SlideShare a Scribd company logo
障害児支援における
記録用紙「ヒトマト」導入の効果
―支援員の障害児支援に対する
「援助・援護・教授」機能に着目して―
2012.12.8 第4回対人援助学会年次大会

石幡愛(NPO法人クリエイティブサポートレッツ / 東京大学教育学研究科)
田中保帆(NPO法人クリエイティブサポートレッツ)
乾明紀(立命館大学 立命館グローバルイノベーション研究機構)




                                        1
障害児支援における支援員の成長

• 障害児に対するサービス(対人援助)で
  あると同時に、支援者の学習(支援者支
  援)にもなりうる。
• 対人援助学の枠組みは、支援者支援にも
  適用できるのでは?




                       2
援助・援護・教授
                  援助設定をした上で、
                  必要な行動を教える

今できる選択肢を作
る
一旦基準を緩める             選択肢や基準を
                     社会に向けて主張す
                     る
                       望月(2007)



 • 障害児支援の中では、障害児に対する「援助・援護・教
   授」と同時に、支援員に対する「援助・援護・教授」も
   行われているのではないか?
                                  3
本研究の方針
• 障害児支援における振り返りと記録のためのツ
  ールに着目する。

• そのツールが、障害児に対する「援助・援護・
  教授」機能と同時に、支援員に対する「援助・
  援護・教授」機能も果たしていることを示す。




                          4
実践場所の概要     (2012.4時点)




• 障害福祉施設アルス・ノヴァ(静岡県浜松市)
  の放課後等デイサービス
• 支援員:正職員4名、準職員3名
• 利用者:知的・精神・発達障害の小中高校生
• 施設の方針
 – 「診断名」ではなく「個人」から始まる支援
 – 問題行動の読み替えによる価値の転換
 – 障害者の存在を通して、社会の既存の価値観や規範
   をゆさぶっていく、変えていく


                             5
データと収集方法
• 記録用紙「ヒトマト」の使い方(4〜6月/観察
  )

• 対象児Aに対する支援員の見立てと関わり方の
  変化(4〜11月/ヒトマトの記述、支援の産物な
  どの資料収集)

• 支援全般に関する支援員の意識や効力感の変化
  (6月/グループインタビュー)

                           6
ヒトマトリックス(通称:ヒトマト)
              支援員ごとに
真ん中に名前        ペンの色が
が書かれた         決まっている
A4の紙


             誰かが書いたことに
出来事や
             他の人が情報やコメ
思ったことを
             ントを加える
書く




                日付を記入


                        7
ヒトマト導入の経緯
時期        出来事
2011年春    • 利用者一人につき支援員一人が様子を記録
          • 問題行動などを口頭で共有
          ⇒振り返りがつまらない。積み重ね感がない。
            一方で、雑談で共有されるエピソードは豊
          か。
2011年夏    ドキュメント展「佐藤は見た!!!!!」開催
          • 福祉施設の日常のエピソードを発信
          • 各支援員の目線で「面白いこと」を展示
2011年秋冬   「佐藤は見た!!!!!!」の経験を踏まえて、日々の
          支援と記録の方法を見直すための議論。
2012年4月   ヒトマト導入
                                  8
Aくんのプロフィール    (2012.4時点)



• 特別支援学校に通う12歳男児
• 自閉症
• 2010年6月から当施設を利用
• 外国出身で、スペイン語(家庭)・日本語(学
  校、施設)を理解
• 音声による発話もあるが、発音がうまくできず
  聞き取ることが難しい
• 2012年4月頃~ひとりの支援員とジェスチャー
  で会話をはじめる
• 2012年4月当初は他害(他の人の目を突く、叩
  く)が問題視されていた
                               9
支援員プロフィール(2012.4時点)
Bさん(29歳,男性)       Dさん(25歳,男性)
•勤続2年             •勤続1年8ヶ月
•精神保健福祉士          •保育士
•専門:社会福祉          •専門:保育
•他施設勤務経験あり
                  Eさん(23歳,女性)
•Aくん担当者(2012年3月
~8月)              •勤続1年
                  •保育士
Cさん(28歳,男性)       •専門:芸術教育
•勤続1年6ヶ月          •Aくん担当者(2012年9月
•専門:工業デザイン        ~現在)
                                    10
ヒトマトを用いた振り返りの様子




