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瓦版
大福帳
最後に5分間以上の記入時間を可
能な限り設けたい
提出して退出し,次回冒頭に返却
する
感想ではなく,質問・意(異)見を
歓迎
メールは書いても書かなくてもよ
い
メディアの核・マントル
表層(地殻)=現代のメディアは,
各国とも似ている(グローバル・
スタンダード?)
マントル部分=近代のメディア
なので,共通項も多いが,民族
的な尾てい骨も引き摺っている
核部分=前近代のメディア。それぞれの民族で
固有性・特異性を抱えている
本授業では,日本の「メディアの核」に相当す
る“特異性”について考察していく
メディアの呪術性
中国・殷代/亀の甲羅に彫ら
れた甲骨文字(表意文字=漢字
の原形)。王が「あの世」との
交信(卜/占いの結果)を記して,
生贄と共に埋めた
エジプトのパピルス
も副葬品である死者
の書 の書が主な用途
メディウム=媒介者
この世とあの世を媒介する人
この世
あの世
媒介者
聖域
漢字
現世の王と常世の王たち
この世
あの世
琵琶法師(平家座頭)
平家の怨霊を鎮め,功績を伝える
武士階層(源氏)
平家の怨霊
媒介者
イタコ
チャネリング
生者
死者
媒介者
三
途
の
川
江戸期のメディア
新聞の機能とは何か?
統治の手段=官報・告示(木鐸)
カエサルの官報(紀元前)
市場(相場)取引の手段(インボイス)
ヴェネチアの手書き情報紙『ガゼッ
ト』(1536)
政治的論説の手段(政治宣伝ビラ)
17世紀イギリスの「Courant」
その他には? 瓦版を参考に考えよう!
1871年(明治4年)1月28日創刊
「横濱毎日新聞」:日本初の日刊紙
商
船
の
入
出
港
・
商
人
が
販
売
す
る
商
品
の
数
量
・
価
格
、
相
場
な
ど
経
済
情
報
が
主
高札
 法令(基本法)を板面に記して往来
など(高札場)に掲示して民衆に周知
させる方法
制札
 禁制を木札に書いたもの。一定地域内で
の乱暴停止などの禁制を発し,その内容
を個条書きにして広く民衆や軍兵に知ら
せるため,木札に書いて寺社の門前や村
落の入口などに掲げた。発布を告げる際
に用いたのが「木鐸」
瓦版
 日本の新聞学研究の先駆者・小野秀雄は『日
本新聞発達史』(1922)で,かわら版・新聞
錦絵を「新聞の前史」として位置付けたが,
欧米の新聞学の基準に照らし,“未熟で未発
達なニュース・メディア”として評価した
 確かに,瓦版は欧米型ジャーナリズムの枠内
で論じられるべきものではない。だが,現代
新聞学が初期に“捨象”してしまった部分に,
かわら版が有していた日本的なニュース・メ
ディア機能があった可能性は否定できない
欧州における,かわら版類似物
祭礼や定期市を利用し,専業の売り
子が各所で売り歩く一枚摺り
事件が発生するたび,
不定期に発行
Neue Zeitung,
Flugblatt,
Broadsideなどの名称
瓦版の語源
急ぐため,粘土に絵や文字を彫り,
瓦に焼いて原版にしたから
 16世紀末に「活版印刷術」が渡来
 手間を考えると,板木に彫るほうが速い
京都・四条河原で開かれ
た興行の番付が始祖だから
 語呂合わせにすぎない?
定説はない
瓦版売りの今日的イメージ
粋
鯔背(いなせ)
知的
正義漢
反権力的
岡っ引き(目
明かし)と仲
良し?
『銭形平次』などテレビ時代劇で定着。明治期の号外売りに近い
読売(辻売)
 深編笠で市中で内容(説話)を読み上げ
る「大道芸」の一つ
 「おひねり」を得たときに,
その見返りとして,刷り物(一
枚摺)を手渡す
 賤業。香具師・際物師の類
 ただし板木彫は武士の内職
落書・落首
瓦版は,落書・落首・童謡(わざう
た)などアンダーグラウンドの伝統
文芸に位置付けられる
だが,“裏”ではなく,幕府公認と
して“板行”が許された(ただし,作
者・版元も刻さない“無届出版”を
装った)
御免の板行(非合法はありえない)
「珍しきことを新板に開き候わば,
番所へ其の趣申し上げ,御差図を請
け,御意次第に仕(つかまつ)るべく
候」
 「板木仲間へ仰渡」寛文13(1673)年
社会・政治批判を含むパロディとし
ての謡曲・小歌は公の場での朗唱が
禁じられ(1703年),それらを印刷し
た「読売」も同様に禁じられる
瓦版第一号
慶長20(1615)年,大坂夏の陣の
際の「大坂安部之合戦之図」「大
坂卯年図」とされる
徳川幕府寄りの記
事で埋められ,京都
の市内などで売られ
る
瓦版はニュース媒体なのか?
