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グローバリゼーションが経済環境・事業環境・会計の役割に与えた影響は何か(週刊経営財務2010 4)
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Takashi, ASANO
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週刊経営財務への投稿論文。 慶大・黒川先生との共著です。 統計的手法を用いた分析は、紙幅の都合上、省略しました。また別の機会に発表する予定です。
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グローバリゼーションが経済環境・事業環境・会計の役割に与えた影響は何か(週刊経営財務2010 4)
1.
グローバリゼーションが経済環境・事業環境・会計の役割に与えた影響は何か
―「利益情報の変容と経済社会のグローバリゼーションに関する調査」より― 黒川 行治(慶應義塾大学教授) 浅野 敬志(首都大学東京准教授) 1.質問による意識調査の目的・対象・方法 我が国の会計基準 と国 際財務報告基準・ 国際 会計基準(IFRSs)とのコンバージ ェンスが推し進められ、2009 年6月の企業会計審議会「我が国における国際会計基 準の取扱いについ て( 中間報告)」の公 表によ り、IFRSs の強制適用への道筋が示 された。IFRSs に沿う会計基準の改訂は、利益情報の投資意思決定有用性指向をさ らに強化することを意図している。 われわれの研究グループ ( 注 ) は、我が国における企業内容開示制度において求め られる利益情報の開示内容と監査・保証のあり方を明らかにすることを目的とし、 2008 年 11 月、財務情報作成サイド(上場会社)を対象に、「利益情報の変容と監 査・保証業務のあり方に関する質問票調査」を実施し、興味深い結果を得た( 週 『 刊 経営財務』No.2911(2009 年3月 23 日)、No.2920(2009 年6月 1 日;訂正記 事公表)。この調査結果から、「利益情報の変容には経済社会のグローバリゼーショ ンが多面的に関係しているのではないか」との体系仮説をもつに至り、再び、上場 会社の経営者・管理者の意識を調査することにした。われわれの設定した仮説およ び質問項目数は以下のようなものである。 仮説1(31 項目) 1980 年代中頃以降顕著となったグロ-バリゼーションによって、①経済環境 事業環境、 ・ ②事業戦略、③会計の役割や会計に対する期待にいかなる変化が生じたのか。 仮説2(3項目) ①経済環境・事業環境の変化と②事業戦略・事業投資活動の変化との間には関連性があ るのか 仮説3(7項目) ①経済環境・事業環境の変化または②事業戦略の変化と③会計の役割や会計に対する期 待の変化との間には関連性があるのか 仮説4(10 項目) 将来の動向を予測するものとして、利益情報の変容は、①経済環境・事業環境と②事業 戦略にいかなる影響を与えるのか また、前回の調査と同様の設問である④利益情報の性質・内容の変化と監査に関する意 識(3項目)および⑤IFRSs 導入の是非および運用のあり方(4項目)を質問し、会 計基準のグローバル化に関する最近 1 年間の我が国の意識の変化についても確認し 1
2.