                  11
ヒトマトの使い方:振り返り
       • 子ども一人一人に1
         日1枚のシート
       • どんなことをして過
         ごしていたか、それ
         を見てどう思ったか
         などを職員全員で記
         入
       • 個人のバインダーで
         保管

                     12
ヒトマトの使い方:振り返り
       • 支援員一人一人に1
         日1枚のシート
       • 誰とどんな関わり方
         をしていたか、それ
         を見てどう思ったか
         などを職員全員で記
         入
       • 個人のバインダーで
         保管

                     13
ヒトマトの使い方:漉し作業
       • それぞれの子どもの
         担当者が、たまった
         シートを見返して、
         その子の特徴や今後
         の目標を書き出して
         いく
       • 支援員のヒトマトの
         漉し作業は今のとこ
         ろやっていない


                     14
ヒトマトの使い方:漉し作業
       • 漉し作業で出てきた
         、その子の特徴、今
         後の目標などの中か
         ら、特にみんなで共
         有すべきことを付箋
         に書いて、壁に貼る




                     15
ヒトマトの使い方:トピック立て
        • 雑多な情報がある程
          度集まった段階で導
          入
        • 担当者が特に気にな
          ることを明示して情
          報収集




                      16
ヒトマトの使い方の相関図

支援→振返             支援→振り返
雑多な記                 り
                  雑多な記録
 録
                  トピック立
支援→振返               て
雑多な記     漉し作業              漉し作業
  録               支援→振り返
                     り
支援→振返             雑多な記録
雑多な記              トピック立
  録                 て
        場合によっては            場合によっては
        数回繰り返す             数回繰り返す



                                     17
事例:Aに対する見立ての変化
「攻撃的」から「通じる」へ




        2012.4.4   2012.7.9
                          18
事例:Aに対する支援の変化
      手話辞典プロジェクト
      •Aの“おしゃべり”相手を増
      やすため、彼の手話をイラ
      ストと文字で示した辞典を
      作成。
      •そのプロセス自体が、彼の
      できること(手話によるコ
      ミュニケーション)を見つ
      け、共有し、分化強化する
      支援だった。


                   19
事例:Aの言語行動に関する記述の変
         化
Aのタクトとイントラバー             Aのタクトとイントラバー
バルに関する記述の一日平             バルに言及した支援員の一
均数                       日平均人数
※Aの言語行動そのものの指標ではなく、Aの言   ※同左
語行動に対する支援員の注目の指標である点に
注意
1.6                      1.4
1.4                      1.2
1.2                       1
  1
                         0.8
0.8
                         0.6
0.6
0.4                      0.4
0.2                      0.2
  0                       0
    4月   5月   6月   7月          4月   5月   6月   7月

  「おしゃべり」「いろいろ教えてくれる」「語彙が増えた」との記述
                                                   20
支援全般に対する効果         (6月インタビュー)



• 誰かに言いたいけど議題にあげるまでもないことが毎日
  ある。それを吐き出していい時間。(Cさん)

• ヒトマトに書いたことに対して、他の人がコメントして
  くれる。ちゃんと見られている安心感。去年とやってる
  こと自体は変わらないけれど、これでいいんだという自
  信を持てた。(Dさん)

• 待つという支援をしたいときに、何もやっていないんじ
  ゃなくて、支援として待っているんだと、はっきり言え
  るようになったので、やりやすくなった。(Eさん)

                                21
支援全般に対する効果         (6月インタビュー)



• あの人はあの子に今こういうふうに関わっているんだな
  というのが共有できているので「やってるやってる」と
  か「これからどうなるんだろう」と期待して見ていられ
  るようになった。(Cさん)

• 自分が見てなかった情報も集まる。漉すのは自分だけれ
  ど、独りよがりにならずにすむ。(Dさん)

• 「支援目標」に対する考え方が変わった。子どもがどう
  なるべきかというよりも、自分が子どもに対してどうい
  う目線を向けたいのか、どう関わりたいのか、という支
  援員にとっての指針だと思う。(Bさん)
                                22
ヒトマトの「援助」機能
子どもに対する「援助」     支援員に対する「援助」
• 意識が集中しがちな問題   • 支援員それぞれの関わり
  行動以外の様々な行動に     方が、他の支援員によっ
  ついても記録される余地     て肯定される。見られる
  がある。強化の機会が増     、認められることによる
  える。             強化。