読み捨てのニュース媒体だけでな
く,別個の「実用的価値」が存在
したと考えられる
前提
 主購買層(下層武士・商工関係者)の識字
率は推定で30~40%→つまり文章を読
めない人が多い
 文章というより,歌唱(朗詠)するもので
あり,読売師などから口承で覚える
浅間山大噴火(部分)。天明3(1783)年
越中立山に出現したというくたべ。難病の流行を予言
し,己の姿を見た者だけは助かると告げたという。
オランダ産猛虎。痘瘡・麻疹除けになる
① お守り・護符機能
災厄除け(呪術性)
病気・地震・火事など新たな災厄
技術的対抗手段に乏しく,俗信に
頼らざるをえない
災厄を伝える「瓦版」はニュース
であると同時に,護符の機能を
持った(その「紙」を持っていると
ご利益がある)
→託宣型瓦版
赤穂浪士の討ち入り。元禄15(1702)年
田川得左衛門の仇討ち。
八百屋半兵衛,新妻・千代と心中。歌祭文。享保7(1722)年
二代目団十郎(成田屋)の病気全快。享保20(1735)年
② 芝居・見世物の客寄せ
心中など色事・仇討ちなど荒事は,
ただちに芝居(歌舞伎)になる。当
時の歌舞伎は(一夜付)ニュース芝
居(非業の死を遂げた主人公たちの
鎮魂の場でもあった)
物語の粗筋を理解してもらう
登場する役者を知ってもらう(役者
の一枚絵や番付)
鎮魂
生の事実を伝えるのではなく,美
化し芸術化し,時には死者の鎮魂
という宗教性を持たせるのが本質
事件報道は物語本や歌祭文の形式
をとった
瓦版はその宣伝など副次的役割を
果たした
創作されたニュース
演劇・見世物の宣伝手段なのだから,
事実でなくてもかまわない(次項も同
じ)。受け手の感情に訴える形で創
作・脚色されたニュースでよい
瓦版の発行は月平均5~6枚/版元
中世で「説話」「民話」に属していた
物語が,都市型ニュースという装いで
リニューアルした。が,基盤はステレ
オタイプ
Canard(ニュースの鴨)
よく似たニュースが時所を隔てて
再出現する(再話)現象
 水中に潜った鴨が意外な所で浮上する
転じて「虚報」
人々が潜在的に抱く願望や恐怖が,
物語(ニュース)の形をとって実体
化する現象→都市伝説
ドイツ語でZeitungsente
裁判報道。孝行の褒美は銀五枚。
蛙が蛇を噛み殺す!
百姓の女房,馬頭の子を産む!!
③ 忠孝奨励教育
親孝行など幕府が奨励する徳目を,
実際の出来事に即して教える
不良出版を弾圧し,人心の為になる
出版を奨励する政策(享保年間以降)
享保の改革→落書捨文を禁止し,目
安箱を設置した
瓦版が庶民に対する教育機能を持つ
大阪堂島火事。天保5(1834)年
④ 安否を知らせる
火事と喧嘩は江戸の華。地方から江
戸に流入した人は,とくに火事の際
に,故郷に安否を知らせる必要が
あった(街道・飛脚便の発達:東海道
を2日と8時間で走破した)
けれども,手紙を書く能力はない
被災地・人を克明に記した瓦版を送
り,故郷に安否を伝える→公益性(災
害瓦版は無許の板行も許容された)
まとめ
 瓦版は近代新聞史の直接の源流とはみ
なしにくいが,瓦版が担っていた多様
な機能は近現代まで引き継がれている
と考えられる
 ただし,幕末には幕府が触書なども瓦
版形式で配布している。一方,規制が
緩くなった幕末には,政治風刺・パロ
ディなどが瓦版で流布し,明治初期の
新聞の離陸を促したと考えられる

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