ている。 調査対象は、証券取引所上場会社 3,794
社(2009 年 11 月 23 日時点)であり、 郵送による記述式(該当番号記入)アンケート調査で、2010 年1月上旬に順次発送 し、回答期限を 2010 年2月 10 日とした。宛先不明による返送が3社、回答会社数 が 298 社、回収率は 7.9%である。回答会社の業種と規模( 連 結 総資 産)は 図 表 1 ・ 2のとおりである。なお、本調査に先立つ1ヶ月前に「利益情報の変容と監査・保 証業務のあり方に関する調査」を公認会計士に行っており、仮説3、仮説4に関す る設問項目および前回調査と同様の上記④と⑤の設問項目について意識を聴取し ている(『週刊 経営財務』No.2960(2010 年3月 29 日) 。そこで、本稿では、こ ) れらの調査結果との対比についても言及する。 図表1:回答会社の業種分布 70 25% 60 20% 50 15% 40 30 10% 20 5% 10 0 0% その その パル 鉄 非鉄 輸送 サー 医薬 自動 小売 精密 電気 不動 ガス 他金 他製 プ・ 化学 機械 銀行 建設 商社 証券 食品 水産 石油 繊維 倉庫 通信 鉄鋼 道・ 金属 保険 用機 窯業 陸運 ビス 品 車 業 機器 機器 産 融 造 紙 バス 製品 器 回答件数 1 63 10 6 1 3 12 15 6 22 7 38 25 3 4 1 2 2 3 5 1 2 1 29 8 8 3 1 4 4 割合(%) 0.34 21.7 3.45 2.07 0.34 1.03 4.14 5.17 2.07 7.59 2.41 13.1 8.62 1.03 1.38 0.34 0.69 0.69 1.03 1.72 0.34 0.69 0.34 10.0 2.76 2.76 1.03 0.34 1.38 1.38 図表2:回答会社の規模分布(連結総資産) 120 100 80 60 40 20 0 100億円以 500億円以 1,000億円 3,000億円 100億円未 5,000億円 上500億円 上1,000億 以上3,000 以上5,000 満 以上 未満 円未満 億円未満 億円未満 回答件数 66 96 36 42 16 38 割合(%) 22.45% 32.65% 12.24% 14.29% 5.44% 12.93% 2
3.
2.回答の単純集計結果と解釈 以下では、アンケート調査の単純集計結果とそれらについての解釈を紹介する。 A1 グローバリゼーションと経済環境・事業環境の変化
1980年代中頃以降顕著となったグローバリゼーションによって、「経済環境・事業環 境」にいかなる変化が生じたかの意識を明らかにすることを目的とし、合計12項目の設 問をした。括弧内は肯定意見の割合である。 A1-1「世界的に直接投資に関する規制が緩和された」(91%) A1-11 、 「新興国(BRICs 等)における実物市場(消費)の規模が著しく増大している」(95%)の2つの経営・事 業環境に関する設問で、9割以上の肯定意見となった。 また、資本市場の環境変化に関する設問であるA1-5「短期的な投資決定をする機関投 資家の資本市場における影響が増大した」(92%)、A1-6「金融資本の規模と価格変動 リスク(ボラティリティ)がデリバティブの開発により増大した」(92%)、A1-7「資 本市場の自由化に対して市場のモニタリング・システムが追いついていない」(89%)、 A1-10「機関投資家が経営内容についてより詳細な説明を求めるようになった」(92%) の4つの設問で、肯定意見が9割以上となった。A1-9「企業・経営者が訴えられるリス ク(訴訟リスク)が増加した」(90%)の設問に対しても、9割方の回答者が肯定してい る。資本市場の環境変化に伴うガバナンスのあり方について、A1-8「従業員よりも株主 を意識したガバナンス・システムが重視されるようになった」(87%)もほぼ9割方の回 答者が肯定意見であり、以上の諸仮説の成立には間違いがないと思われる。 一方、A1-2「関税および非関税障壁が低下した」(71%)とA1-4「労働市場における 規制緩和により賃金・給料の引き下げ圧力が増加した(下方硬直性の減少)」(66%)に ついては、3分の2程度の肯定意見にとどまっている。 さらに、日本企業の世界における存在感について、A1-12「グローバリゼーション下に おいても日本企業は一目置かれる存在であり続けている」(42%)の肯定意見は4割であ り、日本企業の相対的地位の下落を裏付ける結果となった。 A2 グローバリゼーションと事業戦略の変化 グローバリゼーションによって、「事業戦略」にいかなる変化が生じたかの意識を明らか にすることを目的とし、合計9項目の設問をした。 A2-1「コア・コンピタンス(中核となる経営資源)を認識し事業の選択と集中を進める (91%) A2-2 ようになった」 、 「国内から新興国へ生産拠点を移転するようになった」 (89%)、 3
4.