• 複数の目線からの評価が   • 些細な出来事でも吐き出
  得られる。価値の反転や     せる。表現することによ
  問題の読み替えが起きる     る自己強化。
  機会が増える。

                                23
ヒトマトの「援護」機能
子どもに対する「援護」     支援員に対する「援護」
• 援助つき行動が起きる環   • 支援の方針や意図を、他
  境設定を支援員どうしが     の支援員に対して示すこ
  共有できる。同様の関わ     とができる。期待を持っ
  りを他の支援員も行うこ     て見守ってもらえる。理
  とによって、当該行動を     解や協力を得られる。
  維持・般化しやすくなる
  。




                                24
ヒトマトの「教授支援」機能
• 設定された目標に向かって行動をどう増やすか/減らす
  かについてのアイデア集めとその共有を行い、支援場面
  の「教授」行動を支援する。

 子どもに対する「教授支援」     支援員に対する「教授支援」

• 日々の様子から、次回、その   • 漉し作業を通して、支援員に
  子に対してどのような環境を     とっての次の方針を確認、見
  提供するかというチャレンジ     直しできる。
  の方向性が見える。       • 通常の振り返りでのコメント
• 漉し作業を通して、子どもに     や、トピック立てによって、
  とっての次の目標が設定され     他の支援員から様々な情報や
  る。                アイデアを提供してもらうこ
                    とができる。

                                    25
ヒトマトが機能する環境
• ヒトマト導入と同時に3つの仕組みも導入
 – 担当制
 – 曜日固定制
 – 写真・映像等、記録物の整理の徹底


• 担当制:各職員の視点や関わり方を肯定。
• 曜日固定制:来週の見通しが立つ。
• 記録物整理:他メディアと連動した振り返りが
  可能になる。見返したくなる記録物。


                          26
ご清聴ありがとうございました

 お問い合わせ
 NPO法人クリエイティブサポートレッツ
 E-mail : lets-arsnova@nifty.com
 WEB : http://cslets.net



                                   27

More Related Content

Similar to 障害児支援における記録用紙「ヒトマト」導入の効果―支援員の障害児支援に対する「援助・援護・教授」機能に着目して―

2014 11-07 CONE全国交流フォーラムinふくしま
2014 11-07 CONE全国交流フォーラムinふくしま2014 11-07 CONE全国交流フォーラムinふくしま
2014 11-07 CONE全国交流フォーラムinふくしま
Yutaka Kibihara
 
埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第02回 身近なボランティア
埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第02回 身近なボランティア 埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第02回 身近なボランティア
埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第02回 身近なボランティア
Yoshihiko Suko (Ph.D) / BADO! Inc. of CEO
 
50cm.
50cm.50cm.
プレゼンテーション1
プレゼンテーション1プレゼンテーション1
プレゼンテーション1Tetsuro Masuda
 
プレゼンテーション1
プレゼンテーション1プレゼンテーション1
プレゼンテーション1Tetsuro Masuda
 
-メディアドゥフォーラム資料- 電子図書館で取り組む地域創生(図書館総合展2017)
-メディアドゥフォーラム資料- 電子図書館で取り組む地域創生(図書館総合展2017)-メディアドゥフォーラム資料- 電子図書館で取り組む地域創生(図書館総合展2017)
-メディアドゥフォーラム資料- 電子図書館で取り組む地域創生(図書館総合展2017)
OverDrive Japan
 
20130215 ku-librarians勉強会#159:新人企画その2「twitterを手にした人環・総人図書館は、附属図書館を超えうるか」(山口)
20130215 ku-librarians勉強会#159:新人企画その2「twitterを手にした人環・総人図書館は、附属図書館を超えうるか」(山口)20130215 ku-librarians勉強会#159:新人企画その2「twitterを手にした人環・総人図書館は、附属図書館を超えうるか」(山口)
20130215 ku-librarians勉強会#159:新人企画その2「twitterを手にした人環・総人図書館は、附属図書館を超えうるか」(山口)
kulibrarians
 
