20200801-勉強会「なぜBLが不健全図書指定されるのか」 主催：AFEE エンターテイメント表現の自由の会

1. AFEE エンターテイメント表現の自由の会
「なぜBLが不健全図書指定されるのか」勉強会
BLの歴史と
「表現の自由」の意義
関西大学社会学部メディア専攻
守 如子（MORI Naoko)

2. 主な論文
2010『女はポルノを読む』青弓社
ライブラリー
2013「自慰経験による女子学生の
分化」日本性教育協会編『「若者
の性」白書：第7回青少年の性行
動全国調査報告』小学館
2015「性表現の自由と「女性」」
落合恵美子・他編『変革の鍵とし
てのジェンダー』ミネルヴァ書房
2017「女子が性表現の消費者にな
ることの意味」『関西大学社会学
部紀要』
2018（共著）『教養のためのセク
シュアリティ・スタディーズ』法
律文化社

3. 堀あきこ・守如子編 2020『BLの教科書』有斐閣
第１部
BLの歴史と概論
第２部
さまざまなBLと研究方法
第３部
BLとコンフリクト

4. 女性向け男性同士の恋愛表現
「（総称としての）BL」の歴史
藤本由香里（１章）：「男同士の愛」の4段階・4区分
（媒体も年代も違う）
★1970年代
①「少年愛」＝一般少女マンガ誌、「花の24年組」
②雑誌『JUNE』の創刊（1978）、「耽美」とも
★1980年代
③「やおい」という言葉の普及
80年代半ばの『キャプテン翼』の同人誌ブーム
★1990年代
④BL(Boys Love)：商業ジャンルとして成立
＊90年代の変化については西原麻里（３章）も参照

5. 90年代半ばまでの主流の論調
小谷真理 1994『女性状無意識〈テクノガイ
ネーシス〉：女性SF論序説』勁草書房
「ポルノグラフィの方法論を応用して具
体的な性描写を克明に描いているにもか
かわらず、基本的にキャラクター双方の
愛の絆（すなわち純愛）を追求すること
が主眼となっている」。

6. ＢＬコミック誌とセックスシーンのある
作品（2008年8月号、隔月の場合7月号）（守2010）
Chara（徳間書店） 15作品中1作品
comique Hug（飛鳥新社） 15作品中4作品
GUSH（海王社） 14作品中5作品
BE-BOY MAGAZINE（リブレ出版） 22作品中9作品
花音（芳文社） 17作品中7作品
drap（コアマガジン） 17作品中9作品
Daria（フロンティアワークス） 15作品中8作品
BE-BOY GOLD（リブレ出版） 15作品中9作品
ディアプラス（新書館） 14作品中9作品
コミックAQUA（オークラ出版） 15作品中11作品
麗人（竹書房） 12作品中10作品
BOY’Sピアス（マガジン・マガジン） 12作品中12作品
Boy‘s LOVE（マガジン・マガジン） 12作品中12作品
コミックJune（マガジン・マガジン） 11作品中11作品

7. 2000年代の読者投稿（守2010）
「毎号Hもりだくさんで楽しく読んでいます。夜
のお供デス💛」
「コミックジュネって、Hがとってもハードです
ごいけど、ストーリーはけっこう純愛なのよ
ねぇ。すごく一途だったり、愛情表現が不器用
だったりと、愛のために一生懸命な姿って、な
んか、とってもかわいくさえ思えてくるので
す。」

8. BL有害図書指定の問題
・堺市BL図書排除事件（2008年）：「女であり
ながら性的なものを好む者への嫌悪と、同性愛
の嫌悪」によって、BLが問題視。
・大阪府でのBL有害図書指定（2010年～）と書
店の混乱：書店には女性向けの18禁を扱う書棚
がない。
・BLを読んで性犯罪や非行、暴力行為に及ぶと
いうことはほとんどないのではないか。
堀あきこ2015「BL図書排除事件とBL有害図書指定からみ
る性規範の非対称性―女性の快楽に着目して」『マンガ
研究』21日本マンガ学会.（『BLの教科書』12章も参照）

9. 刑法の「わいせつ」問題（守2018）
・猥褻裁判の対象となった『チャタレイ夫人の
恋人』（1950）、『愛のコリーダ』（1976）は、
女性の性的主体性を主題とする作品
・2014年の検挙：愛知県美術館の鷹野隆大の男
性ヌード、ろくでなし子の女性器３Dデータ作品
⇒BL図書排除事件に重なるものではないか？

10. 性表現の自由と女性（守2015）
・戦前の検閲の基準：「年頃の娘を連れた母親
が、…気まずい思いをすることなくして、質問
に答え得る程度の表現」＝「女の性的主体とし
ての目覚めを圧殺する」ため（加納実紀代1992）
・愛のコリーダ、チャタレー裁判：女性が性的
無知に閉じ込められていることの問題が論じら
れる
⇒性表現の自由は、送り手にとってだけでなく、
「性表現を見たり、聞いたり、読んだりする人
間の自由のため」、特に、性から遠ざけられて
きた女性にとって重要。

11. BLの意義（守2017・2018）
・「妄想する私の不在」というしかけによって、
男性／女性という単純な二元論の陥穽に嵌まる
ことなく、現実にはない「自由で対等な関係
性」をリアルにイメージすることが可能になっ
ている（吉澤夏子2012）
・女性を性的対象としてみるまなざしが存在しな
いために、女性がまなざす＝自らの性的欲望を
語る主体になれる（金田淳子2007）
・自己のアイデンティティ確立にとって欠かすこ
とができないものだったというセクシュアル・
マイノリティの存在（溝口彰子2015）
…さまざまな意義が指摘。

12. ドゥルシラ・コーネル2006
『イマジナリーな領域』御茶の水書房
• イマジナリーな領域の保護は、自由の可能性そ
れ自体にとって決定的な意味をもつ。想像力を
更新し、それと共時的に、自分は誰であり、何
になろうとするのか再想像するための空間が確
保される必要がある
⇒BLは、自己のアイデンティティを模索する若
者にとって、重要な意味をもつ。

13. ポルノグラフィの問題とは？
（守2018）
・青少年の性行動全国調査：ポルノグラフィッ
クなメディアを「性の情報源」としていても、
性知識の正答率が低いわけではない。
・確かに、性表現というフィクションは、さま
ざまな表現の偏りをもつ。ただし、もしもその
ことを理解できていない人がいるならば、事実
を学ぶメディアリテラシー教育や性教育が必要
なだけではないか。