A2-3「業務のアウトソーシング、派遣やパート従業員を活用するようになった」
(89%)の 3つの設問に対して、ほぼ9割の回答者が肯定していた。次いで、A2-4「事業買収、事業 譲渡の活用を日常的に意識するようになった」(85%) 、A2-5「生産の効率化とコストダウ ン、プロジェクト単位の業績把握のためにIT投資を行うようになった」(85%)の肯定意 見の割合が高かった。 一方、A2-9「株主価値最大化を経営目標とするようになった」 (78%)は、約8割の会社 が肯定しているが、2割の会社では株主価値最大化を経営目標とはしていないことに注目 したい。また、A2-6「一般の事業会社では金融商品への投資を減少させるようになった」 (71%)の設問には7割以上が肯定しており、金融商品への投資を行ってきたが、それをグ ローバリゼーション以後減少させていると認識している割合が高い。なお、そもそも事業 会社の金融商品への投資割合は低かったと認識している会社では否定意見となるかもしな いため、この設問に対して7割以上の肯定意見は数値以上に強い結果であるとも解釈でき る。A2-7「株式持合いの解消を進めるようになった」 (65%)の設問には3分の2が肯定し ている。逆に言えば、3 分の 1 は、株式持合いの解消を進めていないと読み取れる。最近、 株式の持ち合いが若干増えているという統計結果もあり、妥当な調査結果であろう。A2-8 「価格、納期、ペナルティ等の取引内容を明示化するようになった」 (74%)の設問につい ても、肯定意見の割合が高かった。 A3 グローバリゼーションと会計の役割や会計に対する期待の変化 グローバリゼーションによって、「会計の役割や会計に対する期待の変化」にいかなる変 化が生じたかの意識を明らかにすることを目的とし、合計 10 項目の設問をした。 会計基準は各国の文化・経済・法律等の社会システム(制度)の中のサブシステムの一 つと認識する見解があり、事実、国際会計基準へのコンバージェンス活動が始まる前にお いては、会計基準は各国の事情を勘案した固有の会計基準が歴史的に発展していた。しか し、1997 年のいわゆる「会計ビックバン」以来、10 年以上にわたる会計基準の国際化運動 により、我が国でも、9割の回答者が会計基準を各国の社会システムとは切り離された測 定尺度の世界標準と認識するようになったことは注目に値する(A3-1「測定尺度の世界標 準の一つとして会計基準を認識するようになった」 (90%)。 ) 会計の役割や会計に対する期待は、利益情報の変容の具体的内容でもある。①経営者と 投資家との間の情報の非対称性の解消を目的とする財務会計と管理会計の連携(A3-5「財 務会計システム(外部者向けの情報)と管理会計システム(経営者向けの情報)との連携 を重視するようになった」 (89%)、②公正価値測定志向(A3-9「事業資産および事業負債 ) についても公正価値情報が重視されるようになった」(90%)、③収益の認識・測定の厳格 ) 化(A3-10「収益の認識と測定を厳格に決定することが求められるになった」(90%)、④ ) 測定における将来事象の見積もりの重視(A3-6 「投資意思決定への有用性がより重視され、 見積りの活用による将来事象の可視化が求められるようになった」(85%))に対する肯定 4
5.