「若年層向け傾聴ピアサポーター(聴くトモ)
「若年層向け傾聴ピアサポーター(聴くトモ)「若年層向け傾聴ピアサポーター(聴くトモ)
「若年層向け傾聴ピアサポーター(聴くトモ)etic_sal
 
【No.2】発達障害児童向けのケアサービス事業におけるニーズと市場分析
【No.2】発達障害児童向けのケアサービス事業におけるニーズと市場分析【No.2】発達障害児童向けのケアサービス事業におけるニーズと市場分析
【No.2】発達障害児童向けのケアサービス事業におけるニーズと市場分析etic_sal
 
【サンプル】コーチングハンドブック
【サンプル】コーチングハンドブック【サンプル】コーチングハンドブック
【サンプル】コーチングハンドブックNPO法人アスイク
 
161104_地域支援型ツーリズム実施報告
161104_地域支援型ツーリズム実施報告161104_地域支援型ツーリズム実施報告
161104_地域支援型ツーリズム実施報告
Kenta Murakami
 
2009 0908 about lip@そしもさろん
2009 0908 about lip@そしもさろん2009 0908 about lip@そしもさろん
2009 0908 about lip@そしもさろんLiving in Peace
 
User story mapping TACO
User story mapping TACOUser story mapping TACO
User story mapping TACO
AlvinTian2
 
20120803 fukuoka
20120803 fukuoka 20120803 fukuoka
20120803 fukuoka
Maco Yoshioka
 
「文京まちかどミーティング」第1回講座資料
「文京まちかどミーティング」第1回講座資料「文京まちかどミーティング」第1回講座資料
「文京まちかどミーティング」第1回講座資料
Takuji Hiroishi
 
5分でわかるやりたいこと支援サークルまとめ
5分でわかるやりたいこと支援サークルまとめ5分でわかるやりたいこと支援サークルまとめ
5分でわかるやりたいこと支援サークルまとめ
idealchanger
 
熱するシニア構想
熱するシニア構想熱するシニア構想
熱するシニア構想Tooru Kamaishi
 
2012-I 3E+1 アイディアプランコンテスト ver.1.0
2012-I 3E+1 アイディアプランコンテスト ver.1.02012-I 3E+1 アイディアプランコンテスト ver.1.0
2012-I 3E+1 アイディアプランコンテスト ver.1.010
 

Similar to 障害児支援における記録用紙「ヒトマト」導入の効果―支援員の障害児支援に対する「援助・援護・教授」機能に着目して― (20)

120809説明資料 3つの仕組み
120809説明資料 3つの仕組み120809説明資料 3つの仕組み
120809説明資料 3つの仕組み
 
2014 11-07 CONE全国交流フォーラムinふくしま
2014 11-07 CONE全国交流フォーラムinふくしま2014 11-07 CONE全国交流フォーラムinふくしま
2014 11-07 CONE全国交流フォーラムinふくしま
 
埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第02回 身近なボランティア
埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第02回 身近なボランティア 埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第02回 身近なボランティア
埼玉工業大学 2011年秋学期 ボランティアの研究 第02回 身近なボランティア
 
50cm.
50cm.50cm.
50cm.
 
プレゼンテーション1
プレゼンテーション1プレゼンテーション1
プレゼンテーション1
 
プレゼンテーション1
プレゼンテーション1プレゼンテーション1
プレゼンテーション1
 
-メディアドゥフォーラム資料- 電子図書館で取り組む地域創生(図書館総合展2017)
-メディアドゥフォーラム資料- 電子図書館で取り組む地域創生(図書館総合展2017)-メディアドゥフォーラム資料- 電子図書館で取り組む地域創生(図書館総合展2017)
-メディアドゥフォーラム資料- 電子図書館で取り組む地域創生(図書館総合展2017)
 
20130215 ku-librarians勉強会#159:新人企画その2「twitterを手にした人環・総人図書館は、附属図書館を超えうるか」(山口)
20130215 ku-librarians勉強会#159:新人企画その2「twitterを手にした人環・総人図書館は、附属図書館を超えうるか」(山口)20130215 ku-librarians勉強会#159:新人企画その2「twitterを手にした人環・総人図書館は、附属図書館を超えうるか」(山口)
20130215 ku-librarians勉強会#159:新人企画その2「twitterを手にした人環・総人図書館は、附属図書館を超えうるか」(山口)
 
