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Proactive Copingと過去・現在・未来に対する見解との関連
〇 永峰 大輝 1,武田 清香 2,石川 智 3,石川 利江 4
1 東京女子医科大学医学部,2 東海大学医学部,
3桜美林大学ポジティブ心理学実践研究所,4桜美林大学大学院国際学研究科
Keywords | Proactive Coping,時間的展望,ストレスコーピング,ポジティブ心理学
日本健康心理学会第36回大会[ 2023年12月2日
(土)
~3日
(日)
] 神奈川大学みなとみらいキャンパス ラーニングコモンズ
方法
■ 調査対象者
Web調査会社のモニターに調査を行った。全項目で同一回答かつ,
指示項目に正しく答えなかった3名を除外し,
507名 (男性253名,
女性254名,
平均年齢41.33±17.54) を分析対象とした。
調査は2023年3月に行った。
■ 調査内容
• フェイスシート 生年月日,
性別
• 日本語版Proactive Coping Competence Scale (永峰他,
2021)
Proactive Copingの行動を測定する尺度。Aspinwall & Taylor
(1997) のステージモデルを基に開発された。各ステージに対応
する4因子を1次因子とした2次因子構造で構成される。
• 時間的展望体験尺度(白井,
1994)
時間的展望を測定する尺度。過去は
「過去受容」
,
現在は
「現在の充
実感」
,
未来は
「希望」
「目標志向性」
で測定する。
結果
P2-1
Proactive
coping
現実的な
目標設定
フィードバック
の活用
将来の評価
リソースの活用
希望
目標志向性
現在の充実感
過去受容
.51**
.24**
.24**
.74**
.68**
.10*
.27**
.11*
-.04
-.12**
.74**
.03
-.06
.23**
.10
.09
.11
.20**
.29**
.26**
.54**
.69**
.50**
.37**
.66**
.53**
*p < .05, **p < .01 実線は有意なパス,破線は有意ではないパス
時間的展望 Proactive coping
時間的展望からProactive copingの各因子への
影響を検討した。
■ 未来
未来を示す希望からは現実的な目標設定
(β= .24),
フィードバックの活用 (β= .29),
将来の評価 (β= .26),
リソースの活用(β= .23)
に正の影響を与えていた。
目標志向性からはフィードバックの活用
(β= .24),
将来の評価 (β= .27),
リソースの
活用 (β= .20) に正の影響を与えていた。
■ 現在
現在の充実感からはフィードバックの活用
(β= .10) と将来の評価 (β=.11) に正の影響を
与えていた。
■ 過去
過去受容からは将来の評価に負の影響を与えて
いた (β= -.12)。
モデルの適合度はχ2 (2) = 5.19, p = .08,
CFI = 1.00, RMSEA = .06, SRMR = .001であった。
考察
希望から全因子への影響 積極的な学習や精神的健康を促進するための
前向きなコーピングには,
将来の希望を高める方略を検討する必要がある。
目標志向性から現実的な目標への影響 影響が見られなかった理由では,
目標志向性の項目が漠然とした将来に対するイメージと捉えられるのに
対し,
現実的な目標設定は達成に対する意志や計画,
解決といった項目で
構成されており,
目標に対する具体性に違いが表れた可能性がある。
現在の充実感からリソースの活用への影響 影響がなかった理由として,
現在が充実しているからリソースが活用できるのではなく,
活用できるリ
ソースが多いから充実するという方向性の方が現実的である。
過去受容から将来の評価への影響 過去にとらわれる,
あるいは過去の
ストレス体験をうまく処理出来ていないと,
将来起こる可能性のある
ストレッサーに対して敏感に反応してしまう可能性がある。
背景と目的
■ Proactive coping
顕在化していないストレッサーに対して挑戦的な目標や個人的成長を
促進させるための努力(Schwarzer, 1999)
。
Lazarus
(1984)
のストレス理論では一次的評価で現在の感情・情動が,
二次的評価ではストレッサーのコントロールに過去の経験が影響する
と言われている。ポジティブ心理学の新たなコーピング理論である
Proactive copingも同様に,
過去・現在・未来に対する認識や状況から
影響を受けている可能性がある。
本研究では,
過去・現在・未来に対する認識が,
Proactive copingとどのように関連しているのか検討する。
目 的
従来のコーピング
Proactive coping
現在 未来
過去
? ?
?
ストレッサー
ストレッサー
感情・情動
経験・能力

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