意見の割合の高さは、それを裏付けている。 さらに、⑤四半期報告制度に代表される会計情報の適時性の重視(A3-7「信頼性よりも 適時性が重視されタイムリーな情報発信が要請されるようになった」
(77%)、⑥金融投資 ) に関する会計処理の重要度の増加(A3-3 「企業業績に対する金融投資の影響が大きくなり、 金融投資に関する会計処理の重要性が増加した」 (71%) )も、利益情報(会計情報)の変容 を特徴付ける具体的内容であり、肯定意見の割合が7割を超えていた。 一方、公正価値情報重視が原価情報の重要性の低下を招いているのではないかという仮 説を想定していたが、それはきわめて有意に否定された。原価情報の重要性の低下を認識 している回答は 16% にとどまった(A3-4「経営意思決定における原価情報の重要性が低下 している」 (16%)。 ) 特記すべきは、投資意思決定への有用性と並ぶ、所得分配機能としての会計の役割(労 働サイドと資本サイドの安定的分配を意図し、利益平準化志向となる)の重要性の低下に 関する見解が、肯定と否定で半々に分かれたことである(A3-2「財務諸表のもつ分配指標 としての役割が後退し、かつ利益の期間的平準化志向が減少した」(49%)。また、所得分 ) 配と連動する質問である付加価値指標や労働分配率の注目度(我が国の企業経営の特徴の 一つである労使一体の思想とも深く関係)の低下についての見解も、肯定と否定で半々に 分かれた(A3-8「収益性指標と同様に重視されていた付加価値指標や労働分配率指標が注 目されなくなってきた」 (50%)。 ) B1 経済環境・事業環境の変化と事業戦略の変化の関連性 第2の体系仮説である「経済環境・事業環境の変化(グローバリゼーション)と事業戦 略の変化の関連性」について、3つの設問を行った。 B1-1「製品価格の恒常的な引き下げ圧力と新興国における実物市場(消費)の規模が著し く増大していることから、生産拠点を国内から新興国へ移転している」 (89%)は約9割が、 また、B1-2「(資本市場の自由化に対する)市場のモニタリング・システムの未整備と価 格変動リスクの増大に対処するため、一般の事業会社では金融投資を減少させている」 (66%)、B1-3「製品価格の恒常的な引き下げ圧力と経営内容について機関投資家からより 詳細な説明を求められていることに対処するため、IT投資による生産の効率化とコスト ダウン、プロジェクト単位の業績把握を行っている」(72%)は、ほぼ3分の2以上の回答 者が肯定しており、経済環境・事業環境の変化と事業戦略の変化には関連性があるという これらの仮説は、成立していると言ってもよいであろう。 B2 経済環境・事業環境・事業戦略の変化と会計への期待と役割の変化 仮説2である経済環境・事業環境・事業戦略の変化と会計の役割や会計に対する期待の 変化との間には関連性があるのかどうかに関して、7つの設問をした。これらについては、 公認会計士に対しても質問しており、今回の調査の中心テーマでもある。括弧内の前者が 5
6.
会社向けの調査結果、後者が公認会計士向けの調査結果である。回答の傾向に大きな相違 がなく、異なる利害関係者・職業でありながら、ほぼ同様の見解となっていることに注目 したい。
設問のうち、B2-1「短期的投資決定をする機関投資家の影響の増大は、財務諸表の投資 意思決定への有用性の重視と見積りの活用による将来事象の可視化の要請をもたらした」 (76%、80%)、B2-2「デリバティブの開発による金融資本の規模と価格変動リスクの増 大は、金融投資に関する会計処理の重要性を増加」させた」(86%、91%)、B2-3「機関投 資家からより詳細な説明を求められていること、IT投資による生産の効率化とコストダ ウン、プロジェクト単位の業績把握の必要性は、財務会計システム(外部者向けの情報) と管理会計システム(経営者向けの情報)との連携をより重視させる」(82%、88%)、 B2-4「短期的投資決定をする機関投資家の影響の増大と国内から新興国への生産拠点の移 転は、測定尺度の世界標準の一つとして会計基準を認識させる」(70%、74%)、B2-6「事 業買収、事業譲渡の活用(意識の日常化)は、事業資産および事業負債についても公正価 値情報を重視させる」(87%、85%)の5つについては、これらの仮説が成立していると判 断してよいであろう。経済社会のグローバル化に伴う経済環境・事業環境・事業戦略の変 化と利益情報(会計情報)の変容との間には関連性があるのである。 