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- 2. イラク日本人人質事件
2004 年 4 月 7 日
イラクで日本人 3 名が武装勢力に誘拐さ
れた。
4 月 15 日に解放されるまで、日本のメデ
ィアにおいて「自己責任論」を中心とす
る被害者を非難する報道が相次いだ。
- 3. 自作自演説
人質拘束中から解放後しばらくの間、インターネット
を中心に「自作自演説」が流れた。
以下のような理由による
人質を拘束したテロリスト達が日本語のような言葉を
喋ったから、被害者とテロリストは繋がっているに違
いない。
人質となった 3 人の日本人が拘束されてすぐに、「自
衛隊撤退のデモ」が行われたのは不自然である。 何
故なら、デモを行うには二、三週間も前に市役所等に
許可を申請をしなければならない。 事前に人質事件
は予定されていたに違いない。
人質となった今井紀昭氏の名前で、高遠菜穂子さんの
サイトの掲示板に、『秘密の大計画!』という書き込
みが行われていたようだ。これは自作自演の誘拐計画
を暗示するものだ。
- 4. 不確かな情報
情報の出所は不確かながらも、噂が独り
歩きする中で尾ひれがついていく。 2 ち
ゃんねるではコピペとして書き込まれる
うちに徐々に情報量が増えていったこと
が明らかになっている。
一部メディアでは自作自演を匂わせるよ
うな報道も行われていた。
- 5. 情報の伝播
自衛隊のイラク派遣に賛成する地方議員や評
論家らの中には、自らの HP で「ヒミツの大
計画!」を紹介し、「自作自演」疑惑を示唆
する者もいた。
しかし、いずれも文書の出所については明記
しておらず、「極めて信頼出来る筋」「ある
女性の方から」等々、あいまいな表現を用い
ていた。
一般人から見て「権威のある」人々が不確か
な情報を根拠に記事を書いている。
- 6. 噂の真偽
「ヒミツの大計画!」に関しては、 2 ちゃん
ねる利用者によって、各種掲示板過去ログの
追跡調査が行われた。その結果、以下のよう
な不自然な点が見つかったために、捏造文書
であることはほぼ確定している。
高遠さんの HP 掲示板ログには、「ヒミツの
大計画!」なる書き込みは存在しなかった。
高遠さんの HP 掲示板ログには大量の荒らし
書き込みが残っていたが、「ヒミツの大計
画!」に言及したものはなかった。
- 7. 最終的に
事件が解決して次第に世論が沈静化して
いくと、明確な根拠を示しえない「自作
自演」説は自然に姿を消していった。
- 8. 考察
元になったコピペは誘拐事件の報道から数十分後に作られており、事件
の詳細が判明する前から「自作自演」説は存在していたことになる。
「海外の武装組織に誘拐される」という事件は、日本人にとってはな
じみのないものであり、仮にそれが自作自演だったとしたら非常に大き
な問題になったであろうことは間違いないだろう。
初めに書き込んだ人間は愉快犯的な行動だったと思われるが、マスメデ
ィアがそれに加担したことにより「自作自演」説が残ることになったの
ではないだろうか。
また、この事件では、日本のメディアでイラク現地で取材していた記者
はおらず、事件の状況が不透明だった。このような状況では、情報の発
信者の立場が、その受け手に対して相対的に強いものになる。そのため
、ネット上の書き込みという根拠の弱い情報が広がってしまったのだろ
う。
情報の受け手のリテラシーに関する問題である。不透明な現象に接した
時に、すぐにその現象を絶対化せずに、できるだけ相対化して評価する
ことができれば、このようなデマに惑わされず議論が可能になるだろう。