題
- 2. 研究目的 • 2022年から高等学校の地理歴史科において 「地理総合」が必修化されることに • 「地理総合」ではGIS（地理情報システム）の 利用が学習指導要領に位置づけられた • 現在高校でのGIS利用は普及していないといわ れるが、近年の調査は少ない • 全国調査でGIS利用の実態を明らかにし、地理 総合でのGIS利用の課題を検討する
- 3. 調査の方法 • 全国の公立高校から約4割にあたる1331校を無 作為抽出 • 2017年6月に調査票を郵送 • 高校の地歴科教員のうち、地理を専門とする教 員がいる場合はその教員に、いない場合はその 他の専門の教員が代表して回答 • 有効回答476校、全都道府県から回収
- 4. 調査の項目 • 学校に関する項目 • 地理の開講状況 • 普通教室での投影設備・インターネット接続の情報 機器の整備状況 • 教員に関する項目 • 年齢、専門分野、担当した科目 • 大学でのGIS学習経験、GISの研修経験、GISに関する 知識 • 授業でのGIS利用状況、使用ソフト、今後の利用指 向 • GIS利用の課題に関する自由記述
- 5. 対象校での地理の開校状況と回答し た教員の専門 地理Aまた は地理Bど ちらかを開 講, 424, 89% どちらも開 講せず, 52, 11% 地理の開講状況 n=476 地理, 283, 59% 歴史・公民, 193, 41% 回答した教員の専門 n=476 地理を開講していない高校が 1割、地理を専門とする教員 のいない高校が4割を占める。
- 6. 回答した教員の専門と年齢構成 0 20 40 60 80 100 120 140 20代 30代 40代 50代 60代 （人） 年齢 専門分野・年齢別教員数 地理 歴史・公民 地理を専門とする教員 は歴史・公民の教員よ りも年齢層が高い
- 10. GIS利用者の特徴 • 普通教室で投影機器やインターネット接続が整 備されている • 地理を専門とし、大学でGISを実習形式で学ぶ か、研修でGISを学んでいる • 若い教員ほどGISを利用する傾向が見られるが、 地理を専門とする若い教員は少ない 高校での設備面で の改善と、教員へ の研修がGIS利用の 普及に効果がある
- 11. GISを利用した科目と利用方法 0 50 100 教員による資料提示 GISの概念説明 生徒による作図 生徒のGIS技能習得指導 野外調査 その他 授業でのGISの利用方法 （人） 複数回答,n=114 0 50 100 地理B 地理A 歴史系科目 公民系科目 その他 GISを利用した科目 （人） 複数回答,n=114 GISは主に地理で使われ、主に資料提 示のツールとして使われている
- 12. 授業や授業の準備で利用したGIS 0 20 40 60 80 100 Google Earth 電子地図（CD-ROM等） MANDARA カシミール3D 今昔マップ3 ハイマップマイスター デジタル教科書 Green Map ArcGIS 地図太郎 NinoMap QGIS その他 Googleマップ等地図サービス 地理院地図 今昔マップ on the web e-Stat RESAS その他 授業や授業の準備で利用したGIS （人） 複数回答,n=114 デスクトップGIS Web GIS 使われているデスクトップGISは、 Google Earth、MANDARA、カシミー ル3Dなど2000年代から定番のソフト WebGISでは、一般の地図サービスの ほか、地理院地図、今昔マップon the webなどでが使われている。
- 13. 0% 20% 40% 60% 80% 100% 継続利用者 利用中断者 地理 歴史・公民 大いにある 多少ある あまりない GIS利用 者の利用 状況 GIS非利用 者の専門 （67人） （47人） （190人） （172人） GISの利用状況別にみたGISを利用した 授業への関心 GIS利用者では、継続利用者でGIS授業への関 心が高い。GIS非利用者では、歴史・公民を専 門とする教員で関心の低い者も見られる。 ※利用中断者とは、GIS を授業で使用したこと はあるが、最近3年間は 使っていない者
- 14. 0% 20% 40% 60% 80% 100% 継続利用者 利用中断者 地理 歴史・公民 デスクトップGIS WebGIS スマホ・タブレットのアプリ わからない GIS利用 者の利用 状況 GIS非利用 者の専門 （67人） （47人） （190人） （172人） GISの利用状況別にみた地理総合で利 用したいGISの種類 GIS利用者では、WebGISがもっとも期待されて いる。非利用者では、「わからない」が多く 利用イメージを持てない者が多い。
- 15. 教員がGISを習得するために適当な方法 0 100 200 300 400 対面での少人数実習形式 対面での一斉実習 対面での講義形式 Webを利用した独学 テキスト・本による独学 教員がGISを習得するために適当な方法 （人） 複数回答,n=476 GISの習得方法では対面での少人数実習形式が 望まれており、独学には期待できない。