しかし、B2-5「労働市場の規制緩和による賃金・給料の引き下げ圧力の増加(下方硬直 性の減少)と業務のアウトソーシング、派遣やパート従業員の活用は、付加価値指標や労 働分配率指標の重要性を減少させた」(47%、45%)と B2-7「短期的投資決定をする機関 投資家の影響の増大と、従業員よりも株主を意識したガバナンスの重視は、財務諸表のも つ分配指標としての役割を後退させ、かつ利益の期間的平準化志向を減少させた」(55%、 62%)の2つの設問については成立していないようである。この原因は、A3-2 と A3-8 が 成立していないからと思われる。なお、利益の期間的平準化志向に関する設問は、極めて 専門的な会計思考・論理を問うものでもあり、会計専門職としての公認会計士向けの調査 の方が、会社向け調査よりも肯定意見が多かったのはそのためかもしれない。 C 利益情報の変容と監査に関する意識 利益情報の変容と監査に関する意識に関して、3つの設問をしている。これらについて は、公認会計士に対する回答とともに、C-2 を除き 2008 年 11 月の会社に対する前回調査 の回答結果があり、比較することができる。括弧内の数値は、順に①今回の会社向け、② 前回の会社向け、③公認会計士向けの調査結果である。 利益情報の変容が経済的実質の適正表示の向上に対して、会社は約8割が役立っている と意識しているが、公認会計士は7割にとどまっている(C-1「利益情報の性質・内容の変 化は、財務諸表が企業の経済的実質をより適切に開示することにつながっている」 (77%、 83%、72%))。 利益調整の可能性を大きくしているかについて、会社の7割以上が否定しているのに対 6
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して、公認会計士の7割以上が肯定(危惧)している(C-2「利益情報の性質・内容の変化 は、利益調整の可能性を大きくしている」
(26%、N.A.、74%))。この質問について会社 サイドが肯定するのは、会計数値の信頼性を自ら低めることを言明しているともいえるの で、否定意見が多くなるのが当然と思われるが、それにもかかわらず4分の1程度とはい え、会社が肯定していることこそ注目すべきであろう。利益情報の変容が利益調整の可能 性を大きくする危惧の存在に留意しておかねばならない。 利益情報の変容によって財務諸表の信頼性が低下することについては、すべての調査で 否定意見が多いが、公認会計士からの回答で肯定意見が会社からの回答の2倍もあるのは 注目できる。利益情報の変容を危惧する監査サイドの意識を裏付けている(C-3「利益情報 の性質・内容の変化によって、財務諸表監査が提供する財務諸表の信頼性に対する保証水 準は低下している」 (18%、16%、33%))。 D 利益情報の変容が経済環境・事業環境・事業戦略に及ぼす影響 利益情報の変容が経済環境・事業環境・事業戦略に及ぼす影響を予想する第4の仮説に 関して、10 個の設問を行った。経済界や政府の経済政策部門がとくに関心を寄せる仮説で ある。これらについても、公認会計士に対して質問しており、今回の調査の中心テーマで もある。括弧内の前者が会社向けの調査結果、後者が公認会計士向けの調査結果である。 D-1「売却可能有価証券(持合い株式等)の公正価値測定による評価益を包括利益に計上 することは、一般の事業会社における金融投資の減少と株式持合いの解消に影響する」76%、 ( 69%)、D-3「財務会計システム(外部者向けの情報)と管理会計システム(経営者向けの 情報)との連携を重視することは、コア・コンピタンスの認識による事業の選択と集中を 促進する」(62%、58%)、D-5「収益の認識と測定を厳格に決定することが求められると、 価格、納期、ペナルティ等の取引内容を明示化することが促進される」(72%、75%)の3 つの質問については3分の2程度の肯定的回答があり、これらの仮説が将来にわたり実現 しそうである。 しかし、D-4「経営意思決定において原価情報が重要視されなくなると、製品価格の恒常 的な引き下げ圧力が大きくなる」(30%、24%)、D-8「国際財務報告基準(国際会計基準) の強制適用による会計基準の標準化は、国内から新興国への生産拠点の移転を一層促進す る」(26%、19%)の2つの質問については、肯定意見が3分の1以下であり、仮説の成立 は難しい。 残りの5つの質問については、D-2「財務諸表のもつ分配指標としての役割の後退により 利益の期間的平準化志向が減少し、また付加価値指標や労働分配率指標の重要性が減少す ると、業務のアウトソーシング、派遣やパート従業員の活用が促進される」(41%、37%)、 D-6「見積りの活用による将来事象の可視化が求められると、長期的な業績を追求するよう な事業戦略をとるようになる」(46%、31%)、D-7「株主価値最大化を経営目標とするこ とは利益調整の可能性を大きくする」(37%、52%)、D-9「タイムリーな情報発信が求め 7
