法学入門
基礎攻略講座
導入編
担当 高野泰衡
法とは・・・
人は社会共同生活を営む
多様な価値観・利益の衝突(=紛争)
放置しておくと秩序維持が図れない
そこで紛争解決のルールを作り秩序を維持する
法=社会の秩序を正しく保持するのに必要な 社会規範
*社会規範とは社会共同生活を営むうえで行為の基準となるもの
規範と法則
規範 法則
当為の規則
「~すべき」の世界
存在の規則
「~である」の世界
・人の意思による
・一定の価値観に基づく
・社会・時代で変化
・妥当か否かが問題となる
・人の意思によらない
・価値観とは無関係
・社会・時代に左右さ
れない
・発見されるもの
法と道徳 ①
・共通点:ともに社会規範
・差異は?
「法」
・人の外面的行為に関係
・従いさえすればよい
・技術的
「道徳」
・人の内面に関係
・動機まで要求
・倫理的
本質的差異ではない
ex.人を殺すな(刑法)
道徳法
倫理観を含まない技術的な法 高度な倫理観・道徳律
強制力をもつ倫理観を含む行為規範
「道路の右側を歩け」(道路交通法) 「お年寄りに席を譲りましょう」
「人の物を盗むな」「人を殺すな」(刑法)
法と道徳 ②
本質的差異:公権力による強制力の有無
法の定義
法とは、公権力による強制力をともなった社会規範
[参考]
定 義 = 種 差 + 最 近 類
↓ ↓
相違点・差異 共通点
【「定義」について】
法と権利・義務
権利とは、法が一定内容の不利益(義務)を他人に課すこと
により保護される特定個人の利益またはそれを主張できる地
位・資格のこと
人間社会における多様な生活関係
そこから生じる利益・不利益等
↓
法が規律→法的関係=権利義務の関係
A B
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法の分類①
成文法:意識的に定められ文章化された法(法規・制定法)
不文法:意識的に文章の形で定められたものではない
が法的拘束力の認められるもの。
慣習法や判例法などがある。
慣習法:一定の範囲の社会において反復して行われてきた
慣行で、法的拘束力認められたもの
判例法:裁判の集積によって見出される規範に法的拘束力の
認められるもの
*不文法が裁判の基準となる法源かが問題となるが、慣習法は
肯定されるが、判例法は事実上の拘束力にとどまるとされる。
法の分類②
私法:私人と私人の関係を規律する法
⇒民法・商法・会社法・手形法
公法:統治機構に関する事項および公権力と私人の関係を
規律する法
⇒憲法・刑法・民事訴訟法・刑事訴訟法
*分類の相対化
私法・公法の分類は今日絶対的なものではない。
私法の中にも会社法の罰則規定(特別背任罪)のよう
に公法的性格を有する規定もある。
法の分類③
一般法:特別法の適用範囲を含んだ、適用範囲の広い法
特別法:適用範囲の限定された法
*一般法、特別法は相対的な分類
民法>商法>会社法
*適用関係
特別法は一般法に優先する
特別法に適用法条がないときに一般法が補充的に
適用される
法の分類④
実体法:権利義務や刑罰など法律関係の内容を定めた法
(権利の発生・変更・消滅などの要件・効果が規定
されている)
⇒民法・刑法・会社法など
手続法:実体法で定められた法律関係を現実化する手続
きを定めた法
(裁判の手続きを定めた訴訟法が代表的)
⇒民事訴訟法・民事執行法・不動産登記法など
*実体法の中に手続き規定がおかれている場合もあり、
区別は絶対的なものではない
裁判:具体的な権利義務に関する争いに
法を解釈・適用して終局的に解決する国家作用
紛争の解決と裁判の仕組み①
紛争の発生⇒自律的解決が望ましい
↓しかし
適切な紛争解決になるとは限らない
↓そこで
「裁判」による公平な解決
[紛争解決のプロセス]
法的三段論法による←三段論法の応用
紛争の解決と裁判の仕組み②
・三段論法
小前提 を 大前提 にあてはめて 結論 を導く
A=Bである。C=Aである。ゆえにC=Bである。
(大前提) (小前提) (結論)
「人間は死ぬ」「ソクラテスは人である」 「ソクラテスは死ぬ」
・法的三段論法
事実 を 法規 にあてはめて 結論 を導く
(小前提) (大前提)
民法587条
結論
A・B間に金の授受と
返還の合意あり
貸金返還請求権の認容
紛争の解決と裁判の仕組み③
Bの借用書
法規
事実
経験則
証拠
事
実
認
定
のプ
ロ
セ
ス
法
適
用
のプ
ロ
セ
ス 判決
法の解釈・適用
事実認定
あてはめ
証拠の採用
二
段
の
法
的
三
段
論
法
合理的判断
同時並行的に試行錯誤しながら最終的判断
を固める(②と③を行き来しつつ判断)
妥当な結論を導くために
① 事件の具体的な事実関係を確定
② 事実に即した妥当な結論を考える
③ ②で出た結論を法規の解釈によって正当化