- 16. 0 20 40 60 80 100 120 設備全般（PCやネット等の整備） 普通教室の設備 予算（ソフトやハードの費用） PC教室・特別教室の利用 PCやLANのセキュリティ 設備の学校間格差 GISに関する技能・理解度 地理・GISに詳しい教員の不足 周囲の理解 その他教員の問題 GISの実習時間の確保 大学受験 利用法・評価方法が不明確 GIS利用の目的化・紙地図との関係 その他カリキュラム 研修・技術習得 研修・GIS技術習得の時間 時間全般 教材研究の時間 ソフトの改善・整備 GISを用いた授業案や教材不足 生徒の問題 その他 （指摘数） 設備 教員 カリキュ ラム 研修 時間 教材 その他 GIS利用の課題として挙げられた事項 の分類 ※256人のべ454件の自 由記述の指摘を分類し たもの 設備面の課題の指摘が最も多く、PCや ネット環境の整備がまず必要である。
- 17. 課題の指摘事項の例 指摘事項の例（都道府県） 設備 必修科目では全生徒が使用するPCが不足し，生徒に示すだけになる 学校のネット環境が悪く，生徒全員がネットでダウンロードするとフリーズする 機器のメンテナンスが必要で，教育現場で導入される機器は結局失敗する 教室へのLANの整備 大型ディスプレイ，プロジェクタのない部屋が多い 各教室に無線LANを設置するかプロジェクタを備え付けないと活用は難しい 教室のネット回線が未整備で，ポケットWi-Fiやテザリングを用いてGISを利用 ソフトウェア導入のための費用が確保できない システムの導入・維持・更新のための経費 PC教室は「情報」の授業が優先され，いつも使えるわけではない PC教室はあるが「情報」の授業で入る余地はない サイト観覧に制限がかかっており，必要な情報を利用しにくい PC教室のPCにGISをインストールするのが難しい 設備の学校間格差 県立学校でも学校により設備が異なり，転勤すると困ることがある 教員 GISについて詳しくわからない 教員が生徒に教えるだけの技術の習得 PCの知識がない教員にはハードルが高い GISで何ができるのかわからず，したがって課題も分からない GISを学んだことがなく，PCも人並みの技術力で，活用するのは負担が大きい 小規模高校の場合，地理の専門でなくても講座を持たざるを得ない 県に地理の教員がほとんどいないため，指導できる人材が必要 周囲の理解 他教科教員の理解 ICT化するにも学校全体で教職員の意識に温度差がある PC技術に通じていないと動作不良などに対応できない GIS活用以前の読図，作図スキル不足 課題の分類 普通教室の設備 GISに関する技能・理 解度 地理・GISに詳しい教 員の不足 PC教室・特別教室の利 用 PCやLANのセキュリ ティ その他教員の問題 設備全般（PCやネット 等の整備） 予算（ソフトやハード の費用）
- 18. GISの実習時間の確保 地理Aのような時数の少ない中でGIS教材を活用するのは難しい 時間をとることができればGISソフトを生徒が使う学習をやってみたい 大学受験 入試対応の授業でGISをどう利用するのか 進学校での活用方法 大学入試に必要ない内容を指導することは進学校では難しい どこまで時間をかけるべきか，どのくらい重要なのかが感覚的にわからない 評価の方法が不明 GIS利用の目的化・紙 地図との関係 GISを利用することが目的となり生徒が考えることをしなくなる その他カリキュラム 地理総合の中身もわからず，GISをどこまで活用するかわからない 研修 授業での実践事例などの研修が行われないと取り組むことが難しい 教員に対する研修の機会がない 使うことに研修が必要では普及しない GIS技術を習得した教員の育成 教員が研修を受けられる時間 GISを活用するための研修に参加するための時間 時間 時間全般 学校現場は，部活，委員会，行事などがありGISは時間的に無理 多忙さという実態 授業の合間の10分ではPCやプロジェクタの準備ができない 教材研究にかけられる時間がない 授業以外の仕事が多く教材を練る時間がない 教材 授業展開する上で簡単に使え，教科書との一体化が求められる Web上で無料で使えるもの 特に低学力者向けの授業案がほしい 生徒の興味・関心をひく教材づくりと授業実践が課題 その他 生徒の問題 家庭でのネット環境の差がICT機器を活用した実習で個人差を生む原因となる 教室が狭く1クラスの生徒数が多い その他 大学側と高校側の相互理解が深まればより良いGIS実践になる 地理院地図を教員が提示し，トップレベルでMANDARAが使えればよい カリキュ ラム GISを用いた授業案や 教材不足 教材研究の時間 研修・技術習得 研修・GIS技術習得の 時間 利用法・評価方法が不 明確 ソフトの改善・整備
- 19. GIS利用の現状のまとめ • 高校でのGIS利用率は23.9% • GISを利用している教員は、地理を専門とし、 大学でGISを実習形式で学ぶか、GIS研修を経験 し、情報機器の整備された学校に勤務する傾向 • GIS利用者は、無償のGISソフトやサービスを利 用し、WebGISへの期待が大きい
- 20. 地理総合でのGIS活用に向けて • 高校普通教室での投影機器、ネット接続の整備 が必要 • 大学の教職課程でGISを利用経験を持たせる • 現職教員に対してはGISの研修が有効 • 研修に際しては、教員の意欲や技術を考慮し、 WebGISの閲覧・操作を中心とした簡便な内容 で、授業内容に即したものが求められる