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世界の食品・原材料・添加物トピックス(36) 未来の肉はアニマルフリーなのか?〈前編〉
- 2. また, クリーンミートは,細菌の抗生物質
耐性と人獣共通感染症(動物からヒトにうつ
る感染症)の発生という,畜産業関連の2つ
の公衆衛生上の脅威を解決できる。どちらも
集約型農場からの出現率が高く,特定の抗生
物質耐性遺伝子や人獣共通感染症固有の菌株
の感染源はたびたび,動物飼育場に特定され
る。グローバル化が着々と進行するなかで,
有効な抗生物質が減少し, これらの脅威が致
命的な結果を招くリスクが非常に高まってい
る。世界保健機関(WHO)は, 2017年11月
に畜産用動物の抗生物質使用を減らすよう勧
告を出した。WHOの食品安全・人畜共通感
染症部長の宮城島一明氏は「動物の抗生物質
の過剰使用が抗生物質耐性の出現につながる
ことが科学的に証明されている。動物起源
の食糧に対する需要の高まりから,動物に使
用される抗生物質の量は世界中で増加し続け
ている。」と述べている。
クリーンミートは,動物と抗生物質の両方
を食糧生産プロセスから完全に排除すること
ができるのである。
3.クリーンミートの生産
クリーンミートの大規模生産における重要
な技術的課題は,セルライン(動物細胞培養
器)の開発,細胞培養栄養培地,足場作りと
製品構造化,工程が組み込まれたバイオリア
クターの4つの要素に分けられる。クリーン
ミートは,商業規模どころかパイロット規模
の施設もまだ存在しないが,細胞療法や再生
医療用などさまざまな分野で大規模細胞培養
に向けた動きが急速に進んでいることから,
クリーンミート生産プロセスがどのような規
模になるか洞察が得られるようになった。ク
リーンミート生産プロセスは, 2つの段階に
概念化できる。第1段階は増殖段階で,細胞
が分裂し増殖し塊になる。第2段階は分化ま
たは成熟段階で,細胞は増殖細胞から望む最
終細胞型(筋繊維,脂肪細胞など)に変化する。
2.多岐にわたるメリット
産業用食肉生産と比較したクリーンミート
の利点は何であろうか?最終的には,需要の
最大の要因はクリーンミートに対する消費者
の捉え方になるが,畜産業による食肉生産か
らクリーンミート生産への移行によってもた
らされる社会的,環境的メリットは,世界
規模で見れば非常に魅力的なものとなる。ク
リーンミートの具体的な利点は,安全性の向
上,地球資源の公平性,環境と持続可能性に
おける利点,公衆衛生上のリスクの低下など
を挙げることができる。
クリーンミートは屋内の管理された環境下
で培養されるため,サルモネラ菌,大腸菌な
どの食品媒介疾患の原因となる細菌汚染のリ
スクなく製造することができる。そのため抗
生物質を使用する必要もない。さらに,劣化
を加速する細菌が存在しないため, クリーン
ミートのシェルフライフは畜産業で生産され
た肉よりも著しく延長される。このことによ
り,製造業者から食料品店,消費者までのサ
プライチェーンのあらゆる段階で,食品ロス
が少なくなることが推定できる。裕福な国
の消費者に優先的に提供される食肉のため
の,家畜飼料の大量需要に起因する世界の穀
物市場の歪みも是正できる。クリーンミート
が効率的に生産できれば,国内外の食品の安
全性は確実に向上するのである。
環境面から, クリーンミートのライフサイ
クルアセスメントを畜産肉生産と比較する
と,前提条件にもよるが,水量,土地利用,
温室効果ガス排出量を桁違いに減ずることが
できる。畜産肉生産では,わずかな食肉を
得るために,畜産動物が代謝,移動,呼吸,
発熱などで大量のカロリーを消費するが, ク
リーンミートの生産方法にはこうしたカロ
リーは無用である。そのためクリーンミート
生産は本質的に,現在の畜産農業よりも持続
可能な生産方式であると予測されている。
月刊フードケミカル釦18-744