「若年層向け傾聴ピアサポーター(聴くトモ)
「若年層向け傾聴ピアサポーター(聴くトモ)「若年層向け傾聴ピアサポーター(聴くトモ)
「若年層向け傾聴ピアサポーター(聴くトモ)
 
【No.2】発達障害児童向けのケアサービス事業におけるニーズと市場分析
【No.2】発達障害児童向けのケアサービス事業におけるニーズと市場分析【No.2】発達障害児童向けのケアサービス事業におけるニーズと市場分析
【No.2】発達障害児童向けのケアサービス事業におけるニーズと市場分析
 
【サンプル】コーチングハンドブック
【サンプル】コーチングハンドブック【サンプル】コーチングハンドブック
【サンプル】コーチングハンドブック
 
161104_地域支援型ツーリズム実施報告
161104_地域支援型ツーリズム実施報告161104_地域支援型ツーリズム実施報告
161104_地域支援型ツーリズム実施報告
 
2009 0908 about lip@そしもさろん
2009 0908 about lip@そしもさろん2009 0908 about lip@そしもさろん
2009 0908 about lip@そしもさろん
 
User story mapping TACO
User story mapping TACOUser story mapping TACO
User story mapping TACO
 
20120803 fukuoka
20120803 fukuoka 20120803 fukuoka
20120803 fukuoka
 
プロジェクト型学習プログラム「防災コミュニケーション実習」の設計・運営・評価
プロジェクト型学習プログラム「防災コミュニケーション実習」の設計・運営・評価プロジェクト型学習プログラム「防災コミュニケーション実習」の設計・運営・評価
プロジェクト型学習プログラム「防災コミュニケーション実習」の設計・運営・評価
 
「文京まちかどミーティング」第1回講座資料
「文京まちかどミーティング」第1回講座資料「文京まちかどミーティング」第1回講座資料
「文京まちかどミーティング」第1回講座資料
 
5分でわかるやりたいこと支援サークルまとめ
5分でわかるやりたいこと支援サークルまとめ5分でわかるやりたいこと支援サークルまとめ
5分でわかるやりたいこと支援サークルまとめ
 
熱するシニア構想
熱するシニア構想熱するシニア構想
熱するシニア構想
 
2012-I 3E+1 アイディアプランコンテスト ver.1.0
2012-I 3E+1 アイディアプランコンテスト ver.1.02012-I 3E+1 アイディアプランコンテスト ver.1.0
2012-I 3E+1 アイディアプランコンテスト ver.1.0
 