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られると、短期的な業績を追求するような事業戦略をとるようになる」
(46%、53%) D-10 、 「のれんを償却せずに減損処理を行うと、事業買収、事業譲渡の活用(意識の日常化)が 促進される」 (39%、38%)が4割から5割程度の肯定意見にとどまっており、何ともいえ ない。 会社と公認会計士との回答の違いに注目すると、D-7 の質問で 15 ポイントも公認会計士 が会社よりも肯定意見が多く、株主価値を最大化するために経営者が利益を大きく見せよ うと会計操作することを、公認会計士が危惧していると読み取れる(会社の肯定意見が低 いのは、C-2 の結果と同様である)。 また、D-6 の質問で、15 ポイントも公認会計士が会社よりも肯定意見が少なく、公認会 計士は、会計の見積もり要素の増大が短期的業績主義に経営者が向かうのではないかと予 想していると読み取れる。 E IFRSs 導入の是非および運用のあり方について 我が国会計基準の将来のグローバル化、IFRSs 導入の是非および運用のあり方に ついて問うものである。これらについては、公認会計士に対する回答とともに、E-4 を除 き 2008 年 11 月の会社に対する前回調査の回答結果があり、比較することができる。括弧 内の数値は、順に①今回の会社向け、②前回の会社向け、③公認会計士向けの調査結果で ある。 IFRSs の強制適用について、賛成する会社が3分の1であるのに対して、3分の 2の公認会計士は賛成している(E-1「連結会計上、国際財務報告基準(国際会計基準) が強制適用されることが望ましい」 (38%、38%、65%))。一方、IFRSs の選択適用が 望ましいが否かについては、6割以上の会社が望ましいとする意見であるのに対して、公 認 会計 士は 4割 程度 に留 まっ てい る(E-2「連結会計上、国際財務報告基準(国際会計 基準)と我が国の会計基準との選択適用が認められることが望ましい」61%、 ( 62%、42%)。 ) この結果は驚くべきもので、我が国では会計士サイドが IFRSs の強制適用を先導し ていると言えるのである。 適用指針を作成しないことに対して望ましいとする会社側の意見が3分の1にとどまっ ていることは、前回と同様である。しかし、公認会計士は会社よりも9ポイントも賛成意 見が多く、IFRSs の現場での運用に自信を見せ始めているとも読み取れる(E-3「国 際財務報告基準(国際会計基準)では詳細な適用指針を作成せず、会計担当者および監査 人に適用 運用を委ねることになると言われており、 ・ それは望ましい」 35%、 ( 30%、44%) 。 ) 監査人の指導機能の役割の増大については、会社および公認会計士の大多数が肯定して いる(E-4「国際財務報告基準(国際会計基準)の適用にあたっては、個々の基準を個別企 業に適用するための適用指針を策定することが肝要であり、監査人が果たす指導機能の役 割が重大となる」 (85%、N.A.、90%))。 8
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3.むすび 以上、本稿では、利益情報の変容には、グローバリゼーションによって生じた経済 環境・事業環境・事業戦略の変化や会計への期待・役割の変化が多 面
的 に 関 係 し て い る のではないかという体系仮説を確認するために、上場会社を対象として実施したア ンケートによる意識調査の単純集計結果を速報した。統計手法を用いた詳細な分析 については、別途、報告する予定である。 (注)本稿は、日本学術振興会2009年度科学研究費補助金基盤研究(B)「利益情報の 変容と監査・保証業務のあり方に関する実証的要因分析」(課題番号20330098)によ る研究成果の一部であり、内藤文雄、柴健次、林隆敏、黒川行治、浅野敬志が研究グル ープメンバーである。 9
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