[裁判官の具体的な判断過程]
安心した社会生活ためには予測可能性が必要
↓すなわち
同種同様の事件・紛争は同様に解決されることが必要
=法的安定性
↓しかし
画一的過ぎると不当な結果になることもある
↓そこで
個別化し妥当な結論を導く
=具体的妥当性
法的安定性 具体的妥当性調和
法解釈の際の視点
法解釈の際の重要な視点
裁判制度の概要
[扱う事件による裁判の区別]
民事裁判:私人間の権利義務関係に関する紛争を解決する裁判
刑事裁判:犯罪の嫌疑を受けた者に対して有罪無罪を明らかにする裁判
行政裁判:行政機関の行為の違法性の有無を判断し、処分の無効や取消
しなどを行う裁判
[審級制]
ある事件についての裁判に不服がある場合、上級の裁判所に上訴
でき、数回の裁判を受けることのできる制度。日本は三審制を採用。
*ただし、すべての事件について常に3回審理・裁判を受けることできるわけではない
第1審
控訴
第2審(控訴審)
上告
第3審(上告審)
裁判所の構成と審級制
民事訴訟
簡易裁判所
地方裁判所
高等裁判所
最高裁判所
家庭裁判所
控訴
上告 控訴
上告
刑事訴訟
簡易裁判所
地方裁判所
高等裁判所
最高裁判所
家庭裁判所控訴
控訴
上告特別上告
条例
条約
法律
憲法
規則
法体系の階層構造 国家の基礎法
最高法規
国民が制定権者国家間の合意
内閣が締結
国会が承認 国会が制定
制定権者はさまざま
地方自治体
が制定各大臣が
制定
省令
政令
内閣が制定
国会の委任が必要
命令
第二百三条 占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所
持を失うことによって消滅する。ただし、占有者が占有回収の訴えを
提起したときは、この限りでない。
第二百四条 代理人によって占有をする場合には、占有権は、次に掲げる
事由によって消滅する。
一 本人が代理人に占有をさせる意思を放棄したこと。
二 代理人が本人に対して以後自己又は第三者のために占有物を
所持する意思を表示したこと。
三 代理人が占有物の所持を失ったこと。
2 占有権は、代理権の消滅のみによっては、消滅しない。
条文の構造 条 項 号 本文 ただし書き 柱書き
条文の読み方①
「又は」と「若しくは」の使い分け
いずれも“OR”の意味ではあるが単層的に複数のものをクループ分けす
るときは「又は」を使い、重層構造がある場合には一番大きいグループ
分けに「又は」を使い、それ以外のグループ内では「若しくは」を使う。
A又はB A、B、C又はD単層構造
重層構造 A若しくはB 又はC
ex.パスタ 若しくは ピザ 又は 鮨
ex.カルボナーラ、ペペロンチーノ 又は ボロネーゼ
条文の読み方②
「及び」と「並びに」の使い分け
いずれも“AND”の意味ではあるが単層的に複数のものを併合するとき
は「及び」を使い、重層構造がある場合には小さい接続では「及び」で併
合し、大きい接続のみ「並びに」で併合する。
A及びB A、B、C及びD単層構造
重層構造
ex.パスタ 及び ピザ 並びに 鮨
ex.カルボナーラ、ペペロンチーノ 及び ボロネーゼ
A及びB 並びにC
*なお、「かつ」という言葉も使われることがあるが、明確な使い分けはされていない。
条文の読み方③
「場合」、「とき」と「時」の使い分け
「場合」と「とき」は仮定的条件や前提条件をあらわす。いずれを使っても
意味は同じ。ただし、条件が重なったときは、大きい条件を「場合」で、小
さい条件を「とき」で表す。
雨が降った場合において 傘を持っていないとき
「時」は、ある時点をさす表現。
民法166条1項
消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
t
2018.4.20
法解釈の技術・手法
文理解釈:法規の意味内容を文言の通常の意味にしたがって明らかに
する解釈
論理解釈:法規の意味内容を立法目的や体系的な関連性を考慮しながら
明らかにする解釈
拡張解釈:法規の意味内容を文言の通常の意味より広くする解釈
縮小解釈:法規の意味内容を文言の通常の意味より狭くする解釈
類推解釈:ある事項についての規定がある場合に、それ以外の事項では
あるが類似性があるときに、条文の趣旨などから法規に修正を
加えて適用すると解釈すること
反対解釈:ある事項についての規定があるとき、それ以外の事項には
適用しないと解釈すること
例 「この橋、馬渡るべからず」
判例学習のポイント
・事案の概要
・争点
・裁判所の結論
・理由付け
・あてはめ
基本事項 発展
・評価
・規範を立てた判例か、
あてはめの判例か
・類似判例との比較
・前後関係
・判例の変化
・時代背景
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