障害児支援における記録用紙「ヒトマト」導入の効果―支援員の障害児支援に対する「援助・援護・教授」機能に着目して―

  • 1. 障害児支援における 記録用紙「ヒトマト」導入の効果 ―支援員の障害児支援に対する 「援助・援護・教授」機能に着目して― 2012.12.8 第4回対人援助学会年次大会 石幡愛(NPO法人クリエイティブサポートレッツ / 東京大学教育学研究科) 田中保帆(NPO法人クリエイティブサポートレッツ) 乾明紀(立命館大学 立命館グローバルイノベーション研究機構) 1
  • 2. 障害児支援における支援員の成長 • 障害児に対するサービス(対人援助)で あると同時に、支援者の学習(支援者支 援)にもなりうる。 • 対人援助学の枠組みは、支援者支援にも 適用できるのでは? 2
  • 3. 援助・援護・教授 援助設定をした上で、 必要な行動を教える 今できる選択肢を作 る 一旦基準を緩める 選択肢や基準を 社会に向けて主張す る 望月(2007) • 障害児支援の中では、障害児に対する「援助・援護・教 授」と同時に、支援員に対する「援助・援護・教授」も 行われているのではないか? 3
  • 4. 本研究の方針 • 障害児支援における振り返りと記録のためのツ ールに着目する。 • そのツールが、障害児に対する「援助・援護・ 教授」機能と同時に、支援員に対する「援助・ 援護・教授」機能も果たしていることを示す。 4
  • 5. 実践場所の概要 (2012.4時点) • 障害福祉施設アルス・ノヴァ(静岡県浜松市) の放課後等デイサービス • 支援員:正職員4名、準職員3名 • 利用者:知的・精神・発達障害の小中高校生 • 施設の方針 – 「診断名」ではなく「個人」から始まる支援 – 問題行動の読み替えによる価値の転換 – 障害者の存在を通して、社会の既存の価値観や規範 をゆさぶっていく、変えていく 5
  • 6. データと収集方法 • 記録用紙「ヒトマト」の使い方(4〜6月/観察 ) • 対象児Aに対する支援員の見立てと関わり方の 変化(4〜11月/ヒトマトの記述、支援の産物な どの資料収集) • 支援全般に関する支援員の意識や効力感の変化 (6月/グループインタビュー) 6
  • 7. ヒトマトリックス(通称:ヒトマト) 支援員ごとに 真ん中に名前 ペンの色が が書かれた 決まっている A4の紙 誰かが書いたことに 出来事や 他の人が情報やコメ 思ったことを ントを加える 書く 日付を記入 7
  • 8. ヒトマト導入の経緯 時期 出来事 2011年春 • 利用者一人につき支援員一人が様子を記録 • 問題行動などを口頭で共有 ⇒振り返りがつまらない。積み重ね感がない。 一方で、雑談で共有されるエピソードは豊 か。 2011年夏 ドキュメント展「佐藤は見た!!!!!」開催 • 福祉施設の日常のエピソードを発信 • 各支援員の目線で「面白いこと」を展示 2011年秋冬 「佐藤は見た!!!!!!」の経験を踏まえて、日々の 支援と記録の方法を見直すための議論。 2012年4月 ヒトマト導入 8
  • 9. Aくんのプロフィール (2012.4時点) • 特別支援学校に通う12歳男児 • 自閉症 • 2010年6月から当施設を利用 • 外国出身で、スペイン語(家庭)・日本語(学 校、施設)を理解 • 音声による発話もあるが、発音がうまくできず 聞き取ることが難しい • 2012年4月頃~ひとりの支援員とジェスチャー で会話をはじめる • 2012年4月当初は他害(他の人の目を突く、叩 く)が問題視されていた 9
  • 10. 支援員プロフィール(2012.4時点) Bさん(29歳,男性) Dさん(25歳,男性) •勤続2年 •勤続1年8ヶ月 •精神保健福祉士 •保育士 •専門:社会福祉 •専門:保育 •他施設勤務経験あり Eさん(23歳,女性) •Aくん担当者(2012年3月 ~8月) •勤続1年 •保育士 Cさん(28歳,男性) •専門:芸術教育 •勤続1年6ヶ月 •Aくん担当者(2012年9月 •専門:工業デザイン ~現在) 10
  • 12. ヒトマトの使い方:振り返り • 子ども一人一人に1 日1枚のシート • どんなことをして過 ごしていたか、それ を見てどう思ったか などを職員全員で記 入 • 個人のバインダーで 保管 12
  • 13. ヒトマトの使い方:振り返り • 支援員一人一人に1 日1枚のシート • 誰とどんな関わり方 をしていたか、それ を見てどう思ったか などを職員全員で記 入 • 個人のバインダーで 保管 13
  • 14. ヒトマトの使い方:漉し作業 • それぞれの子どもの 担当者が、たまった シートを見返して、 その子の特徴や今後 の目標を書き出して いく • 支援員のヒトマトの 漉し作業は今のとこ ろやっていない 14
  • 15. ヒトマトの使い方:漉し作業 • 漉し作業で出てきた 、その子の特徴、今 後の目標などの中か ら、特にみんなで共 有すべきことを付箋 に書いて、壁に貼る 15
  • 16. ヒトマトの使い方:トピック立て • 雑多な情報がある程 度集まった段階で導 入 • 担当者が特に気にな ることを明示して情 報収集 16
  • 17. ヒトマトの使い方の相関図 支援→振返 支援→振り返 雑多な記 り 雑多な記録 録 トピック立 支援→振返 て 雑多な記 漉し作業 漉し作業 録 支援→振り返 り 支援→振返 雑多な記録 雑多な記 トピック立 録 て 場合によっては 場合によっては 数回繰り返す 数回繰り返す 17
  • 19. 事例:Aに対する支援の変化 手話辞典プロジェクト •Aの“おしゃべり”相手を増 やすため、彼の手話をイラ ストと文字で示した辞典を 作成。 •そのプロセス自体が、彼の できること(手話によるコ ミュニケーション)を見つ け、共有し、分化強化する 支援だった。 19
  • 20. 事例:Aの言語行動に関する記述の変 化 Aのタクトとイントラバー Aのタクトとイントラバー バルに関する記述の一日平 バルに言及した支援員の一 均数 日平均人数 ※Aの言語行動そのものの指標ではなく、Aの言 ※同左 語行動に対する支援員の注目の指標である点に 注意 1.6 1.4 1.4 1.2 1.2 1 1 0.8 0.8 0.6 0.6 0.4 0.4 0.2 0.2 0 0 4月 5月 6月 7月 4月 5月 6月 7月 「おしゃべり」「いろいろ教えてくれる」「語彙が増えた」との記述 20
  • 21. 支援全般に対する効果 (6月インタビュー) • 誰かに言いたいけど議題にあげるまでもないことが毎日 ある。それを吐き出していい時間。(Cさん) • ヒトマトに書いたことに対して、他の人がコメントして くれる。ちゃんと見られている安心感。去年とやってる こと自体は変わらないけれど、これでいいんだという自 信を持てた。(Dさん) • 待つという支援をしたいときに、何もやっていないんじ ゃなくて、支援として待っているんだと、はっきり言え るようになったので、やりやすくなった。(Eさん) 21
  • 22. 支援全般に対する効果 (6月インタビュー) • あの人はあの子に今こういうふうに関わっているんだな というのが共有できているので「やってるやってる」と か「これからどうなるんだろう」と期待して見ていられ るようになった。(Cさん) • 自分が見てなかった情報も集まる。漉すのは自分だけれ ど、独りよがりにならずにすむ。(Dさん) • 「支援目標」に対する考え方が変わった。子どもがどう なるべきかというよりも、自分が子どもに対してどうい う目線を向けたいのか、どう関わりたいのか、という支 援員にとっての指針だと思う。(Bさん) 22
  • 23. ヒトマトの「援助」機能 子どもに対する「援助」 支援員に対する「援助」 • 意識が集中しがちな問題 • 支援員それぞれの関わり 行動以外の様々な行動に 方が、他の支援員によっ ついても記録される余地 て肯定される。見られる がある。強化の機会が増 、認められることによる える。 強化。 • 複数の目線からの評価が • 些細な出来事でも吐き出 得られる。価値の反転や せる。表現することによ 問題の読み替えが起きる る自己強化。 機会が増える。 23
  • 24. ヒトマトの「援護」機能 子どもに対する「援護」 支援員に対する「援護」 • 援助つき行動が起きる環 • 支援の方針や意図を、他 境設定を支援員どうしが の支援員に対して示すこ 共有できる。同様の関わ とができる。期待を持っ りを他の支援員も行うこ て見守ってもらえる。理 とによって、当該行動を 解や協力を得られる。 維持・般化しやすくなる 。 24
  • 25. ヒトマトの「教授支援」機能 • 設定された目標に向かって行動をどう増やすか/減らす かについてのアイデア集めとその共有を行い、支援場面 の「教授」行動を支援する。 子どもに対する「教授支援」 支援員に対する「教授支援」 • 日々の様子から、次回、その • 漉し作業を通して、支援員に 子に対してどのような環境を とっての次の方針を確認、見 提供するかというチャレンジ 直しできる。 の方向性が見える。 • 通常の振り返りでのコメント • 漉し作業を通して、子どもに や、トピック立てによって、 とっての次の目標が設定され 他の支援員から様々な情報や る。 アイデアを提供してもらうこ とができる。 25
  • 26. ヒトマトが機能する環境 • ヒトマト導入と同時に3つの仕組みも導入 – 担当制 – 曜日固定制 – 写真・映像等、記録物の整理の徹底 • 担当制:各職員の視点や関わり方を肯定。 • 曜日固定制:来週の見通しが立つ。 • 記録物整理:他メディアと連動した振り返りが 可能になる。見返したくなる記録物。 26